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ガソリン小売価格の推移に見られるエッジワース・サイクルの周期の異質性

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(1)

エッジワース・サイクルの周期の異質性

河又裕士

1

・秋山英三

2 1学生会員 修士(社会経済)筑波大学大学院 システム情報工学研究科(〒305-8573茨城県つくば市天 王台1-1-1) 2非会員 博士(学術)筑波大学 システム情報系(〒305-8573茨城県つくば市天王台1-1-1) 本研究では、オーストラリアのニュー・サウス・ウェールズ州のガソリン小売市場の価格データの実証 分析を行い、エッジワース・サイクル(EC)と呼ばれる小売価格の循環的変動の周期に影響を与えるも のが何かを分析した。検証の結果、(A)人口あたりの店舗数が多い地域ほどECの周期が長くなる傾向が あることが示された。次に(A)の発生機構を説明するため、地域ごとの店舗の価格決定様式を推定した。 その結果、(B1)人口あたりの店舗数が多い地域ほど、「地域の平均価格」よりも「州の平均価格」を価格 決定の際に店舗が重視しやすいことと、(B2)「州の平均価格」を店舗が重視する地域ほどECの周期が長 くなりやすいことが示された。更に、(B1)、(B2)により(A)が説明されうることを示した。

Key Words: edgeworth cycle, period, retail gasoline price, Australia

1.

はじめに 価格競争が行われる財の価格においてエッジ ワース・サイクル(

EC

)と呼ばれる循環的変 動が現れることがある。

EC

とは価格の「急激 な高騰」と「緩やかな下落」を繰り返す循環 的変動のことであり、

Edgeworth

1925

)12)

Maskin and Tirole

1988

)22)によってその理論

モデルが提案されている。以下では

Edgeworth

1925

)12)

Maskin and Tirole

1988

22)で定

式化された

EC

と、現実の価格で観測される 「

EC

に似た価格変動」の両方を「

EC

」と呼ぶ。

EC

は、世界各地のガソリン小売価格で観測 されている(

Eckert

2013

11))。図

1

は、オー ストラリアのニュー・サウス・ウェールズ州内 (以下では、単に

NSW

州と呼ぶ)の「

South-ern Highlands and Shoalhaven

」地域と「

Syd-ney-Eastern Suburbs

」地域における平均ガソ リン小売価格の日次推移を示している。どちら の地域においても

EC

、すなわち価格の急激な 高騰と緩やかな下落がはっきりと見られ、それ が循環的に繰り返されていることが分かる。 しかし、急激な高騰が始まる日から緩やかな 下落が終わる日までの期間を「

EC

の周期」と すると、二つの地域で異なる周期の

EC

が現れ ていることが見て取れる。 ガソリンが

NSW

州内で広く売られている財 にも関わらず地域ごとに

EC

の周期が異なるの は、大手ブランド(大企業)の店舗の割合が地 域によって異なることが原因である可能性が指 摘されている。

Eckert

2003

)10)の理論的分析は、 大企業店舗の割合が店舗の価格決定様式に影響 し、このことが

EC

の周期にも影響することを 示唆している。

Eckert

2003

)10)は、大企業と 小企業の二企業が交互に価格を決定するベルト ラン競争が無限回繰り返される状況をモデル化 している。そして、大企業の店舗数シェアが圧

(2)

倒的なほど、大企業が値下げを積極的に行わ なくなるため価格の下落が遅くなり、

EC

の周 期が長くなることを示している。一方で、小企 業の店舗数シェアが大きいほど、大企業も値下 げを積極的に行うため価格の下落が速くなり、

EC

の周期が短くなることを示している。この 分析は、大手ブランド店舗の割合が大きい市場 では

EC

の周期が長くなることを理論的に示唆 している。

Eckert

2003

)10)の理論的予測が現実のガソ リン価格の変動で成立しているかどうかについ ては、例えば、

Noel

2007a

)25)が検証を行っ ている。

Noel

2007a

)25)は、カナダの

19

市における

1989

年から

1999

年の週次ガソリ ン平均小売価格に現れる

EC

の周期に対する検 証を行っている。そして、大企業による運営店 舗の割合が大きい都市ほど、発生する

EC

の周 期が長いことを実証的に示している。 では、他の地域のガソリン小売市場でもカ ナダの

19

都市のように

Eckert

2003

)10)の理 論的予測が成り立つのだろうか?ここで、図

1

に示される

NSW

州の示される二つの地域の ガソリン価格の変動と、それらの地域に占める 大企業ブランド(以下、大手ブランド)の店舗 の割合に着目してみる。図より分かるように 「

Southern Highlands and Shoalhaven

」地域の

価格変動(実線)は周期が非常に長く、「

Syd-ney-Eastern Suburbs

」地域(破線)では周期 が短い。一方、これら地域の最大手四企業によ る大手ブランド店舗の割合(

2017

年中旬から 下旬)を後述する方法で計算すると、前者が約

54.5%

で、後者は約

94.4%

と大きい。つまり、 図

1

の二地域では、

Eckert

2003

)10)の理論的 予測が成り立たっていない。従って

NSW

州で は、大手ブランド店舗の割合以外の要因が

EC

の周期に影響を与えている可能性があると考え られる。 そ れ で は、 ど の よ う な 要 因 が

NSW

州 の

EC

の周期に影響するのだろうか?

Noel

2007a

)25)は、供給側の要因である大手ブラン ド店舗の割合以外にも、需要側の要因が

EC

の 「現れやすさ」や「周期」などの性質に影響す る可能性を議論している。

Noel

2007a

)25) 考慮する「需要側の地域的要因」は次の二つで ある。一つ目は、店舗当たりの自動車運転が可 能な年齢の「人口」である(以下では、自動車 運転が可能な年齢の人口のことを単に「人口」 と呼ぶ)。

Noel

2007a

)25)は、店舗当たりの 人口が多い地域ほど、価格を切り下げることで 店舗が獲得できる需要量が多くなり、そのこと が

EC

を現れやすくさせると予測している。実 際に

Noel

2007a

)25)は、店舗当たりの人口が 多い地域ほど

EC

が現れやすくなることを統計 的に示している。二つ目は「店舗密度」である。

Noel

2007a

)25)は、店舗が密に立地している 地域ほど、消費者が安い店舗を探索しやすくな ると考えている。その結果、価格を切り下げる ことで店舗が獲得できる需要量が多くなり、そ のことが

EC

を現れやすくさせると予測してい る。こちらでも同様に

Noel

2007a

)25)は、店 舗密度が多い地域ほど

EC

が現れやすくなるこ とを示している。 図1 ニュー・サウス・ウェールズ州の各地域における平均ガソリン小売価格の日次推移 (NSW州のデータサイト15)で公開されているデータを元に著者が作成)

(3)

