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企業買収と双対性-香川大学学術情報リポジトリ

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Academic year: 2021

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(1)論. 説. 企業買収と双対性. 金. 子. 太. 郎. 0.は じ め に 以下に書く話は今から半世紀も前に経済学者によって研究された成果の 最も基本的な部分である。線型計画法や経済理論を学んだことがある人な ら誰でも知っている話なのだが,香川大学法学部では全く知られていない ようだ。企業買収が盛んに行われるようになった現在,こんな話を振り 返ってみるのも何かの意味があるかもしれない。. 1.双対定理(LP duality theorem, LP とは Linear Programming の意味である) ""# #$%!. &!'$行列 #. *"# * $ $. & 次の列ベクトル. ("# (%$. '次の列ベクトル. +"# +%$. '次の列ベクトル. )"# )$$. & 次の列ベクトル. とする。これらの行列,ベクトルの要素は全て非負であるとする。そのと き,. −2 9−. 30−3 ・4−2 54(香法201 1). 一 五 六.

(2) 企 業 買 収 と 双 対 性(金子). $( 7, ., 8 +1+7 4 6)+ * 55 0#7$3 !7%" を主問題(primal problem)と言う。それに対して + $, /, ., 8 +3 2. 4 6)+ * 55 0#+2%1!2%" + ,#+の +は「転置」の意味であ を双対問題(dual problem)と言う。1+,3. る。本によっては 5#の 5によって転置を表すこともあるが,本稿では +に 7&&/ *7%" !#7$3 ) よ っ て 転 置 を 表 す こ と に す る。そ し て,'#( , !#+2%1)と定義しよう。双対定理とは以下のような %#( 2&&. *2%" 内容である。双対定理は「線型計画の基本定理」とも呼ばれる,本当に基 ' ",%# ' "とする。 本的な定理である。仮定として '# 命題1. + 2が成立する。 全ての 7&',全ての 2&% に対して 1+7$3. 命題2. + " 2 となる。 ある 7"&',ある 2"&% に対して 1+7"#3. つまり,命題2の 7"は主問題の解に,2"は双対問題の解になっており, + " 2 は一致するということであ 主問題の最大値 1+7"と双対問題の最小値 3. る。 こ の 定 理 は ミ ン コ フ ス キ ー・フ ァ ル カ ス の 補 題(Minkowski-Farkas lemma) を前提にすると比較的容易に導くことができる。ミンコフスキー・ ファルカスの補題とは以下の命題である。 ミンコフスキー・ファルカスの補題(Minkowski-Farkas lemma) #を .!/の行列,)&&.(. 次元のベクトル)であるとする。そのと 一 五 五. き,次の2命題のうち一方,そして一方のみが必ず成り立つ。 !. #7#)が非負解を持つ. ". 0ベクトルではない 1が存在し ! #+1%" 〈1!)〉!". !が成り立っていれば"は成り立たないし,"が成り立っていれば!は 30−3・ 4−25 3(香法2 0 11). −3 0−.

(3) 成り立たない。そして,どちらか一方が必ず成り立つということである。 !が成り立つ,")!%が非負解を持つということは,%が行列 "の各 列によって生成される凸錐(convex. cone)の中に入っているということ. であり,"が成り立つ,"の各列と &の内積が非負ということは,"の各 列によって生成される凸錐は &の上半空間に入っていて,&と %の内積が 負だということは,%は &の下半空間に入っているということである。! が成り立っている場合は"が成り立っていない,"が成り立っている場合 は!が成り立っていないことは幾何学的にイメージすれば明らかだろう。 幾何学的にイメージすれば明らかであるということと自明であることと はもちろん全く違う。この命題の証明を知りたい方は二階堂(1 9 6 0)の第 5章,Takayama(1 9 8 5)の第0章(Preliminaries) ,岡田(2 0 0 1)の第5章 などを参照して欲しい。 "において,"の各列によって生成される凸錐が &の上半空間に入り, %が &の下半空間に入るという状況は,幾何学的に凸集合の分離定理 (separation. theorem)が使えそうだという直観が働くが,証明の基本的な. アイディアはこの定理に依る。凸集合の分離定理も幾何学的にイメージす れば,その意味は明らかだが,それ自体証明されなければならない命題で ある。しかし,話が長くなるので省略する。 % 'が 双対定理の命題1,全ての )$$,全ての '$# に対して &%)"(. 成立することは,$の定義から ")"( '#!を転置して掛けても不等号の向きは変わらないから '%")"'%(. 一 五 四. 一方,# の定義から "%'#&. −3 1−. 30−3 ・4−2 52(香法201 1).

