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プラズマ生成および観測技術の応用による乳がん診断・非侵襲性治療法の開発

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1 .はじめに  核融合炉心プラズマ開発などを目的として培われた プラズマ生成および診断技術を応用することで,特に 「乳がん」を対象とした被曝リスクや痛みのない診断 法と,非侵襲性の治療法の開発を目指して研究を行っ ている.日本人の乳がん罹患者数は線形に増加してお り,女性のがんの部位別罹患者数では一位を占める. 乳がんは早期発見により完治が期待できることから, 定期健康診断における発見が重要である.したがっ て,X線曝露のリスクや痛みがなく,簡便に検査が 行えるマンモグラフィへの要望は多い.また,乳がん では原則的に外科治療が行われ,補助的に行われる放 射線治療などによる不妊リスクなどと合わせ,診察を 躊躇う心理的な要因となっている.このため,悪性黒 色腫などに対して選択的細胞死誘導の効果が示された 大気圧プラズマによる非侵襲的ながん治療法の乳がん への効果の検証を行った.  マイクロ波コンピュータトモグラフィ(Microwave Computed Tomography: MWCT)は,測定対象物に多 方向からマイクロ波を照射し,測定されたデータから コンピュータにより電気定数(比誘電率および導電 率)の3次元画像再構成を行うものである.これは, おもに核融合プラズマ計測のために開発されてきたマ イクロ波イメージングを人体計測に応用するものであ る.乳房の各組織の比誘電率が,皮膚,脂肪,乳腺, および乳がん組織で異なることから,電気定数値の空 間構造を再構成することでがん組織を判別できる.こ のため, (1)痛みを伴わない (2)数値により判別するため非専門家やコンピュータ でも診断可能 1日本大学理工学部物理学科 2日本大学大学院博士前期課程物理学専攻 3日本大学歯学部歯学科 4日本大学大学院博士後期課程物理学専攻 5日本大学医学部医学科 * Corresponding author 令和2 年 6 月 30 日受付,令和 2 年 11 月 11 日受理

プラズマ生成および観測技術の応用による乳がん診断・非侵襲性治療法の開発

浅井 朋彦1*,長山 好夫 1,渡辺 茜2,藤原 恭子 3,齊藤 玖美2, 小林 大地4,増田 しのぶ5,越永 從道5,上原 秀一郎5

Medical Applications of Plasma Generation and Diagnostic Techniques

on Diagnosis and Non-Invasive Treatment of Breast Cancer

Tomohiko ASAI, Yoshio NAGAYAMA, Akane WATANABE, Kyoko FUJIWARA, Kumi SAITO,

Daichi KOBAYASHI, Shinobu MASUDA, Tsugumichi KOSHINAGA and Shuichiro UEHARA

Abstract

Plasma formation and diagnostic techniques have been applied for diagnosis and non-invasive treatment of a breast cancer. A microwave CT (Computed Tomography) imaging has been proposed as a novel mammog-raphy technique without X-ray exposure and pain during diagnosis. For a practical application of the proposed mammography, a compact plain shape antenna with wide band characteristics had been invented and evaluated. Cytotoxic effects of atmospheric pressure gas plasma (AGP) irradiation onto breast cancer cells have also been experimentally verified.

Key Words : Microwave Imaging, Computed Tomography, Atmospheric Pressure Gas Plasma, Apoptosis Induction

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(3)操作にX線などの特殊な資格がいらない (4)照射マイクロ波は携帯電話なみの微弱電波であり 人体へ影響がない といった優位性を持つ乳がん診断法となることが期待 される.  ま た,近 年 新 規 の が ん 治 療 法 と し て 注 目 さ れ て いる低温大気圧プラズマ(Atmospheric pressure Gas

