調査対象 人口10万人以上の都市に居住し、別居の子どもがいる60~70代の夫婦2人世帯男女 サンプル数 1,514名 調査方法 インターネット調査(株式会社クロス・マーケティングのモニター) 調査時期 2016年1月
高齢期の独居化と食生活の変化
上席主任研究員北村 安樹子
<夫の定年と「自宅」の変化> 定年退職を迎えた夫が毎日自宅で過ごすようになり、日中夫が家にいることや、夫 の昼食の支度を気にしなくてはならなくなった妻がストレスを感じる、という話を聞 くことがある。現在60~70代の夫婦には、現役時代から食事の準備を含めて家事全般 はもっぱら妻の役割という生活を送ってきた人が少なくない。このような場合、現役 時代は仕事中心の生活をしてきた夫が、定年退職によってそれまでは名ばかりだった 「わが家」でようやくゆっくり過ごせるとの思いでいるのに対し、妻の側は、それま で1人で自由に過ごしていた「わが家」に昼食の世話を必要とする存在が突如現われ て、自身の自由時間が侵食されるように感じるらしい。筆者の周囲にも、定年を迎え た夫が自宅で日中を過ごす時間が増えて以来、それまでは気軽に訪れていた女友達が さっぱり来なくなった、と嘆く60代の女性がいる。彼女のように、子どもが無事巣立 ち、夫婦で悠々自適のセカンドライフと聞けば、現役世代からみると何とも理想的な 老後のようにみえる。しかし、本人にすれば、自身のペースで過ごしていた日常生活 が、夫の定年を機に大きく変わってしまったようである。 このような状況を防ぐためか、最近では互いの負担にならないよう、夫の定年後は せめて昼食は各々で食べるのを原則にしたり、食事の支度は夫が担当するという夫婦 もいると聞くが、実態はどうなっているのだろうか。また、夫婦2人暮らし世帯の男 女が、配偶者の死亡等を経て将来1人暮らしになった場合、食生活の面ではどのよう な変化が生じるのか。本稿では、今年1月に実施した、別居する子どもがいる60~70 代の夫婦2人世帯の男女を対象とするアンケート調査から、彼らのふだんの食生活の 実態とともに、将来1人暮らしになった場合に生じる変化について考えてみたい。 調査の概要は、図表1のとおりである。 図表1 アンケート調査の概要17.3 94.6 14.0 8.8 7.0 7.6 83.6 81.9 91.4 92.0 72.7 73.8 71.9 70.2 78.4 73.3 78.6 87.5 甘いものの食べすぎに 気をつけている 腹八分目を心がけている さまざまな食品・メニューをとるよ う気をつけている 食費の節約を心がけている 食事は自分でつくることが多い 食事は1人で食べることが多い 朝食を食べないことが多い 間食や夜食をとり過ぎないよう気 をつけている 栄養バランスのとれた 食生活をしている お酒を飲みすぎないよう 気をつけている 6.8 74.4 4.3 2.3 3.2 4.5 36.8 33.0 34.9 39.2 30.0 44.0 22.2 21.9 21.9 21.6 19.7 29.3 9.2 10.2 10.5 20.2 9.7 6.5 3.8 3.1 46.8 48.9 56.5 52.8 42.7 29.8 49.7 48.3 56.5 51.7 58.9 58.2 37.0 39.2 17.3 94.6 14.0 8.8 7.0 7.6 83.6 81.9 91.4 92.0 72.7 73.8 71.9 70.2 78.4 73.3 78.6 87.5 46.2 49.4 0 20 40 60 80 100 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 あてはまる ややあてはまる <ふだんの食生活にみられる男女差> 図表2は、夫婦双方の健康状態に問題がなく、男性は自身が就労していない、女性 は夫が就労していないと答えた人にふだんの食生活についてたずねた結果を示したも のである。これをみると、「食事は自分でつくることが多い」では女性の94.6%があて はまると答えたのに対し、男性では17.3%であった。ふだんの食事づくりを中心的に 担っているのは、やはり妻という人が多い。 