Ⅰ はじめに 勝浦,浜崎( )は,自尊感情について「あり のままの自分でよいと感じ,主体的に行動しようと する際の意欲を支える感情」と定義し,保育者や保 護者が幼児の姿を客観的に確認し,自分の保育,養 育を省察できることを願って「他者評価式幼児用自 尊感情尺度(表 )」を開発した。 一般的に「省察」とは,振り返りのことを指すが, 西( )は,省察について,「保育の中では子ど もたちもさまざまに思いをめぐらせており,保育者 の思いもよく感じとっているものである。省察は, 目の前にいる子どもたちの力を得て進む相互的な過 程として,新たに捉え直されるべき」と述べている。 このように,保育者が,幼児の自尊感情を意識した 保育を行いながら,「他者評価式幼児用自尊感情尺 度」を利用して幼児の姿を確認し,相互的に自己の 保育について考えることは,幼児の自尊感情を育む 保育を行う上で重要であると考えられる。 また,瀧川( )は,保育者の力量形成につい て,「‘自分の保育を語る’‘特定の場面を語る’‘そ れをエピソードなどの形で文字情報にする’だけで なく,いかに個々の保育者の読み取りや気づきを職 員間で共有し,多様な視点を得ることが大事」であ ると述べており,幼児の姿の読み取りについて話し 合い,職員間で共有することの有効性を示唆してい る。現在,保育現場では,多忙による研修等の時間 の確保の難しさが課題としてあげられているが,教 職員が同じ視点で保育を行い,幼児の姿に照らし合 わせて自己の保育を語ることは,多様な視点を得る 有益な機会になると考えられる。 そこで, 年 月から 月において,「他者評 価式幼児用自尊感情尺度」と,「幼児の自尊感情を 育む保育における留意事項(勝浦,浜崎, ,表
幼児の自尊感情を育む保育実践における
園内研修での取り組みの実際
勝 浦 美 和
In-School Staff Development in Kindergarten that fosters the self-esteem of children in early childhood
Miwa K
ATSUURAABSTRACT
In this paper, we focused on In-School Staff Development in Kindergarten.
Using the SCAT(Steps for Coding and Theorization)method, we qualitatively analyzed the content of In-School Staff Development in Kindergarten and the stories of Childcare providers. Then, we confirmed what kind of viewpoint was obtained and what was shared in In-School Staff Develop-ment in Kindergarten. In addition, we examined how Childcare providers perceived “Notes on child-care that nurtures self-esteem” and provided childchild-care.
As a result, Childcare providers responds to the child by looking at the child in front of him and going back and forth between the images of the child created in the caregiver through his involve-ment and experience. It was inferred. Therefore, there is a possibility that Childcare provider’s efforts to accept the child as it is, such as one’s unconscious feelings and the common concept, may have some influence. From these things, it is necessary for Childcare providers to clarify the viewpoint of whether what they feel is necessary for their children, and to abandon excessive wishes and try to be close to their feelings. Conceivable.
