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広帯域移動体通信における時空間電波伝搬モデル

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招待論文

広帯域移動体通信における時空間電波伝搬モデル

藤井

輝也

英毅

太田

喜元

Time-Spatial Propagation Model for Wideband Mobile Communications

Teruya FUJII

, Hideki OMOTE

, and Yoshichika OHTA

あらまし 広帯域移動体通信において,アダプティブアレーアンテナやMIMO 等の空間処理技術を精度良く 評価するためには,電波伝搬損,電波伝搬遅延時間のみならず電波到来角度を同時に扱える時間・空間電波伝搬 モデル(時空間伝搬モデル)が不可欠である.本論文では,まずUHF 帯及び SHF 帯の測定結果に基づいて開 発した時空間伝搬モデルについて述べる.本結果の一部は,ITU-R 勧告 P. 1816 として標準化された.次に,簡 易なレイモデルを用いた物理的な時空間伝搬モデルを提案し,測定結果に基づいて開発した時空間伝搬モデルを よく説明し得ることを示す. キーワード 移動伝搬,時空間電波伝搬モデル,伝搬損,伝搬遅延プロファイル,電波到来角プロファイル

1.

ま え が き

陸上移動体通信システムを効率良く構築するために は電波伝搬モデルが不可欠であり,これらを基盤とし て最適な無線伝送システムやアンテナシステムが開発 される.すなわち,新たな無線システムを開発する際 には,それらを評価し最適化できる精度の高い電波伝 搬モデルの開発が不可欠である. 電波伝搬モデルの研究開発は,移動体通信システム の発展と密接に関連している.図1に我が国で実用化 された移動体通信システムとそれを開発するために必 要とされた電波伝搬モデルの関係を示す. 第1世代移動通信システムはアナログ伝送方式であ り,特にシステム設計において電波伝搬損の推定が不 可欠であった[1]. 第2世代移動通信システムでは狭帯域ディジタル伝 送方式が採用され,電波伝搬遅延による符号間干渉を 評価するために,様々な伝搬環境下における電波伝搬 遅延スプレッドの推定が重要であった[2]. 第3世代移動通信システムでは,広帯域ディジタル 伝送方式として,電波伝搬遅延を克服できるCDMA

(Code Division Multiplex Access)方式が採用され ソフトバンクモバイル株式会社ワイヤレスシステム研究センター,

東京都

Wireless System R&D Center, Softbank Mobile Corp., 2–38 Aomi, Koto-ku, Tokyo, 135–8070 Japan

た.CDMA方式では伝送帯域幅に応じた分解能で伝 搬遅延波を分離し,それらをRAKE合成して伝送品 質の向上を図る.そのため,分離可能な有効パス数を 評価できる電波伝搬遅延プロファイルの推定が求めら れた[3]. 一方,3.9世代と呼ばれる第3世代移動通信の高度化 システムや第4世代移動体通信方式(IMT-Advanced) では,更なる周波数有効利用技術として,アダプティブ アレーアンテナ(AAA)やMulti-Input Multi-Output

(MIMO)等の空間信号処理技術が精力的に研究されて いる.これらの空間処理技術を評価するためには,電 波到来角度特性である電波到来角プロファイルの推定 が特に重要となる. このように移動体通信システムでは世代が進むに 従って,電波伝搬モデルに対する要求条件も多様化し, 電波伝搬損推定から電波伝搬遅延推定,更に電波到 来角推定へと高度化している.今後,周波数利用率の いっそうの向上が図れる移動体通信システムを開発す るためには,電波伝搬損,電波伝搬遅延(時間),電 波到来角度(空間)を同時に扱える時間・空間電波伝 搬モデル(以下,時空間伝搬モデル)が不可欠である. 本論文では,まずUHF帯及びSHF帯の電波伝搬 測定結果に基づいて開発した伝搬遅延プロファイルと 電波到来角プロファイルを同時に推定可能な移動体 通信対応の時空間伝搬モデルについて述べる[4]∼[9]. 開発した時空間伝搬モデルは,ITU-R (International

(2)

図 1 我が国で実用化された移動体通信システムと電波伝搬モデルの関係 Fig. 1 Cellular systems and their required propagation models.

Telecommunication Union Radio communications sector)において「ITU-R勧告P. 1816」として2007 年11月に標準化された[10]. 続いて,測定結果に基づいて開発した時空間伝搬 モデルを説明し得る物理モデルについて考察する. 従来,時間と空間を同時に扱える物理モデルとして レ イト レー ス モデ ルや 散 乱モ デル が 提唱 され て い る[11], [12], [26], [27].レイトレースモデルは構造物の 形状,電気特性等を完全に決定できれば伝搬特性を詳 細に説明できるが,計算が非常に繁雑であり,推定精 度を向上させるためには膨大な計算時間を必要とする. 一方,散乱モデルは移動局の周囲に一定の大きさの散 乱領域を設定し,その領域内で電波を一回だけ散乱 (反射または回折)させる伝搬モデルであり,レイト レースモデルを極限に簡易化したモデルである.しか し,従来の散乱モデルでは測定結果を十分に説明でき ない.そこで,散乱モデルを拡張した物理モデルに基 づく新たな時間空間伝搬モデルを提案する[13]∼[21]. 提案する物理モデルは散乱領域内を電波の減衰領域と 仮定し,電波がその領域を通過する間は伝搬距離に応 じて増大する損失を自由空間損に加算するモデルであ る.そして,散乱領域内の減衰関数を最適化すること により,提案する物理モデルが測定結果を非常によく 説明できることを示す.

2.

