• 検索結果がありません。

鳥居龍蔵の古代研究:『人類學上より見たる上代の文化(1)』の分析を通して

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "鳥居龍蔵の古代研究:『人類學上より見たる上代の文化(1)』の分析を通して"

Copied!
25
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

一 . 問 題 の 所 在   あ る 研 究 対 象 が 存 在 す る と 仮 定 し よ う 。 研 究 者 は 、 か か る 研 究 対 象 に 対 し て 、 特 定 の 研 究 ア プ ロ ー チ に よ っ て 接 近 す る 。 こ の 種 の 研 究 ア プ ロ ー チ に 接 近 す る 方 法 ・ 手 段 に よ っ て 、 研 究 対 象 が 歴 史 学 、 社 会 学 、 地 理 学 な ど の 各 々 独 立 し た 学 問 分 野 の 研 究 と 看 做 さ れ る の で あ る 。 一 般 論 と し て は 、 学 問 分 野 が 明 確 に 特 定 で き な い 研 究 は 、 学 問 的 な 意 味 に お い て 、 研 究 と は い え な い の で あ る ( 1 ) 。 す な わ ち 、 こ の 点 が 、 研 究 者 の 作 成 に よ る 論 文 と 、 好 事 家 な ど の 執 筆 に よ る エ ッ セ イ と の 決 定 的 な 相 違 で あ る と い え る 。 本 稿 の 研 究 対 象 で あ る 鳥 居 龍 藏 の 場 合 、研 究 者 と し て は 多 く な い が 、特 定 の 学 問 分 野 の ア プ ロ ー チ の み な ら ず 、 研 究 対 象 を 解 明 す る に は 最 適 と 考 え ら れ る 他 の 学 問 分 野 の 研 究 ア プ ロ ー チ も 積 極 的 に 使 用 し 、 研 究 を 展 開 し た 。 本 稿 が 研 究 対 象 の 中 心 と す る 『 人 類 學 上 よ り 見 た る 上 代 の 文 化 ( 1 )』 ( 以 下 本 書 と 省 略 す る ) は 、 こ の よ う な 、 い わ ば 学 際 的 研 究 の 成 果 と 看 做 さ れ る 著 作 で あ る 。   『 人 類 學 上 よ り 見 た る 上 代 の 文 化 ( 1 )』 は 、 上 代 を 研 究 対 象 と し た 歴 史 書 と 位 置 づ け ら れ る 。 し か し な が ら 、 本 書 の 研 究 ア プ ロ ー チ に 関 し て は 、 日 本 史 を 中 心 と す る 歴 史 学 の み な ら ず 、 専 門 と す る 人 類 学 、 考 古 学 、 さ ら に は 地 理 学 ( 2 ) な ど の 研 究 方 法 ・ 手 段 を 活 用 し て 研 究 を 実 施 し て き た 。 そ れ 故 、 本 書 は 、 典 型 的 な 学 際 的 研 究 の 成 果 に 基 づ い た 著 作 と い え る 。   以 上 論 じ た 点 こ そ が 、 他 の 著 書 に み ら れ な い 鳥 居 龍 藏 の 著 作 の 大 き な 特 徴 な の で あ る 。 こ の 点 に 関 し て は 、 近 年 と り わ け 学 問 の 細 分 化 現 象 が 顕 著 に み ら れ 、 い わ ゆ る 「 蛸 壺 」 型 研 究 が 多 数 を 占 め て い る 状 況 に お い て 、 余 り 返 り み ら れ な い 研 究 方 法 ・ 手 段 を 用 い た 著 作 と い え よ う 。 し か も 、 こ の よ う な 学 問 的 状 況 に お い て 、 例 え ば 、 柳 田 國 男 や 南 方 熊 楠 の 著 書 が 現 在 で も 一 定 の 読 者 を 獲 得 し 、 学 術 上 か ら も 非 常 に 高 く 評 価 さ れ て い る の は 、 こ れ ら 両 名 の 研 究 ア プ ロ ー チ が 、 前 者 の 柳 田 國 男 で は 民 俗 学 を 主 体 に 社 会 学 、 言 語 学 、 国 文 学 な ど 、 後 者 の 南 方 熊 楠 に 関 し て は 専 門 と す る 植 物 学 、 さ ら に は 民 族 学 ( 文 化 人 類 学 )、 民 俗 学 、 言 語 学 な ど 広 範 囲 に 渡 る 、 関 連 諸 学 問 分 野 に 跨 が る 学 際 的 研 究 で あ る か ら と 推 察 で き る ( 3 ) 。 そ れ 故 、 現 在 に お い て 、 柳 田 國 男 や 南 方 熊 楠 同 様 、 鳥 居 龍 藏 に つ い て も 学 術 上 高 く 評 価 さ れ る べ き で あ る と 考 え る 。 に も か か わ ら ず 、 前 二 者 に 比 べ て 、 鳥 居 龍 藏 だ け が 長 ら く 研 究 者 に よ っ て 等 閑 視 さ れ 続 け て き た 。 そ の 理 由 は 、 拙 著 ( 田 畑 二 〇 〇 七 : iii― vi) で も 指 摘 し た こ と が あ っ た が 、

鳥居龍蔵の古代研究

 

―『人類學上より見たる上代の文化(1)

』の分析を通して―

 

 

 

 

(2)

本 稿 の 論 旨 と 深 く 関 連 し て い る と 看 做 さ れ る 。 そ こ で 、 こ の 点 に つ い て 、 簡 潔 に 補 足 し て お く 。   鳥 居 龍 藏 の 研 究 業 績 が 一 般 に 高 い 学 術 的 評 価 を 受 け る こ と が ほ と ん ど な く 、 等 閑 視 さ れ 続 け て き た の は 、 次 の よ う な 理 由 か ら で あ る と 推 定 さ れ る ( 4 ) 。 す な わ ち 、 鳥 居 龍 藏 が 調 査 ・ 研 究 を 集 中 的 に 実 施 し た 時 期 が 日 本 の 大 陸 侵 略 と ほ ぼ 一 致 し て い た こ と に 起 因 す る 。 つ ま り 、 時 代 的 な 制 約 が あ っ た と は い え 、 鳥 居 龍 藏 の 海 外 で の フ ィ ー ル ド サ ー ヴ ェ イ ( field survey ) の 主 要 な 研 究 対 象 地 域 が 、 例 え ば 、 台 湾 や 満 州 ( 中 国 東 北 地 区 ) な ど に 代 表 さ れ る よ う に 、 日 本 が 植 民 地 に し た り 、侵 略 し た 地 域 で あ る と い う 史 実 が 存 在 す る か ら で あ る 。 こ の こ と か ら 、 一 部 の 歴 史 研 究 者 な ど か ら 鳥 居 龍 藏 の 調 査 ・ 研 究 は 、 旧 日 本 軍 の 全 面 的 な 協 力 の 下 に 実 施 さ れ た 。 つ ま り 、 鳥 居 龍 藏 は 戦 争 協 力 者 で あ る と い う 流 言 が 広 ま っ た 。 そ の た め 、 歴 史 学 研 究 者 を 中 心 に 、 鳥 居 龍 藏 の 研 究 が 無 視 さ れ 続 け る こ と に な っ た ( 5 ) 。 か よ う な 傾 向 は 現 在 で も 続 い て い る 。   す な わ ち 、 現 在 に お い て 鳥 居 龍 藏 が 高 く 評 価 さ れ て い る の は 、 東 京 大 学 総 合 研 究 資 料 館 ( 一 九 九 〇 年 )、 国 立 民 族 学 博 物 館 ( 一 九 九 三 年 ) な ど の 資 料 館 や 博 物 館 に お い て 、特 別 展 と し て 展 示 さ れ て い る 、 収 集 し た 生 活 用 具 ( 民 具 ) や 撮 影 し た 写 真 だ け で あ り 、 研 究 業 績 に 関 し て は 依 然 と し て 無 視 さ れ て い る の で あ る 。 つ ま り 、 鳥 居 龍 藏 の 研 究 に 対 す る 学 術 的 な 評 価 が な さ れ て い な い と い っ て も 過 言 で は な い 。 筆 者 は 、 こ の 点 を 克 服 す る 目 的 で 、 鳥 居 龍 藏 に 関 す る 既 存 の 論 攷 な ど を 中 心 に 収 録 し た 上 述 の 2 冊 の 著 作 の 出 版 後 、さ ら に 論 攷( 田 畑 二 〇 一 三 、 同 二 〇 一 四 a ・ b 、 同 二 〇 一 五 ) を 作 成 し 、 そ の 研 究 成 果 を 世 に 問 う て き た 。 本 稿 も 、 こ れ ら 一 連 の 拙 論 と 同 様 の 主 旨 で 論 を 展 開 し て い る 。 二 . 古 代 の 三 区 分   『 人 類 學 上 よ り 見 た る 上 代 の 文 化 ( 1 )』 の 分 析 ・ 検 討 に 入 る 前 に 、 本 稿 の 論 題 の 一 部 に な っ て い る 古 代 と い う 歴 史 的 な 概 念 す な わ ち 用 語 に つ い て 考 察 し て お き た い 。 と い う の は 、 本 稿 の 副 題 で も あ る 鳥 居 龍 藏 の 著 作 に お い て は 、か か る 書 名 の 一 部 に 「 古 代 」 に 相 当 す る 、 概 念 す な わ ち 用 語 と し て 「 上 代 」 が 使 用 さ れ て い る か ら で あ る 。 上 代 と い う 概 念 す な わ ち 用 語 は 、鳥 居 龍 藏 の 著 作 お よ び 論 攷 の 中 で は 、 と く に 意 識 し て 用 い ら れ て い る 概 念 す な わ ち 用 語 だ か ら で あ る 。 そ の た め 、 本 書 に お い て も 上 代 が 書 名 の 一 部 と し て 用 い ら れ て い る の で あ る 。   鳥 居 龍 藏 に よ れ ば 、 人 類 学 、 人 種 学 ( 6 ) 、 文 化 史 学 な ど を 専 門 学 問 分 野 と す る 研 究 は 、 以 下 で 論 じ る 如 く 、 民 族 の 歴 史 を 三 時 代 に 区 分 す る の が 一 般 的 で あ る と い う ( 鳥 居 一 九 一 七   同 一 九 七 五 : 一 七 四 ― 一 七 七 )。 そ の 時 代 区 分 と は 、 古 い 時 代 か ら 有 史 以 前 ( Prehistoric ) 原 史 時 代 ( Protohistoric )、 歴 史 時 代 ( Historic ) で あ る ( 第 一 表 )。   第 一 表 か ら 判 明 す る よ う に 、 有 史 以 前 は 、 歴 史 と し て の 学 問 的 な 記 載 や 口 碑 伝 説 が 皆 無 の 時 代 で あ る 。 従 来 で は 、「 書 契 以 前 の 事 知

(3)