KEYWORDS: In-School Staff Development in Kindergarten SCAT self-esteem understanding of
chil-dren in early childhood childcare providers
Bull. Shikoku Univ. : − ,
研究ノート
)」を用いて保育実践への応用可能性を検討した (勝浦,印刷中)。 実際に,介入研究の つとして設定した園内研修 では,事例をもとに様々な視点から幼児の姿の読み 取りが行われ,保育者が「自尊感情を育む保育にお ける留意点」を継続的に意識することで,「他者評 価式幼児用自尊感情尺度」における幼児の姿にポジ ティブな変化をもたらしていた。しかし,園内研修 において,どのような語りがなされ,保育者の意識 に影響を与えたかについては,まだ明らかにされて いない。 そこで,本稿では,園内研修に焦点をあて,園内 研修及び担任保 育 者 へ の イ ン タ ビ ュ ー 逐 語 禄 を SCAT(Steps for Coding and Theorization)の手法 を用いて質的に分析し,研修内容及び保育者の語り を確認する。それにより,園内研修において,どの ような視点が得られ,何が共有されていたのか,ま た,保育者が「自尊感情を育む保育における留意事 第 因子 自己信頼・主体性 大勢の前でも,積極的に発言する。 自分に自信をもって様々なことに取り組もうとする。 周りの意見に流されず,自分の考えで行動できる。 初めてのことや人にも自分から積極的に関わる。 嫌なことや困ったことを相手にきちんと伝えることができる。 自分の思いを素直に表現できる。 第 因子 協調性・達成意欲 時間がかかっても途中であきらめず最後までやりとげる。 人の話をよく聞くことができる。 友達の意見を聞き受け入れたり,友達の意見を取り入れて新しいアイデアを出したりする。 思い通りにならないことがあっても気持ちに折り合いをつけて,次の行動に移すことができる。 自分自身の自尊感情の状態について気にかけ,高まるような工夫をする。 幼児が居場所を感じ,ありのままの自分を出すことができるような学級の雰囲気づくりを行う。 結果だけではなく,幼児一人ひとりの頑張りの過程を認めるような言葉かけや関わりを行う。 ありのままの幼児の姿を受け止めるような言葉かけや関わりを心がける。 日頃から幼児理解に努め,個々の思いに寄り添った言葉かけや関わりを行う。 日に 回は,学級の幼児一人ひとりとスキンシップをとる時間を意図的に設ける。 遊びや生活の中で,幼児同士のやりとりにおける葛藤経験を大切にする。 葛藤を乗り越える際には,共感できる友達や保育者の存在が支えとなることを理解し,それに留意 した保育を行う。 幼児の自尊感情は,幼児が遊びの中に役割を見つけながら,自分や友達のよさに気付くことで育ま れることを理解し,それに留意した保育を行う。 保護者の自尊感情の状態が子どもの自尊感情の育ちに関係していることを気に留め,保護者の自尊 感情が高まるような関わりを行う。 表 他者評価式幼児用自尊感情尺度 勝浦,浜崎( ) 表 自尊感情を育む保育における留意事項 勝浦,浜崎( ) ― 50 ―
項」をどのように捉え,保育を行っていたのかを検 証し,保育や幼児理解のプロセスを明らかにするこ とを目的とする Ⅱ 研究の概要 .園内研修の概要 )実施期間 園内研修と担任保育者へのインタビューは, 年 月から 月にかけて, ヶ月間に 回( 月, 月, 月)実施した。 )園の概要 園内研修は,幼稚園で実施した。園の規模は, 歳児 クラス 人(男児 人,女児 人), 歳児 クラス 人(男児 人,女児 人)である。 )参加者 参加者は,, 歳児を担任している保育者 人(教 諭 代女性:経験年数 年以上 年未満,主任教諭 代女性:経験年数 年以上)である。また, 月 の園内研修では,上記に加えて,担任外保育者 人 (再任用教諭 代女性:経験年数 年以上(園長経 験者),助教諭 代女性:経験年数 年以上 年未 満)が参加した。なお,「幼児の自尊感情を育む保 育における留意事項」の視点を共有できるよう,筆 者も参加し,他の参加者同様に意見を述べた。 )園内研修の内容 月:保育者は,「自尊感情を育む保育における留 意事項」について説明を受けた。その際に, 研究実施中は,「自尊感情を育む保育におけ る留意事項」を念頭において保育を行うよう 共通理解した。 月:保育者は, 月から 月において, , 歳児 担任保育者があげた事例をもとに意見交換を 行った。 月:保育者は, 月から 月において, , 歳 児担任保育者があげた事例をもとに意見交換 を行った。 なお,全ての回において , 歳児担任保育者 は,園内研修前に他者評価式幼児用自尊感情尺度を 用いて担任している幼児の現在の姿の把握を行っ た。 月と 月には,「自尊感情を育む保育におけ る留意事項」をもとに作成したチェックリストに沿 って,具体的な関わりと幼児の様子に関するインタ ビューに回答した。 .分析方法
