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購買力平価説と国際的貨幣ベール観-香川大学学術情報リポジトリ

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(1)

ーJ−

購買力平価説と国際的貨幣ベール観*

宮 田 亘 朗

Ⅰリカァドォにおける金の国際的移動−ⅠⅠリカァドオ における貨幣・金の国際的役割−ⅠⅠⅠJS.ミルの比較生産 費原理と相互需要均等の原理−

カッセルの購買力平価説は、その背後に比較生産費原理を持ち,互いに矛盾

tないもーのどされている。¶われわれは,以下本稿においてその比較生産費の原

理を考察する。第Ⅰ節と第ⅠⅠ節はDいリカァドオの比較生産費原理の考察を行

い,第ⅠⅠⅠ節はJ…S‖ミルの比較生産費原理とそれを補ったとされる相互需要均等

の原理の考察を行う。第Ⅰ節において,リカァドォの比較生産費原理を,彼の

著書『地金の高価格』と『経済学および課税の原理』とを中心に,金の国際的

移動の観点から考察する。そして,第ⅠⅠ節でそれらを吟味し,リカアドォの国

際的貨幣・金の役割の特徴について,各種財の価格の国際比較を行うに際し,

(i)それが基準の財となること,(ii)それによって異質生産費が換算されうる

こと,(iii)基準の財が容易に貨幣・金から他の財へ移りうること,の三点にあ

ると結論する。そして,このリカァドオの特徴のうち(iii)が,彼の理論を購買

力平価説と両立させ,貨幣・金の国際的移動を商品移動の単なる反映にすぎな

いものとする考え方すなわち国際的貨幣ベール観を生じさせる主たる原因とな

ったことを指摘する。続いて,第ⅠⅠⅠ節において,われわれは,この国際的貨幣

ベール観をJ。.S。ミルの比較生産費説および相互需要均等の原理の考察を通じ

てより詳細に考察する。 *第Ⅰ節と第ⅠⅠ節は拙稿「Ricar・do,D.における金の国際的移動」竜谷大学経済学論集1962 年3月を,また第ⅡⅠ節は拙稿「ミルにおける比較生産費説・相互需要均等の原理とゴッ シュン,カッセルの為替理論」六甲台論集第6巻2号昭和34年7月,および拙著『国際 的貨幣ヴェール観』竜谷大学経済学研究草書4昭和35年第一・章を,加筆修正したもので ある。

(2)

香川大学経済学部 研究年報 24 ー2−− ノク♂イ われわれは,拙稿「カッセルの購買力平価説」(香川大学経済論草第57巻第3 号)においてカッセルが彼の購買力平価説と比較生産費による貿易との間に矛 盾のないことを述べた箇所を引用した。その一つを再掲すれば,「一・国が他国に 対して貿易上で一・般的優位を持つことは決してあり得ない。その地位が弱体で あるために他国に売る生産物がないということはあり得ない。 ……−・ 国の技術 的発展や経済制度に閲し他国より劣ることはありうる。・……しかしその国が常 に購入するだけの財を輸出し得るような為替相場が存在する。そしてその相場 で均衡が達成される……この間題の初歩的検討は古典的“比較生産費”の原理 において最も簡単で−・般的な形でなされている。」1)であり,そしてこの相場こ そ購買力平価で決定されるものであるということになる。そこで,次にわれわ れは,この比較生産費の原理につきその最初の主張者であるD‖リカァドオまで 遡り,国際取引における貨幣の役割をめぐって考察することとしよう。 D.リカァドォにおいて国際貨幣は金であった。したがって,われわれはまず 彼の著作『地金の高価格』より考察を始める必要がある。彼によると,次のこ とは特に注意すべきであると言う。すなわち,「鋳貨および地金は,それらのす べての取引において他の諸商品とは本質的に異なったものであると考える偏見 がたいへん根深いので,経済学の−・般的真理に非常に明るい著者たちが,貨幣 と地金とを『うたがいもなく経済学という全上部構造の基礎である供給および 需要という同じ−・般的原理』の支配を受ける商品にすぎないものとみなすこと を彼らの読者に勧告したあとで,ほとんどかならず,彼らは自らこの勧告を忘 れて,貨幣および貨幣の輸出入を規定する諸法則の問題を,他の諸商品の輸出 入を規定する諸法則と非常に異なったものとして論じるということ,これであ る。」2)この引用例は,リカァドォの国際的金の移動に対する立場を明確に現し

1)Cassel,G.,1niemaiionalMovementsdC*ihlL1928,ppl11−12

2)Ricardo,D“,771efZighAicedlBullion,1810(771eWbYksdDavidRicaYdo,edlby

PSraffa,VolⅠⅠⅠ,pp103−4Fリカードウ全集ⅠⅠⅠ』127ページ)

(3)

ー3− 購買力平価説と国際的貨幣ベール観

たものと言えよう。周知の如く,リカァドォは,Jβの年頃生じたイギリスにお

ける金地金の高価格(ポンドで測った価格)の原因を解明して,イングランド

銀行のポンド紙幣の増発ならびに鋳貸の錯解・輸出禁止に求め,そのため諸財

の高価格を引き起こし,法定の鋳貸との間に錯解・輸出による危険にみあう差

を発生させているとした。これに対し,当時ソーントンやマルサス等は,これ

をイギリスの凶作による国際収支の悪化によって説明し,対外支払に必要とさ

れる地金の需要増にその高価格の原因を帰した。したがって,この地金の高価

格論争は,必然的に金が諸国間を移動する原因に言及しながら展開したのであ

る。

リカァドォは,地金の高価格の原因をイングランド銀行の紙幣増発ならびに

鋳貸の路解・輸出の禁止に求めたので,凶作と穀物輸入増に伴った収支悪化か

ら生じる対外支払の増大を否定し金流出の原因を他に求めた。すなわち,金の

国際的移動は,商品の場合と同様に利益があるときのみ行われる。換言すれば,

各商品の移動はその価格差による。これとまさに同じく金の移動もその諸商品

を支配する程度に差があるときのみなされる。例えば,紙幣増発の場合,一層

量の金は,諸商品との関係でみて,鋳貸として減価するが地金としては不変の

価値を保持する。したがって,鋳貸を獲得し鋒解・輸出すれば利益を得ること

になると言う。

この金の移動の誘因を,リカァドォは「通貨の相対的過剰」(作劇財閥e批βお,

c0押ゆα用ガぴβγピゐ乃ゐ乃(γ0γ・頑角滋鋸動〆c〝γ柁乃Cツ)として表現する3)。ここ

に言う相対的とは,次のことを意味する。いま,イギリス,フランス,オラン

ダ三国の正常状態の通貨量をJOα)万,500万,4(ガ万とする。この場合,JO

対5対4の割合を維持する限り各国はその通貨量が何倍になろうとも何等通

貨の過剰を感じない。ただ物価水準の変化をみるだけである。しかし,この割

合に変化が生じ,例えばイギリスのみ二億となるときには,イギリスは通貨の

過剰を感じ同じ理由で他の二周はその欠乏を感じることになる4)。そして「もし

もフランスにおける一・オンスの金がイギリスにおけるよりももっと大なる価値 3)乃査dリp56前後にある文句である。 4)乃よd,pp56−7.訳書70ページ。

(4)