(4) 企 業 買 収 と 双 対 性(金子). )%"を転置して掛けても不等号の向きは変わらないから )'#''%)'& ''#)と )'#''は同じものだから, ''(%''#)#)'#''%)'& よって ''(%)'& となっていることがわかる。 ' " 'と 双対性定理の命題2,ある )"&%,ある '"&$ に対して &')"#(. なることを示すには,すでに命題1で全ての )&%,全ての '&$ に対し ' 'となることが証明されているのだから,ある )&%,ある て &')$( ' 'が成立すること,そのような )"と '"が存在す '&$ に対して &')%(. ることを証明すればよい。これは ! $ $ $ ##)$( #''%& $ $ $ ' "&')!( '%" )!'%" という3つの式を満たす )と 'が少なくとも1組は存在することを証明. 一 五 三. することと同じである。不等号の向きを揃えて, ! $ $ $ ##)$( !#''$!& $ $ $ ' "( '!&')$" )!'%" これを行列で表せば,. 30−3・ 4−25 1(香法2 0 11). −3 2−.

(5) * " $ ) %!$ "&! "$#!($ . " * !( )%" !.%" となる。この線型不等式が非負解 ),.を持つことと,この左辺に -とい &"'"#(次元の非負ベクトルを加えた う' * ) %!$ "&! ""-##!($ . " * !( ". $. -も一緒に行列で表すと ". $ ". %!$ * !(. #. !. !. * ) &#.$##!($ " # -. という線型方程式が非負解 ),.,-を持つことは同値である。 この線型方程式が非負解 ),.,-を持つことをミンコフスキー・ファ ルカスの補題を使って証明するには,!の否定が言えればよい。つまり, &"'"#(次元ベクトル ' +!, !!(が存在し ' +&%&! 0ベクトルではない ' ,&%'!!&%( " $ +)!,)!!(%!$ " ' * !(. #. !. &%". !. #. 一 五 二. であるときに,. −3 3−. 30−3 ・4−2 50(香法201 1).

(6) 企 業 買 収 と 双 対 性(金子). & '!(!"&'!%($" % " '. '. ということが言えればよい。 この前提のベクトルと行列の積で表されている式を分解すると, ' $" !('#'""& #(#"& ''#!"%'$" #''$"%. よって, # & & & %#(#"& #''$"% & & & $'!( !"$" "は非負だから,正の場合と0の場合がある。 "!"& まず,"が正の場合 % 上式の (と 'を "で割ると #!(" #& " #'!'" $% " '!($" "!". 一 五 一. となる。 ( ($" "!" ( #&を満たしている。 は , だから非負ベクトルで,#! " " " ということは主問題の制約条件 #)#& ,)$"を満たしている。 ( よって, は $に入る。 ". 30−3・ 4−24 9(香法2 0 11). −3 4−.

(7) . &' " %*を満たしている。 一方, も非負ベクトルで,$)! " " " ということは双対問題の制約条件 $)+%*を満たしている。 よって, は & に入る。 " && " すでに証明した双対定理の命題1から ) *)!." $, # $ " " ) *).$,. -),!.)*%" , -).)(# $%" ' !* , -)!.)!"()!**%" ' " "!"( よって,ミンコフスキー・ファルカスの補題から,"が正の場合 ' , + " $ !* 0 # +!$ " % , ) * ) * (")"# " / , !* が非負解 +,0,/を持つことが証明された。 "#"( 次に,"が0の場合 ' % ( ( ( '$.$" $)-%" ( ( ( &-!.%". 一 五 〇. $.$"の左側から +)%"を掛ける。. −3 5−. 30−3 ・4−2 48(香法201 1).