時空間伝搬モデル

時空間伝搬モデルは,図2に示すように送受信間の 電波伝搬損特性,電波伝搬遅延特性,電波の到来角特 性を同時に推定できるモデルである.そして,電波伝 搬遅延特性や電波到来角特性だけに着目した場合には, それらはそれぞれ電波伝搬遅延プロファイルモデル, 電波到来角プロファイルモデルと呼ばれる. ところで,時空間伝搬モデルは厳密には伝搬遅延時 間と電波の到来角度の同時関数として与えられる電波 伝搬プロファイルモデルである.一方,電波伝搬遅延 プロファイルと電波到来角プロファイルを同時に推定 できる電波伝搬モデルも広い意味での時空間伝搬モデ ルと考えられる.そこで,本論文では厳密な時空間伝 搬モデル(以下,「狭義の時空間伝搬モデル」)に対し て,電波伝搬遅延プロファイルと電波到来角プロファ イルを同時に推定できる電波伝搬モデルを「広義の時 空間伝搬モデル」と定義して用いることにする. まず,本章では広義の時空間伝搬モデルとして,送 受信間が見通し外(NLOS)であるセルラ環境下の測定 結果に基づいて開発した電波伝搬損推定式,電波伝搬 遅延プロファイル推定式,電波到来角プロファイル推 定式について説明する.以下,電波伝搬損,電波伝搬 遅延プロファイルに関しては,伝搬損,伝搬遅延プロ ファイルと略して表記する. 2. 1 電波伝搬実験 実験式を開発するにあたり,様々な地域,実験条件 で測定を実施した.測定諸元を表1に示す.伝搬損の 測定は,0.8 GHzから8.4 GHz間の5波の狭帯域周波 数を用いて行った.伝搬遅延プロファイルの測定は, 2.2 GHz帯と2.6 GHz帯の2波に関してはチップレー トが1.8725∼30 Mcpsの異なる五つのチップレートの 広帯域周波数を用いて,また3.4 GHz帯から8.4 GHz 帯の3波に関しては6.25∼50 Mcpsの異なる四つの チップレートの広帯域周波数を用いて行った.測定で は,PNで拡散したそれぞれのチップレートに対応す

(3)

図 2 時空間伝搬モデル Fig. 2 Time-spatial propagation model.

表 1 測 定 諸 元 Table 1 Measurement parameters.

る広帯域信号を送信し,受信機では受信した信号を相 関検出し,チップレート分の1の時間分解能で伝搬遅 延波を分離した. 基地局における電波到来角の測定は,1.5 GHzから 8.45 GHzの4波の狭帯域周波数を用いて行った.測 定では,移動局から水平面内指向性が無指向である送 信アンテナを用いて電波を送信し,基地局では水平面 内指向性の半値幅が約3の指向性アンテナを360回 転できる回転台に設置して,電波到来角プロファイル を測定した. 測定は,首都圏(東京,千葉,神奈川)の市街地

(urban),郊外地(suburban),住宅地(rural)を選択 して,様々な実験条件で実施した. 2. 2 伝搬損推定式 従来,移動通信分野において,基地局アンテナ高が 周囲の建物高より高い場合の伝搬損特性を巨視的な観 点から表すものとして,いわゆる「奥村カーブ」が広 く利用されている[1], [22].しかし,「奥村カーブ」は 建物の高低等の都市構造が考慮されていない.一方, 都市構造物を考慮できる伝搬損モデルとして「坂上 式」が提案されている[23].しかし,これらのモデル の周波数範囲はともにUHF帯であり,準マイクロ波 帯(1.5∼3 GHz)やSHF帯において,「奥村カーブ」や 「坂上式」のように簡易に利用できる伝搬損推定式はほ とんど開発されていない.そこで,UHF帯の「坂上 式」をもとに適用周波数をSHF帯まで拡張した「拡 張坂上式」を開発した[24].開発した伝搬損失式L(d) を次式に示す[26]. L(d) = 101 − 7.1 log W + 7.51 logH



24.37 − 3.7 (H/hb)2



· log hb + (43.42 − 3.1 log hb) log d



3.2 {log (11.75hm)}2− 4.97



+ 20 log f (dB) (1) ここで,Wは道路幅[m],Hは平均建物高[m],hb は基地局アンテナ高[m],dは基地局移動局間距離 [km],fはキャリヤ周波数[MHz],hmは移動局アン

(4)

図 3 伝搬損推定 Fig. 3 Prediction of path loss.

テナ高[m]である.式(1)から分かるように「拡張坂 上式」の周波数特性は20 log fで与えられている.「坂 上式」に関しては文献[23]を参照されたい. 図3に典型的な市街地及び郊外地における伝搬損 の測定結果と推定結果を併せて示す.ただし,東京都 八丁堀(市街地)の推定ではhb= 50 m,H = 30 m を,東京都三鷹(郊外地)ではhb= 30 m,H = 12 m を用いている.図より測定結果と推定結果はよく一致 していることが分かる.推定誤差は標準偏差で5 dB 程度であり[23],UHF帯における「坂上式」の推定誤 差とほぼ同じ値であることから,「拡張坂上式」は十分 妥当であることが分かる. 2. 3 伝搬遅延プロファイル推定式 広帯域移動通信システムにおいて伝送帯域内の周波 数特性を検討するためには,伝搬遅延特性が不可欠で ある.例えば,今後商用化が期待されるWiMAXや 図 4 チップレートと伝搬遅延プロファイルの関係

Fig. 4 Dependence of delay profile on chip rate.

IMT2000-LTE (Long-Term Evolution)等のOFDM (Orthogonal Frequency Division Multiplexing)を変 調方式として用いた広帯域無線伝送システムでは周波 数軸上のスケジューラや,誤り訂正と組み合わせて用 いる周波数インタリーブ等の最適設計を行うために, 伝搬遅延プロファイルに基づく周波数相関の検討が不 可欠である[25]. 一般的に伝搬遅延プロファイルは送受信間距離や基 地局アンテナ高などの基本パラメータのみならず,都 市構造によっても大きく変わる.例えば,高層建物が 立ち並ぶ市街地では送信された電波が多数回反射され た後,受信点に到達することから大きな伝搬遅延が生 じる.逆に,建物高が低い住宅地では電波の反射が少 ないため,伝搬遅延は相対的に小さい. 一方,伝搬遅延プロファイルの形状は伝送帯域幅 (チップレート)に応じて変わる.図4にチップレート が異なるだけで,同一送信条件で受信した短区間伝搬 遅延プロファイルの一例を示す.図からチップレートが 小さいほど受信波形は大きくなることが分かる.チッ プレートが小さくなれば時間分解能であるΔτ= 1/ チップレート[μs])が長くなり,Δτ内に到達する伝搬 遅延波が多くなることから,受信レベルは大きくなる. このように伝搬遅延プロファイルを高精度に推定する ためには,チップレートB は重要なパラメータであ る.なお,チップレートと伝搬遅延プロファイルの形 状に関しては例えば文献[26]に詳しく説明されている ので参照されたい. 一般に,伝搬遅延プロファイルは,(a)瞬時伝搬遅 延プロファイル,(b)瞬時伝搬遅延プロファイルを数 十波長に相当する距離で平均化した短区間伝搬遅延プ

(5)