更 に

Noel

2007a

)25)は、「

EC

の 周 期 」 に 対する統計的分析も行っている。この分析で

Noel

2007a

)25)は、店舗当たりの人口が多い 地域ほど

EC

の周期は短くなること、そして店 舗密度が大きな地域ほど

EC

の周期が短くなる 可能性を示している。以上の

Noel

2007a

)25) の議論を鑑みると、

NSW

州の二地域で異なる 周期の

EC

が現れる機構は、需要側の地域的 要因で説明できるかもしれない。しかし

Noel

2007a

)25)は、需要側の地域的要因が

EC

の「現 れやすさ」に影響を与える機構については議論 しているが、「周期」に影響を与える機構につ いてほとんど議論していない。更に、現実の店 舗の価格決定様式に対する検証もほとんど行っ ていない。 以上を踏まえ本研究では、需要側のどのよう な地域的要因が

EC

の周期に影響するのか、そ してその影響の発生機構を現実の店舗の価格決 定様式を推定することで実証的に検証する。 本研究の検証結果ではまず、

EC

の周期が主 に「人口あたりの店舗数」に影響されることを 示す。具体的には、(

A

)人口あたりの店舗数 が多い地域ほど

EC

の周期が長くなる傾向を示 す。次にこの傾向の発生機構を説明するため、 地域ごとの店舗の価格決定様式を推定する。こ の推定結果より、(

B1

)人口あたりの店舗数が 多い地域ほど、「地域の平均価格」よりも「州 の平均価格」を価格決定で店舗が重視しやすい ことを示す。また、(

B2

)「州の平均価格」を 店舗が重視する地域ほど

EC

の周期が長くな りやすいことも示す。そして(

B2

)の機構は、 店舗数が

EC

の性質に与える影響を理論的に分 析している

Noel

2008

)27)の予測と整合的で ある可能性を示唆する。

2.

既存研究のレビューと本研究の位置づけ いわゆる

EC

と呼ばれる価格変動パターンの 存在は、通常のベルトラン競争の理論的帰結 (均衡への収束)への批判として

Edgeworth

1925

)12)が初めて指摘したものである。通常 のベルトラン競争の理論は、全企業が限界費 用に等しい価格を設定するようになると予測 す る。 一 方 で

Edgeworth

1925

)12)は、 企 業 の生産量に制限がある場合は均衡価格が存在せ ず、価格が循環的に変動しうることを示して いる。また、

Maskin and Tirole

1988

)22)は、 企業の生産能力に制限がない場合でも各企業

が長期的な利潤を最大化するとき、

Edgeworth

1925

)12)と類似の循環的価格変動が均衡経路

として現れうることを示している。

Maskin and Tirole

1988

)22)の予測する

EC

を実証的に初めて発見したのは

Castanias and

Johnson

1993

)5)である。

Castanias and

John-son

1993

)5)は、米国・ロサンゼルスの週次

ガソリン平均小売価格が急激な高騰と緩やかな 下落を繰り返すこと、そしてそのパターンが

Maskin and Tirole

1988

)22)の予測する

EC

似ていることを指摘している。この実証研究の

後にも

EC

は、米国中西部(

Lewis

2009

21)

Doyle et al.

2010

8)

Zimmerman et al.

2013

33)) や カ ナ ダ(

Eckert

2002

9)

Noel

2007b

26))、 ノ ル ウ ェ ー(

Foros and Steen

2009

16))、ドイツ(

Siekmann

2017

31))、オー ス ト ラ リ ア(

Wang

2009

32)

De Roos and

Katayama

2013

7))、 日 本( 河 又・ 秋 山、

2017

39))など、様々な国や地域のガソリン小 売市場で数多く観測されている。

EC

の発生要因の検証は、

Noel

2007a

)25) の他にも様々な研究(

Lewis

2009

21)

Doyle

et al.

2010

8)

Siekmann

2017

31))で実証的 に行われている。これらの研究では、大手ブラ ンド店舗の割合が

EC

の現れやすさを説明する 可能性を示唆している。 一方で

EC

の周期が地域ごとに異なる要因 の検証は、

Noel

2007a

)25)以外ではほとんど 行われていない。しかし、

EC

の周期が地域 ごとに異なることは様々な実証研究により明 らかである。例えば

Noel

2007a

)25)は、カ ナダの

19

都市で典型的に現れる

EC

の周期が

3.75

週間であることを報告している。一方で

Siekmann

2017

)31)は、ドイツにおいて約

1

日周期の

EC

が現れることを報告している。ま た、オーストラリア国内でも地域ごとに

EC

(4)

周期が異なることをオーストラリア競争・消費 者委員会(

ACCC

)が報告している(

ACCC

2014

2))。

ACCC

2014

2)は、オーストラリア の五大都市でそれぞれ周期の異なる

EC

が現れ ていることや、更に、

EC

の周期が年々変動し ていることを報告している。 このように

EC

の周期は、国・地域・時期に よって異なると考えられる。しかし、これら の要因が

EC

の周期に与える影響を同時に検 証することは困難である。そこで本研究では、

NSW

州で地域ごとに

EC

の周期が異なる現象 に着目し、その機構の解明を目指す。

3.

オーストラリア市場についての基礎知識 本研究では

NSW

州のガソリン小売市場に対 する検証を行う。これには、オーストラリアの ガソリン小売市場に関する知見が必要である。 本説では、オーストラリア市場の基礎情報を日 本市場との対比によって簡単に説明する。 まず、日本のガソリン小売店数の推移につい て解説する。日本では、ピーク時の

1994

年に 約

6

万店の小売店が存在したが、ガソリン需要 の減少や過当競争による収益の悪化、タンクの 老朽化に伴う廃業の増加などによってその数は 年々減少している。

2017

年には約

3

万店とな り、ピーク時の約半数にまで減少している36) オーストラリアにおいても小売店数の減少が 過去に起こっていたが、現在は安定して推移し ている。オーストラリアの小売店は

1970

年に は約

2

万店あったが、その後、石油精製業者 らによる経営の効率化が進んだことにより小売 店の数は急速に減少していった。小売店の数が 減少する一方で、大型店舗への転換が進んだた め店舗あたりの販売量は増加していった。また その過程で、コンビニやスーパーマーケットに 併設の(ガソリン)小売店の割合も増えていっ た。

2000

年代半ば以降、小売店の数は

6000

から

6500

店の間で推移しており、店舗数の 減少傾向はほぼ頭打ちになっている(

ACCC

2011

1))。 日本とオーストラリアのガソリン小売市場に おける大きな違いに価格情報の透明性がある。 日本では、資源エネルギー庁によって都道 府県ごとの週次の平均小売価格データが調査・ 公表されている37)。より詳細な価格情報は、

gogo.gs

18)

e

燃費13)などで調べることができ る。これらのサイトでは、利用者からの投稿に 基づき店舗ごとの最新の価格情報が公開されて いる。しかし、これらのサイトに掲載されて いる情報は利用者の投稿に基づくため、店舗に よっては価格情報が古すぎる、もしくは無いこ とがある。従って日本では、任意の店舗の現在 の価格を正確に知ることは難しい。 一方でオーストラリアの一部では、価格情報 の透明性の確保を目的として、燃料小売価格 の監視・公開用オンラインツールが構築され ている。西オーストラリア州では

2001

年から

FuelWatch

15)

NSW

州 で は

2016

年 か ら

Fu-elCheck

14)と呼ばれるツールが各州政府によっ て運用されている。消費者は、これらのツール を

PC

・スマートフォンなどを通じて利用する ことで、州内における任意の店舗の現在の価格 を正確に知ることができる。これらのツールの 詳細は、例えば

Byrne et al.

