臨床報告 (東女医大誌第55巻 第7号1 頁 600-605 昭和60年7月J
呼吸不全に対する膜型人工肺による治療経験
東京女子医科大学第1外科(胸部外科〉 イタオカ トシナリ チ ノ キミアキ カネヤス ヒヂト カイズカ ヒデキ 板 岡 俊 成 ・ 茅 野 公 明 ・ 兼 安 秀 人 ・ 貝 塚 秀 樹 ナカジマ ヒデツグ ヨコヤマ マサヨシ ワ ダ ジユロウ 中 島 秀 嗣 ・ 横 山 正 義 ・ 和 田 寿 郎 東京女子医科大学麻酔科 ヤ ユキ ;j" フジ タ マサ オ 古 谷 幸 雄 ・ 藤 田 昌 雄 (受付昭和60年3月15日〉Extracorponeal Membrane Oxygeneration (ECMO) for Respiratory Insu妊iciency Toshinari ITAOKA, Kimiaki CHINO, Hideto KANEYASU, Hideki KAIZUKA,
Hidetsugu NAKAJIMA
,
Masayoshi YOKOYAMA and Juro WADA Department of Surgery1 (Direcotr: Prof. ]uro W ADA)Tokyo Women's Medical College Yukio HURUYA and Masao FUJITA Department of Anesthesia(Director: Prof.MasaoFU]lT A)
Tokyo Women's Medical College
Extracorporeal (pumpless) membrane oxygenation with microporous polypropylene hollow fiber lung (Capiox
1
1
,
1.6m2) was used in treating a patient with respiratory distress due to interstitial pneumonitis. Improvements in blood gas data especially elimination of dioxide gas was significant, however the patient could not survive due to bleeding. 緒 言 従来より急性呼吸不全に対する膜型人工心肺に よる補助循環の有用性が言われてきている.最近, 我々は閉塞性呼吸機能障害の肺炎,さらに気管内 出血による急性増悪の症例に対してExtracor -poneal Membrane Oxygeneration C以 下ECMO と略記す〉を行なった1
症例を経験したので報告 する. 症 例 患者:K
.
T
.
76歳,男性. 昭和59年 6月頃より労作時の息切れ・動俸が出 現し,当科外来受診.肺機能検査 C%VC45.9・ FFVl% 56.7)胸部x-P検査にて肺気腫性病変を 主体とした閉塞性呼吸機能障害と,右下肺野の気 管支炎及び肺炎との診断にて入院となった.入院 時曙疾細菌検査にてCorynebacterium SP.,αー -600 streptococcus,
Pseudomonous aeruginosaを 認 めたため抗生剤投与を施行し,約2
週間にて症状 改善をみたため外来観察となった.しかし,その 後も上気道感染を繰り返し昭和60年1月頃より歩 行時にも息切れ,チアノーゼが出現するように なったため加療目的にて同1
月30日当科再入院と なった. 既往歴:昭和37年に肺結核に対する右胸郭形成 術,昭和54年右側気胸に対する胸腔ドレナージ術 をうけている. 今回入院時の臨床検査所見では肺機能・腎機能 に異常を認めなかったが,一般血液学的検査にて 白血球数15700/mm3と増加し,またCRP6.6と炎 症反応所見が認められた.動脈血液ガス検査にて はroomairにてpH7.537,
PC02 40. 7mmHg,
P0252.3mmHg,
HCOa 34. 7mmol/L,
BE 10.8mmo
l/L
であった.一方,胸部レ線所見にては両 下肺野にr
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-
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の異常陰影を 認め (写真1),略疾細菌検査にてP
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をみたため酸素吸入,広域抗生剤投 与,ネブライザーなどの気管拡張剤使用を開始し た.酸素吸入にて末梢四肢のチアノーゼ一時消失 し症状軽快をみたが,第1
0
病日目より胸部レ線像 にて左下肺野異常陰影の増悪化をみ,次第に呼吸 苦を訴えるようになった(写真1
入又,この頃よ り黄色膿性疾とともに血性疾を認めるようになっ た.第1
5
病 日 の 動 脈 血 液 ガ ス 分 析 に てPC02
6
3
写真l 胸部レ線・両下肺野に気管支枝炎及び肺炎像 を認める.P
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pump?
reservolr ? OxygenmmHg
,P0
2
4
2
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8mmHg
と逆転し, さらに尿量 の低下をみたため,ICU
にての呼吸管理を行なっ た.気管内視鏡下の略疾吸引と調節呼吸(
F
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0
2
70%
,RR20
,TV
600mL
,PEEP 5cmH2
0
)
を2
4
時間続けたが,P
a
0
2
5
6
-
7mmHg
,PaC0
2
6
1
.
