Abstract
In the 2000 s, Japanese unique trading houses, well known as Sogo syosya , was required to change their own business. They commonly announced a strategic concept Value Chain in the context of Investor Relations. It means that they pursue both their traditional and innovative businesses. The traditional one is getting their profit from general commerce, so called as trading. The other innovative one is getting their profit from businesses which are operated by themselves. However, another problem is rested. Both business are indistinct between those real businesses and pure investment because all enumerated are often implemented through securities. In addition, one more problem is this; their traditional and innovative businesses are also indistinct because effective synergy would be expected between their traditional and innovative businesses. Although, this article focus convenience stores as a channel for food distribution which empower upward vertical integration. Some cases implicit that convenience stores consist of one of the elements of the mechanism which would help forming Value Chains ; these are contemplated by Sogo syosya.
1.総合商社が志向するバリューチェーンの概観
総合商社のビジネスモデルが2000年代に入って大きく変化したことは,多くの先行研究から示 されているところである。こうした総合商社の志向するビジネスモデルの要素として,バリュー チェーンと呼ばれることも多い。こうした言い様は,事業の当事者たる総合商社の側からIRの便 宜上語られることが多かったものが(1),研究的観点からもこれらを視座に入れた解釈が行われ てきたという理解をすることができるだろう。ここでは,こうしたバリューチェーンという考え 方について,当事者からの立論,並びに研究的観点からの解釈を改めて概観し,本論で深掘する コンビニエンスストア(以下,CVSという)を起点とする川上統合戦略についての前提となる考 え方を示すことを試みるものである。 1-1.バリューチェーンという用語の萌芽(当事者たる総合商社からの立論) 総合商社自らがバリューチェーンという用語を用いた例としては,三菱商事(2011)が挙げらコンビニエンスストアに対する総合商社の投資行動
─川上統合のメカニズムとその活用を企図した投資事例─
畑 憲 司
れる。これによると(2),バリューチェーンとは,「開発,調達,生産,販売という各段階におい て製品の付加価値が高まっていくプロセス全体」であり,バリューチェーンの最適化について「バ リューチェンに関連する企業・人材にもムリをさせない形で全体最適を図り,最終需要家の満足 度を最大化すること。」としている。 ほかでも,伊藤忠商事がバリューチェーンについて言及している例としては,アニュアルレポ ート2010(2010年3月期版)があり,ここで伊藤忠商事はバリューチェーンについて,「商取引 を通じて関係を構築した企業や重要なパートナー企業に出資・経営参画することで,より強固な バリューチェーンを形成し,商流全体を見渡した商品開発やシーズとニーズのマッチング等のコ ーディネーター機能を発揮します。こうした取組を通じて,商流全体の活発化に貢献するととも にバリューチェーン全体の付加価値を向上させ競争力強化を図ります。」と述べている。 ここで三菱商事が提示するバリューチェーンの概念とも共通している点は,バリューチェーン 全体としての付加価値を高めるという考え方に見出すことが出来るであろう。 1-2.研究的観点からの解釈 1)事業会社としての事業運営深化と投資会社化の両側面をとりあげる立場 総合商社の事業構造変化について包摂的な研究を行った田中隆之(2012)は,現在の総合商社 について「総合事業運営・事業投資会社」と位置付けている。 具体的には,「総合商社はその構造を変化させ,『連結子会社を通した,多様な製造業・サービ ス業への進出』の動きと『事業投資会社化』の動きを同時に進めてきた。そして,そのいずれも が,形態上は,本体による事業投資によって行われている。さらに,製造業・サービス業への展 開,そして事業投資の展開は,トレード事業を基礎としている。今のところこれを抜きに製造・ サービス業,事業投資だけに特化することは想定できない。」とし,総合商社が従来営んできた トレード事業に,その存立基盤を依って立ったうえで,事業を主体的に運営する「総合事業運営 会社」としての発展している側面と,投資先の関係会社を適時入れ替えて投資のリサイクルを実 践する「事業投資会社」としての側面の両者をほぼ均等に評価している。これは,事業運営目的 であっても,投資目的であっても形態的にはその事業投資がどちらの性格を付与されているのか, 外部からは客観的な評価を与えにくいため,これらの両側面があり得ることを慎重に評価したも のといえるだろう(3)。 2)総合商社のバリューチェーン形成に特に意義を見出そうとする立場 一方で,榎本(2012)は,バリューチエーンの形成に総合商社が積極的に関わる点について, 特に意義を見出そうととする立場をとっている。既にみたように三菱商事から発信された情報を もとに“Value Chain Design”モデルの概念整理を行い(4),昨今の総合商社一般にみられる投資
