ユビキタスコンピューティングの世界を実現する革新的ネットワーク技術:5.ユビキタスネットワーク実現のためのQoSルーティング技術
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(2) Special Features: Revolution of Networking Technologies to Support the Ubiquitous Computing Environment. 受信者へのある特定のフローに対する QoS 保証,具体. の場合とがある. 以下では,IntServ における Guaranteed Service(GS;. 的には帯域,遅延,パケット損失率などのパラメータ を保証するためのルーティング(経路制御)を考える.. RFC2212),あるいは DiffServ における Expedited For-. 扱うフローは,受信者が 1 人であるユニキャストの場合. warding(EF; RFC2598)のような,フロー単位での QoS. と,送信者 1 人に対し受信者が複数いるマルチキャスト. 保証ができる枠組みを前提に,RSVP などで採用されて いる受信者主導型のフロー単位の資源予約における QoS ルーティングを扱う.資源予約のおおよその流れは以. bw=3, delay=1 bw=1, delay=2 bw=3, delay=1. 下のようになる.. S. 1.各ルータは全ルータに対して各リンクの QoS パラメ. T1. R1. T2. ータをリンク情報として広告する. bw=5, delay=2. bw=5, delay=2 S: Sender R: Receiver T: Router. は帯域(bandwidth),delay は遅延を示しており,矢 印の向きにデータを流すときに,確保可能な帯域と保. R2. T3. -1(a)で,bw. 証可能な遅延時間を示している.. bw=3, delay=1. 2.受信者は,帯域と遅延を指定して,資源予約要求の ためのメッセージ(シグナリングメッセージ)を送信. (a)QoS情報の広告. する.シグナリングメッセージを受け取った各ルータ は,資源予約要求を記憶し,資源予約可能な経路に沿. Request: bw=2, delay=6 T1. S. T2. ってシグナリングメッセージを送信者側に転送する. -1(b)は受信ホスト R1 が帯域 2,遅延 5 の QoS 要求. R1. で資源予約を行っているところを示している. 3.資源予約が行われた経路の逆向きにデータパケット S: Sender R: Receiver T: Router. T3. が転送される(. R2. -1(c)).. 受信者側から資源予約を行うことにより,スケーラ ビリティのあるマルチキャストが実現できる.受信者. (b)資源予約要求. 側から資源予約を行い,同じフローに対する資源予約 はマージすることで,送信者が個々の受信者の情報を S. T1. T2. QoS: bw=2, delay=6. S: Sender R: Receiver T: Router. 知 る こ と な く マ ル チ キ ャ ス ト 木 が 形 成 で き る(. R1. -1. (d)).. R2. T3. QoS 保証は,ネットワーク上の帯域などの資源をフロ ーが排他的に予約し,占有することで実現される.QoS. (c)QoS 保証されたフロー. ルーティングを行うルータは,フローごとの資源予約 要求に対し QoS の保証が可能な経路を計算するために, 各リンクの残り利用可能帯域などの情報(リンク情報) S. T1. T2. R1. を持ち,それに基づいてルーティングを行わなくては. QoS: bw=2, delay=6. ならない.残り利用可能帯域のようなパラメータの値. QoS: bw=2, delay=4. S: Sender R: Receiver T: Router. T3. は,資源の予約や解放によって頻繁に変動する.. R2. リンク状態型ルーティングプロトコルでは,リンク. Request: bw=2, delay=6. の状態が変動した場合,ルータはその情報を他のルー タに伝えるためにリンク情報の広告を行う.ベストエ フォートルーティングにおいては,リンク情報として. (d)QoS 保証されたマルチキャストフロー. 管理者が静的に決めたメトリック値を用い,リンクの 状態変化は切断と導通のみを扱うため,リンク情報の. -1 QoS. 広告頻度はそれほど問題にはならなかった.しかし, 43巻6号 情報処理 2002年6月. −2−.