(8) 企 業 買 収 と 双 対 性(金子). )($,$" $()%(だから, ((,$)($,$" よって,((,$" $(+%"の左側から .(%"を掛ける。 .($(+%" $.$*だから, ( * +%.($(+%" ( +%" よって,* ( +%"から ((,$",* ( * +!((,%". +(*!,((%" * +(!,('! "%" & !( * +(!,(!!'#!($%" & " !#"' よって,ミンコフスキー・ファルカスの補題から,!が0の場合 & も 一 四 九. * ) " $ !( . " !$ % % # $## $ &"'"#& " * !( が非負解 ),.,-を持つことが証明された。 30−3・ 4−24 7(香法2 0 11). −3 6−.

(9) 以上で双対定理が証明されたことになる。. 2.経済学的解釈 双対定理自体は数学上の定理である。双対定理にはいくつかの経済学的 な解釈がある。 まず,この定理の設定の経済学的解釈について説明しよう。主問題を - 種類の生産要素を用いて .種類の生産物を生産し,生産物の価値を最 大化しようとする企業の最大化問題ととらえる。このとき, -".'行列の '+,とは , %#& '+,'という & 番目の生産物を1単位生産する のに必要な +番目の生産要素の数量,第 , 財を生産するための第 +生産要 素についての生産係数(production coefficient)である。 2#& 2 'という - 次元列ベクトルは,その企業が保有する生産要素の存 + 在量である。 0#& 0,'という .次元列ベクトルは,.種類ある生産物の価格ベクトル である。 6#& 6,'という .次元列ベクトルは,.種類ある生産物の生産量である。 1#& 1+'という - 次元列ベクトルは,- 種類ある生産要素の価格ベクト ルである。 すると,主問題 &' 6+ -+ 7 *0(6 3 5(, * ) 44 /%6$2 !6%" は以下のように解釈できる。 まず,制約条件から説明しよう。%6の %の第 +行を取り出し,それと 6の内積が 2 +以下になっているということはどういう意味だろうか。 '+#6#!'+$6$!)))))!'+.6. $2 +. −3 7−. 30−3 ・4−2 46(香法201 1). 一 四 八.

(10) 企 業 買 収 と 双 対 性(金子). 左辺の第1項の '+#6# とは,第1財を1単位生産するのに必要な第 +生産 要素の数量に第1財の生産量を掛けたものだから,第1財を 6# 単位だけ 生産するのに必要な第 +生産要素の数量を示している。同様に '+$6$ とは 第2財を 6$ 単位だけ生産するのに必要な第 +生産要素の数量を示してい る。同様に最後まで行って '+.6. とは第 .財を 6. 単位だけ生産するのに必 要 な 第 +生 産 要 素 の 数 量 で あ る。こ れ ら の 合 計 と い う こ と は,6! 6#!6$! '!6.%という生産計画を実現するために必要な第 +生産要素の投 $ +を超えないということは,その合計が企業 入量の合計である。これが 2. が保有する第 +生産要素の数量を超えないということである。 %6"2ということは,このことが +!# !$ ! '!- と全ての生産要素につ いて成り立っているということである。6#"は負の生産は考えていない ことを表している。この制約条件は企業の生産技術と生産要素の制約を表 している。 6#!6$! '!6.%には様々なも この制約条件を満たすような生産計画 6!$ のがあるだろう。それらの様々な生産計画をいろいろと比較検討した上 6+ -+ 7 *0&6,つまり,所与の生産 で,可能な生産計画の集合の中で,&' 0#!0$! '!0.%で評価した価値額が最大になるように企業は生 物価格 0!$ 6#!6$! '!6.%を決める,というのが主問題の経済学的解釈で 産計画 6!$ ある。 一方,双対問題 & 1 &+ .+ -+ 7 *2. 3 5(, * ) 44 /%&1#0!1#" 一 四 七. は以下のように解釈できる。 1#!1$! '!1- %と 主問題のときと同様に制約条件から説明しよう。1!$ いうのは生産要素に対する評価価格である。%を転置した行列 %&の第 , 行と 1との内積が 0以上になるということの経済学的意味を考えよう。. 30−3・ 4−24 5(香法2 0 11). −3 8−.

