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歯科インプラント治療が必要な患者の「メンタル問題」をどう評価し,どう対処するか?

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Academic year: 2021

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(1)17. Vol. 18, No. 1, 2019. 総 説 歯科インプラント治療が必要な患者の「メンタル問題」を どう評価し,どう対処するか? 豊福 明. Psychosomatic problems in dental Implants; what should oral surgeons do? TOYOFUKU Akira. Abstract. とするが,患者は頑として受け入れず,器質的原因に固執. Somepatientstreatedwithdentalimplantsaresometimes. することが多い.一部の歯科医師は精神科に依存してこの. bothered by having medically unexplained oral symptoms. 問題を解決しようとした.しかし,精神科医には,口腔の. (MUOS).Althoughoralsurgeonstendtoregardthemas. 愁訴を理解することは難しく,単なる精神科紹介では実効. “psychosomaticproblems”,patientsseldomacceptsuchex-. 性を持たなかった.このような状況では,原因不明の口腔. planation, instead, they keep on convincing some organic. 症状について患者によく説明し,話し合うことが重要であ. causes.Somedentistshadtriedtosolvetheseproblemsby. る.口腔外科医には,インプラント患者の心理社会的因子. depending on psychiatrists. However, psychiatrists find it. について適切に評価する能力が求められている.本稿では. difficult to understand deeply the oral complaint. Conse-. PIPC の概念と MUOS への対応の仕方について紹介した.. quently,amerepsychiatricreferralisusuallynothelpful. Insuchasituation,explaininganddiscussingtheunknown. キーワード:歯科インプラント,「メンタル問題」,口腔外科,. originoftheoralsymptomsisnecessary.Oralsurgeonsare expectedtohavecapabilitytoassessproperlypsychosocial. MUOS,PIPC. . conditionofthepatients.Inthisarticle,theauthorintroduced はじめに. theconceptofPIPC (PsychiatryInPrimaryCare)andhow. 我が国の顎顔面インプラント医療は,さまざまな問題を. todealwithMUOS.. 克服しながらめざましい発展を遂げ,その適応範囲はます Key words:dentalimplant,“psychosomaticproblems”,oral. ます拡大している.歯科疾患や外傷などによる歯の喪失の. and maxillofacial surgery,medically unex-. みならず,口腔腫瘍術後の機能回復まで標準的にカバーさ. plainedoralsymptoms (MUOS).psychiatryin. れるようになった.. primarycare(PIPC). 一方で口腔外科的にはインプラントの適応であり,かつ 客観的には良好な治療成果が得られたにもかかわらず,患. 抄. 録. 者側の満足が得られないばかりか種々の「不定愁訴」が出. インプラント治療後の原因不明の口腔症状に悩まされる. 現し,術者を悩ませるケースも経験されるようになった 1,2).. 患者がいる.口腔外科医は「心身症的な問題」と見做そう. 例えば,原因不明の痛み,咬合の異常感,異常味覚や表現. 東京医科歯科大学(TMDU)大学院医歯学総合研究科 全人的医療 開発学講座 歯科心身医学分野(主任:豊福 明教授). Department of Psychosomatic Dentistry, Graduate School, Tokyo Medical and Dental University(TMDU)  (Chief: Prof. TOYOFUKU Akira). 別刷請求先:〒 113-8549 東京都文京区湯島 1-5-45. 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科全人的医療開発学講座歯科心身医学分野,豊福 明. TEL / FAX:03-5803-5909 E-mail:toyoompm @ tmd.ac.jp. 受付日:2018 年 9 月 19 日 採択日:2018 年 12 月 18 日.