香川大学経済学部 研究年報 24 J.クβイ −4− を有し,そしてそれゆえに,フランスにおいて両国に共通ななんらかの商品を もっと多く購入しうるならば,金はただちにこの目的のためにイギリスを離れ るであろう。またイギリス市場においては,金がもっとも安価に交換されうる 商品であるという理由によって,わが国は他のどのような物品よりも金を選ん で輸出するであろう。というのは,もしも金がイギリスよりもフランスにおい てもっと高価であるならば,財貨はもっと安価でなければならないから。それ ゆえに……財貨は反対に安価な市場から高価な市場に輸出されて,わが国の金 と交換されるであろう。」5) したがって,ここに「金および銀は鋳貨であるか地金であるかを問わず」6)そ の移動原理に関して,ソ、−ントンやマルサスのように金が−・般的交換手段とし て選ばれており−・般的受領性を有するために貿易収支悪化に原因し対価として 無条件に諸国間を移動するのではなくて,「あらゆる商品を支配する法則にした がって……安価な国を離れて,それらの高価なほかの国に向う」7)こと,そして 「もしも正貨の輸出がその国にとって有利でなければ,それはなんら他の商品以 上に輸出されることはない」8)という法則にしたがうとするリカァドオ説をみ る。/ト麦の対価として金を輸出した人は,「それはわれわれが選択したからであ って,〔小麦輸入の〕必要に迫られたからではない。」9)「通貨の輸出は,まった く利害関係の問題に帰着する。仮にイギリスに穀物を,たとえばJの万だけ販 売する者が,イギリスにおいてJの万の費用を要する財貨を輸入しようとす る。しかしながら,それらが外国で販売されたばあいに,Jα)万以上の貨幣が 得られるならば,その財貨のほうが好まれるであろう。もしそうでなければ, 貨幣が要求されるであろう。」10)そして,現代社会において金は,「商業取引きに 欠くことのできないものであるから,それは過度に輸出されることはけっして ありえない」11)のであり,「穀物の不足がどのように大なるものであっても, 5)乃よd,p57.訳書70−71ページ。 6)乃よd,p.54.訳書67ページ。 7)乃∠d,p.54.訳書67ページ。 8)乃よd,p.55。訳昏69ページ。 9)乃∠d,p.61.訳書75−6ページ。 10)乃査d,p.62.訳書76ページ。 11)乃左d.p61.訳番75ページ。

(5)

購買力平価説と国際的貨幣ベール観 −5− ……貨幣そのものの不足が増大することによって制限される」12)ことになるの である。さらに進んで,リカァドォは,マルサスに対する反論において,商人 の考えを支配する原理は自利である。そして,このようなことが明白であるに もかかわらず,金の移動に関して,この原理と相反するような移動原理(対価 として無条件に移動すること)を認めるとすれば,「われわれはどこで停止すべ きかわからないであろう。それゆえに,輸入商品にたいする需要がひきつづき 存在するばあいにおいて,輸入国がなぜその鋳貸や地金を完全に使い果たして しまうことがないかを説明すべきであった」13)と言う。 そして,金がこのような原理で移動したのちの状態について次のように考え る。「もしも一・国が富の増大において他国よりももっと急速に発展したならば, ……同様にどのような国民でも,もしその国の富の一部分を浪費するか,ある いはその国の取引の一部分を失うならば」14),または「金鉱が発見され」15)ある いは「多額の銀行券が発行され」16)た場合には,上記の原理にしたがって金は輸 出され以前に存在した流通媒介物の割合を回復することになるのである。ここ に言う割合とは「それらの国々の商業や富の状態,およびそれにともなってそ れらの国々がおこなわねばならなかった諸支払の額やその度数におうじて,地 球上の異なった文明諸国民のあいだにある比率」1J7)を意味する。そこで,各国の 貨幣は,各国が自動的に均衡を維持したとき,その「稀少性,それらを獲得す るのに支出された労働量,およびそれらを産出する鉱山で使用された資本の価 値など」18)により決定された価値を持ち,各国間に移動誘引の生じないような 状態に至ることになる。そして,「諸国間の相対的な地位がひきつづき変化しな 12)乃査d,p.61。訳亭75ページ。ソーントンは,穀物需要増→支払のための金需要増→金 地金の価格騰貴→鋳貸鋒解→通貨の欠乏→銀行券の間隙をうめるための増発という連鎖 を考えている。リカァドオはこれを否定する。 訳書126ページ。 訳書66ページ。 訳書67ページ。 訳亭68ページ。 訳書65ページ。 訳書65ページ。 13)乃よd,p102 14)乃套d,p53 15)乃∠d,p54 16)乃寝,p。55 17)乃まd,p。52 18)乃寝リp.52

(6)

香川大学経済学部 研究年報 24 J5㌧♂尋 ー6■− いかぎり,そ・れらの国々はお互いに十分な取引をおこなう」19)のであり,「それ らの国々の輸出と輸入とは,大体において等しくなる」20)のであると言う。 リカァドォは,以上のように金が貿易の対価として諸国間を受動的に移動す るとするマルサス等に反対して,すべての人を地金商人(滋αね㌢∠わ∂〟gゐb乃)21) とみることによって,商品の輸出入には国際的な価格差による移動を,金には その−・定量が鋳貸としてもつ価値と地金としてもつ価値との間の国際的違いか ら生じる鋳貸鋒解利益による移動を,それぞれ与えたのである。したがって, ソーントンとの論争において「貨幣を財貨と交換に輸出しようという誘因,あ るいは不利な貿易差額とよばれているところのものは,けっして過剰な通貨以 外の原因からは生まれない」22)こと,そして通貨の過剰は銀行券の増発によっ て生じることを述べ,前出引用の如く輸入需要が存在するとしても金の移動が 不利であれば移動されるはずがないと結論した。このように貨幣・金を利益を 求めて移動するものと考える場合には,必然的に商品と切り離された移動誘因 が金に対して与えられるべきであった。しかしながら,リカァドオは,このよ うな道を歩まなかったのである。このことは,上記の金の移動誘因を再考すれ ば,容易に理解しうる。彼の言う金移動の利益とは,地金により多くの地金と なるべき鋳貸を支払うということであり,しかもこの現象は前記引用のように (脚注5を付した引用文)貨幣の価値すなわちその購買力の減少として把握され

たのである。貨幣は,商品との関係でみて鋳貸として減価するが地金として不

変の価値を持ち,したがって鋳貨を獲得し路解すれば利益が得られ輸出され, その結果として稀少性あるいは労働量並びに資本の価値等によって決定される 価値に落ちつくものであった。かくして,彼は,貨幣の価値を商品に対する購 買力としてとらえたために,金の輸出誘惑の存在を諸商品が高くそれを輸入す るのが有利である状態と同義とし,金の移動誘因を商品の輸出入の誘因の別表 19)乃寝,p54“訳酋67ページ。 20)乃査d,p54訳書67ページ。 21)l穐rksqfDavidRicaYdo,ed.byP。Sraffa,VolⅤⅠ,LeiteYS1810−1815,p25小 島清「リカアドオの国際均衡論」−・橋論叢24巻1号参照 22)WbYksd−1hvidRi’caYdo,ed”byP.Sr・affa,VolIII,p59,訳書60ページ。

(7)