る べ か ら ず 」 と い わ れ た よ う に 、 知 る こ と は ま っ た く 出 来 な い 時 代 で あ っ た 。 そ れ 故 、 基 本 的 に は 、 文 献 つ ま り 文 字 資 料 か ら の 分 析 ・ 検 討 に よ っ て 構 成 ・ 復 元 す る 、 歴 史 学 プ ロ パ ー で は 研 究 の 対 象 と な ら な か っ た 。 ま た 、 こ の 時 代 は 歴 史 学 で は 先 史 時 代 と 称 さ れ る こ と が 多 か っ た 。 し か し な が ら 、 鳥 居 龍 藏 の 歴 史 研 究 の ア プ ロ ー チ は 、 上 述 し た 如 く 、 歴 史 学 の み な ら ず 、 関 連 諸 学 問 分 野 と 看 做 さ れ る 人 類 学 、 考 古 学 、 地 理 学 な ど の 研 究 方 法 ・ 手 段 を 取 り 入 れ た 学 際 的 研 究 を 特 色 と し て い た 。 そ の た め 、 こ の 時 代 の 研 究 も 可 能 で あ っ た ( 7 ) 。 こ の 時 代 は 、 日 本 最 古 の 歴 史 書 と さ れ る 『 記 ・ 紀 』 以 前 の こ と な の で 、 分 か ら な い と さ れ て き た が 、 例 え ば 、 貝 塚 な ど 遺 跡 ・ 遺 物 の 出 土 状 況 か ら 、 有 史 以 前 の こ と も 次 第 に 詳 細 が 解 明 さ れ つ つ あ る 。 鳥 居 龍 藏 は 、 こ の 時 代 の 日 本 列 島 の 住 民 は 、 ア イ ヌ お よ び 「 固 有 日 本 人 ( 8 ) 」 で あ る と し 、 前 者 の ア イ ヌ の 方 が 古 く か ら 日 本 列 島 に 居 住 し て い た と 推 定 し た ( 9 ) ( 鳥 居 一 九 一 七   同 一 九 七 五 : 一 七 六 )。 な お 、 こ の 時 代 に 関 し て は 、 非 常 に 詳 細 な 分 析 ・ 検 討 を 加 え た 力 作 ( 鳥 居 一 九 二 五 ・ a 、 同 一 九 七 五 : 一 六 七 ― 四 五 三 ) を 出 版 し て い る 。   続 く 歴 史 時 代 は 、『 記 ・ 紀 』 の 神 代 記 に 登 場 す る 伝 説 神 話 の 時 代 が 中 心 に な る 。 こ の 時 代 は 、 記 録 ( 文 献 史 料 ) の 具 備 が な い 時 代 で あ り 、 わ が 国 で い え ば 古 墳 時 代 が ほ ぼ 該 当 す る 。 勾 玉 や 管 玉 を 装 飾 品 と し て 用 い 、 鉄 器 を は じ め と す る 金 属 器 、 さ ら に は 鏡 の 使 用 な ど も み ら れ た 。   最 後 の 歴 史 時 代 は 、 記 録 ( 文 献 史 料 ) の 存 在 が 明 確 に 確 認 さ れ る 時 代 で あ る 。 具 体 的 に い え ば 、 古 文 書 に 代 表 さ れ る 文 献 史 料 が 具 備 さ れ 、 か よ う な 文 献 史 料 を 分 析 ・ 検 討 す る 作 業 を 通 し て 、 史 料 に 基 づ く 歴 史 が 明 ら か に な っ た 。 こ の よ う な 作 業 に 従 事 す る の が 狭 義 の 歴 史 学 プ ロ パ ー 、 つ ま り 歴 史 学 研 究 者 で あ っ た 。 こ の 時 代 に な る と 奈 良 に 都 を 置 く 大 和 王 朝 が 成 立 す る な ど し て 、 日 本 も 国 家 と し て の 体 裁 が 確 立 し た 。   以 上 の 三 時 代 の 区 分 の 中 で 、 上 述 し た 原 史 時 代 が 、 本 稿 の 論 題 の 一 部 と な っ て い る 上 代 に 相 当 す る 。 鳥 居 龍 藏 は 、 原 史 時 代 を 上 代 と 称 す る 理 由 は 述 べ て い な い )(1 ( 。 た だ 、 本 書 の 序 言 冒 頭 の 部 分 で 「 私 の 上 代 と 云 ふ の は 全 く 原 史 時 代 ( Protohistoric ) の こ と で あ っ て 卽 ち 這 は 主 と し て 曲 玉 ・ 管 玉 等 を 佩 用 し 、 髙 塚 を 築 造 し た 時 代 )(( ( 」 と 述 べ て い る の み で あ る 。 な お 、 有 史 以 前 に 関 し て は 、 本 書 同 様 に 詳 し い 第一表   古代の時代区分 時   代 特   色 研究対象 主要集団 有史以前 歴 史 な く、 門 碑 伝 説 な き 時代(石器時代) 貝塚、 遺跡 (石器) アイヌ 固有日本人 原史時代 伝 説 神 話 の 時 代。 曲 玉、 管 玉 な ど 装 飾 具、 金 属 器、 鏡を使用 『 記 紀 』 の 時代 天皇の祖先 歴史時代 記 録( 文 書 ) を 具 備、 歴 史が明らかになった時代 文書 大和民族 〔出所〕 鳥居龍藏(一九一七) 、鳥居龍藏(一九七五) :『鳥居龍藏全集 第一巻』 朝日新聞社一七一―一七五頁より抽出作成。

(4)

分 析 ・ 検 証 を 加 え た 著 作 ( 鳥 居 一 九 二 五 ・ a 、 同 一 九 七 五 : 一 六 七 ― 四 五 三 ) を 出 版 し て い る 。 三 .『 人 類 學 上 よ り 見 た る 上 代 の 文 化 ( 1 )』 の 位 置 づ け と そ の 構 成 ( 一 ) 位 置 づ け   鳥 居 龍 藏 は 、 歴 史 と り わ け 古 代 史 に 強 く 興 味 ・ 関 心 を 有 し て い た 。 し か し な が ら 、 鳥 居 龍 藏 の 古 代 史 に 対 す る 興 味 ・ 関 心 は 古 代 史 を 研 究 す る 、 多 く の 歴 史 学 研 究 者 と は 異 な っ た 面 が 存 在 し た 。 そ の 第 一 は 、 前 項 で 論 じ た 如 く 、 古 代 に 関 す る 区 分 つ ま り 時 代 区 分 に つ い て で あ っ た 。 日 本 を 筆 頭 に 、 歴 史 学 に お い て 、 古 代 史 は 一 般 に 二 分 さ れ る 。 理 由 と し て は 、 文 字 の 有 無 が 基 準 と さ れ る か ら で あ る )(1 ( 。   前 者 の 文 字 を 有 し て い な い 時 代 に お い て 、 歴 史 学 で は 研 究 対 象 の 中 心 が 遺 跡 の 発 見 ・ 発 掘 と な る 。 つ ま り 、 遺 跡 か ら 出 土 し た 石 器 や 土 器 類 に よ っ て 、 年 代 の 編 年 さ ら に は こ れ ら の 石 器 や 土 器 類 が 使 用 さ れ て い た 時 代 の 復 元 が 行 な わ れ る 。 後 者 の 文 字 を 有 す る 時 代 に お い て は 、 当 時 に 書 か れ た 文 字 資 料 す な わ ち 古 文 書 を 解 読 ・ 分 析 す る こ と に よ っ て 、 そ の 時 代 の 特 徴 を 解 明 し よ う と す る 。 そ れ 故 、 前 者 で は 、 出 土 す る 石 器 類 が 研 究 主 体 と な る こ と か ら 石 器 時 代 、 後 者 で は 残 存 す る 文 字 史 料 か ら 、 詳 細 か つ 正 確 な 当 時 の 歴 史 が 復 元 可 能 で あ る と い う 意 味 か ら 歴 史 時 代 )(1 ( と 称 さ れ て い る 。 石 器 時 代 は 歴 史 時 代 に 先 行 す る 時 代 と さ れ 、 歴 史 時 代 の 研 究 こ そ が 古 代 研 究 の 中 心 で あ る と い う 立 場 が 長 い 間 続 い た )(1 ( 。   そ の 第 二 は 、 古 代 を 研 究 対 象 と す る 学 問 分 野 に 関 し て で あ る 。 一 般 に 古 代 を 主 要 な 研 究 対 象 と し て い る 学 問 分 野 と い え ば 、 古 代 史 と い う 用 語 が 直 ち に 念 頭 に 浮 か ぶ よ う に 、 歴 史 学 が 挙 げ ら れ る 。 し か し な が ら 、 古 代 を 研 究 す る の は 、 考 古 学 も そ の 一 つ の 部 門 と す る 歴 史 学 の み で は な い 。 他 の 学 問 分 野 も 研 究 対 象 と し て い る 。 人 類 学 )(1 ( ( Anthropology ) も 主 要 な 研 究 対 象 の 一 員 と 看 做 す こ と が で き る 。 理 由 と し て 、 古 代 を 含 む 歴 史 は 人 間 が 創 造 し て き た か ら で あ る 。 そ れ 故 、 歴 史 の 主 体 は 人 間 で あ る と い え る の で 、 人 間 を 総 合 的 に 研 究 す る こ と を 目 的 と す る 人 類 学 と り わ け 自 然 あ る い は 形 質 人 類 学 も 研 究 対 象 と す る 資 格 を 有 す る こ と に な る 。 こ の こ と か ら 、 鳥 居 龍 藏 は 古 代 研 究 に 多 大 の 興 味 ・ 関 心 を も つ こ と に な っ た の で あ る 。   鳥 居 龍 藏 の 古 代 研 究 の 特 徴 は 、 考 古 学 が 研 究 対 象 と す る 遺 跡 の み な ら ず 、 か か る 遺 跡 を 残 し た 集 団 、 す な わ ち 当 時 の 人 間 が 主 要 な 研 究 対 象 と さ れ て き た 。 こ の 点 が 、 遺 跡 お よ び そ こ か ら 出 土 し た 石 器 や 土 器 類 、 あ る い は 残 さ れ た 文 書 ( 古 文 書 ) の 解 読 が 主 体 と な る 歴 史 学 と で は 、 異 な る 次 元 の 研 究 対 象 と い え よ う 。 こ の よ う に 研 究 対 象 が 明 確 に 異 な る と い う 研 究 視 角 こ そ が 、 鳥 居 龍 藏 の 歴 史 認 識 で あ り 、 古 代 研 究 の 特 徴 で あ る 。 本 稿 で と り あ げ た 鳥 居 龍 藏 の 著 作 は 、 こ の よ う な 研 究 視 角 が 大 き く 前 面 に 出 た 、 典 型 的 な 著 作 で あ る 。 そ れ 故 、 上 代 す な わ ち 原 史 時 代 の 著 作 で あ る に も か か わ ら ず 、 遺 跡 か ら 出 土 し た 石 器 や 土 器 類 の 遺 物 自 体 に 関 す る 分 析 ・ 検 討 が ほ と ん ど な さ れ て い な い の で あ る 。 こ の こ と は 、 本 著 作 の 書 名 『 人 類 學 上 よ

(5)

