四国地方における海岸災害について
上 森 千 秋
(高知大学農学部農柴工学教室)
On the coastal disaster of the Shikoku island
Chiaki Agemori(Laboj・atory ofAgricultural Engineering, Agriculture FacidりKoclii Uni-uersiり)
は し が き 四国の海岸線延長は約3,000 km あり,南の一部を除けば沈降海岸に属し,海退によってできた もののようである。 従って山地海に迫り,海岸・河川沿いの僅かな平地が主な産業基盤として開発されているような 状況であるので,海岸災岸は四国の社会,経済に対し非常に大きな障害を与・えることになる。 海岸災害の外力としては,地盤変動,高波,津波,高潮等があり,それぞれ特異な被害を与えて いるが,中でも地盤変勁および高波による被害が大きい。 本報は,京都大学速水頌一郎教授を代表とする文部省科学研究費(特定研究)の補助による「海 岸災害の総合的研究」の分担者として,四国の海岸災害の゛実態を調査したものから,当地方に発生 する災害の種類,機構,規模等についてその概要を述べたものである。 研究の緒を与えられ,ご指導いただいた京都大学速水教授,岩垣教授並びに調査に当ってご協力 いただいた四国各県の担当部課の方々に対し心からお礼申し上げる。l 1.地盤変動災害 近年四国における地盤変動災害は,昭和21年12月に発生した南海地震によるものである。震災直 後の変勁量は図。1(1)のようで,南海スラストにより野根一奈半利一下田一月灘線以南で隆起,以 北で沈下か起った。この変動量は,その後幾分回復したところもあるが,さらに増大したところも ある。 この沈下により海岸近くの芯地は著しい排水不良をきたし,さらに海水浸入によって塩害が発生 し廃止田も生じた。市街地および工場地帯は,河口や内湾の沖積地に発達しているため,とくに沈 下量が大で著しい内水障害をきたした。 陸地の沈下は相対的な海面上昇をきたし,波の遡上限界か大となり,農地および諸施設に対する 波浪災害を増大した。 災害発生後再度の調査によって復旧事業が行なわれたが,未だ十分でなく,さらに徹底した海岸 低地の排水,土地のかさ上げ,・海水(浸透水および波)の浸入防止のための海岸堤の強化等が望ま れる。 南海スラストによる四国地方およびその付近の急激な地盤変動は表。。1(1)のように,自鳳大地震 以降大体100年に1回の確率で発生している。この点においても地盤変動災害は四国沿岸にとって は宿命的なものであり,その対策事業の重要性が強調できよう。
248 回 数 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 0 1 1 高知大学学術研究報告 第13巻 自然科学 n 第12号 ±0 図 表. 1 1 南海地震(昭和21年1,2月)による地盤変動量 西南日木外帯における著名地震 発 震 日 白鳳13年( 684. 11. 29) 天平6年( 734. 5. 28) 仁和3年( 887. 8. 26) 正平16年(1361. 8. 3) 明応7年(1498ン9. 20) 慶長9年(1605. 2. 3) 宝永4年(1707. 10. 28) 安政元年11月4日 C1854. 12. 23) 安政元年11月5日 (1854. 12. 24) 昭和19年(1944. 12. 7) 昭和21年(1946. 12. 21) 震 域 土佐その他東海,南海,西海諸道 奈良,畿内7道 京都,5畿7道 畿内,南海道-一部 東海道仝般 東海,西海,南海諸道 東海道,畿内,南海道および東山,西海 両道の一部 東海,東山,北陸,山陽,山陰,西海, 南海諸道 , 東海,南海,西海諸道 東海道,紀伊半島 南海道,紀伊半訪 -40∼弓0 主震央位置 E 134°(y N 32°3y ? ENENENENENENENENEN O L T i 5 0 0 5 2 3 3 1 9 134°4(F 32°5(y 136°(ド 34°10' 134°3(ド 32°4y ? 135°3y 33°1(y 137°5(y 34°(ド 134°1y 32°4 136 33 135 33 1 4 0 0 0 y y 2 ( y ( ド 2.波浪災害 本地域は台風の来襲頻度が大で,台風および低気圧に伴なう高波によって大規模な災害か発生す