2018

)4)を参照さ れたい。 これらのツールが市場に与える影響は、消費 者が価格情報を簡単に探索できるようにするこ とだけではない。おそらく最も重要な影響は、 小売店の運営者が、これらのツールを利用する ことで、競合店舗の価格を簡単に観察できるよ うになることである。上記以外にも、オースト ラリアを対象とした価格情報の取得用の様々な ツール17)29)23)が民間業者によって運用されて いる。 競合店舗の価格を簡単に観察できるようにな ることで、店舗間の価格競争が促進されると考 えられる。従ってオーストラリア市場は、日本 よりも店舗間の価格競争が行われやすい環境だ と思われる。

(5)

4.

手法

1

)本研究で扱うガソリン小売市場のデータ

NSW

州 で は

U91

U95

U98

E10

E85

などの様々な種類のガソリンが売られている。 本研究では、

NSW

州における代表的なガソ リン製品の

U91

の小売価格を対象に分析を行 う。

NSW

州に存在するガソリン小売店舗の属 性データと、店舗ごとの小売価格の更新データ は、

NSW

州のデータサイト28)から入手できる。 これらのデータは上述の

FuelCheck

14)を通じ て収集されたものである。データは月ごとの

xlsx

(エクセル)ファイルとして公開されてい る。

NSW

州内の店舗が小売価格を更新するご とに、その店舗の名前・住所・地区名・郵便番号・ 店舗ブランド・更新日時・更新した商品の油種・ 新しい小売価格が一つのレコードとして記録さ れる。これらのデータのより詳細な説明は、例 えば

Byrne et al.

2018

)4)を参照されたい。本 研究では、

2016

8

1

0

時から

2018

4

29

0

時までの店舗ごとの

U91

ガソリン 小売価格の更新データ(

310275

レコード)と、 各店舗の属性データ(

2520

店舗)を分析に用 いる。なお、本研究で扱う日時はすべて現地時 間である。 本研究で扱う地域的要因は、人口の変化や店 舗の開店・閉店・休業などで時間的に変動しう る。そして、これらの変動が

EC

の周期に影響 を与える可能性がある。このような地域的要 因の変動を考慮するため本研究ではまず、入 手したデータをパネルデータとして構成する。 このパネルデータは

2016

8

1

0

時から

2017

4

30

0

時と、

2017

1

30

0

時から

2017

10

29

0

時、

2017

7

31

0

時から

2018

4

29

0

時の

3

期間 のクロスセクションデータで構成される。店舗 の中には各期間中に開店・閉店・休業したと考 えられる店舗が存在する。これらの店舗が含ま れた小売価格データを用いて時系列分析を行う のは困難であるため、各期間中に小売価格の更 新を

90

日以上行わなかった店舗をその期間で の時系列分析の対象から外す。以上に従って店 舗を抽出すると、時系列分析の対象の店舗は

3

期間でそれぞれ

1327

1186

1193

店舗あった。 本研究で扱う時系列は店舗ごとの小売価格の 日次推移である。上述の手順で抽出した対象店 舗は、各期間において

90

日未満の間隔で価格 を更新している。よって、対象店舗では期間の 開始時点から

90

日未満の間に

1

回は価格更新 を行い価格が決まるため、開始時点の日から

90

日後の小売価格を特定できる。そこで、本 研究で分析では、上記の

3

期間の各開始時点か ら

90

日後の日付以降のデータ、つまり、

2016

10

30

日から

2017

4

29

日と、

2017

4

30

日から

2017

10

28

日、

2017

10

29

日から

2018

4

28

日のデータを 対象とする。なお、各店舗の各日の正午時点で の小売価格をその店舗のその日の小売価格と している。時系列期間の長さはすべて

182

日 間である。これらの時系列期間を以下では

T

1、

T

2、

T

3と表す。各時系列期間の長さは約半年 である。時系列期間をこの長さにした理由は、

EC

の周期を測定するのに十分な長さが必要な ためである。

Noel

2007a

)25)では約

3.75

週間

EC

が平均的に観測されている。そのため、 より長い

EC

の発生も考慮するには半年程度の 長さの時系列期間が必要だと思われる。 (

2

)地域と平均小売価格の定義 本研究では、地域の平均小売価格の時系列に おいて発生する

EC

の周期を測定する。この測 定のためにはまず、地域を定義する必要がある。 本研究では、オーストラリア統計局34)が定義 する統計的地理規準の一つである

Statistical

Areas Level 4

SA4

)を地域区分として用いる。

SA4

NSW

州を

30

の地域に分割する。地域 ごとの平均小売価格は、時系列分析の対象店舗 での小売価格の平均値とする。 (

3

EC

発生の検定 時系列での

EC

発生を統計的に検証する手 段の一つとして、

Zimmerman et al.

2013

)33) の 方 法 が あ る。 こ こ で は

Zimmerman et

(6)

al.

2013

)33)の方法を説明するため、価格の時 系列

p = {p

0

,

p

1

,

· · · , }

を考える。

p

から次の変 動指標

I

t

=

⎪⎪⎨

⎪⎪⎩

+1 if p

−1

otherwise

t

− pt−1

>

0

1

) が計算できる。この計算より、次のような連続 的変動が起こった回数をそれぞれ集計できる。

φ

11

=

count (I

t

= +1, I

t−1

= +1, I

t−2

= +1)

2.1

φ

00

=

count (I

t

=

−1, It−1

=

−1, It−2

=

−1)

2.2

ψ

11

=

count (I

t

=

−1, It−1

= +1, I

t−2

= +1)

2.3

ψ

00

=

count (I

t

= +1, I

t−1

=

−1, It−2

=

−1)

2.4

) ここで

count(· · ·)

は、…の条件を満たす

t

の個 数を意味する。この集計により、

2

期連続の価 格高騰直後に価格がまた高騰する確率

θ

11と、

2

期連続の価格下落直後に価格がまた下落する 確率

θ

00はそれぞれ次のように推定できる。

ˆθ

11

=

φ

11

φ

11

+ ψ

11 (

3.1

ˆθ

00

=

φ

00

φ

00

+ ψ

00 (

3.2

) また、各確率の推定値の分散は次のようになる。

σ

2

θ

11



=

ˆθ

11



1 − ˆθ

11



φ

11

+ ψ

11 (

4.1

σ

2

θ

00



=

ˆθ

00



1 − ˆθ

00



φ

00

+ ψ

00 (

4.2

) 時系列で

EC

が発生しているならば、価格の連 続的な高騰よりも連続的な下落が起こりやすい ため、

θ

00

> θ

11が成り立つと考えられる。

Zimmerman et al.