ロファイル,(c)短区間伝搬遅延プロファイルを基地 局からの距離がおおよそ同一となる区間で平均化した 長区間伝搬遅延プロファイルに分類できる[27].単に 伝搬遅延プロファイルと表記されている場合は長区間 伝搬遅延プロファイルを指していることが多い.本論 文では,短区間伝搬遅延プロファイルと長区間伝搬遅 延プロファイルの推定法について検討する. ところで,図4に示す例のように短区間伝搬遅延プ ロファイルはチップレートBを大きくすると時間分解 能が向上し,Δτごとに必ずしも伝搬遅延波が存在し ない.特に伝搬遅延時間が大きい領域ほど伝搬遅延波 が存在する確率が小さくなる.そのため,複数の短区 間伝搬遅延プロファイルを平均化した長区間伝搬遅延 プロファイルと短区間伝搬遅延プロファイルの形状は 大きく異なり,特に伝搬遅延時間が大きい領域ほどそ の差が顕著となる.そこで,短区間伝搬遅延プロファ イルに関しては包絡線の推定法を,長区間伝搬遅延プ ロファイルに関しては平均値の推定法を検討する. 準マイクロ波帯からマイクロ波帯までの測定結果を もとに,チップレートBと都市構造を同時に考慮でき る短区間伝搬遅延プロファイルの推定式と長区間伝搬 遅延プロファイルの推定式を開発した[4], [5]. 先頭パスを0 dBとした相対電力で表した短区間伝 搬遅延プロファイルの推定式eT(k, d)は次式で与えら れる. eT(k, d) = α(d) · log(1 + k) (dB) (k = 0, 1, 2, · · · ) (2) ただし, α(d) = − {19.1 + 9.68 log (hb/H)} ×B{−0.36+0.12 log(hb/H)} d{−0.38+0.21 log(B)} (3) ここで,Bはチップレート[Mcps],kはパス番号(時 間分解能1/Bにより正規化した伝搬遅延時間)であ る.また,k = 0は先頭パスを示す. 一方,先頭パスを0 dBとした相対電力で表した長 区間伝搬遅延プロファイルの推定式ET(k, d)は次式 で与えられる[6], [7]. ET(k, d) = α(d) · log(1 + k) + 10 log c(k) (dB) (k = 0, 1, 2, · · · ) (4) ただし, c(k) =

1 (k = 0) min

0.63,



0.59e−0.017B+(0.017 + 0.0004B)H



×e−{(0.077−0.00096B)−(0.0014−0.000018B)H}i

(k ≥ 1) (5) また,式(2),(4)をパス番号の代わりに伝搬遅延時間 τ [μs]を変数とする場合は次式で与えられる. eT(τ, d) = α(d)·log(1 + τ B) (dB) (6) ET(τ, d) = α(d)·log(1+τ B) + 10 log c(τ B) (dB) (7) 測定結果から,短区間及び長区間伝搬遅延プロファ イルは基地局アンテナ高hb,平均建物高H,基地 局移動局間距離d,チップレートBには依存するが, キャリヤ周波数fにほとんど依存しないことが分かっ た[5].そのため,推定式(2),(4)にはともにキャリ ヤ周波数fの項は含まれていない. 図5,図6に市街地及び郊外地における短区間及び 長区間伝搬遅延プロファイルの測定結果と推定結果を 併せて示す.ただし,縦軸は最大受信電力の伝搬遅延 波から受信電力の差分が20 dB以下となる伝搬遅延波 の総電力を1とするように規格化した相対電力である. 図から測定結果と推定結果はよく一致していることが 分かる.推定値と実測値のdB値の差(推定誤差)は ±の両方向にあり,±を考慮した推定誤差の50%中 央値は両推定法でともにほぼ0 dBであり,推定誤差 の標準偏差は両推定法でともに4∼5 dBである[5]. 2. 4 電波到来角プロファイル推定式 周波数利用率の大幅な向上技術である送受信ダイ バーシチやMIMO等のアンテナ技術の最適化を図る ためには,電波到来角プロファイルや空間相関特性の 検討が不可欠である[28]. 電波到来角プロファイルに関しても伝搬遅延プロ ファイルと同様に,(a)瞬時電波到来角プロファイル, (b)瞬時電波到来角プロファイルを数十波長に相当す る距離で平均化した短区間電波到来角プロファイル, (c)短区間電波到来角プロファイルを基地局からの距 離がおおよそ同一となる区間で平均化した長区間電波 到来角プロファイルに分類できる.単に電波到来角プ ロファイルと表記されている場合は長区間電波到来角 プロファイルを指していることが多い.本論文では長 区間電波到来角プロファイルの推定法について検討す

(6)

図 5 市街地における短区間及び長区間伝搬遅延プロファ イル(八丁堀)

Fig. 5 Prediction of delay profile in urban area (Hatchobori). る.以下では長区間電波到来角プロファイルを単に電 波到来角プロファイルと略す.ところで,今回の電波 到来角測定に用いた水平面内指向性アンテナは,その 角度分解能(水平面内半値角)が約3と比較的大き い.そのため角度分解能ごとに電波到来波が存在しな いという測定結果がほとんど存在しないため,短区間 電波到来角プロファイルと長区間電波到来角プロファ イルの形状に大きな差はなかった[8], [9].そのため, ここでは長区間電波到来角プロファイルの推定式だけ を検討する. 電波到来角特性は図2に示すようにアンテナ高が平 均建物高より高い基地局側と平均建物高より低い移動 局側では大きく異なる.アンテナ高が周辺平均建物高 図 6 郊外地における短区間及び長区間伝搬遅延プロファ イル(三鷹)

Fig. 6 Prediction of delay profile in suburban area (Mitaka). より高い基地局では,基地局周辺での反射が少なく, 移動局方向から電波が集中してくることから,その電 波到来角特性は移動局のそれに比べて狭い.更に基地 局における電波到来角プロファイルは基地局高などの 基本パラメータのみならず,都市構造によってもその 特性は大きく変わる.例えば,市街地では移動局から 送信された電波は地理的に広く分布する高層建物に反 射されて基地局に到達するため,電波到来角度広がり は大きい.一方,建物高が低い住宅地では電波の反射 が市街地に比べて少ないため,電波到来角度広がりは 相対的に小さい.このように,基地局における電波到 来角プロファイルは都市構造に応じて変わることから,

(7)

