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労働者の健康・メンタルヘルス(PDF:620KB)

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62 No. 633/April 2013 Ⅰ はじめに わが国では,平成 10 年に自殺死亡者数が急増し,3 万人を突破した。以降,平成 23 年までの 14 年間,自 殺死亡者数は毎年 3 万人を超える高水準を維持し続 けた。この間,自殺対策基本法の施行(平成 18 年 10 月),自殺総合対策大綱の策定(平成 19 年 6 月)が行 われ,国を挙げて自殺対策が推進された。平成 24 年 度の自殺対策に関する予算案は,「自殺の実態を明ら かにする」「国民一人ひとりの気づきと見守りを促す」 「早期対応の中心的役割を果たす人材を養成する」「心 の健康づくりを進める」「適切な精神科医療を受けら れるようにする」「社会的な取組で自殺を防ぐ」「自殺 未遂者の再度の自殺を防ぐ」「遺された人の苦痛を和 らげる」「民間団体との連携を強化する」などの目的 で,約 187 億円が計上されている。最新の警察庁に よる統計資料「平成 24 年の月別の自殺者数について (12 月末の速報値)」(平成 25 年 1 月 17 日)によると, 平成 24 年の自殺死亡者数は 2 万 7766 名であり,平成 10 年以来,はじめて自殺死亡者数が 3 万人を割り込 んだ。自殺死亡者数が減少した背景については,今後 さまざまな面から議論が行われることと思われるが, このような国を挙げての自殺対策が,地方公共団体や 民間団体等による実践活動を通して,国民一人ひとり の自殺に対する意識や知識を高めたことが,自殺予防 につながった一因である可能性が示唆される。 わが国では,自殺に関する統計資料がいくつか存在 する。代表的なものは,警察庁が毎年公表している 『自殺の概要資料』(平成 23 年分からは内閣府と連名 で「自殺の状況」として公表されている)と,厚生労 働省が毎月公表している『人口動態統計』である。ま た,民間団体等による独自の調査資料も存在する。こ れらの統計資料は,調査の実施方法や用語の定義など が異なるため,たとえば自殺死亡者数の総数だけをみ ても,差異が認められる。 このような点を鑑み,本論文では,労働者の健康・ メンタルヘルスについて,特に自殺に関する各種統計 資料の見方や資料間で数値が異なる点に焦点を絞り, 解説を行う。 Ⅱ 警察庁と厚生労働省による総自殺死亡者数の  相違 警察庁と厚生労働省が公表している総自殺死亡者数 の推移を図 1,図 2 にそれぞれ示す。周知のとおり, わが国の自殺死亡者数は平成 10 年に急増し,以降横 ばいの状態が続いている。このような傾向は,図 1, 図 2 のいずれにも認めることができるが,全体的に, 厚生労働省の統計資料に示された自殺死亡者数は,警 察庁の統計資料に示された自殺死亡者数よりも少な い。これには,2 つの理由を挙げることができる(内 閣府 2012)。 第一に,調査対象者の差異である。厚生労働省の人 口動態統計は,日本における日本人を対象としている のに対して,警察庁の自殺統計は,日本における外国 人も含む,総人口を対象としている。厚生労働省の統 計には,外国人は含まれないため,自殺死亡者数は必 然的に警察庁の統計よりも少なくなる。第二に,事務 手続き上の差異である。厚生労働省の人口動態統計 は,自殺,他殺あるいは事故死のいずれか不明のとき は自殺以外で処理しており,死亡診断書等について作 成者から自殺の旨訂正報告がない場合は,自殺に計上 していない。一方,警察庁の自殺統計は,捜査等によ り自殺であると判明した時点で,自殺統計原票を作成 し,計上している。そのため,警察庁の統計では,死 因を自殺と判断する可能性が高くなるため,厚生労働 省の統計よりも自殺死亡者数が多くなっている。 Ⅲ 警察庁と厚生労働省による労働者の自殺死亡  者数の相違 自殺死亡者を労働者に限定した場合も,上述の理由 により,警察庁と厚生労働省が公表している自殺死亡 者数は異なっている。また,職業の分類方法について も,両統計資料には差異が認められる。 厚生労働省の人口動態統計では,職業を「専門的・

大塚 泰正

(広島大学准教授)

堀田 裕司

(広島大学大学院)