(2) 18. 顎顔面インプラント誌. Vol. 18, No. 1, 2019. 図 1 インプラント治療後の MUOS.80 代,男性.患者の訴えのままに補綴物を撤去しても 愁訴は不変.患者はインプラント体そのものの抜去も要求していた.. しづらい不快感などである 3) (図 1).このような「何らか. っても減ることはないように思われる.. の歯科疾患が存在するかと思わせる症状は認められるが, 適切な診察や検査を行なってもその原因となる疾患が見出. いわゆる「リエゾン」の問題. せない口腔症状」を MedicallyUnexplainedOralSymptom. このような「メンタル問題」に,専門医の協力を仰ぎた. 4). (MUOS) と呼ぶ.. くなるのは自然の流れであった.著者の渉猟した限りでは,. しかも,このような症状は歯科的処置を繰り返すほど難. 「リエゾン精神医学」の概念を歯科領域に導入したのは,. 治化する.皮肉なことに切削や抜歯などの定型的処置が愁. 1980 年代末,鶴見大学第 1 口腔外科(当時)の中村広一を. 訴の拡大と歯の喪失につながり,ますます患者を苦しめて. もって嚆矢となす 6,7).リエゾン精神医学とは,身体科医療. いくことになる. 「削ってなんぼ」の我が国の保険医療制度. の中のさまざまな精神医学的問題に対して,身体科主治医. では,このような患者は相変わらず「不定愁訴」などと切. や医療スタッフと精神科医が共同してあたる治療・診断や. り捨てられ,歯科医師は「破壊師」に堕してしまうという. システム,それに関する研究を指す.. 笑えない事態が繰り広げられている.. 元々は精神科のマンパワー不足もあり,身体科主治医が. このような患者の背景には,何らかの精神障害や心身症. 精神科医の助言の元に身体疾患患者の精神症状まで含めた. 的病態が潜在することが推測されるが,その評価・判断は. ケアを行うシステム(コンサルテーション・サービス)が. われわれにとって簡単な作業とは言えない.実はこの数十. 中心であった.次第に臨床各科のニーズも高まり,精神科. 5). 年で我が国の精神障害は急増している .さらに一昔前な. 医が定期的に身体科の病棟を回診して精神症状の発現を未. らほぼ一生入院下で管理されていた精神障害患者の多くが,. 然に防ぐ活動(リエゾン・サービス)と併せて実施される. 入院期間短縮政策のため外来治療へと移行してきた.よっ. ことが多くなった(コンサルテーション・リエゾン・サー. て歯科を受診する患者が精神障害を有する確率は 20 世紀. ビス).. とは格段の差があると推測される.. 例えば口腔がん術後の患者が,不眠,抑うつ気分や意欲. 精神障害の特性上,客観的な検査がなく,病歴も自己申. の低下等を呈した場合などでは,われわれはこのコンサル. 告では限界が大きく,偏見・差別など人権上の問題も絡む. テーション・リエゾン・サービスを活用し,適切に精神科. ため,その存在の把握と対応に苦慮することが多い.不確. 医の協力を得ることができる.精神科医の受け入れ態勢も. かな情報・評価に基づいてインプラント手術を施行した後. ほとんどの場合スムースである.. に MUOS が生じてトラブルになるケースは増えることはあ. しかし,ことインプラント関連の問題に関しては,精神.