行動については“総合事業会社モデル”であるとして,特に区別を行っているのである。
改めて,榎本(2012)による“Value Chain Design”モデルの定義付けをについて確認すると, 「川上から川下に至る各段階にトレーディング,事業投資,物流,金融など多様な形態で関与し, 『サプライ・チェーン』全体をコントロールするというビジネス・モデル」(69ページ)であると
したうえ,より端的な表現として「線的支配(ライン・コントロール)のビジネスモデル」(63 ページ)であるとも,踏み込んだ表現をしている(5)。
時系列的に発展してきたことは異論がうまれにくいと考えられる一方で,「総合事業会社」モデ ルと“Value Chain Design”モデルとの違い,或いは時系列的な発展のメカニズムは必ずしも明 らかにされたとはいえないだろう。 このように,総合商社によるバリューチェーン形成という考え方は,実務家の間で一般的にな っている一方,研究的観点からはその定義や形成メカニズムの理解についての幅が存在するため, 今後のより発展的な研究に繋がり得る領域と認識しているところである。 3)食品流通業界におけるバリューチェーン考察の視点 このように,バリューチェーン形成のメカニズムについては必ずしも明らかになっているとは いえない一方,実際上総合商社のバリューチェーン形成が顕在化している事業領域を挙げること は可能である(6)。例えば,食品流通の領域をその範疇に挙げることができる。配合飼料メーカ ーである三菱商事系の日本農産工業は,原料となる穀物の調達の多くを三菱商事に負っているこ とはもちろんだが,生産した配合飼料の国内流通についても三菱商事によるところが多い(7)。 また,三菱商事は畜産業を挟んで伊藤ハムの主要株主となっており,(8)食肉生産・流通の比較 的川上の領域において既に有効なバリューチェーンを形成していると認識している(9)。 他方,本稿では総合商社が消費者接点たる小売業を含め食品流通の領域において相対的に川下 の事業領域でバリューチェーンの形成に成功した事例をとりあげる。即ち高度なマーケティング を行っているとされるCVSへの資本参加が,川上統合を成立させる誘因を生みだし,川下から川 上方向に向かってバリューチェーンを形成していくメカニズムとして機能したとの仮説から(10), 次節よりケーススタディをみていくことにする。ここではまずその準備として,食品流通業界に おけるこれまでの総合商社の活動がどのように位置付けられてきたか概括しておく。 a)CVSへの投資とバリューチェーン形成との関連性に懐疑的な見方 過去の経緯もあって,CVSに対する総合商社の資本参加については,そのことから直ちにバリ ューチェーン形成プロセスの一貫とみることに否定的な見方が示されてきたことも確かである。 平井(2014)は,「1960年代から70年代にかけての商社のスーパーマーケット事業への関与は, 事業参入という形での進出にほぼ失敗したという評価がなされる(11)。商社はスーパーマーケッ ト企業から見ると有力取引業者としての地位は確保したものの,その取引における主導権はスー パーマーケット企業にあり,商社の存在はあくまでも取引面や資金面での補完的地位に甘んじる ことになったのである。」と結論づけている。また,この指摘は,スーパーマーケットのより現 代的な業態ともいえるGMS(General Merchandise Store)に引き寄せて考えてみても,購買側 に取引の主導権があるという点については変わりがないように思われる。 また,CVSへの出資については,小売事業たるコンビニエンスストアとの間での取引関係強化 というよりも,収益性そのもの,或いは将来の事業展開との関係での布石に主眼があるという見 方もあり得るという点では,島田(2006)が「コンビニを系列化したのは,必ずしも取引の拡大 のためではないという説明を,商社側が行うことはよくある。まずコンビニの本部企業は高い利 益率を上げている点で魅力があること,またチェーン店をITで武装していわゆるeビジネスの拠 点として活用すれば新たな展開ができること,などが買収の理由に挙げられる。」と述べている とおりである。 b)ディマンドチェーンの起点としてのCVS 一方で小川(2000)は,1990年代以降,所得の伸び悩みと同時進行で消費者の欲求が多様化す
るなか,流通企業の経営の在り方が変化し,「激変する環境に対応できる新型チェーンオペレー ション,『ディマンド・チェーン経営』」が出現したとしている。本稿で取扱うCVSの代表格であ るセブン−イレブンに多くの紙幅を割き,「ディマンド・チェーン」が成立するメカニズムにつ いてケースを用いて説明しているが,その論旨を敢えて簡潔にまとめることを試みれば,ア) POSデータを用いた単品管理の徹底→イ)仮説検証型発注→ウ)発注担当者の勘の吸い上げと組 織的活用,というような流れに再整理できるだろう。以下では,小川(2000)に依拠して,CVS がディマンドチェーンの起点となり,川上統合への推進力を生み出すミクロ的メカニズムを整理 しておく。 ア)POSデータを用いた単品管理の徹底
POS(Point of sale system:販売時点情報管理)の導入によって単品単位での販売データの蓄 積と分析が可能になった。これらのデータを用い,「思い切った売れ筋商品の重点的発注と死に 筋の排除」を行うことによって,販売増と在庫減を同時に達成することが可能になったのであ る (12)。 イ)仮説検証型発注 POSを導入することによって,過去の発注履歴や販売実績をデジタル情報として蓄積していく ことが可能となるが,セブン−イレブンは単品管理を実践していくために,本部主導による自動 発注の方法は採らなかった(13)。セブン−イレブンが考えた仮説検証型発注とは,「発注担当者は 自ら立てた仮説を基に発注量を決定する。発注に際し店舗の発注担当者は『夏が近づいてきたか らウーロン茶が売れ出すかもしれない』といった将来の商品の需要動向について仮説を立てる。」 このことがフランチャイジーに緊張感を持たせ,個別店舗ごとの実情にあわせたより細密な単品 管理を可能とし,ひいてはPOSデータとしてもより裾野の広い様々なパターンを検出可能なデー タ蓄積にも繋がっていったものと推測できるのである。 ウ)発注担当者の勘の吸い上げと組織的活用 上記のような仮説検証型発注は,少なくとも当初は発注担当者の勘にも多くを依る発注方法で あるといえるだろう。しかしながら,「こうした発注担当者が持つ経験と勘のうち有効なものを 組織的に発注に活かすことができるようになる」,いわば勘の組織知化が進むことで単品管理は 一層研ぎ澄まされたものとなるだろう。 このように,POSの普及によって細密な発注履歴や販売実績のデータ蓄積・分析が可能になっ たのであって,このことが消費者に対面している業界からマーケティング起点のサプライチェー ンを,川下側から逆算で構成することの重要性を飛躍的に高め,従来よりも川上統合の戦略的優 位性を高めることにつながったといえるだろう(14)。 以上を踏まえ本稿の課題意識を総括すると,こうしたサプライチェーン,或いはマーケティン グをめぐる技術的与件の変化や,かつてスーパー事業への参入に失敗した経緯もふまえつつ総合 商社によるCVS業界参入の成功要因について論証を進め,また総合商社によるバリューチェーン 形成メカニズムの一端について明らかにしようとする,というものとなる。