(3) link. node (router). -2. QoS ルーティングにおいては,リンク情報が頻繁に変動. 行えばセットアップの失敗を避けることができる.. するため,QoS ルーティングに必要な正確性をある程度. Real Internet Consortium で開発したリンク状態型階. 保ったまま,リンク情報の広告回数を抑える仕組みが. 層化 QoS ルーティングプロトコル HQLIP(Internet. 必要となる.. Draft; draft-ohta-ric-hqlip-02)では,セットアップの失. 広告トラフィック量を減らす方法として,単純に時. 敗を抑制するために,リンク情報の変化の良し悪しを. 間制限を設ける方法と閾値を設ける方法が考えられて. 考慮して,リンクの状態が悪い方に変化した場合には,. いる(RFC2676)1).前者はリンク情報の広告を一定時. リンク情報の広告を即座に行う一方,リンクの状態の. 間以上の間隔を空けて行うというものであり,これは. 変化が(いかなる点でも)悪くなっていない場合には,. 確実にルーティング情報のトラフィック量を減らす直. 時間制限を設け,過去の悪い方への変化の履歴に応じ. 接的な方法である.後者は絶対的あるいは相対的な閾. て広告を遅延させる広告手法を採用している.. 値を設定し,リンク情報中の各パラメータがその値以. 佐々木らは,簡単なネットワーク上で,従来の手法 や HQLIP の手法を,広告トラフィック量,資源予約の. 上に変化した時にのみ広告を行うものである. ところで,QoS ルーティングにおける資源予約の失敗. 成功率および失敗時のセットアップの失敗の割合につ. は,ルーティングプロトコルがフローの要求を満たす. いて,シミュレーションによる評価実験により比較を. 経路を発見できない. (routing failure)と,. 行っている 3).ここでは以下の広告手法を比較する.. 不正確なリンク情報のために実際には資源が十分にな い経路を選択してしまう. • immediate. (set-up. failure)の 2 種類に分けられる 2).広告されたリンク情. リンクの状態が変化した場合に,制限なしに即座に. 報が不正確で本来のリンクの状態よりも「悪い」状態が. 広告する手法.. 広告されていた場合,最適でない経路が選択されるか, • timer. 経路制御の失敗に至る一方,本来のリンクの状態より. threshold. も「良い」状態が広告されていた場合,セットアップの. 時間制限手法と閾値を用いる手法の組合せ.パラメ. 失敗が生じ得る.セットアップの失敗は,シグナリン. ータ値が一定値以上(実験では利用可能帯域が 100 以上. グメッセージが状態を確立しながら経路に沿って流れ. または 50 %以上)変化していて,かつ一定時間間隔(実. ていって初めて検出されるものであり,オーバヘッド. 験では 15 秒)以上経過していないと広告を引き起こさ. が大きい.また,誤った経路を選択してしまうことで,. ない.. 他に要求を満たす経路がある場合でもそれを見落とす • hqlip. ことになる.. threshold. 単純な広告時間制限では,インターバルの間のパラ. HQLIP で採用されている手法に,閾値を用いる手法. メータ値の変化に追従できず,経路制御の失敗,セッ. を組み合わせたもの.パラメータ値が一定値以上(実験. トアップの失敗のいずれもが発生し得る.一方閾値を. では利用可能帯域 100 以上または 50 %以上)変化してい. 用いた広告制限では,リンクの状態の不正確さの上界. て,かつ HQLIP の広告の条件を満さなければ,広告を. を閾値で抑えることができるため,悲観的な見積りを. 引き起こさない. IPSJ Magazine Vol.43 No.6 June 2002. −3−.
