ブレア以降の憲法改革の概要(1)
森 山 弘 二
1 はじめに 2 ブレア政権(1997-2007年)<以上、本号> 3 ブラウン政権(2007-10年) 4 キャメロン連立政権(2010年以降) 5 むすびにかえて1 はじめに
ブレア政権成立(1997年)以降、イギリスでは、一連の憲法改革 (Constitutional reforms)が進行中である。D Oliverは、2003年の時点 で、「イギリスは、今、重大な憲法上の変化の渦中(going through) にある」(1)といい、そして、2009年の時点で、V Bogdanorは、1997年以 降の憲法改革をとらえて、それ以前に生起したものからの「発展的変化 (evolution)」としては理解できない、「憲法思想における一つの革命 (revolution)、ラディカルな断絶」をあらわすものと位置づけている(2)。 Bogdanorのこうした評価は、それ自体、イギリス憲法学の論争的なテー マになっているようであるが(3)、いずれにしても、近年生じ、今なお進 行中の憲法改革の重要性を疑う者はいない。 いうまでもなく、イギリスに成文・硬性憲法は存在しない。憲法上の変 *本稿は、札幌大学2011年度校費留学(国外)研修(長期)に基づく研修成果の一部である。 (1)D Oliver, Constitutional Reform in the United Kingdom(2003), p. v.(2)V Bogdanor, The New British Constitution(2009), p. 276.
(3)Cf. M Qvortrup(eds.), The British Constitution: Continuity and Change, A Festschrift
化は、それが革命的なものであっても、最終的には法的主権を有する議 会の制定法によって(さしあたり(4))確定されてきた(5)。本稿では、ま ず、1997年以降今日までに、イギリスの実質的意味の憲法に重要な変革 をもたらしたとみられる主要な議会制定法を中心にその概要を整理する ことから始める。このことは、議会制定法を伴わない憲法上の変革があ ることを否定するものではない。また、とりあげる立法の射程について も、さしあたりのものであって、本稿で言及しなかった立法には憲法的 価値がないとの判断を必ずしも伴うものではない。ダイシーは、イギリ スに憲法典がないこととの関連で、イギリス憲法はそれを注釈するに先 立って、その「性質と範囲が何であるかを自分で決めなければならない」(6) ものとするが、憲法を実質的にとらえるならば、そのこと自体は、憲法 典(形式的意味の憲法)のあるなしにかかわらず問題になり得ることで あろう。 ダイシー自身は、イギリスにおける「憲法(Constitutional law)」と いう言葉について、それを「国家における主権の分配と行使に直接また は間接に影響するすべての規範(rules)」と定義した上で、そこには、 裁判所により強制される規範であるという理由で、厳格な意味で「法」 であるところの「憲法律(the law of the constitution)」と、議会の構 成員たちや大臣の行為を規律しはするが、裁判所によって強制されない という意味では「法」ではないところの「憲法習律(conventions of the (4)議会はのちの議会を法的に拘束できない。いまの議会は至高の立法権をもつ、というのが
議会主権の含意の一つである。ダイシーによれば、論理的には、主権的権力はその主権的 権力を保持しているかぎり自己の権能を制限できない、しかし、自己を「消滅」させること、自 己の主権を他に「移動」させることはできる、とする。A V Dicey, Introduction to the Study
of the Law of the Constitution (10th ed., 1959), pp. 68-69(foot note)、A V ダイシー(伊
藤正己、田島裕共訳)『憲法序説』(学陽書房、1983年)64-65頁。
(5)イギリス憲法(constitutional law)は、「いにしえの国王大権と、それを修正し、あるいは 拡張する議会制定法に基づいている」(Lord Hailsham, The Dilemma of Democracy,
Diagnosis & Prescription, 1978, p. 125)。もっとも、実質的意味の憲法(British
constitution)の存在形式には、その他、習律(convention)、慣例(practice)、判例(コモ ン・ロー)などがあるが、議会制定法の優位がここでの議会主権の含意である。 (6)Dicey, op. cit., note(4), p. 6. ダイシー・前掲注(4)7頁。
constitution)」、という性質の異なった二つの部分があることを指摘 した(7)。そして、憲法全体、とりわけ憲法律のすべての領域を指導する 二つの原理が議会主権と法の支配であるとする一方で、憲法習律につい ては、その共通の性質を国王の大権と議会の特権という二つの裁量権を 統制するルールであることに見いだすとともに、その究極の目的は政治 的主権者である選挙民の意思を終局的に実現することにあるとした(8)。 ダイシーによって示されたイギリス憲法の全体的見取図に今なお準拠す ることが許されるならば、「憲法改革」とは、ダイシーのいう憲法律や 憲法習律に変更を加えることであり、その基本的な意義(impact)は、 「議会主権」と「法の支配」という二つの法原理と、選挙民の政治的主 権という政治原理の観点からはかられるというのが基本的視点になろ う。
2 ブレア政権(1997−2007年)
「ニュー・レイバー」を掲げて、18年ぶりに政権についた労働党政権 (ブレア政権)は、マニフェストに掲げた憲法上の諸改革を政権発足直 後から実行に移していく。1997年の労働党マニフェストには、以下のよ うな、広範な領域に及ぶ「憲法改革」が含まれていた(9)。すなわち、貴族 院の構成と庶民院の手続の現代化、選挙制度改革の推進、情報自由化法 の制定、スコットランドとウェールズへの権限委譲、大ロンドン市政府 の設置とイングランドのリージョン政府の推進、人権法の制定などがそ の代表的なものである。これらの公約は、一部を除いて2001年6月の総選 (7)Ibid., pp. 23-24. 同20-21頁。 (8)Ibid., pp. 417-32. 同397-408頁。(9)The Labour Party, Because Britain Deserves Beter(1997), pp. 32-35. その概略とし ては、松井幸夫「イギリス憲法改革と1997年総選挙」島大法学41巻2号(1997年)96-107 頁、および松井幸夫編著『変化するイギリス憲法―ニュー・レイバーとイギリス「憲法改革」』 (敬文堂、2005年)13-14頁参照。97年マニフェストができるまでの経緯と背景については、 渡邉樹「民主主義の現代化―英国労働党と「憲法」改革」レファランス2006年3月号、15頁 以下参照。
挙までにほぼ実現されることになる。
(1)1998年人権法(Human Rights Act 1998)
