臨床報告
〔三鷹薦36第犠、葎卿
メルファラン,プレドニゾロン療法が著効を示した
糖尿病合併ミエローマニューロパチーの1例
東京女子医科大学糖尿病センター,脳神経センター神経内科* フクダ イワサキ ナオコ クロキ ヒロユキ福田いずみ・岩崎 直子・黒木 宏之
ワサダ タロウ タケウチ メグミ ヒラタ ユキマサ稿田 太郎・竹内 恵*・平田 幸正
(受付 平成2年10月12日) はじめに 今回,我々は糖尿病患者に,比較的短期間に進 行する四肢筋力低下および筋萎縮を認め,糖尿病 性神経障害との鑑別診断を進める過程でIgGκ型 多発性骨髄腫の合併が認められ,化学療法により 末梢神経障害の著明な改善がみられた症例を経験 した.一般にミエ・ローマニューロパチーによる筋力低下は,進行性で予後が悪いとされている
が1)∼4),本四においては,メルファラン,プレドニ ゾロン療法により,筋力の著明な改善を認めるこ 「とができたので報告する. 症 例 患者:49歳男性. 主訴:歩行困難,両下肢および手指の脱力感. 既往歴:24歳虫垂切除術. 家族歴:父;高血圧,脳血管障害.姉;糖尿病, 腎不全. 現病歴:1987年3月,検診で糖尿病と診断され 某大学病院へ入院.1,600kcalの食事療法のみで 軽快し退院した.1988年10月上旬より徐々に歩行 中両下肢痛が出現し,精査のため1988年11月2回 目入院となった.下肢血管造:今上,狭窄部位は認 められず,糖尿病性神経障害が疑われた.1989年 1月,約1ヵ月間で両下肢の脱力が急速に進行し, 同時に両手指のしびれ感,脱力感の出現をみたた め,当センターを初診し,1989年1月23日,当科 入院となる. 入院時挙々:貧血,黄疸なし.表在リンパ節触 知せず.胸部に特記すべき所見を認めず。肝3横 指触知.脾腫は認めず.四肢では下腿に浮腫はな く右足背動脈触知不良.四肢筋萎縮を認める. 神経学的所見:精神機能および脳神経系に異常 所見なく糖尿病性網膜症も認めず.運動系では, 四肢遠位部優位の中等度の筋力低下と筋萎縮を認 め握力は右1kg,左5kgと著明に低下していた.深 部腱反射は一ヒ肢では正常,下肢では消失.病的反 射は認めない.感覚系では,両側第1,2指のジ セステジー,両足底で温痛触覚,振動覚の低下を 認める.協調運動障害や自律神経障害は認めない. 入院時検査所見(表):末梢血検査で軽度の事事 性正色素性貧血を認めた.空腹時血糖119mg/dl, HbAlc 8.1%, CPK 102mU/ml, ZTT 20.5KUと 上昇している他,一般生化学検査で特に異常を認 めなかった.血清IgGは2,107mg/dlと上昇を認 め,血清・尿・髄液の免疫電気永動にてIgGκ型M 蛋白を認めた.当院で施行した骨髄穿刺では骨髄中の形質細胞は9%であり(1988年前医にて
13%),X線,骨シンチグラム上骨病変は認めなIz㎜i FUKUDA, Naoko IWASAKI, Hiroyuki KUROKI, Taro WASADA, Meg㎜i TAKEUCHI*and
Yukimasa HIRATA 〔Diabetes Center, Department of Medicine;Neurological Institute, Department of neurology*, Tokyo Women’s Medical College〕:Successful treatment of peripheral neuropathy with Melphalan−Prednisone therapy in multiple myeloma associated with diabetes mellitus
かった.尿中Bence Jones蛋白は陰性であった. 直腸粘膜生検ではアミロイドは認められなかっ た. 運動神経伝導速度(MCV)では右尺骨神経は正 常であったが右腓骨神経で低下,感覚神経伝導速 度(SCV)では右尺骨神経は正常,右腓腹神経で 軽度低下していた.筋電図では遠位筋優位に高振 幅多相性神経筋単位を認め,擁側手掌伸筋では線 維束李縮を認めた. 表 腓骨筋生検ではH・E(Hematoxylin−Eosin)染 色で筋線維横断径の大小不同を認め,小角化線維 の散在および一部で群集を認めた(写真1).