Plasma: AGP)1) は,正常細胞に影響を与えず腫瘍特異 的に細胞死を誘導することから,副作用の少ないがん 治療として期待が大きい.一方で研究の歴史は浅くそ の作用機序の解明には至っていない.日本大学医学 部,歯学部と理工学部では,平成25 年よりこのAGP を用いた癌治療法について共同研究を開始し,肺が ん,悪性黒色腫などに効果を持つこと,また AGPに より照射により生じるミトコンドリアの形態変化が, 腫瘍特異的な細胞死のカギを握る可能性を発見した 2). 本研究では,この作用機序についてさらなる検討を行 い,AGPの効果を高める技法に関する探索を試みる とともに,乳がんの非侵襲性治療法としての可能性を 検証した.  本稿では,プラズマ診断および生成を目的に開発さ れてきたこれら2つの手法について,乳がんへ応用 を目指した研究開発のこれまでの成果と今後の課題に ついて述べる. 2 .マイクロ波 CT マンモグラフィの開発 2.1 マイクロ波 CT マンモグラフィの原理  本研究で開発を目指すマイクロ波 CTマンモグラ フィの概念図を図1に示す.アンテナに取り囲まれ た領域内に配置された乳房に対して多点からマイクロ 波を照射し,散乱波と透過波を測定する.この測定さ れた散乱波・透過波のデータから誘電率などの電気定 数の空間分布を再構成することで,乳房中の乳腺やが ん組織を判別する 3).現在,乳がんの診断に用いられ ているX線マンモグラフィでは,脂肪とがん組織の 透過率の差の空間構造を再構成するが,特に乳腺が発 達しているアジア系の若年層の女性では,乳腺とがん 組織の判別が困難であり,専門家による読影が必要で あるなどの問題がある.本研究が提案するマイクロ波 マンモグラフィは,電気定数の空間分布により乳がん の可能性を判定できる診断法を実現することを目指し ている.  本研究では,逆散乱解析法により電気定数の空間構 造を再構成する手法を取っている.ここで用いる逆散 乱解法は,我々が連携する長崎大学において開発さ れたForward-Backward Time Stepping Method(FBTS 法)である4).この手法では,アンテナにより受信さ れたデータをフーリエ逆変換して時間領域とし,計算 機上で,初期の電気定数分布が一様であると仮定して

Finite-Difference Time-Domain Method(FDTD)計算5) を行い,アンテナが受信するマイクロ波の測定値との 差を評価する.初期電気定数分布を一定と仮定してい るため,必ず乳房から得たデータとは差が現れる.現 れた差が小さくなるように,最急降下法 6)を用いて 電気定数分布を補正し,その電気定数分布に対して再 度FDTD法による計算を繰り返し,乳房内部の電気 定数分布を推定する.FBTS法では,空間分解能の悪 い長波長から解き始め,そこでの解を初期解として, 短波長へ順に解を求めることで平坦な分布を得る.  集団検診などでの実用化を視野に,直径5 mm のが ん組織の検出を目標とし,分解能の向上を検討した. 図2にFBTS法による像再構成のシミュレーション 画像を示す4).アンテナにより受信される信号をシ ミュレートし行った像再構成では,FBTS法により5 mmの分解能で,乳腺に埋もれた小さながん組織を十 分判別できる高精度な電気定数の再現が可能である ことが示された.この結果,照射マイクロ波の波長λ に対して乳がんの大きさDとすると,D = λ/8 ~ λ/4 の範囲内であれば,実用可能な画像再構成が可能であ 図1 マイクロ波 CT マンモグラフィ装置概念図 図2 FBTS 法による像再構成シミュレーションの結果4)