基地局における電波到来角プロファイルを高精度に推 定するにはそれらを考慮する必要がある.そこで,準 マイクロ波帯からマイクロ波帯までの測定結果をもと に,送受信間距離や都市構造を考慮した基地局におけ る電波到来角プロファイル推定式を開発した. 移動局方向を基準角度0,それに対する電波到来角 度をθ [◦]とした場合の基地局における電波到来角プ ロファイル推定式ESB(θ, d)は,基準角度0の受信電 力を0 dBとした相対電力として次式で表すことがで きる[8], [9]. EBS(θ, d) = −10β log (1 + |θ| /a) (0◦≤ |θ| < 180◦) (dB) (8) ただし, a = −0.2d + 2.1

H hb



0.23



β = (−0.015 H + 0.63) d − 0.16 + 0.76 log (hb) (9) 測定から基地局における電波到来角プロファイルは, 基地局アンテナ高hb,平均建物高H,基地局移動局 間距離dには依存するが,チップレートBやキャリ ヤ周波数fにほとんど依存しないことが分かった[8]. そのため,推定式(8)にはチップレートB,キャリヤ 周波数fの項は含まれていない. 一方,アンテナ高が平均建物高より低い移動局では その周辺の建物等で反射した電波が様々な方向から到 来するため,図2に示すように電波到来角特性は広い.

特に基地局が見通し外(NLOS:None Line Of Sight)

の場合,移動局の電波到来角プロファイルは電波が水 平面内の全方向から一様に到来するいわゆる「Clark model」が一般的である[29], [33].本論文でも移動局 の電波到来角プロファイルとしてClark modelを仮定 する.すなわち,移動局を中心としたローカル座標系 での電波の到来角度をφ [◦]とおくと,移動局におけ る電波到来角プロファイルの推定式EMS (φ)は次式で 与えられる. EMS (φ) = 1/360 (0◦≤ |φ| < 180◦) (10) 図7に市街地と郊外地の基地局における電波到来角 プロファイルの測定結果と推定結果の一例を示す.た だし,図では電波到来角プロファイルの片側だけを示 している.また,その値は到来角度3ごとの受信電力 値であり,最大受信電力の到来波に対して,受信電力 図 7 市街地における電波到来角プロファイル

Fig. 7 Prediction of arrival angular profile.

の差分が20 dB以下となる到来波の総電力が1となる ように規格化した相対電力である.なお,千葉ニュー タウン(住宅地)の推定ではhb= 50 m,H = 8 m として計算している.推定値と実測値のdB値の差 (誤差)は±の両方向にあり,±を考慮した誤差の 50%中央値はほぼ0 dBであり,その標準偏差は4∼ 5 dBである[8].平均建物高が高くなるほど電波到来 角プロファイルは広くなり,また送受信間距離が大き くなるほど電波到来角プロファイルは狭くなることが 分かる.図から測定結果と推定結果はよく一致してい ることが分かる. 2. 5 Keyパラメータとその適用範囲 開発した時空間伝搬モデルのkeyパラメータとその 適用範囲を以下にまとめる. f:キャリヤ周波数(MHz, 800∼8400 MHz)

(8)

B:チップレート(Mcps, 0.5∼50 Mcps) hb:基地局アンテナ高(m, 20∼150 m) d:基地局移動局間距離(km, 0.5∼3 km) H:平均建物高(m, 5∼50 m) W:平均道路幅(m, 5∼50 m) 伝搬損推定式,伝搬遅延プロファイル推定式,基地局 における電波到来角プロファイル推定式は,基地局ア ンテナ高hb,平均建物高H,基地局移動局間距離d が共通パラメータとして含まれている.特に,都市構 造を表す平均建物高Hは全推定式に含まれており, 例えば市街地,郊外地,開放地等とエリアを分類する こともなく,Hを変更するだけで様々な都市構造で の時空間伝搬プロファイルを推定できる.また,周波 数の適用範囲がUHF帯からSHF帯までと広く,チッ プレートの適用範囲も最大50 Mcpsまでと広いことも 大きな特徴である. ところで,チップレート50 Mcpsの伝送帯域幅は送 信フィルタの性能にもよるがおおよそ100 MHzの帯域 幅に相当する(伝送帯域幅[MHz] 2 ×チップレート [Mcps]).した がって,本論文の 結果は 伝送帯 域幅 100 MHzまでの推定式として適用可能である.また, 例えば平均建物高Hを20 m,10 m,5 mに設定す れば,開発した時空間伝搬モデルは従来のエリア分類 であるところの市街地,郊外地,住宅地域における伝 搬特性とほぼ同じ伝搬特性が得られる. 2. 6 周波数相関と空間相関 基地局における複素受信信号の周波数相関は式(7) の電波伝搬遅延プロファイルから,また空間相関は 式(8)の電波到来角プロファイルから求めることがで きる. 今,周波数差をΔf [MHz]とおくと,複素受信信号 の周波数相関RT(Δf)は次式で表せる[23]∼[25]. RT(Δf) =



0 10ET(τ,d)/10e−j2πΔfτ



τmax 0 10ET(τ,d)/10e−j2πΔfτdτ (11) ただし,τmaxは最大伝搬遅延時間である.ここでは, 実用性を考慮して,最大受信電力からLth[dB]低い値 となる伝搬遅延時間をτmaxと定義している. 一方,基地局で二つのアンテナ素子を移動局方向 と垂直な方向に,距離Δd [m]だけ離して設置した場 合の複素受信信号の空間相関RB S(Δf)は次式で表せ る[26], [27], [29]. 図 8 複素受信信号の周波数相関係数

Fig. 8 Frequency correlation of complex signal.

RBS(Δd) =



180 −180◦ 10ES(θ,d)/10e−j2πΔd sin θ/λ



θmax −θmax 10ES(θ,d)/10e−j2πΔd sin θ/λdθ (12) ただし,θmax[]は最大到来角度であり,ここでは最 大受信電力からLthだけ低い値となる到来角度と定 義している[30].この場合,θmaxは式(8)より次式と なる. θmax= a(10Lth/10β− 1) (13) 図8に基地局における複素受信信号の周波数相関 係数|RT(Δf)/RT(0)|を示す.ただし,計算条件は, d = 2 kmhb= 80 m,B = 10 Mcpsτmax= 2.5 μs (Lth= 20 dB)として,平均建物高Hをパラメータ としている. 図9に基地局における複素受信信号の空間相関係数



RB S(Δd)/RS(0)



を示す.ただし,横軸は波長λ(m) で規格化したアンテナ間距離Δd/λである.また,計 算条件はd = 2 kmhb = 80 m,Lth = 20 dBとし て,平均建物高Hをパラメータとしている. 図8,図9から平均建物高Hが高い市街地では, 基地局における周波数相関係数と空間相関係数はとも に小さく,逆に平均建物高Hが低い郊外地ではそれ らがともに大きいことが分かる.これらの図から都市 構造と周波数相関係数,空間相関係数の関係がよく分 かるであろう. このように提案モデルは様々な伝搬環境下における

(9)

図 9 複素受信信号の空間相関係数 Fig. 9 Spatial correlation of complex signal.

