過去を表す時制形式 : 英仏比較文法の試み(その5)
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(2) 過去 を表す時制形式. 英語 とフランス語 の時制体系 をまとめてい くうえで必 要 と思 われる各種概念 の定義 を確認 してい く。その上でこれ までの資料お よび理論的背景 の考察 を 踏 まえて,英 語 とフランス語 の過去 を表す動詞形式 につい ての まとめ を試 み,本 論考 の締 め くくりとしたい。. 1.先 行研究の概要 1。. 1. Lyons (そ. の 4)の. 1.1。. で考察 した Jespersenの 時制観 を批判 したのは JOhn Lyons. で あ る 。 彼 は そ の 著 ル′ rθ ぁ θ ″ Jθ t. tθ ttθ θ″′ Jθ α ′LJ“ g“ Js′ Jθ ∫. (1968)の. 中で次. のように述べている。. Many treatinents of tensc have been vitiated by the assumption that the `natu― ral' division of time into `past', `preSent' and `future' is necessarily reflected in. language. Even Jespersen fans victirrl to this assumptiOn in his discussion of. tense in動. この後 で. `PttJJθ. (そ. s″ り げ G″. αre(p。 305) ““. の 4)の pp.59∬ .で 紹介 した内容 を繰 り返 してい る。 しか. し時制 には様 々な範疇化が可能 で,「 未来」対 「非未来」,「 過去」対 「非過 去」 などの分割 もあ り得 る上,「 現在」対 「非現在」,「 近接」対 「非近接」 ,. さらに「今」対 「近接」対 「遠隔」 といった分類 もあ り得 ると述べ てい る。 さらにこれ らの区分 はさまざまな結 びつ きが可能で,イ ェスペルセ ンのあの 図式 に示 された ものだけとは限 らない と付言 しているのである。 それでは Lyonsは tenseを どの ように定義 してい るのであろ うか。彼 は次 のように言 う。. The category of′ θκ∫θhas to do with tilne― relations in so far as these are ex― pressed by systematic grammatical contrasts。. (p.304).
(3) 梅原 大輔 ・甲斐. 基文 。杉浦. 茂夫. The essential characteristic of the category of tense is that it relates the tilne of the action,cvent or state of affairs referred to in the sentence to the tiine of. utterance(the time of utterance being`now').(p.305). 従 って ,時 制 は deictic(直 示 的 )範 疇 であ る と述 べ て い るが ,こ れは後述 の相 との 関連 にお い て重 要 で あ る。 相 につい ては,こ の述語が ロ シア語 や ス ラブ諸語 の「完了的」 と「未完了 的」 の 区別 を指す の に最初 は用 い られた と述 べ て い るだけで ,正 面 か ら定義 をす るこ とは避 け て い る。 しか し「完了相」 と「未完了相」 につい て ロ シア 語 や ギ リシヤ語 の例 を挙 げ,ど ち らの 言語 にお い て も「完 了相」 が 「有標」 項 であ る と主 張 して い る。残念 なが らフラ ンス語 につい ての言及 はない が. ,. 英語 に関 しては一 節 を充 てて「完了相」 と「進 行相」 を論 じて い る。す で に (そ. の 4)の 3で も言及 した こ とで あ るが ,時 制 と相 の 相 違 に 関す る次 の 指. 摘 は重 要 で あ る。. Aspect,unlike tense,is not a deictic category;it is not relative to the tiine of utterance。. (p.315). 確 か に相 は時制 と関係 があ る こ とは認 め なけれ ばな らない が ,時 制が ,動 作 ・出来事 ・事態 の `10cation in time'に 係 わ ってい るの に対 し,相 は `tem_ poral distribution or contour'に 係 わ ってい るか らであ る と言 う。時制 と相 は. 以上 の点 で異 なる特徴 を持 つ わけであ るが ,英 語 を含 む多 くの言語 にお い て 相互 に交差 (intersect)し てお り,相 が時制 と融合 (merge)す る例 を挙 げ て い る。完 了相 を含 む文 も ルs″ と共起 す れ ば `the very recent past'を 指 し λαソ. `ル. θ θ κttj“ ),間 接 話 法 の 中 で は `past in the past'を 指 す (ル ∫ ′∫. sα. (r jグ. んθあノ崚ヵ″。)こ とになる。後 者 の例 で は完 了相 は相 とい う θ ι れたj“ ′ λθり ∫ よ りは `a secondary,or relative tense' だ と言 う こ ともで きる と して い る。そ して法 も含 めて ,時 制 ,相 との 関係 につい ての次 の言及 は本論文 に とつて重.
(4) 18. 過去を表す時制形式. 要 な意味 を持 つ と思 うので ,少 し長 くなるが引用 してお きた い 。. Tense, mood and aspect `Inerge' into One another in many other languages besides Englisho. This is partly because certain notions。. .。. , nlight be classed. equally well as modal,aspectual,or temporal; and partly because more distinc― tions have to be recogninzed in the semantic analysis of these languages than are overtly distinguished by the systematic morphological and syntactic con―. trasts which we label as`tense',`mood'or`aspect'.(p.317). そ してあ る特定 の脈絡 にお い て,こ れ らの 文法範疇 の一 つ の 意味 が ,文 の 中で統合的 に関係 の あ る副詞 あ るい は副詞類 に よって正 確 に指定 された り ,. 決定 された りす る とい う事 実 に注 目す べ きであ る と強調 して い るので あ る。. 1。. 2. Colmrie Bemard Colrlrieの ■4∫ ι (1985)の 所 説 を見 る こ とに した い。著 者 には 同. じ Cambridge Textbooks in Linguisticsの シ リーズ に Aψ θ θ ′ (1976)と い う著 θのみ に限定 した い 。時制 につ い て彼 は `the gram― 書 が あ るが ,こ こでは ■ ∫ “ madcalizadon of location in time'と い う定義 を与 えて い る (p.1,pp.9∬ 。 )。 そ して本書 で採用 した接 近法 と して次 の 3項 目を挙 げて い るが (p.26),こ れ らはわれわれの 目的 のため に も重要であ る。. (a)時 制 は特定 の文脈 か ら独立 して定義 で きる意味 を持 つ 。 (b)あ る時制が 2つ 以上 の意味 を持 つ こ とはあ り得 るこ とで あるが ,そ の 場合 にはあ る意味 が他 の 意味 よ りも基本 的 であ る。. (C)あ る時制が特定 の文脈 で特定 の解釈 を受 ける こ ともあ り得 るが ,そ れ らの解釈 は文脈 か ら独 立 した意味 と文脈 との相互作用 とい う観点 か ら説 明す るこ とが 可能であ り,そ れ故 に問題 の 時制範疇 の 意味 の一 部 を形成 す る ものでは ない。 以上 の 3点 に関 して,本 書 の 中 では主 と して英語 か ら例 を挙 げて説明が な.