質的データの分析には,SCAT(Steps for Coding and Theorization)を用いた。SCAT は,「マトリク スの中にセグメント化したデータを記述し,そのそ れぞれに,〈 〉データの中の着目すべき語句,〈 〉 それを言いかえるためのデータ外の語句,〈 〉そ れを説明するための語句,〈 〉そこから浮き上が るテーマ・構成概念の順にコードを考えて付してい く ステップのコーディングと,そのテーマ・構成 概念を紡いでストーリーラインを記述し,そこから 理 論 を 記 述 す る 手 続 き か ら な る 分 析 手 法(大 谷, )」である。 .研究倫理 倫理的配慮に関しては,四国大学研究倫理審査専 門委員会で承認を受けた後(承認番号 ),任意 参加であること,幼児の特定は行わないことを依頼 状に明記し,調査書の提出をもって承諾という形で 対象者の同意を得た。 Ⅲ 結果と考察 ここでは,SCAT を用いて分析した園内研修及び インタビューのストーリーラインを示し,園内研修 では,得られた視点と共有事項について,インタビ ューでは,「自尊感情を育む保育における留意事項」 と保育内容について考察する。また,文章及び表内 における下線部はテーマ・構成概念を表している。 .園内研修 ) 月のストーリーラインと得られた視点及び共 有事項(表 ) ― 51 ―
一人遊びから友達との関わりを求める姿を変化の 兆しと捉えたもの,発達に関する知識や経験に基づ く推測から保育者との信頼関係の構築と幼児理解に 関するもの,保育の悩みなどが事例の抽出理由とし てあげられていた。また,園長経験者の立場から, 自身の読み取りの解釈や考えを話すことにより,研 究テーマを分かり易く解説し,語り合いによる保育 の省察や事例の分析の促しなど,今後の取り組み方 の見通しを提示していた。 事例の分析では,記述における表現方法につい て,ネガティブな表現が指摘された。保育者が,幼 児の姿をどう感じとっているかは,何気ない言葉に 出るのではないかということが指摘され,意識して いなかった自分の気持ちに気付くことになった。 このことから,保育者に,ありのままの子どもを 受け止めることを遮る保育者本位の願いがあること が浮き彫りになった。しかし,そのもととなる保育 活動における必要性は,別の視点で見ると,不必要 であり,誰のためかという視点を明確にすること で,子どもに対するその後の対応が変化すること, それによって,保育者に気持ちの変化が生じ,あり のままの子どもを受け止めることにシフトする可能 性があることが示唆された。だが,保育者が,あり のままの子どもに寄り添いたいという気持ちをも ち,子どもの発する言葉の意味や原因を探りなが ら,適切な対応方法を模索していることは事実であ り,その保育者の取り組みは,共感され,承認され ていた。 事例をあげるにあたり,出来事の読み取りと分析 による保育の再構築と記録による保育プロセスの可 視化が提案されたが,多忙と記録することへの抵抗 感が示された。そこで,雑談の中での情報交換や, 通常業務である日誌の記入を活用した記録方法が提 示され,継続した事例記録を行うことになった。 ) 月のストーリーラインと得られた視点及び共 有事項(表 ) 予測できない子ども同士のトラブルにおいて,保 育者が対人関係のマナーとしての謝罪を勧め,子ど もが応じた場合,葛藤を乗り越えたことになるのか という問いがあがっていた。保育者が謝罪を勧めた 理由は,保育者から見た子どもの気持ち,集団経験 が初めてということによるトラブル自体の経験の不 足に配慮したものであった。それは,子どもの葛藤 経験に時間をかけて関わる保育者の姿勢にも表され ていた。