(3) Vol. 18, No. 1, 2019. インプラント患者の「メンタル問題」への評価と対処法. 19. 科との連携医療の壁は依然として高いと言わざるを得ない.. であった.このようなケースでは必ずしもインプラント植. 一部の歯科医師が,権威主義的な精神科医に隷属して歪ん. 立部位に愁訴が生じるとは限らず,むしろ舌全体,口腔内. だ「リエゾン」像を商業雑誌に喧伝した.しかし,20 数年. 全体に痛みや不快感を訴える,あるいは関連づけられた全. の時を経て泡沫と化し,他力本願では全く実効力がないこ. 身的な不定愁訴を呈する傾向が示唆されている.. とが証明されただけであった.. このような MUOS 発症の時期としては 6 か月以内と 1 週 間以内に多く,一次手術直後と二次手術後に多く発症する. インプラント関連の MUOS 特有の問題. ことが窺われた.インプラント除去の希望は有していても. 他力本願の「リエゾン」では全く役に立たないのは,実. 転帰は悪くなかったが,実際に除去術を施行された症例は. はわれわれが最も困るのはインプラント術後の「説明のつ. 転帰が不良であった.まれに経験される, 「現状復帰」して. かない口腔症状」,すなわち MUOS だから,である.痛み. 後は他所でやってくれ,といった医療人としてあまりに無. にしろ咬合の問題にしろ,患者側としてはあくまでも「こ. 責任な態度はお薦めできない.. の不具合はインプラントの問題である」と認識しがちで,. 質的研究からも,歯科医師の態度の硬化や責任回避,訴. 精神科への協力要請を発動した瞬間に生じる「こころの問. えの neglect や心因性扱い,無定見な処置の繰り返しなど. 題である」といったニュアンスの対応には強く反発するこ. が患者の不信を招きやすいことが窺われた.なお非公開デ. とが多いから,である.. ータであるが,治療費の多寡は MUOS とは相関が認められ. 特にわれわれが「心因性」という言葉を使いたがる状況. なかった.. では,しばしば歯科医療の賠償責任を否定する論理に用い. なお 80%の患者では明確な精神科既往が認められず,精. られ,それは患者側にとっては「仮病扱い」という含意に. 神障害と愁訴との関連は否定的であった.しかし,インプ. つながることに自覚が必要である.. ラントに限定しなければ,舌痛症 9)では約 40%,非定型歯. 一方で受け入れ側の精神科医も,彼らが専門とする統合. 痛 10)では 46.2%,咬合異常感(Phantombitesyndrome)11). 失調症や双極性障害の場合のような明らかな言動の異常も. では 48.5%,痛み以外の不快な口腔症状(口腔異常感症)12). 見出せず,そもそも精神症状を確認しようとする問診にす. の 57.2~58.8%に精神科既往歴が認められる.まずは術前. ら拒否的な患者の診断に苦慮することが多いようである.. に,この精神科既往歴の把握が重要であろう.限られたエ. 仮に術前より精神科でうつ病などの加療中であっても「当. ビデンスであるが,MUOS の発生という観点からは精神科. 科的には精神症状は安定しています」「歯のことは歯科で」. 既往歴はインプラント治療のリスクファクターと見做して. などといったつれない対応も珍しくない.. も良いのではないかと思われるからである.すでに口腔異. このような明確に精神症状ともいえない歯科的問題に対. 常感症(口腔セネストパチー)では,うつ病の急性期にイ. しては精神科医の間でも温度差が大きく,どこまで口腔外. ンプラントを含む歯科治療を行うことが発症のリスクファ. 科医が対処し,どこから精神科医に依頼すればよいか,悩. クターとなることが示唆されている 12).. まされることが多い.結局は,限られた診療時間を饒舌な. しかし,精神科既往歴の把握は患者の自己申告に頼る面. 訴えに奪われ,薄氷の思いでトラブルを避けつつ,肝心の. が大きく,さらにわれわれとしては,術前の精神障害のス. 専門業務との兼ね合いで疲弊するのは相変わらず現場の口. クリーニングが不得手である弱みがある.一方で明確な精. 腔外科医のままである.したがって現場の口腔外科医に求. 神障害ではない患者に「不定愁訴」という対応をしたがゆ. められている技能は,インプラントを必要とする患者に潜. えに治療関係がこじれ,より紛争が起きやすい状況になる. む精神障害の評価と専門医との連携の洗練ではないかと思. ことも前述の質的研究が示唆している 8).インプラント治. われる.. 療においても,種々の内科的疾患同様,精神障害をも非専 門医なりに適切に,かつ時間や労力の負担が少ないスクリ. 顎顔面インプラント術後の「不定愁訴」の特徴 当分野の佐藤. 8). ーニングするスキルが求められている.. は,歯科インプラント治療後に発症し,. 初診から最低 6 か月以上経過観察ができ十分な情報が得ら. 口腔外科医のための「メンタル問題」の評価. れた歯科心身症 107 例を対象とした retrospectivestudy を. 一口に「メンタル」といっても,検査値や画像など客観. 報告している.. 的指標で捉えられない精神症状の評価は,身体科なら誰も. それによると,歯科的症状別では,舌痛症,口腔異常感. が苦手とするところである.このような患者に対して,何. 症,非定型歯痛,咬合異常感の順に多かったが,総じて痛. を診て,何を訊き,そしてどう説明を伝えるかは現場の切. みよりも,表現しづらい異常感や咬合の愁訴の方が難治性. 実な問題と思われる..