(5) 19. 梅原 大輔 ・甲斐 基文・杉浦 茂夫. されて い るが ,こ こで は特 に英 語 の過去時制 を例 に挙 げ て い る部分 を紹介 し た い。 (a)の 例. と して英語 の 過去時制 を挙 げ て い る (p.41)。. 1 2. At seven o'clock yesterday John pronlised to give me ten pounds.. 3. John lived in Manchester fronl 1962 to 1982. Up to this moment this disease was incurable。. (1)で. は「現在 の瞬間 に先行す る一時点」,(2)で は「現在 の瞬間 に先行す る拡. が りの ある時間」,(3)で は「現在 の瞬間 に至 る時間の全体」が意味 されてい るが,過 去時制 は「問題 の事態. (situation)°. を現在の瞬間に先行す るところ. に位 置づ ける」 だけである。 また次 の 2つ の文 は過去時 を指示 してい る点で 中立 である。 4 . John was in Paris.. 5. John has been in Paris。. (4)は. Johnが パ リに居た特定 の時間の存在 を合意 し,(5)は. John be in Parisと. い う命題が成立する過去 の時間があ ったことを合意す るだけである。いずれ にせ よ,上 に挙げたような特定 の解釈 は,過 去時制 に与 えられた意味 と両立 しうるものである と言 うのである。 (b)に. ついては次 の よ うな例 を挙 げ ることがで きる (pp.19f.)。 英語 の過. 去時制 の 中には,「 状況 を現在 の瞬間 に先行す るところに位置 づ ける」 とい う定義 の反例 にな りそ うなものがある。 6 . If you did this l would be very happy.. 7. Ijust wanted to ask you could lend me a pound..
(6) 20 16)は. 過去を表す時制形式 「事 実 と反対」 (counterfactu」 )で あ り,(7)は 「 て い ね い 表 現」 の 例 で. あ って ,「 現 在 の 願 望 」 を表 して い る。 これ らの 例 の 存 在 は ,過 去 時 制 の. 「過去時指示 を示す」 とい う一般的な特徴付 けを無効 にす るものではな く ,. これは過去時制 の基本的な意味であ り,「 ていねい」 などは過去 時制 の二次 的な意味. (も. っと正確 には用法)で あると言 う。そ して基本的な意味 と二次. 的な意味 の相違 について特徴付 けを論 じてい るが,こ こでは紹介する紙幅が ない。そ こでは論 じられているが,わ れわれの立場 か ら言えば,(7)の 例 で願 望が過去 の ことで あ った と表明す ることは,「 現在 は願望 を持 ってい ない」 →「聞 き手が断 りやす い」 とい う推論が可能であ り,「 過去時制」→「ていね い」 とい う経路 は成立するが,そ の逆 は成立 しない と言えばよいのではない か と思 う。 (C)に. ついては意味 と会話的合意 (implicature)の 区別 と言 い換 える ことが. で きるが,次 のような例 を挙げてい る。 (p.24). (8)JOhn used to live in London。. (8)の. 文 は否認 す る部分 を ともなわず に用 い られ る と,「 ジ ョンは もう ロ ン ド. ンには住 んで い ない」 とい う情報 を担 う こ とにな りそ うで あ る。 しか し,こ jJJあ θ れは意味 ではな く会話的合意 で あ る。そ の こ とは α4グ ヵθ∫ ″ sと か ,α κグ. α∫力 rα ∫Jα ″ α″α″ ル. s″. JJJあ θ sな どを付 加 す る こ とで容 易 に取 り消 す こ と. がで きる ことか ら理 解 で きる とい う。 以上 で(a),(b),(C)に つい ての 説明 を終 え,次 に英 語 とフラ ンス語 の 時制 を 比較 した p.76の 所説 を考 察 した い 。 こ こは絶対 時制 (abs01ute tense)'と 相 対 時制. (relative tense)か. の結 び つ きにつ い て論 じた箇 所 で あ るが ,ス タ ン ダ. ー ル か ら次 の例 を挙 げて い る。l101は そ の 英語訳 で ある。. (9)Quand il avait eu rassemb16 1es plus effront6s de chaque m6tier,il leur avait dit`r6gnons ensemble。. '.
(7) 梅原 l101. 大輔 0甲 斐 基文 ・杉浦 茂夫. When he had gathered the most advanced of each trade, he had said to. therrl,. (9),l101に. “let us rllle together.". お いて最初 の節 の動詞. (「. 集合 させた」)は ,主 節 の動詞. (「. 述べ. た」,こ れ 自体がす でに過去完了形 で あ る)よ りももう一段過去 にさかのぼ った行為 を表 してい る。英語 では一連 の基準点 を同 じ迂言構造 を用 いて組み 立てる ことが可能であ るが,フ ランス語 ではいわゆる「重複合時制」 を用 い て,も う一段過去へ さかのぼる行為 を表現す る。 (た だ し,こ の ことについ ての母国語話者 の判断 には揺れがあ るとい う。) さらにフラ ンス語 については,通 時的な次元 で次 の点 に注 目する必要があ るとい う。単純過去 の プ ttα ″どの間には,英 語 の ιε λ ακttjと 複合過去 の ブ j ε 'α. 場合 と似 た対立が存在 したが,時 間の経過す る うちに,後 者が前者 の機能 を ttα れ 協Jが 用 い られな くな り,ブ 奪 い,ル ε. s“. 'α. j. θ ん α″どが英語 の I. sα. κ gと. J. λ αソ θ. 4gの 両方に相当することになった。 (pp.81f.) これに関連 して,「 過去 における時間の距離」 を論 じてい るが,17世 紀 に. おいては近過去 と遠過去 の区別があ り,ノ. rJソ Js ttJι rの ε ι αル とノゼε “ ように,近 過去 には複合過去が,遠 過去 には単純過去が用 い られていた。 こ 'α. Jご Crj′. の区別 は,上 に述べ た単純過去 の衰退 とともに消滅 して しまった とい うので ある。 (p.93). 2.用 語 の 定 義 本論. (そ. の 4)で も述べ たように,動 詞 アスペ ク トと文 アスペ ク トの区別. は重要である。動詞アスペ ク トと文 アスペ ク トが文の中で合成 されることに よって文全体 の相 の意味が決定 される。 また文アスペ ク トは,時 制 と融合 し てい ることもある。以下では この二つの概念 についてわれわれが必要 と考 え る対象 を特定 してい きたい。.