NADH−TR(nicotinamide adenine
dinucleotide・tetrazolium reductase)染色では target, targetoid五berを多数認め,小径線維での ミトコンドリア酵素活性の濃縮現象を認めた(写 真2). 腓腹神経生検では有髄線維密度は9,492/mm2 入院時検査所見(1989年) 検尿(1/25) Creat 0.8mg/d1 免疫電気泳動(1/25) EMG(2/1) 異常なしUA
6.8mg/d1 (血清・尿・髄液) 遠位筋優位に高振幅多相性 血沈(1/24) Ca 8.5mg/d1 IgGκ型M蛋白 + 神経筋単位を認める. 1.17mm 2045mmTTT
4.1KU 尿中Bence・Jones蛋白(1/31) 椀側手掌伸筋では線維束李 末梢血(1/23)ZTT
20.5KU 陰性 縮を認める. RBC 356×10”/mm3 Fe 115μ9/dl 骨髄像(腸骨)(2/2) R−R間隔変動(2/1)WBC
5,460/mm3 TIBC 232μ9/d1 Nucleated ce11 10拍/分(分画正常) FBS(1/17) 119mg/d1 3.0×104/cu㎜ 髄液所見(2/15)
Hb 11.99/d1 (HbA,10.8%, HbAl,8.1%) Megakaryocytes 初圧 80mmH20 Plate 9.6×104/㎜3 心電図(1/17) 1×15.6/cumm 蛋白 43mg/d1
血液生化学(1/23) 不完全右脚プロ ック G/E 1.53 糖 100mg/d1
TP
7.Og/d1 胸部X線(1/17) Myeloblast 9% 細胞数 4/3/mm3(Alb 59%, γ一Glob 23.9%) 異常なし 骨シンチグラム(2/9) (N:L=1:3)
GOT
14KU 頭蓋X線(1/24) 異常集積を認めず IgG 4.Omg/dlGPT
14KU 異常なし MCV(1/24) (正常値0.5∼3.0)ALP
1761U 頸椎・腰椎X線(1/24) Ulnar(rt) 52.5m/sec 頸髄MRI(2/7)LDH
179mU/m1 異常なし Peronea1(rt) 37.5m/sec 特記すべき所見なしγ一GTP 9mU/ml (特殊検査) SCV(1/24) 腰髄MRI(2/20)
Amyl 221U〃 免疫グロブリ ン(1/24) Ulnar(rt) 43,4m/sec 特記すべき所見なし
chE 0.74」PH IgG 2,107mg/dl Sura1(rt) 39.3m/sec
CPK
102mU/m1 IgM 30mg/d1BUN
16.4mg/d1 IgA 42mg/d1 ……無記購
写真1 腓骨筋(H−E染色,×40) MP療法1回施行後(1989,2,20以下同じ)筋線維横 断径の大小不同を認め小角化線維の散在および一部に 群集がみられた. 写真2 腓骨筋(NADH・TR染色,×40) target, taτgetoid丘berを多数認め小径線維でのミト コンドリア酵素活性の濃縮現象を認めた. 一333一とほぼ正常で明らかな細胞浸潤やアミロイドの沈 着は認めなかった(写真3).ときほぐし法では 98%が正常で2%に軸索変性(Dyckによるcon・ dition E)を認めた.またPAP(peroxidase− antiperoxidase)法による抗IgGλ, IgGκ抗体活 性は明らかではなかった. 入院後経過(図):以上の所見より糖尿病,IgGκ 型多発性骨髄腫(Durie Salmon分類1A),多発性 末梢神経障害と診断した.骨髄腫に対し1989年2
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腓腹神経(epon埋包toluidine blue染色, 明らかな細胞浸潤やアミロイドの沈着は認めなかっ た. 入院2月 3月 4月 月∼6月にかけて計3回のMP療法(メルファラ ン10mg/day,プレドニゾロン100mg/day,4日 間)を施行したところ筋力,歩行障害の著明な改 善を認めた.特に握力は入院時右1kg,左5kgで あったものが同年6月には右39kg,左46kgまで 改善した.この間MCVについては改善は認めら れなかったが,SCVについては尺骨神経で43.4か ら49.2m/sec,腓腹神経で39.5から43.1m/secへ と改善がみられた.筋力の改善と血中IgGレベル には一定の関係は認められなかった.一方化学療 法の開始によりHbAlcは8.1%から12.7%へと血 糖コントロールは進行性に悪化し,インスリン(12 U/day)の導入を余儀なくされた.その後月1回の メルファラン,プレドニゾロソ療法を1年以上に わたり継続し現在四肢筋力はほぼ発症前の状態に 回復,支障なく日常生活を送っている. 考 察 本例は糖尿病を有する患者に両側対称性,末梢 優位の筋力低下,筋萎縮を認め軽度の感覚障害を 伴った運動感覚性ポリニューロパチーであった. しかし糖尿病がHbA、、8.1%と血糖コントロール が比較的良好に維持されていた時期に発症し進行 が急速で数ヵ月の間に運動神経障害が高度に進行 5月 6月 7月 メチコパール臼3T 戯甥;ン1瀧、、、 kg 50 握力 20 ,’ ,凋r ,’ ,’ 一一一●岬 ●,一一 インスリン導入匝線========== ,ノ●■r噛・●鴨_ ,’ ,’ ,’ ,,’” 一一_一一一一一一●声