り 見 た る 上 代 の 文 化 ( 1 )』 に み ら れ る 如 く 、 上 代 す な わ ち 原 史 時 代 を 主 要 な 研 究 対 象 と す る に も か か わ ら ず 、「 歴 史 学 」 プ ロ パ ー の 著 作 で は な く 、「 人 類 学 」 の 著 書 で あ る と い う 性 格 が 強 い 、 つ ま り 、 本 書 は 、 歴 史 ( 古 代 史 ) の 1 つ の 時 代 を あ つ か っ た 著 書 で あ る が 、 人 類 学 と り わ け 文 化 人 類 学 の 著 作 と し て 位 置 づ け る こ と が で き る 。   な お 、鳥 居 龍 藏 が 上 代 に 非 常 に 強 い 関 心 を 抱 い た 他 の 理 由 と し て 、 以 下 の こ と が 挙 げ ら れ る 。 す な わ ち 、 日 本 民 族 の 起 源 に 関 す る 代 表 的 な 論 争 で あ る ア イ ヌ = コ ロ ボ ( ポ ) ッ ク ル 論 争 に 関 し て 、 恩 師 坪 井 正 五 郎 が コ ロ ボ ( ポ ) ッ ク ル 説 を 主 唱 し た こ と に 関 連 し て 、「 固 有 日 本 人 」説 を 展 開 し た こ と で あ る )(1 ( 。こ の 論 争 に 参 加 す る こ と に よ っ て 、 よ り 人 類 学 研 究 の 重 要 性 を 認 識 し た よ う に 思 わ れ る 。 ( 二 ) そ の 構 成   前 項 で や や 詳 細 に 、 古 代 研 究 と り わ け 上 代 研 究 に 関 す る 鳥 居 龍 藏 の 研 究 手 法 を 、 位 置 づ け と い う キ ー ワ ー ド を 用 い て 論 を 展 開 し た 。 そ の 結 果 、 本 書 の 研 究 対 象 時 代 で あ る 上 代 と は 、 歴 史 時 代 の 一 つ の 時 代 ( 時 期 ) で あ る が 、 歴 史 学 的 手 法 の み に 依 拠 し な く て も 、 充 分 に 研 究 し う る こ と を 論 証 し た の で あ っ た 。 こ の 点 に 関 し て は 、 鳥 居 龍 藏 自 身 が 歴 史 学 プ ロ パ ー の 研 究 者 で な く 、 人 類 学 を 中 心 と し た 学 問 分 野 の 研 究 者 で あ る こ と も 、 大 い に 関 係 し て い る と 考 え ら れ る 。 そ れ 故 、本 書 の 書 名 の 末 語 に「 上 代 の 文 化 」と 付 け ら れ て い る よ う に 、 歴 史 学 プ ロ パ ー の 著 作 で は な い と い う 意 味 を こ め て 、「 文 化 」 と い う 用 語 を 加 え た も の と 推 察 で き る 。 以 下 で は 、 か よ う な 研 究 上 の 特 色 を 存 す る 本 書 の 構 成 に つ い て 、 論 じ て い く こ と に す る )(1 ( 。 鳥 居 龍 藏 の 古 代 研 究 を 正 当 に 理 解 す る た め に は 、 鳥 居 龍 藏 の 考 え る 、 上 代 と い う 時 代 の 全 体 像 を 把 握 す る こ と が 必 要 で あ り 、 そ の 出 発 点 と な る と 推 察 で き る か ら で あ る 。   本 書 は 、 大 正 一 三 年 ( 一 九 二 四 ) か ら 翌 一 四 年 ( 一 九 二 五 ) に か け て 、 国 学 院 大 学 で 講 述 さ れ た 講 本 す な わ ち 講 義 ノ ー ト に 手 を 加 え て 出 版 さ れ た )(1 ( 。 こ の よ う な 講 本 の 出 版 自 体 は 日 本 で は 非 常 に 稀 な こ と と さ れ た 。 大 学 に お い て 講 義 を 担 当 す る 大 学 教 授 は 、 こ の 種 の 講 本 を 公 開 す る こ と を 隠 す 傾 向 が み ら れ る か ら で あ る 。 鳥 居 龍 藏 は 、 こ う し た 傾 向 が 研 究 者 で あ る 学 者 と し て 誠 に 不 見 識 な こ と で あ る と 強 く 主 張 す る 。 講 本 す な わ ち 講 義 内 容 を 世 に 問 う こ と こ そ が 、 研 究 者 の 責 任 で あ り 務 め で あ る と い う 。 欧 ・ 米 に お い て は 、 大 学 で 講 義 し た 内 容 を 綴 っ た 講 本 を 公 開 し 、 出 版 す る こ と が 非 常 に 多 い 。 こ の 点 が 、 本 書 出 版 と 同 年 度 ( 一 九 二 五 ) に 出 版 さ れ た 、 有 史 以 前 に つ い て の 著 作 ( 鳥 居 一 九 二 五 ・ a ) )(1 ( が 講 義 内 容 を 綴 っ た 講 本 で は な く 、 既 論 文 な ど を 再 編 集 し た 研 究 書 と し て の 性 格 を 有 し て い る の で 、 異 な っ て い る 。 と は い う も の の 、 本 書 は 上 代 す な わ ち 原 史 時 代 を 対 象 と し て い る こ と か ら 、 こ れ ら 両 書 を 合 わ せ る と 有 史 以 前 お よ び 上 代 が 研 究 対 象 の 時 代 ( 時 期 ) と な る 。 つ ま り 、 鳥 居 龍 藏 が 主 唱 す る 古 代 の 三 区 分 の 内 、 二 つ の 時 代 ( 時 期 ) が 分 析 ・ 検 討 さ れ た こ と に な る の で あ る 。 そ の た め 、 鳥 居 龍 藏 の 古 代 研 究 を 正 当 に 把 握 し よ う と す れ ば 、 こ れ ら 両 著 の 検 討 が 必 要 と な る 。 し か し 、 既 に 指 摘 し た よ

(6)

う に 、 鳥 居 龍 藏 は 、 古 代 を 歴 史 学 手 法 で 分 析 ・ 検 討 し た の で は な く 、 自 ら の 得 意 と す る 人 類 学 的 手 法 を 用 い て 、 古 代 を 分 析 し 、 解 明 し よ う と し た 。   鳥 居 龍 藏 が 同 年 度 に 出 版 し た 両 著 を 比 較 ・ 検 討 し て み る と 、 有 史 以 前 を 対 象 と し た 著 作 に み ら れ る 主 要 な 特 徴 は 、 自 ら が 強 く 主 張 す る 「 固 有 日 本 人 」 が 有 史 以 前 に 日 本 列 島 に 移 動 し て き た こ と を 、種 々 の 面 か ら 論 証 し て い る 点 に あ る と 推 察 で き る 。 一 方 本 書 は 、 宗 教 的 な 視 点 か ら 日 本 列 島 の 上 代 を 考 証 し た 点 を 特 徴 と し て い る 。そ れ 故 、 本 書 に は 、 文 化 と い う 用 語 が 書 名 の 末 尾 に 加 え ら れ て い る こ と な ど も 考 慮 す れ ば 、 よ り 人 類 学 的 と り わ け 文 化 人 類 学 的 な 手 法 に よ る 考 察 の 比 重 が 大 き い と い え る 。 こ の こ と か ら 、 先 史 を 人 類 学 的 に 論 証 し た 代 表 的 な 書 物 と い え る の で あ る 。   な お 、 鳥 居 龍 藏 は 、 大 正 一 一 年 ( 一 九 二 二 ) に 、 急 死 し た 恩 師 坪 井 正 五 郎 の 跡 を 受 け 、 東 京 帝 国 大 学 理 科 大 学 助 教 授 に 就 任 し 、 第 二 代 人 類 学 教 室 を 主 宰 し た 。 ま た 特 別 に 、 教 授 会 の 出 席 が 認 め ら れ る な ど 将 来 を 有 望 視 さ れ た 。 翌 大 正 一 二 年 に は 、 東 京 帝 国 大 学 助 教 授 の 籍 を 残 し た ま ま 、 国 学 院 大 学 教 授 も 兼 ね る こ と に な っ た 。 し か し 、 大 正 一 三 年 に 東 京 帝 国 大 学 助 教 授 を 辞 職 し た 。 こ の よ う に 、 職 歴 お よ び 研 究 上 の 大 転 換 期 に 本 書 が 出 版 さ れ た こ と も 付 言 し て お き た い 。以 上 述 べ た よ う な 書 物 と し て の 特 徴 を 本 書 は 有 す る の で あ る 。 そ の 本 書 の 構 成 を 検 討 し て い く 。   本 書 は 二 〇 章 か ら 構 成 さ れ て い る が 、 全 体 を 大 き く 二 分 す る こ と が で き る 。 す な わ ち 、 理 論 編 と で も 称 す べ き 第 一 章 か ら 第 一 三 章 ま で と 、 そ の 実 践 あ る い は 応 用 編 と 看 做 さ れ る 、 第 一 四 章 か ら 第 二 〇 章 ま で で あ る 。   本 書 の 理 論 編 お よ び 実 践 編 に は 研 究 上 共 通 点 が 認 め ら れ る 。 そ の 共 通 点 と は 、 上 代 つ ま り 原 史 時 代 を 対 象 と す る 資 料 で あ る 。 上 代 に 関 し て は 、 当 時 の 日 本 人 の 手 に な る 文 字 史 料 が 残 っ て い な い 。 そ こ で 、 一 般 に は 、 こ の 時 代 を 研 究 す る 場 合 、 い わ ゆ る 「 魏 志 倭 人 伝 」 と 呼 ば れ れ て い る 文 献 な ど の 漢 籍 史 料 に 代 表 さ れ る 中 国 人 ( 漢 族 ) に よ っ て 書 か れ た 著 作 や 、 遺 跡 か ら 出 土 し た 遺 物 な ど が 史 料 と し て 利 用 さ れ る こ と に な る 。 し か し な が ら 、前 者 の 漢 籍 史 料 に 関 し て は 、 記 載 例 が 非 常 に 少 な い こ と か ら 、 後 者 の 遺 物 な ど 考 古 学 的 史 料 を 中 心 に 研 究 が 進 め ら れ て き た 。 鳥 居 龍 藏 は 、 既 に 指 摘 し た よ う に 、 考 古 学 に も 非 常 に 造 詣 が 深 か い 研 究 者 で あ る 。 そ れ に も か か わ ら ず 、 著 書 に お い て は 、 考 古 学 的 資 料 を 排 除 し て い な い が 、 と く に 理 論 に つ い て は 研 究 手 法 の 中 心 に 置 い て い な か っ た の で あ る 。   研 究 手 法 の 中 心 と な っ た の は 、 成 立 が 後 世 の 八 世 紀 の 初 頭 、 す な わ ち 鳥 居 龍 藏 が 主 唱 す る 歴 史 時 代 ( 前 出 第 一 表 参 照 ) と さ れ る 、『 記 ・ 紀 』 と 略 称 さ れ る 『 古 事 記 』、 『 日 本 書 紀 』 に 記 載 さ れ る 冒 頭 部 分 の 神 話 に 関 し て で あ る 。 鳥 居 龍 藏 は 、『 記 ・ 紀 』 の 成 立 年 代 が 上 代 で は な い が 、 と り わ け 冒 頭 に 置 か れ て い る 神 話 部 分 は 成 立 当 初 の 時 代 の こ と で は な く 、 上 代 に つ い て の 記 載 で あ る と し た 。 そ こ で 、 か か る 神 話 を 読 み 解 い て い く と 、 上 代 の こ と が 正 当 に 理 解 で き る と 看 做

(7)