(4) 20. 顎顔面インプラント誌. Vol. 18, No. 1, 2019. 口腔外科医が自分なりに適切に患者のメンタル面を評価. プラントをしてから具合が悪いから」である.患者の訴え. するためのツールとして PIPC(Psychiatry In Primary. とインプラント治療との明確な因果関係が証明されなくて. Care)のテクニックが薦められる. 13,14). .これは米国のプラ. も,時系列的に「インプラント治療の後から発症した」と. イマリ・ケア医が,専門外なりに適切に精神科的対応がで. 訴えられると,それに抗弁することは難しくなる.. きるように構築された教育プログラムである.PIPC のコ. いくら不合理にみえても患者の訴えを「気のせい」 「神経. ンテンツである「背景問診」と「MAPSO」という定式化. 質」で片付けようとしてはいけない. 「確かに歯の問題なの. されたフォーマット通りに質問を読み上げるだけで,短時. ですが,仰る通りに普通の歯の治療を繰り返しても問題は. 間でかつ妥当に患者の心理社会的背景の情報収集や主な精. 解決しないように思います」と明確に伝えられるかどうか. 神障害のスクリーニングが可能となる.この問診を術前に,. が予後の分水嶺になる.. 必要に応じて術後にも施行すれば,このまま口腔外科で抱 えていて大丈夫か,精神科に応援を頼んだ方が良いかの意. 専門医との上手な連携の仕方. 思決定がスムースに行える.さらに問診そのものが患者と. 院内に知己の精神科医を確保しておく,もしくはこのよ. の信頼関係の構築に役立ち,得られた情報をもとに明確な. うな問題に対応可能な同業者や施設を知っておくと非常に. 根拠を持って精神科へ紹介できるため障壁が少なくなる.. 心強い.紹介の際に患者には, 「こちらでできる限りの知恵. 15). ,できれば. を絞ったのですが,どうも経過が思わしくなくて申し訳あ. 講習会などでその神髄を学んで頂きたい(PIPC 研究会ホ. りません.何とか解決にもって行きたいのですが,われわ. ームページ http://pipc-jp.com) .一般的には,前述の問診. れの力だけでは難しいようです.先ほどの問診でいくつか. フォーマットで,うつ病,統合失調症や双極性障害あるい. 心配な点がありましたので,一度メンタルの専門医にも相. は強い希死念慮がありそうだと疑われれば,精神科紹介の. 談させてもらえませんか」などと伝える.不眠やイライラ. 根拠にして十分だと思う.. などは比較的捉え易い.また問診に答える過程で患者側に. われわれが「メンタル」の患者を忌避したくなるのは,. も薄々自覚が芽生えてくる.. 理解できない訴えや時に迷惑,身勝手,非協調的,攻撃的. もしくは「以前一緒に診療したら良くなった方がおられ. に見える言動が,その患者の性格なのか,精神症状なのか. るので」などとポジティブに伝える.無理強いは逆効果に. が分かりにくいからではないかと思われる.病気の症状で. なる. あれば治療対象となり,いちいち「憎らしく」思う必要は. きることがない」が「何とか良くなってほしいので」と繰. なくなる.状況が見えてくれば対処法も浮かんで来る.. り返し伝えると,しぶしぶ同意してくれることも多い.. スクリーニングは完璧である必要はない.そもそもすべ. いずれにせよトラブルとなった後に精神科照会・紹介す. ての精神障害には,特異的な検査や生物学的マーカーがい. ることは非常に敷居が高くなる.できる限り術前にリスク. まだ確立していない.抑うつ気分や妄想などの各精神症状. 