しかし,保育者は,謝罪は対人関係を円滑 に進めるマナーであり,あたりまえであるという認 識をもっていた。保育者がもつあたりまえの概念, つまり,保育者が謝罪を勧める理由を子どもが理解 し,納得したのかによって,葛藤の意味は変わるの ではないか,との指摘があった。 このことから,保育者は自分の読み取りの適切さ を不安視していたが,このように,事例を確認する 作業は,子どもの気持ちを考える機会になるとの指 摘があった。 また,「ありのままの幼児の姿を受け止める」と いう言葉の危うさが指摘されていた。よく使う言葉 子どもの姿の記述におけるネガティブな表現は,読み取りに関係し,保育者の非意識下で行われて いる。 ありのままの子どもを受け止めることを阻む保育者本位の願い(こうしてほしい,こうなってほし いという思い)がある。 保育活動において,「こうさせなくてはならない」という必要性を感じることがあるが,その必要 性は誰のためかという視点を明確にすることで不必要に転じ,子どもも保育者も救われることがあ る。 保育者の頑張りの過程をみつけ,共感,承認してくれる同僚の存在がある。 情報交換による多様な視点の獲得や,継続した事例の記録と分析を行っていくことが必要である。 表 得られた視点及び共有事項 ― 52 ―
だが,実際には,保育者の視点や読み取りが適切で あるかの見極めが困難だと感じていた。さらに,「一 人ひとりの頑張りの過程を認める」という言葉も同 様であり,目に見えない部分をどう評価するか,読 み取りは適切かを考えると難しい。また,保育者同 士の見方や読み取りに相違があるため,適切かどう かの確認が困難であると指摘していた。 これまでの取り組みに関して,保育者の対応が子 どもの気持ちにあっているかという視点をもち,自 分の読み取りを疑問視するようになっていた。わか りたいと思って子どもと過ごすうちに,子どもが気 持ちを話す瞬間が生まれ,自分の読み取りに自信を もったり,違っているのではという疑問を感じたり しながら保育を続け,判断できかねる時には,難し さを感じていた。それについて,保育者の読み取り が適切であるかどうかは,子どもにしか分からない が,保育者同士の語り合いが多様な幼児理解に繋が ることは事実であり,保育者自身が自分の子どもの 姿の読み取りや保育を疑う姿勢が大切であるとの指 摘があった。 .インタビュー ) 月 ⑴ ストーリーライン(表 ) ⑵ 「自尊感情を育む保育における留意事項」と保 育への取り組み 保育者は,各項目の文言について意識し,発達年 齢や学級の子どもたちの状況に合わせて保育を行っ ていた。項目①においては両者ともに,自分の自尊 感情を気にかけることで,子どものことを肯定でき るようになったということが示されており,中間 ( )が「かかわる大人自身にまずは自尊感情が 内在していること,また大人も子どもとのかかわり を通して,さらに自己の自尊感情を育てていくとい ったような共有の姿勢が必要条件」と述べているこ とにも合致している。また,項目⑩に関して,両者 とも 月には,保護者の自尊感情について考えたこ とがなかったと語っていたが, 月では,子どもの 姿を伝える際に保護者の気持ちを考えて関わり,肯 定的な言葉を心がけていた。保護者も,「子どもに かかわる大人」であるため,自尊感情を育む保育に おいて,子どもとの相乗効果が期待される。 さらに, 歳児担任保育者における項目②,③で は,項目内容と,これまでの自分の保育との間で葛 藤を感じる様子が示された。これは,項目⑧,⑨に も見られ,「何かしなくてはならない」というよう な焦りが感じられる。しかし,子どもの反応から反 省し,保育に活かしていこうとする姿が見られ,自 己の保育を変えていこうとする意気込みが感じられ た。 なお, 歳児担任保育者における項目⑥では,取 り組む意志はあるものの,感染症という予想外の出 来事でスキンシップがとれなくなった。これは,保 育が人だけでなく,状況や環境に左右されるもので あることを再認識するきっかけとなった。 子どもの気持ちや背景に配慮しようとして,知らず知らずの内に保育者がもつあたりまえの概念を 押しつけてしまうことがある。 事例を確認する作業は,子どもの気持ちを考える機会になる。 「ありのままの幼児の姿を受け止める」という言葉は,「一人ひとりの頑張りの過程を認める」と 同様,実際には,保育者の視点や読み取りが適切であるかの見極めが難しく,保育者同士の見方や 読み取りに相違があるため,適切かどうかの確認が困難である。 継続して取り組みを行うことで,保育者の対応が子どもの気持ちにあっているかという視点をも ち,子どもに向き合う時に自分の読み取りを疑問視することができるようになってきている。 保育者同士の語り合いが多様な幼児理解に繋がることは事実であり,保育者自身が自分の子どもの 姿の読み取りや保育を疑う姿勢が大切である。 表 得られた視点及び共有事項 ― 53 ―