同法は、基本的に、ヨーロッパ人権条約(ECHR)(10)をイギリス国内 法に編入することを目的として制定された法律である。イギリスは、 ECHRの原加盟国(署名は1950年、1953年発効)であるが、条約に国内 法的効力をもたせるには、それを国内法化する議会制定法が必要とされて いる(いわゆる二元主義)。そのため、ECHRの編入が長年の懸案とさ れていたが、一般的抽象的文書による権利保障になじみのないイギリス では、様々な理由からその国内法化が見送られてきたという経緯があ る(11)。 成文・硬性憲法を制定し、そこに「権利章典」を組み入れるとの主張はす でに1970年代から行われていたが(12)、1998年人権法は通常の議会制定法 であり、既存の制度と議会主権を変更せずに、「新権利章典」制定論とし て「主張された事項の中でも必要最小限のものを採用した」(13)ものとされ る。同法の骨子は次のようなものである(14)。 ⅰ)法律は可能な限りECHR上の権利と適合的に解釈されなければな らない(適合的解釈、3条)。 ⅱ)裁判所は、法律をECHR上の権利と適合的に解釈できない場合、当 該法律が第一次立法(議会制定法)の場合には不適合宣言(4条)を (10)ECHRは、59ヶ条から成り、自由権を中心に実体的権利を定め、ヨーロッパ人権裁判所 (European Court of Human Rights)を創設している。その他多くの実体的権利が、
追加議定書で定められており、イギリスは、第1議定書、第6議定書、第13議定書(第1議定 書と第13議定書は死刑廃止に関するもの)を批准している。ヨーロッパ人権条約とイギリス 憲法との関係については、江島晶子『人権保障の新局面』(日本評論社、2002年)参照。 (11)ECHRの国内法化を妨げた要因と人権法成立までの経緯については、さしあたり、松井
・前掲注(9)164−166頁(江島晶子執筆)参照。
(12)Cf. Lord Hailsham, “Elective dictatorship”, The Lisner, 21 Octorber 1976, p. 500. L スカーマン(田島裕訳)『イギリス法―その新局面』(東京大学出版会、1981年)12頁、87 頁以下。
(13)松井・前掲注(9)163頁(江島執筆)。
出し、従位立法(議会制定法以外)の場合には当該法を適用しない か、または無効とする。不適合宣言は、議会制定法を無効とするも のではなく、訴訟当事者を拘束するものでもない(4条(6))。他 方、一定の条件の下で大臣は救済命令によって当該法律を修正する ことができる(10条)。
ⅲ)議会を除く公的機関(a public authority)はECHR上の権利に対 して適合義務を負う(6条)。すなわち、公的機関がECHR上の権利 に適合的に行動しないことは不法であり、不法な行為の被害者は裁 判所による救済を受ける(7条、8条)。 ⅳ)事前の適合性確保手段として、法案を提出する大臣は、法案の ECHR上の権利に対する適合性の有無を表明しなければならない (適合表明、19条)。 同法は、2年間の準備期間を経て、2000年10月から発効したが、そのイ ギリス憲法にもたらした基本的意義(impact)として、さしあたり次の 二点が注目される(15)。第一に、イギリス憲法の下における自由の保障の (15)もちろん、人権法のインパクトは、伝統的な議会主権と法の支配の原理の両面それぞれ について、慎重に検討されるべき課題である(See generally, Oliver, op. cit., note(1), p. 111 ff., Bogdanor, op. cit., note(2), p53 ff.)。本文での記述は、「さしあたり」のもので ある。その他、たとえば、いまの議会が至高の立法権をもつという意味での議会主権につ いては、人権法は明らかに制度的な制約を課している(3条の適合的解釈と4条の不適合 宣言)。人権法そのものを改廃できる後の議会は、人権法との関係で、個別の法律に明示 的に反対の意図を定めることも可能であろう。しかし、逆から言えば、議会が明示的に反対 の意思を示さない限り、人権法上の権利は「事実上硬性化」したということもできる(江島 ・前掲注(10)258-260頁参照)。もっとも、一定の議会制定法が後の議会を拘束するという 問題は、イギリスへのEC法の直接適用を認めた1972年のヨーロッパ共同体法(European Communities Act 1972)2条1項および4項との関係で、すでに生じていることは周知 のことである(cf. R. v. Secretary of State for Transport, ex. p. Factortame Ltd.(1990) 2 A.C.85)。また、法の支配との関係では、ダイシーの法の支配の第3原理、すなわち、イギリ スにおける憲法の一般原則(個人の権利・自由に与えられる保障)は、特定の事件で私 人の権利を決定してきた裁判所の判決の結果であって、その逆ではないとする法的思考 様式(とそれに基づく法制度)との関係も検討の焦点となろう。もっともダイシーは、権利と 司法的救済との結びつきという点については、法の支配の原理と憲法的な権利宣言の存 在とは両立しうるということを、アメリカにおける法の支配を例に挙げながら指摘している。 Dicey, op. cit., note(4), pp. 195-200. ダイシー・前掲注(4)185-189頁。
あり方、ないしはその独特の権利観念に及ぼした影響である。イギリス では個人の自由(individual liberties)とは、法によって制限ないし禁 止されていないことをなし得る自由(残余の自由)のことであり、した がって、自由の現実はそれを否定し、制限する法によって決まるという のが伝統的な考え方であった(16)。これに対して、人権法の保障する権利 は、これを制限する法に対して主張されうるものであり、権利と適合し ない法に対して裁判所による保障を受けるべきもの(少なくとも保障へ の配慮を受けるべきもの)になった。人権法の制定は、単なる残余の自 由としての権利観念に「憲法上の転換」をもたらしたとの評価がなされて いる(17)。第二に、第一の点とも関連して、人権法は、伝統的な「法の支 配」が想定している裁判所と議会、政府との関係に、新たな役割分担を追 加しているかにみえることである(特に、上記3条、4条、10条参照)。 変化の兆しは、ECHRやEC法との関係で以前から始まっていたともいえ るが(18)、人権法は、裁判所による立法の不適合宣言―大臣による救済命 令―議会による立法対応というあらたな仕組みを明文でつくり出した。 こうした権利保障の新たな枠組について、それを「権利の画定において、 司法府だけではなく、立法府および執行府も参加するユニークな手段と してとらえる」とともに、人権法4条の宣言について、それを権利に関す る最終的な決定を民主的機関に任せるものとして、裁判所が無理な適合 的解釈の手法を用いるよりも議会主権に親和的であるとする見解がある ことが注目される(19)。なお、裁判所と議会、政府との法的関係について (16)したがって、自由・権利の最終的な担い手は議会だということになる。ダイシーは、イギリ スに、議会をも拘束する権利の宣言ないし定義のないことをむしろ誇りとしていた(Dicey,
op. cit., note(4), p. 197. ダイシー・前掲注(4)186頁)。その趣旨については、政府の恣意
的権力に対する正式の法の絶対的優位(「イギリス人は、法によって、そして法によっての み支配される」)として定式化された「法の支配」の第一原理と、自由の憲法的保障は裁判 所による実効的救済の中に見いだされるとする「法の支配」の第三原理を参照(ibid. pp. 202-203. 同・190-191頁)。
(17)C Turpin & A Tomkins, British Government and the Constitution(7th ed., 2011), p. 752.