2013

)33) の 検 定 方 法 で は、 帰 無 仮 説

H

0

: θ

00

= θ

11と 対 立 仮 説

H

1

: θ

00

 θ

11を考える。

H

0が成り立つ場合、

Wald

統計量1

WT =

θ

00

− ˆθ

11



2

σ

2

θ

11



+ σ

2

θ

00



5

) は自由度

1

χ

2分布に従う。検定によって

H

0 が棄却されれば、対立仮説

H

1が受容される。

Zimmerman et al.

2013

)33)では

H

1が受容さ れる場合に

EC

が発生していると判定してい る。 しかし

Zimmerman et al.

2013

)33)の検定方 法では、

ˆθ

00

< ˆθ

11が成り立つときにも

EC

が発 生していると判定してしまう。そこで本研究で は

H

1が受容され、かつ

ˆθ

00

> ˆθ

11が満たされる ならば

EC

が発生していると判定する。

EC

の 発生を判定する上記の方法を以下では「連続下 落性検定」と呼ぶ。 (

4

EC

の周期の測定 本研究では、各地域の各時系列で発生した

EC

の周期と地域的要因との相関関係を分析す る。従って、連続下落性検定で

EC

が発生して いると判定された時系列での

EC

の周期を測定 する必要がある。

EC

の周期の測定方法は

Noel

2007a

)25) よ っ て 提 案 さ れ て い る。

Noel

2007a

)25) 方法は、マルコフ転換回帰によって時系列の 各 時 点 を

Relenting

R

)、

Undercutting

U

)、

Noncycle

N

)の三状態に分類する。

R

U

は、 それぞれ

EC

において価格が高騰している状態 と下落している状態を表す。

N

EC

が起こっ ていない状態を表す。しかし、連続下落性検定 1 Zimmerman et al.(2013)33)の原表記には誤植が含まれ ている。式(5)はこの誤植を修正したものである。式(5) が正しいことは著者がZimmermanに直接問い合わせて確 認済みである。

(7)

を用いることで

EC

が起こっている時系列のみ を抽出できるため、本研究では

N

を除く

R

U

の二状態に時系列の各時点を分類する。

R

U

の二状態に分類する方法は

Noel

2007b

)26) でも用いられている。 マルコフ転換回帰による分類結果から状態間 の推移確率が計算できる。時点

t

R

のとき時 点

t + 1

R

である確率を

λ

RR、時点

t

U

の とき時点

t + 1

U

である確率を

λ

UUとする。

Noel

2007a

)25)は、状態

R

が続く期間の期待 値と状態

U

が続く期間の期待値の和を

EC

の 周期(

Period

)と定義し、次のように表している。

PRD =

1

1 − λRR

+

1

1 − λUU

6

) 本研究では各地域の平均小売価格の時系列に おいて発生する

EC

の周期を、式(

6

)を計算 することで測定する。 (

5

)地域的要因

EC

の周期に影響を与える地域的要因のうち 本研究で扱うものを以下で述べる。 まず、供給側の地域的要因について述べる。

Noel

2007a

)25)では供給側の地域的要因とし て「地域ごとの大手ブランド店舗の割合」が扱 われている。これは、大手企業による寡占がそ の地域でどの程度進んでいるかを示す指標であ る。寡占の進み度合いを表す指標には主に「

n

社集中度」と「ハーフィンダール・ハーシュマ ン指数(

HHI

)」がある。本研究における

n

社 集中度とは、地域の店舗が所属する企業をその 地域の店舗全体に占める割合が大きい順に並べ たとき、上位

n

企業が全体に占める割合をいう。

Noel

2007a

)25)は、大手ブランド店舗の割合 として

4

社集中度を用いている。また本研究に おける

HHI

とは、企業ごとにその地域の店舗 全体に占める割合の二乗を計算し、その総和を 求めたものである。

HHI

は、

0

に近いほど完全 競争的な市場で、

1

に近いほど独占的な市場で あることを意味する。後述するが本研究の主な 結果は、供給側の地域的要因として

1

4

社 集中度や

HHI

のどれを用いても定性的に変わ らないことが示される。 次に、需要側の地域的要因について述べる。

Noel

2007a

)25)では需要側の地域的要因とし て「地域ごとの店舗当たりの人口」と「地域ご との店舗密度」が扱われている。後述するが、

EC

の周期を説明する回帰式において、説明変 数に「店舗当たりの人口」ではなく「人口あた りの店舗数」を用いる方が説明力の良いモデル になる。この理由から本研究の主な結果では、 需要側の地域的要因として「人口あたりの店舗 数」と「店舗密度」が扱われる。 最後に、本研究での地域的要因を表す説明変 数の計算方法について述べる。本研究で用いる 説明変数には

HHI

・人口あたりの店舗数・店 舗密度が含まれる。これらの値を計算するには、 地域の各店舗のブランドや店舗数、面積、人口 のデータが必要になる。店舗のブランドは属性 データから特定できる。店舗数は、各地域での 各時系列分析の対象店舗の数とする。面積は、 オーストラリア統計局のサイト34)が提供する データを使用する。人口は、オーストラリア統 計局のサイト34)が提供する

2016

6

30

時点と

2017

6

30

日時点の各地域の人口 データから推定したものを用いる。具体的には、 時系列期間

T

1、

T

2、

T

3の各中間日における各 地域の人口を内挿的・外挿的に線形補間して推 定した。各時系列期間における中間日は

2017

01

29

日・

2017

07

30

日・

2018

01

28

日である。各地域の各時系列において、 中間日における推定人口を人口とする。なお、 オーストラリアでは自動車運転が可能な年齢が

16

歳以上であるため、本研究での人口とは

16

歳以上の人口を意味することに注意されたい。 以上に従って

HHI

・人口あたりの店舗数・店 舗密度をそれぞれ求めたものを本研究では用い る。 (

6

)店舗のマージン決定様式に対する仮定 本研究では現実の店舗における価格決定様式 の検証を行う。しかしデータ数の制約のため、 店舗ごとの価格決定様式を推定することは難し

(8)

い。従って本研究では、「地域ごと」に各時系 列の店舗の価格決定様式を推定する。以下では この推定のための四つの仮定を述べる。 一つ目は、店舗はマージンを決定することで 価格を決定するという仮定である。本研究にお けるマージンとは、価格から卸売値を引いた 単なる差分のことを意味する2

t

日の店舗

i

マージン

m

i tは次のように定義される。

m

i t

=

p

it

− ct

7

) ここで、

c

t

t

日の卸売値である。なお、

c

tに は

NSW

州・シドニーでの平均卸売値を用いる。 卸売値データは、オーストラリア石油協会のサ イト35)から入手できる。 二つ目は、店舗はマージンを決定する際に 「立地する地域の平均マージン」、または「州全 体の平均マージン」、あるいはその両方を考慮 するという仮定である。店舗の価格決定にお いて近隣店舗の価格を重視する可能性がある ことは、例えば

