イノベーション・プロセスにおける組織内ソーシャル・メディアの意義
林 幹人
A Value of Intra-Organizational Social Medium in Innovation Process
HAYASHI Mikihito
-34- 要 旨 近年、組織内のコミュニケーション手段としてソーシャル・メディアを導入する動きが ある。それは、情報通信ネットワーク上で一般の人々が開かれた形で情報を発信したり、 その情報の受け手である一般の人々が開かれた形でその情報に応答することを支援する技 術である。ここでは、この技術を組織内に導入したものを組織内ソーシャル・メディアと 呼ぶが、その導入目的のひとつは、組織内のコミュニケーションを促して知識の共有を図 り、ひいてはイノベーションを実現することにある。そこで本研究では、イノベーション・ プロセスにおいて組織内ソーシャル・メディアを利用することの意義について検討する。 イノベーション・プロセスにおけるこの技術の重要な意義のひとつは、それが組織内集 合知の利用を支援する点にある。組織内集合知とは、組織内の情報通信ネットワーク上に おいて当該組織の不特定のメンバーが相互作用を通じて発揮する何らかの問題解決を可能 にする知的能力を意味する。それは、組織内に保有されながらもこれまで十分に利用され てこなかった知的資源であり、イノベーション・プロセス研究においても特に検討されて こなかったものである。この技術は、妥当性が高く多様な機密性を確保しながら知識を低 コストで交換することを支援する。 本研究では、組織内ソーシャル・メディアをイノベーションの実現のために利用してい る企業に対しインタビュー調査を実施した。調査を通じて、この技術が、確かにイノベー ション・プロセスにおいて組織内集合知の利用を支援し、イノベーションの実現に寄与し うることが確認された。 キーワード: 組織内ソーシャル・メディア、イノベーション・プロセス、組織内集合知、 組織コミュニケーション、ナレッジ・マネジメント、インタビュー調査、 事例研究
1.はじめに 近年、組織内のコミュニケーション手段としてソーシャル・メディア(social medium)を 導入する動きがある。ソーシャル・メディアとは、情報通信ネットワーク上で一般の人々 が開かれた形で情報を発信したり、あるいは、その情報の受け手である一般の人々が開か れた形でその情報に応答することを支援する技術を総称するものである。この技術を通じ て社会的なつながりが生成・維持され、いわゆるバーチャル・コミュニティが形づくられ ることもある。その意味で、マス・メディアや個人間のパーソナル・メディアのいわば中 間に位置づけられる。ここでは、組織メンバー間のコミュニケーションを支援するために 組織内の情報通信ネットワーク上で展開されるこうした技術を組織内ソーシャル・メディ アと呼ぶ。それは、一般利用者による情報発信や価値創造への参加を可能にするプラット フォームとしてのウェブを意味するウェブ2.0(O'Reilly 2005)を、企業内に導入したエン タープライズ2.0(McAfee 2006)とほぼ同義である。より具体的には、企業内ブログや企業 内SNS(social networking service)がこれにあたる。もはや説明するまでもないが、ブログ とは情報通信ネットワーク上に記事を公開することを主な目的とした技術であり、SNSと はそれに加えて人脈の形成ないし維持を支援する機能を持った技術である。その導入の狙 いのひとつは、組織内のコミュニケーションを促して知識の共有を図り、ひいてはイノベー ションを実現することにある。確かに、インターネット上では、ブログやSNSをはじめと するソーシャル・メディアが普及し、それを通じて形成されたバーチャル・コミュニティ において多様な価値が創造されており、その様子を見れば、これを組織内で再現しようと することは理解できないことではない。 本論では、組織内ソーシャル・メディアをイノベーション・プロセスに適用することの 意義について検討する。結論を先取りすれば、組織内ソーシャル・メディアは、従来から組 織内に保有されながらも十分に利用されてこなかった知的資源である組織内集合知をイノ ベーションの実現のために利用することを支援する点に意義がある。