(8) 過去 を表す時制形式. 2.1.文 アスペ ク ト 文 アスペ ク トを考 える上で,ま ず perfecdveと perfectの 区別 を確認 した い. 。. Comric(1976)は. perfectiveと perfectと い う二 つ の 概 念 を明 確 に 区 別 す. る必 要 があ る と主 張 して い る。 この二つの概念 は もともとス ラブ諸語 では文 法 上明 白で あ るため区別 されて きた もの だが ,英 語話者 の言語学者 の 中に は 特 に,perfectと い う語 を用 い るべ き時 に perfectiveと い う語 を用 い る とい っ た用 語 上 の 混乱 が見 られ る と して注意 を促 して い る。Comrieは 次 の よ うな 説 明 に よって この二 つ の 違 い を示 して い る。 われ われ も この 定義 を採 用 す る。. The terrrl `perfective' contrasts with `irnpe」 ective', and denotes a situation viewed in its entirety,without regard to internal temporal constituency;the term `perfect' refers to a past situation which has present relevance, for instance the present result of a past event(乃. Js. αr“ あα∫わθθtt. ).(p.12). brθ た ικ. この定義 か らもわか る よ うに perfective/imperfecdveは 文 アスペ ク トに属 す る概 念 であ る。 これ に対 し perfectは 英語 の 完 了時制 や フラ ンス語 の 複 合 過 去 に見 られ る よ うな,時 制 (相 対 時制 )に 関 わ る概念 であ る。本論 で は per… fectiveを. <完 了 的 >,perfectを <完 了 >あ る い は<完 了形 >と 呼 ん で 両 者. を区別 した い 。 完 了 (perfect)が 持 つ 特 性 は ,<基 準 時 にお け る 関 連 性 (rdevance)>と い う こ とになる。基準 時 は現 在 の 発 話 の 時点 で も過去 の 任 意 の 時点 で もよ い。完 了 の特徴 を表現 す るの に最 もよいの は,Reichenbachの 表記法 で あ る と思 われ る。基準 時 (R)に 事 象時 (E)が 先行 す るの は完 了 だけの 特徴 で あ って ,他 の 時制 で は見 られ ない 。 Perfect市 eの. 反 対 の 概 念 は imperfeclve<未 完 了 的 >で あ る。未 完 了 的 相. は,典 型的 には <進 行 >と. <習 慣 >の 二つの概念 を内包す る と言 われ る。 フ.
(9) 梅原 大輔 ・ 甲斐. 基文 0杉 浦 茂夫. ラ ンス語 の半過去 (lmparfait)は そ の 言葉通 り,典 型 的 な未 完了 的 な文 アス ペ ク トを持 ってい る。 Progressiveと. い う言葉 を巡 って も注意が必要である。 この言葉 は,英 語 の. 個別文法 に見 られる形式 を指す場合 と,通 言語的な文 アスペ ク トの概念 を指 す場合に用 い られる。後 に見 るように,英 語 の個別文法 に見 られる進行表現 は英語 の時制体系 に特徴的なものであ り,そ の点 で通言語的な意味 での<進 行 >よ りも広 い領域 を含 むものである。本論 では,英 語 に見 られる表現形式 を<進 行形 >と 呼 び,通 言語的な<進 行 >の 概念 と区別 をしてい く。 習慣 (habitual)の 概念 を定義す ることもまた非常 に困難 である。習慣 と 反復. (repetitive,iterative)の. 間 に何 らかのつ なが りがあ る ことは予想 で きる. が,あ る行為が どれほどの長 さにわた って継続,反 復 されれば習慣 と呼べ る の か,そ の よ うな客 観 的 な基 準 は もち ろ ん存 在 しな い。例 えば Comrie (1976)は habitualityに ついて次 の定義 を与 えてい る。. The feature that is common to all habituals, whether or not they are also it― erative, is that they describe a situation which is characteristic of an extended period of tilne,so extended in fact that the situation refelTed to is viewed not as an incidental property of the moment but, precisely, as a characteristic feature. of a whole period.(p.27). 習慣 は主語 の性 質 を表す個体 レベ ルの もの と考 え られ るが ,判 断 の難 しい 部分 もあ る。 た とえば ,英 語 の進行形が習慣 の解釈 を持 つ こ とがあ る とされ る。Declerck(1991)は これ には次 の二 つ の場合 があ る と言 っている。. は⇒a.Bill. was always working on his dissertation when l visited him.. b.In those days John was driving a Ford。. ma.は 基準となる点. (when l visited him)に. (Declerck 1991:280). おいて見 られる進行状態を示し.