(18)江島・前掲注(10)第Ⅱ章、Ⅲ章参照。 (19)松井・前掲注(9)172-173頁(江島執筆)参照。
は、法的に議会主権は維持されている以上、裁判所の不適合宣言は法律 を無効とするものではなく、議会はその宣言に法的には拘束されないこ と、議会は人権法に不適合な法律をもあえて制定できること(20)、また、 不適合判決を受けて大臣が行う救済命令についても人権法は義務規定と はしていないこと(10条参照)、などを確認した上で、裁判所の不適合 宣言に対する政府、議会への拘束力ないし影響力について、何らかの習 律の成立を語りうるかが、次に検討されるべき問題となろう(21)。 (2)権限委譲(devolution)と地方分権 スコットランドとウェールズへの権限委譲(devolution)に向けて、 政府は、その民主的正当性と迅速な法案成立を確保するため、1997 年レファレンダム(スコットランドとウェールズ)法(Referendums [Scotland and Wales]Act 1997)を成立させ、9月にはそれが実施さ
れた(22)。レファレンダムは両地域において可決され、1998年スコットラ
ンド法(Scotland Act 1998)および1998年ウェールズ統治法(�overn-(Scotland Act 1998)および1998年ウェールズ統治法(�overn-Scotland Act 1998)および1998年ウェールズ統治法(�overn-)および1998年ウェールズ統治法(�overn-および1998年ウェールズ統治法(�overn-(�overn- �overn-ment of Wales Act 1998 )が成立する。
①スコットランド 1998年スコットランド法は、スコットランドにあ らたに創設された機関に第一次立法権(primary legislative power)と 行政権を委譲する記念碑的な憲法的法律と表現される。同法による分権 (20)大臣の「適合表明」に関する法19条(1)は、正確には、大臣は第二読会の前に、法案が 条約上の権利に適合しているとの趣旨の表明をするか(a)、そうした表明はできないけれ どもあえて法案を提出するとの趣旨の表明をすること(b)のいずれかを義務づけている。 (21)たとえば、政府が2011年に公表した内閣執務提要(The Cabnet Mannual, 1st ed., 2011
(https://www.gov.uk/government/publications/cabinet-manual))6.29では、裁 判所は議会制定法が条約上の権利と適合しないという見解を議会に示すことができる が、議会に法改正を提案するのは依然として政府である(remain)、と記載するのみで、不 適合宣言をめぐる慣習の成立に言及がないことを指摘する高安健将「「内閣執務提要」と 英国政治」国立国会図書館調査及び立法考査局『英国の内閣執務提要』(2013)所収、 25頁参照。 (22)スコットランド、ウェールズにおけるレファレンダムは初めてのことではない。1970年代にお ける分権の動きとその挫折、その他、ブレアの分権政策全般については、さしあたり、松井・ 前掲注(9)325頁(松井執筆)参照。
の骨子は以下のようなものである(23) ⅰ)新たに設けられたスコットランド議会(Scottish Parliament)に は、憲法、外交、防衛などの一定の留保事項を除くすべての事項に ついて第一次立法権が委譲される。ただし、UK(24)の政府と議会に 留保された事項(法第5附則)の立法や、この法律(1998年スコット ランド法)および1998年人権法を修正したり、ECHR上の権利およ びEU法と両立しない規定は制定することはできない。しかし、委譲 された事項については、既存のUK議会制定法を修正したり、破棄 したりすることができる。また、所得税の基本税率を3%以内で増減 する権限をもつ(25)。 ⅱ)スコットランド議会は、一院制で、2票式の追加型議席制度 (AMS)(26)が採用され、定数は129名で、小選挙区選出議員73名、8 つの地域ごとに選出される比例代表選出議員56名によって構成され る。任期は4年であるが、総議員の3分の2以上の賛成で議会が解散を 決定した場合、および議会が一定の期間内に�席大臣(�irst Min-、および議会が一定の期間内に�席大臣(�irst Min-および議会が一定の期間内に�席大臣(�irst Min-(�irst Min-�irst Min-(23)松井・前掲注(9)333頁(松井執筆)、松井幸夫「地方分権とイギリス憲法改革(1)」島 大法学42巻4号(1999年)127頁以下、Turpin & Tomkins, op. cit., note(17), pp., 229-241を参照した。 (24)連合王国としてのイギリスとイングランドとしてのそれを区別する必要がある場合、前者 をUKと表記する。 (25)ただし、スコットランド議会は、2013年時点において、この権限を行使したことはない。な お、イングランドを除く三地域の政府は、その財源の大部分をUK政府からの一括交付金 によっている。スコットランド議会が、上記の税率変更権を行使すれば、この交付金の額が 変わることになる。各政府に対する財政支出の水準の変更は、バーネット方式(Barnett formula) により決定される。各政府は、それぞれの議会で承認された独自の優先度にし たがって、当該交付金を自由に支出する。UK政府は、各政府の支出にいかなる制限も課 さない、とされる(内閣執務提要(The Cabinet Manual, 1st dition, 2011)8.26による)。 (26)追加型議席制度(Additional Member System)の骨子は次のようなものである。有
権者は2票をもち、それぞれ小選挙区と比例区での投票を行う。比例区における各政党へ の議席は、各政党の小選挙区で獲得した議席数を前提に、小選挙区ではみたされなか った議席数を追加的に補充するかたちで配分される(したがって、小選挙区で「勝ちすぎ た」政党には1議席も配分されないということが起こりうる)。こうして、各政党の最終的な議 席数は各政党の得票率に比例するような結果がもたらされるため、ドイツ式の比例代表併 用制と同様の結果をもたらすものとされる。
ister)の指名をしない場合には総選挙が行われる(Extraordinary general elections)。
ⅲ)スコットランド行政府(Scottish Executive or Administirative) は、基本的に議院内閣制をモデルとし、議会が指名し女王が任命す る�席大臣が�相に相当し、�席大臣が議員の中から指名する大臣 とともに行政府を担う。ただし、�席大臣に議会の解散権はない。 ⅳ)スコットランドは、かねてより固有の司法制度を保持してきた が、同法においても司法システムは委譲された事項の一つであり、 スコットランド議会はスコットランドにある裁判所の組織と権限 を変更できる。もっとも、最高刑事裁判所(High Court of �udi-(High Court of �udi-High Court of
�udi-ciary)および高等民事裁判所(Court of Session)の存続(27)と、裁 判官の給与の決定については留保事項とされるとともに、同法には 司法権の独立を保障するための裁判官の任命と罷免に関わる規定が ある。なお、スコットランド内における地方自治は委譲された事項 の一つである。 ②ウェールズ ウェールズに対する権限委譲は、スコットランドとは 異なり、第一次立法権や課税権の委譲を伴わない「執行的分権(execu-(execu-