本論では、このこと を明らかにするために、組織内ソーシャル・メディアを利用してイノベーションを成功さ せている企業へのインタビュー調査の結果を示す。なお、以下では、イノベーションとい う語を「付加価値やその創造プロセスに新たな考え方を適用すること」という広い意味で 用いる。よって、プロダクト・イノベーションとプロセス・イノベーションを区別せず、ま た新規性や市場への影響度についても考慮しない。 2.組織内ソーシャル・メディア 2.1 概念と特徴 組織内ソーシャル・メディアとは、インターネット上で普及したソーシャル・メディア を組織内のコミュニケーション手段として適用したものである。よってそれは、組織内の 情報通信ネットワーク上で組織メンバーが開かれた形で情報を発信したり、あるいは、そ の情報の受け手である組織メンバーが開かれた形でその情報に応答することを支援する技
-36- 術と定義されよう。具体的には、企業内ブログや企業内SNSが、わが国では最も普及した 技術である。 ところで、組織メンバー同士の開かれた形での情報交換を支援する点に関連して、組織 内ソーシャル・メディアには、①第三者参加、②認知支援、③コンテクスト補完、④プル型 の知識共有、⑤共通理解という特徴がある。 まず、第三者参加とは、情報交換の主な当事者以外がフィードバックを返す機能が充実 していることを指す。それは、ウェブ2.0の特徴とされる参加のアーキテクチャに相当する (O'Reilly 2005)。例えば、必ずしも返答を求めない形で書かれた記事や日記に対して、閲覧 者がコメント機能やトラックバック機能を用いて何らかの関連情報を追記することができ る。 ただ、第三者の参加を促すためには、その前に当該の情報交換がなされていることをそ の第三者に知らせる必要がある。この点、ソーシャル・メディアには認知支援機能があり、 情報交換がなされたことを広く通知することが可能である。ブログやSNSなどの記事デー タは標準化された方法で保存されており、RSS(rich site summary)リーダーなどで更新を 自動的に知らせることができる。あるいは、関心のある内容についての情報の書き込みを 知らせる機能がある場合もある。結果、発信された情報が多くの人々の目に止まり、多数 のフィードバックが促される。 また、コンテクスト補完とは、ソーシャル・メディアが記事や発言のみならず複数の手 がかりを提供することである。閲覧者は、情報の投稿者のプロフィールや過去の記事を 見ることで、それがどのような考えを持つどこの誰によって書き込まれたかを知ること ができる。SNSの場合には、投稿者の人脈を確認することも可能である。CMC(computer mediated communication)では、やり取りされるメッセージのコンテクストが欠落してしま うことが指摘されてきたが(Sproull and Kiesler 1986)、ソーシャル・メディアはこの点が改 善されている。 これらの機能的な特徴に加えて、組織内ソーシャル・メディアには、プル型の知識共有 という利用方法上の特徴がある。知識共有という点では従来からナレッジ・マネジメント・ システム(以下、KMS)が利用されてきたが、その利用においては社員がまず保有する知 識をデータベースに登録するというプッシュ型の利用方法が想定されてきた。ただ、自分 が知っていることの何が有益なのかを特定できないことや、個人間の知識の授受において は当然あるはずの感謝や尊敬といった社会的返礼がないことから知識提供への動機づけが 弱いこと、知識共有の成否は知識を受け取る側の能力や文脈に依存するにもかかわらずそ のことを考慮していないといった問題があった(Dixon 2000)。この点、組織内ソーシャル・ メディアの利用においては、まず知識を必要とする人が自らの要求を提示し、次に知識を 持った人がそれに応えるというプル型の知識共有が想定されることが多く、従来のKMS の問題が解決されている。 こうした利用方法上の特徴には、ソーシャル・メディアが、先にインターネット上で普