(10) 24. 過去を表す時制形式. て い る。alwaysに よる時 の 量 化 が 習慣 を表 す の だ とす れ ば ,こ の 文 で は 習 慣 が進行 よ りも広 い作用 域 を持 ってい る もの と解 釈 す る こ とが で きる。 一 方 ,llllb.は 一 時的 な習慣 を表す。 この一 時性 は進 行形 の 持 つ 意味特徴 で あ るの だか ら,こ の文 にお い ては ,習 慣 よ りも進行 の 方が広 い作用域 を持 って いる もの と解釈す るこ とがで きるc 〕 また フラ ンス語 の 完 了的過去 が習 慣 の 解 釈 を持 つ こ ともで きる。 この場 合 には,<過 去 に完結 した習慣 >の 意味 にな り,や は り習慣 の 意味 よ りも完 了 過去 の意味 の 方が広 い作用域 を持 ってい る。 この よ うな例 を考 えるな らば ,習 慣 とい う概念 自体 が未完了的な もので あ る とか個体 レベ ルの もので あ る とは言 えない ように思 われ る。少 な くとも英 語 とフラ ンス語 を見 る限 り,習 慣 の概念 は単 一の 文 アスペ ク トには対応 して い ないの で あ る。. 2.2。. 動詞 アスペ ク ト. 動詞 アス ペ ク トとは,意 味 的 な観点か ら動詞 を見 る際 に明 らか になる,動 詞や動詞句 が内在 的 に持 つ 時 間的 な構造 の こ とで ,一 般 的 には動作動詞 /状 態動詞 の対立 として知 られて い る もので あ る。固有 アス ペ ク ト. (Inherent As―. pect),語 彙 ア ス ペ ク ト (Lexical Aspect),状 況 タイ プ (Situation Types)な どと呼 ぶ こと もで きる。 上 で述 べ た完了的/未 完 了的 の 区別 を動詞 アス ペ ク トの 区別 と混 同 しない よ うに注意す べ きであ る。 一 見 した ところ,状 態動詞 は未完了的 ,出 来事 を 表す動詞 は完 了的 で あ るよ うに も思 われ るが そ うでは ない 。あ る状 況 を完了 的 ととらえるか未完了的 ととらえるかは ,あ くまで も文 アスペ ク トの レベ ル で決定 され る こ とであ る。 出来事 を表す動詞 も進行や習慣 の解釈 を受 け るな らば ,そ れは未完 了的 な相 を持 つ こ とになる。逆 に状態動詞 で も文 アス ペ ク トの レベ ルで 完了的 な解釈 を与 える ことがで きる。特 にこの後者 の例 は ,英 語 にはない が フラ ンス語 にお い て見 るこ とがで きる。 動詞 アス ペ ク トと文 アス ペ ク トは現実 の文 の 中 では合成 されて い るので. ,.
(11) 梅原 大輔 0甲 斐 基文 ・杉浦 茂夫. 25. これ までの相 の研 究 にお い て も両者 が十分 に分離 されて い ない ことがあ る よ うだ。例 えば横 井 (1987)は フラ ンス語 を中心 とす る相 の研 究 を概 観 して. ,. Duchttcek(1966)に は この両者 の混 同が見 られ る と指摘 して い る。 この こ とを確認 した上 で ,以 下 で は動詞 アス ペ ク トの下位分類 の一例 を概 観 した い 。. 2。 2。. 1.状 態動詞 と出来事動詞. 動 詞 が持 つ 意味 的特 性 を大 き く二 つ に分 け る とす る と,や は り状 態 動 詞 (State verbs)と 出来事 動 詞 (Event Verbs)に な る と思 われ る。出来事 動 詞. の こ とを動作 動 詞 と呼 ぶ こ と もあ る。 しか し「動作 」 とい う言 葉 は動作 主. (Agent)の 主語 を持 つ行為 に限 られ る印象 があ るため,こ こでは よ リー 般 的 のの と思 われ る「 出来事」 名称 を用 い た い。 また実際 には動詞 アス ペ ク トは動 詞 の語彙 レベ ルで決定 され るのではな く,主 語 や 目的語 の数 ,副 詞 的修飾語 と合成す るこ とに よっては じめて決定 で きる もので あ る。従 って以 下 で は状 態述語 ,出 来事述語 とい う言葉 を用 い た い。 状 態述語 と出来事述語 の 区別 を意 味 的 に行 う こ とはむずか しい。 と りわ け 出来事 の概念 はい くつ かの下位 分類 を含 むため ,そ れ らを包括 した ,抽 象概 念 と しての出来事 を定義す るの は 困難 であ る。 そ こで ,こ こで は具体 的 に動 詞 アス ペ ク トの もう少 し詳 しい 下位分類 を示 し,状 態 と出来事 の 区別 を確認 した い 。 ただ し英語 とフラ ンス語 の 時制体系 を比較す る とい う視点 か らは. ,. 状態述語 と出来事述語 の 区別 をす るだ けで十分 で あ り,そ れ以上 に細 か な下 位分類 は必 要 ではない と思 われ る。 動 詞 アス ペ ク トの分類 の一 例 と して取 り上 げた いの は Vendler(1969)に よる 4分 類法 で あ る。Vendlerの 4分 類 は動 詞 アス ペ ク トの分 類 に関 して も っ とも頻繁 に言及 され る ものであ る。詳細 に見 れば この分類 で は不十分 な と ころ もあ るだろ うが ,動 詞 アス ペ ク トの全 体像 をつ かむ上 では十分 目的 にか な う もので あ る。 また この Vendlerの 4分 類 をその ま まヲ│き 継 い で. Gardes―. Taminc(1987)が フ ラ ンス語 の 時制 と相 を論 じて い る。従 つて ,こ の 分 類.
(12) 過去を表す時制形式. 26. 法 は英語 に もフラ ンス語 に もあて は まる と考 え られ る。 Vendlerの 分 類 は 動 詞 句 を State,Activity,Accomplishment,Achievementの. 4つ に区分す る もので あ る。 Stateは 継続性 を持 った状 態 で あ る。現在 時制 で 表 す と (習 慣 的行 為 で は. な く)現 在 の 状 態 や主語 の 属性 を表す。bθ ,加 θ″ な どが 代 表 的 な動 詞 で あ る。 Activityは PrOcessと 呼 ばれ る こ ともあ る。継続 的 な性 質 を持 った 出来事. で あ り,出 来事 の 内部 は等 質 であ る。s′ θ ψ,r“ れ,swj“ J4滋. Jソ. `″. `rな. どの例 が. 挙 げ られ る。 Activityと Stateの 間 には あ る意味 で 類似 性 が あ る。 どち ら も 継続性 を持 ってお り,出 来事 と しての完 結 点 を持 た な い か らで あ る。例 え ば,こ の二 つ の グル ー プ に属 す る述 語 は 共 に ル r.… とい う時 間 の 継 続 を表 す副詞句 と共起 で きる。. 仁 a aoJohnl市 ed in Kobe for three years. b.John swam in the river for an hour。. しか し,こ の よ うな性 質 だけで ,両 者 を共通 の もの と考 えるのは早計 で あ る。 Stateと は異 な り Activityは あ くまで も出来事 を表 す述語 で あ り,そ れ は英語 の現在時制 で両者 を比 べ た ときに明 らか になる。. l131 a.John hves h Kobe. bo John swims in the river。. 出来事述語 を現在 時制 にす る と英 語 で は 習慣 の 意味 にな る。 (13b)の 文 が習 慣 の解釈 しか得 られ な い こ とを考 え る な ら,a.の よ うな状 態 述語 との 違 いは明 らかであ る。 実 際 ,Stateと Activityの 二 つ だけ を含 んで 指 す用 語 は 存 在 して い な い。 文法 的 ・意味 的 に この二つ だけで一 つの 範疇 を作 る合理性 が な い ためであろ.