(4) Special Features: Revolution of Networking Technologies to Support the Ubiquitous Computing Environment. 実験は,メッシュトポロジーでサイズが 2 × 2 のもの. 持すべきリンク情報の量を抑え,さらに階層化に伴う. -2)を用い,各々のリンクの帯域,遅延は一定とし. トポロジーの簡略化によって経路計算に要する時間を. て行った.予約フローの発生は,各ノードにおいてポ. 抑えることができる.OSPF(RFC1584)では階層は 2 つ. ワソン分布に従って 1 対 1 のフローを発生させ,目的ノ. しかないが,PNNI ver.1(ATM Forum 0055.00)や. ードはネットワーク全体から一様分布に従って発生さ. HQLIP では階層を多重に持つように定義されている.. (. せた.フローの持続時間は指数分布,個々のフローの. -4 に HQLIP によるエリアによるネットワークの階. 予約帯域は一様分布に従うものとし,ネットワークの. 層化の様子を示す.図-4(a)にネットワークトポロジー. 負荷を一定に保ったままフローの到着率を変化させた.. を示す.図-4(b)においてデータリンク層の各リンクに. -3(a)は,資源の予約や解放によってリンクの状態. 対して最下層のエリアを定義する.次に(b)で作成され. が変化し,それを他のノードに伝えるためのリンク情. たエリアのいくつかをまとめることで上位のエリアを. 報の広告トラフィック量を表す.横軸は各ノードに対. 定義する(図-4(c)).以下,複数のエリアをまとめるこ. するフローに対する資源予約の平均発生間隔(秒)を,. とで新たな上位のレベルのエリアを作成することを階. 縦軸はシミュレーション実験中に発生した広告トラフ. 層的に繰り返す.これにより,個々のルータ間のデー. ィックのネットワーク全体における総量を表している.. タリンク層リンクに対するリンク情報が集約されて,. -3(b)に各手法の資源予約の失敗におけるセットアッ. エリア間の仮想的なリンクに関するリンク情報として. プの失敗の割合を示す.これらから,リンク情報の変. 表現されるようになる(図-4(d)).. 化の良し悪しを考慮する HQLIP の手法に閾値を組み合 わせると,時間制限に閾値を組み合わせる従来の手法 と同程度の広告トラフィック量で,セットアップの失. 上位のレベルのエリア間の集約された仮想的なリン. 敗の率を,広告を即座に行う場合と同等に抑えること. クが,下位のレベルでは 2 つの経路を持つ場合,ベスト. できることが分かる.. エフォートの経路制御においては,集約されたリンク の帯域は,下位の 2 つの経路の帯域の和と考えるのが自 然かもしれない.しかし,フロー単位の資源予約を前 提とする QoS ルーティングにおいては,資源予約の要 求のあったフローに対して要求を満たす経路を割り当 てることができるかどうかが問題であるから,集約さ. 大規模ネットワークにおけるルーティングでは,ネ. れたリンクの帯域は,下位の経路の帯域の最大値と考. ットワークのトポロジー構造を,エリアと呼ばれる論. えなければならない.. 理的なまとまりに階層的に分割し,リンク情報の集約. 一般には,それぞれの経路での利用可能な QoS のパ. を行うのが常識である.階層化によって,ルータの保. ラメータは単純なスカラー量ではなく,(帯域,遅延). 250,000. 16. hqlip+threshold immediate timer+threshold. 200,000. hqlip+threshold immediate timer+threshold. 14 12. 150,000. 10 8. 100,000. 6 4. 50,000. 2 0. 0 4. 6. 8. 10. 12. 16. 14. (a)広告トラフィック量. 4. 6. 8. 10. 12. 14. (b)資源予約におけるセットアップの失敗の率. -3. 43巻6号 情報処理 2002年6月. −4−. 16.
(5) (帯域,遅延) 2.0.2.2 2.0.2.1 2.2.0.2. 2.0.0.1. node. 2.0.1.1 2.0.0.2 1.0.1.1 2.0.1.2 1.0.1.2. 2.2.0.1. A2. リンク. (7,3). interface (8,1). link. エリア. A0 (4,1). 1.0.0.2. 2.1.1.2 2.1.0. 2 2.2.1.1 1.0.0.1 2.2.1.2 2.1.1.1 1.0.2.2 2.1.2.1 1.0.2.1 2.1.0.1 2.1.2.2. (7,1). (2,3). B. A1. (a)リンクのQoS 情報 (a)ネットワークトポロジー. (7,4) area 2.0.2/24. 2.0.0/24 (4,3). 1.0.1/24. 2.2.0/24. 2.0.1/24 (2,4). 2.1.1/24. 2.2.1/24. 1.0.0/24 1.0.2/24. 2.1.2/24. 2.1.0/24. (b)経路のQoS 情報. (b)データリンク層にエリアを適用. A. {(7,4),(4,3)}. 2.0/16. B 1.0/16. 2.2/16. エリア中心 2.1/16 (c)複数の経路を集約した仮想リンクのQoS情報. (c)階層化を適用. -5. 2/8. のようなベクトル量となる.例として,A0,A1,A2, 1.0/16. B の 4 つのエリアが. -5(a)のようなリンクで結ばれて. いるとする.このとき A0 から B へ至る経路は. -5(b). のように 3 つある.各経路の QoS パラメータは,帯域に 関しては経路を構成する各リンクの帯域の最小値,遅 延に関しては各リンクの遅延の和であり,それぞれ(7, 4),(4, 3),(2, 4)となる.. (d)さらに階層化. ここで,A0,A1,A2 の 3 つのエリアを 1 つのエリア A に集約した際の,A から B への仮想的なリンクで利用. -4 HQLIP. 可能な QoS のパラメータ値はどのように定めるべきで あろうか? 3 つの経路の QoS のパラメータのうち,(7, 4)と(2, 4)については(7, 4)の方が「良い」が,(7, 4) IPSJ Magazine Vol.43 No.6 June 2002. −5−.
