チェーンを用いた簡易魚道の提案
石川雅朗
(環境都市工学科)Suggestion of a simple fish passes using chains
ISHIKAWA Masaaki
(Department of Civil Engineering) Abstract: Fish passes are structures constructed on artificial barriers that facilitate for the natural migration of diadromous fishes. In this study, we propose a simple fish passes using chains, it's called Chains Fish Passes. Chains Fish Passes arranged chains in a flow direction. We carried out interior observation experiments. We confirmed that the improvement of the going upstream efficiency of fishes in the chains fish passes.Keywords: fish pass, chain, baffle plates, diadromous fish, Chains Fish Passes (CFP)
1. はじめに
河川の上下流が見渡せる橋の上に立って,川の流 れを見れば,水面に現れる波や泡によって水が上流 から下流へと絶え間なく流れていることを確認す ることができる.当たり前のことであるが,目の前 にある川の水は元の水と同じものではない.同時に その時,河床は浸食作用によって削り取られ,運搬 作用によって土砂は下流へと運ばれ,堆積作用によ って運ばれた土砂は堆積する.河床の浸食,運搬, 堆積作用が平衡状態にあれば,河床はダイナミック に変化をしているのにも関わらず,一見すると河床 は何も変わらないように見える. 河川計画を立案する場合,この平衡状態の河床勾 配を維持するように計画を考えるのが基本である. 河川で流送される土砂は,河床と擦れ合い,互いに ぶつかりあって細かくなり,その粒径と粒径分布は 変化する.底質(河床構成材料)の粒径の変化に関 与する因子は流量など時間的に変化する複雑なも のなので平衡勾配を事前シミュレーションで推定 することは不可能に近い.そこで,現況河道におけ る河床勾配を計画河道で用いることが適切である. このように河床勾配を定めて,河道を設計すると河 道を合わせるために落差工を設ける必要が生じる. 人の手の入らない自然な河道でも,河床に岩盤など があれば,自然に落差ができる.その落差が大きい 場合には.魚止めの堰,滝となり,そこから先には 下流に生息する魚類は上ることが出来なくなる. 河川には稲作をするための灌漑用水を提供する 重要な役割がある.河川の水位は洪水等により安定 していない.降雨が少ないことにより,極端に河川 水位が低下することがある.ひと時の河川水位の観 察では水位が一定であるかのように感じるが,河川 水位もダイナミックに変動している.灌漑用水を安 定して取水するには,河川にダムや堰を建設して河 川水位を安定させる必要がある.ダムや堰は河川を 横断する構造物で,河川に生息する魚類を遡上,降 河させるためには魚道を設置する必要がある.また, 河川水流による侵食作用は強く,堰の構造には堅牢 性が求められる1,2,3,4,6). 99 木更津工業高等専門学校紀要 第53号(2020)国土交通省の管理する直轄区間内の河川横断施 設は1,277 基(H26 調査時)で,この内 43%が固 定堰,27%が床止めとなっている.なお,同調査に よる魚道設置数は980 で,そのうち 65%が階段式, 21%が斜路式をなっている.この中には自治体が管 理する分も含まれているが,自治体等が単独で管理 するものも相当数あることが予想される5).
2. チェーン魚道の提案と観察実験
チェーン魚道概略図を図-1に示す.堰の堅牢性 を高めるために側面図に示したように断面が半円 形のコンクリート製の堰堤による堰は多くあると 考えられる.河川水流の浸食性に対する堅牢性を高 める横断形状ではあるが,頭頂部より下流の流れは 射流となり,流速は速く,水深が非常に浅くなって いる.写真1 に室内通水遡上観察実験の様子を示す 夷隅川(千葉県)の潮止堰である桑田堰は概ねこ の形状を有する堰堤になっている.夷隅川は夷隅川 漁業協同組合によってアユ稚魚の放流事業が実施 されている.夷隅川の河道は多様性に富み,千葉県 内河川としてはアユの生育に適した河川のひとつ である.春先の桑田堰では天然魚と思われるアユ稚 魚の遡上が確認される.しかし,近年ではアユの個 体数の急激な減少が内水面水産業の大きな問題と なっている. アユにとって良好な摂餌場,生育場は桑田堰より 上流部に位置している.アユ稚魚が桑田堰を越えて 遡上することは重要である.桑田堰を越流する流れ は射流で,流れは速く,水深は浅くなっている.遡 上しようとするアユ稚魚は堰下流の中間までは遡 上するが,速い流れに押し戻されると同時に水深が 浅いために尾鰭でキックしても反力を得られずに 遡上することが出来ない状況にあった. 写真 2 はチェーン魚道の室内通水予備実験とし てチェーンを1本設置した時の堰堤上の流れの様 子を示したものである.流れが射流であるため,チ ェーンによって頭頂部付近で発生した波は下流方 向に逆V 字形に広がっているのが確認できる. 図-1 チェーン魚道概略図 写真1 チェーン魚道の室内通水遡上観察実験 写真2 チェーン魚道の室内通水予備実験1 100 石川雅朗写真3,写真 4 は複数のチェーンを配置した場合 である.予備実験なのでチェーンの配置間隔を決め るために,この時点ではチェーンの間隔は均等では ない.1本のチェーンにより発生した波は,隣接す るチェーンにより発生した波と重なりあい,相対的 に水深の深い領域が創りだされていることが確認 できる.