Lee

2007

)20)によって実証的 に示されている3。従って、店舗のマージン決定 2 店舗の価格決定において、人件費・設備費・ガソリンの 輸送費用などの費用も重要である。特に若井(1996)38) 言及されているように、輸送費用は店舗の重要な価格決定 要因になりうる。しかし本研究の主たる目的は「小売価格 の循環的変動」の発生メカニズムの検証であることと、輸 送費用は油槽所からの物理的距離が主な決定要因となって おり、小売価格変動のタイムスケールにはほとんど影響を 与えないと考えられることから、小売店の費用として卸価 格のみを扱うモデリングを行う。実際、ガソリン輸送に用 いられるタンクローリーにはディーゼル(軽油用)エンジ ンが搭載されているが、軽油の小売価格においてはECの ような激しい変動が起こらないことが知られている。更 に、商業での軽油の利用者のほとんどは契約購入している (ACCC、2018)3)。これを踏まえると、小売価格に現れる 循環的変動の性質を変えてしまうほど輸送費用が大きく変 動するとは考えにくい。 3 Isakower(2014)19)は、 オ ー ス ト ラ リ ア・ パ ー ス の LPG小売市場において、Lee(2007)20)と同様に、局所 的な価格競争が行われている可能性を示している。また Pinkse et al.(2002)30)は、米国のガソリン卸売市場にお いて局所的な競争が行われていることを示唆する結果を示 している。 の際に立地する地域の平均マージンを考慮して いる可能性もある。また近年では、少なくと も

2016

8

月時点で、

FuelCheck

14)を始めと する多くのサイトで州全体の平均価格を簡単 に把握できるようになっている。従って店舗 が、州全体の平均価格からその平均マージンを 把握し、州全体の相場として価格決定の際に参 考にしている可能性もある。地域

a

t ∈ T

j日 (

T

j

∈ {T

1

,

T

2

,

T

3

}

)の平均マージンは次のよう に定義される。

¯m

a t

=



1

s

a Tj







i∈s(a)

m

i t

8

) ここで

s

a Tjは、時系列期間

T

jにおいて地域

a

に 立地する時系列対象店舗の集合である。また、 州全体の

t

日の平均マージンは次のように定義 される。

¯m

statet

=



1

NT

j







i∈N

m

i t

9

) ここで

N

Tjは、時系列期間

T

jにおいて

NSW

州に立地するすべての時系列対象店舗の集合で ある。「立地する地域の平均マージン」と「州 全体の平均マージン」の両方を考慮する店舗 は、その二つの加重平均を参考にすると考え られる。具体的には、地域

a

に立地する店舗 は

t ∈ T

j日のマージン

m

itを決めるとき、前日

t − 1

の加重平均マージン

M

a t−1



w

a Tj



=

w

aTj

¯m

at−1

+



1 − w

aTj



¯m

statet−1

10

) を考慮すると仮定する。ここで

w

a Tjは、地域の 平均マージンに対する重みである。

w

a Tj

0

に 近いほど、地域

a

に立地する店舗が州全体の平 均マージンを重視した決定を行い、一方で

1

に 近いほど、地域

a

の平均マージンを重視した決

(9)

定を行うことを意味する。

三つ目は、店舗がマージン決定に用いる戦

略についての仮定である。

Maskin and Tirole

1988

)22)

Eckert

2003

10)の理論モデルは、 競合店舗の前期の価格に依存する混合戦略を用 いるという「動的な戦略」を店舗が使うとき

EC

が現れうることを示している。また

Wang

2009

)31)は、店舗による短期的な価格のコミッ トメントが

EC

発生において重要な役割を果た すことを実証的に示している。短期的な価格の コミットメントとは、店舗が一度設定した価格 を短い期間維持するという行動のことである。 従って現実の店舗は、競合店舗の価格に対応す る価格決定をすることがあるが、直近の自身の 価格を維持するような価格決定をすることもあ ると考えられる。これは店舗が価格を決定する とき、自身の直近の価格と競合店舗の価格の両 方を考慮する可能性を意味する。以上を踏まえ 本研究では、店舗のマージン決定の戦略は、自 身の直近のマージンと競合店舗のマージンの両 方に依存する動的な戦略により表現できると仮 定する。 四つ目は、店舗のマージン決定のタイミン グについての仮定である。現実の店舗が価 格更新をするタイミングは様々である。一 方 で

Maskin and Tirole

1988

)22)

Eckert

2003

)10)の理論モデルでは、店舗が決められ た一定の順番で価格更新するという仮定が用い られている。現実の更新タイミングが決まる機 構は非常に複雑だと思われるため、本研究の 範囲でその機構を検証することは困難である。 従って本研究では、すべての店舗が価格を毎日 同時に決定するという単純な仮定を置く。この 仮定のもとでも、現実の店舗の価格決定様式を 近似的に推定することは可能だと思われる。 上記の価格決定様式の四つの仮定に従うと、 店舗が価格を決定する過程は次のように表現さ れる。まず

t ∈ T

j日において、地域

a

に属する 時系列対象店舗

i ∈ s

a Tjは、前日の自身のマージ ン

m

i t−1と加重平均マージン

M

t−1a



w

a Tj



に対応 する混合戦略を選ぶ。そしてその混合戦略から

m

i tを決定する。 (

7

)地域ごとのマージン決定様式の推定 以上を踏まえると、本研究において地域ごと の各時系列の店舗の価格決定様式を推定するこ とは、そのマージン決定戦略を推定することと 言い換えられる。マージン決定戦略を推定する には、店舗の前日マージン

m

i t−1と加重平均マー ジン

M

a t−1



w

a Tj



の各組み合わせにおいて店舗が 当日に各マージン

m

i tを設定する確率を計算し なければならない。マージンは離散的な値を取 るが、取りうる値の数は非常に多い。従って店 舗のマージン決定戦略を推定するには膨大な量 のデータが必要になるが、本研究のデータはこ の推定が可能になるほど多くはない。 そこで本研究では、当日マージン

m

i tを閾値 で粗視化することで、近似的にマージン決定戦 略を推定する。マージンの粗視化をするために まず、本研究の時系列分析対象であるすべての マージンの集合を

Ω =

⎪⎪⎨

⎪⎪⎩m

it

��

��

��

∀T

j

∈ {T

1

,

T

2

,

T

3

}, ∀a ∈ A,

∀i ∈ s

aTj

,

∀t ∈ T

j

⎪⎪⎬

⎪⎪⎭

11

) とする。ここで

A

はすべての地域の集合であ る。次に、

Ω

内のマージン

m

itを大きい順に並 べ、

20%

番目・

40%

番目・

60%

番目・

80%

番 目にあるマージンの値をそれぞれ

µ

1、

µ

2、

µ

3、

µ

4とする。 ここで、時系列期間

T

jの地域

a

におけるマー ジン決定戦略の推定を考える。各時系列対象 店舗

i ∈ s

a Tjにおいて、前日

t − 1

のマージンが

m

i t−1で加重平均マージンが

M

t−1a



w

a Tj



のとき、 当日のマージン

m

i t

µ

kより大きくなる確率を

p

i,t>k

µ

k以下になる確率を

p

i,t≤kと表す。このと き、各

p

i,t >k

p

i,t≤k

k ∈ {1, 2, 3, 4}

)の対数オッ ズ比は、次の順序ロジスティック回帰式によっ て推定できる。

(10)

ln =



pi,t≤k pi,t >k



= α

a,Tk j

− β

a,Tk,1j

m

it−1

− β

a,Tj k,2

M

t−1a



w

a Tj



− β

a,Tj k,3

m

it−1

M

t−1a



w

a Tj



− β

a,Tj k,4

m

it−12

− β

a,Tk,5j

M

at−1



w

a Tj



2 (

12

) 式(

12

)では、非線形性を考慮するために二 乗の項まで含めている。式(

12

)より、

T

j

a

に対応する係数(

α

a,Tj k

β

a,Tk,lj

k ∈ {1, . . . , 4}

l ∈ {1, . . . , 5}

))と地域の平均マージンに対する 重み

w

a Tjを同時に最尤推定できる。具体的には、 各

w

a Tj

∈ {0.00, 0.01, . . . , 1.00}

において順序ロ ジスティック回帰を行い、その尤度を計算する。 そして、最も尤度の高くなる

w

a Tjにおけるパラ メータの組み合わせを推定値とする。

5.