(6) Special Features: Revolution of Networking Technologies to Support the Ubiquitous Computing Environment. と(4, 3)とでは,片方は帯域が広く他方は遅延が小さい. 場合には,上位の仮想的なリンクが複数のベクトルか. ので優劣をつけることができない.仮に,集約された. らなる QoS 情報を持つことを許す必要がある.この場. リンクの QoS のパラメータとしてどちらか一方だけを. 合は,A から B への仮想的なリンクの QoS 情報を,{(7,. 選択をすると,上位のリンクは選択しなかった方の経. 4),(4, 3)}のような(帯域,遅延)のかたちの 2 つのベ. 路を用いれば満たすことのできる QoS 要求を満足でき. クトルの組で表すことになる.. なくなる.そのため階層化 QoS ルーティングにおいて. ここで,ベクトルの組で表現されるリンク情報には. 最下位のリンク QoS のパラメータがベクトル量である. 半順序関係がある.また,与えられた 2 つのリンク情報 からそのどちらよりも悪いリンク情報(下限),そのど ちらよりも良いリンク情報(上限)を求めることができ, ベクトルの列で表現されるリンク情報全体の半順序集 合は束(lattice)を構成する 3).前章で述べたリンク情報. 送信者S 2 3 4. の広告制限手法で用いられるリンク情報の良い悪いの. 1 1. 関係は,階層化 QoS ルーティングにおいてはこのよう な半順序関係に基づいて判定される.. 1. 6. 1 つのリンクに対する QoS 情報のベクトルの個数に制. 4. 限を設けないと,上位の仮想的なリンクの持つ QoS 情. 4. 報がいくらでも大きくなってしまい,リンク情報の集. 1. 9. 10. 10. 新たな 受信者R. S 2. 1. (a)ネットワークとマルチキャストフロー 3 S. 4. 2. 6. 4. 1. 6. 1. 4. 1. 9. 10. 4. 10. R 1. 9. 10. (d)PQC によるフローに関する情報の収集. R. 10 S. (b)フローの状態を考慮しない場合 2 S. 1 1. 3. 1. 2. 4. 1. 3 4. 1 4. 1 3. 4. 1. 1. 6. 6. 4. 1. 4. 4. 1. 9. 1. 9. 10. 4. R. 10. 10. (e)PQC により構成されるマルチキャスト木 R. 10. (c)最適なマルチキャスト木. -6. 43巻6号 情報処理 2002年6月. −6−.