番号 チェックリスト項目 歳児担任保育者 歳児担任保育者 自分自身の自尊感情の状 態について気にかけ,高 まるような工夫をしてい る。 自分の自尊感情が子どもの自尊感情に関係し ていると聞き,考え方を変えることで,自分 の保育に対して,自己肯定の概念が芽生え た。それに伴って,子どもを見る目も肯定的 になった。 自分の自尊感情が高まるように意識する中 で,以前は,子どもたちが,目的に向かって 試行錯誤したり,葛藤体験をしている時に, 応援していたが,現在は,共感したり,現状 を肯定するようになった。 幼児が居場所を感じ,あ りのままの自分を出すこ とができるような学級の 雰囲気ができている。 子ども主体の保育を意識し,子どもを肯定す る言葉がけを意識的に行っていた。 保育者が話をする時に,自己主張する子ども の姿を受け止めて対応したい気持ちと話は聞 くべきという気持ちの間で葛藤を感じてい た。 結果だけではなく,幼児 一人ひとりの頑張りの過 程を認めるような言葉か けや関わりをしている。 一人ひとりの子どものよさに気付くことがあ ると,他児と共有することを心がけていた。 自主的に遊べる子どもは認めることが容易で あるが,遊びが広がらない子どもは認める過 程を見つけるのが困難であり,遊びの誘導と 展開に悩む。 ありのままの幼児の姿を 受け止めるような言葉か けや関わりをしている。 「ありのままの幼児の姿を受け止めるような 関わり」の大切さを研修で再確認し,自己の 保育を振り返ることで,できているかを確認 しながらさらに意識するようになった。 自分の思いを主張できにくい子どもには,ゆ っくり時間をとって,話しかけたり,発話を 待ったりしながら一緒の時間をすごすことを 心がけていた。 日 頃 か ら 幼 児 理 解 に 努 め,個々の思いに寄り添 った言葉かけや関わりを している。 幼児理解は保育の基本なので,留意して当然 だという自負をもっていた。 自分では気づいていなかったことを子どもか ら知らされることがあり,何気ない言葉か ら,自分の保育を振り返り,関わりのずれに 気付くことができた。 日に 回は,学級の幼 児一人ひとりとスキンシ ップをとる時間を意図的 に設けている。 できることから取り組もうとするが,予想外 の出来事で中断せざるを得なかった。 積極的な子どもと会話をする時は子どもに集 中し,自分からの関わりが少ない子どもに は,恥ずかしさに配慮して短いスキンシップ にするなど,できることから心がけていた。 遊びや生活の中で,幼児 同士のやりとりにおける 葛藤経験を大切にしてい る。 葛藤経験は,子ども同士のトラブルから学ぶ との思いがあるが,トラブルを敬遠する保護 者との関係で,対応が慎重になってしまい, やりにくさを感じていた。 自分から発言できにくい子どもへの配慮を心 がけていた。その中で,自分から話すのを待 つことも大事だと周囲の子どもが気付く場面 があり,そのことから,本人の話を聞くこと の重要性を感じていた。 葛藤を乗り越える際には, 共感できる友達や保育者 の存在が支えとなること を理解し,それに留意し た保育を行っている。 互いに優しい言葉をかけている子ども同士の やりとりを見て,その姿に感心し,見守る保 育を行っていた。 意図的に葛藤に向き合う場を設定する中で, 保育者が意見をまとめる意識をもって関わっ ていたが,保育者の読み取りと子どもの思い とのずれを不安視していた。 幼児の自尊感情は,幼児 が遊びの中に役割を見つ けながら,自分や友達の よさに気付くことで育ま れることを理解し,それ に留意した保育を行って いる。 歳児という幼児の発達段階を考えると困難 なのではないかと感じていた。そのため,子 どもたちの遊びを繋げるなど,発達段階を踏 まえた対応を心がけていた。 遊びの中で,子どものよいところが活かせる よう関係性を変えたいと思い,いつもと違う 役割を提案したが,子どもからは却下され た。保育者の思いと子どもの思いの違いに気 付かされ難しさを感じていた。 保護者の自尊感情の状態 が子どもの自尊感情の育 ちに関係していることを 気に留め,保護者の自尊 感情が高まるような関わ りをしている。 今回の取り組みが,保護者にも自尊感情があ ることに気付くきっかけとなっていた。肯定 的な言葉を使うことを心がけ,保護者の気持 ちを考えた関わりを意識していた。 子どもを中心にした保護者との関わりを心が け,分かるように子どもの様子を伝えるな ど,保護者の気持ちに寄り添う姿勢を大切に していたが,納得のいく関わりが十分ではな いと反省していた。 表 月のストーリーライン ― 54 ―
