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許す「理由」によって後の感情に与える影響は異なるのか

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Academic year: 2021

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-52 224

-許す「理由」によって後の感情に与える影響は異なるのか

○大島 陸1)、神谷 信輝2)、伊藤 義徳3)、尾形 明子1) 1 )広島大学大学院教育学研究科、 2 )琉球大学教育学部、 3 )琉球大学法文学部 問題 これまで許しの定義は多くの研究者によって認知, 感情,動機づけの変化の観点からそれぞれ独自になさ れており,(e.g. McCullough et al., 1997; 加藤・ 谷口,2009),未だコンセンサスの得られた定義は存 在していない。そのような中でも許しによってネガ ティブな認知や感情が低減することが示されており (e.g. 腰山ら, 2017),許しは精神健康に貢献するも のと捉えられているという点については概ね一致して いる。こうした知見に基づき,これまで許しの促進要 因,プロセスについての研究が行われてきた。例えば McCullough(2001)は,相手への寛大な評価と共感が 許しを促進すること,Sell(2016)は,意図的な忘却 が許しを促進することを示した。 しかしそもそもの前提として,許しは常に適応的で 正しい行為であるとみなしてよいのであろうか。Wohl et al.,(2006)は,許しには質的に異なる種類が存 在し「どの」許しが適応的で,精神健康を促進,阻害 しうるのかが明らかでないと述べている。先行研究を 例に挙げると,Sell(2016)における許しは思考抑制 を,McCullough(2001)における許しは認知的再評価 を 含 ん で い る と 考 え ら れ る。 思 考 抑 制 はWegner (1994)によって精神健康に対する長期的な非機能性 が頑健に示されており,認知的再評価はGross (1998) によってそのポジティブな機能が示されている。この ように,研究にて扱われている「許し」は機能的に異 なるものが含まれていることが考えられる。許しが 人々の精神健康により貢献するためには,より詳細に 許しを検討し「どの」許しが機能的なのかを明らかに することが必要であると考える。よって本研究はどの 許しにも共通して存在していると考えられる,許しの 理由に着目して許しを捉え直すことを目的とする。 大島(未刊行) は許し経験についてのインタビュー 調査を行った。得られた回答に対してKJ法による分類 を行ったところ,許しの理由は,相手の言動への理解 が深まることで許しに至る「相手への再評価」,出来 事の原因などを自己に関連して処理することで許しに 至る「自己関連処理」,許せなかった出来事の根本的 な解決には至らないものの,別の出来事での問題が解 決したことによって許しに至る「結果的な問題の解 決」,相手が苦しむ様子を確認することで許しに至る 「人の不幸は蜜の味」の 4 種類に分類された。また許 し後の状態おいて,相手への再評価を理由とした許し は,快感情の割合がほかの理由よりも高いことが示さ れ,許しの理由によってその後の結果が異なることが 示唆された。 本研究は許しの主な機能と考えられる感情の変化に 注目し,許しの理由の違いによる機能性の差異につい て量的指標,実験手続きを用いて検討する。 方法 対象者:健康な大学生23名(M =21.05, SD =1.50;相手 への再評価群 8 名,自己関連処理群 8 名,結果的な問 題の解決群 7 名)を対象に実施した。 手続き:実験に先立ち,事前説明会が行われた。その 後の実験はTable1に沿って実施された。なお実験は 「感情状態が作業に与える影響の検討」というカバー ストーリーに沿って進められた。教示は大島(未刊 行)に基づき,研究者 1 名と心理士 2 名と共に内容を 精査した。相手への再評価群には教示として「課題中 の私の声掛けが実験手続きとしては良くなかったらし く,そのせいでデータとして使用できなくなってしま いました。どうしても結果を出さなくてはと思い,あ の様な態度をとってしまいました。本当にすみません でした。もう一度課題に取り組んで頂けますか(教示 一部抜粋)」と伝えた。自己関連処理群には「課題達 成率が最低ラインに達しておらず,データとして使え ませんでした。もう一度課題に取り組んで頂けますか (教示一部抜粋)」と伝えた。結果的な問題の解決群に は,「確認したところ,データとして使えるようです。 (教示一部抜粋)」と伝えた。 指標:感情状態の指標として日本語版PANAS(川人・大 塚・甲斐田・中田, 2011)の項目を援用したVAS尺度 を用いた。 なお,本実験の手続きは広島大学の倫理審査委員会 の承認を得ている。 結果 最終的な分析対象者は19名(相手への再評価群 6 名,自己関連処理群 6 名,結果的な問題の解決群 7 名) であった。許し教示の違いによる感情状態への影響を 検討するため, 3 群および測定段階(Time2,Time3) を独立変数,感情状態の得点を従属変数とした 2 要因 の分散分析を行った。その結果,おびえた(F (2,16) =4.021, p <.05),うろたえた(F (2,16)=2.872, p <.10),ぴりぴりした(F(2,16)=2.945, p <.10),う

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-52 225 -しろめたい(F(2,16)=4.723, p <.05)において,群 と測定段階の交互作用が有意または有意傾向であっ た。単純主効果検定の結果,おびえたは結果的な問題 の解決においてTime2よりもTime3が低く,うろたえた に関しては結果的な問題の解決においてTime2よりも Time3が低かった。ぴりぴりしたに関しては相手への 再評価においてTime2よりもTime3が低く,うしろめた いに関しては自己関連処理においてTime2よりもTime3 が高かった(Figure1)。 考察 その他の許しの理由と比較して,相手への再評価を 理由とした許しはぴりぴりしたという怒り関連の感情 が有意に減少した。これより,喚起された怒り関連感 情の減少という点で相手への再評価を理由とした許し が最も機能的であると考えられる。一方で,自己関連 処理を理由とした許しは,他の理由の許しと比較し て,怒りは減少するがうしろめたいというネガティブ 感情が増加した。これは自己への原因帰属という側面 が影響したものと考えられ,ネガティブ感情を増加さ せるという点で自己関連処理を理由とした許しは非機 能的な許しであると捉えることができる。結果的な問 題の解決を理由とした許しは,他の理由許しと比べ て,おびえやうろたえといったネガティブ感情の減少 が特徴として挙げられた。これは本実験の手続きにて 参加者に与えた懸念(課題得点が無駄になる)が許し を促す教示によって解消されたことによる効果である と考えられる。これらの結果から,許しの理由によっ てその許しの持つ機能が異なることが示唆された。こ れはWohl et al.,(2006)の主張を支持するもので あった。一方で,それぞれの理由を持つ許しは理由の 内容から,情動制御方略における認知的再評価(相手 への再評価)や自己批判(自己関連処理),気そらし (結果的な問題の解決)と類似した側面を持つとも考 えられ,その結果も情動制御によって得られる結果と 類似しているともとれる(e.g. Gross, 1998; Martin & Dahlen, 2005; Garnefski & Kraaij, 2007)。これ らのことから一般に人々の認識する許しは,個人が 行った情動制御方略に対して「許し」とラべリングし ているだけであり,本質的には情動制御と同一である 可能性がある。今後許しが情動制御として理解可能な のかを検討することで許しのより深い理解につながる と考えられる。

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