評価をして,既往歴があれば主治医に,なくても問診で引. の疾患特異性も低く,かつ変動・変遷も大きい.精神障害. っかかるところがあれば「念のために」と術前に精神科を. には「確定診断」という概念が馴染みにくい.現場の口腔. 受診させていたほうが,万一の術後トラブルの際も受診の. 外科医には, 「自分で抱えて大丈夫か,紹介すべきか」の判. 閾値が下がる.その際も「せっかくインプラントがうまく. 断のみが求められているわけである.. 入ったと思っても,妙な痛みや違和感が残って困ったこと. 外科系診療でもっとも避けたい状況は,トラブルの後手. があります.脳が繊細で敏感な方がそうなりやすいようで. 後手に回ることではないかと思う.循環器や呼吸器などの. すので,念のために確認させてください」とあくまでもそ. 内科系基礎疾患と同様,術前のスクリーニングとコンサル. の患者のために必要であることを前面に打ち出す.. テーション,そして周術期や術後の異変へのすばやい気づ. 連携の際は,精神科医と一緒に何が出来て,何が出来な. きこそ重要だと思う.. いか,どの部分は精神科に委ねるのかをよく知った上で精. PIPC に関しては,DVD も出版されているが. 16). .1 回で同意してくれなくても, 「これ以上当科でで. 神科医と協議しないと,結局は実効性のある議論にならな MUOS を患者にどう説明するか. い 17).歯科としてはこう考え,ここまではできるが精神科. 多くのトラブルは,原因が特定できない口腔症状を「精. では如何であろうか,といった主体的な姿勢をもっておか. 神的なもの」とか「もう治らない」といった根拠薄弱なラ. ねばならない.心電図や血液検査のような客観的指標がな. ベル付けをしてしまうことから生じる.その結果,患者は. い分,コンサルトした根拠となるような精神症状の把握は. 意固地になって「この歯が悪い」「あの先生の治療が悪い」. 必須であろう.前述の PIPC のフォーマットが役立つ所以. という自説に固執することになる.その根拠は「このイン. である..

(5) Vol. 18, No. 1, 2019. 21. インプラント患者の「メンタル問題」への評価と対処法. 口腔内は散々やり散らかした挙句「お医者さま,お願い. を両者ですりあわせる作業こそ必要となる.. ですから何とかして下さい」といった奴隷根性では,歯科. ③治療の主導権は確保しておく. 医師はこの程度の知的レベルでこれほど侵襲の高い診療を.  「患者本位の治療」も度を超すと泥沼化する.散々長話. しているのかと訝しがられても仕方ない.また彼らもあえ. を聞かされた挙句に,効果が期待できない処置の繰り返. て火中の栗を拾う専門職とは限らず,対岸の火事には冷淡. しを “させられる” ことほど消耗させられる作業はない.. な場合がある 18).. 専門職が患者さんの「手段の目的化」に巻き込まれては. われわれも足元も覚束ない心身医療を中途半端に実施し. ならない.「できないことはできない」「ここまではでき. て,困ったら患者を丸投げということのないように重々自. る」などと治療の主導権は歯科医師が保持しておく必要. 戒している.. がある.その際,「元どおり」より “goodenough” をイン プラント治療のゴールに設定した方が健全ではなかろう. 「患者の訴えに疲れないコツ」. かと思う.. 順調に歯科治療が進んでいる時や患者との関係も良好な 時は,術者は疲れを感じないものである.診療に疲れるの. 「長い話を聞かされない技術」. は,コントロールできない状況に遭遇した時であり,疲れ. 一般的に患者の訴えは「傾聴」するべき,とされている.. の原因は「対応できないイライラと無力感」であることが. 