(11) %"&*"!%#&*#!(((((!%'&*' $)& 左辺の第1項は第 & 財を1単位だけ生産するのに必要な第1生産要素の投 入量を第1生産要素に対するある種の評価価格で評価したものであり,第 2項は第 & 財を1単位だけ生産するのに必要な第2生産要素の投入量を第 2生産要素に対するある種の評価価格で評価したものであり,最後まで 行って第 ' 項は第 & 生産物を1単位だけ生産するのに必要な第 ' 生産要 素の投入量を第 ' 生産要素に対するある種の評価価格で評価したもので ある。これらの合計というのは,第 & 生産物を1単位だけ生産するのに必 *"!*#! (!*' &という生産要素に対するある種 要な ' 種類の生産要素を % の評価価格で測った費用だと言うことができる。第 & 財1単位を生産する ためにかかる費用だから,ある種の平均費用だと言うことができる。それ が右辺の第 & 財の価格以上になっているということである。価格というの は企業がその財を1単位売って得ることができる収入だから,第 & 財を1 単位だけ生産するためのある種の平均費用がその財を1単位売って得られ る収入(=価格)以上になっているということである。$'*$)というこ !# ! #" (!(と全ての財について成り立っていること とは,このことが & を表している。 + '&を *# (!+ "!+ #! この制約条件の下,企業が保有する生産要素 +#% ' *を最小にしようとす *"!*#! (!*' &という評価価格で評価した評価額 + %. る,というのが双対問題の解釈である。 双対定理には経済学的にいくつかの解釈の仕方がある。 最も素直に解釈すれば,企業が ' 種類の生産要素を最も効率的に利用 して生産を行った結果として得られる総価値額,収入の合計が )',"であ ' " * と等しいということは,)',"が生産要素の価値創造力に り,それが + " " " *" !*# ! (!*' &で各生産要素に分配されてい 従って付けられた評価価格 %. る,最適点において「生産物の完全分配」が成り立っているという解釈で " " " !*# ! *" (!*' &を生産要素の帰属価値(imputed ある。この場合,%. −3 9−. value). 30−3 ・4−2 44(香法201 1). 一 四 六.

(12) 企 業 買 収 と 双 対 性(金子). と言う。 より人為的だが,以下のような面白い解釈がある。 小山(1 9 9 4)の第7章§7に倣って,主問題を解こうとしている企業を P 氏(Mr. Primal) ,双対問題を解こうとしている(現代風に言えば)企業 買収ファンドを D 氏(Mr. Dual)と呼ぶことにしよう。企業買収ファンド D 氏は P 氏に対してこう提案するのである。「おたくの企業は & 種類の生 産要素を用いて '種類の財を生産している訳ですが,第 % 財を1単位生産 して (%という収入を得るよりも,その財1単位を生産するのに必要な生 )"!)#! '!)& % 産要素を売ってしまった方がトクになる,そういう評価額 $ を我々は御社に提示します。このことが '種類の全ての財について成り !# ! "" '!'を1単位生産して $ ("!(#! '!('% 立つ,つまり,全ての財 % という収入を得るよりも,各財について,その財1単位を生産するのに必 要な生産要素を我々に売ってしまった方がトクになるような評価価格 )"!)#! '!)& %を提示します。我々におたくの企業が持っている & 種類 $ の生産要素を全部売っていただけませんか。 」 D 氏があまりにも安い買い取り価格を提示したならば,P 氏は「それな らば我が社は生産を続けて収入を得た方がいい」ということになり,買収 交渉に応じようとはしないだろう。D 氏は,P 氏が保有する生産要素が持 つ価値創造能力を考慮し,P 氏が各財を1単位生産するために投下する & 種類の生産要素の評価の合計額がその財の価格(=P 氏がその財を1単位 供給して得られる収入)以上になるような生産要素ごとの買い取り価格 )"!)#! '!)& %を提示して初めて P 氏を交渉の場に引き出すことができ $ る。$&)#(という条件は企業買収ファンド D 氏が企業 P 氏を買収交渉の 一 四 五. テーブルにつかせることができる条件なのである。 & )を最小化しようとす そして,交渉の上で企業買収ファンド D 氏は *. る。つまり,企業買収ファンド D 氏は企業 P 氏が保有する生産要素をで ! ! !)# ! )" '! きるだけ安く買い叩こうとする,その最小化問題の評価価格が $ & ! ! ) なのであ )& %であり,最小化した生産要素の買い取り額,買収額が *. 30−3・ 4−24 3(香法2 0 11). −4 0−.