(7) 約の効果がない.そのため,1 つの仮想的なリンクの持. 一部に関する情報を得る.これに従えば,最適経路で. つ QoS のベクトルの数を一定値に制限してリンク情報. はないものの,. が過度に大きくなることを防ぐ必要があり,その際に. できる.PQC は,Path メッセージの送られる経路(す. も半順序関係が用いられる.たとえば{(7, 4),(4, 3)}. なわち受信者から送信者へのベストエフォートトラフ. の 2 つのベクトルからなる QoS 情報を,1 つのベクトル. ィックの最短経路)に沿ってのみ,当該フローに対する. からなる QoS 情報に置き換える際には,(7, 4)と(4, 3). 現在の配送木の情報を集める方法と考えることがで. の下限(帯域については最小値,遅延については最大値. きる.. -6(e)のような経路を発見することが. をとったもの)である(4, 4)とする. IP ネットワークにおける QoS のパラメータとしては, 帯域と遅延が典型的であるが,商用サービスを考える 上では課金も重要である.すなわち,有限のネットワ QoS 保証マルチキャストルーティングにおいては,自. ーク資源を,ネットワーク上に遍在し互いに協調しあ. 分が参加しようとしているマルチキャストフローに対. うことのない多数のユーザ間で上手に共有させるため. して現在どのような配送木が構築されているかを,各. には,何らかの課金制度により交通整理を行うことが. 受信者が資源予約を行う前にどれだけ知っているかで,. 必須である.その際,ユーザの立場からすれば,必要. 選択できる経路が異なってくる.. な QoS 要求を満す経路であれば最も安価なものを選択. 例として, -6(a)に示すようなネットワークがあり,. したい.. 送信者 S から太線で示されるようなマルチキャストフロ. 既存の電話網のシステムでは,双方向の資源予約が. ーが配信されている状態で,新たな受信者 R がこのフロ. 発呼者主導で行われる.課金は発呼者側となるのが普. ーに対して経路を確立しようとする状況を考える.フ. 通であるが,フリーダイヤル(0120)のような受呼者側. ローの帯域は 5 であり,各リンクの数値はそのリンクの. 負担や,ナビダイヤル(0570)のような発呼者と受呼者. 空き帯域を示している.. の負担区分があらかじめ決まっているような方式も実. PNNI のように各フローの状態をまったく把握せずに. 現している.また,LCR やマイラインサービスのよう. QoS を満たす経路を計算する方式では,受信者 R が持つ. に発呼者が安価な経路を選択する仕組みもある.我々. QoS ルーティングのための情報は. がここで考えているインターネットにおける資源予約. -6(b)のようになる.. その時点の配送木を考慮しないと,受信者 R から送信者. では,単方向のフローの予約が受信者主導で行われる. S への帯域 5 以上の経路は存在しないようにみえるので,. ことを想定しているが,将来のインターネットが既存. 経路制御の失敗が生じる.. の電話網で実現されているサービスをすべて包含する. QOSPF(Internet Draft; draft-ietf-pkix-ipki-ecdsa-00). ためには,課金については送信者負担部分と受信者負. のように各フローの状態を完全に把握して経路を計算. 担部分とを自由に組み合わせて設定できるようになっ. する方式では,受信者 R は図-6(a)に示される情報を完. ていることが必要である.. -6(c)に示す経. マルチキャストの場合の課金は少々複雑である.現. 路を選択することが可能である.しかしそのためには. 行の電波による放送では,放送局の設備や電波使用料. 当該フローに関する全情報を受信者のところに何らか. などの費用は送信側が負担し,それを広告料やコンテ. の方法で集める必要があり,大規模ネットワークにお. ンツごとの料金徴収などで回収している.これは送信. いては現実的でない.特に送信者と受信者が近い場合. 側負担と考えることができる.この場合の送信にかか. に無駄な情報が収集されることになる.. る費用はマルチキャストの受信者数に依存しない.一. 全に知っているので,最適経路として. PQC4)は,RSVP のようなシグナリングプロトコルを. 方,電波による放送は視聴できるエリアが限定されて. 前提に,シグナリングプロトコルの Path メッセージに. いる.どうしてもある放送局の番組をそのサービスエ. PQ(Path QoS)と呼ばれるリンクにおける各フローの情. リア外から視聴したい場合,サービスエリア内に中継. 報を含めて各ルータに集め,それによって QoS ルーテ. 機材を設置し,別の地域へ転送するということが技術. ィングプロトコルによって広告されている情報を修正. 的可能である.これは,中継機材から先の通信費を受. し経路計算を行う方式である.例では,受信者 R は送信. 信者が負担しているとみなすことができる.このとき. 者 S に対して最短経路に沿って送った Path メッセージに. 中継放送の受信者が同地域に複数いて所要の通信費を. -6(d)に示すマルチキャスト木の. 分担することにすれば,マルチキャストの受信者が多. 対する応答により,. IPSJ Magazine Vol.43 No.6 June 2002. −7−.