労働者の健康・メンタルヘルス

【特集】

テーマ別にみた労働統計

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日本労働研究雑誌 63 テーマ別にみた労働統計 技術的職業従事者」「管理的職業従事者」「事務従事者」 「販売従事者」「サービス職業従事者」「保安職業従事 者」「農林漁業作業者」「運輸・通信従事者」「生産工程・ 労務作業者」「分類不能の職業」に分類している。た だし,「分類不能の職業」には仕事の有無が不詳であ る者を含むため,実際には無職の者も含まれている可 能性がある。厚生労働省の人口動態統計による労働者 の自殺死亡者数の推移を職業別に示したものが図 3 で ある。 一方,警察庁の自殺統計では,平成 18 年までは, 職業を「管理職」「被雇用者」の 2 種類にしか分類し ていなかった。ただし,例えば「被雇用者」に関する 具体的な職業として「農林・漁業作業員」「工員」「自 動車運転手」など,それぞれについて下位の職業が設 定されている。警察庁は,平成 19 年に自殺統計原票 を改正し,職業の分類が「専門・技術職」「管理的職業」 「事務職」「販売従事者」「サービス業従事者」「技能工」 「保安従事者」「通信輸送従事者」「労務作業者」「その 他」と詳細になった。これらについても,それぞれ下 位の職業が設定されているが,例えば平成 18 年まで の「管理職」には「議員」「管理職公務員等」「会社・ 団体の役員」「会社・団体の役員以外の管理職」が含 まれるのに対して,平成 19 年以降の「管理的職業」 には「議員・知事・課長以上の公務員」「会社・公団 等の役員」「会社・公団の部・課長」が含まれる。こ のように,平成 18 年までと平成 19 年以降の警察庁の 職業分類は単純に比較することはできない点に注意す る必要がある。図 4 に,警察庁による平成 18 年まで の労働者の自殺死亡者数の推移を,図 5 に,平成 19 年以降の労働者の自殺死亡者数の推移を職業別に示す。 Ⅳ 精神障害の労災補償状況 わが国の精神障害に関する労災認定については,平 成 11 年に公表された「心理的負荷による精神障害等 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 (人) 昭和 53年 昭和 54年 昭和 55年 昭和 56年 昭和 57年 昭和 58年 昭和 59年 昭和 60年 昭和 61年 昭和 62年 昭和 63年 平成元年 平成 2年 平成 3年 平成 4年 平成 5年 平成 6年 平成 7年 平成 8年 平成 9年 平成 10年 平成 11年 平成 12年 平成 13年 平成 14年 平成 15年 平成 16年 平成 17年 平成 18年 平成 19年 平成 20年 平成 21年 平成 22年 平成 23年 平成 24年 総数 男 女 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 (人) 昭和 22年 昭和 30年 昭和 40年 昭和 50年 昭和 60年 平成元年 平成 10年 平成 20年 平成 23年 総数 男 女 図 1 警察庁の自殺の統計資料による自殺死亡者数の推移 図 2 厚生労働省の人口動態統計による自殺死亡者数の推移 図 4 警察庁の自殺の統計資料による労働者の自殺死亡者数の 推移(平成 18 年以前) 図 5 警察庁の自殺の統計資料による労働者の自殺死亡者数の 推移(平成 19 年以降) 図 3 厚生労働省の『人口動態統計』による労働者の自殺死亡 者数の推移 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000 4,500 (人) 分類不能の職業 生産工程・ 労務作業者 専門的・技術的 職業従事者 サービス職業従事者 販売従事者 農林漁業作業者 事務従事者 運輸・通信従事者 管理的職業従事者 保安職業従事者 昭和 55年度 昭和 60年度 平成 2年度 平成 7年度 平成 12年度 平成 17年度 管理職 非雇用者 9,000 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 (人) 昭和 53年 平成元年 平成 2年 昭和 54年 平成 3年 昭和 55年 平成 4年 昭和 56年 平成 5年 昭和 57年 平成 6年 昭和 58年 平成 7年 昭和 59年 平成 8年 昭和 60年 平成 9年 昭和 61年 平成 10年 昭和 62年 平成 11年 昭和 63年 平成 12年 平成 13年 平成 14年 平成 15年 平成 16年 平成 17年 平成 18年 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 その他 サービス業従事者 専門・技術職 事務職 労務作業者 販売従事者 技能工 管理的職業 通信輸送従事者 保安従事者 (人) 平成 19年度 平成 20年度 平成 21年度 平成 22年度 平成 23年度