(13) 27. 梅原 大輔 ・甲斐 基文 0杉 浦 茂夫. う。 なお ,完 結性 を持 た ない述語 を atelicな 述語 と呼 び,次 に述 べ る Accom― plishmentの よ うに完結性 を持 った telicな 述語 と区別 す る こ とが あ る。 しか. し,通 常 atelicな 述語 の 中には Stateを 含 め る こ とは しない と思 われ る。. Accomplishmentは 終 着 点 を持 つ 出来事 述 語 で あ る。ごκw αθjrε. Jθ. の よう. に動作 の 開始点 (描 きは じめ)と 動作 の完結点 (描 き終 わ り)を 持 ち,完 結 点 に向 か って動作 が進 む。完結点 に達す る とそ こで動作 は終 わ る。逆 に完結 点 に達 しない ままに終 わ る と,そ の動作 は達成 され なか つた こ とになる。 こ の よ うな述語 は telicな 述語 と呼 ばれ る こ ともあ る。 j4。 … とい う時 の 副詞句 とは共起す るが ,ヵ r。 … とい う副詞句 とは共起 しない 。. l141 ao John drew a circle in a second. b.*John drew a circle for a second.. Achievementは 瞬 間 的 に 完 結 す る 出 来 事 で あ る。Accomplishmentと は 違 い ,完 結点 に至 る過程 を持 た な い 。ノκグα′ だιの よ うに Agentiveな 主語 を “ 持 た ない動詞句 の場合が典型 的 で あ る。継続性 を持 たない述語 であ るため ,. 例 えば英語 で は進行形 にす るこ とがで きない とされて い る。. 51 は. a。. *John was finding his purse.(Achievement). bo John was looking for his purse。. (Activity). 上の 4つ の分類 の 中で,出 来事述語 に対応す る後 の 3つ をまとめてみ る と,出 来事 を構成す る ことがで きる単位 は継続的な過程 と瞬間的 な完結点の 二つであ ると言 える。過程だけを持 つ のが Activity,完 結点 だけを持 つのが Achievementで あ るの に対 し,両 方 を組 み 合 わせ た ものが Accomplishment である。 この ことは,Activityの 動詞 に完結点 を表す副詞句 を与 えれば Ac― complishmentに なる ことか らも正当化 される。次 の ような例 がそうである。.
(14) 過去 を表す 時制形式 l161 a.John pushed the catt for an hour。. (Acd宙 ty). b.John pushed the ca■ to the station in an hour.(Accomplishment). Parsons(1990)は Hold(ing)と Cul(mination)と い う二 つ の 意 味 元 素 を 用 い て,英 語 の文 を形式意味論 的 に記述 しようと して い る。 本論 で は,以 上 の 4分 類 の うち,Stateだ け を状 態 述語 と して分 類 し,他 の三つ を全 て出来事 述語 と呼 ぶ ことにす る。 また状 態 と出来事 を全 て含 め る 包括 的 な概念 と して 「事態. (situations)」. とい う用語 を用 い る。更 に,「 状 態. 文」「 出来事 文」 とい う言葉 を用 い る こ とが あ るが ,そ れぞ れ「状 態述語 を 含 む未完了的 な文 」,「 出来事 述語 を含 む完 了的 な文 」 を意 味 す る。文 の レベ ル を扱 う用語 では必然的 に文 アス ペ ク トが含 まれた概念 になることに注意 さ れた い。. 2。. 3.個 体 レベル とス テ ー ジ レベル こ れ まで 本 論 (そ の 1)か ら (そ の 4)の 中 で 何 度 か用 い た 概 念 で あ る. が ,個 体 レベ ル とステ ー ジ レベ ルの 区別 を ここで 再確認 した い 。 本論 では特 に,個 体 レベ ル,ス テ ー ジ レベ ル とい う概念 は状態述語 お よび 状態文が持 つ 属性 であ る と考 えた い。英語 の進行形 を扱 う上 では,出 来事文 をス テ ー ジ レベ ルの一 部 に含 め ない ほ うが うま くい くためで あ る。個体 レベ ル,ス テ ー ジ レベ ル を本来的 に表す述語 をそれぞれ個体 レベ ルの述語 ,ス テ ー ジ レベ ルの 述語 と呼 ぶ 。更 に,そ れぞれの性 質 を持 った文 を,4固 体 レベ ル 文 ,ス テ ー ジ レベ ル文 と呼 ぶ 。従 って これ らの概 念 は,動 詞 アスペ ク トと文 アス ペ ク トの 両方 にまたが って用 い られ るこ とに なる。文 の レベ ルにお い て は,個 体 レベ ル文 ,ス テ ー ジ レベ ル文 とい う二つの状態文 ,お よび出来事文 の三 つ が並 列す る ことに なる。 個体 レベ ルは主語が持 つ 属性 ・性 質 を表す。 あ る状 況が主語 の持 つ 一 般 的 な性 質 となるため には一 時的 な事態 ではな く,あ る長 さにわた って継続 す る 事態 で あ る必 要 があ る。 しか しこれは,個 体 レベ ルの 述語が無時間的 (atem_.