execu-tive devolution)」の枠組みの下で行われたものとされる(28)。また、ウェ
(27)スコットランドの司法制度は、基本的に、民事・刑事双方の事件をあつかうセェリフ裁判所 (Sheriff Court)、民事の上級審である高等民事裁判所と刑事の最終審たる最高刑事 裁判所、そしてUKの最高裁である貴族院(House of Lords)からなる。民事の最終審は UKの最高裁であるが、刑事の最終審は最高刑事裁判所である。UK最高裁としての貴 族院が2009年以降、UK最高裁判所(Supreme Court of the United Kingdom)に置き 換えられたことは後述する。
(28)Turpin & Tomkins, op. cit., note(17), p., 246. イギリスでは、1973年に公表されたロ イヤル・コミッション報告(Kilbrandon Report: Royal Commissin on the Constitution 1969-1973, Report)が、ⅰ)従前からある政府のヒエラルキー内部における機能の分散にと どまる分権を「行政的分権(administrative devolution)」とし、より進んだ分権として、ⅱ) 中央政府が主要な政策と第一次的立法は留保するが、その下で、地域のための独創的 な政策やそれら政策の執行及び一般行政についての責任を公選された地域議会に移 譲する「執行的分権(executive devolution) 」と、ⅲ)政策決定権とそれを執行するため の第一次立法権まで移譲する「立法的分権(legislative devolution)」を分けて以来、こ
ールズ議会への権限委譲は、スコットランドと北アイルランドの場合と は異なり、いわゆる「移管(transfer)」モデルに基づいており、個別 に移管されていない分野は、UK議会と政府の責任に留保されている。 1998年ウェールズ統治法の骨子(とその後の若干の運用)は次のような ものである(29)。 ⅰ)あらたに直接公選されたウェールズ議会(Welsh Assembly)が 設けられるが、議会は第一次立法権および課税変更権を有しておら ず、従前のウェールズ省が有していた執行権をウェールズ議会の統 制下におくことが同法の趣旨とされる。その立法権限は、一定の 列挙された事項(限定列挙事項)についての第二次立法権に限られ る。 ⅱ)ウェールズ議会は、一院制で、追加型議席制度(AMS)が採用 され、定数60名(小選挙区選出議員40名、比例代表選出議員20名) で、任期は4年である。スコットランド議会とは異なり、ウェールズ 議会に解散はない。 ⅲ)ウェールズ統治法は、スコットランド法とは異なり、独立した執 行機関を設けず、議会そのものに執行権限を付与するかたちをと る。したがって、法的には執行機関は議会であり、議会が任命する �席大臣(Assembly �irst Secretary)と�席大臣が議員の中から 任免する大臣(Assembly Secretaries)からなる執行委員会(Exec-(Assembly Secretaries)からなる執行委員会(Exec-Assembly Secretaries)からなる執行委員会(Exec-)からなる執行委員会(Exec-からなる執行委員会(Exec-(Exec- Exec-tive Committee)がその執行を担うとされた。しかし、実際には、 執行権限の多くは大臣に委任され、執行委員会は、内閣ないし政府 として行動したことから、2002年以降には、ウェールズ議会政府 (Wales Assembly �overnment)と称されるようになる。�席大臣 うした用語法が定着したようである。諸地域(nations)やリージョンへの権限移譲 (devolution)で問題となるのは、基本的に、ⅱ)とⅲ)の意味の分権(執行的分権と立法的 分権)であり、そして、いずれの場合も、議会主権は放棄されないことが前提とされている。
Ibid. p. 216. 松井・前掲注(9)330頁(松井執筆)参照。
(29)松井・前掲注(9)334頁(松井執筆)、松井幸夫「地方分権とイギリス憲法改革(2)」島 大法学43巻3号(1999年)29頁以下、Turpin & Tomkins, op. cit., note(17), pp., 244-250を参照した。
および大臣は議会の不信任によって総辞職しなければならず、これ に対抗する解散権は認められていない。こうして、実際上、ウェー ルズにおいても一種の議院内閣制(a form of Cabnet �overnment) が出現したとされる。 1998年ウェールズ統治法が定める権限委譲のあり方は、とくに、スコ ットランドとの比較において、多くの批判を呼び起こすことになり、同 法のほとんどは早くも2006年ウェールズ統治法(�overnment of Wales Act 2006)に置き換えられた。同法の主たる目的は、議会の執行部門と 立法部門を正式に分離すること、選挙制度の改革、そして、議会の立法 権を強化することにあるとされる(30)。
ⅰ)ウェールズ議会政府(Welsh Assembly �overnment)が議会 (National Assembly for Wales)から独立し、かつ、それに責任を負 う別個の機関として正式に設立された(地方自治体に類似した委員会 制からの正式な離脱)。大臣(Welsh Ministers)は、議会の代理人 というより国王の代理人として行動するが、議会の信任を失えば総辞 職しなければならない。1998年法では、議会の名において行使されて いた制定法上の諸権限は、正式に大臣たちの権限となった(議院内閣 制モデルの成立)。なお、ウェールズ議会にも、スコットランド議会 と同様のExtraordinary general erectionsの制度が導入された。 ⅱ)1998年法が定める追加型議席制度(AMS)の下では、小選挙区と
比例区との重複立候補が許されていたが、これが廃止された(31)。
ⅲ)同法が委譲する特定の分野(同法第7附則が掲げる農業、文化、環 境など20分野)について、UK議会がウェールズ議会に、より強化 された立法権限を付与しうる「立法権付与命令(Legislative Com-(Legislative Com-Legislative Com-(30)Ibid. pp. 250-253、(財)自治体国際化協会 ロンドン事務所「ウェールズへの地方分権」
CLAIR REPORT No. 381を参照した。
(31)重複立候補の禁止は、ウェールズ労働党に有利に働くとの観測から、政府の恣意的立 法との批判を浴びたが、政府は、「落選者が当選する」ことのわかりにくさと不公平さを指摘 してこれを成立させたという(ibid. p. 250)。