周波数相関係数,空間相関係数を容易に算出できるこ とから,時空間特性を活用して周波数利用率の向上を 図る無線システムの設計や評価に非常に有効である.

3.

時空間伝搬プロファイルの物理モデル

本章では,前章で説明した「広義の時空間伝搬モデ ル」を説明し得る「狭義の時空間伝搬モデル」の物理 モデルについて検討する. 一般にアンテナ高が低い移動局から全方向に送信さ れた電波は図2に示すように移動局周辺の多くの建物 で反射,または回折されて,基地局へ到達する.この 現象に着目して,図10に示すように移動局の周囲に 電波の散乱領域を仮定し,移動局から送信された電波 は散乱領域内を任意の方向に一定の距離だけ直進し, そこで散乱されて基地局に直進するレイトレースモデ ルを仮定する.すなわち,本モデルは実際には複数回 数の反射や回折を経た電波を1回だけ散乱された電波 とみなし,また伝搬距離を送信点から散乱点,散乱点 から受信点を直線で結んだ最短経路と仮定する等価モ デルである.したがって,複数回数の反射や回折を経 た電波の減衰量を1回の散乱による等価減衰量として 与える必要がある.本論文ではこの等価減衰量を散乱 領域内での電波の減衰量と定義して,時空間伝搬特性 を解析する.具体的には,基地局での伝搬遅延時間プ ロファイルと到来角度プロファイルを同時に満たす散 乱領域内の電波の減衰関数を解析する. 3. 1 解析モデル 図10に示すように移動局の周囲に半径R [km]の円 盤上の散乱領域を仮定し,移動局から送信された電波 図 10 解析モデル Fig. 10 Analytical model.

図 11 提案する物理モデル

Fig. 11 Proposed physical model.

は散乱領域内の任意の方向に距離r [km]だけ直進し, そこで散乱されて基地局に直進するモデルを仮定す る.アンテナ高が低い移動局から送信された電波は移 動局周辺の多くの建物を通過する間に自由空間損失以 上に減衰する.そして最終的な散乱点からは自由空間 伝搬で基地局に到達する.一方,移動局から送信した 電波の一部は近傍散乱領域を通り抜けて,遠方散乱領 域で散乱されて基地局に到来する.この場合の電波の 減衰は近傍散乱領域を通り抜ける場合とは異なり,遠 方散乱点までの減衰は小さい.これらの現象に着目し て,図11に示すように減衰特性が異なる複数の散乱 グループで構成される「複数散乱グループモデル」を 提案する[19], [21]. 今 ,減 衰 特 性 が 異 な る 散 乱 グ ル ー プ 数 を n,そ

(10)

i番目の散乱グループの減衰関数をFi(x, y) (i = 1, 2, · · · , n)で表す.減衰関数は移動局の位置する道 路の方向が基地局方向と平行である「横コース」と垂 直である「縦コース」とでは大きく特性が異なるこ とに着目して,次式に示す二次元指数関数を仮定す る[18], [20]. Fi(x, y) = γi mi exp





x kxi



2 +

y kyi



2

(14) ただし, mi=



R 0



0 r exp

−r





cos φ kxi



2 +

sin φ kyi



2

· drdφ (15) ここで,x [km]y [km]は移動局を中心(0,0)とした ローカル座標系であり,x方向は基地局方向である. kxi[km],kyi[km]はi番目の散乱グループのxy方 向の減衰定数であり,γii番目の減衰関数の比例定数 である.また,miは規格化定数であり,式(15)ではxyを極座標系rφを用いてx = r cos φy = r sin φ と変換して計算を行っている.したがって,複数散乱グ ループモデルの減衰関数をF (x, y)とおくと,F (x, y) は次式で与えられる. F (x, y) = n



i=1 Fi(x, y) = n



i=1 γi mi exp





x kxi



2 +

y kyi



2

(16) ただし, n



i=1 γi= 1 (17) ET &SB (θ, l, d) = n



i=1 γi(l 2−d2 )(l2+d2−2ld cos θ) 4mi(l − d cos θ)3 × exp



1 k2xi



2ld − (l2+ d2) cos θ 2(l − d cos θ)



2 + 1 k2yi



(l2− d2) sin θ 2(l − d cos θ)



2

d ≤ l ≤ d + 2R |θ| ≤ cos−1

(d2 + (l − R)2− R2)/2d(l − R)

!

(18) 式(17)は各散乱グループから受信した全受信電力を1 とするための規格化条件である. 3. 2 解 析 (a) 基地局における時空間伝搬プロファイル 基地局の位置座標を原点(0, 0),移動局の位置座標 を(d, 0),基地局での電波の到来角をθ,電波の伝搬 距離をl [km]とおくと,基地局での受信電力特性(以 下,時空間伝搬プロファイル)EB T &S(θ, l, d)は次式 (式(18))で表すことができる[19], [21]. 一方,伝搬遅延プロファイルETB(θ, d),電波到来角 プロファイルESB(θ, d)は式(18)から求めることがで きる.ここでは次式に示す近似式も併せて示す[21]. ETB(l, d) =



θ EBT &S(θ, l, d)dθ n



i=1 γi exp{−|l − d|/(2k xi/(1 − kxi))} e(2kxi/(1 − kxi)) (19) ESB(θ, d) =



l ET &SB (θ, l, d)dl n



i=1 γiexp

"

−|θ|/



4kyi πd

#$

2



4kyi πd



(20) 式(19),(20)から各散乱グループの伝搬遅延プロファ イルと電波到来角プロファイルはともに指数関数で近 似できること,またETB(θ, d)ESB(θ, d)はそれらの 和で表せることが分かる. (b) 移動局における時空間伝搬プロファイル 移動局での時空間伝搬プロファイルは,移動局を中心 としたローカル座標系で表す.電波の到来角をφとおく と,移動局での時空間伝搬プロファイルET &SM (φ, l, d) は文献[19], [21]と同様の解析により次式のように表す ことができる(導出略). ET &SM (φ, l, d) = n



i=1 γi mi (l2− d2)(l2+ d2+ 2ld cos φ) 4(l + d cos φ)3

(11)