及し、後に組織内に持ち込まれたことが影響していると考えられる。つまり、この技術に 関する理解やそれに基づく意味づけが、導入時点で利用者にあることを意味する。情報技 術の利用行動には、その利用経験が影響することが知られているが(Agarwal and Prasad 1997など)、ソーシャル・メディアの普及状況を見れば、利用経験がある社員も少なからず いるはずである。この技術はインターネット上でQ&Aサイトや情報交換コミュニティの プラットホームとして利用されており、そうした使い方への共通理解があらかじめあるこ とが期待できよう。 2.2 組織内集合知の利用支援 こうした特徴によって組織内ソーシャル・メディアは、組織内の集合知(collective intelligence)の利用を支援する。集合知については多様な定義がありうるが(洞口 2009)、 情報通信の文脈でいう集合知とは、一般に「情報通信ネットワーク上において不特定の主 体が相互作用を通じて発揮する何らかの問題解決を可能にする知的能力」を意味する。し たがって、広義の集合知概念からすれば、本論のそれは情報技術を介した集合知(computer mediated collective intelligence)ということになろう。身近な例としては、先に述べたQ&A サイトにおいて、誰かが投稿した質問に対して別の複数の利用者がさまざまな回答を寄せ る状況がある。また、米大手製薬企業のEli Lilly社を母体とする米InnoCentive社は、成功 報酬契約を結んだ世界中の数万もの研究機関や学者とウェブ上で研究者ネットワークを形 成し、そのネットワークに研究課題を解決させて成功を収めているが、これも集合知を生 かした有名な例である。よってここでいう集合知は、群集の叡智(wisdom of crowds)と同 義であり、それによる問題解決はクラウド・ソーシング(crowd sourcing)に相当する。 一方、組織内ソーシャル・メディアはもちろん組織内における集合知が対象となる。そ こで本論では「ある組織内の情報通信ネットワーク上において当該組織の不特定のメン バーが相互作用を通じて発揮する何らかの問題解決を可能にする知的能力」を組織内集合 知として定義したい。具体的な利用例としては、株式会社NTTデータの企業内SNS「Nexti」 がある。山本・神戸(2008)は、同社の社員が、誰に聞くべきかわからないような質問を Nextiに投稿したところ、異なる部門の複数の社員から回答が寄せられ、短時間に問題が解 決された様子を紹介している。他にも、株式会社損害保険ジャパンが企業内SNS「社員い きいきコミュニティ」を利用しているが、青木(2009)によれば、同社社員は、当該ツール の「教えて!」という名のQ&A機能を用いて全社に向けて質問を投げかけ、複数の社員か ら回答を得て課題を解決しているという。 もちろん、このような組織内集合知へのアクセスは他の手段でもできないわけではない。 例えば、電子メールを使うことも可能である。あるいは、文書共有ツールや社員ホームペー ジなども同様の機能を提供しうる。ただ、組織内ソーシャル・メディアは、先に提示した特 徴によって、そうした従来の手段よりも容易に組織内集合知を利用することを支援すると 考える。
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3.イノベーション・プロセス研究
3.1 レビュー
イノベーション・プロセスについては、これまでに多数のモデルが提示されてきた。こ の領域の最も初期の業績のひとつであるMyers and Marquis(1969)は、イノベーション・プ ロセスに、①市場あるいは技術変化の認識、②アイデア創出、③問題解決、④実施と利用、 という段階が含まれることを指摘した。同様に初期の代表的な業績であるUtterback(1971) も、イノベーション・プロセスが、①アイデア創出、②問題解決、③実装、という重複を含 む3つのフェーズから構成されることを述べた。また、やはり著名な業績であるRothwell (1973)も、①アイデア創出、②プロジェクト定義、③問題解決、④設計開発、⑤生産、とい うモデルを提示している。