petence Orders)」という手続が新たに設けられた。この手続によ り、UK議会が委任(delegated)した権限の範囲内でウェールズ議 会は自らの立法(Assembly Measures)を制定できるようになった (Part 3 Assembly Measures参照)。もっとも、このウェールズ法 (Assembly Measures)を制定するには、立法権を付与するUK議 会の制定法がある場合を除いて、立法権付与命令により、法案1件 ごとにUK議会の同意を求めることとされており、スコットランド の有するような第一次立法権が付与されたわけではない。しかし、 同法は、さらなる立法権限の委譲として、今後一定の時期に行われ る住民投票の結果により、第一次立法であるウェールズ法(Acts of the Assembly)を制定する権限をUK議会はウェールズ議会に付与 する、との規定をおいた(32)。 ③北アイルランド 北アイルランドについては、単なる権限委譲の問 題を遙かに超えた政治的経緯があることは周知のことであろう。ここ では、「ベルファスト合意」とその後のレファレンダムを経て成立した 1998年北アイルランド法(Northern Ireland Act 1998)を中心に権限委
譲の概要を述べるにとどめるが(33)、権限委譲のあり方にも、UK残留を 望むプロテスタント系のユニオニスト(Unionists)と分離独立を求める カトリック系のナショナリスト(Nationalists)の深刻な対立が大きな背 景となっている。同法は、全体として1998年の「ベルファスト合意」に 法的効果を付与することを目的とした法律であり、対立する諸勢力に権 限を共有させ、和解をもたらす一つの政治体を確立しようとするものと される。
ⅰ)北アイルランド議会(Northern Ireland Assembly)は、一定の除 (32)同法第4部ウェールズ法(Part 4 Acts of the Assembly)、特に103〜106条参照。住 民投票は、2011年3月3日に行われ、ウェールズ議会の立法権限の強化に賛成する投票結 果となった。この権限は、同年5月5日に発効している。
(33)主として、Turpin & Tomkins, op. cit., note(17), pp., 262-265による。問題の背景ない し経緯については、ibid. pp. 253-262、松井・前掲注(9)334-336頁(松井執筆)、349頁以
外事項(excepted matters)(34)と留保事項(reserved matters)(35)を 除く第一次立法権を有するが、課税自主権はない。また、北アイル ランド法自体や人権法の改正権などが除外事項となっていることは 1998年スコットランド法と同様である。 ⅱ)議会は、一院制で、庶民院議員選挙と同じ18の選挙区から単記移 譲式比例代表制(STV)により選出される定数108名の議員からな る。任期は4年で、議会が総議員の3分の2以上の賛成で解散を決定 した場合、および議会が一定の期間内に第一�相(�irst Minister) および第一副�相(Deputy �irst Minister)の選出ができない場合 には総選挙が行われる。一定の重要事項について議会が議決するに は、あらかじめ登録されたユニオニスト(UK残留派)とナショナ リスト(独立派)の両派のそれぞれの多数を含む全体の過半数か、 両派それぞれの40%以上を含む全体の60%以上の多数が必要とされ る(cross-community support)。 ⅲ)執行権は、議会に代わって、第一�相と第一副�相および10人未 満の大臣からなる執行委員会(Executive Committee)が行使する が、議会のcross-community的な性格を反映して、執行府のあり方 も北アイルランド特有のものがある。第一�相と第一副�相は、ユ ニオニストの最大党派とナショナリストの最大党派をそれぞれ代表 する者が議会により一括して選出される。二人の�相に実質的な権 限の相違はなく、議会は両�相を不信任できない。その他の大臣 は、それぞれの党派の勢力比に応じて、議会により選出され、�相 に大臣の任免権はない(36)。 (34)スコットランド法では留保事項(reserved matters)と呼ばれているものがこれに相当する。 (35)北アイルランド議会が立法するには、UKの大臣および議会の承認が必要とされる事項 で、刑事司法、警察、公安などがこれに当たる。 (36)北アイルランドへの権限委譲は、1999年12月に行われたが、両派の対立が再び深刻化 し、権限委譲は何度かの中断をはさみながら、2002年10月に一時中断され、北アイルランド 省の直接統治が行われた。その後、2006年の合意(St Andrews Agreement)を受け、 98年法を改正するNorthern Ireland(St Andrews Agreement) Act 2006が成立し、 翌2007年3月から、権限委譲は復活した。
④イングランド イングランドを除く三つ地域(nations)に権限を委 譲する動きは、唯一それ固有の議会をもたないイングランドの憲法上の 地位をめぐる問題(English Quetion)を顕在化させた。政府は、広域 行政の必要性やEUの地方重視の動きとも相まって、イングランドのリ ージョン(region)に公選の議会を設けることを提案した(Your Rejion,
Your Choice: Revitalising the English Regions, May 2002(Cm 5511))。
ロンドンを含む9つのリージョンには、すでに経済開発等を統括する機 関(RDA)が設置され、その職務を監視する非公選のリージョン会議 (regional chamber)も設けられていた。2003年、公選のリージョン議 会(regional assembly)を設置するための準備法(Regional Assemblies [Preparations] Act 2003)が制定され、レファレンダムの要件と手続が 定められた。レファレンダムでは、リージョン議会設置の賛否と、リー ジョン内に二層制の自治体(local authorities)がある場合にはそれを一 層制にすることの賛否が問われ、その両方に住民の同意が得られた場合 にリージョン議会は設置可能となるとされた。2004年、イングランド・ノ ースイーストで最初のレファレンダムが行われたが、否定的意見が多数 (約8割)を占めた。政府は他の地域でのレファレンダム実施を延期する ことを宣言し、リージョン議会の設置構想は頓挫した(37)。
⑤ロンドン 各地域内(nations)に存在する地方政府(local govern-(nations)に存在する地方政府(local govern-nations)に存在する地方政府(local govern-)に存在する地方政府(local govern-に存在する地方政府(local govern-(local govern-local govern-ment)の問題(地方自治の問題)は、憲法上、主権を有するUK議会の 権限を各地域議会(National Assemblies)に委譲することとは区別され る。しかし、地方自治の問題も、権力の分散と地方の民主主義にとって 重要な意義を有することに相違はない。ここでは、公選�長と公選議会
からなる、「UKでは新しいタイプの市政府」(38)をつくりだした�reater
(37)Turpin & Tomkins, op. cit., note(17), p. 243. リージョン議会については、松井・前 掲注(9)337-339頁(松井執筆)、田中嘉彦・山岡紀夫「諸外国における地方分権改革― 欧州主要国の憲法改正事例」国立国会図書館調査及び立法考査局『地方再生―分権 と自律による個性豊かな社会の創造』(2006)所収、91-93頁(田中執筆)参照。 (38)Ibid. p. 270. ロンドン市長は、イギリスの歴史上、市民による直接選挙によって選ばれた