四国 における海岸災害について 249 る。 高知県全域および徳島,愛媛県の太平洋岸はfetchが大で,かなりの高波か発生し十分発達しう る。またこれらの海域では合風が北緯20°ぐらいにあるときからうねりが発生し,土佐湾では台風 の度毎に波高2∼5m,」同期8∼14秒のうねりが来襲する。 瀬戸内はfetchの関係で,さほどの高波は発生しないが,低気圧の進路によってはかなりの波が 発生するところもあり,島ショ部では冬期風波による災害か発生する。 波浪災害は,単に波作用のみによるものと,これに漂砂移動を伴なうことによって起るものとに 分けることができよう。 (1)波作用によるもの 波作用による災害は,a.天然海岸に対する波の遡上。,跳波による農地,諸施設の流失,崩壊, b.海岸堤,護岸に対する跳波,越波による背面施設の流失,崩壊,さらに構造物自体の崩壊,c. 砕波による海岸堤基礎の洗掘,中詰土砂の吸いだし,波力による構造物の崩壊の形となって表われ る。 大規模な災害は台風時の高波によるものか多く,その進路によってとくに災害の著しい海域が生 ずる。 図.2 台 風 進 路 図
250 台風名 伊 勢 湾 合 風 第 一 一 室 一 戸 台 風 昭 和 -一 一 = 高知大学学術研究報告 第13巻 自然科学 n 第12号 − −一一 表.2 土佐湾沿岸の計算波浪 年月日時 34. 9. 24. 09 21 25. 09 21 26. 09 18 36. 9. 12. 09 15 21 13. 03 09 15 21 14. 03 09 15 21 15. 03 09 15 21 16. 03 09 38. 8. 4. 15 5. 12 6. 09 21 台風位置 70351558854tn o9 l8 4 ^O vO-<d' O^'ss^ m LO 213213213213213313 NENENENENENE NENENENENENENENENENENENENE NENENENE 15.5 137.5 16.3 136.1 17.0 134.8 914351779027 73829100103Q/ 131313232322 1 1 1 1 1 1 0 7 c ノ ` 1 一 春 5 8 6 2 2 2 I 128.7 r o o o r o 一 I 1 7 8 8 2 2 2 1 129.3 O c -5 c r y C T \ I I I ・ 9 O \ O N C 3 2 2 2 3 1 1 31.3 132.3 33.1 133.9 I NE 1 1 1 NENENE 0 8 3 8 0 7 4 0 一 一 一 一 ゆ I 一 1 0 6 3 6 5 6 6 5 2 3 2 3 2 3 2 3 土佐湾ま での距離 1,452 1,266 1,014 722 372 193 1,986 L879 1,780 1,678 L621 L500 1,382 1,272 9 9 1 2 7 71 9 8 1 771 0 4 O O M C ︱ L o v o C N i ■ ' O " r s i / n ︶ r へ り 4 4 z ヒ 1,785 1,115 1,000 757 発生域・の波 一 雄トn 10:0 9.8 9.5 9.5 5 8 8 4 0 4 2 2 8 1 1 響 一 奉 e 9 9 9 ‘ 9 9 10.0 10.2 1,0.1 8.0 8.2・ 9.8 10.0 10.4 10.2 9.5 7.3 6.4 9 0 1 1 1 9・19 9 4 3 2 2 8 8 8 8 7.6, 5.7 7.8 2 1 1 3 5 7 v O 一 I S 一 一 I I 8 8 8 8 8 8 8 7.4 7.6 n l o C O t -C O 一 ■ 一 I 春 O O O O O O O O C O 7.0 6.4 7.9 0 0 `0 8 8 8 到達日時 26.11 18 22 27.01 10 05 15.05 0 6 0 9 1 2 1 6 18 19 23 4 5 5 7 90 0 0 0 0 61 12 14 L O O ^ 1 0 6.16 23 7.18 ・23 沿 岸 波 -沁 | 1 0 2 7 4 4 6 5 7 0 9 4 り 乙 一 一 一 一 I I 3 3 4 4 5 r -i 2.16 2.53 2.58 2.67 3.03 2.40 3.87 3.84 2.80 3.20 4.60 5.20 6.03 6.32 6.27 5.10 6.40 2.34 3.55 3.73 4.46 浪 一 万4 sec 12.5 12.1 11.3 10.5 9 8 − 一 8 6 13.7 13.3 13.0 12.8 12.8 12.7 12.6 12.4 11.1 10.7 10.9 10.8 10.8 10.6 9.7 8.0 6.4 13.0 11.4 11.1 10.4
