BOOK SHELF
49 ―アジ研ワールド・トレンド No.173(2010. 2)
坂
田
正
三
新刊紹介
坂
田
正
三
編
『
変
容
す
る
ベ
ト
ナ
ム
の
経
済
主
体
』
(
研
究
双
書
№
五
七
九
)
一
九
九
〇
年
代
後
半
以
降
、
日
本
で
は
ベ
ト
ナ
ム
の
産
業
や
企
業
に
関
す
る
研
究
が
数
多
く
発
表
さ
れ
て
き
た
。
本
書
は
そ
れ
ら
の
流
れ
を
く
む
研
究
成
果
で
あ
る
が
、
先
行
研
究
に
は
な
い
二
つ
の
特
徴
を
持
つ
。
ひ
と
つ
は
、「
企
業
」
で
は
な
く
「
経
済
主
体
」
研
究
を
標
榜
し
て
い
る
点
で
あ
る
。
ベ
ト
ナ
ム
に
は
、企
業
以
外
に
、「
合
作
社
」
(
協
同
組
合
)
や
「
個
人
生
産
基
礎
」(
小
規
模
自
営
業
者
)
と
い
っ
た
経
済
主
体
が
あ
り
、
歴
史
的
な
成
長
の
経
緯
も
含
め
、
そ
の
存
在
が
ベ
ト
ナ
ム
経
済
の
独
自
性
を
形
作
っ
て
い
る
。
本
書
で
は
、
企
業
だ
け
で
な
く
さ
ま
ざ
ま
な
種
類
の
経
済
主
体
を
研
究
対
象
と
し
、
ベ
ト
ナ
ム
経
済
の
中
の
日
本
か
ら
は
見
え
に
く
い
側
面
を
と
ら
え
る
こ
と
を
目
的
と
し
た
。
本
書
の
も
う
ひ
と
つ
の
特
徴
は
、
研
究
対
象
を
「
産
業
」
で
は
な
く
「
経
済
主
体
」
と
し
て
い
る
点
で
あ
る
。
近
年
、
ベ
ト
ナ
ム
の
経
済
主
体
の
中
に
は
異
な
る
業
種
へ
の
事
業
展
開
を
行
う
も
の
が
数
多
く
見
ら
れ
る
が
、
こ
の
よ
う
な
、
産
業
を
単
位
と
し
た
研
究
で
は
と
ら
え
き
れ
な
い
現
象
が
数
多
く
見
ら
れ
る
よ
う
に
な
っ
て
き
た
。
政
策
や
外
部
環
境
が
激
変
す
る
中
で
、
ベ
ト
ナ
ム
の
経
済
主
体
は
さ
ま
ざ
ま
な
戦
略
で
発
展
や
生
き
残
り
を
模
索
し
て
い
る
。
彼
ら
の
戦
略
を
明
ら
か
に
す
る
こ
と
で
、
産
業
研
究
に
は
な
い
新
た
な
視
点
を
提
供
す
る
も
の
で
あ
る
。
本
書
の
第
一
章
と
第
二
章
は
、
か
つ
て
計
画
経
済
時
代
の
主
役
で
あ
っ
た
国
有
企
業
の
変
容
に
関
す
る
論
考
で
あ
る
。
第
一
章
(
石
田
論
文
)
は
、
大
規
模
国
有
企
業
を
分
析
し
て
い
る
。
一
九
九
〇
年
代
前
半
か
ら
大
規
模
化
を
達
成
し
た
国
有
企
業
は
、
全
く
異
な
る
業
種
へ
経
営
参
入
す
る
の
み
な
ら
ず
、
金
融
・
証
券
・
不
動
産
部
門
を
通
し
て
資
金
調
達
能
力
を
高
め
て
い
る
。
一
方
、
第
二
章
(
石
塚
論
文
)
で
考
察
さ
れ
て
い
る
地
方
政
権
管
理
下
の
国
有
企
業
は
、
公
益
企
業
や
一
部
の
主
要
産
業
以
外
は
生
き
残
り
が
難
し
く
な
っ
て
い
る
。
多
く
の
地
方
国
有
企
業
は
民
間
企
業
と
の
競
合
に
さ
ら
さ
れ
る
か
、
大
規
模
国
有
企
業
グ
ル
ー
プ
の
傘
下
に
入
る
か
と
い
う
選
択
を
迫
ら
れ
て
い
る
。
第
三
章
以
降
は
、
民
間
経
済
部
門
や
個
人
経
済
部
門
の
主
体
に
関
す
る
考
察
で
あ
る
。
第
三
章
(
林
論
文
)
で
は
、
株
式
市
場
に
上
場
す
る
こ
と
で
成
功
を
収
め
た
元
国
有
企
業
の
典
型
事
例
で
あ
る
リ
ー
冷
凍
冷
蔵
株
式
会
社
(
R
E
E
社
)
を
取
り
あ
げ
て
い
る
。
主
要
な
製
造
業
企
業
の
多
く
が
関
連
産
業
の
外
資
企
業
と
戦
略
的
提
携
を
結
ぶ
中
で
、
同
社
は
電
機
産
業
と
は
関
連
の
な
い
外
資
フ
ァ
ン
ド
を
大
株
主
と
し
て
迎
え
、
欧
米
企
業
型
の
コ
ー
ポ
レ
ー
ト
ガ
バ
ナ
ン
ス
に
転
換
し
た
こ
と
が
特
徴
的
で
あ
る
。