London Authority(�LA)Act 1999のみをとりあげる(39)。なお、ロン ドンは、イングランドのリージョンの中で、選挙された政府をもつ唯一 のものとされることがあるが、その統治(governance)のあり方は、リ ージョン的なものと地方政府的なものとが混在したハイブリッドなもの で、一般に、リージョンへの権限移譲のモデルとはみなされてはいな い(40)。レファレンダムによる承認(投票率34.1%、賛成72.0%)を経て 成立した同法の骨子は次のようなものである。 ⅰ)大ロンドン市政府(�LA)は、執行権を有する市長(Mayor of London)と議会(London Assembly)から構成され、市長は議会に 対して責任を負う。イギリスの地方政府は、伝統的に、議会を意思 決定機関とし、その委員会が執行についても責任を負うという委員 会制が採用されてきたが、�LAでは公選市長と公選議会という二元 的な代表制が採用された。 ⅱ)市長と議会は、ともに任期は4年で別個に選出されるが、選挙は同 日に行われる。市長は、候補者が3名未満の場合は最多得票者が選出 されるが、3名以上の場合には選好投票制(PV)の一種である補足 的投票制(supplementary vote system)(41)で選出される。市長の職
務は、ロンドンにおける交通、環境、経済開発などの戦略的計画を 策定し、それを実施すること、予算の作成や幹部職員の任命などで ある。市長は、戦略的計画と予算について議会に提出し、その承認 はじめての市長とされる。なお、Local �overnment Act 2000により、townとcityに公選市 長制の導入が可能となり、2009年時点で、12人の公選市長が誕生しているという。 (39)ロンドンでは、1986年、保守党政権(サッチャー)により�reater London Council(�LC)
が廃止されて以来、�都ロンドンを代表する政府が存在しないという状態が続いていた。 �LCの有していた権限・職務は、中央政府か、下位の自治団体である区(borough)、シテ ィなどに移管され、あるものは停止状態(suspended)にあった、とされる。Oliver, op. cit.,
note (1), p. 278. (40)Ibid. p.278. (41)候補者が3名以上いる場合、投票者は第2選好まで順位をつけて投票する。投票の結 果、第1順位を獲得した候補者の得票が全体の過半数に満たないとき、3位以下の候補者 に投票された票を、第3位のものから順に、その票の第2選好にしたがって、上位2名の候 補者に配分する方法だとされる。ibid. p.279.
を求めなければならない。 ⅲ)議会は、定数25名で、追加型議席制度(AMS)が採用され、小 選挙区から14名、ロンドン全域から比例代表で11名が選出される。 議会は、何ら立法権限をもたず、立法機関とはいえない。第二次的 立法権の移譲も行われておらず、直接的な課税権も与えられていな い。議会の職務は、ロンドンの経済発展や環境改善などを促進する こと、市長の戦略計画や予算の審査を行い、ロンドンの行政課題な どについて調査することなどである。 D Oliverは、2003年の時点で、UKを構成する各地域(nations)への 権限委譲のプロセスを’asymmetry’(非対称・非均斉)と表現する(42)。た しかに、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドへ委譲された権 限の内容や各執行府の組織構成は様々であるが、各地域への権限委譲に は、一定の共通点も見いだすことができる。ⅰ)UK議会が立法するに 先立ち、当該地域でレファレンダムが行われ、その結果にしたがって権 限委譲が行われていること(レファレンダム)、ⅱ)各地域に直接公選 の議会を設け、そこに権限を委譲するかたちがとられていること(一院 制の議会中心主義)、ⅲ)議会選挙には小選挙区制ではなく比例代表制 が採用されていること(比例代表制)(43)などがさしあたり指摘できる。 これらのことは、ロンドンに公選の市長を設けたことを除けば、イング ランドにおける分権の動きにも基本的に当てはまる。Oliverは、つづけ て、各地域に委譲された権限の質と程度が異なるという「非対称」が、緊 張(tensions)とさらなる変化への圧力(pressures)を生み出すことを 指摘した上で、「こうした緊張は、創造的なこともあれば、他方で、ユ (42)Oliver, op. cit., note (1), p. 241.
(43)松井・前掲注(9)339頁(松井執筆)は、議会中心主義と比例代表制の採用について、「 それは、地域議会が地域住民の多様な意見を反映した多党制によって運営されるべきで あるとする理念によるものであり、UK国会における『対決型』の政治(adversary politics) とは異なる多党間の『対話と協調』による政治を促進する」とする。なお、分権構造の共通 性については、松井幸夫「イギリス憲法の現代的展開と地域的分権」島大法学45巻4号 (2002年)68-72頁も参照。
ニオン(UK)を構成する地域間の関係や、諸地域とUK自体との関係を 傷つけることがあり得る」(44)とする。オリバーがいう創造的な緊張が、 その後のウェールズにおける分権の拡大をもたらしたとすれば、おそら く、イングランドへの分権の欠落という非対称は、(少なくとも憲法理 論上)解決困難な「緊張」をもたらしているようである(ウエスト・ロジア ン問題)。以下、1997年以降の権限委譲の動きが、UK憲法の議会主権 原理にもたらした影響(インパクト)を中心に、若干の整理を試みる。 ⑥権限委譲(devolution)と議会主権 UK政府は、スコットラン ドへの権限委譲に先だって公表した白書(Scotland’s Parliament(Cm 3658/1997))の中で、議会主権と権限委譲(devolution)との関係につ いて、次のように表現したとされる。すなわち、UK議会は、現在もま た将来においてもすべての事項(in all matters)について主権的(sov-(in all matters)について主権的(sov-in all matters)について主権的(sov-)について主権的(sov-について主権的(sov-(sov- sov-ereign)でありつづける、そして、そのような議会が、「自らの権限をな んら縮減することなく、スコットランド議会に立法権限を委譲するとい う、主権(that sovereignty)の行使を選択するのである」。これを受け て、実際に成立したスコットランド法は、スコットランド議会に第一次 立法権を付与するその条項(Section 28)の(7)において、「本条はス コットランドについて立法するUK議会の権限に影響を与えるものでは ない」と定めた(45)。こうした法の建前からすれば、権限委譲は何ら議会 主権原理を変更するものではなく、むしろ、議会主権こそが権限委譲を もたらす原理的基盤であるとの位置づけがなされているようである。す なわち、地域政府(議会を含む)やそれが有する権限は、決して地域住 民(nation)がその主権(sovereignty of the people)に基づいて創設し (44)Oliver, op. cit., note (1), p. 241.