6
mmHg
と換気障害および頻固な心室性期外収縮 をみたため膜型人工肺使用による補助循環を行な うこととした.ECMO
は約1
0
0
時間行ない一時,意識改善およ び循環動態の安定化をみたが,開始8
0
時間頃より 後鼻腔からの制御出来ない出血が多くなったため1
0
3
時間で中止した.その後,F
i
0
2
100%
にてpH
7
.
2
1
4
,P0
285.4mmHg
,PaC02
74.8mmHg
,BE -
0
.
2
となり次第に徐脈となりECMO
中止後2
時間にて死亡した. 以上の経過を呈した症例をECMO
を中心とし て以下に述べる.ECMO
の方法 右上腿静脈に1
2
F
サイズのカニューレを,左大 腿動脈に9Fサイズのカニューレを経皮的に挿入 し, (1)
A-V
s
h
u
n
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w
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t
h
pump
,(
2
)
V-A s
h
u
n
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pump
,
(
3
)
A-V s
h
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の各々 の回路を作成した(図1).使用した人工肺はテル モ社製C
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1
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2
で、ある(写真2
).又,抗 凝固療法はACT
にて1
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-
2
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0
s
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を保つように, 適時へパリンを使用した.ECMO
中の循環動態 左携骨動脈に2
3
G
カニューレを,右鎖骨下静脈 よ り 肺 動 脈 ま でS
w
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-
G
a
n
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カテーテルを挿入P
A
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4
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? Oxygen 図1 ECMO回路・右図ーポンプ使用回路 (高流量用) 左図-A-Vシャント周囲路 (低流量用〉写真2 ECMO回路 (A・Vshunt)・大腿動・静脈に Selginger法にて各々9F,12Fサイズのカニューレ 挿入しCapioxII1.6m2 (人工肺〉に装着した. し,動脈圧(AOP),肺動脈圧 (PAP),肺動脈模 入圧(PAW),中心静脈圧(RAP)を測定し,又, 熱希釈法により心拍出量 (CO)を,また人工肺流 量は電磁流量計にて経時的に測定記録した. 補助循環開始直後の2時聞は,ポンプ使用によ るA・Vパイパス, V-Aノミイパスを行なっている が各々最大流量は0.84L/min,0.78L/minで,そ れぞれ心拍出量の18%,15%であった.その後 A-V shuntによるポンプを使用としない補助循環を 継続して行っているが, CO 5 .10
:
t
1. 06(mean:
t
SD, n=15) L/minに対してシャント流量0.31:
t
0.05(mean士SD,n=15) L/minとなり, 平均約 6.1%のシャント流量を生じた.一方, V-Aパイパ スにてはAOP183/108(123)mmHgとなり,後負 荷を認めた.A-V shuntにては約100時間補助循環 を行なっているが,著明な血行動態能は認められ なかったが, ECM080時 間後 よ り PAP上昇, CO・AOP及びPAW低下傾向がみられてきた(図 2 ). ECMO中の血液ガス分析所見ECMO開始前, Pa0256. 7mmHg, PaC02 61.6 mmHgと酸素・二酸化炭素ガス分圧の逆転があ
り,意識低下を認めたがECMO開始直後より
Pa02 56.5mmHg
,
PaC02 48.2mmHg (ECMO流量0.15L/min)となり,呼吸苦悶様症状も軽快
してきた.また, A-V shunt中はpH7.512
:
t
0.07(mean士SD
,
n=20),
PaC02 53.5士8.96mmHg(mean
:
t
SD,
n=20),
BE 15.7:
t
2.68mmol/L(mean
:
t
SD,
n=20),
HCO"341. 7:
t
2.66mmol/Lとなり,慢性呼吸性アシドーシスに代謝性アルカ ローシスが合併した状態であった(図3). ECMO中の酸素供給量は,人工肺は8.16
:
t
2.21 mmHg 200傷後後物~
~~ç殉íõ
務後後後~
L/min 8 100o
r A.V wlthPump r V.A馴thPump I- A.V馴thoutPump 6 4 2o
K.T. 76 y-o. Male(14-16. Feb. 1965) 図2 ECMO中の循環動態・A-Vシ ャ ン ト 法 に て は 人 工 肺 流 量 は 体 循 環 流 量 の 6.1%であった.-602-mmHg 200 100 F10,70 RR 22 OJTV 600
o
65 90 24 26 800 20 (14/Feb 14・) 70 23 盟E 40 10日 60 80 100 PH BE __ [""+20 +10 O -10 K.T. 76 y-o.Male(14~18. Feb. 1985) 図3 動脈血液ガス所見:慢性呼吸性アシドーシスに代謝性アルカリローシスの合併 した状態であった. mmHg 200ヨ
100 a O PaO,
mL/min 400 300o
x、
=
0'0. 200~o
叩 〈 叩 幅 、 、〈ん一日初均一一一戸一一一一辺
LO D02(ECMO)o
20 40 60 80 100hrs K.T.76γ・o.Male(14~18 . Feb. 1985) 図4 ECMO中の酸素供給量:A-Vシャント法によるECMOでは,酸素供給量(Do2ECMO)は,自己肺の4%で少なかった. mL/min (mean土SD,n=15)となり自己肺によ る203
:
t
95.1mL/min (mean:
t
SD,
n= 15)と比べ
4 %にすぎなかった(図4).一方, ECMO中の二 酸化炭素推移にて検討してみると, PaC02はほぼ 自己肺前後の動・静脈血TC02較差xCOの変化 と同様に推移し,特にECMO開始後30時間まで は体内にTC02蓄 積 さ れ る と PaC02が上昇する 傾向がみられた.しかし ,ECMOにより持続的に 1.97:
t
0.74mmoL/minのTC02が 体 外 に 排 世 さ れていた(図5入
考 察 急性呼吸不全(AR
I)に対する膜型人工肺による 補助循環(ECMO)の応用は1972年Hillが事故後 のshocklungに対して成功例を報告1)して以来, 多 数 の 報 告 を み る が , 米 国 のNational Heart Lung and Blood Institute (NHLBI)のECMO傷後務後援問
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級 協 後 物
mmoL/min mmHg 100. r+20 +10F 〈 PaCO,
M n O→
lFkxpι弓。~
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寸1 0 -・
ECMODA.v Tco"Xf -10一 ロ ロLungDA.v Tco"xCO 一一20 O 20 40 60 80 1凹K
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76y・o
.