十 八 年 九 号 台 風 四国地方における‘海岸災害について (上森) 7. 09 21 8. 09 L O ■ ・ ︱ * < " O O N 1 C -J < Z > C > NENENENENENENE 27.1 134.2 27.8 133.4 28.8 133.0 29.5 132.9 30.2 132.9 31.0 132.7 32.0 132.2 2 3 6 4 3 0 c r v 7 9 8 ・ 1 4 5 7 6 5 4 4 3 2 1 11.0 11.0 12.0 11.0 11.0 10.8 9.5 1 1 8 1 1 1 2 9 9 9 9 9 9 oo 8.07 18 1 LO CTv n 0 0 0 1 9 5.37 5.55 7.26 6.55 6.83 7.28 251 11.0 10.8 11.2 10.5 10.1 10.0 8.8 近年においては,伊勢湾,第二室戸台風によって高知県東部および徳島県沿岸が,昭和38年9号 台夙によって愛媛県沿岸が大きな災害を受けた。これらの台風の進路図および著者の方法(2)で計 算した土佐湾(深海領域)の波は図。2,表。2のようである。大きい被害を受けた個所は災害原因 別に図。3に示した。* ,れブ・|・ 図.3
o伊勢湾台ノiL
乙チリ地震津波
・.第二室戸台ノ礼
口j8年7号台乱
海岸災害分布図
その1例を挙げると,第二室戸台風による高知県の主な被災延長は建設省所管5.3 km, 運輸省 所管3.1kmをはじめ10 km 以上に及び,そのほとんどは安芸市以東で発生した。この台風による 家屋の全壊流失は奈半利町44戸,室戸市21戸におよび,崖上・海岸堤背後のものは跳波によってた * 香川県は調査しなかったので図。3 の無記入は全く災害のないことではない。また各県とも被災のウ エイトが異なり,作図上の省略もある。なお図中の数字は被災延長(m)を示す。252 高知大学学術研究報告 第13巻 ・自然科学 n 第12号 たきつぶされ,浜つづきのものは遡上波によって押し流された。室戸市羽根の1民家は,汀線から 約lOOm後方にある海岸堤を越した第3,第4の僅かの2波によって標高13m内外の屋根の上か らたたきつぶされた。 また伊勢湾台風時室戸市では,標高7m内外,汀線から約100 m まで幄ある農地か遡上波および 越波によって流失し,さらに国道や民家数戸が流失崩壊した。 このように太平洋岸の遡上波および跳波は,標高10 m, 距岸100 m 以上の内陸に及ぶので,海 岸線はかなり強化されているが,ところどころのweak point ではまだ大きな災害が発生している。 本地域の西南部では石積の海岸堤や護岸が多い。これは開発の遅れや被害度が小さいことにもよ ると思われるか,法尻洗掘,中詰ニヒ砂の吸いだしか見られる。これらは天端の陥没や石積の乱れと なって現われており,未だ崩壊してないため災害復旧の対象になっていないが,次回の高波による 崩壊が予想されるので,早急に復旧しておく必要かあろう。 (2)漂砂移動を伴なうもの 波のエネルギが大きいので,砂浜海岸では漆砂移動が激しく,これによって二次的な障害か発生 する。 a 浸食障害 繰返す波作用による漂砂の小粒化,河川流砂の減少および骨材採取による海岸漂砂の減少,海岸 構造物築造による反射波の増大等により,海浜は徐々に浸食傾向を帯びてきている。 海岸浸食のとくに目立っているのは,徳島県那賀川以北の海岸である。土佐湾は従来滞積海岸と 見なされてきたか最近浸食のみられるところもできた。 海岸浸食は,天然海浜の減少による陸上部への波の浸入皮を大にし,波浪災害を増大するばかり でなく,海岸構造物を不安定にして崩壊に導びく。 第二室戸台風防安芸市以東の海岸堤の倒壊は,堤前面の急激な洗掘によるもののようであった。
表。2に掲げた第二室戸台風最盛期の波に対し,著者の導いた漂砂移動のnull point Hi。ノT尚gL)