) 月 ⑴ ストーリーライン(表 ) ⑵ 「自尊感情を育む保育における留意事項」と保 育への取り組み 月になると,継続した取り組みの中で,保育方 法がより具体的になり,ポジティブに保育を捉える 姿が見られる。特に 歳児担任保育者における項目 ①では,「保育が楽しくなった」としており,それ に伴って,項目④「一緒に笑う場面が増えた」,項 目⑤「一人ひとりと関わるための時間的余裕があっ た」など,他項目の語りにも余裕が感じられる。 また, 歳児担任保育者も,項目④,⑤では,「焦 りから,子ども主体の保育への転換」が図られてお り,期待をもちながら保育をする姿が感じられた。 項目⑨においても,「以前は,保育者がなってほし い姿に子どもを誘導しようとすることが多かった が,ありのままの姿に保育者が寄り添う関わりを意 識することで,自分や友達のよさに気付くことに繋 がってきたと感じていた」という語りが示されてい る。 月には,語りに焦りは感じられたが保育者の 自覚はないようであったため,これは,園内研修に おける成果(非意識下にある保育者本位の願いの自 覚)ではないかと推察する。 さらに,両保育者における保育のポジティブな変 化には, 月から行ってきた自尊感情を育む保育に おける自信や,子ども,保護者との信頼関係の構築 も関係していると思われる。これらのことから,自 尊感情を育むことと保育は連動しており,相乗効果 をもたらすものであることが示唆された。 Ⅳ おわりに 本稿では,園内研修において,どのような視点が 得られ,何が共有されていたのか,また,保育者が 「自尊感情を育む保育における留意事項」をどのよ うに捉え,保育を行っていたのかを検証し,保育や 幼児理解のプロセスを明らかにすることを目的とし た。 園内研修では事例をもとに,書かれている言葉や 内容を丁寧に確認していくことにより,保育者が子 どもの姿をどう読み取り,どのような思いから事例 を書いたのかについてこまかく想起し合い,検証し ていった。この作業により,幼児理解のプロセスが 明らかになり,保育者が,目の前にいる子どもの姿 の見取りと,それまでの関わりや経験を通して保育 者の中に作られた子ども像を行き来しながら,子ど もに対応していることが推察された。そのため,非 意識下の自分の気持ちや,あたりまえの概念という ような,保育者が普段意識していない感覚がありの ままの子どもを受けとめるための取り組みに何らか の影響を与えている可能性が示唆されたことは注目 すべき点である。このことから,保育者は,子ども に関わる際に,自分が必要だと感じていることが, 本当に子どもにとって必要なのかという視点を明確 にし,過剰な願いを捨てて子どもの気持ちに寄り添 うことを心がける必要がある。 また,ありのままの子どもを受け止めることにつ いて,保育者の視点や読み取りが適切であるかの見 極めが困難との指摘があったが,読み取りの際に は,保育者の対応が子どもの気持ちにあっているか という視点をもち,子どもに向き合う時に自分の読 み取りを疑問視することが重要であると考えられ る。保育者の読み取りについては,保育経験年数(佐 藤ら, )や保育観(西垣ら, )が幼児理解 や実態把握に影響を与えることが示唆されている が,その他の要因として,保育者の性格的特性や園 の教育理念等が関連していることも考えられ,今後 の検討課題であると言える。 さらに, 月の園内研修において,『わかりたい と思って子どもと過ごすうちに,子どもが気持ちを 話す瞬間が生まれ,自分の読み取りに自信をもった り,違っているのではという疑問を感じたりしなが ら保育を続けること』は,西( )の指摘する「省 察は,目の前にいる子どもたちの力を得て進む相互 的な過程」に対応していると考えられ,保育者は, 本研究に取り組む中で,意味のある省察を行ってい たことが推察される。 最後に,園内研修で意見交換を行う中で,保育者 ― 55 ―