いずれも、基本的には、市場あるいは技術の変化の認識に基づ いてアイデアを創出し、それを実現する際に生じる問題を解決して、イノベーションとし て具体化するというプロセスを描こうとするものである(図1)。 図1 基本的なイノベーション・プロセス イノベーション・プロセス・モデルはその後、プロセスの諸段階ないし影響要因の間の 相互作用あるいはフィードバックを想定するより現実的なモデルへと変化してきた。例え ば、Kline(1985)の「連鎖モデル(chain-linked model)」は、直線的なイノベーション・プロ セス・モデルへの批判に基づき、①潜在的市場(の発見)、②発明・分析的設計の作成、③詳 細設計と検証、④再設計と生産、⑤販売とマーケティングというプロセスを描くと同時に、 研究部門が設計の各段階を側面から支援し、販売・マーケティング段階が設計の各段階と 研究にフィードバックを提供することを示している(図2)。 図2 連鎖モデル(Kline 1985) 注)Kline(1985)を若干簡略化している。 同様に、Rothwell(1992)が提示する「カップリング・モデル(coupling model)」も、イノ ᕷሙ䞉ᢏ⾡䛾 ኚ䛾ㄆ㆑ 䜰䜲䝕䜰䛾 ฟ ၥ㢟ゎỴ 䜲䝜䝧䞊䝅䝵 䞁䛾ᐇ ₯ᅾⓗ ᕷሙ Ⓨ᫂ 䛚䜘䜃㻛ཪ䛿 ศᯒⓗタィ 䛾సᡂ ヲ⣽タィ 䛸᳨ド ㈍䛸 䝬䞊䜿䝔䜱䞁 䜾 タィ䛸 ⏕⏘ ◊✲ ▱㆑ ᪂䛧䛔 䝙䞊䝈 ᪂䛧䛔 ᢏ⾡ 㛤Ⓨ ヨసရ ⏕⏘ 〇㐀 䝬䞊䜿䝔䜱䞁 䜾䛸㈍ 䜰䜲䝕䜰 ⏕ᡂ ᕷሙ ♫䛸ᕷሙ䛾䝙䞊䝈 ᢏ⾡䛸⏕⏘䛾᭱ඛ➃ ⤌⧊ෆ㞟ྜ▱ ᕷሙ䞉ᢏ⾡䛾 ኚ䛾ㄆ㆑ 䜰䜲䝕䜰䛾 ฟ ၥ㢟ゎỴ 䜲䝜䝧䞊䝅䝵 䞁䛾ᐇ 㻱㼚㼠㼑㼞㼜㼞㼕㼟㼑㻌㻞㻚㻜 䜲䝜䝧䞊䝅䝵 䞁䞉䝥䝻䝆䜵䜽䝖 䛾㈐௵⤌⧊ ⤌⧊እ㒊䛾 ▱㆑䛾※Ἠ ᕷሙ䞉ᢏ⾡䛾 ኚ䛾ㄆ㆑ 䜰䜲䝕䜰䛾 ฟ ၥ㢟ゎỴ 䜲䝜䝧䞊䝅䝵 䞁䛾ᐇ ₯ᅾⓗ ᕷሙ Ⓨ᫂ 䛚䜘䜃㻛ཪ䛿 ศᯒⓗタィ 䛾సᡂ ヲ⣽タィ 䛸᳨ド ㈍䛸 䝬䞊䜿䝔䜱䞁 䜾 タィ䛸 ⏕⏘ ◊✲ ▱㆑ ᪂䛧䛔 䝙䞊䝈 ᪂䛧䛔 ᢏ⾡ 㛤Ⓨ ヨసရ ⏕⏘ 〇㐀 䝬䞊䜿䝔䜱䞁 䜾䛸㈍ 䜰䜲䝕䜰 ⏕ᡂ ᕷሙ ♫䛸ᕷሙ䛾䝙䞊䝈 ᢏ⾡䛸⏕⏘䛾᭱ඛ➃ ⤌⧊ෆ㞟ྜ▱ ᕷሙ䞉ᢏ⾡䛾 ኚ䛾ㄆ㆑ 䜰䜲䝕䜰䛾 ฟ ၥ㢟ゎỴ 䜲䝜䝧䞊䝅䝵 䞁䛾ᐇ 㻱㼚㼠㼑㼞㼜㼞㼕㼟㼑㻌㻞㻚㻜 䜲䝜䝧䞊䝅䝵 䞁䞉䝥䝻䝆䜵䜽䝖 䛾㈐௵⤌⧊ ⤌⧊እ㒊䛾 ▱㆑䛾※Ἠ
ベーション・プロセスとして、①アイデア生成、②開発、③試作品生産、④製造、⑤マーケティ ングと販売、という諸段階と、それらに影響を及ぼす市場および技術を含み、それらの段 階間および各段階と市場および技術との間に相互作用あるいは双方向の影響関係を想定す る(図3)。 図3 カップリング・モデル(Rothwell 1992) Rothwellはさらに、組織内部の研究開発あるいはマーケティングの部門のみならず、外 部の研究機関やサプライヤー、先進的な顧客など多様な機能要素との相互作用を含む「統 合モデル」を提示した上で、まもなく「システム統合とネットワーキング・モデル」が登場 することを予見した。それは、情報技術を用いて、組織内外の多様な主体をより高度に連 携させることによって統合モデルをさらに発展させたものである。 確かに、近年提唱されるイノベーション・プロセス・モデルは、情報通信技術の発達を背 景に、特に組織外部の多様な要素との相互作用をより強調する傾向があるように見受けら れる。Chesbrough(2003)の「オープン・イノベーション」や、von Hippel(2005)の「民主 化されたイノベーション」は、外部の機関や顧客をイノベーション・プロセスにおける主 要なプレーヤーとして位置づけるものである。 3.2 未利用の知的資源 イノベーション・プロセス研究は、このように組織内外の多様な要素をその検討対象に 取り込んできた。それは、企業が厳しい競争環境の中で有効なイノベーションを効率的に 行い競争力を高めるために、それまで未利用であったさまざまな知的資源をイノベーショ ンのために活用してきた状況を反映したものといえる。しかしながら、イノベーション・ プロセス研究においては、これまでのところ組織内集合知の意義については十分に検討さ れていない。