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64 No. 633/April 2013 に係る業務上外の判断指針」の別表 1「職場における 心理的負荷評価表」によって,業務による心理的負荷 の強度等について評価し,業務上外の判断を行うこと となった。この判断指針が公表される平成 10 年以前 は,図 6 に示すように,精神障害に関する労災認定は ほとんど行われてこなかった。 この判断指針は,平成 21 年に一部改正が行われ, 職場における心理的負荷評価表に新たな出来事を追加 するなどの見直しが行われた。また,平成 23 年 12 月 には「心理的負荷による精神障害の認定基準」が公表 され,これに伴い,「心理的負荷による精神障害等に 係る業務上外の判断指針」は廃止された。認定基準 は,心理的負荷の強度を示す具体例が「業務による心 理的負荷評価表」に示されたこと,複数の出来事が あったときの評価方法を具体的に記載したこと,セク シュアルハラスメントなど一部の出来事については, 評価期間を 6 カ月以上前まで延長することができるよ うにしたことなど,多くの点で認定指針とは異なって いる。 図 6 の精神障害の労災補償状況の推移を見ると,労 災補償の「請求件数」は年度が進むにつれてほぼ右肩 上がりの状況にあり,その中には年間 100 ~ 200 件程 度の自殺者が含まれている。ただし,図 6 の「自殺」 には,自殺未遂者も含まれているため,これらの人々 は警察庁や厚生労働省の自殺死亡者に関する統計資料 には含まれないことになる。 Ⅴ 自殺の原因 自殺の原因に関する統計調査資料としては,第一に 警察庁が毎年公表している自殺の概要資料を挙げるこ とができる。平成 18 年までは,自殺の原因・動機を 1 人につき 1 つ計上し,「家庭問題」「健康問題」「経 済生活問題」「勤務問題」「男女問題」「学校問題」「そ の他」「不詳」に分類した。平成 19 年以降は,自殺統 計原票の改正により,遺書等の自殺を裏付ける資料に より明らかに推定できる自殺の原因・動機を 1 人につ き 3 つまで,さらに詳しい小分類を含めて計上できる ようにした。そのため,平成 19 年以降は,自殺死亡 者数と原因・動機数の和が一致しない点に注意する必 要がある。 図 7 に,警察庁による原因・動機別自殺死亡者数の 推移を示す。平成 18 年以前と平成 19 年以降で集計方 法の違いはあるものの,原因として最も多いものは 「健康問題」である。また,自殺死亡者が 3 万人を超 えた平成 10 年以降は,「経済生活問題」を原因とする 自殺が増加している。「勤務問題」は,平成 19 年以降 増加傾向にあるが,これは,先述したように,自殺統 計原票の改正により,自殺の原因・動機を 1 人につき 3 つまで計上できるようにした影響であると考えられ る。 NPO 法人ライフリンクと東京大学が中心となり結 成された「自殺実態解析プロジェクトチーム」は,平 成 19 年 7 月から平成 20 年 6 月にかけて,自死遺族 305 名を対象に面接調査を実施した。この調査では, 警察庁の「自殺の概要資料」をまとめる際に使用して いる 52 の要因を参考に,56 の「危機要因」を選定し た。この調査の報告書である「自殺実態白書 2008【第 二版】」(自殺実態解析プロジェクトチーム,2008)に は,「危機要因の認定については,遺族からの聞き取 り調査の結果を基にして,自殺実態解析プロジェクト 図 6 厚生労働省の「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」 による精神障害の労災補償状況の推移 図 7 警察庁の自殺の統計資料による原因・動機別自殺死亡者 数の推移 注:昭和 58 年~平成 8 年については,合計した数値を掲載。 注:平成 19 年以降は,自殺統計原票の改正により,自殺の原因・動機 を 1 人につき 3 つまで計上できるようにしている。 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 (件)   平成 8年度 昭和 58年 ∼ 平成 9年度 平成 10年度 平成 11年度 平成 12年度 平成 13年度 平成 14年度 平成 15年度 平成 16年度 平成 17年度 平成 18年度 平成 19年度 平成 20年度 平成 21年度 平成 22年度 平成 23年度 精神障害(請求件数) 精神障害(支給決定件数) うち自殺(未遂を含む)請求件数 うち自殺(未遂を含む)支給決定件数 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000 18,000 健康問題 男女問題 学校問題 不詳 経済生活問題 家庭問題 勤務問題 その他 (人) 昭和 53年度 昭和 54年度 昭和 55年度 昭和 56年度 昭和 57年度 昭和 58年度 昭和 59年度 昭和 60年度 昭和 61年度 昭和 62年度 昭和 63年度 平成元年度 平成 2年度 平成 3年度 平成 4年度 平成 5年度 平成 6年度 平成 7年度 平成 8年度 平成 9年度 平成 10年度 平成 11年度 平成 12年度 平成 13年度 平成 14年度 平成 15年度 平成 16年度 平成 17年度 平成 18年度 平成 19年度 平成 20年度 平成 21年度 平成 22年度 平成 23年度