(13) る。 &"!&#! %! そして,企業 P 氏が最も効率的な生産を行い,所与の価格 " &%#で評価した生産物の価値の合計 &$)を最大化しているとき,その最大 $ ! ' に等しいということである。つまり,企業 P 氏にとっ 値 &$)!はこの (. ては最適な生産計画を実行して,最大化された生産物の価値を得ること ! ! '" と,自らが保有する生産要素を企業買収ファンドが提示する評価価格 " ! ! ! '# %!'$ #で売り払うことは等しい利益をもたらすということである。. こう考えると,企業 P 氏には! $ 種類の生産要素を用いて生産を行う こと以外に,"生産を止めて $ 種類の生産要素を企業買収ファンドに売 り払う,という別の選択肢が生まれたことになる。企業買収ファンド D 氏がこの買収話を持ち掛けることにより企業 P 氏には"という自分が保 有する生産要素の別の用途が現れたことになる。 すると,この新たな選択肢"が現れたことによって,企業 P 氏は自分 が保有している生産要素の価値創造能力についてこの選択肢"を採った場 合と比較して改めて考えさせられることになる。経済学では資源の用途が 複数あるときに,それを1つの用途にふり向けるとき,他の用途に用いた ら得られたであろう収益のうち最大のものを機会費用と言うが,企業買収 ファンド D 氏が企業 P 氏が保有する生産要素に評価づけをして買い取り 額を示すことは,企業 P 氏に自分が生産を継続することによって発生す る機会費用を考えさせる働きをしているのである。 双対定理の命題1が示しているように,企業買収ファンド D 氏が示す 生産要素の買い取り額の最小値は企業 P 氏が生産を続けて得る収入より も一般に大きい。このように企業 P 氏にとって企業買収ファンド D 氏が 提示する生産要素の買い取り額は,生産を続けることによる機会費用を示 すことになる訳である。 そして,企業 P 氏が最も効率的な生産を行い,生産物の価値の総額を 最大化しているとき,その最大値は企業買収ファンド D 氏が上で述べた ように提示する生産要素の買い取り額の最小値に等しいのである。 −4 1−. 30−3 ・4−2 42(香法201 1). 一 四 四.

(14) 企 業 買 収 と 双 対 性(金子). 双対定理の命題2が成り立つ最適点の最小値 *!,(!において,最小化 ! % ! ! ( とすると,+ ") $で微分 を) された生産要素の買い取り額の関数を +. すると + ! ($ "! !) $ !. という関係が成り立っていることがわかる。生産要素の買い取り額という のは企業 P 氏から見れば生産要素を売り渡すことによって得る収入だか ら,その生産要素 $が最適点において1単位当たり企業 P 氏のこの売却収 ! だけ貢献しているということを表している。 入に ($ ! % ! ! ( "'%*!でもあるから,+ + ") は企業 P 氏が最も効率的な生産を行. い,生産物の価値額の合計,収入を最大化した値でもある。 この前の解釈において,企業が & 種類の生産要素を最も効率的に利用 して生産を行った結果として得られる生産物の総価値額, 収入の合計 '%*! ! ! ! (" !(# ! &!(& $で が生産要素の価値創造力に従って付けられた評価価格 # ! ! !(# ! (" ) &$に分配されていると述べ,この場合,# &!) &! "!) #! 各生産要素 # ! (& $を生産要素の帰属価値(imputed value)と言うということを述べたが,. これが企業買収ファンド D 氏の企業 P 氏が保有する生産要素に対する評 価にもなるというのは,以下のように考えられる。 第 $生産要素の価値創造能力が高いのなら,企業買収ファンド D 氏は高 い ($を提示しなくてはならない。一方,例えば第 %生産要素の価値創造 能力が低いのなら,企業買収ファンド D 氏は低い (% を提示しても,企業 P 氏を買収交渉のテーブルにつけることができる。そして,企業 P 氏との 交渉の場で企業買収ファンド D 氏はできるだけ安く買い値を下げようと 一 四 三. するから,その値は生産要素が生み出す限界生産性の価値まで下がって行 ! ! ! (" !(# ! &!(& $という企業買収ファンド D くと考えられる。だから,(!"#. 氏が企業 P 氏が保有する生産要素の価値創造能力を見抜いて付けた評価 価格が,企業 P 氏が最も効率的な生産を行い,生産物の価値額を最大化 しているときの各生産要素の限界生産性の価値と一致すると考えられるの 30−3・ 4−24 1(香法2 0 11). −4 2−.