ESM(φ, d) = n



i=1



R+√R2+d2+2Rd cos φ d EMT &S(φ, l, d)dl = n



i=1 γi mi

"

1



1 + R

%

(sin φ/kxi)2+ (cos φ/kyi)2



e−R (sin φ/kxi)2+(cos φ/kyi)2

#

(sin φ/kxi)2+ (cos φ/kyi)2 1 (22) × exp

l2− d2 2(l + d cos φ)





sin φ kxi



2 +

cos φ kyi



2

|φ| ≤ cos−1(l2− d2− 2Rl)/2Rd)

(21) 一方,移動局における伝搬遅延プロファイルEM T(l, d), 電波到来角プロファイルEMS (φ, d)は式(21)から求め ることができる.ここでは次式(式(22),(23))に示 す近似式を併せて示す. EMT(l, d) = n



i=i



π −πE M T &S(ϕ, l, d)dl ≈ n



i=1 γiexp{−|l − d|/(2k xi/(1 − kxi))} e(2kxi/(1 − kxi)) (23) 式(22)から,電波到来角プロファイルESM(φ, d)φdに依存しない一様分布で近似できることが分かる. また,伝搬遅延プロファイルETM(l, d)は移動局と基 地局で同一であることから,ここでは式(19)と同じ 近似式を与えている.この点は注意されたい. 3. 3 解 析 結 果 図12 (a)は一例として,n = 2 とした場合に式 (18)で計算した基地局における時空間プロファイル EB T &S(θ, l, d)の三次元表示を示す.ただし,d = 2 kmR = 1 kmkx1 = 0.03 kmky1 = 0.02 kmkx2 = 0.15 kmky2= 0.15 kmγ1= 0.6としている.伝搬 遅延時間と電波到来角の同時特性が視覚的に理解でき るであろう.同図(b)は,同じ条件で計算した基地局 における伝搬遅延時間ごとの電波到来角プロファイル を示す.ただし,計算では到来角度に関しては1ご と,伝搬距離に関しては10 mごとの積分値で示して いる.図より伝搬遅延時間ごとに電波到来角プロファ イルが異なることが分かる.特に伝搬遅延時間が小さ い電波は受信電力が相対的に高く,狭い電波到来角度 広がりで到達し,伝搬遅延時間が大きい電波は受信電

(a) 3-dimensional graph of the time-spatial profile at BS

(b) Arrival angular profile at BS with traveling distancel as a parameter

図 12 基地局での時空間プロファイル推定

Fig. 12 Time-spatial profile at BS.

力が相対的に低く,広い電波到来角度広がりで到達す ることが分かる. 図13は,n = 2とした場合に式(19),(20)の右辺 の近似式を用いないで厳密に計算した基地局における 伝搬遅延プロファイルと電波到来角プロファイルを示 す.ただし,d = 2 kmR = 1 kmkx1= 0.03 km

(12)

図 13 基地局での伝搬遅延プロファイルと電波到来角プ ロファイルの推定

Fig. 13 Delay and arrival angular profiles at BS cal-culated from proposed physical model.

ky1= 0.02 kmkx2= 0.15 kmky2= 0.15 kmとし て,γ1をパラメータとしている.また,計算では電 波到来角度に関しては1ごと,伝搬距離に関しては 10 mごとの積分値で示している.また,基地局アン テナ高hbを80 m,平均建物高Hを20 m,基地局 からの距離dを2 km,拡散帯域幅Bを10 MHzとし た場合の式(2)を用いて推定した伝搬遅延プロファイ ル及び式(6)を用いて推定した電波到来角プロファイ ルを記号で表示している.この例では,γ1 = 0.6 と設定すれば,物理モデルは測定結果に基づく推定結 果と非常によく一致していることが分かる.このこと から,物理モデルのパラメータを最適化すれば,提案

(a) 3-dimensional graph of the time-spatial profile at MS

(b) Arrival angular profile at MS with traveling distancel as a parameter

図 14 移動局での時空間プロファイル推定

Fig. 14 Time-spatial profile at MS.

する物理モデルは測定結果を十分に説明できることが 分かる. 図14 (a)は一例として,n = 2 とした場合に式 (21)で計算した移動局における時空間プロファイル ET &SM (φ, l, d)の三次元表示を示す.ただし,d = 2 kmR = 1 kmkx1 = 0.03 kmky1 = 0.02 kmkx2 = 0.15 kmky2= 0.15 kmγ1= 0.6としている.同図 (b)は同じ条件で計算した移動局における伝搬遅延時 間ごとの電波到来角プロファイルを示す.ただし,計 算では電波到来角度に関しては1ごと,伝搬距離に 関しては10 mごとの積分値で示している.図より伝 搬遅延時間ごとに電波到来角プロファイルが異なり, 特に伝搬遅延時間が大きくなるほど電波到来角度広が りが狭くなることが分かる.なお,図において電波到

(13)

図 15 移動局での電波到来角プロファイル推定 Fig. 15 Angular profiles at MS calculated from

pro-posed physical model.