(45)Turpin & Tomkins, op. cit., note(17), p. 241. こうした、権限委譲と議会主権の関係 は、3地域への権限委譲の枠組みに共通するものである。内閣執務提要8.1は、3地域への 権限委譲に共通した特徴として、「(UK)議会は、主権を保持する。すなわち、議会は、権 限委譲議会が当該分野について立法可能か否かに関わらず、いかなる事項についても 立法する権限および、権限委譲議会の権限(そのもの)を修正する権限を明確に保持す る」ことを挙げている。
たものではなくて、それらは完全にUK議会の創造物なのであり、この 意味では、地域政府は、その存立と権限が「完全に議会制定法の創造物」(46) とみなされている地方政府(local authorities)となんら異ならないとい うことである。 それでは、次に、UK議会は、この究極の留保された立法権(権限委 譲を廃止し、修正し、個別に介入する権限)をいかようにも行使できる のかといえばそうではない。そこには、政治的ないし実際上の制約が当 然予想されるほか、いくつかの法的枠組みと制約があることが指摘でき る。第一に、北アイルランドについては、ベルファスト合意というUK とアイルランドとの条約によって課された制約がある(国際法上の制 約)。UK政府と議会は、この条約と一致するやり方で権限を行使する ことが求められている(47)。第二に、地域議会に第一次立法権が委譲され る分野については、UK議会は、通常(normally)、立法権を行使しな い(48)とする一方で、今後とも当該分野にUK議会が介入することが、地 域政府の観点から見ても、しばしば便宜であるとの共通認識があったと される(49)。たとえば、UK全体に統一した法制をひくことが望ましい場 合やUK議会に留保された分野の立法であっても、その実効性を確保す るには、地域議会の立法が必要になる場合がありうる。こうした場合、 UK議会は地域議会の同意を得て、委譲事項についても立法することが 想定された。スコットランド法の審議の過程で、担当大臣(Sewel卿) は「スコットランド議会が同意しない限り、委譲された事項についてウ エストミンスターは、通常、立法しないという習律が成立すると思う」 と述べたとされる。政府は今日、この担当大臣の答弁で述べられた予想 (expect)が憲法習律(convention)になっていることを公式に認めて (46)H Barnett, Constitutional and Administrative Law(9th. ed., 2011), p. 242, and see
p. 11.
(47)国際法上の制約としては、ここで、UKが批准し、権限委譲の枠組み全般に組み込まれ ている、EC/EU法およびヨーロッパ人権条約上の制約を挙げることもできるかもしれない。 (48)地域議会に第一次立法権を委譲するのであるから、このことは当然の前提であるといえ
る。
いる(50)。第三に、UK議会と地域議会の間で起こりうる権限争議の司法 的処理の仕組みが問題となる(51)。権限争議の事前(法律成立前)の防止 策として、スコットランド法は、スコットランド議会の大臣などに一定 の義務を課すなど、その政治的処理の仕組みを定めているが、その司法 的処理の仕組みとしては、UKの法務官と地域政府の法務官に、地域議 会が権限踰越をしたかどうかについて、直接、UK最高裁判所(2009年 までは枢密院司法委員会)に権限踰越(ultra vires)の申立(refer)が できること、最高裁によって権限踰越と判断された法案は裁可されない ことを定めている。地域議会の権限領域の問題は、EU法やヨーロッパ人 権条約上の権利との関係でも問題になりうるし、また、事後的(立法成 立後)に、通常の司法審査の対象にもなる。これらの制約は、直接的に は地域議会の権限踰越の問題として裁判所は審査するが、最高裁が地域 議会に有利な判断をするとき、司法権と議会主権との関係がつぎに問わ れることになろう(52)。 ⑦単一国家と議会主権 UKは、イギリス憲法学上、4つの歴史的地 域(イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドと いう4つのnationsまたはcountries)によって構成された単一国家とされ る。この場合、イギリスが単一国家(unitary state)であるということ の意味は、連邦国家との対比において、以下のように描き出される。す なわち、連邦国家に共通の特徴として、ⅰ)中央政府と地方政府の間 で一定の排他的な権限の分配が行われており(権限分配の排他性)、 ⅱ)それが両政府を拘束する成文憲法によって定められ(成文・硬性憲 (50)内閣執務提要8.5参照。 (51)権限争議の処理の仕組みには、司法的処理と政治・行政機関の調整に委ねる非司法 的処理があるが、スコットランド法におけるその包括的な分析としては、松井・前掲注(23)「 地方分権とイギリス憲法改革(1)」135頁以下を参照。
(52)Cf. Turpin & Tomkins, op. cit., note(17), pp. 233-34. 司法権と議会主権との関係 および、最高裁に一種の勧告的意見を述べる権限が付与されていること、司法審査の過 程で下位の裁判所から上位の裁判所に、最終的には最高裁判所に、権限争議の問題が 移送される手続が導入されていることなどの意味について、ここでは詳論しない。
法)、ⅲ)その憲法を解釈する一つの最高裁判所が存在すること(司法 審査)、があげられる。これに対して、UKは、単一国家であり、中央 政府の権限やその議会の権限を拘束する成文憲法は存在しない。成文憲 法ではなく、国の究極的立法権を行使する主権的な立法機関が存在して おり、北アイルランドやスコットランド、ウェールズの地域議会や地方 政府の権限は、議会制定法によって付与されたものであり、完全に議会 制定法の創造物である。したがって、法的には、議会は、地域議会や地 方政府に権限を付与したり、剥奪したりすることについて何らの制限も ないし、実際においても議会はそのように行ってきた(53)。UKの単一国 家性は、議会主権によって法的には確保されてきた、というのがここで の議会主権の含意である。UK憲法における、以上のような単一国家観 は、ダイシー以来の伝統であろうが、それは正確にいえば、UKは連邦 国家で・ ・ ・ ・はないということを議会主権の観点から説明するものであり、そ の意味で、特殊イギリス的な単一国家観であるように思われる。また、 上記ⅰ)〜ⅲ)をそのまま受けとめるなら、UKにおいて、権限(とく に第一次立法権)が地域に委譲され、それが実際上いかに固定化しよう とも、また、権限委譲立法がのちの議会を拘束するような事態が生じよ うとも(スコットランド法などの権限委譲を定めた基本法が事実上「硬性 化」すること)、さらに、最高裁判所がそれらの事態を法的に保障するよ うになったとしても、UK議会の立法権を法的に拘束する成文・硬性憲法 が成立しない限り、UKは「単一国家」であるとの主張を許容するもので あることにも留意する必要がある(54)。 1999年まで、UKの統治は高度に集権的で、北アイルランドにおける 一時期(1921-72年)を除けば、公選議会を有していたのは、ウエストミ (53)Barnett, op. cit., note(46), pp. 10-11. Dicey, op. cit., note(4), pp. 144-152. ダイシー