2.CVSを起点とする川上統合
この節では,現在総合商社が出資比率の過半を獲得し,連結子会社しているローソン,ファミ リーマートの両社についてケースを活用することにより,総合商社が企図している川上統合につき,そのメカニズムについて考察を進めていく。その際,過去のスーパーマーケットへの出資, 事業参入に失敗した総合商社が,何故CVSでは一定の成功を収めることが出来たのか,また何故 連結子会社化という事業経営そのものにまで踏み込んだ投資判断を行ったのか,の2点について 個別の論点に触れながら考察を深めていくこととする。 2-1.総合商社によるCVSへの資本参加の端緒 総合商社がCVSに資本参加するきっかけは,概ね1990年代の消費の低迷の際,事業環境の変化 に対応し切れず経営不振に陥ったGMS,スーパーマーケットが,バランスシートの改善施策と して子会社であるCVSの株式売却に踏み切ったことにあったといえる。まず,1998年2月に伊藤 忠商事が総額約1,350億円を投じてセゾングループからファミリーマートの株式を約30%取得し て筆頭株主となった(15)。当初,伊藤忠商事側は,実質100%子会社であるファミリーコーポレー ション(16)を経由してファミリーマート株を所有していたが,2009年9月,伊藤忠商事がファミ リーコーポレーションから当該株式を取得し(ファミリーマートニュースリリース2009年9月28 日),結果2010年3月期末には伊藤忠商事が,ファミリーマート株の31.5%のほぼ全て(間接所 有は0.1%のみ)を直接保有する持分法適用会社となった(17)。一方ダイエーの経営難から,ロー ソンと三菱商事の業務提携が2000年より開始されたが,以降約1,700億円を投じて出資比率の20 %を取得したほか順次出資比率を上昇させていき,2016年3月期末には,出資比率33.5%の持分 法適用会社としていた。 2-2.総合商社によるCVS事業へのコミットメントの高まり 1)ケーススタディ(ローソン) 三菱商事株式会社は,2016年9月16日開催の取締役会において株式会社ローソンに対して株式 の公開買付け(TOB:Take Over Bid)を実施することを意思決定し,同年12月22日よりTOBを 開始,翌2017年2月9日に終了した(18)。この結果,三菱商事のローソンに対する出資比率は, 33.47%から,50.11%に上昇し,連結会計上の取扱いも従来よりの持分法適用会社から連結子会 社となった。 またこれに先立って,20016年3月には,代表取締役社長であった玉塚氏を代表取締役会長 CEOとし,三菱商事出身の竹増副社長を代表取締役社長COOとする人事を発表している(ロー ソンニュースリリース2016年3月28日)。三菱商事は,株式で過半数の議決権を確保したうえ, 人事の面でも社長ポストを掌握し,CVS事業へのコミットメントを高めていく姿勢を鮮明にした わけである(19)。 2)ケーススタディ(ファミリーマート) 株式会社ファミリーマートとユニーグループ・ホールディングス株式会社は,2016年2月3日 付けで両者の間で吸収合併契約を締結したことを発表した。有価証券報告書(各社とも2016年2 月期)によると,2016年2月末のファミリーマート店舗数は,11,656店舗,一方,ユニーグルー プホールディングス傘下のサークルKサンクスは6,242店舗を擁しており,両者が合併することに よって,CVS業界で店舗数2位であるローソンの11,880店舗を一気に抜き去ることになることは 明らかであった(20)。 ファミリーマートとユニーグループ・ホールディングスの経営統合に際しては,株式交換方式
が用いられており,直接のキャッシュアウトは発生しなかった。しかしながら,伊藤忠商事は吸 収合併成立後も引き続き,ユニー・ファミリーマートホールディングスを持分法適用会社とする ために予め希薄化を折り込んだ周到なTOBを実施した(21)。経営統合後も株主としてユニー・フ ァミリーマートホールディングスの経営に対して発言権を維持することを狙ったことは明らかな のである(図1)(22)。 図1 経営統合のストラクチャーに伊藤忠商事によるTOBを加筆した全体像 さらには,2018年8月にTOBを実施し(16日完了),出資比率を50.1%(子会社所有分も含め て50.29%)まで高め,連結子会社化を断行したのである(伊藤忠商事ニュースリリース(2018 年8月17日))(23)。 2-3.総合商社がCVSへの投資で成功した要因(川上統合を志向する理由) 1)収益性の高さ そもそもCVSはフランチャイズ店舗が中心で,ビジネスとしての収益性がGMSやSMに比べて 高く出ることが考えられる。実際,2019年2月期についてROAをみてみると,セブン&アイ・ホー ルディングスのスーパーストア事業で2.2%,イオンのGMS事業,SM事業の合算で1.4%となって いるのに対し,セブン&アイ・ホールディングスの国内CVS事業は21.5%,ローソンの国内CVS 事業は5.4%,ファミリーマートのCVS事業は4.7%となっており,GMS,SM事業よりもCVS事業 の方が収益性が高く出る傾向は,はっきりしているのである(24)。この点について,島田(2006) の指摘はもっともなことであるといえるだろう。 2)CVS事業から派生するトレードの大きさ 一方で,総合商社側からみたときに,コンビニエンスストア事業に参加することによって派生 的発生するトレードの旨味が,スーパー(GMS)のそれよりも大きいという点を指摘すること ができるだろう。以下でア)CVSの市場規模,イ)市場規模に比したときのCVSの寡占性,ウ) CVSが扱うSKUの相対的少なさ,の3点に沿って整理していく。