(15) 梅原 大輔 ・甲斐 基文 ・杉浦 茂夫. poral)で あるとい うことではない。個体 レベ ルの述語 であっても時の副詞. による修飾 を受けることはできる。. l171 JOhn was tall when he was young.. 一 方 ステー ジ レベ ルの述語 は ,あ る状態が一時的 な事 態 であ ることを示す もので あ る。力たんJs劇 たjκ g.と 言 えば ,発 話 時 にお け る事 態 を表 す ので ス Jソ ι .と 言 えば,力 あれは発 話 時 にお い テ ー ジ レベ ルで あ るが ,力 力4j∫ ′ αJ肋 ′. て話 を して い る必 要 は な く,主 語 の 持 つ 属性 を表 した個 体 レベ ルの 文 で あ る。同様 に 力ん4 Js α gり .と 言 えば ス テ ー ジ レベ ルの文 で あ るが ,力 λκJs sん θr′ “ ― ′ rθ グ.と 言 えば ,個 体 レベ ルの 文 に な る。 あ る事 態 が どの くらいの 時 ι ηθ 間 にわた つて継続 す れば ,あ る い反復 されればそれが属性 とみ な され個体 レ. ベ ルになるのか, とい う客観的な基準 を出す ことはで きない。 しか し個体 レ ベ ルの文 とステージレベ ルの文 は文法 の レベ ルにおいて区別 で きる。一つの 代表的 な例は,英 語 で無冠詞複数形 の主語 と共 に用 い られた場合 の解釈 の違 いである。. l181 a.Dogs are barking. b.Dogs are docile.. a.の よ うに無 冠詞複 数形 が ス テ ー ジ レベ ルの述語 と共 に用 い られた場 合. ,. 「吠 えて い る大 が い る」 とい う存在 的 な解釈 が主語 に対 して与 え られ る。 一 方. b.の よ うに個体 レベ ルの述語 と共 に用 い られた場 合 には,大 一 般 につ い. ての総 称 的 な解釈 が 与 え られ る。 んι ″ 構 文 にお い て も見 ら 同様 に,個 体 レベ ル とステ ー ジ レベ ルの 区別 は ′ れ る。. l191 ao There are dogs barking。.
(16) 過去 を表す 時制形式 b。. c。. 7There were iremen available。. *There were dogs docile.. d.*There were firelmen altrllistic.. 個体 レベ ルの 文 は主 語 を文 の主 題 に して ,そ の 主語が持 つ 属性 を表す もの で あ る。 このため ,主 語 の 存在 自体 を新 情報 と して主 張す る存在文 とは相 い れ な い。は 9co. d。. が 非文 となるのはそのためで あ る。. 個体 レベ ル とステー ジレベ ルの違 いはフランス語 の場合 には文法上区別す べ きものではないか もしれないが,あ とで述べ るように,英 語 の進行形 を扱 うときにはステー ジレベ ルの概念 を用い るのが よい と思 われる。. 3。. 英 語 0フ ラ ン ス 語 の 過 去 時 制 体 系. 本論 (そ の 4)で も述 べ た よ うに,文 アス ペ ク トと時制 の 区別 は しば しば 曖味 で あ る。 それ は,そ れぞれの個別言 語が ,こ れ らを一 つ の文法形式 に融 合 して い る場 合 が あ るためであ る。 あ る動詞 アスペ ク トを持 つ動詞 に文 アスペ ク トを付 け加 える ことで ,文 全 体 の 相が決定 され る。 ある個 別言語 が どの よ うな文 アス ペ ク トの道具立 て を 持 つ か によって ,結 果 と してそ の言語 で表現 上 区別 で きる相 の種類 が制 限 さ れ る こ とになる。 この よ うな視点 を もって,以 下で は英語 とフラ ンス語 の過 去 時制 の体系 を比較 してみ た い 。. 3。. 1. 英言 吾. 3。. 1。. 1.単 純過去. 英語 の単純過去 時制 は基本 的 に動詞 アスペ ク トに変更 を加 えない。個体 レ ベ ル述語 は個体 レベ ル文 ,ス テ ー ジ レベ ル述語 はステ ー ジ レベ ル文 ,出 来事 述語 は 出来事 文 , とい うのが ,単 純過去 か ら得 られ る最 も無標 の解釈 で あ ろ う。.
(17) 梅原 大輔 0甲 斐 基文 ・杉浦 茂夫 20 ao John was a kind fellow. bo John lived in Paris then. c.John wrote a letter last night.. 先 にも述べ たように単純過去 の状態文 において得 られる「現在 においては 成立 してい ない」 とい う意味 は論理的合意ではな く会話的合意 である。 この 意味 は打 ち消 し可能 とい う性質を持 っているためである。 英語 の単純過去 は,完 了的/未 完了的 とい う文 アスペ ク トの対立 を含 まな い純粋 な時制である。英語 の単純過去 が文アスペ ク トの対立 を含 まない と言 うことは,す なわち文アスペ ク トに関 してはは無指定であると言 うことにな る。副詞句 などの修飾語や文脈 の助けによつて,完 了的な意味 も未完了的な 意味 も表す ことがで きる。 しか し重要なのは,そ の ような文 アスペ ク トの選 択 は義務的 には行われてい ない とい うことであ る。. 2⇒. a.John lived in Paris frolr1 1967 to 1970。. b.John was once a Πlillionaire。. 2つ の文 は副詞句 の助 け を借. りる ことで完了的 な状 態 の解釈 を持 つ ことはで き. る。 しか し副詞 句 や文脈 な しで は,完 了的 か未完了的 かの判 断 を しようが な いの であ る。 出来事 述語 を単 純 過 去 で 用 い た 場 合 ,出 来事 文 の 解 釈 と共 に<過 去 の 習 慣 >の 解釈 も可能であ る。 <過 去 の 習慣 >を 表 す ため に英 語 には. θと sι グ′ “ い う迂言形 の助動詞表現 を用 い るこ ともで きる。 この よ うな<習 慣 >の ため θ を用 い sι グ′ “ なけれ ば <習 慣 >の 意味 が 表 せ な い とい う こ とで は な い。 そ の 点 で は <習. の迂言表現 は フラ ンス語 には存在 しな い が ,英 語 の 場合 で も. 慣 ><非 習慣 >の 対 立 もまた英語 の 過 去 時制 にお い て 義務 的 な もので は な い。. このように英語で過去の習慣を表す ときには ∫ ι グゎ の使用は随意的であ “.