確かに、組織内集合知は、従来から組織内に保有されていた知的資源である にもかかわらず、それに容易にアクセスする手段がなかったためにイノベーション・プロ セスにおいて適用されてこなかったことが影響しているものと考えられる。 ᕷሙ䞉ᢏ⾡䛾 ኚ䛾ㄆ㆑ 䜰䜲䝕䜰䛾 ฟ ၥ㢟ゎỴ 䜲䝜䝧䞊䝅䝵 䞁䛾ᐇ ₯ᅾⓗ ᕷሙ Ⓨ᫂ 䛚䜘䜃㻛ཪ䛿 ศᯒⓗタィ 䛾సᡂ ヲ⣽タィ 䛸᳨ド ㈍䛸 䝬䞊䜿䝔䜱䞁 䜾 タィ䛸 ⏕⏘ ◊✲ ▱㆑ ᪂䛧䛔 䝙䞊䝈 ᪂䛧䛔 ᢏ⾡ 㛤Ⓨ ヨసရ ⏕⏘ 〇㐀 䝬䞊䜿䝔䜱䞁 䜾䛸㈍ 䜰䜲䝕䜰 ⏕ᡂ ᕷሙ ♫䛸ᕷሙ䛾䝙䞊䝈 ᢏ⾡䛸⏕⏘䛾᭱ඛ➃ ⤌⧊ෆ㞟ྜ▱ ᕷሙ䞉ᢏ⾡䛾 ኚ䛾ㄆ㆑ 䜰䜲䝕䜰䛾 ฟ ၥ㢟ゎỴ 䜲䝜䝧䞊䝅䝵 䞁䛾ᐇ 㻱㼚㼠㼑㼞㼜㼞㼕㼟㼑㻌㻞㻚㻜 䜲䝜䝧䞊䝅䝵 䞁䞉䝥䝻䝆䜵䜽䝖 䛾㈐௵⤌⧊ ⤌⧊እ㒊䛾 ▱㆑䛾※Ἠ
-40- 4.本研究のモデル したがって、本研究は、組織内ソーシャル・メディアがイノベーション・プロセスにおい て組織内集合知の利用を支援することを確認するとともに、その意義を検討することを課 題とする。その意義には少なくとも、①多様性、②妥当性、③機密性、④コストという4点 が含まれると考えられる。 まず、多様性とは、組織内集合知から得られる知識が、イノベーション・プロジェクト に責任を持つメンバーよりも自由な発想に基づいた多様なものになりうることである。 Granovettter(1974)は、弱い紐帯こそが新たな情報をもたらすことを指摘したが、組織内 ソーシャル・メディアによって形成される人脈は、組織図に描かれたものよりも弱い紐帯 である。 一方、妥当性とは、組織内集合知が、組織外部からもたらされる知識よりも当該組織の 事情を踏まえた妥当性の高い知識を提供しうることを意味する。また、自発的に協力する メンバーは、その課題に関心を持ち内発的に動機づけられた人であり、より誠実に自らの 知識を提供するのではないかとの期待もある。さらに、Bonabeau(2009)は、エンタープ ライズ2.0が、組織の意思決定において生じる、都合の良い解を探す利己的バイアス(self-serving bias)や、容易な解を探す利用可能性バイアス(availability bias)、他者の意見に流さ れる社会的干渉(social interference)、単純な因果関係を想定する線形性バイアス(linearity bias)、存在しないパタンを想定するパタン化妄想(pattern obsession)、解の存在が決定に作 用するフレーミング(framing)などを解決しうることを指摘した。 また、機密性は、組織内部に閉じた形で知識にアクセスできることを指す。イノベーショ ン・マネジメントにおいて組織外部から得られる知識の重要性が高まりつつあるとしても、 新製品開発などのイノベーション・プロジェクトは、やはり社外に対しては秘密裏に行わ れることが多い。組織内ソーシャル・メディアを通じてなされる知識交換であれば、機密 性を確保しながら多様かつ妥当な知識を獲得しうる。 最後に、コストとは、組織内集合知が比較的低コストで利用しうることである。組織内 集合知は、自発的に協力する不特定の組織メンバーによって生み出される。当然、本業で 忙しく余裕がなければ協力できないから、そうした協力は余裕があるわずかな時間になさ れると考えられる。例えば、昼休みや帰宅前の空き時間、短い息抜きなど「今なら少し協力 できる」といった時間である。つまり、組織内集合知は、異なる業務をさまざまな場所で行 う多様なメンバーに不規則に生じる知的能力の余裕を、情報通信ネットワークを通じて集 めることで成立しているといえる。従来、そうした知的能力の余裕は、個々には大きな価 値を生み出せるほどの力はなく死蔵されていたことを念頭に置けば、組織内集合知は、低 コストで利用できる知的資源であるといえる。 図4はイノベーション・プロセスにおいて組織内集合知を利用するために組織内ソー シャル・メディアを利用する様子を描いたものである。まず、代表的な研究に共通する、① 市場や技術の変化の認識、②アイデアの創出、③問題解決、④イノベーションの実装、とい