結果 (

1

EC

の周期と地域的要因の相関関係 本研究では、各地域の各時系列で発生した

EC

の周期と地域的要因との相関関係を分析し た。この分析には

EC

が発生している時系列を 用いている。分析結果を説明するためにまず、 各時系列についての連続下落性検定の結果から 述べる。

EC

が発生しているという

5%

水準で 有意な検定結果が出たのは店舗が存在する

28

地域のうち、時系列期間

T

1で

21

地域、

T

2で

21

地域、

T

3で

13

地域あり、合計

55

時系列あっ た。 次に、これらの時系列で発生した

EC

の周期 をマルコフ転換回帰で推定した。表

1

に示さ れるように、推定した

EC

の周期(

PRD

)の 平均は

42.26

日で標準偏差は

27.20

日、最小値 は

20.17

日、最大値は

184.20

日であった。こ の結果より、

EC

の周期に最大で約

164

日とい う大きな差があることが分かる。 そしてこのような

EC

の周期の差が現れる要 因を、地域的要因へ重回帰することによって検 証した。本研究では次の二つの重回帰式を考え た。 一つは

Noel

2007a

)25)の回帰式に則るもの で、次のように表せる。

PRD

a Tj

= γ

 0

+ γ

1

OLI

Taj

+ γ

2

DEN

Taj

+ γ

3

PPR

aTj

+ γ

4

T1

aTj

+ γ

5

T2

aTj

+ ε

aTj

13.1

) ここで被説明変数の

PRD

a Tj

Period

)は

EC

の 周期(日数)である。説明変数の

OLI

a Tj

Oli-gopoly

)は寡占の進み度合いである。ここで寡 占の進み度合いとは、

1

4

社集中度や

HHI

である。また

DEN

a Tj

Density

)は店舗密度(

1

km

2あたりの店舗数)である。そして

PPR

a Tj

population per retail outlet

)は一店舗あたり

の人口(千人単位)である。最後に

T1

a Tj

T2

a Tj は時系列期間ダミーで、

ε

aTjは誤差項である。 もう一つの回帰式は次のものである。

PRD

a Tj

= γ

0

+ γ

1

OLI

a Tj

+ γ

2

DEN

Taj

+ γ

3

CMP

aTj

+ γ

4

T1

aTj

+ γ

5

T2

aTj

+ ε

aTj

13.2

) ここで

CMP

a Tj

competitiveness

)は人口(千 人単位)あたりの店舗数で、

ε

aTjは誤差項で ある。式(

13

)、(

14

)の違いは、式(

13

)で は

PPR

a Tjを 用 い る が、 式(

14

) は 代 わ り に

CMP

a Tjを用いることである。 式(

13.1

)、(

13.2

)のような非入れ子関係の 回帰式から適切な方を選択する手法の一つに

J

表1 EC が発生した 55 の時系 列における各変数の概要 変数 平均 標準偏差 最小 最大 PRD 42.26 27.20 20.17 184.20 HHI 0.13 0.04 0.06 0.25 1社集中度 0.22 0.05 0.12 0.36 2社集中度 0.38 0.08 0.23 0.58 3社集中度 0.50 0.10 0.33 0.83 4社集中度 0.60 0.11 0.40 0.94 DEN 0.12 0.15 0.00004 0.46 PPR 5.80 2.40 2.84 13.51 CMP 0.20 0.07 0.07 0.35 ˆw 0.71 0.38 0.00 1.00

(11)

検 定(

Davidson and MacKinnon

1981

)6) ある。

J

検定は次の手続きで行われる。まず、 式(

13.2

)の回帰で得られた

PPR

a Tjの推定値を

ˆg

a Tjとする。これをもとに次の回帰を行う。

PRD

aTj

=

(1 − α) f

Taj

+ αˆg

aTj

+ ε

��aTj

14.1

) ここで、

f

a Tjは式(

13.1

)の右辺を表し、

ε

a Tj は誤差項である。式(

13.1

)が正しいならば仮 説

H

1

: α = 0

が正しい。検定の結果、

H

1は有 意水準

5%

で棄却された。従って式(

13.1

)が 正しいとは必ずしも言えない。同様の手続きを 式(

13.2

)に対しても行う。つまり、式(

13.1

) の回帰で得られた

PPR

a Tjの推定値を

ˆf

a Tjとし、 次の回帰を行う。

PRD

a Tj

=

(1 − β)g

a Tj

+ β ˆ

f

a Tj

+ ε

���a Tj

14.2

) ここで、

g

a Tjは式(

13.2

)の右辺を表し、

ε

a Tj は誤差項である。式(

13.2

)が正しいならば 仮説

H

2

: β = 0

が正しい。検定の結果、

H

2は 有意水準

10%

でも棄却されなかった。従っ て、式(

13.2

)が正しい可能性がある。以上 の二つの検定結果より、式(

13.1

)よりも式 (

13.2

)を用いるほうが適切であると判断でき る。これを踏まえ、以下の検証では説明変数と して

PPR

a Tjの代わりに

CMP

a Tjを用いる。なお、

AIC

(赤池情報量基準)を用いても同様の判断 ができたことを補足しておく。 式(

13.2

)による回帰結果が表

2

の左列で ある。

OLI

a Tjとして

1

4

社集中度や

HHI

の どれを用いても、

PRD

a Tjと有意な相関がある のは

CMP

a Tjのみであり、その係数は正であ る。この結果から、

NSW

州では、人口あたり の店舗数が多い地域ほど

EC

の周期が長くなる 傾向があると考えられる。この傾向は、

Noel

2007a

)25)が「店舗当たりの人口」という「人 口あたりの店舗数」と逆数の関係にある指標を 使ったことを考慮すれば、カナダの市場の検証 結果と整合的である。一方でカナダの市場と異 なり

NSW

州の市場では、大手ブランド店舗の 割合などの寡占の進み度合いは

EC

の周期にあ まり影響を与えないと思われる。 (

2

)マージン決定様式の推定による機構の検 証 人口あたりの店舗数が

EC

の周期に影響を与 える機構を検証するために、本節では、人口あ たりの店舗数がマージン決定様式にどのような 影響を与えるのかを分析する。このためにまず、 地域ごとの各時系列の店舗の価格決定様式を順 序ロジスティック回帰によって推定した。以下 の検証では、推定されたパラメータの一つであ る「地域の平均マージンに対する重み」に着目 する。地域の平均マージンに対する重みの推定 値を