遡上する魚類にとって,わずか数ミリでも 水深が深ければ尾鰭によるキックが有効に作用し て堰堤を遡上することが可能になる. 魚道設計の問題は典型的な学際的な問題である. 速い水流による魚類の遡上の障害を取り除くため には,魚道を設け魚道水路内部に阻流板を配置して, 上流からの水流の水勢を減少させることが必要で ある.魚類の遡上は階段を上るような感覚ではなく, 可能であれば一気に遡上しようするものである.そ の場合,水勢の減少のために配置した阻流板が魚類 の遡上の障害になってしまう恐れがある6). ここで提案するチェーン魚道においてチェーン を流れ方向に配置したのは,遡上する魚類の遡上経 路を確保するためである.チェーンを流れと直交す る方向に配置すれば,流れ方向に配置する場合より も魚道内の水深をより深くすることができ,流れの 勢いもより減ずることが出来るが,体長が10cm に 満たないアユ稚魚にとってはチェーンそのものが 遡上行動の障害となってしまう可能性が高い. 写真 5 はアユの遡上行動観察の予備実験の様子 である.チェーンとチェーンの間ではなく,チェー ンと実験水路側壁の間を遡上している様子だが,体 の半分が空気中に露出しながらも,尾鰭のキックに よって遡上することが確認できる. 遡上行動観察実験では室内実験水路において,ア ユ Plecoglossus altivelisを供試魚として用い,堰 堤下流部に平均体長7.05 cm のアユ 23 尾を放流し て,1 時間に堰堤を遡上した尾数をカウントした. 観察実験結果を表-1に示す.ケース数が異なるが, チェーン有の場合,平均遡上尾数12 尾,チェーン 無しの場合は11 尾といった結果を得た,チェーン の 有 無 に よ る 顕 著 な 差 は 求 め ら れ な か っ た . 写真3 チェーン魚道の室内通水予備実験 2 写真4 チェーン魚道の室内通水予備実験3 写真5 アユ遡上行動観察予備実験 101 チェーンを用いた簡易魚道の提案
表-1 室内遡上行動観察実験結果一覧(アユ稚魚) 実験コード チェーン 観察 開始 観察 終了 遡上尾数(尾) 155-24a-01 有り 6:54 8:00 9 155-18a-01 有り 6:00 7:05 10 155-16a-01 有り 5:49 7:00 11 155-13a-01 有り 6:53 8:00 9 155-11a-01 有り 6:39 7:40 12 155-09a-01 有り 5:50 7:00 15 155-04a-01 有り 5:50 7:00 16 155-02a-01 有り 7:58 8:50 14 平均=12 尾 155-17a-01 無し 6:03 7:05 10 155-12a-01 無し 5:52 7:00 10 155-10a-01 無し 6:25 7:27 11 155-08a-01 無し 9:00 10:12 11 155-05a-01 無し 5:50 7:00 12 155-03a-01 無し 7:58 8:55 13 平均=11 尾 堰下流にアユ稚魚 23 尾放流(平均体長 7.05cm), 堰(水路幅)0.80 m,流量 Q=0.010 m3/s. 更なる検証実験の必要はあるが,遡上経路を見ると, チェーンの有効性を確認できる部分もあった. 堰の管理者は国,地方自治体,土地改良区,水利 組合など様々である.堰に新たに魚道を設置する, あるいは既設の魚道を改良する場合には漁業協同 組合を含めた関係者で十分に協議する必要がある. 特に既設の堰で改良工事を行う場合には,工事費用 も高額になる.ここで提案するチェーン魚道はチェ ーンをただ置くだけなので工事費用を抑えること が出来るという利点もある.また,チェーンは船舶 の部品のひとつでもあるので,製作販売業者も多く 入手しやすいという利点もある.さらに,問題とな っている魚道のメンテナンスもほとんど不要とい う利点もある.チェーンの大きさ,配置間隔など未 解明の部分も多くあり,今後,更なる実験,研究を 行う必要がある.今回の遡上行動観察実験は室内実 験のみであるが,魚道の有効性を更に確認するため に現地実験を行う必要性があると考える.
謝
辞
千葉県水産総合研究センター・内水面水産研究所 より観察実験のために貴重なアユ稚魚を提供して いただいた.ここに記して感謝申し上げます. 元木更津工業高等専門学校・環境都市工学科・水 工研究室,卒業研究生,梅原奈々氏には,チェーン 魚道の魚類遡上行動に関する室内観察実験のデー タ整理・分析にご助力いただいた.ここに記して感 謝申し上げます.参考文献
1) 鮭川・大矢・石崎・荒井・山本・𠮷𠮷本:「河川工 学」.鹿島出版社.242p.,1992. 2) 玉井・水野・中村:「河川生態環境工学」.東京 大学出版会.312p.,1993.3) Clay, C. H. :”Design of fishways and other fish facilities”, 2nd ed. Lewis Publishers, Ann Arbor, Michigan. 1995.
4) American Fisheries Society Meeting : “Innovations in fish passage technology”. (Odeh M, eds), American Fisheries Society, Maryland,1999.
5) 川田・坂之井・塩井・惠美・都築:「直轄河川に おける既設魚道状況調査に関する報告」.リバー フロント研究所報告第27 号,pp.66-71.2016. 6) Ishikawa, M., Shirai, J.:”Fish pass using baffle effects of water flow without plates”, The JSFS 85th Anniversary-Commemorative International Symposium“Fisheries Science for Future Generations ”, Symposium Proceedings, No. 02015, 2017.
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(2019年10月7日受領)