う基本的なイノベーション・プロセスを中心に、その中で組織内ソーシャル・メディアが、 組織内集合知の利用を支援する状況を示している。一方、組織内集合知を利用するからと いってそれ以外の知的資源の利用を否定するわけではないから、利用しうる知的資源とし て、プロジェクトの責任組織と組織外部の知的資源が識別される。 図4 組織内ソーシャル・メディアを適用したイノベーション・プロセス 5.事例調査 イノベーション・プロセスにおいて組織内ソーシャル・メディアを活用することの意義 を確かめるために、インタビュー調査を実施した。公開情報からイノベーションを目的に 組織内ソーシャル・メディアを導入していると判断される複数の企業に調査取材を依頼し、 日本電気株式会社(以下、NEC)から協力を得た。インタビューは、同社におけるこの技術 の運営責任者に対して面接(2008年12月4日13:30~ 15:00)および電子メールによって複 数回にわたって行われた。 5.1 NECグループの事例 【概要】NECグループでは、2006年7月からグループ全体で組織内ソーシャル・メディアを 利用している。そもそもは、インターネット上でブログやSNSが普及していたことを受け、 2004年9月から社内の情報共有ツールとして市販のブログ・アプリケーションを実験的に 導入したことがきっかけであった。その後、社内でも次第に利用者が増え、情報交換ツー ルとして定着してきたため、経営幹部の承認を得て全社展開されることになった。これに 際し、運営に責任を持つ事務局が設置され、社員に対して説明会が実施された。また、この ツールの利用を通じて現場主導のオープンなイノベーションを起こしたいとの考えから同 社はこれを「イノベーションカフェ」(以下、イノカフェ)と名づけた。なお、イノカフェは、 ブログ・アプリケーションをベースとしているが、「イノとも」と呼ばれる友人の情報を登 録し公開できる機能やコミュニティ機能も実装されており、機能的にはSNSの特徴を持つ。 また、イノカフェを利用する社内の技術者がボランティアで開発して追加した「へぇボタ ン」(クリックすると得点が加算される機能)や「ホット記事ランキング」(閲覧数が多い記 ᕷሙ䞉ᢏ⾡䛾 ኚ䛾ㄆ㆑ 䜰䜲䝕䜰䛾 ฟ ၥ㢟ゎỴ 䜲䝜䝧䞊䝅䝵 䞁䛾ᐇ ₯ᅾⓗ ᕷሙ Ⓨ᫂ 䛚䜘䜃㻛ཪ䛿 ศᯒⓗタィ 䛾సᡂ ヲ⣽タィ 䛸᳨ド ㈍䛸 䝬䞊䜿䝔䜱䞁 䜾 タィ䛸 ⏕⏘ ◊✲ ▱㆑ ᪂䛧䛔 䝙䞊䝈 ᪂䛧䛔 ᢏ⾡ 㛤Ⓨ ヨసရ ⏕⏘ 〇㐀 䝬䞊䜿䝔䜱䞁 䜾䛸㈍ 䜰䜲䝕䜰 ⏕ᡂ ᕷሙ ♫䛸ᕷሙ䛾䝙䞊䝈 ᢏ⾡䛸⏕⏘䛾᭱ඛ➃ ⤌⧊ෆ㞟ྜ▱ ᕷሙ䞉ᢏ⾡䛾 ኚ䛾ㄆ㆑ 䜰䜲䝕䜰䛾 ฟ ၥ㢟ゎỴ 䜲䝜䝧䞊䝅䝵 䞁䛾ᐇ 㻱㼚㼠㼑㼞㼜㼞㼕㼟㼑㻌㻞㻚㻜 䜲䝜䝧䞊䝅䝵 䞁䞉䝥䝻䝆䜵䜽䝖 䛾㈐௵⤌⧊ ⤌⧊እ㒊䛾 ▱㆑䛾※Ἠ 組織内ソーシャル・メディア
-42- 事を表示する機能)なども追加されている。 【運用方法】イノカフェは、利用登録すれば、NECグループの社員なら誰でも利用できる。 利用方法については、細かいルールや制限はなく、利用者は実名で利用すること以外は、 利用者の良識の範囲で自由に利用できる。内容としても、業務に関するフォーマルな情報 交換から、プライベートな内容についてのインフォーマルなコミュニケーションまで自由 に議論することが許されている。時々やや問題のある書き込みがなされることもあったが、 事務局が注意し改善させるため、これまでに特に大きな問題が生じることはなかった。ま た、全利用者が閲覧できる形でオープンに議論することはもちろん、参加者を限定したク ローズドなコミュニティを立ち上げることも可能である。 【利用状況】イノカフェは、NECのグループ社員全員が利用できるが、現在まで利用登録 した社員は約68000人であり、そのうち書き込み権限を持った社員は約3400人である。投 稿される記事は1日に平均約150件あり、それらに対して全体で1日あたり約300件のコメ ントが書き込まれている。1週間に1回以上オープンに情報を発信する社員は約100人で ある。用途としては7割が業務関連であり、ホット記事だけに絞れば業務に関するものが8 割を占める。