Male(14~18. Feb. 1985) 図5 ECMO中の二酸化炭素ガスの推移・血禁中のTC02にて二酸化炭素ガスの推移を検討したが, A-Vシ ャ ン ト 法 のECMOにより1.97:1:0.74mmol/min(王寺44mL/ min)が持続的に排浩されている. を併用した呼吸管理と,従来からの人工呼吸法を 中心とした呼吸管理との成績の聞には有意差がな いとの報告2Lおよび死亡率が80%以上であるか4) との点より,近年広くは施行されていない.しか し,従来施行される適応としては,急性例として 100% O2使 用
,
5cmH20 の PEEPでPa0250Before ECMO
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附 … 官J
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ECMO
A8S〆02/1503:22円3:14 ECGト-tR:B6llwmli!!!!
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K.T.76γ・
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Male (
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)
図6 ECMO前後の心電図:ECMO前 CBeforeECMO)では頻固なる心室性期外収 縮 (PVG)をみたが, ECMO後(AfterECMO)では消失した.
mmHg以下が 2時間以上続いた例,慢性例では 60%U2使用下, 5cmH2u PEEPで12時 間 以 上 Pa02が50mmHg以下2)というような重症呼吸不 全例に対してであったため,予後不良のものと考 えられた.さらに,最近では microporousmem. braneを用いた hollowfiber型人工肺が開発明)さ れ, ECMOの可能性が再度注目されてきている. 特に最近では,軽症の呼吸不全症例に使用し CO2 を除去し,呼吸回数を1分間数回にとどめ,肺を 一時休めて症状の改善を計り成功した例も報告7) されている. 今回我々の経験した症例は,肺炎により肺気腫 を主体とした混合性呼吸機能障害 CHugh.Jones 分類4度〉をきたした急性呼吸不全に,大腿動静 脈穿刺法による ECMOを行なったものである. 当症例は Fi021.0にて Pa02100mmHg以上確保 出来るが,過換気によっても CO2排世が出来ず, 意識レベル低下,不整脈出現をみたため ECMば
10
の適応ありと考えられた(図6)入.実際A による ECMO~にこては,人工肺流量は心拍出量の 平 均6.1%で,酸素供給能も自己肺の 4 %にすぎ ず,充分量の酸素供給はできなかったが CO2排世 に対しては,人工肺より 1.97mmol/min以上の CO2が体外に持続的に排、世されていた.すなわち, 当症例のごとく肺性心を呈して,右心室への著明 な 前 負 荷 の か け ら れ な い 症 例 に 対 し て は,V.V shuntによる ECMOの呼吸管理の併用が有効で あるものと考えられた. また,この症例は ECMO開始前より気管内出 血をみたため抗凝固療法は ACT値 150-200sec8) に維持するようにしたが, EC'lviO施行中の経鼻気 管内挿管チューブ交換時の後鼻腔損傷による出血 がみられ,今後へパリン使用中の気道確保はより 出血の少ない方法で行なうべきものと考えさせら れた. 文 献 1)Hill,
J.H.: Acute respiratory insu伍ciency. Treatment with prolonged extracorporeal oxygenation. J Thorac Cardiovasc Surg 64 556 (1972)2) National Heart, Lung and Blood Institute, Division of Lung Disease: Extracorporeal support for respiratory insu伍ciency. A col噂 laborative study in response to RFR.NHLT.73. 20, p390 NIH (1979) 3) Hill