購買力平価説と国際的貨幣ベール観 ー7− 現にすぎないものとしてしまうことになった。さらに,この金の移動誘因を貨 幣の価値=その購買力として把握したことは,通貨の畳の変化以外に諸商品の 量の変化に原因した金の国際的移動をも容認することとなった。例えば,リカ アドオはマルサスとの論争で「この相対的な過剰は−・国における財貨の減少に よっても,また貨幣の実際の増大によっても……同様に生ずる」28)と言い,凶作 あるいは広く商品側の移動によって金の移動が起こることを認める24)と共に, 「流通媒介物が減価した紙幣から成り立っているとき,為替はかならず,その減 価の度合に比例して下落する」25)と言う購買力平価説的考えを述るに至るので ある26)。ここにある関連は,初めのリカァドオの連鎖すなわち紙幣の増発→相対 的通貨過剰(貨幣の価値=その購買力の下落)→金の流出→貿易収支悪化とほ 逆の,貿易収支の悪化(凶作に原因)→金の流出の連鎖である。したがって, 購買力平価説の先駆的考えが既にリカァドォに存在していると指摘するカッセ ルの主張27)を待つまでもなく,彼の金の国際的移動は商品の輸出入の結果を受 動的に決済する性質のものとなり,冒頭に掲げた貨幣・金の国際的移動に対す る彼の注意はここに至って彼自身にも向けられるべきものとなったのである。 以上は,『地金の高価格』におけるリカァドォ説の概要である。このような考 え方は,その残搾と思われるけれども,リカァドォの主著『経済学および課税 の原理』においても見出しうる。すなわち「為替相場はまた,通貨を両国に共 通なある標準と比較することによっても,確かめられうる。もしもイギリス宛 のJのポンドの手形が,フランスまたはスペインで,ハンブルク宛の同額の手

23)l穐Yks dD2Vid RicaYdo,edbyP。Sr・affa,Vol.ⅤⅠ,p26,訳番『リカードウ全集

ⅤI」29ページ。 24)増井光蔵「国際支払理論におけるリカルドの立場」国民経済雑誌64巻1,3号でこの 点をリカァドォの後退としている。 25)l穐Yks q/uvidRicardo,ed.byPSraffa,VolⅠⅠⅠ,p,72,訳番89ページ。 26)したがって,リカァドオでは「為替は,……l・・鋳貸を削り取ること,あるいは紙幣の減 価から生じるところの通貨の品位低下を判断しうる,かなり正確な基準となるであろう」 (乃よ♂,p.72,訳番89ページ)となる。なお,鈴木重暗「リカードにおける国際交換と貨 幣について」山口経済雑誌5巻5,6号で,この点について貨幣を流通媒介機能をもつ ものとしてのみ考えたリカァドォの欠陥としている。 27)Cassel,G.,MoneyandEbYeign励changtzsqaer1914,1922(3rded1925,pph170−

76)

(8)

香川大学経済学部 研究年報 24 ノタβイ −β−

形が購買するのと同一・畳の財貨を購買するとすれば,ハンブルクとイギリスと

のあいだの為替手形は平価にある,しかも,もしもイギリス宛のJご妙ポンドの

手形が,ハンブルク宛のJのポンドの手形よりも多くのものを購買しないとす

れば,為替相場はイギリスにとって30パーセントだけ不利である」28)。この考

えにしたがえば,金は国際移動の後二国間の購買力差を解消し,為替相場を購

買力平価に一・致させる筈である。

ところが,リカァドォは,『経済学および課税の原理』において,これと全く

異なると思われるものを比較生産費説との関連で述べている。すなわち,「為替

相場および異なった国々における貨幣の比較価値を論ずるさいには,われわれ

は,けっして,いずれの圏においても,商品で評価される貨幣の価値に注意を

向けてはならない」29)のであり,「より高い貨幣の価値は為替相場によっては表

示されないであろう。たとえ穀物と労働の価格が−・つの国である国におけるよ

りもヱ0,aフまたは30パーセントだけ高いとしても,手形はひきつづき平価で

流通するかもしれない」抑のであると言う。そして,貨幣の価値に関して,「今

までの私の試みは,貨幣の低い価値と,そ・れと貨幣が比較される穀物またはな

にか他の商品の高い価値とを注意深く区別することであった」31)とし,貨幣も

ーつの財であるからそれを生産するために投じられた労働量によって支配され

固定・流動資本の割合や資本の耐久性などによって修正された価値を持ちき2),さ

らにそれが諸国間の−L般的交換媒介物であることからして,各国の「商業と機

械とに改展がなされるごとに,また増加する人口のために食物と必需品を取得

することの困難が増加するごとに,たえず変化する割合でこれらの国々のあい

だに分配され」83)その価値を変じるとされる。したがって,ここにおけるリカァ

ドォの貨幣の価値は,その購買力でなく,主としてその投下労働量によって規

28)14bYks davidRicaYdo,edbyPSraffa,Vol▲Ⅰ(Onihe劫nc*les dEblitical

励0乃0,笹竹α乃d了五∽如乃,1817)pp,147−48訳書『リカードウ全集Ⅰ』170ページ。 29)乃∠d,p147.訳書170ページ。 30)乃査d,p146小 訳書169ページ。 31)乃よd,p145.訳書168ページ。 32)乃よd,Cbap.Ⅰ 33)乃≠d,p48訳書55ページ。

(9)

購買力平価説と国際的貨幣ベール観 −9− 定され,商業取引や機械の改長および必需品取得困難性などによって修正され るものである。 この場合のリカァドオ の貨幣・金の国際的移動 は,周知の比較生産費の 原理と共に説明される。 比較生産費原理は次の如 第 1 図 服地 ブドウ洒 イギリス Jα)人(£45) ヱ20人(£〃) ポルトガル 90人(£5の β0人(£4の くである。「イギリスは, 服地を生産するのに−・年間了の人の労働を要し,またもしもブドウ酒を醸造し ようと試みるなら同一・時間にJ却人の労働を要するかもしれない。……ポルト ガルでブドウ洒を醸造するには,一年間釦人の労働を要するにすぎず,また同 国で服地を生産するには,同一・時間にガ人の労働を要するかもしれない。」細 したがって,イギリスはブドウ酒を輸入し服地を輸出するのが有利であり,逆 にポルトガルは服地とひきかえにブドウ酒を輸出するのが有利である。そして, この交換は,「ポルトガルによって輸入される商品が,そこではイギリスにおけ るよりも少ない労働を用いて生産されるにもかかわらず,なおおこなわれうる であろう。……なぜならば,その国にとっては,その資本の一部分をブドウの 樹の栽培から服地の製造へ転換することによって生産しうるよりも,イギリス からひきかえにより多量の服地を取得するであろうブドウ洒の生産にその資本 を使用するほうが,むしろ有利だからである。」35)さらに,この取引は,表面上 イギリスからポルトガルヘ資本および労働を移し,ポルトガルにおいて服地と ブドウ酒をともに生産するのが「うたがいもなく有利で」き6)あるようにみえる 場合でも生じ得る。そして,このような取引が起こるのは,両国の習慣,法制, 政治等の違いによって資本および労働が移動し難いことに原因しているとす る37)。 34)乃∠dリp.135訳番157ページ。 35)乃査d,p135訳書157−58ページ。 36)乃∠d,pl弧 訳書159ページ。 37)乃よ−d,pp.136−37訳書159ページ。

(10)