= 1 {Ho:沖波波高,T:周川,j:漂砂の水中比m,£):漂砂の中央直径としたとき,左辺か1よ り大になると浸食)(3)を適用すると,£)=16cm以下の漆砂は浸食されることになり,著しい浸食 か予想できた。事実その後の測定によると,安田,奈半利の海岸では堤前而が一様に2∼3mも洗 掘された形跡があり,根入の少ない海岸堤は容易に倒壊したのである。 海岸堤脚部の洗掘防止のため,徳島県今津坂野海岸,果浦海岸等では六脚ブロックによる防砂突 堤が施工されているが,数多い施コニは堤脚部における海面上昇を起し,かえって洗掘を増大するこ とがある。 また防砂突堤は,波と漂砂との掃流力的な関係から生ずる二次元的漆砂移勁による浸食に対して は,ほとんど防砂効果は認められない。従って二次元的な場合には根固めまたは離岸堤(一文字 堤),三次元的な場合には突堤と,漂砂の移動方向によってそめ工法を変える必要かおる。 b 滞砂障害 漆砂滞積による障害は,河口や港口に発生するか,とくに波のflatな海域においては重嬰な問題 である。 土佐湾沿岸は,波がnatな上,海浜か急深で漂砂粒径が大きいため,汀線漆砂の移動か激しく, 内水掃流力の小さい巾・小河川の河[│はほとんど閉塞現象を生じ,下流部の低平地は出水のたび に,はんらん,浸水被害を受けていた。高知県の新川川,後川,香宗川,岸本川,夜須川,和喰川 等はとくに被害が大きく,近年に至って画期的な河口処理がなされた。 河口処理工法(3)には,導流堤,暗渠,その他かおるか,工法諸元はその海浜の地形と漂砂特性 とによって選定されるべきである。 ・ 河口断面は河川流と,波勁流,漂砂粒径との釣合によって保たれているものであるから,河口断
?4- a 25a む す ひ 四国地方に発生する海岸災害の概要について述べたが,わずか数例によっても,地域的に頻発す る災害の形態が分類できそうに思われる。よって今後海岸地形,海象の解析と災害の実態とを更に 図。4 チリ地震津波時の潮位変動 (昭和35年5月) このため徳島県橘湾ではD. L.= 4.4 mを記録し,高さ3. 5 m内外の海岸堤は越流によって崩壊 し,総延長2kmに及ぶ被害を受けた。徳島県ではこのほか辰巳干拓堤防に大きな被害を与えたか, 高知県では須崎湾の奥で£)。£。= 4.1mとなり,高さ3.8mの海岸堤が越流により約800 m 破堤 し,農地および農用施設に大きな被害を与・えた。 破堤した海岸堤はほとんど石積で,越流時の大きい流速により(須崎港[lにおいて高知海上保安 部の巡視船は6 m/s 以上の流速に遭遇した],背面が著しい洗掘を受け,引き波時に容易に崩壊し た模様である。 従って,津波災害の予想されるところでは,越流しても破堤しないように完全被覆堤にするとと もに,とくに法尻部の洗掘が発生しないような堤防構造にする必要があろう。 四国地方。における海岸災害について (上森) 253 面を大きく保つためには,河道改修を行ない内水の掃流力を増大することが最も肝要である。 港口処理は,船舶の大きさによる航路幅とミオを同時に保つことに困難さかおるが,あまり長大 な突堤を施工すると他に障害を与える。例えば高知港左岸種崎海岸の浸食は,港口保持のため右岸 桂浜に設けた防波堤の影響によるものであり,徳島県恵美須海岸の浸食は粟津港突堤の影響による ものである。このような海浜の変形は構造物築造によって漂砂移動に不均衡が生ずるため発生する もので,比較的急速に進行するが,変形かおる程度進めば再び第二の安定形状をつくる。 3.津波災害 津波災害は,特定の海域すなわち奥深い狭湾に発生するもので,近年の災害としては南海地震, チリ地震によるものかある。 南海地良津波は,須崎港(潮位+ 4.4 m)を最高に,肩知港,宇佐港,下田港周辺の市街地に大 きい災害を与えた。 チリ地に津波は,三陸海岸より2時間ほど遅れて四国に到達し,小松島港,高知港,宇和島港で は図。4のように約40分周期のかなり大きい潮位振動が12時間あまり継続観測された。 (m 1 0 叩・ 潮 位へ?︶ / 0 − 2 0
254 高知大学学術研究報告 第13巻 自然科学 n 第12号
考察することによって,本地域の災害予防図を作ることも可能であろう。今後皆様のご支援によっ て,その方向へ努力してゆきたいと思っている。
参 考 文 献
(1)沢村武雄 西南日本外側地震帯の活動と四国およびその付近の地質,地殼運勁との関係 高知大学学術研.
究報告Vol. 2, No. 5 昭.28 y
(2)上森千秋 台風に伴う波の予報 工学研究Vol. 7, N0.4 昭.33
(3) // 河川吐ロの閉塞とその処理に関する研究 高知大学農学部紀要No. 9 昭.37
写真.1 遡上波による農能道路の流失 (室戸市 伊勢湾台風)
写趾 2 遡上波による農地.家屋の流失.崩壊 (室戸市 伊勢湾台風)
写亙 4 砕波圧による荷上場の崩壊 (高知県佐賀港 S. 38. 9号台風)
写真.5 浸食による海岸堤の倒壊 (愛媛県 波方海岸)
写真.7 漂砂による河[│閉塞 (高知県新川川 S. 28. 13号台風)