来角プロファイルの角度が± |180◦|より小さい範囲と なっているのは散乱半径R = 1 kmによるものである. 図15は一例として,n = 2とした場合に式(22)の 右辺の近似式を用いないで厳密に計算した移動局に おける電波到来角プロファイルを示す.ただし,d = 2 km,R = 1 kmkx1 = 0.03 kmky1 = 0.02 kmkx2= 0.15 kmky2= 0.15 kmとしている.また,計 算では電波到来角度に関しては1ごとの値で示して いる.同図より電波到来角プロファイルは電波到来角 φに対しておおよそ一様分布となっていること,更に 式(22)の右辺の近似式が妥当であることが分かる.ま た,式(10)で示した推定式(Clark model)とおおよ そ一致していることも分かる. なお,理論解析の妥当性は計算機シミュレーション で確認している[18], [21].計算機シミュレーションに 関しては文献[14]∼[17]を参考にされたい. 3. 4 考 察 提案する物理モデルは,都市構造に応じて複雑に変化 する時空間伝搬特性を移動局近傍の散乱領域内の減衰 関数だけを定義することによりモデル化した極めて簡 易な物理モデルである.減衰関数を式(14)に示す指数 関数で近似する場合,nkxikyiγi(i = 1, 2, · · · , n) が基本パラメータとなる.図13では平均建物高H を20 m(市街地に相当),基地局アンテナ高hbを80 m とした場合の時空間伝搬プロファイルについて,基本 パラメータを最適化することで測定結果をよく説明 できることを示した.基本パラメータであるnkxikyiγiの最適値は都市構造に応じて変わる.例えば nを1とした場合はkx1ky1の二つの基本パラメー タを都市構造に応じて最適化する必要があり,nを2 とした場合はkx1ky1kx2ky2γ1 2= 1− γ1) の五つの基本パラメータを都市構造に応じて最適化す る必要がある.nを大きくする程詳細なモデル化が行 えることから推定精度の向上が期待できるが,その反 面基本パラメータ数の増加によりその最適化が複雑と なる.最適化の複雑さ及び図13の結果から,nは2 程度で十分と考える.そこで,nを2とした場合の都 市構造と基本パラメータの関係について定性的に考察 する. nを2とした場合,複数散乱グループモデルは図11 に示すように移動局近傍散乱グループ(kx1, ky1)と遠 方散乱グループ(kx2, ky2)の二つのグループで構成さ れる.移動局近傍散乱グループの基本パラメータであ るkx1ky1は移動局周辺建物高が移動局アンテナ高よ りも高ければ都市構造に大きく依存しないで,その値 も比較的小さい値となる.図13ではkx1= 0.03 kmky1= 0.02 kmとなっている.一方,遠方散乱グルー プの基本パラメータであるkx2ky2は都市構造に大 きく依存し,平均建物高が高い市街地では移動局近傍 散乱グループの基本パラメータkx1ky1に比べてか なり大きな値となり,またγ2も大きな値となる.図 13では,kx2= 0.15 kmky2= 0.15 kmと移動局近 傍散乱グループの基本パラメータkx1ky1に比べて 約5∼7倍の大きな値となっている.一方,郊外地,住 宅地のように平均建物高が低くなると,kx2ky2の値 は市街地の値に比べて小さくなるものと考えられる. このように,散乱領域内の減衰関数を都市構造に応 じて最適化することにより,提案する物理モデルは汎 用的な「狭義の時空間伝搬モデル」として様々な伝搬 環境に応用できるものと考える.ただし,都市構造が 異なる様々な伝搬環境における具体的な減衰関数の最 適化に関しては今後の課題とする.

4.

無線伝送システムと時空間伝搬モデル

ここでは無線伝送システムと電波伝搬モデル,特に 時空間伝搬モデルについて考察する.MIMO等の空 間信号処理を用いる広帯域無線伝送システムでは,伝 送帯域幅内の周波数特性を与える周波数相関係数とア ンテナ間相関を与える空間相関係数が伝送品質を評価 する上で極めて重要である[31], [32]. 例えばCDMAベースの広帯域無線伝送システムで

(14)

は,一般に時間軸上で伝搬遅延波を分離し,分離した それらをRAKE合成することにより伝送品質の向上 を図っている.このシステムにMIMOを適用する場 合には,分離したパスごとの電波到来角度特性が重要 となる.例えば,図12に示すように受信電力の大き い伝搬遅延波は伝搬遅延時間が小さく,その電波到来 角の広がりは小さい.すなわち,CDMAのように時 間分離する無線システムでは伝搬遅延波ごとに異なる 空間相関係数を評価する必要があることから,「狭義の 時空間伝搬モデル」を用いたシステム評価が不可欠で ある. 一方,OFDMをベースとした広帯域無線伝送シス テムでは,サブキャリヤ間隔を周波数相関半値幅に比 べて十分小さく設計することが一般であることから各 サブキャリヤは狭帯域伝送として評価できる.このよ うなシステムでは時間特性と空間特性を各々独立に設 計できる.すなわち,OFDMのように時空間特性を 独立に設計できる無線システムでは,「広義の時空間伝 搬モデル」で評価できる. 以上述べたように,無線システムの評価において 「狭義の時空間伝搬モデル」を常時用いる必要はない. 目的に応じて,狭義の時空間伝搬モデルと広義の時空 間伝搬モデルを適宜使い分けることによりシステム評 価の簡素化が図れる.

5.

む す び

本論文では,まずUHF帯及びSHF帯での電波伝 搬測定結果に基づいて開発した伝搬損推定式,伝搬遅 延プロファイル推定式,電波到来角プロファイル推定 式を説明した.これらの推定式はともに都市構造をパ ラメータとして考慮していることから,例えば典型的 な「市街地」,「郊外地」等の都市構造ごとに推定式を 選択する必要がないため,エリアを連続的に取り扱う ことが可能な推定式という大きな特徴を有している. また,これらの推定式はどれも簡易な関数式で与えら れていること,また推定誤差がどの推定式もおおよそ 5 dB程度であることから非常に実用性の高い推定式と 考える. 次に,基地局における測定結果に基づく伝搬遅延時 間プロファイルと電波到来角度プロファイルモデルを 説明できる物理モデルとして,移動局の周囲に円盤上 の散乱領域を仮定した簡易なレイトレースモデルを提 案した.そして散乱領域内の減衰関数を最適化するこ とにより,測定結果に基づく伝搬遅延時間プロファイ ルと電波到来角度プロファイルを非常によく説明でき ることを明らかにした.提案した物理モデルは散乱領 域内の減衰関数を最適化することにより様々な伝搬環 境下での時空間伝搬モデルを容易に生成できる非常に 汎用性の高いモデルと考える. 最後に,本論文で提案した時空間伝搬モデルはとも に簡易な関数式で与えられていることから取扱いが非 常に簡便であり,時空間特性をフル活用して周波数利 用率の抜本的な向上を図る無線伝送システムの最適設 計や理論的な解析モデルとして広く応用できるものと 期待する. 謝辞 実験用電波免許取得や電波伝搬測定で御協力 を頂きました当社ワイヤレスシステム開発センター 三上学主任研究員に感謝します.また,ITU-Rの標準 化で多大なる御支援,御助言を頂きました,総務省情 報通信審議会ITU-R部会電波伝搬委員会の主査であ る東京工科大学佐藤明雄教授に深く感謝致します.な お,本研究の一部は総務省「戦略的情報通信研究開発 推進制度(SCOPE)」の助成のもとに行われました. 文 献 [1] 奥村善久,大森英二,河野十三彦,福田倚治,“陸上移動通 信における伝ぱん特性の実験的研究,”通研実報,vol.19, no.19, pp.1705–1764, 1967. [2] 田中 哲,明山 哲,小園 茂,“移動通信における市街 地の多重路伝搬遅延特性,”信学論(B-II),vol.J73-B-II, no.11, pp.772–778, Nov. 1990. [3] 藤井輝也,今井哲郎,“広帯域 DS-CDMA 移動通信方式に おける有効パスに関する一検討,”信学論(B),vol.J82-B, no.10, pp.1923–1927, Oct. 1999.