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ると判断した.  ノイズやエラーを避けることができない実測データ によりマンモグラフィとして実用可能な性能を得られ ることを実証するため,本研究ではFBTS法マイク ロ波CT装置の実現を目指した.乳房内部の波長短縮 を考慮すると,直径 5 mmのがん組織の検出に必要 な照射周波数は6 GHzとなることから,測定周波数 帯域の目標を 0.9~7 GHzと設定した.  CT による高い精度の像再構成を行うには,使用す る個々のアンテナが広帯域かつ計算しやすいだけでな く,より多くの受信点をもつことが重要である.一般 にアンテナを大きくすると低周波数特性は向上する が,マンモグラフィでは図1にも示したようにアン テナを設置できる空間が制限されていることから, 小型で,低域カットオフ周波数に対しておよそ6倍 の広帯域でフラットな放射・受信特性を持つアンテナ が必要となる.従って本研究では,実機による原理検 証実験に先立ち,この条件を満たすアンテナの開発を 行った. 2.2 装置構成  MWCTマンモグラフィの実機による原理検証を行 うため,図 1に示す構成で実験装置を構築し,模造 乳房を用いて実験を行った.  マイクロ波の送受信のため,脂肪と誘電率の近いガ ラス繊維強化プラスチック(FRP)製の平面型マイク ロ波アンテナを開発し,模造乳房の周囲に66 個並べ た.このアンテナは,後述するように,マイクロ波 CT アルゴリズム:FBTS法による効率的な再構成を 行うため,平面型でアンテナ面から垂直方向にマイク ロ波を放射することを目指して設計された.平面型ア ンテナを用いることで計算領域を2次元平面内に限 定し,シンプルなモデルを構築できることから,計算 時間を短縮できると期待される.また,材料に用いた FRPは,乳房の脂肪組織とほぼ同じ誘電率を持つた め反射が少ないという特徴をもつ.  前節でも示したように,平面アンテナより乳房に対 してマイクロ波を照射すると,乳房内部の脂肪やがん 組織により散乱したマイクロ波は乳房を覆うように設 置した受信機により観測される.この実験では,FRP 製のカップにマーガリン(誘電率=3)を充填し,中 心に高誘電率ジルコニア球(直径 D=12.7 mm,誘電 率=33)を配置することで,内部に乳がん組織を持 つ乳房を模擬し,これに合わせてデータ解析に用い るFBTS法のための計算モデルを作成した.この散 乱データと一致する電気定数分布を,FDTD 計算で コンピュータ上に再現し,電気定数からがんや脂肪 といった組織とその構造を特定する.FBTS法の電 磁界計算には一般に FDTD法を用いるが,本研究で は,アンテナ特性の計算に商用のFDTDによる三次 元電磁界シミュレータ(Remcom社,XFDTD)を用 いた.本実験システムは高周波スイッチでアンテナ-

VNA(Vector Network Analyzer)間の接続を切り替え るもので,LabVIEWで制御する.データを取得後, スイッチで照射アンテナを切り替え,これを繰り返す ことで,多点での散乱データを収集し,取得された散 乱データと同様の散乱を生じる電気定数分布をコン ピュータ上で推定する. 2.3 アンテナの開発  MWCTマンモグラフィが原理的に脂肪中の乳がん 組織を判別できることは示されているが,これを実用 化するためには, (1)計算モデルの構築 (2)広帯域受信(1~7 GHz) (3)キャリブレーション (4)高速測定(~10 秒) (5)高速計算 を行うことで,集団検診などに対応できる処理速度を 実現する必要がある.計算速度の向上には,計算機の 性能やアルゴリズムと同時に,アンテナを含む計算領 域のモデル化が重要な役割を持つ.  アンテナの特性評価には Sパラメータを用いる. VNAからの入力信号をR,反射信号をA,伝送信号 をB とするとき,Sパラメータは以下のように定義 される. S11 = 20 log (A ⁄ R) (1) S21 = 20 log (B ⁄ R) (2) アンテナ特性のうち,S11は反射率を表し,0 dBと S11 の差(-S11)は放射特性を表す.またS21は2 つのアンテナ間の伝達率に対応する.これらにより, アンテナの送信(S11)と受信(S21)の周波数依存 性を評価する.  本研究の開始当初は,平面形状の広帯域アンテナと して一般的に用いられるビバルディアンテナ7)を採 用しシステムの性能評価を行った.ビバルディアンテ ナはプリント基板に成形される端放射型アンテナであ る.その一例を図3に示す.  ビバルディアンテナは,マイクロ波の放射方向と逆