(15) である。 '!!&!$においては,企業 P 氏にとっては,生産要 このように最適点 # $"" !# ! %!%$を1単位使って生産を行ったときの生産物の価値へ 素 $# $"" !# ! %!%$を1単位売り払う価格とは等しいと の貢献と生産要素 $# いうことがわかる。同じことだが,最適点ではその生産要素 $を1単位を 生産に使って生み出す価値,限界生産性の価値とその1単位を売り払って 得られる限界収入(評価価格)は等しいということが成り立っている。 これは企業 P 氏が企業買収ファンド D 氏から生産要素への評価価格を 知らされ,生産要素ごとに機会費用を考えることになることから生じる帰 結である。企業 P 氏が生産要素を売り払うという決定をしたときに,そ の決定はある生産要素 $について言えば,それが生産によって生み出す限 界生産性の価値を失うということである。また,生産を行うという決定を したときには,その生産要素を売って得られる収入を失うということであ る。そして,最適点においては,そこから生産要素 $を1単位生産に振り 向けたときに,それを売って得られる収入を失う値(機会費用)と,最適 点から生産要素 $を1単位売りに出せば,それを生産に回したときに得ら れる限界生産性を失う価値(機会費用)とが等しくなっているということ である。 経済学的に最適な決定をするというのは機会費用を最小にするというこ とだが,この最適点においては,!生産を続ける,"生産を止めて生産要 素を売却する,どちらの選択肢を採っても,機会費用は等しくかつ最小に なっていることがわかる。 企業 P 氏が,!生産を続けるという決定をしたときには,"の生産要 素を売却するという選択肢があった訳で,その売却額を決める生産要素に ! ! ! &" !&# ! %!&% $だということである。これを生産 対する評価価格が &!"#. 要素の影の価格(shadow price)と言う(ただし,この解釈をとったとき にだけ影の価格(shadow price)という言葉を使うのではない) 。. −4 3−. 30−3 ・4−2 40(香法201 1). 一 四 二.

(16) 企 業 買 収 と 双 対 性(金子). 3.この解釈の発見者は誰? この解釈を思い着いた人は誰なのだろう? DOSSO 本だろうか(Dorfman, Samuelson and Solow(1 9 5 8)のことをこ の分野の研究者はこう呼ぶ) 。この本はもちろん双対定理を述べ,それに 関連する多くの定理,それらの広範な応用について説明している。第1 3 章4節で,「あらゆる競争的一般均衡体系の中には,産出量価値額に対す る最大化問題と要素報酬に対する最小化問題とが隠されている。 」と述べ て,この「生産物の価値額の最大化問題と生産要素に対する評価額の最小 化問題の双対性」が明確に意識されているが, 「企業買収ファンドによる 企業の買い取り額の最小化」という解釈は出て来ない。 ! *#'( (*"" Hicks(1 9 6 0)だろうか。 Hicks はこの論文の中で, 上で &!& %)*")'と書いた集合を企業 P 氏にとって実行可能(feasible)な生産要 *#!*$! 素価格(production factor prices)の集合と考えている。本稿では $ +#!+$! *!+(%という記号を使ってい *!*( %と書いたが,Hicks は +!$ るのも wage を想定しているからだろう。もし,& が企業 P 氏にとっての 実行可能な生産要素価格の集合ならば,大雑把な言い方をすれば,ほとん ど全ての場合に経済学的な利潤は負になる(生産要素はほとんど全ての場 合に効率的に利用されていない) ことになる。Hicks のこの解釈に従うと, 企業はほとんど常に生産要素を非効率的に使うことがあり得,企業自らが 生産要素の費用を最小化したときにのみ0という最大化された利潤を達成 できるということになる。ここにも企業 P 氏以外の経済主体は登場せず, 「企業買収ファンドによる企業の買い取り額の最小化」という解釈も出て 一 四 一. 来ない。 Gale(1 9 6 0)だろうか。Gale ももちろん双対定理を論じているし,均衡 定理(equilibrium theorem,次節で説明する)についても説明しているが, ここに出て来るのも,あくまで一企業と(需要と供給を反映して価格と数 量が変化する)市場であって,企業 P 氏以外の経済主体は登場しないし, 30−3・ 4−23 9(香法2 0 11). −4 4−.