(18) 過去 を表す時制形式. 32. る。副詞句や文脈の助けがあれば,単 純過去の ままでも習慣を表す ことがで きる。. lal John gOt up at 5 aom.every morning all through the summer。. 但 し,単 純過去 が 文 アス ペ ク トを指定 しな い と言 って も,後 に述 べ る よ う に進行形が表す意味 は単純 時制 に よっては表す こ とがで きない。進行形 /非 進行形 の対立 は英語 の 時制 。相 の体系 の 中 では義務 的 であ る。進行形が何 ら かの 文 アス ペ ク トを表す ものか ど うか とい う問題 は次 の節 で扱 うが ,文 アス ペ ク トを指定 しな い はず の単純過去 時制 で進行 の 意味 が 表 せ な いの は英語 の 重要 な特徴 と考 えて よい。 フラ ンス語 で は過去時制で こそ進行 を表す の に半 過去 を用 い るが ,現 在時制 では単純現在形 で進行 を表す の と対照的 であ る。. 3。. 1。. 2.過 去進行. 英語 の 時制体系 の 中で重 要 な役割 を して い るのは進行形 の存在 であ る。進 行 の 意味 を表す文法形式 は多 くの言語 で 見 られ ,例 えば フラ ンス語 に も etre en train de+inf.の 表 現 が あ る。 しか し,英 語 の 進 行 形 は 他 の 言 語 に比 べ. て,極 めて広 い意味 の射程 を持 ってい る。英語 の 進行形 の 意味 を 1。 動詞 の 状態化 ,2.動 詞 の未完了化 ,3。 動詞 のステー ジ レベ ル化 とい う点 か ら考察 してみた い。 進行形 を,出 来事文 か ら状 態文 を作 る表現 と考 える ことがあ るが ,こ れは 英語 の進行形 が状態 動詞 か らの進行形 を も可能 に して い る こ とを考 える と不 十分 な説明であ る と思 われ る。. 1231. ao John was being kind at the party。 b。. 1241. a。. b。. *The machine was being noisy. *What John did at the party was be kind。 ?What John was doing at the party was being kind..
(19) 梅原 大輔 ・ 甲斐. 基文 ・杉浦 茂夫. 33. co What John was doing at the party was playing the tuba.. bθ. jれ た グ を進行形 にした場合,「 親切 にふるまっていた」 とい う行為 を表す. 解釈 が得 られる。 このことは わθによる進行形 は主語 が無生物であ ってはな らない とい う事実か らも確認 で きる (23a,b)。 しか し,bι に状 態 を表す も の と行為 を表す ものの二つがあるか とい うと疑間である。 この ような行為動 詞 としての解釈 は進行形 になったことか ら生 じる解釈 の一つであると考 えら れる。従 って,上 の ような例 をもってわれわれは状態動詞が進行形 に用 い ら れるとい う例 にしたい。 英語 の進行形 は未完了 を表す ものである, とする考 えについてはどうだろ うか。確 かに出来事文 を進行形 に した場合 には,未 完了の意味が生 じる。 し か し,先 に述 べ た よ う に,<未 完 了 的 (Imperfective)>と い う概 念 は,通 常 ,進 行 の他 に習慣 の意味 をも含 む概念である。英語 の進行形 は明 らかに. ,. 未完了相 か ら習慣 を除い た もので ある。 (進 行形 には習慣 の解釈 もあるが. ,. これは一時的な習慣 を表す とい う点 で,通 常 の習慣文 とは区別 されるべ きで ある。 )そ ういった意味 で,英 語 の進行形 を表すのに<未 完了 >と い う語 を 使 うのは,不 適切 であると思われる。 本論 では,英 語 の進行形 は基本的にステー ジレベ ルの文 を作 る機能 を持つ と考 えたい。すなわち進行形 は<未 完了 >と い う文 アスペ ク トを表す形態 な のではな く,<一 時性 >を 文章 に付加す るための形態なのであ る。進行 の意 味 を表す とい う共通点のみか ら英語 の進行形 とフランス語 の半過去 の平行性 を提 えようとするのは,そ うい う点で誤解 を招 くもの と考 える。 進行形 はまず,出 来事述語 をステー ジレベ ル文 にすることがで きる。. 1251 JOhn was writing a letter when I宙 sited him.. また進行形 によって一時的な性質 を表現す ることもで きる。.
(20) 34. 過去 を表す時制形式. lbl a.John was working for a bank then. bo John was being honest then.. ス テ ー ジ レベ ル 述語 を さ らに ス テ ー ジ レベ ル 化 す る必 要 は な いの で ,ス テ ー ジ レベ ル 述 語 と進 行 形 とは 共 起 しな い 。. lyl a.*John was being hungry. b。. *Are you hearing the voice?. この よ うな ことか ら考 える と,進 行形 はステ ー ジ レベ ル化 を行 うための道 具 立 てであ る と言 えるので はない だろ うか。進行形 を使 うか どうかの選 択 は 英語 の 時制体系 の 中 で義務 的 で あ り,進 行形 を用 い なければそれ は非進行 的 な時制 とみ な され る。 この進行 /非 進行 の対立 は全 ての 時制 にお い て見 られ る区別 で あ る。. 3.1。. 3.現 在完了. 英語 の 現 在 完 了 は 完 了 の 文 アス ペ ク トを持 つ 。基 準 時 (R)が 発 話 時 にあ り,事 象時 (E)が それ以前 の 過去 にあ る。現 在 の 時点 か ら過去 の事 態 を見 て い る とい う意味 で ,現 在完了 は現在 時制 の一 種 で あ る。実際 ,現 在完了 は直 示 的 な過去 を表す副詞句 とは共起 しない 。状態述語 と共 に用 い られ る と<現 在 まで の継続 >を 表 し,出 来事述語 と共 に用 い られ る と<現 在 までの完 了 >. <現 在 まで に起 こった ことの結果 >な. どを表す。. また頻度 の 副詞 の助 け を借 りれば ,繰 り返 しの経験 を表す こ ともで きる。. lnl John has o■ en宙 豆ted Japan.. 以 上 に見 た よ う に ,英 語 の 過 去 時 制 には ,文 アス ペ ク トを持 た な い 単 純 過. 去 に加えて,ス テージレベ ル化 を促す力 のある進行形 とい う強力な表現があ.