番号 チェックリスト項目 歳児担任保育者 歳児担任保育者 自分自身の自尊感情の状 態について気にかけ,高 まるような工夫をしてい る。 自分の自尊感情が大事だと気付き,どんな自 分も受け入れる工夫をしてきたことで,保育 態度の変化を実感するとともに,保育が楽し く感じられるようになっていた。 自分自身の自尊感情に留意するようになった ことで,子どもの自尊感情に留意することが できるようになった。子どもの視点にたち, どのように言ってほしいかを考えて言葉を選 択するよう意識していた。 幼児が居場所を感じ,あ りのままの自分を出すこ とができるような学級の 雰囲気ができている。 ありのままの自分を出すことができる学級の 雰囲気づくりを継続的に意識し,子どもを受 容するこをを心がけることで,子どもの姿の 見方に変化が感じられるようになっていた。 子どもの泣きたい気持ちを肯定して伝え,友 達のことを自分に置き換えて考えられるよう にするとともに,ありのままの自分を出しや すい共感と受容の雰囲気づくりを心がけていた。 結果だけではなく,幼児 一人ひとりの頑張りの過 程を認めるような言葉か けや関わりをしている。 子どもの成果を認めるのではなく,子どもの 中の頑張りの姿を見とり,その子その子の過 程を認めることを意識していた。 保育者だけでなく,友達も頑張りの過程を肯 定できる仲間づくりを行うために,友達の頑 張る姿を伝え,友達に興味をもつことで,繫 がることを期待していた。 ありのままの幼児の姿を 受け止めるような言葉か けや関わりをしている。 子どもたちとの会話を大切にし,丁寧に関わ ることで,自己主張しやすい雰囲気があるの か,よく話す姿が見られるようになってき た。その中で,やりとりによる楽しさを感じ ることができるようになり,一緒に笑う場面 が増えたことを実感していた。 子どもに対して,保育者として何かしなくて は,という焦りがあったが,子どもの発言を 受け止め,子ども主体の保育へ転換しようと していた。 日 頃 か ら 幼 児 理 解 に 努 め,個々の思いに寄り添 った言葉かけや関わりを している。 子どもに寄り添おうとする姿勢で関わること で,信頼関係の構築がなされていった。子ど もの新しい一面を知り,それまでの関わり方 をふり返ることで,子どもの言動の奥にある ものを見ようとすることの大切さに気付くこ とができたと感じていた。また,一人ひとり と関わるための時間的余裕があった。 日に 回は,学級の幼 児一人ひとりとスキンシ ップをとる時間を意図的 に設けている。 一人一人に合ったスキンシップのとり方を考 えるようにしていた。個々の思いに添った関 わり方を考えることで,十分なスキンシップ がとれたと感じていた。また,自己主張がで きにくい子どもへの対応については,保育者 からの働きかけをもっとする必要があったと 反省していた。 スキンシップを子どもから拒否されることが 増えた。子どもたちの表情から,これまでの スキンシップを意識した関わりの成果である と考えられたが,年長児特有の恥ずかしさと も考えられ,子どもの気持ちをはかりながら の対応になった。 遊びや生活の中で,幼児 同士のやりとりにおける 葛藤経験を大切にしてい る。 子ども同士のトラブルは,基本的に見守りの 姿勢であるが,解決を急ぐのではなく,保育 者が仲介しながら,子どもが自分の思いを出 し合える場を支えるようにしていた。 感情の表出ができるようになってきた喜びを 感じていたが,それに伴って葛藤の表出も見 られた。子どもたちで葛藤を乗り越えていけ るようになってほしいという願いをもち,そ の視点で,サポートを行っていた。 葛藤を乗り越える際には, 共感できる友達や保育者 の存在が支えとなること を理解し,それに留意し た保育を行っている。 集団に入りづらい子どもも,保育者との繋が りを基盤に,友達に目を向けることができる ようにした。また,一緒に遊ぶ楽しさを共有 することで,子ども同士の繋がりを感じ,保 育者や友達の存在を意識する経験になるよう にしていた。その中で,集団に入りづらかっ た子どもが,ルール遊びにおける役割を全う し,人の役に立つ喜びに気付く場面をみるこ とができた。