ˆw

a Tjと表す。ここで、

ˆw

a Tjを式(

13.2

)と 同じ説明変数で回帰する次の式を考える。

ˆw

a Tj

= η

0

+ η

1

OLI

a Tj

+ η

2

DEN

a Tj

+ η

3

CMP

aTj

+ η

4

T1

aTj

+ η

5

T2

aTj

+ �

Taj

15

) ここで、



Tajは誤差項である。 式(

15

)による回帰結果が表

2

の中列である。

OLI

a Tjとして

1

4

社集中度や

HHI

のどれを 用いても、

ˆw

a Tjと有意な相関があるのは定数項 以外で

CMP

a Tjのみであり、その係数は負であ ることが見て取れる。この結果から、

NSW

州 では、(

i

)人口あたりの店舗数が多い地域ほど 店舗のマージン決定において、地域の平均マー ジンに対する重みが減る傾向があると考えられ る。言い換えれば、人口あたりの店舗数が多い 地域ほど店舗は、同じ地域での相場よりも州全 体の相場を重視したマージン決定を行う傾向が あることを意味する。 更に、

ˆw

a Tj

EC

の周期に影響を与えること を検証するために次の式を考える。

(12)

PRD

a Tj

= ϑ

0

+ ϑ

1

OLI

a Tj

+ ϑ

2

DEN

a Tj

+ ϑ

3

ˆw

aTj

+ ϑ

4

T1

a Tj

+ ϑ

5

T2

aTj

+

e

aTj

16

) ここで、

e

a Tjは誤差項である。 式(

16

)による回帰結果が表

2

の右列であ る。

OLI

a Tjとして

1

4

社集中度や

HHI

のど れを用いても、

PRD

a Tjと有意な相関があるのは 定数項以外で

ˆw

a Tjのみであり、その係数は負で ある4。従って

NSW

州では、

ii

)店舗がマージ ン決定で地域の平均マージンを重視する地域ほ ど、

EC

の周期が短くなる傾向があると考えら れる。 この傾向が現れる理由を考察するためにここ 4 式(16)の推定にはˆwa Tjの推定誤差が持ち込まれている

(Murphy and Topel、1985)24)ˆwa

Tjに持ち込まれた推定誤 差が式(16)の推定に与える影響を検証するため、ブー トストラップ法を用いた検定も行った。その結果、OLIa Tj として1∼4社集中度やHHIのどれを用いても5%有意 な結果が出たのは定数項以外ではˆwa Tjのみであった。 表2 EC の周期・地域的要因・店舗の価格決定様式の関係性(55 時系列の回帰結果) 式(13.2):数PRD 式(15):被説明変数ˆw 式(16):被説明変数PRD 説明変数 係数 標準誤差 説明変数 係数 標準誤差 説明変数 係数 標準誤差 O LI = HHI 定数項 4.41 24.77 定数項 1.41 * 0.31 定数項 86.61 * 11.96

HHI 18.90 105.56 HHI –0.65 1.33 HHI –92.52 84.75

DEN –11.96 26.58 DEN 0.36 0.33 DEN –16.95 24.19

CMP 207.80 * 63.83 CMP –3.22 * 0.80 ˆw –37.19 * 9.48 T1 –7.46 8.25 T1 0.03 0.10 T1 –4.44 7.84 T2 –4.65 8.32 T2 –0.06 0.11 T2 –6.54 8.03 O LI = 1社集中度 定数項 14.97 22.29 定数項 1.39 * 0.28 定数項 91.39 * 14.09 1社集中度 –24.95 64.30 1社集中度 –0.39 0.81 1社集中度 –71.63 58.04

DEN –13.66 26.63 DEN 0.36 0.34 DEN –20.07 23.85

CMP 193.08 * 54.86 CMP –3.11 * 0.69 ˆw –38.43 * 9.16 T1 –6.81 8.28 T1 0.03 0.10 T1 –3.65 7.85 T2 –4.20 8.36 T2 –0.06 0.11 T2 –5.79 8.05 O LI = 2社集中度 定数項 2.97 26.77 定数項 1.50 * 0.34 定数項 90.41 * 15.06 2社集中度 10.13 45.35 2社集中度 –0.44 0.57 2社集中度 –39.29 38.05

DEN –11.73 26.63 DEN 0.35 0.33 DEN –18.08 24.10

CMP 207.98 * 59.98 CMP –3.29 * 0.75 ˆw –38.10 * 9.31 T1 –7.61 8.31 T1 0.04 0.10 T1 –3.95 7.88 T2 –4.73 8.34 T2 –0.06 0.10 T2 –6.33 8.06 O LI = 3社集中度 定数項 –4.77 28.40 定数項 1.63 * 0.35 定数項 90.50 * 15.97 3社集中度 19.40 37.53 3社集中度 –0.52 0.47 3社集中度 –29.50 30.95

DEN –11.76 26.43 DEN 0.36 0.33 DEN –16.36 24.45

CMP 218.18 * 60.87 CMP –3.45 * 0.76 ˆw –38.43 * 9.29 T1 –7.99 8.28 T1 0.05 0.10 T1 –4.08 7.88 T2 –4.97 8.33 T2 –0.05 0.10 T2 –6.33 8.07 O LI = 4社集中度 定数項 –4.04 31.34 定数項 1.52 * 0.39 定数項 91.30 * 18.00 4社集中度 15.79 36.67 4社集中度 –0.31 0.46 4社集中度 –26.13 30.40

DEN –12.39 26.42 DEN 0.38 0.33 DEN –16.26 24.62

CMP 215.63 * 61.33 CMP –3.27 * 0.77 ˆw –38.19 * 9.41

T1 –7.87 8.29 T1 0.04 0.10 T1 –4.15 7.90

T2 –4.78 8.31 T2 –0.06 0.10 T2 –6.57 8.07

標準誤差は重回帰分析によって求められたものを載せている。

(13)

では、店舗がマージン決定で地域の平均マージ ンをより重視する地域における競争と、州全体 の平均マージンをより重視する地域における競 争を比較してみる。後者の地域の店舗は、あた かも州全体の店舗を競争相手として見ているか のように振る舞う。そのため後者の店舗は、前 者の店舗よりも比較的多くの店舗と競争してい ると捉えることができる。これを踏まえると、 「多くの店舗での競争が行われている市場では

EC

の周期が比較的長くなる傾向がある」と予 測できる。 この予測は、以下に述べる、

Noel

2008

)27) の分析と整合的である。

Noel

2008

)27)では、 企業数(店舗数)が

EC

の性質に与える影響を 理論的に分析している。平均価格の急激な高騰 は、一つの店舗が価格高騰を先導しても、他の ほぼすべての店舗がその価格高騰に追随しなけ れば成功しない。従って店舗数が多いほど、す べての店舗が価格高騰に追随する状況が成立し にくくなる。価格が高騰しない場合、下落の期 間が長くなる。急激な高騰の期間は緩やかな下 落の期間と比べて非常に短く、下落の期間が長 くなるということは

EC

の周期が長くなるとい う結果に繋がる。従って

Noel

2008

)27)の分 析結果は、多くの店舗で競争が行われている市 場では

EC

の周期が長くなることを示唆してお り、上記の予測と整合的である。 以上(

i

)、(

ii

)から、人口あたりの店舗数が 多い地域で

EC

の周期が長くなる機構として次 のような過程が考えられる。まず、人口あたり の店舗数が多い地域では、店舗はマージン決定 において地域の平均マージンよりも州全体の平 均マージンを重視する。次に、州全体のマージ ンをより重視する地域の店舗は、比較的多くの 店舗と競争していると捉えられる。そして、多 くの店舗で競争が行われている市場では、価格 高騰の先導が成功しにくくなる。その結果とし て価格下落の期間が長くなり、

EC

の周期が長 くなる。

6.