し た 。 そ れ で は 、 何 故 『 記 ・ 紀 』 の 神 話 部 分 を 読 み 解 け ば 、 上 代 の こ と が 理 解 し う る こ と に な る の で あ ろ う か 。 鳥 居 龍 藏 は 、 上 代 を 次 の よ う に 具 体 的 に 推 定 し て い た 。 す な わ ち 、 上 代 と は 、 八 幡 一 郎 が い う 「 高 塚 を 築 造 し て 基 と し た 時 代 で 、 今 古 墳 時 代 と 呼 ぶ 時 代 に 該 当 」( 八 幡 一 九 七 五 、 鳥 居 一 九 七 五 : 六 三 四 ) で あ る 。『 記 ・ 紀 』 に 登 場 す る 神 話 、 つ ま り 日 本 神 話 は 、 天 皇 一 族 な ど の 祖 先 に つ い て の 、 い わ ゆ る 人 物 神 話 で あ る 。 そ れ 故 、 こ れ ら の 神 話 に 登 場 す る 神 々 を 分 析 ・ 検 討 す る こ と で 、 上 代 の 人 び と の 宗 教 観 が 判 明 す る の で あ る 。 す な わ ち 、 こ の よ う な 宗 教 観 に よ り 成 立 し た の が 上 代 で あ る と 、 鳥 居 龍 藏 は 認 識 し た の で あ る 。 そ し て 、 そ れ を 詳 細 に 論 じ た の が 本 書 の 理 論 編 な の で あ る 。   理 論 編 は 一 三 章 よ り 構 成 さ れ て い る 。 各 章 の 目 次 は 以 下 の 通 り で あ る 。   第 一 章 )11 (   高 天 ヶ 原 の 位 置 と 其 神 々   第 二 章   高 天 ヶ 原 と ト ル コ 人 の 宗 教   第 三 章   高 天 ヶ 原 と 蒙 古 人 ( Buryat ) の 宗 教   第 四 章   高 天 ヶ 原 の 状 態   第 五 章   太 フト 占 マニ ・ 神 カミツトヒ 集 ・ 注 シ 連 メ 繩 ナワ   第 六 章   天 照 大 御 神 と 同 續 尊   第 七 章   上 代 の 女 性   第 八 章   Arctic Hysteria と し て の 清 姫   第 九 章   上 代 人 と 星 神 ・ 素 蓋 鳴 尊 と kalau   第 一 〇 章   夜 見 国 = 底 国 = 根 国   第 一 一 章   『 古 語 拾 遺 』 よ り 見 た る 神 々   第 一 二 章   鏡 の 神 秘 的 な 威 力   第 一 三 章   薩 シ ャーマン 満 教 に つ い て   右 述 し た 目 次 の 各 章 を 参 照 す る と 、 第 一 章 か ら 第 四 章 ま で が 高 天 ヶ 原 に 関 す る 内 容 で あ る と い う 共 通 点 が み ら れ る 。 こ の こ と は 、 鳥 居 龍 藏 の 上 代 研 究 で は 高 天 ヶ 原 が 重 要 な 研 究 上 の 位 置 を 占 め て い る こ と を 示 し て い る 。 こ れ ら の 各 章 に お い て は 、『 記 ・ 紀 』 の 神 代 部 分 を 史 料 と し て 用 い 、 両 著 に み ら れ る 高 天 ヶ 原 の 記 載 が 研 究 対 象 と な る 。 鳥 居 龍 藏 は 、「 神 代 紀 (『 記 ・ 紀 』 の 神 代 部 分 を 指 す ― 筆 者 註 ) に 於 け る 高 天 ヶ 原 の 説 は 、 原 始 宗 教 ・ 原 始 神 道 の 大 切 な 経 典 で あ る 、 … ( 中 略 ) … 天 の 上 に 、 都 ・ 皇 居 な ど の 住 ま う 場 所 が 存 在 す る こ と は 考 え ら れ な い こ と で あ る け れ ど も 、こ れ を 一 種 の 宗 教 観( あ る い は 神 話 ) と 見 れ ば 、 当 時 の 原 始 宗 教 と し て は 更 に 差 し 支 え な い 思 想 で あ る 」 と い う 立 場 、 つ ま り 高 天 ヶ 原 は 、 当 時 す な わ ち 上 代 の 人 び と の 宗 教 観 を 示 し て い る と い え る 。 そ の た め 、 上 代 研 究 に 当 っ て は 、 最 初 に 論 じ な け れ ば な ら な い 重 要 な 項 目 な の で あ る 。   か か る 高 天 ヶ 原 は 、『 記 ・ 紀 』 に お い て は 日 本 神 話 と し て 登 場 す る の で あ る が 、 こ の よ う な 神 話 的 な 世 界 観 は 、 北 東 ア ジ ア に 分 布 ・ 居 住 す る 諸 民 族 の 神 話 と 多 く の 面 で 一 致 す る )1( ( 。 そ れ 故 、 高 天 ヶ 原 を よ り 客 観 的 に 把 握 ・ 理 解 す る た め に も 、 こ れ ら の 諸 民 族 の 神 話 す な わ ち そ の 比 較 を 行 な う こ と が 必 要 と な る 。 そ の 中 で も と り わ け 、 高

(8)

天 ヶ 原 に 関 連 が 深 い と 推 定 さ れ る ト ル コ 人 ( 第 二 章 )、 お よ び 蒙 古 人 ( ブ リ ヤ ー ト モ ン ゴ ル 族 、 第 三 章 ) が そ れ ぞ れ 比 較 ・ 検 討 さ れ る 。 こ れ ら の 他 地 域 の 民 族 に み ら れ る 類 似 し た 神 話 を 比 較 し た う え で 、 高 天 ヶ 原 を 構 成 す る 主 要 な 要 素 で あ る 太 占 ・ 神 集 ・ 注 連 繩 ( 第 五 章 )、 天 照 大 御 神 ・ 月 読 尊 ( 第 六 章 ) な ど が 詳 細 に 分 析 ・ 検 討 さ れ る 。 さ ら に そ の 後 の 各 章 に お い て は 、高 天 ヶ 原 の 宗 教 観 を 踏 ま え た う え で 、 上 代 の 人 び と の 検 討 や 高 天 ヶ 原 と 対 照 さ れ る 夜 見 国 な ど の 分 析 が 続 く 。 そ し て 、 高 天 ヶ 原 に み ら れ る 宗 教 観 は 、 東 北 ア ジ ア の 諸 民 族 に み ら れ る シ ャ ー マ ニ ズ ム で あ る と し 、「 日 本 の 我 々 祖 先 が 信 じ て 居 っ た 宗 教 は シ ャ ー マ ン 教 ( Shamanism ) で あ っ た で あ ろ う 。 少 な く と も シ ャ ー マ ン 教 の 一 種 で あ っ た 」 と 結 論 づ け る 。   第 一 四 章 以 下 の 実 践 編 の 論 文 構 成 は 次 の 通 り で あ る 。   第 一 四 章   上 代 人 の 力 の 信 念   第 一 五 章   上 代 人 の 力 を 発 現 す る 遺 跡 ・ 遺 物   第 一 六 章   巌 イ ツ ベ 瓫 の 神 秘   第 一 七 章   上 代 吾 人 祖 先 の 発 火 法   第 一 八 章   剣 に 関 す る 我 が 上 代 人 の 信 仰   第 一 九 章   鍛 冶 と 鉄 の 文 化   第 二 〇 章   我 が 上 代 の 農 業 と 農 具   右 述 の 各 章 は 理 論 編 を 受 け て 展 開 さ れ る こ と に な る 。 し か し 、 理 論 編 の 中 で も 、 例 え ば 、 第 一 二 章   鏡 の 神 秘 的 威 力 は 、 内 容 的 に は 実 践 編 に 入 れ た 方 が よ い よ う に 思 わ れ る 。 そ れ 故 、 鳥 居 龍 藏 の 意 識 の 中 に は 明 確 に 理 論 編 と 実 践 編 と を 区 分 し て い な か っ た と 推 察 で き る 。 と は い え 、 実 践 編 に 加 え ら れ た 第 一 二 章 は 、『 記 ・ 紀 』 な ど 文 献 に 登 場 す る 神 々 を 中 心 に 論 じ ら れ て い る 。 そ の た め 、第 一 二 章 は 、 上 代 に 関 す る 実 態 の 解 明 と い う 観 点 に 立 て ば 、 理 論 編 に 属 し て い る 点 を 考 慮 し て も 、 大 き な 成 果 が 確 認 で き な か っ た 。 こ の 点 を 解 消 し よ う と 試 み た の が 実 践 編 で あ る 。 つ ま り 、 上 代 の 状 況 を 具 体 的 に 把 握 し 、 解 明 し よ う と す る こ と を 目 的 と し た と い え る 。 そ の 解 明 の 手 法 と し て 用 い ら れ た の が 、 鳥 居 龍 藏 の 専 門 分 野 と も い え る 、 考 古 学 的 資 料 を 駆 使 し た 人 類 学 )11 ( 的 手 法 で あ っ た )11 ( 。   鳥 居 龍 藏 が 本 文 註 ( 23) で 示 し た 六 つ の 異 な る 研 究 方 法 の う ち 、 本 書 の 理 論 編 は 、 ② 童 話 お よ び 神 話 、 ③ 古 典 か ら 入 手 し た 資 料 を 主 体 に し た 分 析 ・ 検 討 で あ り 、 実 践 編 は 、 ④ 考 古 学 、 ⑤ 土 俗 学 の 研 究 手 法 を 主 と し て 使 用 し た 分 析 ・ 検 討 で あ る と い え る 。   第 一 四 章 お よ び 第 一 五 章 で は 、 章 題 の 一 部 に 「 上 代 の 力 」 が 付 け ら れ て お り 、共 通 し て い る 。 こ れ ら の 章 題 に 付 け ら れ て い る 力 と は 、 「 そ の 子 孫 に 残 し た 最 大 の 賜 」 と い う 意 味 で 用 い ら れ て い る 。 具 体 的 に は 、 第 一 四 章 で は 古 墳 、 第 一 五 章 で は メ ン ヒ ル ( Menhir )、 オ リ ュ マ ン )11 ( ( Olignement )、 ド ル メ ン ( Dolmen 、 支 石 墓 ) な ど 巨 石 文 化 ( Megalithic Culture ) の 遺 物 が 詳 細 に 比 較 ・ 検 討 さ れ て い る 。 な お 、 第 一 二 章 の 研 究 の 対 象 と な っ て い る 鏡 は 、『 記 ・ 紀 』 な ど に も 記 載 さ れ て い る が 、 遺 跡 か ら 出 土 し た 遺 物 と し て の 鏡 の み が 検 討 の 対 象 と な っ て い る 。 鳥 居 龍 藏 は 、「 上 代 人 の 鏡 に 対 す る 考 え 方 は

(9)