他児も助けられる喜びを感じて いたようで,互いを知ることは互いのよさに 気くことに繫がることを実感していた。 一緒に頑張れる友達の存在が大切だと思い, そのような友達関係をつくる取り組みをして いたが,援助のタイミングに迷いがあり,効 果的な介入方法を模索していた。 幼児の自尊感情は,幼児 が遊びの中に役割を見つ けながら,自分や友達の よさに気付くことで育ま れることを理解し,それ に留意した保育を行って いる。 以前は,保育者がなってほしい姿に子どもを 誘導しようとすることが多かったが,ありの ままの姿に保育者が寄り添う関わりを意識す ることで,自分や友達のよさに気付くことに 繋がってきたと感じていた。 保護者の自尊感情の状態 が子どもの自尊感情の育 ちに関係していることを 気に留め,保護者の自尊 感情が高まるような関わ りをしている。 保護者の自尊感情の状態が子どもの自尊感情 の育ちに関係していると聞いてからはずっ と,保護者への対応を常に意識していた。関 わりが深まるにつれ,園に対する理解と協力 に対する保護者への信頼が高まっていった。 保護者の気持ちを考えながら,園生活の様子 を伝えることで安心感に繋げる取り組みを行 っていた。また,子どもたちの学びや保育者 の関わりの意図を伝えることで,園での様子 を知ってもらうよう心がけていた。 表 月のストーリーライン ― 56 ―
同士が互いの頑張りの過程を認め合う姿が多く見ら れた。インタビューから分析した保育への取り組み でも示されていたように,保育者は,項目内容に意 識して取り組みながら,子どもの姿と自分の保育の 間で揺れていた。反省したり,適切な保育方法を模 索したりする中で,保育の過程を認め,励ましてく れる同僚の存在は,とても大きいと言える。子ども だけでなく,保育者にとっても,共感できる存在が 葛藤を乗り越える際の力となることを認識し,職場 内でのよりよい人間関係ができるような効果的な園 内研修のあり方について,今後も検討が必要であろ う。 《引用文献》 勝浦美和,浜崎隆司, ,自尊感情を育む保育につい て(配布用成果報告冊子),日本学術振興会科学研究費 助成事業「保護者・保育者にとってのわかりやすさを重 視 し た 幼 児 用 自 尊 感 情 尺 度 の 開 発 と 普 及(萌 芽 K )」 勝浦美和,印刷中,幼児の自尊感情を育む保育実践の検 討 ― 他者評価式幼児用自尊感情尺度を用いた介入調査 から ― 四国大学学際融合研究所年報,創刊号 西隆太朗, ,津守眞の保育思想における省察 ― 子ど も達との出会いに立ち返って ―,保育学研究 ( ): − 西垣吉之,橋村晴美,平岡康代,西垣直子, ,幼児 の実態を把握する保育者の視についての分析,中部学院 大学教育実践研究第 , − . 大 谷 尚, ,質 的 研 究 の 考 え 方 ― 研 究 方 法 論 か ら SCATによる分析まで ― ,名古屋大学出版会 佐藤有香,相良順子, ,保育者の経験年数による「幼 児理解」の視点の違い,日本家政学会誌 − , − . 瀧川光治, ,写真を活用した保育の振り返りと園内 研修の手法の提案 ― アクティブ・ラーニング型園内研 修の つとして ― ,大坂総合保育大学紀要 : − . ― 57 ―
抄 録
本稿では,園内研修に焦点をあて,SCAT(Steps for Coding and Theorization)の手法を用いて, 園内研修の内容及び保育者の語りを質的に分析することで,園内研修において,どのような視点が 得られ,何が共有されていたのか,また,保育者が「自尊感情を育む保育における留意事項」をど のように捉え,保育を行っていたのかを検証し,保育や幼児理解のプロセスを明らかにすることを 目的とした。 結果として,保育者が,目の前にいる子どもの姿の見取りと,それまでの関わりや経験を通して, 保育者の中に作られた子ども像を行き来しながら,子どもに対応していることが推察された。その ため,非意識下の自分の気持ちや,あたりまえの概念というような,保育者が普段意識していない 感覚がありのままの子どもを受けとめるための取り組みに何らかの影響を与えている可能性があ る。これらのことから,保育者は,自分が必要だと感じていることが,本当に子どもにとって必要 なのかという視点を明確にし,過剰な願いを捨てて子どもの気持ちに寄り添うことを心がける必要 があると考えられる。 キーワード:園内研修 SCAT 自尊感情 幼児理解 保育者 ― 58 ―