ア)CVSの市場規模 比較の対象として,まずスーパーの市場規模を把握しておくと,その規模は13.2兆円,飲食料 品に限ってみても9.8兆円にのぼる(25)。一方で,CVSの市場規模は,11.3兆円,食品についてみ るとファーストフード及び日配食品,加工食品の合計で7.8兆円に達している(26)。絶対金額でこ そスーパーの販売金額に2兆円ほど及ばないが,食品分野でみればCVSの販売はスーパーに匹敵 する規模に達しつつあるといえるのである。 イ)市場規模に比したときのCVSの寡占度の高さ まず,スーパー(GMS)業界のシェアを確認すると,業界トップのイオン(GMS事業+SM事 業)が46.3%,セブン&アイ・ホールディングスのスーパーストア事業が14.4%と,2社で市場 の6割を占める一方,続くイズミが5.6%,ライフコーポレーション5.3%,ユナイテッド・スー パーマーケット・ホールディングス5.3%と,シェア3位以下のポジションにあるプレイヤーの シェアは5%台に留まる(27)。一般社団法人日本スーパーマーケット協会(http://www.jsa-net. gr.jp/kaiin.html)の会員数が85社であることも考慮すれば,スーパー業界では3位以下のポジシ ョンについては上位2社とは異なり,むしろフラグメントな業界構造になっていると理解した方 が良いだろう。 対して,CVS業界のシェアをみてみると,売上高ベースでセブン−イレブン41.6%,ファミリ ーマート25.3%,ローソン23.3%となっている。つまり,上位3社で90.2%を占める非常に寡占 度の高い市場だといえるわけである(28)。ア)で示したCVSの市場規模そのものの大きさに加え, この寡占度の高さを考慮に入れれば,1つのCVSチェーンをコントロール下に収めるメリットが, 総合商社にとってのトレードの観点から考えても,スーパー業界のそれと比べてはるかに大きい ことは自明となるだろう。 ウ)CVSが取扱うSKUの相対的少なさ 最後に,総合商社側からみたトレードの旨味を増す要因として,CVSで取扱うSKU(29)の少な さを挙げておきたい。木立(2009)によると,小売りの各業態で扱うアイテム数は,CVSの約 3,000SKUに対し,スーパーで1万SKU強,GMSでは10万SKU強にのぼるという。SKUの相対的 な少なさは,2つのメリットをもたらすと考えられる。1つ目は1SKUあたりの販売金額が大き いということである。市場規模がスーパーに追随する大きさで,1社あたりのシェアはスーパー より大きく,SKUの数も少ないとなれば,1SKUから派生するトレードの金額は,スーパーやそ の他の小売りよりもはるかに大きくなるはずである。2つ目は,むしろSKUの数を絞った結果と 言えるのかもしれないが,生産過程への関与の増大である(30)。SKUの少なさは,絶え間ない“死 に筋”商品の排除によって達成される。裏をかえしていえば店頭MD(merchandising)との関 係で常に必要な商品の開発が必要になるということでもある。こうして発生する商品開発プロセ スでは,なぜある商品は“売れ筋”となり,ある商品は“死に筋”となるのかという仮説が組織 知化されていることが,さらなる“売れ筋”商品を生み出す可能性を高めるであろうことは,想 定し易いであろう。こうした徹底した単品管理を実践してきたセブン−イレブン或いはそれを模 倣した同業他社こそが,PB商品を基軸とした川上方向へのサプライ・チェーンマネジメント(デ ィマンド・チェーン経営への転換)を実現できたという見方が成り立つのである(31)。 3)PBの材料指定権 CVSの業態では,店頭から“死に筋”商品を徹底的に排除し,店頭MDを“売れ筋”商品に純
化していく手法が,消費者に利便性を提供するという業態としての目的に適っていたために,こ れまでのような急成長を遂げることができたといえるかもしれない。一方で,“死に筋”商品を 排除するからには,棚割りとして新たな商品の投入は不可欠なのであって,常に新たな商品を欲 している業態とも言い換えることができるだろう。 こうした業態を成り立たせていくうえで,言うまでもなく大きな役割を果たしてきたのがPB (Private Brand)である。もとをただせば,多数の店舗をチェーン展開する業態で,同じ品質の 弁当類・おにぎり類を提供してきたわけであるから,広義でとらえればこうした業態(業務フロ ー)自体がPBを基軸とした店頭MDを体現していたと捉えることもできるわけである。CVSは, フランチャイズ方式で店舗展開がなされており,既にみた仮説検証型発注のように一義的には各 店舗のオーナーが発注権限を持っているが,チェーンストア全体の店頭MD戦略を考案するのは, あくまでもCVS本部である。 結果,たとえ1つのSKUから発生する商機であっても見逃せないものとなり,これが次第に CVS本部の発言権を大きくしていったと考えられる。現在ではコンビニベンダーと呼ばれる中食 ベンダーに対する原材料の指定に限らず(図2),加工食品メーカーに対してもPB商品提供やオ リジナル商品開発を求めるなど川上側のプレイヤーに対して大きな影響力を持つに至ってい る (32)。 図2 コンビニベンダーを含むCVSの業務フロー CVS 本部 CVS (フランチャイジー) 総合商社にとってこのようなCVS本部に対して,通常の取引関係の範疇に留まらず,資本も投 じることによって影響力を行使する,さらに踏み込んで間接的にコンビニベンダーまでコントロ ール下に置くということは,食品流通全体を俯瞰的に考えた場合でも,戦略的な意味合いが非常 に大きかったといえるのではないだろうか(33)。 4)エンドユーザーたる消費者との接点確保 確かに,1960年代から70年代にかけての総合商社のスーパーマーケット事業への参入は失敗に 終わったとの見方が妥当だろう。しかしながら,90年代に,サプライチェーンマネジメントの高 度化と,POSデータの蓄積によるマーケティング手法が発展したことによって,小川(2000)の
指摘するディマンド・チェーン経営が可能になった。消費者に対面している小売業界から,店頭 MD起点のサプライチェーンを逆算で構成することの重要性が飛躍的に高まったのである。この 点でまず,時代を経ることによって技術的与件が決定的に変わっていたという評価ができるだろ う。 2点目は,スーパーマーケットとCVSの業態の違いである。スーパーのSKUが1万強とされる のに対して(34),CVSのSKUは約3,000に過ぎない。コンビニエンスストア業態は,消費者に利便 性を提供することに主眼があるのであって,店頭MDを“売れ筋”商品に純化していくことで, その目的に適った範囲内でのPB商品の開発力強化,ひいては川上の生産過程を巻き込んだ店頭 MD起点のサプライチェーン確立に,巧くつなげていくことができたと考えられるのである。
3.まとめ