香川大学経済学部 研究年報 24 ーJクー ノクβす リカァドォによれば,他方で『地金の高価格』におけると同じように「商業 上のあらゆる取引は独立の取引」38)であり,しかも「服地は,そこから輸入され る国〔輸出国〕でかかる費用よりも多くの金にたいして売れないかぎり,ボル トガ/レへは輸入されえない。またブドウ潜はポルトガルでかかる費用よりも多 くの金にキいして売れないかぎり,イギリスへは輸入されえない」39)のである。 したがって,この商人の行動の結果は,上記の物々交換の結論と−・致しなけれ ばならない筈である。すなわち,「金と銀が流通の−・般的媒介物として選ばれて いるので,それらのものは,商業上の競争によって,もしもこのような金属が 存在せず,諸国間の貿易が純粋に物々貿易であるならば起こるであろうところ の,自然の通商に適用するような割合で,世界の異なった国々のあいだに分配 され」40)ねばならないのである。そこで上記第1図の設例にリカァドォ自身に よる貨幣表示額を掲げると共に(同図に括弧をつけて記載),ブドウ洒の生産に 改良が行われたケースに関するリカァドオの主張をみることにする。「イギリス におけるブドウ酒醸造上の改展以前に,ブドウ洒の価格はここでは−・樽につき 50ポンドであり,−・定量の服地の価格は45ポンドであったが,それにたいし てポルトガルでは,同一・量のブドウ洒の価格は45ポンドであり,同一・量の服地 の価格は50ポンドであったと仮定しよう。ブドウ洒は5ポンドの利潤を伴っ てポルトガルから輸出され,服地は同額の利潤を伴ってイギリスから輸出され たであろう。」41)その後,ブドウ洒醸造上の改良が生じたとする。そのときの両 国の関係は,第2図にみ るように「イギリスでブ ドウ洒は45ポンドに下 落し,服地はひきつづい て同一・価格にあると仮定 しよう。 ……商人がイギ リスで服地を45ポンド 第 2 図 服地 ブドウ酒 イギリス JOO人(£45) ヱα)人(£4の ポルトガル 90人(£5の β0人(£45) 38)乃よ富,p138訳書161ページ。 39)乃昆,p137.訳書159ページ。 40)乃札p.137.訳琶159ページ。 41)乃之■dリp138.訳書161ページ。

(11)

購買力平価説と国際的貨幣ベール観 ーヱユー で買うことができ,そしてそれをポルトガルで通常利潤を伴って売ることがで きる間は,彼はひきつづいてそれをイギリスから輸出するであろう。……45ポ ンドの費用を要する服地が50ポンドで売れるかぎり,服地は輸入され,手形は 買われ,そ・して貨幣は輸出され,ついにはポルトガルにおける貨幣の減少と, イギリスにおけるその蓄積とにより,これらの取引を継続することがもはや有 利でなくなるような価格の状態がもたらされるであろう。」42)そしてこの貨幣 の蓄積は,「たんに一商品の価格ばかりでなく,すべての商品の価格に作用す る。それゆえに,ブドウ酒と服地の価格は共にイギリスで引上げられ,また共 にポルトガルでひき下げられるであろう。服地の価格は,一方の国では,45ポ ンド,他方の国では50ポンドであったのが,おそらくポルトガルでは49ポン ドまたは4βポンドに下落し,またイギリスでは46ポンドまたは47ポンドに 騰貴するであろう」43)と言うことになる。上の第3図は,このリカァドオの記述 を描き,ポルトガルのブドウ酒価格の下落について44ポンドまたは4ヲポン ドを補ったものである。なお,リカァドォは,第3図の状態に達すると両商品 第 3 図 服地 ブドウ洒 イギリス J(ガ人(£460r・47) Jの人(£4∂or47) ポルトガル 90人(£490r・亜) β0人(£440r43) の輸出入が利潤を得られないために中止され貴金属の国際的移動も止むに至る とする。しかしながら,彼は初めから第1図のようにこ国のうち「もしも一方 がある品質の財貨の製造に利点をもち,他方が他の品質の財貨の製造に利点を もつとすれば,そのいずれの国にも貴金属の廣著な流入はないであろう」44)と 考えている。 42)乃∠d,pp.138−39訳書161−62ページ。 43)乃査dリp.140訳雷162ページ。 44)乃まd,p“142訳書165ページ。

(12)

J9β〃 香川大学経済学部 研究年報 24 ーJ2− さらに,リカァドォは,第1図と第3図を比較して,次のように言う。「改長 がおこなわれた国では,価格がひき上げられ,なんらの変化も起こらなかった が,外国貿易の有利な−・部門を奪われた国では,価格が下落する」45),より−・般 的に言えば「いずれかの国において製造業の改良がおこなわれれば,それは, 世界の諸国民間に貴金属の分配を変更する傾向がある,すなわち,そ・れは,改 長がおこなわれる国における−・般物価をひき上げる」46)。そして,このことは, 「国産商品の価格,および,価値は比較的に小さいが嵩の高い商品の価格が,他 の諸原因と無関係に,なぜ製造業が繁栄している国々で高いかを説明する」47) ことになるであろうと言う(ただし,ブドウ酒と服地以外に「多種多様の物品 が輸出入品リストに加わっている」48)現実の世界では,生産上の改良によって 「貨幣以外のもっと多数の商品の輸出に刺激が与えられる」49)ことによってそ れほど大きな影響を二国の貨幣価値に与えないとみる)。そして,進んで貨幣の 比較価値を左右する原因に関して,「製造業がほとんど進歩しておらず,すべて の国の生産物がほとんど類似していて,嵩の高いそしてもっとも有用な商品か ら成っている社会の初期の状態にあっては,異なった国々における貨幣の価値 は,主として貴金属を供給する鉱山からの距離によって左右されるであろう。 しかし,社会の技術と改長がすすみ,異なった国民が特定の製造業にすぐれる ようになるにしたがって,距離がなお計算に加わるにしても,貴金属の価値は 主としてそれらの製造業の優秀度によって左右されるであろう」50),また「どん な鉱山採掘上の便宜の改良であれ,それにより貴金属がより少量の労働を用い て産出されうるであろうから,それは,貨幣の価値を−・般的に下落させるであ ろう。その場合に,貨幣はすべての国でより少ない商品と交換されるであろう。 しかも,どこか特定の国が製造業においてすぐれ,そのためにその国への貨幣 の流入をひき起こすばあいには,その国では,他のいかなる固よりも,貨幣の 45)乃査d,p141.訳書163−64ページ。 46)乃∠d,p.141.訳書164ページ。 47)乃≠d,p.142.訳書165ページ。 48)乃よdリp.141一訳香164ページ。 49)乃さd.,p.141.訳書164ページ。 50)乃よ富,ppい143−44訳書166ページ。

(13)

購買力平価説と国際的貨幣べ、−ル観 −J3− 価値はより低く,そして穀物と労働の価格は相対的により高くなるであろう」51) と述べ,産金国からの距離と製造業の優劣による国際貿易の二つをあげる。な お,上記の引用においてリカァドォの使用する貨幣の価値は,既に述べたよう にその商品に対する購買力とは違っている。 以上われわれは,リカァドォの『経済学および課税の原理』に沿い,物々交 換原理としての比較生産費説とそれが貨幣交換で実現するプロセスでの国際的 金移動のメカニズムを考察し,併せてリカアドォの貨幣の価値についてみてき た。そこで,われわれは以下これらのリカァドォの説明をより詳細に吟味して みよう。 まず,第1図で示した物々交換の説明原理である比較生産費説からみる。リ カアドォは,第1図においてイギリスの服地がポルトガルのブドウ酒と交換さ れる理由としてポルトガルが資本の一部をブドウ洒の醸造から服地の生産へふ り向けて得る以上の服地をイギリスにブドウ洒を提供することによって獲得し うるからであると言う。ここに言うブドウ洒醸造をやめることで得るであろう 服地の増加分は,通常イギリスにおいてJ∠妙/JOO=J.2単位,ポルトガルにお いてβ0/.90=0.β9単位として計算されるものである。したがって,イギリスと ポルトガルの増加分の比較を行えば,明らかにポルトガルにおいてブドウ酒の 醸造を止めず生産を継続するのが有利となる。ところで,われわれは,この計 算の過程でブドウ酒の価格をポルトガルとイギリスにおいてそれぞれ服地で表 示し,そしてその値の大小を両国間で比較していることに気付かねばならない。 なぜなら,Jガ/Jのとβ0/90は,イギリスおよびポルトガルにおいてそれぞ れブドウ酒の価格を服地で表したものでもあるからである。そしてこの場合, 服地は,両国間でブドウ酒の価格を比較するための基準の財(ニュメレール) となり,両国を橋渡しする役割を演じていることになる。すなわち,服地はそ 51)乃よd,p146。訳書169ページ。