(8) Special Features: Revolution of Networking Technologies to Support the Ubiquitous Computing Environment. いほど費用負担が小さくなる.すなわち,交通機関に. 今日のインターネットでは,ほとんどのサービスが,. おける,乗合バスのような同乗者の数に関係ない課金. ベストエフォート型の IP ネットワーク環境を前提に,. 体系と,タクシーの相乗りのように費用を同乗者数で. TCP による 1 対 1 のデータ伝送上で実現されている.. 按分する課金体系との両方が考えられるということで. TCP は,ネットワークの混雑に応じて速度を調節する. ある.. 優れた輻輳制御機能を備えており,ネットワーク層レ. 現行の電波による放送においては,番組の割当ては. ベルでの QoS 保証のない環境下で安定した伝送を可能. 放送局により固定的に行われているが,QoS 保証のある. としている.しかし,そのことが逆にインターネット. IP マルチキャストが実現されたインターネットでは,. における QoS 保証やマルチキャストの普及を妨げてい. 誰もが適正な課金を負担することで「インターネット放. る面があることも事実である.ここで述べたように,IP. 送局」になることができる.また受信者は,世界中のど. ネットワークにおけるフロー単位での QoS 保証やマル. こにいても,放送局との距離や受信者の数に応じた金. チキャストに必要な要素技術は確立してきており,ま. 額を負担することで視聴できる.このためには,マル. たプロトコルの実装も完成している.今後はその普及. チキャストの課金体系において,送信者負担部分と受. のための努力やキラーアプリケーションの開発が望ま. 信者負担部分の両方を扱えるようになっていることと. れるところである.. マルチキャストにおける費用負担が「乗合バス」と「タ. 現在,次世代ネットワークとして,家電機器のよう. クシー相乗り」の両方に対応していることが必要である.. な各種アプライアンスにネットワーク機能を取り込む. さらに,ここでは述べられなかったが,エリアによる. 研究・開発や標準化活動が盛んに行われている.今後. ネットワークの階層化と,エリアに対応する事業者間. の研究開発が,いかにアプライアンスを既存のネット. の精算の仕組みも備えている必要がある.Real Internet. ワークに接続するかという観点にとどまらず,アプラ. Consortium で開発した資源予約プロトコル SRSVP. イアンスを取り込みつつ地球規模のヘテロジニアスな. (Internet Draft; draft-fujikawa-ric-srsvp-03)は,以上の. ネットワークとして成長を続けるインターネットを,. 点を考慮して設計された課金プロトコルが実装されて. どう運用し,その上でのサービスをどう実現していく. いる 5).. かという観点にたって,さらなる進展を得ることを期 待したい.. 1)Apostolopoulos, G., Guerin, R. and Kamat, S.: Implementation and Performance Measurements of QoS Routing Extensions to OSPF, INFOCOM '99, pp.680-688(1999) . 2)Shaikh, A., Rexford, J. and Shin. K. G. : Evaluating the Impact of Stale Link State on Quality-of-Service Routing, IEEE/ACM Transactions on Networking, Vol.9, No.2(2001). 3)佐々木基晴, 小山洋一, 藤川賢治, 岡部寿男: QoS ルーティングにおける メトリック情報の良し悪しに応じた LSA の時間間隔制限手法, 情報処 理学会研究報告・DPS-105(2001). 4)Goto, Y., Ohta, M. and Araki, K.: Path QoS Collection for Stable Hop-by-Hop QoS Routing, Proc. Inet97(1997). 5)盛 威, 藤川賢治, 岡部寿男: QoS 保証マルチキャストを提供するイ ンターネット上での課金方式, 情報処理学会研究報告・QAI(2002). (平成14 年5 月10 日受付). すべての電気機器に IP ネットワーキング機能が搭載 される新世代のインターネットにおいては,現在の固 定電話が持つ品質(QoS)保証の機能や,電波による放 送が担っている広域マルチキャストの機能がすべて統 合されたものになる.本稿では,そのような考えのも とに,全世界規模をも対象とした End-to-end の QoS マ ルチキャストルーティングのための基礎技術について 述べた.. 43巻6号 情報処理 2002年6月. −8−.
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