同社では、従来から電子メールやグループウェア(GW)、メーリング・リスト (ML)が使われてきたし、電話帳システムで社員のプロフィールなどが共有されてきたが、 イノカフェの利用はそれらとは異なっていた。電子メールは個人間での情報交換のツール であり、GWは職場で使うもの、MLは固定メンバーで利用するもの、電話帳システムは 所属や連絡先を調べるもの、といった共通認識があった。一方、イノカフェは、個人が全社 に向けて自由に情報発信する手段として認識されており、誰に聞いて良いかわからない疑 問を投げかけたり、自らの問題解決のために協力を求めるといった使い方が定着していた。 また同時に、プロフィールをはじめ、人脈、日記、発言などさまざまな情報を通じて社員の 人となりを知ることができるツールとして見なされていた。 【イノベーションへの適用】イノカフェは、その名の通りさまざまなイノベーションに寄与 してきた。例えば、企業向けのソフトウェア・ツールの開発において、ツールのプロトタイ プを同社のネットワーク上で公開し、イノカフェを通じてテスト協力者が募集したことが あった。そして、拡張して欲しい機能やツールの活用事例などについて意見を求めたとこ ろ、わずか20日ほどの間に300名ものグループ社員が自発的に協力し、多数の機能拡張の 要望などが寄せられた。結果として、テスト工数を大幅に削減しつつ、ツールの機能改良 と品質向上を実現した。同様の事例は多数あり、情報通信ネットワークを介して利用する オンライン・ツールの開発の場合には、海外駐在の社員などが遠隔地から接続し、結果を イノカフェに回答。これに基づいて不具合などが修正された。また、NECのモバイル公式 サイトの構築においては、公開前のテスト・サイトについてイノカフェを通じてグループ 社員に意見が求められたこともあった。異なる携帯電話キャリアの多様な機種を所有する グループ社員から、サイト・デザインの印象や動作確認の結果についての情報が寄せられ、 サイトの完成度を高めるために利用された。さらに、同社には多数のソフトウェア技術者
がいるため、意見や要望のみならず、開発協力が得られることもあった。例えば、普及した インターネット・ブラウザのプラグインとして企業内情報検索システムが開発されたが、 イノカフェを通じて、グループ社員によって開発協力が行われ、最終的には同社製品とし て公開された。もちろん、同社の製品やサービスの開発や改善のきっかけとなる同業他社 のサービスや顧客のニーズの動向についての情報が投稿され議論されることもあった。 5.2 調査結果と考察 インタビュー調査の結果から、組織内ソーシャル・メディアがイノベーション・プロセ スにおいて組織内集合知の利用を支援していることが確認できる。NECグループは、イノ カフェを用いて機密性が求められるリリース前のソフトウェア製品の仕様確定や検証に関 する内容について議論し、開発プロジェクト・メンバーだけでは創造することが困難な多 様な知識を多数のグループ社員から獲得していたが、それはまさに組織内集合知の利用で ある。また、イノカフェでのやり取りを通じて実際に製品の機能拡張や品質向上が実現し ている状況を見る限り、十分に妥当性の高い知識を獲得できたことが推察できる。さらに、 それらの知識は多くの社員のわずかな協力から得られたものであり、大きなコストは発生 していない。特に、製品の動作検証という意味では、必要なコストを削減しているとも評 価できる。 また、組織内ソーシャル・メディアが従来のコミュニケーション技術とは異なる可能性 があることも見てとれる。NECグループは、従来から類似のツールを利用してきたが、そ れらの技術とイノカフェの利用状況がかなり違うとの回答が得られた。その原因の特定は 別の機会に譲らざるをえないが、機能的には類似するいくつかの技術について「使い方が 違う」と回答されたことを鑑みると、先行するインターネット上のサービスの影響などを 受けてイノカフェの利用には他の技術とは別の意味づけがなされ利用行動に作用している ことが予想される。 ここで、イノカフェが成功裏に活用された要因を考えると、まず、同社の業務特性がある。 同社の主な取り扱い製品は情報通信に関連するものであるため、情報通信ネットワークを 通じて試作品を公開しやすく、アイデアや意見を全社から募ることが容易であったと考え られる。