・前掲注(4)139-146頁。 (54)なお、権限委譲とUKの国家体制を議会主権の法理のみから説明することは、もう一人 の「主権者」の役割を不当に排除したものとの見方も可能であろう。公選の地域議会を創 設し、そこに第一次立法権を委譲することをレファレンダムによって決定するという権限委 譲の手法には、政治的主権を有するとされる有権者の役割が深く組み込まれている。権限 委譲のこのもう一つの側面をいかに位置づけるかについてもここでは詳論しない。
ンスター以外、地方政府(local authorities)のみであり、それも執行権 しかもっていなかった。UK議会は、実際においても、第一次立法権と いう至高の立法権を独占してきたといえる。99年以降、イングランドを 除くすべての地域に公選議会が創設され、今日ではそのすべてに第一次 立法権が委譲されている。したがって、至高の立法権をUK議会が唯一 保持しているという法理論(議会主権原理)と至高の立法権を議会が行 使しているという現実との乖離は明らかである。UK議会が現在、行使 している第一次立法権は、UK全体に関わるUK議会に留保された領域に 関する事項と、唯一独自の政府をもたないイングランドの内政事項全般 にわたる領域に関する事項に対するものと、基本的にはみることができ る。Bogdanorは、こうした現実を直視し、レファレンダムによって創設 され、民主的正統性を主張できる地域議会をUK議会が一方的に廃止す ることはもはや不可能に近いことを指摘した上で、権限委譲は一見する 以上に連邦制へと接近した、と主張している(55)。 ⑧「ウエスト・ロジアン問題」 ウエスト・ロジアン問題(West Lothian Quetion)とは、1970年代の分権論議において、スコットランドのウエ スト・ロジアン選挙区の選出議員(Tam Dayell)が議場で行った質問 に、その呼称の由来があるとされる憲法問題である(56)。当該議員は、地 域の内政問題(たとえば、教育とか医療に関わる問題)について、スコ ットランドに権限が委譲されると、自分はスコットランドの当該問題に ついて投票できなくなるが、引き続きイングランドの内政問題に投票で きるのはなぜか、との質問をしたとされるが、今日では、権限委譲が非 対称に行われるとき(たとえば、イングランドのみに固有の議会がない
(55)Bogdanor, op. cit., note(2), pp. 113-114. 権限委譲はUKを単一国家から準連邦制 (quasi-federal state)に変質させた、議会主権もその実質の多くは失われいる、との主
張を展開している(pp. 89 ff.)。
(56)ウエストロジアン問題については、Oliver, op. cit., note (1), pp. 288-294, Turpin & Tomkins, op. cit., note(17), pp. 244, Bogdanor, op. cit., note(2), pp. 98-101, 松井・ 前掲注(23)「地方分権とイギリス憲法改革(1)」157頁以下参照。
とか、各地域に委譲される権限の程度が異なるとかした場合)に生ずる 憲法問題をさして使われる言葉になったとされる。なお、ウエスト・ロ ジアン問題が深刻な憲法問題とされる背景には、権限委譲がもたらした UKの国家体制(constitution)の転換があることに留意する必要がある ように思われる。かりに、UKが全国民を唯一の構成単位とする「純粋な 」単一国家であるとするなら、そもそも4地域へに権限委譲が国家体制に 関わる憲法問題となることはなかったはずである。たとえば、イングラ ンド内においては、いまだ一層制と二層制の地方政府が混在し、ロンド ンにのみ広域の地方政府が活動しているとしても、それは地方分権のあ り方の不均斉の問題であっで、イングランドの国家体制を関わる憲法問 題を惹起するとは思われない。権限委譲は、UKを全国民を構成単位と する単一国家であるとともに4 4 4、4つの地域(nation)を構成単位とする’a multinational state’(57)に転換したといえる。そうだとすると、ウエスト・ ロジアン問題は深刻な憲法問題となる(58)。 今日、ウエスト・ロジアン問題の中心は、唯一固有の議会をもたず、 UK議会にしか代表を送れないイングランドの憲法上の地位に関わる問 題(イングランド問題)に集約されつつある。もっとも、この問題が常 に深刻な政治問題となるとは限らない。現在、イングランド選出議員は 全体の82%を占めており、イングランドのみに適用される法律案に対し て、他の地域から選出された議員が投票するとしても、重大な結果をも たらす確率は大きくはない。この憲法問題が同時に重大な政治問題とな るのは、UK全体の多数派とイングランド選出議員の多数派が食い違っ たとき、あるいは、イングランドにのみ適用される法律案の成否が与党 の他の地域選出議員の投票に依存するときということになる。 一つの議会の構成員は同様の権利と責任を担うべきだという要請と、 国民ないし市民は同じようにそれぞれの議会に代表されるべきだという (57)Bogdanor, ibid. p. 87にある表現を借用した。 (58)松井・同158頁も、権限委譲以前のUK議会が、スコットランドのみに適用される法律を、 多数を占めるイングランド選出議員によって決められてきたという問題と、ウエスト・ロジアン 問題が同根の憲法問題をはらんでいたことを指摘している。
要請を同時みたす制度改革は、現在のUK議会のあり方(さらには議会 主権に基づくウエストミンスターモデルの統治システム)を前提とする 限り、存外に、困難を伴うようである。解決策として議論されている ものとしては、ⅰ)イングランド固有の地域議会を新たに設けること、 ⅱ)UK議会にイングランド議会の役割を同時に担わせること、ⅲ)イ ングランド内にリージョン議会を設けること、などである。ⅰ)の場 合、イングランド議会にイングランドの内政事項を委譲し、UK議会は 純粋に全国的な問題(外交や防衛など)のみを担うことになろうから、 UKはさらに連邦制に接近することになろう。しかし、UKの85%の人口 をもつ「州」を包含する「連邦制」がうまく機能するかといった問題や、 UK議会の多数派とイングランド議会の多数派が食い違ったときの問題 など、もっともラディカルな変化が予想される対処法で、これを支持す る声はほとんどないようである。ⅱ)は、イングランドの内政事項につ いての法案について、他の地域からの選出議員の投票権などを法律によ り、あるいは習律に基づき制限しようとするものであり、実際に法案化 されたことがある「方便」だとされる(59)。いずれにしても同一の議会に2 種類の議員をつくることになり、議会の一体性をそこなうといった批判 や、UK全体の多数派とイングランド選出議員の多数派が食い違ったと き、「2種類の内閣?」が必要となるのではないかといったことが指摘され ている。ⅲ)は、上記④の述べた試みの延長線上にある対処法である。 最終的に9つのリージョン議会にイングランドの内政事項を委譲すれば、 やはり連邦制に接近することになることが予想されるほか、かりにそれ が実現したとしても、リージョンの集合的な声がイングランド全体の利 益を代弁するとは限らず、各リージョンは自己の利益のみに関心を示す だろうとの指摘がなされている。