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香川大学経済学部 研究年報 24 ーJ4− Jクβ イ れを通じて両国の異質の生雇費(労働)を比較し得る形に換算するかなめの財 となっているのである。ちなみに,服地一単位の両国における生産費すなわち 異質のJα)人と.卿人を等価と仮定する。そうするときイギリスのブドウ酒生 産費ヱ及)人は,ポルトガルの労働で換算すれば(J∠汐/Jαハ90人となり,ポ ルトガルでの実際のブドウ洒生産費β0人と較べてより高価であることがわか る。そして,この比較すなわち(ヱガ/ヱの).射幸β0が上記で行ったJ∠り/Jαフ 享β0/.90の大小を求めることと同義となることは,明らかである。かくして, 物々交換における比較生産費説の説明は,(i)基準となる財があること,およ び(ii)その基準の財を通じて二国間の異質生産費の換算を行い比較可能な生産 費としていること,を内に含んでいるといえる。 さらに,比較生産費説は,しばしばイギリスとポルトガルの両国においてブ ドウ洒でなく服地の生産を止めブドウ洒の醸造を行った場合の両者の有利さを 比較することによっても説明され得る。この場合,イギリスでのブドウ酒の増 分はJα)/ヱ2り=Ou&ヲ単位,ポルトガルでのその増分は対/卯=了..J3単位と なり,以前と同様にポルトガルでブドウ洒を醸造するのが有利との結果を導く。 このとき求められたJOO/ヱ却および.90/釦の値は,上記と同じ表現を用いれ ば,ブドウ酒で表したそれぞれの国における服地の価格である。すなわち,そ の服地の価格は,ブドウ洒で表せばイギリスで高価となり,ポルトガルで安価 となる。そして,この場合両国で基準となり橋渡しをする財は,服地でなくブ ドウ洒であり,両国の異質生産費すなわちヱ却人とβ0人をブドウ洒を通じて 等価と仮定することによって二国間の服地の生産費を比較可能にしているので ある。かくして,粟村雄吉教授が言われる如く「比較生産費説はなんらの条件 なしに,二国の比較生産費について成立するのではなく,なんらかの共通の単 位ではかった生産費についての生産費の比較でなくてはならない」52)のである。 しかも,第1図の設例を用いる限り,服地を基準にとろうとブドウ洒を基準に とろうと,イギリスは常に服地を,ポルトガルは常にブドウ洒を輸出すること になる。そこで,比較生産費説の第三の特色は,(iii)このように共通の単位で 52)粟村雄吉『経済学』東洋経済新報社 昭和41年,216ページ。なお基準の財との表現は, 粟村教授から借用したものである(215ページ参照)。

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購買力平価説と国際的貨幣べ・−ル観 −J5− 生産費をはかる場合に用いられる基準の財がこ財のうちいずれであろうとも, 結論に差異を生じず,そのため特定の財にその役割を限定する必要がないこと である。ところが,第1図において第三の財を考え,生産費をイギリスJ〈紗人 ボルトガ/レ∂ク人とするならば,結論に差異が生じてくる。すなわち,両国の生 産費をこの第三の財を基準の財として比較するときは,従来安価でポルトガル の輸出品であったブドウ漕が逆に高価となり輸入されるという結論に達す−る。 そして,このような多数財を想定する場合には,いずれの財を基準となる財と するかが安定的貿易関係の成立にとって必須事となるのである。 さて,第1図において括弧内に記された価格は,貨幣・金に基準の財として の役割を与えた場合の各財の両国における生産費を表示したものである。この 第1図からリカァドオが想定したであろう両国の貨幣・金一・単位りポンド)の 生産費を推定すると,イギリスで2小2人∼24人ポルトガルでヱ.乃人∼J.∂人 である。この貨幣・金の生産費は,リカァドォの表現を借りるまでもなくその購 買力から区別される。そしてそれは,リカァドオによれば,主に投下労働量で 規定され機械の改良や必需品取得困難性で修正され,さらに国際貿易を通じて 変更されるものである。このうち,最後の国際貿易を通じる変更は,第2図お よび第3図において説明される。すなわち,第2図はブドウ洒の醸造に改良が 生じた後の第三の財すなわち貨幣・金(Jポンド当たり)の生産費がイギリスで 2.2人ポルトガルでJuβ人となることを示している。そしてこのような第三の 財を基準の財とし,異質生産費イギリスの22人とポルトガルのエβ人を等し いものと仮定し両国の服地とブドウ酒の生産費を比較可能な形に換算したのが 第2図においてポンド金額として括弧で示したものであるといえる(ただし, 換算は労働量でなされるが,あえてポンドで表示)。そこで,この場合明らかに ブドウ酒は,いずれの固からも輸出されず以前のまま両国で引続き生産される。 他方,服地はイギリスからポルトガルヘ輸出されるのが有利であり,イギリス での生産の増大とポルトガルでの生産の減少を引起こす。この両国における服 地生産の変動は,資本と労働を必要とする讐である。それは,通常の完全雇用 の・仮定の下ではそれぞれ国内で他の財の生産から調達されねばならない。ブド ウ洒醸造は不変にとどまるので,変化するのは金の生産ということになる。す

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ーヱ6− 香川大学経済学部 研究年報 24 J一夕♂イ なわち,それはイギリスにおいて減少しポルトガルにおいて増大する。そして, ポルトガルの金生産の増加部分は,上記の服地と交換されイギリスヘ移動する ことになるのである。この貨幣・金の流出には『地金の高価格』でみた如くそ れなりに移動に有利な条件が発生しているとみるべきである。それは,リカァ ドォの考え,すなわち,たとえ服地の輸入需要があるとしても移動が不利であ るならば貨幣・金が輸出される筈がないからである。そこで第2図において服 地を基準の財にとり両国の貨幣・金の生産費(イギリス22人,ポルトガルエ β人)を換算し比較することにする。このとき,ポルトガルの貨幣・金の生産 費は,イギリスに較べて安価となり輸出に有利となることがわかる。したがっ て,リカァドォの考える貨幣・金の国際的移動に関する有利な条件とは,この 服地を基準としてみた金の生産費の両国における評価の差異であると思われる。 このように服地を基準にとる試みは,貨幣・金の国際的移動を比較生産費原理 という同じ枠組みの中で説明し,冒頭に掲げたリカァドォのソーントンおよび マルサスに対する「貨幣の輸出入を規定する諸法則の問題を他の諸商品の輸出 入を規定する諸法則と非常に異なったものとして論ずる」53)との批判を回避し, かつリカァドォの著作『地金の高価格』と『経済額及び課税の原理』を−・質し て解釈するため,意味あるものと言える。さらに,それは,上述のように各国 で完全雇用の仮定とブドウ酒生産不変の下で服地の生産変動およびそれに伴う 資本と労働の変化を最終の均衡状態に調和した形で説明するという問題を解決 している。第3図の国際的な金移動が起ったのちの状態が−・時的な過渡的均衡 でなく最終の均衡であることは,例えばリカァドォの第3図に関する上掲引用 すなわち,第3図が「国際商品の価格,および価値は‥……なぜ製造業が繁栄し ている国々で高いかを説明する」54)とか「仮定された事情のもとではこのよう な価格の差異は事物の自然の秩序」55)であるとか,また貨幣を導入したケース で第1図と第3図を対比して第1図について「もしも−・方がある品質の財貨の 53)l柏YksQf肋vidRicaYdo,edbySraffa,VolIII(771e㈲PわceqfBullibn,1810) p.104,『リカードウ全集ⅠⅠⅠ』165ページ。