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方向に長く伸びた形状をしており,同じプリント基板 に成形されたバランを経由して同軸ケーブルに接続 される.平面状の形状を持つアンテナの中でも,図4 に示すような平坦な周波数特性を持つ優れたアンテナ である.このアンテナを使用した実験および解析で は,実測と同様にアンテナ間距離を120 mm離し, SMAコネクタを組み込んだシミュレーションモデル を構築し,計算を行った.XFDTDを用いてビバルディ アンテナが放射する電磁界を計算したところ,メッ シュサイズを0.2 mmまで小さくすることで実測とよ く一致することが分かった.  優れた周波数特性を持つビバルディアンテナであ るが,測定対象物から直角方向に長い構造を持つ. FBTS法ではアンテナを含めた領域について電磁界解 析を行うため,計算モデルは三次元構造となり,内部 構造の再構成は極めて複雑になる.この問題を回避す るには,計算モデルが最もシンプルな一次元のダイ ポールアンテナや平面型アンテナを用いることが考え られるが,ダイポールアンテナや一般的な平面型アン テナの代表例であるパッチアンテナは送受信可能な周 波数帯域が狭く,測定領域の空間構造の再構成ができ ないという問題がある.  そこで,スパイラル電極と三角形のバランの組み合 わせで構成される,平面形状で比較的広帯域のアンテ ナ形状8) を基本に,MWCTマンモグラフィに応用可 能なアンテナ形状を考案,開発を行った.一般的に用 いられる平面状アンテナでは,乳がん組織の判別に要 求されるメッシュサイズを考えるとそのまま採用でき ない.そこで電極間の隙間を0.8 mmとして,メッシュ サイズ0.4 mmでモデルを構築,計算を行った.図5 にその結果を示す.一般的なスパイラル形状アンテナ では,低周波側にピークが現れるが,本研究で要求さ れる周波数帯域をカバーできないことがわかった.し かしながらスパイラル電極では,ビバルディアンテナ では確認できなかった1 GHz付近での放射と受信が 確認された.この検証の結果を受け,広帯域特性を実 現するには,渦の数は少ない方がよいことが確認でき た.  この結果を踏まえ,図6に示すようなスパイラル アンテナの特性の残した矩形電極アンテナを考案し, その評価を行った.この形状では,三角形バランと矩 形電極がダイポールアンテナとして働き,平面型アン テナとしては画期的な広帯域特性を示したと考えられ る.  この矩形電極アンテナ形状をベースにアンテナ性能 の最適化を行った.三角形バランの角度θ を変化さ せた場合の低周波数帯域,中周波数帯域および高周波 数帯域における特性を確認した(図7).バランの角 図3 実験に用いたビバルディアンテナの一例 図4 ビバルディアンテナの放射特性 図5 スパイラル形状アンテナの放射特性 図6 考案された矩形電極アンテナの一例

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度を大きくすると,放射と受信ともに特性は向上し, 45° 以降はほぼ変化がなかった.  また,図8および図9に示すように,アンテナ特 性のバラン角度θ 依存性を評価したところ,1.8 GHz と3 GHzにおいて45° より大きい領域で特性が低下 したことから,バランの角度θは45° を選定した.  次に,電極幅x mmに対するアンテナ特性の依存性 を検証した.その結果を図 10~12に示す.5 GHz 以 上では放射特性が向上し,それ未満では3 GHzを除 き有意な変化はなかった.また,3 GHzにおける受 信特性はxに依らずほぼ一定であった.この結果か ら電極幅が広い方がより平坦な周波数特性が得られる ことがわかった.  さらに図6に示す切り込み深さgを変化させたと きの放射と受信の変化を確認した.図13に示すよう に,gを大きくすると低周波数帯域の放射が低下す る.中・高周波数帯域では,12.8 mmの場合に-6 dB 以上の放射が得られた(図14).また,受信特性(図 15)においては g < 12.8 mmでは顕著な変化は見られ なかった.この検証の結果,周波数特性の極大値を与 える切り込み深さ gがあることが確認され,本研究 図7 放射・受信特性のバラン角度θ依存性 図8 異なる周波数における放射特性のバラン角度θ依存性 図9 異なる周波数における受信特性のバラン角度(θ)依存性 10 放射・受信特性の電極幅(x)依存性 11 異なる周波数における放射特性の電極幅(x)依存性 12 異なる周波数における受信特性の電極幅(x)依存性 13 放射・受信特性の切り込み深さ(g)依存性

