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職務発明の取扱いと特許制度の存在意義(PDF:112KB)

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Academic year: 2021

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職務発明制度が注目されている。 日本の雇用社会の特徴であった終身雇用制に綻 びが見え始めている。 在職していればなかなか訴 えることができなかった発明者が, 企業の外に出 て, その意味でフリーな立場となって, 元の会社 に対して補償金の追加的な支払いを求めて訴訟を 提起するという事例が頻発するようになっている。 そのようななか, 中村訴訟という別名で知られる 日亜化学工業事件において, 第一審の東京地裁平 成 16 年 1 月 30 日判決は, 職務発明を譲り受けた 対価として企業に対して, 元従業員に 200 億円の 支払いを命じたので, 大騒ぎとなった。 控訴審で は, 平成 17 年 1 月 11 日に, 遅延損害金を含めて 8 億円余りの金額で和解が成立したが, 一審判決 の認容額との開きが大きかったので, これまた各 種メディアを賑わすことになった。 職務発明をなした従業員が使用者である企業に 対して対価の支払いを請求することができるのは, 特許法の規定に基づいている。 日本の特許法 35 条は, 使用者である企業は予め発明規程を設けて おけば, 職務発明をなした従業員の有する特許を 受ける権利を自己に承継しうることを前提としつ つ (35 条 2 項の反対解釈), その場合, 従業員に対 して相当な対価を支払わなければならない旨, 定 めているのである (35 条 3 項)。 しかし, そもそもの問題は, なぜ, ここまでし て, 職務発明をなした従業員が保護されなければ ならないのか, というところにある。 この点に関 する理論的な解明がなされない限り, 相当な対価 の額の算定基準は明らかになることはないだろう。 一つの説明は, 発明者である従業員は, 当然, その創作物である発明について権利を有するとこ ろ, それが使用者に取り上げられるのであるから, その代わりに相当な対価の支払いを受ける権利を 取得するのだという理解である。 発明者である従 業員の取得する権利を自然権だと考えるのである。 このような考え方は素朴な感情に訴えかけると ころがあるが, しかし, 現行の特許法には適合し ないところがある。 特許法は, 先願主義というも のを採用しており, 発明者であるから当然に特許 を取得しうるとは考えていないからである。 自ら 発明した者といえども, 他の発明者が先に出願し 特許を取得してしまえば, (一定の例外を除き) 自 己の発明であるにも関わらずその使用を止められ てしまうのである。 特許法は, 発明者が発明をなしたというだけで は保護しない。 発明をしただけではなく, 他の発 明者に先駆けて出願をなして初めて特許権を与え る。 その趣旨は, 発明と出願によるその公開を促 すことにより, 産業を発展させるところにある。 そうだとすると, 発明者が特許を受ける権利や特 許権を取得する根拠は, 自然権ではなく, このよ うな産業の発展のためのインセンティヴを発明者 に与えるためであると説明されることになるだろ う。 このようなインセンティヴ論に立脚する場合, 従業員に相当な対価の額の補償金を与える趣旨も, それは使用者と従業員の交渉に完全に委ねておい たのでは従業員が適度な報酬を得ることができず, ゆえに, 発明のインセンティヴも不足し, 十分な 発明活動がなされなくなりかねないというところ に求められることになる。 そうだとすると, 従業 員に支払わなければならない対価の額も, インセ ンティヴとして適切なものかどうかという観点か ら判断されることになる。 そして一般に資産が増 えるにつれて貨幣の限界効用が低減する以上, (資産がない人にとっての 1 万円と 1 億円の資産があ る人にとっての 1 万円とでは, 後者のほうが効用が 低いということ), 金額が高くなるにつれて, 追加 的な報酬を与えることによるインセンティヴの改 善の効果は減じていく。 少なくとも数百億円の対 価の請求権を認める必要はないといえるだろう。 (たむら・よしゆき 北海道大学大学院法学研究科教授) 1

職務発明の取扱いと特許制度の存在意義

田村 善之

参照

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