(17) 「企業買収ファンドによる企業の買い取り額の最小化」という解釈も出て 来ない。 小山昭雄は『線形計画入門』 (1 9 6 6)p.1 2 5で次のように書いている。 %!'% 双対問題の目的関数は,企業の所有する資源を価格 '"!'#! で評価した総価値であり,架空の主体はこの総価値をできるだけ小さ くしようとしています。したがって,当然,架空の主体は,企業家と は利害が相反する立場にあると考えなくてはなりません。そうである としても,なぜ企業家の手持ちの資源の総価値を小さくしようとする のでしょうか。むろん,そうすることがかれ(架空の主体)にとって 有利であるからに相違ありません。とすれば,かれは,企業家の手持 ちの資源を手に入れようとしているのであり,そのときかれが企業家 %!'% なのだと考えるのが最も自 に提示する買い取り価格が '"!'#! 然な解釈といえるでしょう。(原文では「双対問題」のところは「問 %!*%」と書かれてい %!'%」のところは「*"!*#! 題!」と,「'"!'#! る。また,同じ1 9 6 6年の論文にも同様の表現がある。 ) 私のような者がこのように言うのは全く僭越なのだけれど,平易な語り 口であっても,実に理に適った推論であると思う。 小山はこの本の p.1 2 2の注に「ここでの解釈は Gale(1 9 6 0)の考え方 を踏襲しています。 」と書いているのだが,Gale(1 9 6 0)はそのような解 釈を書いてはいない。これはどういうことなのだろうか?. この解釈を最. 初に思い着いた小山自身なのではないだろうか?. 4.系(相補スラック性,均衡定理(equilibrium theorem) ) , 双対定理には経済学的に意味のある系(corollary)がある。)!は $)!"( '!は $$'!#&という条件を満たしていなければならない。双対定理の命 題1の証明で用いたのと同じ論理で,$)!"(の左側から '!を転置して掛 けても '!は非負だから不等号の向きは変わらない。 −4 5−. 30−3 ・4−2 38(香法201 1). 一 四 〇.

(18) 企 業 買 収 と 双 対 性(金子). ( " %"("'"$%"(& %' & #&. 一方,"(%"%$の左から '"を転置して掛けても '"は非負だから不等号の 向きは変わらない。 '"("(%"%'"($& #$('"' %"("'"と '"("(%"とは同一のものであって,双対定理が示したように, ( " % が成り立つのだから,'",%"においては '",%"においては $('"# &. %"("'"#%"(&#'"($ が成り立っている。すると,この前の等式と後の等式から,'",%"におい ては "'"!& %"(& ' #! "(%"!$' '"(& #! が成り立っているということになる。 "'"!& %"(& ' #!というのは,# 次元ベクトル同士の内積である。主問 "'"!& 'という # 次元ベクトルには 題の制約式から "'"!&$!だから,& 0と負の成分が入っている。%"%!だから,この内積は # 個の0以下の 数の足し算である。それが=0にならなければならないということは,# "'"!& 'という # 次元ベ 個の数は全て0でなければならない。すると,& クトルの中で厳密に負になっている成分に対応する(同じく # 次元ベク トルの)%"の中の成分は0でなければならないということになる。これ 一 三 九. は「最適な生産を行っている点で生産要素が余っていたら,その生産要素 の買い取り価格は0でなければならない」ということを意味している。こ れは「自由財の公準」と呼ばれる。 これを命題として述べれば,'",%"がそれぞれ主問題,双対問題の解 であるとき, 30−3・ 4−23 7(香法2 0 11). −4 6−.