化 粧 的 で は な く 、 宗 教 的 で あ る 。 … ( 中 略 ) … 各 々 の 神 も 霊 ミ 達 タマ が 鏡 を 代 表 と し て 居 る 。 鏡 は 祭 具 で 亜 魔 ・ 邪 神 を 退 け 、 こ れ を 恐 れ し め る も の で あ る の で 、 と り わ け 古 代 人 に と っ て は 重 要 な 祭 で あ っ た と い う 。 第 一 六 章 は 巌 瓫 の 研 究 で あ る が 、 巌 瓫 と は 植 瓫 の 別 称 で 、 広 義 の 弥 生 式 土 器 に 属 し て い る 。『 日 本 書 紀 』 に 、 巌 瓫 を 造 っ て 天 神 地 祇 を 祭 る と い う 記 載 が 、 神 武 天 皇 の 条 に み ら れ る こ と か ら 、 巌 瓫 を 詳 細 に 分 析 ・ 研 究 し た の で あ っ た 。 第 一 七 章 で は 、 人 類 の 文 化 史 上 も っ と も 大 切 か つ 必 要 な も の は 食 物 、 火 、 住 居 の 三 つ で あ る が 、 そ の 内 の 一 つ で あ る 暖 味 す な わ ち 火 に 関 す る 研 究 で あ る 。本 章 で は 、 そ の 発 火 法 が ど の よ う に 発 達 し て き た か を 、海 外 の 事 例 を 踏 ま え て 、 理 解 を 助 け る た め に 図 で 示 し 、 検 討 し て い る ( 第 一 図 )。 第 一 八 章 お よ び 第 一 九 章 の 両 章 は 、「 一 体 、 上 代 の 我 が 祖 先 は 剣 ツルギ あ る い は 太 刀 を 鍛 冶 す る こ と が 一 種 独 特 の 技 術 で あ る と 述 べ 、 剣 ( 第 一 八 章 )、 剣 な ど を 製 作 す る 鍛 冶 ( 第 一 九 章 ) に つ い て 、 多 く の 事 例 を 検 討 し つ つ 、 論 じ て い る 。 と り わ け 第 一 九 章 は 、 剣 の 材 料 で あ る 鉄 の 文 化 に つ い て も 、 武 具 を 中 心 に 展 開 し て い る 。 最 後 の 第 二 〇 章 は 、 人 類 の 文 化 の 中 で も っ と も 著 し い の は 農 業 文 化 の 発 展 で あ る と の 観 点 か ら 、 上 代 の 鍬 ( Hoe )、 鋤 ( Plough ) さ ら に は 山 ヤマ 田 ダ 之 ノ 会 ソ 富 ホ 騰 ト つ ま り 案 カ 山 カ 市 シ な ど の 主 要 な 農 具 や 付 属 物 な ど に 関 し て 、 そ れ を 使 用 し て 農 耕 に 従 事 し て い る 人 々 や 、 付 属 す る 田 畑 や 穀 物 の 種 類 に ま で 拡 大 し て 分 析 ・ 検 討 し て い る 。   以 上 論 じ た よ う に 、 実 践 編 に お い て は 、 上 代 の 人 び と の 生 活 を 知 る 手 が か り と な る 、 主 要 な 要 素 に 限 定 し て 出 土 し た 遺 物 は 勿 論 の こ と 文 献 を 加 え 、 か つ 海 外 で の 比 較 を 交 じ え て 、 具 体 的 に 論 が 進 め ら れ て い る 。 四 . 上 代 研 究 の 特 色   鳥 居 龍 藏 は 、 既 に 論 を 展 開 し て き た 如 く 、 古 代 に 非 常 に 強 い 興 味 ・ 関 心 を 抱 い て い た 。 理 由 の 一 つ と し て は 、 前 著 ( 田 畑 二 〇 〇 七 : 一 ― 三 ) で も 指 摘 し た が 、 と く に 上 代 は 日 本 文 化 お よ び そ れ を 担 っ た 日 本 民 族 の 源 流 と 大 い に 関 係 す る か ら で あ っ た 。 恩 師 坪 井 正 五 郎 の 影 響 を 受 け 、 人 類 学 を 専 門 分 野 と し て き た 鳥 居 龍 藏 に と っ て は 、 む し ろ 当 然 の こ と と い え よ う 。 本 書 は 、 前 者 す な わ ち 日 本 文 化 に つ い 第1図 人類発火法の図 註.図中の番号は発火法の進化を示す。 〔出所〕 鳥居龍藏(1925・b)、鳥居龍藏(1975): 『鳥居龍藏全集 第1巻』朝日新聞社 113 頁より引用

(10)

て 分 析 ・ 検 討 し た も の で あ り 、 古 代 の 中 で も 上 代 が 対 象 と さ れ た 。 上 代 こ そ が 、 日 本 文 化 の 源 流 を 考 察 す る 場 合 、 も っ と も 重 要 な 意 味 が 存 す る 時 代 ( 時 期 ) と 看 做 し た に 他 な ら な い か ら で あ る 。 以 下 で は 、 か よ う な 研 究 視 点 を 有 す る 本 書 の 特 徴 に つ い て 、 主 要 と 思 わ れ る も の に 限 定 し て 検 討 を 加 え て い く 。   鳥 居 龍 藏 は 、 日 本 の 上 代 を 決 定 づ け る も の と し て 、 高 天 ヶ 原 の 存 在 を 挙 げ て い る 。 高 天 ヶ 原 が 本 書 の 第 一 章 で 取 り 上 げ ら れ て い る か ら も 、 こ の 点 が 裏 付 け ら れ る 。 し か し な が ら 、 か よ う に 、 上 代 を 研 究 す る に は 重 要 な 位 置 を 占 め る と 看 做 さ れ る 高 天 ヶ 原 に つ い て は 、 従 来 研 究 者 の 見 解 が 三 つ に 分 か れ て い た 。 第 一 の 説 は 、 神 話 と み る 立 場 で あ る 。 鳥 居 龍 藏 は こ の 立 場 を 神 話 学 派 ( Mythological school )と 称 し た 。 第 二 の 説 は 、歴 史 上 に 存 在 し た 事 実( つ ま り 史 実 ) で あ る と す る 立 場 で あ る 。 こ の 立 場 を 歴 史 学 派 ( Historical school ) と 呼 ん だ 。 す な わ ち 高 天 ヶ 原 は 、 こ の 地 上 に あ る い ず れ か の 国 に 実 在 し 、 そ こ か ら 神 々 が 豊 葦 原 瑞 穂 国 に や っ て 来 た と い う 説 で あ る 。 こ の 説 は 徳 川 ( 江 戸 ) 時 代 の 研 究 者 で あ る 山 﨑 闇 斎 、 明 治 時 代 に な る と 横 山 由 清 や 喜 田 貞 吉 な ど を 筆 頭 に 多 く の 研 究 者 が 支 持 し た 。 特 徴 と し て は 天 上 に 高 天 ヶ 原 が 存 在 し な い こ と を 強 調 す る 点 で あ る 。 第 三 の 説 は 、 宗 教 ( Region ) 上 の 信 仰 と す る 、 宗 教 学 派 と で も 名 付 け る こ と が で き る 立 場 で あ る 。 こ の 説 は 平 田 篤 胤 や 本 居 宣 長 に 代 表 さ れ る 国 学 の 研 究 者 が 主 張 し て い る 。 同 説 を 主 張 す る 人 び と は 、 『 記 ・ 紀 』 が 伝 え る 神 話 を 、 そ の 宗 教 上 の 信 仰 の 意 味 で あ る と 理 解 し よ う と す る 。 す な わ ち 、 高 天 ヶ 原 を 「 惟 神 の 遠 つ 御 祖 の な し 給 う と こ ろ と し て 考 え れ ば 、 更 に 不 思 議 な 点 は な く 、 天 上 と す る の が 当 然 」 と 看 做 す の で あ る 。   鳥 居 龍 藏 は 、 以 上 み ら れ る 高 天 ヶ 原 に 関 す る 三 つ の 説 に 対 し て 、 高 天 ヶ 原 を 歴 史 上 あ る い は 地 理 上 の 都 城 も し く は 皇 居 と 考 え な い で 、「 上 代 吾 人 祖 先 が か く 思 惟 し か く 信 仰 し て 居 っ た 宗 教 上 に 於 け る 一 種 の 原 始 的 哲 学 観 ( い い ら く ん ば ) か ら 割 り 出 さ れ た 」 宗 教 観 で あ る と 唱 く 、か よ う な 宗 教 観 は 『 記 ・ 紀 』 の 神 話 な ど を 参 照 す る と 、 儒 教 や 仏 教 な ど の 既 成 宗 教 上 か ら は 宗 教 で あ る と は い え な い 。 し か し 、「 神 代 に 於 け る 高 天 ヶ 原 の 説 は 原 始 宗 教 、 原 始 神 道 の 大 切 な 経 典 で あ る 」 の で 、 当 時 の 原 始 宗 教 を 適 切 に 表 現 し た 宗 教 観 で あ る と い う 。   鳥 居 龍 藏 は 、 高 天 ヶ 原 と い う 天 上 に 神 々 が 住 み 給 わ れ る こ と は 、 日 本 の み な ら ず 、 東 北 ア ジ ア に 分 布 ・ 居 住 す る 民 族 集 団 に お い て も 一 般 的 に 認 め ら れ る 宗 教 観 で あ る と す る 。こ れ ら 東 北 ア ジ ア に 分 布 ・ 居 住 す る 民 族 集 団 は 、 ト ル コ 人 や 蒙 古 人 ( 族 ) に 典 型 的 に み ら れ る よ う に 、 天 空 を 拝 む 拝 天 者 ( Heaven worshipper ) で あ る 。 こ れ ら の 民 族 集 団 は 、宇 宙 を 三 段 階 に 区 分 す る 、最 上 に あ る 上 つ 国 ( Upper world ) が 大 気 の 国 ( Atmuspherie State ) あ る い は 天 アマ 空 ソラ の 世 界 ( Sky world )と 称 さ れ る 。こ の 上 つ 国 が 日 本 で い え ば 高 天 ヶ 原 に 該 当 す る 。 こ こ に 坐 す の は 最 高 の 神 で 、 幸 い や 善 を 与 え る 善 神 と い う 性 格 を も ち 、 天 空 の 高 い 場 所 に お ら れ る 。 そ の 下 に 位 置 す る の は 、 中

(11)

津 国 ( Middle world ) で 、 さ ら に そ の 下 に 根 国 ま た は 底 国 ( Lower world ) な ど と 称 さ れ る 国 が あ る 。   以 上 の 宇 宙 を 三 段 階 で 認 識 す る の は 、 東 北 ア ジ ア の 諸 民 族 集 団 の 中 で は 、 ト ル コ 人 、 蒙 古 人 ( モ ン ゴ ル 族 )、 ヤ ク ー ト 人 )11 ( ( 族 ) な ど で あ り 、 こ れ ら の 集 団 は 日 本 神 話 的 な 世 界 観 に 近 い と す る 。 そ の 中 で も ト ル コ 人 は 、 世 界 お よ び 人 類 の 創 造 主 で あ る 、 慈 し み 多 き 神 を

Urun - Aïy - Toyon

と 呼 ぶ 。 こ の 神 は 一 名 を 白 い 神 と 称 す る 。 蒙 古 人 も 同 様 で あ る が 、 白 い も の を 良 き 尊 い も の で 、 幸 な る 光 で あ る 。 一 方 、黒 い の は 悪 や 闇 黒 を 示 す も の で あ る と い う 観 念 を も っ て い る 。 そ れ 故 、

Urun - Aïy - Toyon

は 太 陽 と 看 做 さ れ 、 最 高 神 で あ る 日 の 神 と 称 さ れ る 。 か よ う に 、

Urun - Aïy - Toyon

は 最 高 神 と 位 置 づ け ら れ て い る 神 な の で 、 通 常 の 祭 り な ど は 特 定 の 一 つ の 同 族 集 団 で あ る 氏 が 取 り 行 な う た め 、 祭 ら れ る こ と は な い 。 祭 ら れ る の は 、 す べ て 氏 が 集 合 し て 共 同 に 営 ま れ る 非 常 に 大 規 模 な 大 祭 の み で あ る 。 こ の こ と は 、