! ! =誕 MCV(rt) UInar Poron6a畳 SCV(rt) Ulnar Sura聖 HbAl Allc Bone marrow lgG 52.5 〔m!soc〕 37.5〔m!soc〕 43.4〔m/50c〕 39.5〔m/50c〕 10.8 〔%〕 8.1〔%〕 9.0(Plasma co闘)〔%〕 2107 〔mg!dl〕 1653 46,2 35.3 47.9 35.1 11:1 1907 1751 図 入院後経過 14.1 10.2 45,4 37.6 49.2 43.1 ;1:1 6.6 2461 2569した点が,糖尿病性ポリニューロパチーとは合致 しにくいものであった.さらにステロイドにより 糖尿病の悪化をみた時期に骨髄腫に対する化学療 法で症状の改善をみたことは本営が糖尿病性ポリ ニューロパチーではないことの裏付けと考えられ た,その他にGuillain−Barr6症候群, para− proteinemiaに伴うニューロパチーのうちミエ 四一マニュ一喝パチー,アミロイドニュ一心パ チー,chronic inflammatory demyelinating
polyradiculoneuropathy(CIDP)が考えられる疾 患であったが,症状が数ヵ月におよび進行したこ とからGuillain−Barr益症候群は否定的,自律神経 症状に乏しく直腸,神経筋生検でアミロイドの沈 着を認めなかったことよりアミロイドニューロパ チーも否定的であった.またCIDPについては, 臨床経過は類似するが,M蛋白血症を伴うことが 診断基準を満足しなかった.以上よりミエローマ ニューロパチーであると診断した. 多発性骨髄腫にポリニューロパチーが合併する 頻度は4∼12%といわれている1)5》6).その病因と しては,免疫学的仮説が有力であり,末梢神経組 織にM蛋白成分の沈着を証明した報告7)∼9),患者 の免疫グロブリンをマウスに注射して末梢神経障 害を再現し得たとする報告10)などがこの仮説を支 持している.本症例では末梢神経組織でのM蛋白 の沈着は認められなかったが,髄液中のM蛋白の 増加を認めており,M蛋白がニューロパチーの発 症に何らかの影響を与えていた可能性もあると考 えられる.ミエローマニューロパチーの臨床経過 としては,急性または亜急性に感覚型または運動 感覚型ニュ一円パチーを呈し,進行性のものが多 く11),一般的に癌性ニューロパチーに類似してい る12).このような症例では組織学的に脱髄性変化 よりも軸索変性が目立ち13),それが予後不良の症 例が多い原因であると考えられる.一方,CIDPに 類似した症例の報告が散見され12},そのような症 例では臨床的には運動型を主体とするニューロパ チーが多く,病理組織学的には脱髄性変化を主病 変とし,免疫療法に反応し良好な経過を示してい る12).最近報告された本幹類似のミエローマ ニューロパチー(骨髄腫が骨硬化型でないもの, 明らかなアミロイドーシスの合併を認めないも の)9例1)動を検討したところ,原疾患に対する化 学療法,放射線療法,骨病変切除,プラズマフェ レーシスなどが試みられた結果,9例中末梢神経 障害がやや改善した例1例,不変例4例,死亡例 4例という結果であり,多発性骨髄腫自体の予後 も影響を及ぼしていると考えられるが,極めて経 過は不良であった.しかし本例ではメィレファラン, プレドニゾロン療法により臨床症状が比較的短期 間に改善しており,その理由を以下のように考察 した.
第一の理由は多発性骨髄腫の病期がDurie
Salmon分類1Aと初期である点である. Kellyは 骨髄腫の病期に対応してニューロパチーも重篤な ものが多いと報告している12).第二の理由は本例がCIDPに類似したミエローマニューロパチー
である点である.すなわち,七戸は運動神経障害 が強いニューロパチーであり,MCV, SCVの低下 が認められた点,神経生検では典型的な所見を得 られなかったが,化学療法に対する反応性が良好 のことから,病態として脱髄性変化を主体とし, CIDPに類似していた可能性が考えられる. CIDP 様のミエローマニュ一箪パチーはその発症に本来 のCIDPI4)と同様の免疫学的機序が考えられてい る12}.本例では原疾患の多発性骨髄腫に対する治 療を行ったことと同時にプレドニゾロンの免疫抑制作用が臨床症状およびSCVの改善に有用で
あった可能性があると考えられた. 結 語 糖尿病性ポリニューロパチーとの鑑別を必要としたが,化学療法で著効を示したミエローマ
ニューロパチーの1例を報告した. 文 献1)Kelly JJ, Kyle RA, Miles JM et a1: The
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