3-1.CVS事業参入の成功要因 承前の議論をまとめると,CVS業界は,GMS・スーパーに比べて寡占度が圧倒的に高く,“死 に筋”の徹底排除からSKUが絞りこまれており,トレードの量的確保の面から考えてもメリット が大きい。またスーパー事業への参入が失敗に終わったと総括できる状況であるにもかかわらず, 総合商社の立場からすれば消費者接点たる小売業を押さえるための敢えての再挑戦ともみえる CVS業界への参入を果たした時期は,店頭MD起点でサプライチェーンを逆算で構成することが 技術的に可能となった時期とも符合している。少なくともCVSの業態との関係では,サプライチ ェーン構築のあり方として,特に3)PBの材料指定権,4)エンドユーザーたる消費者との接 点確保,の要因が川上方向への垂直統合的メカニズムを戦略的に有効たらしめた要因といって良 いだろう。 確かに,CVSがフランチャイズビジネスであるため,ROA,ROEが高めに出やすいといった要 因は確認された。実際に,それらは総合商社が徐々に出資比率を高めていき,CVS経営に対する 関与度も高めていった流れを後押しするものであったとはいえるだろう。しかしながら,今や投 資案件について豊富な経験を積み,常に新たな事業機会をうかがっている総合商社の目線からみ れば,そうしたコーポレートファイナンス上の条件は,むしろトレード確保との関係での副次的 な要因であったと考えてもよさそうである。 3-2.バリューチェーン形成メカニズムへの示唆 ここまで,食品流通領域に限定し,且つ消費者接点たるCVSに限定して論を進めてきた。ここ で一般論としてではないものの,総合商社としてのバリューチェーン形成との関係で重要な要素 となり得るであろう事象について整理しておくと,消費者接点たる小売業の業態の1つである CVSが,店頭MD起点でサプライチェーンを構成するようになったため,特にコンビニベンダー との関係でサプライチェーンをコントロールしているといって良いという状況が挙げられる。こ うした川上方向への垂直統合的な推進力はあくまでCVSへの資本参加,事業運営から派生したの であって,コンビニベンダーとの関係では総合商社は特段の関与を行っていないこと,にもかか わらずCVS本部を通じたトレードのコントロールが可能になっていることには注意を払っておく 必要があるであろう。こういった要因は,食品流通に固有の事情である可能性ももちろんあるが, 総合商社の他の事業セグメントで同様の現象が起こっている,または起こり得る可能性,或いは総合商社によるバリューチェーン形成のメカニズムとして,枢要な構成要素となっている可能性, または今後のデジタルマーケティング手法の高度化など技術的な与件の変化によって,より一般 的な展開をみせる可能性を指摘しておきたい(35)。 注 (1)バリューチェーンとは,Porter(1985, 48-9ページ)によれば,特定の会社が行う具体的活動の反 映として,その会社に特異な形として連結されている9つの基本的活動(購買物流,製造,出荷物流, 販売・マーケティング,サービス,調達活動,技術開発,人事・労務管理,全般管理)から構成さ れている。従って,バリューチェーンとは,本来は特定の企業のなかに閉じた概念といえるもので あり,複数の企業を連結する社会な価値の創造プロセス全体については,バリューシステムと呼ん でいる(47ページ)。なおChristensen(2000, 59-69ページ)は,類似の概念を提示し,バリューネ ットワークという用語を提唱している。 (2)三菱商事自らの編による『現代総合商社論』では,バリューチェーンについてかなり広い概念定 義をおこなったうえで,各セグメントごとの事業展開を自ら提示したバリューチェーンの概念に沿 って説明を行ってい点に特徴がみられる。 (3)無論,田中(2012)においてもバリューチェーン戦略の存在は明示的に意識されている(226ペ ージ)。田中(2017)では,総合商社が「総合事業運営・事業投資会社」である所以が,1)関係 会社の活用,2)バリューチェーン戦略,3)投資のリサイクルの3点にあることが,より明快に 示されている。 (4)榎本(2012)では,三菱商事について「2000年代後半以降『サプライ・チェーン』との関係で(ト レーディングと事業投資の)両者を統一的に説明する『バリューチェーンデザイン』モデル( Value Chain Design を提示しており,」(32ページ))とある。ただし該当する時期に三菱商事はバリュー チェーンの形成について積極的に関与していく主旨の情報発信を対外的に度々行ってはいるもの の,バリューチェーンの実質的なコントロールまで暗喩するデザインという表現にまで踏み込んだ 用語を使っている例は,むしろまれである。三菱商事自らがバリューチェーンについてある意味で 主体的に関与していくというニュアンスの強いデザインという語を実際に用いた例としては,三菱 商事の国際戦略研究所長を務めていた藤山(2006)が経済産業研究所(RIETI)主宰のシンポジウ ムで用いた資料を確認できる。榎本氏は経済産業省で奉職していた経歴があり,RIETI経由で得ら れる情報からインスピレーションを受け易い立場にあったと考えられる。
(5)榎本(2012)では Value Chain Design モデルを「総合事業会社」モデルと何らかの対応関係を 持つものとして整理を試みていると理解できるが,こうした理解のアプローチは,榎本(2012)が 示す「線的支配(ライン・コントロール)」の内容が何を指し示すのかによって(より厳密にいえば, 線的支配の前提となる個別の事業領域(セグメント)における点的支配の概念構成によって),「総 合事業会社」モデルとの区別の基準が,必ずしも明瞭なものとはならないことを指摘しておきたい。 こうした支配概念を明らかにするうえで,特に注意を払うべき論点を挙げておけば,a)事業支配 の判断要素は,事業にプレイヤーとして参加したうえでの実効支配なのか?株式によるガバナンス としての支配なのか? b)サプライ・チェーン支配の判断要素は,同じく事業参加による支配なの か?或いは隣接業界からの実効的な支配を含めるのか?という2点があたるだろう。 (6)バリューチェーンの形成可能性については,輸入,国内流通に限らず,輸出や三国間貿易につい ても想定し得る。例えば,現会長である益子修氏が,2004年に発生した大規模なリコール隠しのた