Urun - Aïy - Toyon

を 太 陽 神 で あ る 日 の 神 と し て 崇 拝 し て い る 証 し と い え る 。 ま た 祖 先 は か か る 神 で あ る と す る 。 鳥 居 龍 藏 は 、こ の Urun - Aïy - Toyon が 有 す る 性 格 が わ が 国 の 天 照 大 御 神 と 非 常 に 類 似 し て い る と 主 張 す る 。 す な わ ち 、 天 照 大 御 神 は 、 そ の 御 名 前 の 通 り 、 照 り 光 り 輝 く 神 で あ り 、 高 天 ヶ 原 に 坐 ま す 他 の 神 々 と は 異 な る 性 格 を 有 し て い る の で あ る 。 し か も 、 天 照 大 御 神 は 、 太 陽 そ れ 自 体 で は な く 、 日 の 神 よ り も よ り 意 味 の 深 い と こ ろ に 配 し た 神 で あ る と 論 じ 、 天 照 大 御 神 の 非 常 に 高 度 な 神 秘 性 を 強 調 す る 。   な お 、 ト ル コ 人 は 、 こ の 日 の 神 か ら 我 々 の 祖 先 が 誕 生 し 、 世 界 が 創 造 さ れ た と 信 じ て い る 。 こ の 点 に つ い て も 、 天 照 大 御 神 を 崇 拝 す る 日 本 人 と 類 似 し て い る と い う 。 さ ら に 、 同 様 に 、 東 北 ア ジ ア に 居 住 す る ヤ ク ー ト 人 の 宇 宙 観 が 検 討 さ れ る 。 ヤ ク ー ト 人 の 宇 宙 観 も 、 上 述 の ト ル コ 人 の 宇 宙 観 と ほ ぼ 類 似 し て い る 。 し か し 異 な っ た 点 も 存 在 す る 。 日 本 人 の 神 話 に み ら れ る 宇 宙 観 と 関 連 性 を も つ と 看 做 さ れ る か ら で あ る 。   ヤ ク ー ト 人 は 元 来 ト ル コ 人 と 同 様 、 Urun - Aïy - Toyon を 日 の 神 と し て 祭 っ て い た 。 し か し 、 現 存 の 地 に 移 動 し て か ら は 本 来 の 性 格 で あ る 太 陽 を 崇 拝 す る こ と が 少 な く な っ た 。 つ ま り 、 日 の 神 に 変 身 し た の で あ っ た )11 ( 。 な お 、 ヤ ク ー ト 人 に よ れ ば 、 Urun - Aïy - Toyon で は な く 、 Art - Toyon - Äig が 最 高 の 神 で あ る と い う 。 Art - Toyon - Äig は 、 九つに分けられる天空に坐し 、 支配してい る と さ れ る 。

Urun - Aïy - Toyon

は 、 そ の 内 の 第 三 天 に 坐 し 、 諸 神 の中でももっとも権威をもった神であり 、 Art - Toyon - Äig の次 の 位 置 を 占 め て い る 。 こ の よ う な ヤ ク ー ト 人 が 信 じ て い る 天 上 界 の 神 座 ( オ リ ン パ ス ) は 、 下 界 に 住 ん で い る ヤ ク ー ト 人 に み ら れ る 、 九 つ の 氏 族 組 織 と 同 一 で あ る 。 す な わ ち 、 天 上 界 に 坐 し ま す 神 々 は 天 津 神 ( Sky Gods ) で 、 九 つ に 分 け ら れ る 。 そ の 下 に は 、 人 間 が 居 住 す る 中 津 国 が 位 置 し て い る 。 中 津 国 に は 、 こ の 他 に 獣 ・ 鳥 ・ 魚 ・ 虫 ・ 草 木 そ の 他 活 き と 活 け る す べ て の も の が 住 ん で い る 。 こ こ に も 、 天 上 界 と は 異 な る 神 々 が 坐 ま す 。 さ ら に そ の 下 に は 、国 津 神( Lower

(12)

Gods ) が 坐 ま す 、下 津 国 が あ る 。 こ こ は 、悪 魔 が 住 む 暗 い 国 で あ る 。 ま た 、 こ こ に も 、 悪 い 神 々 が 住 ま わ れ て い る 。 こ れ ら の 神 々 に も 王 や 妃 が い る 。 さ ら に 、 一 般 の 人 び と も こ こ に 住 み 、 結 婚 す れ ば 子 供 も 生 む と さ れ る 。 こ の 国 の 主 宰 者 は 、 カ ラ ウ ( Kalau ) と 呼 ば れ る 大 魔 神 で 、 力 強 く 天 上 界 を 支 え る 大 巨 人 で あ る 。 と く に 、 中 津 国 の 人 間 が 死 ぬ と 、そ の 人 ミ タ マ 間 は こ こ に 来 て 生 活 を 開 始 す る と い う 。 次 に 、 わ が 国 の 高 天 ヶ 原 と の 関 連 が 深 い 、 ヤ ク ー ト 人 の 天 津 国 な ど に つ い て 検 討 を 加 え て い く こ と に す る 。   ヤ ク ー ト 人 は 、 右 述 し た 如 く 、 天 神 が 坐 ま す 天 空 す な わ ち 天 上 界 は 九 つ に 区 分 さ れ て い る 。 第 一 の 神 は 、 Art Toyon - Age で あ る 。 こ の 神 は 最 高 神 で 、 光 と 命 に 関 し て 最 大 の 成 功 を も ち 、 天 上 界 に 君 臨 し て い る 。 必 要 な 場 合 、 嵐 か 雷 を 起 こ す こ と も で き 、 特 別 な 場 合 は 人 事 を 公 平 に 取 り あ つ か う 。 日 の 神 で あ る 、 天 照 大 御 神 と 対 比 さ れ る 神 で あ る 。 特 徴 は 、 す べ て の 氏 族 が 共 同 で 行 な う 大 祭 の 神 で あ り 、 こ の 神 を 奉 じ る 際 に は 血 を 伴 う 犠 牲 を 用 い な い こ と で あ る 。   第 二 の 神 は

Urun - Aïy- Toyon

で あ る 。 白 い 主 の 創 造 主 と さ れ る 。   第 三 の 神 は Nalban - Aïy ( Kubay - Khotun - lä ) で あ る 。 慈 し み 深 い 女 神 と さ れ る 。   第 四 の 神 は Nalyayr - aïnyt - Khotun で あ る 。 子 供 を 産 む こ と を 司 る 慈 神 に と む 母 神 と さ れ る 。   第 五 の 神 は Arn Alay - Khotun で あ る 。 土 地 ・ 川 ・ 農 業 な ど を 守 護 す る 母 神 で あ る 。   第 六 の 神 は Sätta - Küra - djäsagai - aïy で あ る 。 光 お よ び 軍 の 神 で あ り 、 七 人 の 兄 弟 が い る と さ れ る 。   第 七 の 神 は Mogol - Toyon お よ び そ の 妻 神 で あ る 。 家 畜 を 司 る と さ れ る 。   第 八 の 神 は Bay - nai で あ る 。 狩 の 神 と さ れ る 。   第 九 の 神 )11 ( は 天 空 の 道 路 の 守 護 を 司 る 神 と さ れ る 。   以 上 述 べ た 九 神 で 天 上 界 に 坐 ま す 神 々 で 、 こ れ ら の 神 々 の 間 に は Art - Toyon - Aga を 頂 上 と し た 階 層 が み ら れ る こ と 、 ほ と ん ど の 神 々 が 女 性 の 神 で あ る こ と を 特 色 と し て い る 。 す な わ ち 、 天 上 界 で は 神 座 と し て 、 こ れ ら の 神 々 が 生 活 を 営 ま れ て い る の で あ る 。 鳥 居 龍 藏 は 、 日 本 神 話 に 登 場 す る 高 天 ヶ 原 を 、 上 述 の ヤ ク ー ト の 天 上 界 の 神 座 と 同 様 な も の と 看 做 し 、「 吾 人 祖 先 も 高 天 ヶ 原 及 び そ の 神 を 実 に こ う い う ふ う に 考 え て 居 た も の で は な か っ た か 、か の 日 の 神( 天 照 大 御 神 ― 筆 者 註 )を 中 心 と し た 神 座 の 状 態 が こ れ と よ く 似 て い る 」 と 指 摘 し て い る 。   中 津 国 す な わ ち 地 上 の 神 は 、Ichchi と 呼 ば れ る 。 Ichchi は 主( ヌ シ ) ( Owner ) の 意 味 で 、 種 々 の 物 体 の 神 で あ る 。 川 ・ 湖 ・ 木 ・ 草 ・ 岩 ・ 石 な ど 種 々 の も の の 内 部 に 宿 る こ と が で き る 。 わ が 国 に お い て も み ら れ る 、 川 や 木 な ど に 神 が 存 在 す る と い う 考 え と 同 じ と い え る 。 さ ら に 、 Ichchi は 動 か な い 物 体 だ け で は な く 、 動 く 固 定 し て い な い も の に も 宿 る こ と が 可 能 で あ る 。 そ れ に 種 々 の も の を 産 み 出 す 物 体 に も 宿 る こ と が で き る 。 こ の 神 は 特 別 な 存 在 で 、 人 に 対 し て も 害 を 与

(13)