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では12.8 mmを選定した.  さらに,放射特性のアンテナの全長への依存性を 調べた.全長が異なる2つのアンテナ(図16)につ いて計算した放射特性(S11)および受信特性(S21) を図17に示す.アンテナ全長を42 mm(A型)とす ることで,1 GHzの放射特性が 5 dB以上に向上した. 全長が30.4 mm(B 型)のケースでは,1 GHz の放 射特性は良くないが,1.2 GHzで5 dB以上となった. この結果から,全長を30 mm程度にすることで,周 波数特性を多少犠牲にしても測定領域境界により多く のアンテナを並べることができることがわかった.  図18に実機によるマイクロ波 CT実験で用いたア ンテナアレイを示す.このケースでは,できるだけ多 くのアンテナを配置できるように,アンテナ全長を 31.6 mmとした.側面には,電波の電界ベクトルが 水平になるようにアンテナを配置したが,直交した2 側面の電界は底面では直交する。そこで底面には直交 した電界方向が交互に並ぶように配置した.FBTS法 では,アンテナを含めた空間について電磁界計算を行 う.アンテナ間のクロストークも計算に含まれるが, それでもクロストークは測定精度を損なう原因となり うる.そこでクロストークを減らすために,同一電界 方向のアンテナはなるべく離して配置した.  これらの周波数特性上の要請に加え,測定対象であ る乳房全体の良好な再構成には,できるだけアンテナ を密集させて配置できる必要がある。このため,プリ ント基板用 SMAをバランの中心に置き,矩形電極か らの引出線はバランとの間でコプレーナー線路を取る 設計とした.また,乳房からの反射防止と誘電体によ る波長短縮を狙い,アンテナ基板は1.6 mm厚の標準 的FRP(GR-4)基板とし,アンテナの裏打ちとして FRP(G-10)の厚板(15 mm)を用いた.その結果, 平面形状アンテナとしては極めて広帯域で,計算モデ ル設定が容易であり,さらに計算領域が一桁小さい理 想的なマイクロ波CT 用アンテナの開発に成功した9). 2.4 実機による評価実験  開発されたアンテナの評価を行うため,図18 に示 すように,このアンテナを 66個配列したマイクロ波 14 異なる周波数における放射特性の切り込み深さ(g)依存性 15 異なる周波数における受信特性の切り込み深さ(g)依存性 図16 最適化後のアンテナ形状(左:A,右:B) 図17 最適化したアンテナの放射・受信特性の周波数特性 図18  平面型ダイポールアンテナを用いたマイクロ波 CT マンモ グラフィのアンテナアッセンブリー

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CT マンモグラフィ実験装置を,関西大学と共同で開 発した10).アンテナ10 個を1枚のプリント基板に並 べて成形し,FRP製の矩形容器に配置することで測 定領域を構成した.アンテナと乳房カップは1 m四 方の立方体の電波シールドケースの中に納め外来電波 の影響を防いだ.電波シールドケースはアルミ板の 内側にマイクロ波吸収体(E&Cエンジニアリング, ECCOSORB CV-6)を貼ったものである.  マイクロ波の送受信機には VNA(キーサイト・テ ク ノ ロ ジ ー,P9372 A)を 用 い,VNAのA端 子 に 32chの高周波スイッチの入力端子を,B端子に32ch の高周波スイッチの入力端子を接続し,高周波スイッ チの各出力端子にアンテナを接続した.高周波スイッ チの 2端子はアンテナ用と同じケーブルで直結し, キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン 用 と し た.高 周 波 ス イ ッ チ と VNAはUSBによりワークステーションに接続した. 両者の制御プログラムはLabVIEWにより開発した.  FRPカップにマーガリンを充填し,中心に高誘電 率ジルコニア球を入れた乳癌モデルを用いて実験を 行った.これらのデータをFBTS法で計算するため に計算モデルを作成した.エラー防止のため,出力さ れたパラメータを,Pythonにより記述されたプログ ラムでチェックした.計算モデルの善し悪しを決める のは給電モデルであり,今回開発したアンテナでは引 出線はバランとの間でコプレーナー線路となっている ため,給電点を SMAの終点の端子間とした.  この装置を用いて測定された透過,散乱マイクロ波 の実験データの例を図19 に示す.周波数帯域1~6.5 GHzで有意な信号が得られている.乳房カップにマー ガリンを充填することで透過波が減少し,散乱波が増 加することがわかる.マーガリンの中に高誘電率ジル コニア球を入れたことによる信号の変化はわずかであ る.  この装置を用いて測定され透過,散乱マイクロ波か らCT画像を求めるには,アンテナの数値計算モデル の確立,キャリブレーション,およびFBTS計算コー ドの改修等のソフトウェア作業が残されている.現 在,スーパーコンピュータ上での計算に向けて,長崎 大学,核融合科学研究所と共同で作業を進めている. 3 .AGP に対する乳がん細胞の応答  本研究では,前述のマイクロ波CTによる乳がんの 診断法の開発に加え,正常な細胞には影響せず,肺が ん,悪性黒色腫などに対して,選択的な細胞死誘導 効果を示している大気圧低温プラズマ(Atmospheric

Pressure Gas Plasma: AGP)について,乳がんへの効 果を検証した 2).