54)l穐rks qf DIVid RircaYdo,edby Sraffa,Vol”Ⅰ(On the劫nc*les qf Ebliiical

&細川秋の泌丁加班彿1817)p142,『リカードウ全集Ⅰ』165ページ。 55)乃まd.,p146訳書169ページ。

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購買力平価説と国際的貨幣ベール観 −J7− 製造に利点をもち,他方が他の品質の財貨の製造に利点をもつとすれば……い ずれの国にも貴金属の顕著な流入はない」56)とし第3図のような結果が生じな いことを強調するとかすることからみて明らかである。 他方,第3図は,このようにイギリスでブドウ洒醸造上の改艮が生じたとき の最終の均衡を示すと共に,第2図から第3図にかけて各国の貨幣・金の生産 費(価値)に関する変動をも示している。第3図によると,貨幣りポンド当た

り)の生産費は,イギリスにおいて22∼2.4人から2J2∼2J7人へと下落

し,ポルトガルにおいてプリβ人からJい&2∼Jい&9人へと増加する。このことは, リカァドオにおいては国際貿易を通−じて生じるものであり,各国国内の金生産 の結果生じるものではない。なぜなら,単位当たり生産費を一・定と仮定する限 り,貨幣・金の生産費は国内の生産量の大小によっては変動しえないからであ る。そしてそれは,上で行った貨幣・金の国際的移動に関する説明からして当 然の帰結である。すなわち,貨幣・金の生産費を服地で評価換算し国際的に比 較して移動の有利不利を判断する場合57),貨幣・金の価値は,容易に国際市場に おいて交換される服地の量を生産する費用によって規定されるものと考えがち であるからである。 このように貨幣・金の価値を国際市場で交換する服地総量の生産費の大小に よって規定することば,次のような二つの疑問を招来する。第一・は,服地で評 価した金の価格の高い(低い)ことが金で評価した服地の価格(ポンド価格) の低い(高い)ことと表裏の関係にあることからして,上記の貨幣・金の価値 の移動と国際市場における服地の価格の変化とが同義となり,究極的には国際 市場における金と服地との交換比率の決定を解明すべき緊急の課題とするけれ ども,それについてリカァドォの比較生産費説が何の解答も与えないというこ とである。第二は,国際取引において金と交換される商品が服地だけでなく多 数存在する場合を想定すると,国際貿易に参加するすべての財の生産費によっ 56)撤d,p.142訳酋165ページ。 57)ただし,第1図のように服地に対しブドウ漕が交換されるような場合には,貨幣・金 の生産費(価値)は不変のままとされる。それは貴金属の顕著な流入が起こらないとし た脚注44)を付したリカァドオの文章より推察しうるところである。

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ーJβ− 香川大学経済学部 研究年報 24 J.クβイ て貨幣・金の価値が規定されると言わねばならず,このようなことが国際貿易 を通じる場合のみ生じてくるという点である。そして,われわれは,貨幣の価 値を物価水準の逆数としてとらえる貨幣数量説と大きな差異を見出し得ないこ とになる。 以上のように国際的な金と財との間の交換比率が未解明であることおよび貨 幣の価値を国際的に取引されるすべての財の価格の逆数としてとらえることの こ点は,前者についてJいSいミルの相互需要均等の原理を必要とする歩みを導き, 後者について購買力平価説への歩みを導くことになる。後者についてのみリカ アドオからの引用を行うとすれば,前掲の如く「為替相場はまた,通貨を両国 に共通なある標準と比較することによっても,確かめられる。もしもイギリス 宛のJOOポンドの手形が,フランスまたはスペインで,ハンブルク宛の同額の 手形が購買するのと同一・畳の財貨を購買するとすれば,ハンブルクとイギリス とのあいだの為替手形は平価にある」58)という購買力平価説的考えを見出すこ とができる。このリカァドォの購買力平価説的な考えは,彼の『経済学及び課 税の原理』において次のような文章のすぐあとに出てくるものである。すなわ ち「為替相場および異なった国々における貨幣の比較価値を論ずるさいには, ……けっして,いずれの国においても,商品で評価される貨幣の価値に注意を 向けてはならない」59),またその少し前に「より高い貨幣の価値は為替相場によ っては表示されないであろう。たとえ穀物と労働の価格が一つの国である国に おけるよりもJO,ガ,またはこ妙パーセントだけ高いとしても,手形はひきつ づき平価で流通するかもしれない」60)。ここで言う貨幣の価値は,いうまでもな くその生産費で規定されるものである。リカァドォのこれらの文章は,いずれ も明らかに上記の購買力平価説とは異なるものである。そしてそれは,第3図 の均衡状態の説明,すなわち両国の貨幣・金の生産費が「事物の自然の秩序」61) によって国際取引を通じて変動しすべての商品の価格をイギリスにおいて比例 58)乃よdリpp147一賂訳番170ページ。 59)乃よd,p147 訳杏170ページ。 60)乃∠d,p.146訳書169ページ。 61)乃よガリp146訳香169ページ。

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購買力平価説と国際的貨幣ベール観 ーJ9− 的に騰貴させポルトガルにおいては比例的に下落させることを言い換えたもの である。したがって,リカァドォは,この事物の自然の秩序に反して「もしも 諸外国が貨幣の輸出を禁止し,そしてこのような法律の遵守を首尾よく強制し うるとすれば,諸外国はたしかに製造業国の穀物と労働の価格の騰貴を防ぎう るであろう。……・しかしこれらの国は為替相場が自国にきわめて不利となるこ とを防ぎえないであろう」62)と言い,イギリスに貴金属が流入し物価騰貴を招 来する第3図の状態のみが為替相場を平価に保持することになるとみるのであ る。しかしながら,これらのリカァドォの主張をより詳細に吟味するとき,わ れわれはそこに二国間の金や商品の輸送費の存在を見出すことができる。例え ば,第3図の均衡状態を記述するに際し,リカァドォは,これらの国々の貨幣 の価値に関して「国産商品の価格および,価値は比較的に小さいが萬の高い商 品の価格が……なぜ製造業が繁栄している国々でより高いのか,を説明する」63) ●●●●●● と言い,嵩の高い商品ということをことさら強調し,また「もしもポーランド がその製造業を改良する最初の国であるか,もしもその国が萬は低いが大きな 価値を包含する,一・般に欲求されている一商品をつくることに成功するか,あ るいはもしもその国が,−・般に欲求されているが他の国のもっていない,ある 自然の生産物に独占的に恵まれているとすれば,その国はこの商品とひきかえ に金の追加量を取得し,そしてそれはその国の穀物,家畜,および粗末な衣服 の価格に作用するであろう」64)として輸出品が価値に比べて嵩の低いことを述 べているのである。この輸送費の存在は,第3図において服地とブドウ洒のポ ンド価格が両国間で不一・致のまま均衡に達していること,および貨幣・金の生 産費を服地で換算するときにもそれが両国で完全に−・致しない状態のままで金 の流入を停止するとしていること,等から理解することができる。このように 輸送費が両国における物価水準の差異の主たる原因であるとするならば,第3 図の結果は何等購買力平価説と矛盾するものでないことになる。すなわち,購 買力平価説は輸送費の存在を無視し得るような理論の世界における主張であり, 62)乃よれp146訳書169ページ。 63)乃揖,p142 訳書165ページ。 64)乃∠d,ppJ144−45訳書167ページ。