確かに「傾聴」は大事だが,ただ傾聴すれば良いというも. 多い.特に患者の訴えを通常の歯科治療では解決できない. のではない.誤解が多いが,“戦略のない” 傾聴は,むしろ. 時,あるいはいくら処置しても「悪くなった」と言われる. 害になる.ただ「聞かされている」とむしろ,患者によっ. 時である.われわれは “finalfantasy” と呼んでいるが, 「最. ては,妄想を強化したり,後悔の念を深めるだけになって. 終補綴という幻想」がイライラの元になる.患者に乞われ. しまう危険性がある.患者の話が止まらない時,同じ話が. るままに更なる処置を進めるべきか,撤退を検討すべきか,. 繰り返される時など,診療に関係ないと思ったら,すぐに. の判断は重要である.. 話題を変える.. 咬合の訴えなどは,どうしても歯の処置をしないと納得. コツは,話を切る瞬間に「相槌」や「承認」を挟むこと. しないケースも多い.そういう場合は,「賛成はできない. である.過去の治療への恨みつらみなどは繰り返せば繰り. が,あなたがそこまで仰るのなら一度だけ削ってみましょ. 返す程,患者自身もつらくなる.タイミングを見計らい,. う.でも,それで変わらないか悪くなるようなら他の専門. 迂遠・冗長な話はさくっと切り,必要な質問に引き戻す.. 医に相談させて下さい」と事前に約束し,無限地獄を回避. 相槌・承認には「なるほど」 「それは大変でしたね」など. するのがコツである.. の言葉が使いやすい.これらは価値観を含まないので水掛. 「傾聴」も大事だが,話を聞きすぎると精神症状が悪化し. け論や感情的なこじれを回避しやすい.問題解決には結び. てしまう患者もいることを知っておく必要がある.散々長. つかない話には巻き込まれないようにしつつ,診察に必要. 話を聞かされた挙句に効果が期待できない処置の繰り返し. な情報だけ訊いていく.. を “させられる” ことほど消耗させられる仕事はない.治 療の主導権は口腔外科医が保持しておく必要がある.. おわりに. このような “不定愁訴” で疲弊しないためには以下の 3. 超高齢化社会となり,慢性疾患を多数合併する「複雑な」. 点がコツとなる.. 患者が増えてきた.もはや「心身ともに健康で歯だけ悪い」. ①患者の話をいちいち批評しない. という歯科患者は幻想と言っても過言ではなかろう.基礎.  いくら荒唐無稽な話でも「あり得ない」などと思わず,. 疾患の把握や感染対策と同様,「メンタル問題」の患者も. 「そう思ってるのだな」と受け流す.患者の言い分がいく. universal precautions すべき時代である.医学的素養の一. ら不合理でも,頭ごなしの否定や論破は恨みを買うこと. 部として「メンタル問題」は必須項目である.. はあっても決して納得は得られない.. 実は医科も看護も介護も,医療従事者は総じてメンタル. ②理論抗争に巻き込まれない. 系患者が不得手である,敬遠しがちである.そこをわれわ.  歯の処置を求めるのは患者なりの原因追及の結果であ. れが一歩先んじてクリアするのも痛快なことである.. る.そこをひっくり返そうとしても水掛論に終始してし. まず患者は歯・インプラントのことで悩んでいるから受. まい消耗するばかりとなる.. 診している,困っている,ということに理解を示す.そし.  歯科医師-患者間で想定する病因が異なる場合, 「今の 困りごとを少しでもよい方向に向けるためにどうするか」. てゴールをインプラント補綴の完成から「満足して帰って もらう」ことにシフトする.とりあえずの歯科処置はむし.

