1963 年の地方自治法(以下、「自治法」と言う。)改正により、従来の「営造物」という概念が改め られ、①:@^自治法 244 条 1 項で「住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供する施設」が「公 の施設」として規定された。 住民サービスを提供する主たる目的の1 つとする地方公共団体にとって、公の施設の管理・運営は 特に重要な問題である。1963 年の自治法改正では、公の施設の管理・運営を委託することができる主 体は、公共的団体又は公共団体に限られており、しかも、そのうち、自治法に基づく、当該地方公共 団体の長の調整が及ぶ範囲に限られていた。1991 年の改正では、従前の公共団体又は公共的団体に加 えて、地方公共団体が出資している法人で一定の要件を満たすものに公の施設の管理を委託すること ができるとし、管理受託者の範囲が広がった。そして、2003 年地方自治法改正により、指定管理者制 度が創設された。指定管理者制度では、公の施設の管理・運営を行う指定管理者の範囲が、民間企業 などを含む法人その他の団体(法人格は必要ではないが、個人は不可)に拡大された。一方、公の施 設の管理・運営は、地方公共団体の直営以外は、すべて指定管理者制度によることとされた。指定管 理者制度は、多様化する住民ニーズにより効果的・効率的に対応するため、公の施設の管理・運営に 民間企業その他の法人の能力を活用しつつ、住民サービスの向上を図るとともに、経費の削減等を図 ることを目的として導入された。 2003 年の改正からわずか 15 年の 2018 年現在で公の施設の管理・運営に指定管理者制度を導入し ている総事業数は約7.6 万件1を超える。その約4 割が民間企業(株式会社、NPO 法人、学校法人、 医療法人等)2である。しかし、公の施設の指定管理者として地方公共団体が指定されている実例も存 在する地方公共団体が指定管理者と指定されている施設数は、都道府県で182 施設(全体の 2.6 パー セント)、政令指定都市は0 施設、市町村は 86 施設(全体の 0.6 パーセント)となっている3。本研究 においては、この「地方公共団体が指定管理者に指定される」という、特殊な実例に着目し、その実 態を明らかにすることとした。 本研究においては、公の施設の管理・運営に関する制度の歴史的過程を踏まえた上で、実例ごとに、 法的スキームを整理するとともに分析を行う。本研究においては、複数の事例の解明に取り組んだ。 公の施設の設置目的でもある「住民の福祉の増進」、特に、指定管理者制度導入目的である「多様化す る住民ニーズにより効果的・効率的に対応でき、質の高い行政サービスを提供すること」が可能とな っているかである。さらに、個々の事例においては、地方公共団体が指定管理者に指定されているこ とが、そもそもの地方自治の本旨の要素でもある「住民自治」や、「補完性の原理」などの地方自治上 の価値に貢献しているのかについても検討を行った。 本研究においては、公の施設の設置者が広域自治体(都道府県)の場合よりも、基礎的自治(市町 村)の方が、指定管理者となっている、地方公共団体の多様性があることから、後者に重点を置いて、 分析を行った。指定管理者として取り上げた事例は、市町村、財産区、(厳密には独立した地方公共団 体ではないが)地方公営企業である。 事例については、都道府県が市町村を指定管理者と指定している事例(群馬県佐波郡玉村町・烏川 運動場)、普通地方公共団体を指定管理者として指定している事例(岐阜県羽島郡岐南町・厚八運動場)、 地方公共団体が財産区を指定管理者として指定する事例(石川県加賀市山代温泉総湯)、市が当該市の 地方公営企業を指定管理者としていた事例(長崎県佐世保市・アルファ駐車場)について検討した。 1総務省自治行政局『公の施設の指定管理者制度の導入状況に関する調査結果』2019 年 5 月 17 日更新 (2019 年 12 月 31 日最終確認) 2 同上 3同上
本研究において、複数の事例を通じて明らかになったことは、第1に、地方公共団体を、指定管理 者制度導入目的である「多様化する住民ニーズにより効果的・効率的に対応でき、質の高い行政サー ビスを提供すること」ができる指定管理者に指定している点である。地方公共団体が指定管理者に指 定される場合、住民から一番身近な自治体が公の施設の管理・運営を行っている。それによって、住 民ニーズにより的確に効果的・効率的に対応することができる。住民自身によって、公の施設の管理・ 運営を行うことによって、「住民自治」の考え方に適っているといえる。また、住民の望む行政サービ スを提供することができる。また、問題解決に取り組む場合も身近な自治体が対応し、当該自治体が 解決できない場合はより広域の自治体が対応する点は、「補完性の原理」に適っているといえる。 第2 に、公の施設の設置目的である「住民の福祉の増進」につなげるために、地方公共団体を指定 管理者に指定している点である。地方公共団体が指定管理者に指定される場合、もちろん、公の施設 を管理・運営をするための専門的知識・ノウハウを有していることは当然のことではあるが、その公 の施設の設置経緯などが深く関わっていた。その点を考慮すると、民間企業等に指定管理者を指定す るよりも、地方公共団体が指定される方が、公の施設が所在する地域の特性なども十分に熟知してい るため、設置目的や住民の福祉の増進につながると考える。 指定管理者制度は、立法時には、民間企業等が有する専門的知識・ノウハウを公の施設の管理・運 営に活用することが想定されていた。確かに、指定管理者として地方公共団体が指定されることは、 事例が少なく、稀な事例である。しかし、優先して考えるべきことは、①住民の福祉を増進させるこ とができること、及び、②住民のニーズに的確により効果的かつ効率的に対応することができ、質の 高い行政サービスを提供することができることではないかと考える。民間企業等に比べ、地方公共団 体が指定管理者に指定されるにふさわしい場合は、地方公共団体が指定管理者として、公の施設の管 理・運営を行うべきである。