また、「さまざまな食品・メニューをとるよう気をつけている」では、女性の87.5% があてはまると答えたのに対し、男性では78.6%であった。これに対して、「腹八分目 を心がけている」では、男性の78.4%があてはまると答えたのに対し、女性では73.3% であった。ふだんの食生活に関して、女性では男性に比べて多様な食品やメニューを とることを意識しているのに対し、男性は女性に比べて食事の量を節制することへの 意識が高い。 図表2 ふだんの食生活の実態(性別) 注1:分析対象者は、夫婦双方の健康状態について「よい」「まあよい」「ふつう」と答えた人のうち、自身の就労 状況について現在「働いていない」と答えた男性370人、および配偶者の就労状況について「働いていない」 と答えた女性352人 注2:斜体は「あてはまる」「ややあてはまる」の合計割合 (%)
食費を節約すること 朝食を食べないこと 間食や夜食を とりすぎてしまうこと 栄養バランスの偏った 食生活をすること お酒を 飲みすぎてしまうこと 甘いものを 食べ過ぎてしまうこと 好きなものや同じもの ばかり食べてしまうこと 食事を1人で食べること 食事を自分でつくること 54.1 13.6 69.7 56.5 11.9 8.2 14.6 11.4 46.2 37.2 20.8 6.0 13.8 18.5 48.4 45.7 19.7 29.0 32.2 57.1 25.4 37.2 76.8 81.0 66.8 69.9 38.6 49.7 62.7 67.9 65.7 68.2 43.0 44.6 72.4 67.3 13.8 29.3 4.9 6.2 11.4 10.8 18.6 18.8 15.1 13.1 16.5 26.1 20.5 13.4 8.6 9.7 7.8 3.7 0% 20% 40% 60% 80% 100% 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 増えると思う 変わらない 減ると思う <将来、独居化した場合の食生活の変化> では、将来、配偶者が死亡するなどして1人暮らしになった場合、ふだんの食生活 にはどのような変化が生じるのだろうか。 図表3は、食生活のさまざまな側面について、将来1人暮らしになった場合にどの ような変化があると思うかをたずねた結果である。独居化しても「変わらない」と答 えた人がもっとも多かった項目もあるが、1人暮らしになることは、食生活に関する いくつかの側面でさまざまな変化をもたらすようである。男女に共通して「増えると 思う」と答えた人が多かったのは「食事を1人で食べること」「栄養バランスの偏っ た食生活をすること」「好きなものや同じものばかり食べてしまうこと」の3項目で あった。これらの点は、夫婦2人暮らしからの独居化によって、男女にかかわらず、 比較的多くの人に想定される食生活の変化だと考えられる。 図表3 将来1人暮らしになった場合の食生活の変化(性別) 注:分析対象者は図表2に同じ
57.0 26.9 49.0 39.6 31.3 47.6 30.0 59.7 23.5 43.8 61.7 29.1 13.0 13.4 27.5 16.7 7.0 23.3 0% 20% 40% 60% 80% 100% <男性> 増える(n=200) 変わらない(n=119) 減る(n=51) <女性> 増える(n=48) 変わらない(n=201) 減る(n=103) 増える 変わらない 減る 62.5 26.1 45.1 39.6 35.8 68.0 31.0 64.7 39.2 37.5 56.7 24.3 6.5 9.2 15.7 22.9 7.5 7.8 0% 20% 40% 60% 80% 100% 増える 変わらない 減る 一方、男女で最も大きな差がみられたのは「食事を自分でつくること」であり、男 性では54.1%が「増えると思う」と答えたが、女性では13.6%にとどまった。女性の 場合、「変わらない」と答えた人が57.1%を占めてもっとも多いが、「減ると思う」と 答えた人も29.3%となっている。