(19) ! %. (. " " #! ! $%&,& !+ に対して *% %である生産要素 %. & #". ということである。 #'*"!)& #!は (次元ベクトル同士の内積である。双対問題 一方,,"'% #'*"!)&と ,"の 中 に は0 の制約式 か ら #'*"!)$!で ,"$!だ か ら,% と厳密に正の成分が入っている。この内積は (個の非負の数の足し算で, それが=0にならなければならないということは,やはり (個の数が全て #'*"!)&という (次 0でなければならないということである。すると,% 元ベクトルの中で厳密に正になっている成分に対応する(同じく (次元ベ クトルの),"の成分は0でなければならない。これを命題の形で書けば, " %. '. " " #! ! $%&*% ")&である財 & に対して ,&. %#". となる。これは「最適な生産を行っている点で,生産要素の帰属価値,影 の価格で測った平均費用が価格を上回るような財は生産されない」という ことを意味している。これは最適点では生産要素を効率的に利用していな い財は生産されないということである。 この系は Gale(1 9 6 0)が均衡定理(equilibrium theorem)と呼んだ内容 とほぼ同じである。Gale がこれを均衡定理と呼んだのは,特に前者の命 題において需要と供給の法則が働いている(最適な生産計画を実行してい てもなお余っている生産要素の限界生産性は0だから,その生産要素に対 する評価価格も0になる)ことを双対定理から論理必然的に導くことがで きているからである。 !% " の対偶の命題を考えてみるのも意味がある。% ! の対偶は% # である。 % # %. (. " " *% "!である生産要素 %に対して ! $%&,& #+ % & #". これは「最適点において正の評価価格がついている生産要素は余っていな い」ことを意味している。 " の対偶は% $ である。 % −4 7−. 30−3 ・4−2 36(香法201 1). 一 三 八.

(20) 企 業 買 収 と 双 対 性(金子). ! ". &. ! ! *% !!である % "'% に対しては ! #$%($ $"". これは「最適点において実際に生産されるのは,生産要素を最も効率的に 利用している財だけだ」ということである。. 5.最 後. に. この解釈の面白いところは,企業が所与の生産物価格に対して生産技術 と生産要素の保有量という制約の下に生産する生産物の価値額を最大化し ようとする問題と,企業が保有する生産要素に評価価格を付けて買い取る という意味での企業買収市場における企業買収ファンドの最小化問題とが 双対の関係で$がっているということである。しかも,企業が最適な生産 を行っているときの生産物の価値額と企業買収ファンドが生産要素に付け る評価額の最小値は一致するというのである。双対問題の方から考える と,企業買収ファンドが企業の持つ生産要素に評価を付けて,買収額の最 小値を求めるという問題を解くことができるときに,そしてそのときにの み,企業は生産の効率化を行うことができ,企業が最適な生産を行い,生 産物の価値額を最大化しているとき,その最大値は企業買収ファンドの生 産要素の買い取り額の最小値に必ず等しくなるというのである。思わず 「え#. ホント#」と言ってしまうような話である。あまりにもよく知ら. れている数学上の定理の経済学的含意(インプリケーション)は実に意外 なものなのである。 また,岡田(2 0 0 1)第6章は双対定理についてこの解釈についても書い 一 三 七. ているが,この主問題・双対問題を一国全体の経済活動を表すと考える # ! ( の式を「国民総生産物価値=国民総所得の関 と,この定理の '#*!"). 係として見ることができる」いう解釈も示している。 本稿に何か新しい学問的知見がある訳では全くない。ただ,企業買収が 盛んに行われるようになった現代にこんな半世紀も前の「故き話を温ねて」 30−3・ 4−23 5(香法2 0 11). −4 8−.

(21) みるのも,何か意味があるかもしれないと思ったのである。. 参 考 文 献 Dorfman, R., P. A. Samuelson and R. M. Solow.. Linear Programming and Economic. Analysis, McGraw-Hill, 1 9 5 8 Gale, D., The Theory of Linear Economic Models, New York, McGraw-Hill, 1960 Hicks, J. R.,“Linear Theory”Economic Journal, December1960 Takayama, A., Mathematical Economics, Cambridge University Press1985 岡田章『経済学・経営学のための数学』 (東洋経済新報社2001年) 小山昭雄「Shadow Price と限界生産力」 『上智経済論集』1966年 pp.1−7 小山昭雄『線型計画入門』 (日経新書 1 9 6 6年) 小山昭雄『経済数学教室4. 線型代数と位相 下』 (岩波書店 1994年). 二階堂副包『現代経済学の数学的方法』 (岩波書店 1 9 6 0年). 一 三 六. −4 9−. 30−3 ・4−2 34(香法201 1).

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