第
四
章
(
後
藤
論
文
)
で
分
析
さ
れ
て
い
る
縫
製
産
業
の
中
で
成
長
を
遂
げ
て
い
る
輸
出
企
業
は
、
流
通
ネ
ッ
ト
ワ
ー
ク
を
通
し
て
技
術
力
を
吸
収
し
、
生
産
工
程
の
高
度
化
を
成
し
遂
げ
て
い
る
。
今
後
は
、
製
品
の
付
加
価
値
の
高
度
化
や
企
業
自
身
に
よ
る
市
場
と
ブ
ラ
ン
ド
形
成
と
い
っ
た
機
能
面
の
高
度
化
が
課
題
と
な
っ
て
く
る
。
第
五
章
(
藤
田
論
文
)
の
考
察
対
象
で
あ
る
二
輪
車
産
業
で
は
、
外
資
企
業
が
市
場
を
席
巻
す
る
中
で
、
国
内
の
組
立
て
企
業
は
農
村
を
タ
ー
ゲ
ッ
ト
と
す
る
低
価
格
・
低
品
質
製
品
に
特
化
し
て
業
績
を
伸
ば
し
て
い
る
。
こ
れ
ら
の
企
業
は
、
外
部
調
達
で
き
る
汎
用
部
品
の
比
率
を
高
め
、
部
品
の
設
計
も
中
国
系
サ
プ
ラ
イ
ヤ
ー
に
依
存
す
る
と
い
う
コ
ス
ト
削
減
戦
略
に
よ
り
、
低
価
格
車
の
製
造
を
行
っ
て
い
る
。
第
六
章
(
荻
本
論
文
)
は
、
国
内
銀
行
の
変
容
を
細
述
し
て
い
る
。
主
要
な
銀
行
は
強
力
な
外
国
銀
行
と
戦
略
的
提
携
関
係
を
結
び
、
リ
テ
ー
ル
分
野
の
強
化
を
進
め
て
い
る
。
そ
の
一
方
で
、
中
小
規
模
の
銀
行
の
中
に
は
、
健
全
性
に
問
題
の
あ
る
銀
行
も
あ
り
、
一
〇
〇
%
外
資
銀
行
の
参
入
自
由
化
に
よ
り
、
淘
汰
や
統
合
が
進
む
も
の
と
考
え
ら
れ
る
。
第
七
章
(
坂
田
論
文
)
は
、
北
部
農
村
が
工
業
化
し
て
い
く
う
え
で
主
要
な
ア
ク
タ
ー
と
な
っ
て
い
る
零
細
自
営
業
者
と
彼
ら
が
集
積
し
て
い
る
「
工
芸
村
」
の
発
展
の
様
相
を
取
り
あ
げ
て
い
る
。
彼
ら
は
、
拡
大
す
る
都
市
部
の
低
級
品
需
要
に
応
え
え
る
こ
と
で
急
成
長
し
て
き
た
が
、
環
境
問
題
を
引
き
起
こ
す
な
ど
、
持
続
的
な
成
長
と
い
う
点
で
は
、
好
ま
し
く
な
い
存
在
に
な
り
つ
つ
あ
る
。
第
八
章
(
寺
本
論
文
)
で
は
、
障
害
者
を
雇
用
す
る
経
済
主
体
と
い
う
、
社
会
的
な
使
命
を
負
っ
た
主
体
が
考
察
の
対
象
と
な
っ
て
い
る
。
一
九
九
〇
年
代
半
ば
に
障
害
者
を
雇
用
す
る
経
済
主
体
に
対
す
る
経
済
面
の
優
遇
政
策
が
始
ま
り
、
障
害
者
を
雇
用
す
る
主
体
が
増
加
し
た
。
し
か
し
、
他
の
経
済
主
体
と
の
競
争
を
強
い
ら
れ
る
と
い
う
厳
し
い
状
況
も
生
み
出
さ
れ
て
い
る
。
経
済
主
体
の
「
変
容
」
の
中
身
を
簡
潔
に
ま
と
め
れ
ば
、「
各
主
体
間
の
多
様
化
と
階
層
化
」
と
い
う
こ
と
に
な
る
だ
ろ
う
。
そ
れ
は
、
法
・
制
度
整
備
が
進
む
こ
と
で
経
済
活
動
に
と
も
な
う
権
利
と
義
務
が
明
確
に
な
り
、
経
済
主
体
が
多
様
な
戦
略
を
と
る
こ
と
が
可
能
に
な
っ
た
こ
と
の
帰
結
で
あ
る
。
と
は
い
え
、
資
本
や
技
術
、
経
営
経
験
が
乏
し
い
彼
ら
が
取
る
戦
略
は
、
必
ず
し
も
当
該
産
業
の
成
長
や
国
家
経
済
管
理
に
と
っ
て
望
ま
し
い
も
の
ば
か
り
で
は
な
い
。
あ
る
べ
き
戦
略
や
政
策
を
提
示
す
る
の
で
は
な
く
、
彼
ら
の
戦
略
性
を
で
き
る
だ
け
丁
寧
に
記
述
す
る
こ
と
を
通
し
て
ベ
ト
ナ
ム
経
済
の
今
日
の
姿
を
描
き
出
そ
う
と
し
た
の
が
本
書
で
あ
る
。
(
さ
か
た
し
ょ
う
ぞ
う
/
ア
ジ
ア
経
済
研
究
所
地
域
研
究
セ
ン
タ
ー
)
アジア経済研究所
2009年