女性のなかには、夫婦2人暮らしでいる間と同様に、 1人暮らしになっても自分で食事をつくる生活習慣が「変わらない」と感じている人 と、夫を失って1人暮らしになれば、それまでのようには自分で食事をつくらなくな るだろうと感じている人がいることがわかる。後者のような女性では、同居する配偶 者の存在が、食事づくりの動機になっている面もあると考えられる。 <男性では食事をつくる機会の「増加」、女性では「減少」が課題> 最後に、1人暮らしになった場合に食事を自分でつくる機会の変化に関する回答結 果によって、食生活の他の側面における変化についての回答結果がどのように異なる のかをみてみよう。 図表4は、将来1人暮らしになった場合に、「栄養バランスの偏った食生活をする こと」「好きなものや同じものばかり食べてしまうこと」という2つの側面がどのよう に変化すると思うかについての回答結果を、自分で食事をつくる機会の変化について の回答結果別に示したものである。これをみると、将来1人暮らしになった場合に、 自分で食事をつくることが「増える」と答えた男性では、「栄養バランスの偏った食生 活をすること」や「好きなものや同じものばかり食べてしまうこと」が「増える」と 答えた人がそれぞれ57.0%、62.5%を占める。よく言われるように、妻に先立たれた 夫が1人暮らしになると、自分で食事をつくる機会が増えて、不慣れな自炊への対処 や栄養バランスの偏りといった問題が生じやすいと感じている人が多いことがうか がえる。 図表4 将来、1人暮らしになった場合の食生活の変化(性・自分で食事をつくる機会の変化別) 【栄養バランスの偏った食生活をすること】 【好きなものや同じものばかり食べてしまうこと】 注:分析対象者は図表2に同じ 将来 一人暮らしになっ た場 合に 食事 を自分で つくる こ と
一方で、女性の中には配偶者を失って将来1人暮らしになった場合に、自分で食事 をつくることが「減る」ことで、自身の食生活の規律を失ってしまう可能性を感じて いる人が少なくないようである。例えば、将来1人暮らしになった場合に、自分で食 事をつくることが「減る」と答えた女性では、「栄養バランスの偏った食生活をすること」 や「好きなものや同じものばかり食べてしまうこと」が「増える」と答えた人がそれ ぞれ47.6%、68.0%を占める。 <高齢期における「食事づくり」の意味> このようにみると、今回の調査対象である60~70代の女性には、日々の食事づくり が、自身の健康や食生活の規律の維持につながっている人も少なからずいることがう かがえる。 一般的に、家事が不得手なことの多い男性が配偶者を失った場合の方が、女性が配 偶者を失った場合に比べて日常生活に問題が生じやすいイメージがある。この世代の 夫婦2人暮らしの男女の老後に関しても、そうした言説を耳にしたことのある人は多 いだろう。一方で、この世代の夫婦2人暮らし世帯には、働きづめの現役時代を終え、 ようやく「わが家」で過ごせるようになった夫のための食事づくりが、むしろ妻自身 の健康維持にも役立っているケースがあることも、もう少し注目されてよいのではな いか。 近年、高齢期の生活において、自身が他者に支援を提供する存在だと感じられるこ との重要性が注目されている。男女にかかわらず、多くの人にとって老いに向き合う 過程は、心身の衰えを実感したり、社会におけるさまざまな役割を失っていく時期に 重なる。そのようななかで、配偶者に限らず、自分のつくる料理を必要としたり、評 価する存在がいることは、身体の健康の面だけでなく、自分の役割や存在価値を直接 的に実感できるという点で、精神的な支えとして大きな意味をもつ場合もあるのだろ う。他者へのサポート提供に負担や重荷を感じながらも、それらに自身の役割や存在 価値を感じる状況は、何も食事づくりという行為や夫婦という関係性の間に限ってみ られる現象ではない。 子どもの巣立ちを迎えて以降の夫婦のライフデザインという観点からは、負担や手 間といったネガティブな面が強調されることの多い日々の食事づくりや、ともに年を 重ねた配偶者のつくる食事を食べることが、互いの生活習慣や健康の維持にも役立っ ている面があることも知っておきたい。 (研究開発室 きたむら あきこ)