3.1 大気圧プラズマジェット

 AGPによる乳がん細胞の選択的細胞死誘導実験に

ついては,細胞死を誘導するために最も重要な活性酸 素種(ROS: Reactive Oxygen Species)であると考え られている過酸化水素を特に効果的に産生できるよ う,AGP照射装置の改造を施し,照射実験を行った. AGPはアークに遷移しにくいといった放電特性から ヘリウムガスを用いることが一般的であるが,本研究 では実用化を視野に,より安価なアルゴンやROS の 増加を狙ったアルゴン-酸素混合ガスなどについて, 産生されるROS の種類・量を発光分光分析法により 解析した.  また,AGP発生装置については,生成されるプラ ズマの諸パラメータの再現性向上を目的に,予備電 離11)の適用など照射部の構造や電源の制御システム についても改良を行った.予備電離には平行平板型の 誘電体バリア放電(Dielectric Barrier Discharge: DBD)

を採用した.実験に使用した AGP照射装置のプラズ マ生成部の概観を図20に示す.  プラズマ生成部上流に,ガス種や圧力等の条件への 依存性が比較的小さい DBD予備電離部を適用して種 プラズマを生成,これを一対の円筒状の電極に低周波 (~10 kHz)の高電圧(~10 kV)を印加して大気圧 プラズマを生成するLF(Low Frequency)プラズマ 図19 測定された実験データの一例.(a)透過波,(b)90 度散乱波.

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ジェット生成部へ導入しAGPを生成する.これによ り,これまで大気圧下においては安定なプラズマ生成 ができなかったガス種や運転領域での AGP生成が可 能となった.図 21にDBD予備電離適用の有無に対 して産生される ROS量の指標としてオゾン濃度の変 化を観測した結果を示す.オゾン産生量は,LFジェッ トプラズマ生成中予備電離プラズマを供給し続けた Case2において最大であり,LFジェットへ電圧印加 を開始すると同時に予備電離を停止した Case3にお いても,有意に増加することがわかる.AGPによる 殺細胞効果の検証には,プラズマの熱による影響やガ ス流による擾乱を低減することが重要であり,予備電 離によりROS の産生量が増大したことは,本研究に おいて極めて重要な成果であると言える.  さらに,より安価に殺細胞効果の強い AGPを産生 するために,プラズマ生成にアルゴンガスを使用し, 前述のようにプラズマ生成領域の前段でガス中に種電 子を生成する予備電離を適用することで放電の安定 化を図った.これにより,特にこれまで安定なプラ ズマ生成が困難であった酸素ドープアルゴンによる AGP生成が可能となった.図22 にアルゴンAGPに おける予備電離および酸素ドープの有無について, 産生されるROS 量の指標としてオゾン濃度を測定し た結果を示す.Case1はLFジェットプラズマ生成 中,常に予備電離部で種プラズマを生成したケース, Case2はAGP生成直前まで予備電離を行った場合を 示している.図22の縦軸は対数スケールであり,ヘ リウムAGPではDBD予備電離の有無でオゾン産生 量が有意に変化したが,酸素ドープアルゴン(Ar+O2 (1%))-AGPでは,DBD予備電離部のみでも酸素ドー プを行わない AGPにくらべ2桁以上のオゾン発生量 の増大が確認された. 3.2 AGP によるガン細胞死誘導の乳がんへの適用  乳がんでは,外科的な施術なしにがん組織にプラズ マを照射することは困難であることから,プラズマ照 射を行った培養液中でがん細胞を培養し,その影響を 評価する.この方法は前述のように悪性黒色腫などに 対して細胞死誘導効果が確認されており,プラズマ処 理溶液を点滴などの方法で投与することによる治療効 果が期待される.  本実験では,培養した細胞の評価に生細胞数測定 試薬である,水溶性テトラゾリウム塩WST-8(2-(2 -