め経営危機に陥っていた三菱自動車工業の再建のために,三菱商事自動車事業本部長から転じたこ とはよく知られており,人的なつながりでも一体性をもって,両者がバリューチェーンのグローバ ル展開に取り組んでいる様子が伺える。 (7)三菱商事の100%子会社となって上場廃止となる直前の2009年3月期有価証券報告書を確認する と,単体ベースで18,072百万円となっている期末売掛金のうち,2,022百万円が三菱商事向けの売掛 金残高となっており個別の相手先としては最大金額である。 (8)三菱商事は,伊藤ハムの株式の20%を取得。伊藤ハムは地下水汚染問題で主力工場が一時停止し た影響を受けて業績が悪化したため,三菱商事の傘下に入ることで信用力を高め,経営再建を目指 す狙いがあるとされた(日本経済新聞(2009年1月30日))。 (9)三菱商事としての畜産業への関与については,畑(2014)で整理されている。 (10)川上統合とは,垂直統合の一形態である。Porter(1985)による垂直統合の定義づけによると,「垂 直統合とは,技術的に別々の生産,流通,販売,その他の経済行為を,一つの企業内にまとめるこ とである。だから,企業が経済的目的を遂行するために,市場での取引行為ではなく,社内の管理 された取引を利用する,というデシションである。」となる。また,本稿で取扱うような株式取得 による影響行使については,準統合として整理しており,「準統合とは,融資や株式の取得その他 の手段によって垂直の関係にある企業と提携するもので,買収はしないのである。」と述べている のは前提条件の共通理解として重要である(ただし,Porter(1985)の記述では,単なる株式保有 と買収の違いについて,必ずしも明瞭でない部分がある。現代の抱負なM&Aの事例に立脚すれば, 単なる株式保有と買収の違いについて,より明瞭な定義を与えることができるだろう)。「川上企業 とは,垂直連鎖の中で売る側の企業のことであり,」(以上,邦訳書391-3ページ)川上企業の内部 化を以て川上統合と呼び「川上統合に特有の戦略問題」(邦訳書411-2ページ)として考察を深めて いる。なお,垂直統合を採るうえでの判断材料となる「戦略利得とコスト」(邦訳書393-408ページ) については,畑(2014)において一定の再整理を試みている。 (11)平井(2002,2014)を総合すると,伊藤忠商事:百貨店との合弁で複数案件の事業参入(京都の 丸物デパート,九州の岩田屋,西武百貨店)。西武百貨店との合弁によるマイマートは,69年経営 権を西友に譲渡。他案件含めてスーパー事業から事実上撤退。三井物産:63年第一ストア設立,64 年撤退。住友商事:63年スーパー事業参入,67年サミットストアに社名変更,現サミットにいたる。 とサミットを除いて失敗に終わったとの認識を示している。 (12)例えば,売れ筋のスナックAと,死に筋のスナックBに1フェイス(棚割りの最小単位)ずつが割 り当てられているとする。このとき1週間の販売としてスナックA3個,スナックB1個となった場 合,スナックBを棚割りから外し,スナックAに2フェイスを割り当てれば,経験的にスナックAが 1週間で5個販売できるという。この結果,販売の増のみならず店頭在庫の圧縮,さらには欠品の 回避(売れ筋であるスナックAへの棚割りが2倍になっているため)にもつながる。また,ここで いう単品の粒度としては,POS情報が取れ出した時,「(カレーは)実際は夏には辛口が売れて,冬 には甘口が売れる。このレベルが実際の発注のレベルだと鈴木(敏文)氏は当時,指摘したという。」 とのエピソードが理解を容易にするだろう。なお小川(2000)は,一次情報の入手手段として,セ ブン−イレブン・ハワイの稲垣隆郎氏へのインタビュー(1998年12月19日)を実施している。 (13)小川(2000)は仮説検証型発注が考えられた背景として「発注して商品が売れ残ったら,その責 任を自分の発注ミスだとは思わず,本部やコンピュータの責任にするのではないか。(中略)その 結果,市場の変化に鈍感になってしまうのではないか−そのような状態を避け『発注する人間が責
任を持って発注できるシステムにしたい』とセブン−イレブンは考えたのである。」と詳述している。 (14)Tポイントなど,業態,店舗フォーマットを跨ぐポイントの展開は,こうしたPOSの普及を端緒 としたデジタルマーケティングについて,よりパーソナルなマーケティングを実践しようとする試 みといえる。近年のフィンテックブームを契機とする決済プラットフォーム(携帯キャリア系決済, QRコード決済など)のデファクトスタンダード争奪戦は,単なる手数料ビジネスということでは なく,デジタルマーケティングの前提となるデータの奪い合いという側面についても見逃すべきで はないだろう。 (15)島田(2006)によると,「伊藤忠商事の場合には,系列問屋の西野商事のファミリーマートとの 取引が大きいので,その商権擁護とファミリーマート自体の発展とを結びつける目的で株式取得が 行われたといえる。」とのことである。なお,西野商事は2007年4月,伊藤忠商事の中核食品卸で ある日本アクセスと合併した(https://www.nippon-access.co.jp/corporate/history/)。 (16)議決権の5%はグループ内での間接所有。 (17)ファミリーコーポレーションからの株式取得以前より連結会社上は持分法適用会社であったが, ガバナンス上より伊藤忠商事のコミットメントが高まったといえる。 (18)三菱商事ニュースリリース(2017年2月10日),TOB実施価格は,1株につき8,650円であった。 一方,この間のローソン株価の変動をみると,TOBが発表された2016年9月末の株価が7,970円, TOBが実施された2017年2月でも月中高値が8,480円,月末には7,750円と推移しており,TOB実施 価格に達することはなかった。三菱商事としては,是非ともTOB成立させるべく,相応のプレミア を上乗せしたうえでの値付けだったと考えられる。買付けを行った株式数は16,649,900株であるか ら,三菱商事はおよそ1,440億円の追加投資を実施することによって,ローソンの経営権を掌握した ことになる。 (19)三菱商事代表取締役社長垣内威彦氏によると,「われわれが『市況系』という言葉で表現する, 金属やガスなど相場の影響を受けやすい事業で会社が窮地に追い込まれることがないよう,真剣に 資産の入れ替えを進めました。市況系の事業を抑えただけではなく,市況に左右されにくい『事業系』 の比率をさらに増やしていきたいのです。」(日経ビジネス2018年6月18日号)と発言しており,事 業運営を総合商社自らマネジメントすることによって,業績の振れ幅を抑制し市況に左右されにく い事業ポートフォリオへの入れ替えをさらに進めていく意欲が伺われる。 (20)当時伊藤忠商事の社長であった岡藤正弘氏は,サークルKサンクスとの統合効果に比して,経営 統合によってファミリーマートと事業が一体化されるユニーグループのGMS事業について「今回一 緒になるGMSを経営する難しさを過少評価していないか。そこが怖い。」(日経ビジネス2016年2月 15日号)とGMS事業をよりリスク視していた。これが後にユニー株のドンキホーテHDへの譲渡に つながったと考えられる。 (21)連結会計上の持分法適用会社の基準と,会社法上の議決権比率に沿った権利とはかならずしも一 致しない。財務会計との関係では,出資比率が20%以上となったときに原則,持分法適用会社とな るが,リーガル面から見た場合は会社法上,議決権の1/3以上を確保すれば,株主総会での特別決 議を単独で否決することができるようになる。この場合,特別決議に諮る議題は,定款変更,取締役・ 監査役の解任,会社の解散・合併,事業譲渡,資本の減少等があたるとされる。つまりM&Aの実 施については議決権の1/3を保有する株主の合意なくしては事実上不可能となり,取締役の人事権 についても当該株主の意向が強く働くということになる。伊藤忠商事がユニー・ファミリーマート ホールディングスに対して出資比率33.4%を維持したことは,財務上の持分法適用利益に加え,こ
うした経営に対する実効的な影響力を狙ったものであることは明らかである。TOBに要した金額を 概算すると,TOB期間中の株価は平均でおおよそ5,760円で推移(週次終値単純平均)しているので, 640万株の買付けでは,37億円程度のキャッシュアウトが発生したと推計できる。サークルKサンク ス,ユニーまで含め持ち分法適用会社として影響下におくことの比較衡量で考えれば,金額面でも 巧緻なM&Aスキームであったといえよう。 (22)当該経営統合は,CVS起点の川上統合メカニズムの効果が顕著に発現した例ともいえる。石橋 (2017)によると,「『取引卸の再編は,あくまで競争原理の下に行う』。サークルKサンクス(CSK) との合併を前に上田準二ファミリーマート前会長はこう明言していたが,蓋を開ければ結局,日本 アクセスの一人勝ち。CKSの卸はもちろん,ファミマの卸も取引を減らされ,それがそっくりアク セスに移ったからだ。例えば酒は国分,加藤産業,CKSの升喜がごっそり減らされ,それまで酒の 扱いはほとんどなかったアクセスがいきなり500億円(16年度下期)もの取引を取得。加工食品も 今年二月に加藤やCSKとの取引が多かったカナカン(トモシア),トーカン,旭食品(トモシア), 名古屋の昭和などが軒並み切られて,アクセスに移行。冷凍食品もカナカンなどが削られ,アクセ スに移行。菓子も愛知地盤でユニーグループとは長年の関係である種清が三分の一に減らされ,ア クセスの子会社でファミマ向け菓子卸のドルチェに移行。」とのことであり,当該経営統合が伊藤 忠商事系列の日本アクセスにとって多大な取引の拡大をもたらしたことは,よく知られている。概 して,食品卸については総合商社が主導する業界再編・寡占化の動き(日本アクセスのほか,三菱 食品の成立が挙げられる)は目立っており,こうした動きとCVSに対して総合商社のコミットメン トが高まる動きとの関連性については,稿を改めて検討したい。 (23)前後して,2017年11月にはドンキホーテホールディングスにユニー株の40%を譲渡,2019年1月 には残りの60%についても売却を完了し,ユニー・ファミリーマートホールディングスは完全子会 社であるファミリーマートを吸収合併,再度ファミリーマートに商号変更した。 (24)個別のROAについては,セグメント情報の純利益をセグメント資産で除して算出。ファミリーマ ートについては,セグメント情報に係る開示方法の便宜から,セグメント損益(事業利益)をセグ メント資産で除して算出している。為念として過去3期の数値を確認すると,セブン&アイ・ホー ルディングスのスーパーストア事業17/2期2.0%,18/2期2.2%,19/2期2.2%,イオンのGMS事業, SM事業の合算で17/2期1.2%,18/2期1.6%,19/2期1.4%,セブン&アイ・ホールディングス国 内コンビニエンスストア事業17/2期22.9%,18/2期21.7%,19/2期21.5%,ローソンの国内コン ビニエンスストア事業17/2期7.5%,18/2期6.4%,19/2期5.4%,ファミリーマートのコンビニエ ンスストア事業17/2期1.0%,18/2期3.7%,19/2期4.7%となっており,GMS,SM事業に比べて コンビニエンスストア事業の方が収益性が高いことが時系列でも確認される。 (25)商業動態統計年報(2018年版)第3部百貨店・スーパー販売第1表(3)スーパーについて, 2018年1-3月,4-6月,7-9月,10-12月を合計して算出。 (26)商業動態統計年報(2018年版)第4部コンビニエンスストア販売第1表について,2018年1-3月, 4-6月,7-9月,10-12月を合計して算出。 (27)各社有価証券報告書(19年2期)に基づき算出,市場規模については商業動態年報(2018年版) に月次の時系列データを差し引きして算出。 (28)続く業界4位のミニストップのシェアは,2.8%に過ぎない。親会社であるイオンと三菱商事が包 括業務提携関係にあったため,ローソンとの経営統合等の協業が有力視されていたが,2018年12月 18日に当該業務提携の解消がイオン側より発表され,業界内における今後のミニストップのポジシ
ョンどりについて,必ずしも明らかでない状況となっている。日経新聞社編(2019)「日経業界地 図2020年版」日本経済新聞出版社。
(29)SKU: Stock Keeping Unit,受発注・在庫管理を行う際の最小管理単位。
(30)対称的に,木立(2009)では,スーパーやGMSなどの業態について,「高回転率商品とともに低 回転率商品も取り扱わざるを得ない。低回転率商品について小売業者が自らサプライチェーン構築 に取り組むことは経営資源の制約から困難であり,卸売業者などの中間業者の機能に依存すること になる。」と述べている。 (31)他方,食品卸業界をみると,三菱食品,日本アクセスとも,マクロ経済環境としてデフレーショ ンが継続することにより利幅が圧迫され,スケールメリットを追及せざるを得なかったという側面 があり,M&Aを繰り返すことによって現在の事業規模,事業領域に至った背景がある。ただし, 一側面としてはCVSが必要とするサプライチェーンを維持することとの関係で,全温度帯(常温, チルド,冷凍)をワンストップでカバーできる事業領域のカバレッジが求められたという背景もあ るように思われる。石鍋(2012)によると「日本アクセスの前身である雪印アクセスは雪印乳業の 子会社として雪印グループの販売会社機能を担っていた。」