え る こ と が あ る 。 例 え ば 、 風 の 神 ( Owener of the wind ) で あ る Kual - Ichchi は 風 に 宿 る 主 で あ り 、 強 風 な ど 災 害 を も た ら す 。 こ の よ う に 、 悪 い 神 も み ら れ る 。 鳥 居 龍 藏 は 、 我 々 日 本 人 の 風 に 対 す る 考 え 方 も 、 こ れ と 同 様 で 、 風 は 自 然 物 な の で あ る が 、 神 が こ れ を 司 っ て い る と す る 。 さ ら に 、 Ichchi は 、 そ れ ぞ れ の 土 地 に も 存 在 す る 。 そ の た め 、 ヤ ク ー ト 人 は 人 の 足 跡 が な い 場 所 に 遊 牧 に 行 く と き 、 そ の 土 地 の 神 に 手 向 け を す る 。 日 本 の 古 代 に お い て も 、 か よ う な 手 向 け の 習 慣 が あ っ た と い う 。 な お 、 鳥 居 龍 藏 は 以 上 講 じ た ト ル コ 人 お よ び ヤ ク ー ト 人 の 神 を 中 心 と し た 宗 教 観 は シ ャ ー マ ン 教 ( シ ャ ー マ ニ ズ ム ) の 教 え と 深 く 関 連 し て い る と 強 く 指 摘 す る 。   以 上 、 ト ル コ 人 お よ び ヤ ク ー ト 人 に み ら れ る 神 話 か ら み た 宗 教 観 を 前 提 と し て 、 鳥 居 龍 藏 は 次 に み ら れ る よ う に 、 日 本 の 高 天 ヶ 原 の 状 態 に つ い て 詳 細 な 分 析 ・ 検 討 を 行 な う 。   日 本 神 話 な ど に み ら れ る 高 天 ヶ 原 、 中 津 国 お よ び 根 国 あ る い は 底 国 ・ 夜 見 国 の 三 ヶ 国 の 内 容 は 、 上 ・ 中 ・ 下 の そ れ ぞ れ の 国 を 示 す 垂 直 的 な 観 察 説 と で も い う べ き も の で あ る 。 そ の 中 で の 天 孫 降 臨 に 至 る ま で の 過 程 は 天 上 の 話 と い え る 。 高 天 ヶ 原 は 最 高 ― 最 善 の 神 座 の よ う な も の で あ る 。 そ こ で は 、 中 津 国 に み ら れ る よ う に 、 草 木 な ど も な く 、 悪 い 神 も 存 在 せ ず 、 暗 い 場 所 も な く 、 照 り 輝 い て い る 。 ま た 高 天 ヶ 原 は 、 上 述 の ト ル コ 人 や ヤ ク ー ト 人 と 同 様 、 天 空 に 存 在 す る と 看 做 さ れ る の で 、 そ の 御 名 前 通 り 空 ソラ に 位 置 す る 原 ハラ の よ う に 広 い 場 所 で あ る と い え る 。 そ れ 故 、 既 に 指 摘 し た 歴 史 学 派 に 所 属 す る 研 究 者 の よ う に 、下 界 す な わ ち 中 津 国 に 比 定 す る 必 要 が 認 め ら れ な い 。 こ の 点 に 関 し て 、 鳥 居 龍 藏 は 、「 原 始 神 道 に 於 け る 原 始 宗 教 哲 学 が 、 こ の 高 天 ヶ 原 の 考 え 方 で あ る 」 と 指 摘 す る 。 ま た 、 風 や 雷 な ど の 自 然 現 象 も 我 々 の 祖 先 は 人 格 化 し て み て い る と い う 。 こ の よ う に 、 現 象 を 人 格 化 し て み る こ と を 含 め て 、 高 天 ヶ 原 を 神 座 と す る 一 種 の 劇 で あ る と 考 え 、 神 典 と 看 做 す こ と を 提 案 す る 。 こ の 点 に つ い て 、 東 北 ア ジ ア の 民 族 集 団 か ら い え ば 、 こ の よ う な 状 況 は 立 派 な シ ャ ー マ ン 教 の 宗 教 哲 学 で あ る と い う )11 ( 。   高 天 ヶ 原 を 土 俗 学 的 あ る い は 地 理 学 的 な 側 面 か ら 観 察 ・ 検 討 を 加 え る と 以 下 の よ う に な る 。 つ ま り 、 高 天 ヶ 原 は 広 々 と し た 高 原 で あ る こ と が ま ず 第 1 に 挙 げ ら れ る 。 そ の 高 原 の 中 に は 、 天 アマノカグヤマ 香 山 、 天 アマノミスカワ 安 河 な ど の 小 川 が 存 在 し 、 草 木 が 繁 茂 し て お り 、 岩 も あ れ ば 鹿 な ど の 動 物 も 散 見 す る 。 ま た 、 田 ・ 畑 が 耕 や さ れ 穀 物 が 結 実 し て い る 。 こ の よ う な 高 天 ヶ 原 の 中 心 に 坐 す の が 日 の 神 で 、 そ の 神 に 対 し て 多 く の 神 々 が 奉 仕 し て お ら れ る 。 か よ う に 、 日 の 神 を 中 心 に 八 百 方 の 神 々 が 鎮 座 し 、 一 つ の 国 を 形 成 し て い る 。 こ の 日 の 神 こ そ が 天 照 大 御 神 な の で あ る 。 こ の 神 は 、 清 浄 な 美 し い 光 の 国 の 中 心 に お ら れ る こ と か ら 、 曲 っ た こ と や 暗 黒 を 非 常 に 嫌 わ れ 、 こ の よ う な こ と が 生 じ れ ば 、 直 ち に 該 当 す る 神 は 下 界 す な わ ち 中 津 国 に 追 放 さ れ る 。 以 上 の こ と か ら 、 高 天 ヶ 原 に 住 ま わ れ る 神 々 は 、 美 し く 人 格 化 さ れ た 神 で あ り 、 草 木 な ど に 宿 る 神 で は な い 。 す な わ ち 、「 人 間 と し て の 形 を そ な え 、 又 人 間 と し て の 挙 動 を な す も の で 、 こ れ が 主 と し て 立

(14)

派 な 一 つ の 国 家 を 形 成 」 す る と い う 状 況 が 、高 天 ヶ 原 の 認 識 で あ る 。 換 言 す れ ば 、 高 天 ヶ 原 は 祭 ・ 政 一 致 の 社 会 と い え よ う 。   さ ら に 、 上 代 の 日 本 人 は 、 以 上 述 べ た 高 天 ヶ 原 の 風 俗 ・ 習 慣 な ど を 中 津 国 の 風 俗 ・ 習 慣 と 連 続 し て い る も の と 考 え て い た 。 日 の 神 で あ る 天 照 大 御 神 は 、 高 天 ヶ 原 に お い て 最 上 の 尊 い 神 で あ る が 故 に 、 静 か に 鎮 座 さ れ て い る の で は な く 、 行 動 を 伴 う 神 で あ ら れ た 。 例 え ば 、 御 自 身 で 祭 り を 挙 行 さ せ 給 う な ど の 行 為 を な さ れ な い こ と な ど が 挙 ら れ る 。 こ の よ う な 事 実 か ら シ ャ ー マ ン 教 の 色 彩 が 強 く 感 じ ら れ る 。 そ れ 故 、 天 照 大 御 神 は 、 一 方 か ら み る と 、 大 き な 巫 ミ 子 コ の よ う な 性 格 を 有 し て い る と 推 察 で き る 。   こ の よ う な 天 照 大 御 神 を 中 心 と し た 高 天 ヶ 原 の 文 化 は 、 東 北 ア ジ ア の 民 族 集 団 同 様 、 シ ャ ー マ ン が 大 い に 関 係 し て い る の で あ る 。 天 照 大 御 神 は 、 最 大 の シ ャ ー マ ン で あ る と い え る 。 ま た 、 こ の 天 照 大 御 神 を 中 心 と す る 周 囲 の 神 々 は シ ャ ー マ ン の 巫 子 で あ る と 推 察 で き る 。 そ の 例 と し て 、 鳥 居 龍 藏 は 、 天 岩 窟 戸 ( 岩 戸 ) に お 陰 れ に な ら れ た と き 、 日 本 神 話 に み ら れ る こ の お 陰 れ の 条 の 背 景 は す べ て シ ャ ー マ ン 的 で あ る が 、 第 一 の 仕 事 を し た の が 天 (ア マ ノ ウ ズ メ ノ ミ コ ト ) 受 賣 命 で あ る と し 、 天 安 受 賣 命 は 女 の 巫 で あ る と 断 じ る 。   以 上 述 べ た こ と を 考 察 す る と 、 高 天 ヶ 原 は シ ャ ー マ ン 的 な 色 彩 が 非 常 に 濃 厚 な こ と が 注 目 さ れ る 。 こ れ は 、 日 本 神 話 の み な ら ず 、 血 筋 に お い て も 関 係 が 深 い と 推 察 さ れ る 東 北 ア ジ ア の 民 族 集 団 に も 、 同 様 の 風 俗 ・ 習 慣 が み ら れ る と 鋭 く 指 摘 す る )11 ( 。   こ れ ま で 、 上 代 に は 宗 教 的 信 仰 と し て 高 天 ヶ 原 が 存 在 し て お り 、 そ の 中 心 に 天 照 大 御 神 が お ら れ る こ と を 東 北 ア ジ ア に 住 む 民 族 集 団 と 比 較 す る こ と で 、 や や 詳 細 に 論 を 進 め て き た 。 か か る 論 の 中 で は 論 じ る こ と を 省 略 し た が 、 鳥 居 龍 藏 は 天 照 大 御 神 を 女 神 つ ま り 女 性 と し て き た )11 ( 。 問 題 と し た い の は 、我 々 の 遠 祖 で あ る 上 代 の 人 び と は 、 何 故 、 天 照 大 御 神 が 母 神 つ ま り 女 性 で あ る こ と を 信 じ て い た の で あ ろ う か 、 と い う 疑 問 で あ る 。 鳥 居 龍 藏 は 次 の よ う に 推 察 し た 。   鳥 居 龍 藏 は シ ャ ー マ ン 教 が 信 仰 さ れ て い る 国 か ら 、 こ の 疑 問 点 を 解 決 し よ う と 試 み る 。 シ ャ ー マ ン 教 を 信 仰 し て い る 国 は 女 性 が 尊 ば れ る 。 と い う の は 、 神 に 近 づ き 、 神 を 地 上 に 降 し 、 神 と 人 間 と の 中 間 に 立 つ 巫 カンナギ は 、 こ れ ら シ ャ ー マ ン 教 の 国 で は 女 性 が 多 く の 権 力 を 有 し て い る か ら で あ る と す る 。 理 由 は 、 女 性 が Aretic Histeria の 性 質 を 帯 び や す い 。 そ の た め 、 神 経 が 鋭 敏 で 、 神 秘 的 で あ る ま た 神 憑 り は 女 性 の 方 が 適 し て い る と さ れ る 。 つ ま り 、「 婦 人 は 一 方 で は Histnic で あ り 、 神 秘 的 な 性 質 を 有 し 、 又 常 に 神 憑 り を す る が 故 に ま す ま す 神 秘 的 に な る の で あ る 。 シ ャ ー マ ン の 行 な わ れ る 土 地 の 女 性 は 勇 気 に 富 ん で い る 」 と 結 論 づ け る 。 こ の よ う な 見 方 ・ 考 え 方 は 、 高 天 ヶ 原 の 場 合 に も 活 用 可 能 で あ る と い う 。す な わ ち 、か よ う な 諸 々 の 性 質 を も ち 、「 総 て に 於 い て 清 く 尊 い 純 な る 神 秘 的 の 女 性 の 神 は 天 照 大 御 神 で あ る 」 と 断 じ 、 高 天 ヶ 原 に お い て は 、 こ の よ う な 特 徴 を も っ と も よ く 具 備 し て い る 、 女 神 で あ る 天 照 大 御 神 こ そ が 中 心 と な っ て 鎮 座 さ れ て い る こ と は 、 疑 い な い 事 実 で あ る と す る 。

(15)