methoxy - 4 - nitrophenyl)- 3 -(4 - nitrophenyl)- 5 -(2,

4 - disulfophenyl)- 2H - tetrazolium)を用いた.WST-8 は,生細胞内のミトコンドリアの脱水素酵素によって 生産されるNADHが電子を受け取ることで還元され, ホルマザンを生成する.生成されたホルマザンは生細 胞数と比例関係があることから,ホルマザンの吸光度 を測定することで,生細胞数を計測できる.ここで, 吸光度は0.1以下だと細胞がほとんど死滅しているこ とを意味する.  この方法で,乳がん細胞の生存率について,放電ガ ス種および照射時間の依存性を調べた.図23にこの 図22 アルゴン AGP におけるオゾン生成量の時間変化 図21  ヘリウム AGP によるオゾン濃度の時間変化(Case1:予備 電離なし,Case2:常に予備電離を放電,Case3:LF 生成前 まで予備電離を放電) 図20 DBD 予備電離部を有する AGP 生成部の概観図

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結果を示す.グラフの縦軸は,プラズマ照射培養液で の吸光度を通常の培養液での吸光度で割ったものであ り,細胞の生存率を示している.通常の培養液と比較 して,AGPを照射した培養液において高い殺細胞効 果が見られた.一方で,ROSの産生量が増加してい ると考えられるAr+O(2 1%)-AGPを照射した培養液 において殺細胞効果が低下するという予想に反する効 果が確認された.  この結果を検証するため,照射時間を Arおよび Ar+O(2 1%)-AGPによる殺細胞効果の照射時間依存 性を測定した(図24).この結果,Ar-AGPと比較し Ar+O(2 1%)-AGP酸素ドープしたケースにおいて殺細 胞効果が現れるまでにより長い照射時間を要すること が示された.  AGPによる腫瘍細胞の細胞死には ROSが関与し ていることは間違いないと思われるが,その詳細なメ カニズムは不明であり,単に AGPにより直接産生さ れるROS の量が増加しても殺細胞効果が上がるわけ ではないことが前述の実験結果から示唆された.そこ で,AGPによる殺細胞効果の作用機序を検証するた め,下記の実験を行った.  細 胞 死 を 誘 導 す るROS はAGPの 照 射 時 に 直 接 産生されるのか,あるいは培養液の成分と反応して ROSが産生されるのかを解明するため, (1) AGPを通常の培地照射する群 (2) AGPを照射した水に,2倍の濃さの培地(非照射) と1:1で混合した群 (3) 2倍の濃さの培地にAGP照射を行い水(非照射) と1:1で混合した群 の3つを準備し,乳がん細胞株に投与した.24時間 後に生細胞数を細胞数自動計数装置(Thermo Fisher Scientific, Countess II FL)を用いて調べたところ,い ずれの群においも,非照射培地で培養した細胞と比べ 生存率が30%ほどに低下していたが,(1)~(3)の 間では特に大きな差は見られなかった.この結果から AGP が培地中の成分と反応してROSが産生される 可能性は否定され,照射プラズマ由来のROS が殺細 胞効果を持つ可能性が補強された.  AGPにより産生され殺細胞効果を示すROSは,お もにH2O2だと考えられているが,H2O2 自体による 殺細胞効果は培養液の種類により異なっており,例え ばRPMI培地を用いた時よりもDMEM培地を用いた 時に,高い殺細胞効果を示すことが判っている 12). AGPにも同様の差が見られるかどうか検討するため に,DMEM およびRPMI に照射を行い,その殺細胞 効果を検討した.  照射培地に置換後,細胞を24 時間培養し,生存率 を細胞数自動計数装置を用いて調べたところ,AGP の殺細胞効果には培地ごとの差は見られなかった. RPMIでH2O2 の殺細胞効果が減弱する理由の一つと して,RPMIには抗酸化物質グルタチオンが含まれて いるのに対し DMEMにはまったく含まれていないこ とが考えられるが,今回の結果は AGPで産生される 殺細胞効果のあるROSには,H2O2 以外のものが含 まれる可能性を強く示唆した. 3 .まとめ  本研究では,核融合炉心プラズマの診断法として開 発されて来たマイクロ波 CTを応用し,X線曝露や 痛みがなく,専門家の読影を必要としないマンモグラ フィの開発を進め,また,大気圧低温プラズマジェッ ト生成技術を応用したAGPの細胞死誘導効果による 乳がん治療の可能性の検証を行った.  MWCTマンモグラフィの開発においては,マイク ロ波CTに適した平面形状で広帯域なアンテナを考案 し,その評価を行った.この結果,マイクロ波CTマ ンモグラフィの実現に大きく寄与する広帯域な平面状 小型アンテナの開発に成功した.現在,実機を模した 図23  照射時間 300 s,600 s での細胞生存率(種類:乳がん細胞 MCF-7,希釈:50%) 図24  Ar,Ar+O2(1%)の照射時間依存性(種類:乳がん細胞 MCF-7,希釈:50%)