(6) 22. 顎顔面インプラント誌. ろ危険である.PIPC はスクリーニングのみならず,患者 との信頼関係をつくるツールになり,安全・安心な歯科医 療に大きく貢献する.本学会を構成する高次医療機関の最 前線を墨守している口腔外科医にこそ,医学的素養に裏付 けられた「こころも診れる歯科インプラント医療」をリー ドしていただけることを祈念している. 本論文の要旨は,第 21 回公益社団法人日本顎顔面イン プラント学会総会・学術大会シンポジウム「口腔・顎顔面 インプラント治療と心身症~どう対応するか~」(2017 年 12 月 10 日,富山)にて発表した. 本論文に関して,開示すべき利益相反状態はない. 文. 献.  1)吉田明弘,西嶋 寛,他:インプラント経過不良症例に関 する研究― 第 2 報 除去患者の歯科治療に対する意識調 査―.日口腔インプラント誌9:34-401996.  2)立川敬子,平 健人,他:当科に来院したインプラント問 題症例に対する臨床的検討.口病誌70:182-1892003.  3)豊福 明:歯科心身症患者さんにどう対処するか?―イン プラントと歯科心身症―.群馬県歯科医師会雑誌 15: 1-142011.  4)Toyofuku,A.:Psychosomaticproblemsindentistry.BiopsychosocMed.10:142016.  5)豊福 明,吉川達也:5 分でできる明るい歯科心身医学, 永末書店,京都,2017.  6)中村広一:リエゾン医療の実際 歯科・口腔外科.心身医 療2:394-3981990.  7)中村広一:現代の歯科医療における心身医学の意義 歯学 部病院におけるリエゾンの立場から.日歯心身 5: 37-41. Vol. 18, No. 1, 2019. 1990.  8)佐藤智子:歯科インプラント治療後の “不定愁訴” に関す る心身医学的研究.日口科誌61:223-2322012.  9)Takenoshita,M.,Sato,T.,etal.:Psychiatricdiagnosesin patientswithburningmouthsyndromeandatypicalodontalgiareferredfrompsychiatrictodentalfacilities.NeuropsychiatrDisTreat.6:699-7052010. 10)Miura,A.,Tu,T.T.H.,etal.:Psychiatriccomorbiditiesin patientswithAtypicalOdontalgia.JPsychosomRes.104: 35-402018. 11)Watanabe,M.,Umezaki,Y.,etal.:Psychiatriccomorbiditiesandpsychopharmacologicaloutcomesofphantombite syndrome.JPsychosomRes.78:255-2592015. 12)Umezaki,Y.,Miura,A.,etal.:Clinicalcharacteristicsand course of oral somatic delusions: a retrospective chart reviewof606casesin5years.NeuropsychiatrDisTreat. 14:2057-20652018. 13)Robert,K.,M.D.Schneider.,James,L.,M.D.Levenson., (著)井出広幸,内藤 宏,PIPC 研究会(訳)監訳:ACP 内科医のための「こころの診かた」ここから始める!あな たの心療.第 1 版,丸善,東京,2009. 14)井出広幸:うつ病かも? 肥満と糖尿10:420-4232011. 15)井出広幸:これならデキル ! 内科医のための精神科的対応 “ 自由自在 ”< 上巻 >< 下巻 >.ケアネット,2009. 16)児玉知之;心因性愁訴を極める.日本医事新報社,東京, 第 1 版,2015. 17)玉井眞一郎,上里彰仁,他:口腔内セネストパチー―精神 科と歯科の連携.精神科22:517-5212013. 18)中居伸行,井川雅子,他:インプラントの不定愁訴はなぜ 起こるのか ?(後編) 最新知見と歯科医院で実践できる予 防策 Quintessence DENTAL Implantology 23: 845-857 2016..

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