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日本労働研究雑誌 65 テーマ別にみた労働統計 チームのメンバーが行った」と記載されている。ま た,危機要因については,自殺者 1 人につき 1 つでは なく,考えられうる自殺の原因を複数計上した。集計 の結果,自殺時に抱えていた危機要因数は一人あたり 平均 4 つであること,多かった危機要因は,うつ病, 家族の不和,負債,身体疾患,生活苦,職場の人間関 係,職場環境の変化,失業,事業不振,過労などであ ることなどが明らかになった。 図 8 は,警察庁統計資料による平成 19 年における 原因・動機別自殺者数,図 9 は,自殺実態解析プロ ジェクトチームによる自殺の危機要因を,それぞれの 領域ごとに割合を示したものである。図 8 と図 9 を比 較すると,警察庁の統計資料では「健康問題」がほぼ 半数を占めているのに対して,自殺実態解析プロジェ クトチームの統計資料では「家庭問題」「勤務問題」 「学校問題」の割合が警察庁の統計資料と比べて高く なっている。このような割合の相違は,調査時期,調 査対象者,原因の評価者,評価可能な原因の個数など の違いによって生じているものと思われる。 Ⅵ おわりに 本論文では,労働者の健康・メンタルヘルスに関し て,自殺に関する統計資料を中心に解説した。自殺に 関する統計資料は,警察庁および厚生労働省が公表し ているものが代表的であるが,これらの統計資料間に は調査の実施方法や用語の定義などにおいて差異が認 められるため,共通した数値を認めることはできな い。また,いずれの統計資料も労働者に限定したもの ではないため,労働者の自殺の特徴や傾向について検 討するには,入手できる範囲で統計資料を加工して使 用することが必要となる。警察庁やライフリンクによ る自殺の原因に関する調査結果を見ると,勤務に関す る問題は自殺に少なからず影響を与えている可能性が 示唆される。現時点では,警察庁・厚生労働省いずれ の統計資料についても,ローデータを参照することが できないため,労働者に限定したデータのみを抽出し て解析を行うことは困難である。しかし,今後,労働 者の自殺やメンタルヘルスに関するさらに効果的な対 策を打ち出すためには,労働者に限定した自殺死亡者 の背景や特徴に関する解析を行うことも必要であると 思われる。なお,自殺実態解析プロジェクトチーム (2008)において精神科医の島悟氏は,「自殺の危機経 路に関する考察」を行っている。本考察は,今後の自 殺対策についても示唆に富む内容が含まれているの で,あらためてご一読いただきたい。 参考文献 自殺実態解析プロジェクトチーム(2008)『自殺実態白書 2008 【第二版】』自殺対策支援センターライフリンク. 厚生労働省(2012)『平成 23 年(2011)人口動態統計』. 内閣府(2012)『平成 24 年版自殺対策白書』新高速印刷. 内閣府・警察庁(2012)『平成 23 年中における自殺の状況』. おおつか・やすまさ 広島大学大学院教育学研究科心理学講 座准教授。最近の主な著作に『産業ストレスとメンタルヘル ス』(共著,中央労働災害防止協会,2012年)。産業カウンセ リング,職場メンタルヘルス専攻。 ほりた・ゆうじ 広島大学大学院教育学研究科心理学専攻博 士課程前期 2 年。臨床心理学,職場メンタルヘルス専攻。 その他 4.9% 学校問題 1.1% 男女問題 3.1% 勤務問題 7.2% 経済生活問題 23.8% 健康問題 47.7% 家庭問題 12.2% その他 10.3% 学校問題 5.4% 男女問題 1.5% 勤務問題 18.1% 経済生活問題 22.1% 健康問題 23.5% 家庭問題 19.2% 図 8 警察庁の自殺の統計資料による原因・動機別自殺者数の 割合(平成 19 年) 図 9 自殺実態解析プロジェクトチームによる自殺の危機要因 の割合(平成 19 年 7 月~平成 20 年 6 月)

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