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実験装置を構築し,模擬乳房について実験を行った. 現在CT画像再構成のためのソフトウェア開発を進め ている.  AGPによる殺細胞効果の乳がんへの適用について は,3.2節に示したようにプラズマにより産生される ROS の効果と考えられる細胞死誘導効果が認められ た.さらに,これまでAGPにより産生され殺細胞効 果を示す主要なROSであると考えられていたH2O2 以外のROS が,乳がん細胞の細胞死誘導に寄与して いる可能性が示された.また,酸素をドープしたア ルゴンガスにより大気圧下で安定に AGPを生成し, ROS の産生量を増加できたことは,世界的にヘリウ ムガスが不足している現状において,AGP利用の可 能性を広げたと言える. 謝辞  本研究は,平成30 年度・令和元年度日本大学学術 研究助成金,総務省戦略的情報通信研究開発推進事業 (SCOPE),JSPS科研費JP17K18772の助成を受け実 施されたものです。アンテナ開発に尽力された花島朋 弥氏,CT画像再構成においてご協力いただいている 長崎大学・森山敏文准教授,関西大学・山口総一朗准 教授,核融合科学研究所・土屋隼人博士に感謝いたし ます。 参考文献

1)Teschke, M., Kedzierski, J., Finantu-Dinu, E., Korzec, D., Engemann, J.(2005): “High-speed photographs of a dielectric barrier atmospheric pressure plasma jet”, IEEE Trans. Plasma Sci., Vol. 33, pp. 310-311.

2)Saito, K., Asai, T., Fujiwara, K., Sahara, J., Koguchi, H., Fukuda, N., Suzuki-Karasak, M., Soma, M., Suzuki-Karasaki, Y.(2016): “Tumor-selective mitochondrial network collapse induced by atmospheric gas plasma-activated medium”, Oncotarget, Vol. 7, No. 15, pp. 1-8.

3)長山好夫,山口総一朗,田中俊幸,森山敏文(2017):マ イクロ波CTマンモグラフィ実験装置の開発,電子情報通信学 会論文誌C,Vol. J100-C, No. 8, pp. 332-341.

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7)Hood, A. Z., Karacolak, T., Topsakal, E.(2008): “A Small Antipodal Vivaldi Antenna for Ultrawide-Band Applications”, IEEE Antennas and Wireless Propagation Letters, Vol. 7, pp. 656-660.

8)Hadi, B., Emily, P., Adam, S., Benoit, G., Milica, P., Leslie, A. R.(2015): IEEE Trans. Biomedical Eng., Vol. 62, No. 10, pp. 2516-2525. 9)浅井朋彦,長山好夫,花島朋弥,渡辺 茜(2020):“アン テナ,アレイアンテナ及びコンピュータ断層診断装置用アンテ ナ装置”,出願番号:特願2019-037834,出願人:日本大学, 出願日:2020年2月20日. 10)花島朋弥,長山好夫,渡辺 茜,齊藤玖美,浅井朋彦,森 山敏文,田中俊幸,竹中 隆,山口聡一朗,土屋隼人(2020): “マイクロ波CTマンモグラフィの開発”,2020年電子情報通 信学会総合大会,2020年3月17日~20日. 11)浅井朋彦,田中郁行,小林大地,小口治久(2018):“大気 圧プラズマ発生装置”,出願番号:特願2018-148177,出願人: 日本大学,出願日:2018年8月7日.

12)Biscop, E., Lin, A., Boxem, W. V., Loenhout, J. V., Backer, J., Deben, C., Dewilde, S., Smits, E., Bogaerts, A. A.(2019): “Influence of Cell Type and Culture Medium on Determining Cancer Selectivity of Cold Atmospheric Plasma Treatment”, Cancers(Basel), Vol. 11, No. 9, 1287, pp. 1-15.

参照

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