議論 本研究では

NSW

州において、需要側の地域 的要因が

EC

の周期に影響することを示した。 そしてこの背景には、需要側の地域的要因が店 舗の価格決定様式に影響し、店舗の価格決定様 式が

EC

の周期に影響するという機構がある可 能性を示した。 本研究ではまず、「(

A

)人口あたりの店舗数 が多い地域ほど

EC

の周期が長くなる傾向」が あることを示した。この点はカナダの市場の検 証結果(

Noel

2007a

25))と整合的である。次 に(

A

)の発生機構を説明するため、地域ごと の店舗の価格決定様式を推定した。この推定結 果から、「(

B1

)人口あたりの店舗数が多い地 域ほど、(地域の平均価格よりも)州の平均価 格を価格決定の際に店舗が重視しやすいこと」 と、「(

B2

)州の平均価格を店舗が重視する地 域ほど

EC

の周期が長くなりやすいこと」が 分かった。このうち(

B2

)の機構については、

Noel

2008

)27)の理論的予測によって説明で きる可能性が示唆された。また、(

B1

)、(

B2

) によって(

A

)の傾向が説明される可能性を示 した。 本研究で特筆すべきもう一つの検証結果 は、カナダの市場(

Noel

2007a

25))と異なり

NSW

州の市場では、寡占の進み度合い(大手 ブランド店舗の割合など)が

EC

の周期にあま り影響を与えない可能性を示したことである。 カナダの市場と

NSW

州の市場でこの違いが 見られた理由として、次の二つが考えられる。 一つ目は、扱う価格データの時間間隔の違いで ある。

Noel

2007a

)25)がカナダ市場の週次価 格で現れる

EC

の周期を検証している一方で、 本研究は、日次価格で現れる

EC

の周期を検証 している。週次価格の観察では、数週間未満 の周期の

EC

を検出することが難しいと思われ る。従って、

Noel

2007a

)25)ではこのような 短い周期の

EC

を検出できなかったため、寡占 の進み度合いが

EC

の周期へ与える影響の検証 結果に違いが見られた可能性がある。

(14)

二つ目は、寡占の進み度合いが

EC

の周期へ 与える影響が他の要因によって弱められた可能 性である。ここで言う他の要因は、本研究で述 べられた地域的要因とは必ずしも限らない。本 研究では考慮していないが重要だと思われる要 因として例えば、

3

節で述べた、価格情報の透 明性の違いが挙げられる。

NSW

州では、消費 者が各店舗の価格情報をリアルタイムに参照で きる14)。一方で

Noel

2007a

25)で検証してい るのは、

1989

年から

1999

年のカナダの市場 である。この市場に

2016

年の

NSW

州と同様 のツールが存在していたとは考えにくい。他に も原油価格や車の利用率、小売価格に対する法 規制、運営企業と店舗の契約形態などの様々な 要因が考えられる。 本研究は、世界各地のガソリン小売市場の価 格で発生する

EC

の周期が、必ずしも寡占の進 み度合いで説明されるとは限らないことを示 した初めての研究である。

Noel

2007a

)25) カナダ市場の研究と異なり

NSW

州で発生する

EC

の周期は、寡占の進み度合いではなく人口 あたりの店舗数に主な影響を受けることが本研 究によって明らかになった。 また本研究は、店舗の価格決定様式が地域的 要因から影響を受けることを初めて実証的に示 し、そして、このことが

EC

の周期を説明する ためには重要であることを示した。既存研究の

Noel

2007b

)26)

Wang

2009

32)は大手ブ ランド店舗と中小ブランド店舗の価格決定様式 の違いを示しているが、地域ごとの違いについ ては検証していない。地域ごとの店舗の価格決 定様式を検証した研究は著者が知る限り本研究 が初めてである。 今後の課題として、前述の(

B1

)を説明す る理論を構築することが挙げられる。本研究で は(

B1

)の機構を理論的に説明することがで きていないが、例えば、次のような機構が考え られる。まず、人口あたりの店舗数が多い地域 を考える。このような地域では、消費者が選択 できる店舗の数は比較的多いと思われる。そし て、そのような消費者を相手にする店舗は、多 くの店舗の価格を観察・把握しなければならな いと考えるかもしれない。従ってこの地域の店 舗は、州全体の平均価格といった、多くの店舗 の価格から計算される指標を重視した価格決定 をするかもしれない。実際、州全体の平均価格 は様々なサイトを通じて簡単に入手できるため 参考にしやすいと思われる。この機構を実証す るには、例えば実際の消費者や店舗の運営者に アンケート調査をするなどの手段が考えられ る。従って今後の研究では、店舗の価格決定様 式をこのようなアンケート調査などで実証する 必要があると思われる。 また、店舗の価格決定様式や

EC

の周期に 様々な要因が単独で与える影響だけでなく、要 因同士の相互作用による影響を検証することも 今後の課題として考えられる。地域的要因のみ ではなく、価格情報の探索のしやすさなどの 様々な要因が、実際に

EC

の周期に影響を与え るのかを理論的・実証的に検証することも重要 だと思われる。 更に、本研究で得られた知見が、日本を始め とする他の地域や国でも成立するかを検証する ことも今後の課題として挙げておく。このため には、世界各地の詳細なデータを収集する必要 がある。 謝 辞: 本 研 究 の 一 部 は

JSPS

科 研 費 (

JP18J10665

)の助成を受けたものである。こ こに厚く感謝する。また、査読者の方々からは、 本研究に対する多くの有益なご指摘を頂いた。 重ねて感謝する。 参考文献

1) ACCC: Monitoring of the Australian petroleum in-dustry, 2011.

2) ACCC: Monitoring of the Australian petroleum in-dustry, 2014.

3) ACCC: Petrol price cycles in Australia, 2018. 4) Byrne, D. P., Nah, J. S., and Xue, P.: Australia Has

the World’s Best Petrol Price Data: FuelWatch and FuelCheck, Australian Economic Review, Vol.51(4), 564–577, 2018.

5) Castanias, R. and Johnson, H.: Gas Wars: Retail Gasoline Price Fluctuations, The Review of

参照

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