また、その業務内容から社員が勤務中にPCを操作する時間が長くイノカフェに アクセスしやすいことや、利用者のコンピュータ・リテラシーが高いことがその利用を促 していることもある。あるいは、上司が情報技術の利用を理解し支援することがその利用 を促すことが知られているが(Igbaria et al. 1997)、同社のトップや管理者にはこうした新 たな技術についての理解があると思われる上に、当初からトップの承認を得て全社展開し ていることも奏効している可能性がある。加えて、ネットワーク効果の影響もあるだろう (Markus 1987)。同社のイノカフェは、企業内システムであるにもかかわらず利用者が多く、 書き込みに対する高い応答率が実現されていると考えられる。他にも、目的を限定せず自 由に使えるようにしていることが利用を促進しているかもしれない。同社では、業務とは
-44- 関係のないインフォーマルな情報交換も認めているが、そうすることでイノカフェへのア クセス頻度を高め、ひいてはイノベーションにかかわる発言の機会を増やしている可能性 がある。ただ、当然ながら組織内ソーシャル・メディアで議論しているだけでイノベーショ ンが生じるわけではなく、イノベーションを実現するためにはアイデアや意見を具体化す る組織や担当者が必要となろう。同社の例では、いずれもイノベーションに責任を持つ組 織や担当者が組織内集合知にアイデアや意見を求めるという使い方がなされていた。さら には、対象となるイノベーションを理解するために必要な知識のギャップの影響もありう る。同社では、消費者向けのサービスなど専門家ではなくても意見を言えるイノベーショ ンに関する知識がやり取りされていたが、きわめて専門性の高い内容の場合には得られる 知識は限られると予想される。最後に、イノカフェという呼称にも示されるように主な利 用目的にイノベーションが設定されていることもイノベーションの実現に寄与していると 考えられる。 6.結びにかえて 本論では、イノベーション・プロセスにおいて組織内ソーシャル・メディアを利用する ことの意義を検討してきた。事例研究を通じて、それが従来から組織内に保有されながら も十分に利用されてこなかった組織内集合知へのアクセスを可能にし、イノベーションの 実現に有益な知識の獲得を支援することが確認された。この技術は、機密性が求められる 内容について多様な立場から妥当性の高い知識を低コストで交換することを可能にしう る。 組織内ソーシャル・メディアはコミュニケーション技術であり、イノベーションのみな らず多様な目的に利用できる。にもかかわわらずイノベーションに着目するのは、それが 具体的な成果を伴うからであり、組織内集合知の利用支援という他の類似技術よりも優れ たこの技術の特性を最も生かすことのできる方法であると考えるからである。調査では NEC以外の複数の企業からも協力を得たが、ある企業関係者は取材の中で「単なるコミュ ニケーション目的では投資を正当化できない」と述べた。イノベーション・プロセスにお いて組織内集合知を利用するという導入目的は、より説得力を持ちうると考える。 したがって、本論は決して組織内ソーシャル・メディアを利用すればイノベーションが 起きることを主張するものではない。イノベーションは意図的な活動の結果として生み出 されるものである。同様に、イノベーション・プロセスに組織内ソーシャル・メディアを適 用すること、さらには組織内集合知を利用することもまた意図的な選択の結果にほかなら ない。本論は、組織内ソーシャル・メディアをイノベーション・プロセスに適用することに 一定の意義があることを指摘するものである。いずれにせよ、本論では一事例のみを紹介 したのみであり、さらなる検討が必要である。今後の課題としたい。
謝辞
調査に多大なご協力を賜りました日本電気(株)企業ネットワークソリューション事業 本部 八田光啓様に心から感謝申し上げます。また、査読いただきましたレフェリーの先生 方に厚く御礼申し上げます。
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