  以 上 の よ う な 女 性 の 有 す る 性 質 は 、 高 天 ヶ 原 を 筆 頭 と し て 、 中 津 国 に お い て も み ら れ る 現 象 で あ る 。 す な わ ち 、 上 代 の 女 性 は 、 現 在 の 女 性 と 大 い に そ の 性 質 が 異 な っ て お り 、「 ロ マ ン チ ッ ク で あ り 、 勇 壮 活 潑 で あ っ て 、 男 性 と 共 に 事 を 行 い 、 国 の 経 営 を 始 め と し て 、 一 家 の 事 に 至 る ま で 、 男 女 の 間 が 睦 ま じ く 、 女 性 は 常 に 男 性 の 相 談 相 手 と な っ て い る 」 と 唱 く 。 高 天 ヶ 原 の 場 合 で も 、 伊 弉 諾 尊 ・ 伊 弉 冊 尊 の 両 神 が 、 天 の 御 柱 を 廻 わ り 、 婚 姻 を 結 ば れ る と き 、 女 神 で あ る 伊 弉 冊 尊 が 男 神 で あ る 伊 弉 諾 尊 よ り も 先 に 言 を 発 し 給 い て 、 御 子 が 誕 生 し た と 伝 え ら れ て い る こ と か ら も 明 ら か な よ う に 、 女 神 が 男 神 と 対 抗 し て い た こ と を 暗 示 し て い る と さ れ る 。   す な わ ち 、 上 代 に お い て 以 上 の こ と を 踏 ま え る と 、 日 本 の 女 性 は 男 神 あ る い は 男 性 以 上 に 活 動 し て い た の で あ っ た 。 そ れ に シ ャ ー マ ン 教 の 影 響 が 加 わ り 、 さ ら に か よ う な 性 質 が 濃 厚 に な っ た と い う 。 こ の よ う な 傾 向 は 、 上 代 以 降 の 時 代 に も 引 き 継 が れ 、 奈 良 朝 あ る い は 平 安 朝 に 至 っ て も 継 承 さ れ る と こ ろ と な っ た 。 理 由 と し て 、 日 本 の 女 性 は 、 い わ ゆ る Arctic Hysteria が 著 し く み ら れ る か ら で あ る と す る 。 そ し て 、 そ の 代 表 的 な 事 例 と し て 、 鳥 居 龍 藏 は 、 道 成 寺 説 話 に 登 場 す る 清 姫 の 場 合 を 挙 げ て い る 。   こ れ ま で や や 詳 し く 論 じ て き た 如 く 、 我 々 の 祖 先 で あ る 上 代 の 人 び と は 、 当 時 の 宗 教 観 、 つ ま り シ ャ ー マ ン 教 の 視 点 か ら 、 最 上 に 位 置 す る 高 天 ヶ 原 お よ び そ の 下 に 付 随 し て い る 中 津 国 に 焦 点 を 合 わ せ 、 分 析 ・ 検 討 を 行 な っ た 。 し か し 、 中 津 国 の 下 に は 底 国 あ る い は 根 の 国 と も 称 さ れ る 夜 見 ( 黄 泉 ) 国 が 存 在 す る 。 こ の 夜 見 国 に お い て も 、 高 天 ヶ 原 お よ び 中 津 国 同 様 、 神 が 存 在 す る 。 こ の よ う に 、 上 代 の 人 び と の 宗 教 観 は 、 高 天 ヶ 原 、 中 津 国 お よ び 夜 見 国 に そ れ ぞ れ 神 々 が 鎮 座 す る と い う 宗 教 観 を 有 し て い た 。 そ れ 故 、 こ の 立 場 か ら 夜 見 国 を 分 析 ・ 検 討 す る こ と で 、 上 代 の 人 び と の 宗 教 上 の 中 心 と 看 做 せ る 高 天 ヶ 原 の 位 置 づ け が さ ら に 具 体 的 に 把 握 可 能 で あ る と 推 察 で き る 。   夜 見 国 は そ の 名 称 通 り 、 大 変 暗 い 世 界 と 認 識 さ れ て い る 。『 祝 詞 』 な ど で は 、 高 天 ヶ 原 の 天 上 や 中 津 国 の 上 津 国 に 対 し て 、 下 津 国 と 呼 ば れ て い る 。 上 代 の 人 び と は 、 こ の 下 津 国 の 存 在 を 信 じ て い た 。 仏 教 の い う 、 冥 土 の こ と で 、 人 間 が 死 去 す れ ば 、 死 人 は そ こ に 行 く と 教 え ら れ て い た 。 こ の よ う な 考 え 方 は 、上 代 の 人 び と の み で は な く 、 東 北 ア ジ ア に 住 む 民 族 集 団 の 中 に み ら れ る シ ャ ー マ ン の 宗 教 観 で も あ る 。   夜 見 国 に や っ て 来 た の は 、 中 津 国 で 死 去 し た 死 者 で あ る 。 そ こ で 死 人 は 、 如 何 な る 生 活 を 営 ん で い る か と い え ば 、 地 上 つ ま り 中 津 国 の 生 活 と 基 本 的 に 変 化 が な く 、 同 様 の 風 俗 ・ 習 慣 で 過 し て い る と 考 え ら れ て い る 。 こ の よ う な 事 実 が 確 認 で き る の は 、 語 部 が 伝 え る 、 伊 弉 諾 尊 が 夜 見 国 に 坐 す 女 神 を 訪 問 し た こ と が 『 日 本 書 紀 』 に 記 載 さ れ て い る こ と か ら 、 類 推 す る こ と が 可 能 だ か ら で あ る 。 こ の よ う な 考 え 方 は 上 代 の 人 び と だ け で は な く 、 例 え ば 、 ギ リ ャ ー ク )1( ( 人 ( 族 ) や ト ル コ 人 な ど 東 北 ア ジ ア の 民 族 集 団 に み ら れ る 認 識 で も あ っ た 。

(16)

つ ま り 、 夜 見 国 に い る の は 、 上 述 し た よ う に 、 中 津 国 で 死 去 し た 死 者 の 他 に 、い か な る 神 々 は 不 明 で あ る が 、黄 泉 神 と 記 さ れ て い る 神 々 が 存 在 し た 。 ま た 、 一 度 こ の 世 界 に 入 れ ば 、 い か な る 人 も 顕 世 に は 出 る こ と が で き な い も の と さ れ た 。 な お 現 存 す る 塚 墓 は 、 夜 見 国 で の 住 居 と み て も よ く 、 ま た そ こ へ の 通 路 と も な っ た 。 中 津 国 と 夜 見 国 と の 境 界 に は 、 大 き な 岩 の 戸 が 立 ち は だ か っ て お り 、 閉 じ ら れ て い る 。 そ の た め 、 両 国 へ の 往 来 は 不 可 能 で あ る 。   さ ら に 、 こ の 世 の 人 び と は 、 夜 見 国 が 穢 の 多 い 汚 れ た 場 所 で あ る と 信 じ ら れ て お り 、そ の 入 口 に 近 づ い て も 死 を 免 れ な い と い う 。『 記 ・ 紀 』 の 記 載 に は 見 ら れ な い が 、 月 讀 命 が 夜 見 国 に 関 係 が あ る こ と が 推 察 さ れ 、 後 の こ と で あ る が 伊 弉 冊 尊 が こ こ の 主 神 に な ら れ た こ と は 、 注 目 す べ き 事 で あ ろ う と 思 わ れ る 。 な お 、 次 の 歴 史 時 代 の 古 墳 が 大 き な 石 ( 巨 石 ) で 築 造 さ れ 、 入 口 が 岩 で 閉 じ ら れ 、 さ ら に 盛 土 に よ っ て 封 じ ら れ て い る の は 、 死 者 を タ ブ ー し た も の で は な い か と 鳥 居 龍 藏 は 推 定 し て い る 。   以 上 、 本 書 の 特 色 に 関 し て 、 高 天 ヶ 原 に 焦 点 を 合 わ せ 論 を 進 め て き た 。 鳥 居 龍 藏 の 想 定 す る 古 代 と り わ け 上 代 の 研 究 は 、 本 書 に そ の 研 究 成 果 が 収 め ら れ て い る が 、 理 論 編 の 中 心 と な っ て い る 高 天 ヶ 原 が も っ と も 主 要 な キ ー ワ ー ド で あ る と 看 做 さ れ る 。 そ れ 故 、 高 天 ヶ 原 に つ い て 分 析 ・ 検 討 を 加 え て き た 。 本 書 に は 理 論 編 に 続 い て 実 践 編 も 存 在 す る 。 実 践 編 は 、 そ の 言 葉 通 り 、 理 論 編 の 理 論 を 適 応 し た 内 容 で あ る と 考 え れ ば 、 理 論 編 の み の 分 析 ・ 検 討 で は 、 本 書 の 特 色 の 解 明 は 完 璧 と は い え な い ま で も 目 的 は 達 成 で き た も の と 思 わ れ る 。 つ ま り 、 鳥 居 龍 藏 の 上 代 に 関 す る 研 究 上 の 特 色 は 把 握 で き た と い え よ う 。 五 . 結 論 ― 結 び に 代 え て ―   鳥 居 龍 藏 の ラ イ フ ワ ー ク と い え ば 、 中 国 東 北 地 方 に か つ て 盛 え た 契 丹 す な わ ち 遼 の 文 化 研 究 で あ る と さ れ る こ と が 多 い 。 し か し 、 一 方 に お い て 、 人 類 学 を 専 門 分 野 と し た こ と か ら 、 日 本 文 化 や 民 族 に 関 し て も 多 大 の 興 味 ・ 関 心 を 有 し 、 こ の 分 野 に つ い て も 造 詣 が 非 常 に 深 か っ た 。 本 稿 は 、 鳥 居 龍 藏 の 日 本 文 化 や 民 族 に 関 す る 内 容 に 焦 点 を 合 わ せ 、 論 を 展 開 し て き た 。 歴 史 の 中 で も 、 鳥 居 龍 藏 が と く に 古 代 に 強 い 学 問 的 な 情 熱 を 傾 け た の も 、 上 述 し た よ う に 、 日 本 文 化 や 民 族 の 中 で も と く に か か る 源 流 に 興 味 ・ 関 心 を も っ た こ と が 大 き く 影 響 し て い る と 推 察 で き る 。 古 代 に 関 し て は 、 上 代 を 論 じ た 本 書 と 、 そ れ 以 前 の 時 代 で あ る 有 史 以 前 を 取 り あ げ た 著 作 を そ れ ぞ れ 出 版 し て い る 。 本 書 は 、 古 代 と り わ け 上 代 の 文 化 に 関 し て 『 記 ・ 紀 』 な ど の 文 献 に 記 載 さ れ て い る 神 話 を 主 要 な 資 料 と し て 論 を 展 開 し 、 結 論 を 導 い て い る と い う 特 徴 が み ら れ る 。 し か も 、 こ の 点 も 鳥 居 龍 藏 の 研 究 上 の 特 徴 と 看 做 せ る の で あ る が 、 海 外 を 含 む 他 地 域 と の 類 似 事 例 と の 比 較 ・ 検 討 を 丹 念 に 行 な う こ と で 、 系 譜 関 係 ま で 論 究 し よ う と す る 研 究 視 点 が 確 認 で き る こ と で あ る 。 こ の 点 は 、 あ る い は 自 ら が 主 唱 す る 日 本 民 族 「 固 有 日 本 人 」 説 を 検 証 し よ う と す る 目 的

参照

関連したドキュメント

 近年、日本考古学において、縄文時代の編物研究が 進展している [ 工藤ほか 2017 、松永 2013 など ]

 音楽は古くから親しまれ,私たちの生活に密着したも

 トルコ石がいつの頃から人々の装飾品とし て利用され始めたのかはよく分かっていない が、考古資料をみると、古代中国では

変容過程と変化の要因を分析すべく、二つの事例を取り上げた。クリントン政 権時代 (1993年~2001年) と、W・ブッシュ政権

居室定員 1 人あたりの面積 居室定員 1 人あたりの面積 4 人以下 4.95 ㎡以上 6 人以下 3.3 ㎡以上

私たちは、私たちの先人たちにより幾世代 にわたって、受け継ぎ、伝え残されてきた伝

本稿で取り上げる関西社会経済研究所の自治 体評価では、 以上のような観点を踏まえて評価 を試みている。 関西社会経済研究所は、 年

法制史研究の立場から古代法と近代法とを比較する場合には,幾多の特徴