この点で「日本アクセスはもともと, チルドやフローズンといった低温商品の領域では絶対的な強みがある。」という優位性があった。 食品卸におけるCVS向け商権の集約が自律的に進んだというよりは,CVS向けのサプライチェーン を最適化するために食品卸の再編が加速されたという見方もできるのである。また,サプライチェ ーン効率化との関係で,商流と物流を一体化させる商物一体化が求められたという背景事象もある。 2011年3月,日本アクセスは,ファミリーマート向けの物流機能を受け持っていたファミリーコー ポレーションを伊藤忠商事から譲り受けた(https://www.nippon-access.co.jp/corporate/history/, なお,2009年9月には,ファミリーコーポレーションが保有するファミリマート株式の伊藤忠商事 本体への移動は完了していた)。実際にCVS各店舗への配送を担うセンターでは,常温とチルドを 一括して扱うことにより配送効率の向上を担っており,コンビニベンダーと物流を担うファミリー コーポレーションが一体となって運営することが多いようである(https://www.family.co.jp/ company/news_releases/2010/20100310_01.html)。石橋(2017)のいうように,結果としてCVSと 食品卸の取引き関係の系列化を招いたかもしれないが,バックヤードのスペースが狭いために,多 品種・小ロット,結果として多頻度の配送を求められるCVSの業態が,むしろ食品卸に対して全温 度対応を促すはたらきをもたらし,食品卸業界再編のひとつの要因になったとの見方も可能となる わけである。 (32)例えばセブンプレミアムに大手加工食品メーカーが参加していることはよく知られているが,こ のほか例えばコンビニ限定商品(即席めんのかやくの種類差別化など)の形式で商品供給が行われ ている実態もある。 (33)本部からベンダーへの生産割当は,言うまでもなく膨大でありベンダーは利幅よりも量を重視し た供給体制を確立するべく努力する。またそうして確保されたキャパシティーについては高い稼働 率の維持を図ろうとするため,益々CVS向けの生産に傾斜していくこととなる。こうして確立した コンビニエンスストア本部によるベンダーへの間接的支配は,弁当・総菜,スナック類を含め棚割 に全体に対する広義のPB商品のカバレッジが特に大きくなっているコンビニエンスストア業態では 絶大なものといえるだろう。ここで総合商社によるコンビニベンダーへの出資可能性について整理 しておくと,コンビニベンダーは投資利回りが低いうえ(セブン−イレブン・ジャパンの代表的コ ンビニベンダーであるわらべや日洋ホールディングスのROAをみると,17/2期2.7%,18/2期2.4%,
19/2期0.7%で推移している),CVSとの間で締結されている継続的な契約関係を通じて実質的な支 配が及ぶ事業領域であるので(有価証券報告書によると,わらべや日洋ホールディングスは1978年 6月以来,セブン−イレブン・ジャパンとの間で商品売買取引に関する契約に基づき継続的に取引 を行っている。同社のセブン−イレブン・ジャパン向け売上高と,その全社売上高に対する構成比 を 示 し て お く と,17/2 期163,133百 万 円(76.1%),18/2 期168,419百 万 円(76.9%),19/2 期 168,873百万円(78.3%)で推移している。同社は,事業リスクとして「セブン−イレブンの店舗展開, 販売方針ならびに価格政策などの経営戦略が変更になった場合,同社店舗への商品納入に関して同 業他社との競合が発生するなど取引関係が変化し,当社グループの業績が影響を受ける可能性があ ります。」と有価証券報告書においてアナウンスしており,セブン−イレブン・ジャパンへの依存 度が過度に高いことを暗に認めているのである。なお,セブン−イレブン・ジャパンからの資本を 受け入れてはいるが,その出資比率は12.46%に留まっている。),総合商社自らが敢えて出資するメ リットには乏しいと考えるのが,一義的には妥当な結論となるだろう。CVS本部からの間接的支配 で必要十分と考えるのが自然なのである。 (34)食品を例にあげると,スーパーは消費者にとって,“夕食の献立を考える”という行為を楽しむ(消 費する)場であるかもしれず,消費者に選択肢を提示する必要があるのであって,単に“死に筋” 商品を排除していくことでは店頭MDが成り立っていかないわけであり,目利きによってバイヤー が仕入れを行うGMSやSMのビジネスとは本質的に異なる面があるわけである。 (35)本文で述べたように,こうしたメカニズムがどのような事業領域で機能するのか,或いはどのよ うな業界構造との関係で機能するのか,という点は引き続き今後の検討を必要とするものである。 例えば自動車鋼板の場合,少なくとも国内販売との関係では,個別の完成車メーカーが独自の販売 網(ディーラー)を構築しており,コンビニエンスストアと同様のメカニズムを横展開で適用する ことができないことは自明である。また,CVS起点の川上統合的な推進力により総合商社によるバ リューチェーン形成が促されるメカニズムは,比較的近年の技術的与件の変化によるものが大きい と考えている。このため,総合商社の事業領域(事業セグメント)を俯瞰した場合,どのような事 業セグメントでバリューチェーンが形成されているか,また形成されるメカニズムの必要十分性に ついて,より本質的で体系的な別途の検討が必要であることはもちろんのことである。 [参考文献] [1]石鍋圭(2012)「日本アクセス−ロジスティクス事業を収益の柱に」『LOGI−BIZ12月号』ライノス・ パブリケーションズ,44∼45ページ。 [2]石橋忠子(2017)「商社の系列化が拍車をかけ80兆円市場争奪戦が本格化」『激流9月号』,10∼ 15ページ。 [3]榎本俊一(2012)『総合商社論』中央経済社。 [4]小川進(2000)『ディマンド・チェーン経営−流通業の新ビジネスモデル』日本経済新聞社。 [5]木立真直(2009)「小売主導型食品流通の進化とサプライチェーンの現段階」フードシステム研 究第16巻2号。 [6]島田克美(2006)「加工食品の取引および流通業再編と商社」島田克美・下渡敏治・小田勝己・ 清水みゆき『食と商社』日本経済評論社。 [7]島田克己(2003)「食料−輸入の多様化と川下分野への進出−」島田克己・黄孝春・田中彰『総 合商社 商権の構造変化と21世紀戦略』ミネルヴァ書房。
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