[4] T. Fujii, “Delay profile modeling for wideband mobile propagation,” Proc. IEEE, VTC 2004 fall, 2004. [5] Y. Ohta and T. Fujii, “Delay profile prediction in

microwave-band for wideband radio propagation,” Proc. ISAP2005, vol.3, pp.1105–1108, Seoul, 2005. [6] Y. Ohta and T. Fujii, “Prediction of available path

number in wideband mobile propagation,” Electron. Lett., vol.41, no.23, pp.1292–1293, Nov. 2005. [7] Y. Ohta and T. Fujii, “Delay spread prediction

for wideband mobile propagation,” Proc. IEEE VTC2006-fall, Montreal, 2006.

[8] 表 英毅,太田喜元,三上 学,藤井輝也,“広帯域移動

体通信におけるパス到来角度プロファイルモデル,”信学

技報,A·P2005-184, March 2006.

[9] H. Omote and T. Fujii, “Empirical arrival angle profile prediction formula,” Proc. IEEE, 2007 VTC Spring, Dublin, 2007.

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(15)

ar-rival statistics for circular and elliptical scattering models,” IEEE Trans. J. Sel. Areas Commun., vol.17, no.11, pp.1829–1840, Nov. 1999.

[12] P. Petrus, J.H. Reed, and T.S. Rappaport, “Geometrical-based statistical macrocell channel model for mobile environments,” IEEE Trans. Com-mun., vol.50, no.3, pp.495–502, March 2002.

[13] 藤井輝也,佐藤 勲,弓削哲也,“移動体通信における時 間・空間パスモデルに関する一考察,” 信学技報,RCS2000-211, 2001. [14] 表 英毅,藤井輝也,“移動体通信における時間・空間パス モデルに関する一考察(その 2),”信学技報,A·P2001-34, 2001. [15] 表 英毅,藤井輝也,“移動体通信における時間・空間パス モデルに関する一考察(その 3),”信学技報,A·P2001-43, 2001.

[16] H. Omote and T. Fujii, “Time-space path modeling for wideband mobile propagation,” 2002 IEEE AP-S, vol.1, pp.228–231, 2002.

[17] H. Omote and T. Fujii, “Time-space path modeling with two different attenuation scattering disks for wideband mobile propagation,” Proc. 2002 IEICE In-ternational Symposium on Antenna and Propagation, pp.404–407, 2002.

[18] 藤井輝也,表 英毅,“移動体通信における時間・空間パス

モデルの理論解析,”信学技報,A·P2003-184, Nov. 2003.

[19] 藤井輝也,表 英毅,“移動体通信における時間・空間パス

モデルの一般化,”信学技報,A·P2004-221, Jan. 2005.

[20] T. Fujii and H. Omote, “Time-spatial path modeling for wideband mobile propagation,” Proc. IEEE 2004 VTC fall, Loss Angels, 2004.

[21] T. Fujii and H. Omote, “Time-spatial path modeling with multi-scattering attenuation factors for wide-band mobile propagation,” Proc. IEEE VTC2006 Spring, Melborn, 2006.

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[24] 藤井輝也,“陸上移動伝搬における伝搬損推定式—“坂上式”

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[26] 後藤尚久(監修),アンテナ・無線ハンドブック,2 編,電

波伝搬,オーム社,2006,など.

[27] 細矢良雄(監修),電波伝搬ハンドブック,15 章,リアラ

イズ社,1999,など.

[28] K.I. Pederson, P.E. Mogensen, and B.H. Fleury, “Stochastic model of the temporal and azimuth dis-persion seen at the base station in outdoor

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transmis-sion method for OFDM cellular systems with inter-cell interference caninter-cellation using simplified MLD based on MMSE QRD-M algorithm,” Proc. IEEE VTC2008-Spring, Singapore, May 2007.

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re-ception,” Bell Syst. Tech. J., vol.47, no.6, pp.957– 1000, 1968. (平成 20 年 1 月 18 日受付,5 月 1 日再受付) 藤井 輝也 (正員) 1981九工大・電子卒.1983 九大大学院 修士課程了.同年日本電信電話公社(現 NTT)横須賀電気通信研究所入所.以来, 移動通信方式の研究開発に従事.2000 日本 テレコム(現ソフトバンクテレコム)入社. 現在,ソフトバンクモバイルワイヤレスシ ステム研究センター長.工博.電通大客員教授.著書「電波 伝搬ハンドブック」(細矢良雄監修,リアライズ社,分担執筆, 1999). 表 英毅 (正員) 1997名大・理・化卒.1999 同大大学院 博士課程(前期)了.同年日本テレコム (株)(現ソフトバンクテレコム(株))に 入社.以来,移動通信サービス,移動通信 方式,移動伝搬の研究開発に従事.現在, ソフトバンクモバイルワイヤレスシステム 研究センター主任研究員. 太田 喜元 (正員) 2000室蘭工大・電気電子卒.2002 同大 大学院博士課程(前期)了.同年日本テレ コム(現ソフトバンクテレコム)入社.以 来,移動通信方式,移動伝搬の研究開発に 従事.現在,ソフトバンクモバイルワイヤ レスシステム研究センター主任研究員.

図 1 我が国で実用化された移動体通信システムと電波伝搬モデルの関係 Fig. 1 Cellular systems and their required propagation models.
図 2 時空間伝搬モデル Fig. 2 Time-spatial propagation model.
図 3 伝搬損推定 Fig. 3 Prediction of path loss.
Fig. 6 Prediction of delay profile in suburban area (Mitaka). より高い基地局では,基地局周辺での反射が少なく, 移動局方向から電波が集中してくることから,その電 波到来角特性は移動局のそれに比べて狭い.更に基地 局における電波到来角プロファイルは基地局高などの 基本パラメータのみならず,都市構造によってもその 特性は大きく変わる.例えば,市街地では移動局から 送信された電波は地理的に広く分布する高層建物に反 射されて基地局に到達するため,電波到来角
+5

参照

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