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香川大学経済学部 研究年報 24 −∠り− ノクβイ 他方第3図は輸送費をゼロとするならば両国で物価水準を−・致させるような均 衡に到達するまでの−・時的な状態を示すにすぎないものとなるからである。 以上,われわれはリカァドオの比較生産費原理を貨幣・金を含むケ、−スでと らえそれと彼の『地金の高価格』とを−・貫した形で解釈するように努めてきた。 その結果は,購買力平価説的考えが顕著にみられる『地金の高価格』と比較生 産費原理を主体とししばしば購買力平価説と矛盾する考えがみられる『経済学 及び課税の原理』とが,貨幣の価値を主として生産費によって規定しながらも 修正項目として国際貿易を導入したために結局その購買力と同義とみる結論に 到達するという点で,共通の地盤に立つものであるということである。すなわ ち,リカァドォは,『経済学及び課税の原理』において貨幣の価値をあくまでも その生産費(労働)により規定されるものとしたけれども,修正項目として国 際貿易を導入し国際市場で交換される財(服地)の総量の生産費の大小によっ ても規定されるものとした。そこで,このことは,貨幣の価値を国際市場に入 るすべての財の価格の逆数としてとらえることになり,その結果購買力平価説 への道を開くと共に,他方で既に述べたように国際市場で取引される金と財と の交換比率自体を未解明のまま残すこととなったのである。 以上のようなリカァドォに関する解釈の問題は別としても,われわれはこれ らの考察から次のような貨幣・金の国際的な機能について重要な結論を得てい る。まず,物々交換の原理としてみた比較生産費原理の特徴は,(i)国際取引 において基準となる財が仮定されていること,(ii)その基準となる財によって はじめて各国の異質生産費が換算され比較可能にされること,(iii)基準となる 財がこ国二財のケースでは二財のうちいずれであろうとも良く,かつその結果 に差異を生じないこと,の三点である。そしてこの特徴は,貨幣・金を含めた 場合の比較生産費原理においても,その大すじで保持されている。すなわち, (i)基準となる財は貨幣・金であること,(ii)商品輸出入の決定のための両国 生産費の大小がこの貨幣・金を通じて換算され比較されること,(iii)この基準 となる財が容易に貨幣・金から他の財へ動かされること,例えば貨幣・金の国 際的移動の誘因すなわちその有利・不利を決めるに際して貿易される他の財す なわち服地を基準となる財にとって判断していること,の三点である。この貨

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購買力平価説と国際的貨幣ベール観 −2J− 幣・金を含めた場合の比較生産費原理の特徴のうち最後の(iii)は,既にのべた ように貨幣・金の国際的移動誘因を商品の移動誘因と全く同じものに帰し購買 力平価説への道を歩ましめた張本人であると言える。なぜなら,服地の生産費 がポンド表示で安価となり輸出されることは,貨幣・金の生産費が服地で表示 して,高価となり輸入に有利となることと同じことを意味しており,両者が全 く表裏の関係にあるからである。そして,この特徴(iii)は,他の二つの特徴す なわち(i)貨幣・金を基準の財としてとり,(ii)それによって各商品の生産費 を比較しているということと矛盾するように思われる。すなわち,比較生産費 原理にしたがって基準となる財を任意の財に移す場合,貨幣・金の国際的移動 に関する有利・不利は,いずれの財を基準の財としてとるかによって異なりう るからである。この点については,既に三財ケースで比較生産費原理を考察し た際に簡単に言及した通りである。また,第2図ついてみると貨幣・金の生産 費がブドウ酒を基準の財として評価するとき移動すべき誘因となり得ないこと から明らかである。しかしながら,リカァドォにおいては,『地金の高価格』で 述べた如く「もしも正貨の輸出がその国にとって有利でなければ,……他の商 品以上に輸出されることはない」65)のであり,小麦の対価として貨幣・金が輸出 されるのはそ・れを「われわれが選択したからであって,〔小麦輸入の〕必要に迫 られたからではない」66),また「穀物の不足がどのように大なるものであって も,……貨幣そのものの不足が増大することによって制限される」67)というこ とである。そこで,われわれは,上記の特徴のうち特徴(iii)を除き,基準とな る財を貨幣・金に固定し,他方で貨幣・金の国際的移動の誘因を商品の移動と 異なる誘因にもとめることによって修正せねばならないことになる。そうする ことによって,われわれは,はじめてリカァドオの比較生産費原理を貨幣・金 を含めて首尾−・質したものにすることが出来,かつ国際市場における商品と金 との交換比率決定の問題をも解明することができるように思われるのである。 65)l穐戒sd’DavidRicaYdo,edbySraffa,VolⅠⅠⅠ(771e瑚Pわce〆助Ilion,1810) p.55,『リカードウ全集ⅠⅠⅠ』69ページ。 66)乃∠d,p61訳番75−76ページ。 67)乃よd,p61訳書75ページ。

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ノクβす 香川大学経済学部 研究年報 24 一22− 最後に,われわれは,上記の貨幣を含む比較生産費原理の特徴のうち特徴(iii) が購買力平価説の成立条件についてある示唆を含んでいることに注意すべきで ある。すなわち,上記の特徴(iii)は,貨幣・金の国際的移動誘因が全く商品の 移動誘因と表裏の関係にあり同じ動因によって生じるとき購買力平価説を誤り なく妥当するものとすることを示している。換言すれば,もし国際間の貨幣・ 金の移動が商品の移動と異なる誘因によって決定されるならば,購買力平価説 の妥当性に疑問の生じる素地が出来上がることになるのである。そこで以下, われわれは,このような貨幣と商品の国際的移動誘因が全く表裏の関係にあり 貨幣が商品の単なる反映にすぎないとみる考えを国際的貨幣ベール観と呼び, 貨幣の国際的移動誘周と商品の国際的移動誘因とに差異を設ける考えと区別す ることにする。 ⅠⅠⅠ リカァドォの比較生産費原理は,周知の如く.JいS,.ミルに引き継がれ相互需要 均等の原理を加えることによって現在国際経済理論の一つの骨格を構成するも のとなっている。そこで,われわれは,リカァドオとの差異に注目しながら,

J.S..ミルの比較生産費原理と相互需要均衡の原理につき,以下で考察すること

にする。

J一.Sパミルによると交換価値は,ある財が他の財一・般を購入し得る能力即ち−

般的購買力(通常貨幣を仲介として表示される)であり,そしてこのような能 力は富一・般68)に妥当するものとしては需要供給の原理によって決定されるも のである。このような需要供給の原理によって決定される価値は,財の性質に 依存して次のように異なる形をとる。供給が絶対的に限られた美術品の如きも のでは,その永久的自然価値は,需要供給の原理そのものが供給に制限あるこ とで規制されるため,希少価値(5Cα7℃査抄びα血♂)と言うべきものになる。費用

68)富とは交換価値のあるすべての有用で快適な財を指す。そしてそれは蓄模しうるもの

でなければならない。Collecねdl穐rks dルhn StuaYiMill(UniversityofToronto Press,1965)VolⅠⅠ(劫nc妙les d−FbliticalEconomy)p48

(23)

一刀ー 購買力平価説と国際的貨幣ベール観

不変,供給制限なしのものでは,利潤→生産量の変動,あるいは価値独自の変

動69)によって規制せられ,生産費(労働量,−・生産部門のみに影響する労賃利

潤,機械など耐久性のため利潤の一部)に一激して行く。すなわち,その自然

価値は費用価値(co5Jぴα血e)と言うべきものになる。費用および生屋畳がとも

に増大するものでは,差額地代の原理により最劣等条件での生産費に一・致して

行く。このようにJいS‖ミルは,価値について常に需要供給の原理で決定されると

するけれども,そ・の需要供給自体が背後で規制されるために,究極的には希少

価値または費用価値に一・致するものとみている。したがって,もしこの規制す

るものがないならば需要供給の原理のみが残され前面に押し出されてくる。例

えば,ミルは,国際価値の決定に関して次のように言う。「価値が生産費に比例

するという原理は,こう言うわけで適用できないのであるから,われわれは, 生産費の原理に先立ちそれが一つの結果として出てくるところの原理−すなわ

ち需要供給の原理に立ち帰らなければならない。」70)

競争の支配するとき.J.S…ミルにおいては,富は,利潤に促され節約を通じて生

じた資本(蓄積された資本すなわち前払),人口法則により資本の高で定まる生

産的労働71),限界報酬逓減則の働く土地72,等によって作られる。そしてそれ

は,人口と資本の割合で労働者に」73),生産高から前払を差し引いたものとして企

69)生産費の変動は,利潤変動,資本・労働変動,生産の変動と影響する以外に,直接価 値に影響しその価値変動に応じるようにあとから需要が生じることもあるとみる。 70)Colleciedl穐Yks dhhnStuaYiMill(UniversityofTor・OntOPrIeSS1967)Vol・ⅠⅤ (且ssqγSO乃&0紹0桝去cSα乃d助c≠β秒JEs拘肌用助例日血融地‖如如如S扉薫痛放戚 &の相㈲籾1844)p237 71)生産とは音の生産である。物体に固定し体現される効用を作る労働を生産的労働とし, 歌人のような富の生産でない労働は不生産的労働とする。CoJねcねdl穐戒s q/ルゐ乃 StuartMill,VolⅠⅠ(Pわncii)les dhliticalEconomy)BookI,Chap,ⅠⅠⅠ。pp45−54 72)富の生産は,自然的優位,労働精九技能,知識,誠実,安寧,労働結合(分業・協 同)により支配される。しかし,最終的にみると,資本は社会文明状態とともに利潤に 支配されるといえども増加するし,労働は資本とともの増大し労働結合によりその生産 力を増大する。したがって生産力を限るものは土地の収穫逓減則のみとなるい臓軋 BookI,Chap VII・ⅩⅠⅠ 73)厳密に言えば,人口は生産労働人口と言うべきである。他方,資本は流動資本のうち 雇用に向かうものと不生産的支出のうち雇用に向かうものとの和である。CoJゐc・お♂ WbYksqfJ9hnStuartMill(UniversityofTorontoPress1965)VollⅠⅠ(劫nc*les〆 fわJ批αJ&∂乃0鱒γ)pp337−38

(24)

香川大学経済学部 研究年報 24 ノクβイ 一朗− 業に,差額地代の原理によってその一部を地主に,それぞれ分配される。労賃 は,生活必需品の費用および生活水準の維持向上に関する労働者の性向によっ て定まる自然水準へと定まり行く。また利潤率74)は,危険に対する報酬,事業 指揮にたいする報酬,資本使用料,すなわち保険料,監督費,利子の三部分か らなり,各種生産部門間で平準化する傾向を示しつつ,事業継続可能な水準へ と落ち着いて行く。なお,利潤のうち利子率は,貸付資本とその需要によって 決定される75)。 以上は,.J.S‖ミルの国内経済に関するリアルな側面の関係を示したものであ る。資本主義社会では,リアルな関係は物々交換によって遂行される。.J.S,ミル においてもこのようなリアルな諸関係は,貨幣76)を仲介にして実現されるもの とされている。その過程は,以下の如くである。貨幣の働きは,諸財の価値を 測る共通の尺度であり流通手段である。貨幣を得ようとするのは諸商品を得る ためであるにすぎない。「まずある物品を貨幣に換え,のちにその貨幣を他の物 品に換えるという物品の相互交換に関する方法を単に採用したとしても,取引 の本質的性質に何等の変化を生じるものでないことは,明らかである。諸物品 は本当は貨幣によって購入されるものではない。何人の所得も貴金属から生じ るものではない。……要するに,社会経済において,時間と労働を節約する方 便としての性質を除けば,貨幣ほど不要なものはないのである。」77)J.S.ミルに よれば,貨幣の価値は,諸商品の価値と同じくその一・般的購買力で把握される ものであるから,物価の逆数で表すことができるという。そしてそれは,他の 諸商品と同様に,それに対する需要と供給に支配される。しかしながら,この 需要供給の原理は,貨幣の場合には多小異なっている。すなわち,「貨幣に向か 74)ミルにおいては,利潤と利潤率がしばしば混同して用いられている。また労賃,地代, 利潤ともに価値で表すのか不明確である。 75)利子率は利潤率に限定され,貸付資本とその需要でさらに規定される。その−L時的変 動は貨幣により生じるとみる。利潤率は,事業を継続しうる大きさであることを要し, 一・般に危険,才能を除くと,平準化傾向を持つ。1bid”,Chap,ⅩVandColleciedl穐Yks qf.hhnStuariMilL VolhIII,BookIII,ChapXXIII 76)ミルにおいて貨幣とは金属貨幣を指し,銀行券その他は信用にすぎない。その区分は, 法定をもってする。Ibid,Book,III,Chap.XII,7 77)乃∠d,p,506

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購買力平価説と国際的貨幣ベール観 一男ー

ってはできるだけ多く得ようとする需要を常に持っている。事実,人々は,そ

れに対して充分な価格と考えるものが得られないならば,その物品を売却する

ことを拒み市場から引き上げることがありえよう。しかし,このようなことは,

ただその価格が騰貴することを見込みより多くの貨幣が得られると考える場合

のみなされるにすぎない。もしその廉価が永久的であると考えるならば,得ら

れるだけの貨幣を甘んじて受取ることになるであろう。商人にとって物品を処

分することが常に不可欠の事績なのである。市場における物品全体は貨幣に対

する需要を構成するものであり,他方貨幣の全体は財に対する需要を構成する

ものである。」78〉すなわち,貨幣の供給は,支出せんとする貨幣量(流通貨幣量)

からなっている。しかし,その需要は,物品への需要と異なり,売りに出され

るすべての物品からなるものと言えるけれども,物品の売手(貨幣の買手)が

その価格の永続性を感じ如何なる価格でも売却したいとする(貨幣を如何なる

時でも得たいとする)場合にみる如く,物品の全量(取引度数は物品量の増加

として)からなると言うのが正しい。このような需要の特殊性があるために貨

幣の需要は,常に物品の畳だけ存在することになる。したがって,.J.S,.ミルにお

いては,他のものが一局ならば,貨幣量の増大は,貨幣の価値を同一割合で下

落させることになるのである(なお,流通速度により多少修正される)。すなわ

ち,「このことは,貨幣特有の性質であることに気付かなければならない。一腰

に商品については,その供給の減少がその価値を不足に比例して引上をヂ,その

供給の増加がその価値を過剰の割合に応じて引下げるときまったものではなか

った。ある商品は通常その減少または増加よりも大きな割合で影響を受け,他

の商品は通常小さな割合で影響を受ける。それは,普通の需要の場合,他のも

のが一局ならば,欲求が大であったり小であったりするからであり,また人々

がそれに支出しようとする額がどの場合でも限られているため欲求達成の難易

によって非常に不平等な影響を受けるからである。しかし,貨幣の場合には,

普遍的購買手段として望まれるものであるから,その需要は人々が売ろうとす

るすべての商品からなっている。そして彼等が貨幣と交換に喜んで与えようと

78)乃よd,pp509−10

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