(21) 梅原 大輔・甲斐 基文・杉浦 茂夫. 35. る。 しか しなが ら,英 語 の 時制 の 中 には,完 了的 アス ペ ク トを付 け加 えるた めの道具 立 ては存在 しない。従 って ,例 えば状態述語 を出来事化 し,<完 結 した状態 >を 明示 的 に表現す る方法 を英語 は持 ってい ないので あ る。. 3。. 2.フ ラ ンス語. 3。 2。. 1.完 了的過去. 英語 と比 較 して ,フ ラ ンス語 の過去 時制 の体系 で最 も顕著 な ことは,完 了 的/未 完 了的 とい う文 アス ペ ク トの対 立が ,時 制 の選択 にお い て義務 的 に関 わって い ることであ る。言 い換 えれば,英 語 の単純過去 の よ うな純粋 なテ ン ス とは異 な り,フ ラ ンス語 の過去 時制 は常 に文 アスペ ク トを内包 してい る。 フ ラ ンス 語 の 単 純 過 去 (PS)と 複 合 過 去 (PC)は 完 了 的 な時 制 で あ る (以 下 では完了的過去 と呼 んで両者 を包括 す る)。 単純過去 /複 合過去 に よつ. て表 わ され る事 態 は完結性 を持 った もの と解釈 され るこ とになる。 出来事述 語 が これ らの時制 で用 い られた ときの意 味 は英語 の単純過去 と比 べ て特徴 の あ る もので はない が ,重 要 なの は これ らの時制 に よつて ,状 態述語 も<完 結 した状態 >と い う意味 を与 え られ る とい う こ とであ る。 これは個体 レベ ルの 状態述語 であ るか ,ス テ ー ジ レベ ルの状態述語 であ るかは間わ ない 。次 の例 は本論 (そ の 3)か ら引 い た ものであ る。. 1281 a.Il y a cu des. ё clairs. toute la nuit.. (There was lightning all night。. ). bo I)'elle:Son fils a 6t6 une consolation pour ses vieux jours. (Her son was the consolation of her old age。. ). C.Ca a C00t6 700 francs. (It cost seventy pounds。. (28a)で は toute. ). la nuitと い う時 を閉 じた 固 ま り と して捉 え る副 詞 句 に よ. っ て 完 了 的 な意 味 が 出 て い る 。 (28b)は 「 ″ 自、 子 が 慰 め で あ っ た 」 とい う状.
(22) 36. 過去を表す時制形式. 態が現在 と切 り離 された過去 の事 態 と して描 かれて い るため ,「 彼女」 は既 に死 んで しま ってい る,と か ,「 ″ 自、 子」 は もうい な い ,と い った よ う に,こ の文 で 示 されて い る関係が既 に現在 では成立 して い ない とい う含意が得 られ る こ とにな る。 また (28c)で は 単 に物 の 値 段 を述 べ て い るの で は な く ,. 「実際 に それ を買 った ところ 700フ ラ ンだ った」 とい う意味 を含 んで い る。 この よ うに過去 にお ける完結性 を持 った 出来事 や状 態 を表す こ とで ,こ れ ら の完 了的時制 の 場 合 には,「 現 在 にお い て は成立 して い な い 過去」 の 意味 を 強 く表現す るこ とになる。 これ らの 時制 は また,習 慣 の解釈 を与 える こ ともで きる。 ただ しこの場合 に も,や は りこの 習慣 は過去 にお い て完結 した もの と捉 え られ ,現 在 に まで そ の 習慣 が 及 んで い ない こ とを合意す る。 完 了的 /未 完了的 な文 アスペ ク トの対立 の 中 で 選択 された完了的 な習慣表 現 にお い ては ,<現 在 には成立 して い な い習慣 >と い う意味 は会話 的合意 よ りも強 く,取 消 ので きない含意 を含 んでい る。 しか し後 に述 べ る半過去 に よ る習慣 は無標 の 習慣 表現 で あ り,<現 在 に成立 して い る >か ど うか につい て は会話 的合意 しか持 ってい ない 。 同 じ習慣 を表す場合で も,半 過去 による習 慣 は無標 の 形 ,完 了 的過去 に よる 習慣 は有 標 の 形 で あ る とい う こ とが で き る。. lal ao Jean habitait a Kobe il y a trois ans,ct il y habite tottours. b。. *Jean a habitё. ≧Kobe. il y a trois ans,ct il y habite tottours.. (John lived in Kobe three years ago,and he still lives there.). 3。 2。. 2.半 過去. フラ ンス語 の過去時制 の体系 を特徴 づ けて い るのは半過去 の存在 で あ る。 半 過 去 は典 型 的 に未 完 了 的 な (imperfective)文 アス ペ ク トを含 ん だ 時制 で あ る。 この 時制 に よって ,文 は状態 的意味 ,す なわち個 体 レベ ルの意味 とス テ ー ジ レベ ルの意味 を与 え られ るこ とになる。個体 レベ ルの 意味 を与 え られ.
(23) 梅原. 大輔 0甲 斐. 基文 ・杉浦. 茂夫. た場合 ,そ れは<習 慣 >の 読 みにな り,ス テージレベ ルの解釈 を与 えられた 場合 ,そ れは<進 行 >の 読 みになる。 しか しフラ ンス語 には,英 語 と違 いステー ジレベ ル化 を促す ような文 アス ペ ク トは存在 してい ない。従 って英語 で に見 られるよ うな<状 態 の進行 >. <一 時的な習慣 >の ような微妙 な意味 をフラ ンス語 で表す ことはで きない。 Gardes―. Tamine(1987)は ,ア スペ ク トについ て考察す る 中で,文 アス ペ. ク トを実現す る手段 を 3つ に分類 して い る。一 つ は les. p6riphrases verbales. す なわち迂言法 で ある。進行相 を表す arι ι ″ κjκ ル ,起 動相 を表す ε θ― “ ι ηε θ r a等 が ここ に含 まれ る。 また 一 つ は les mOrphё mes iexionnelsで あ “ り,こ れについては次 のように述べ ている。. [。. … ]le pOnctual peut s'opposer au duratif par la distinction du pass6 simple et. de l'imparfait,1'accompli a l'inaccompli par celle des formes simples et des for―. mes composees.. つ ま り,単 純過去 と半過去 との 間 に点的/継 続 的 の対 立が ,ま た単純形 と 複合形 との 間 に完了 /未 完了 の対 立があ る とい う。 われわれの ここ までの議 論 を踏 まえるな らば ,単 純過去 と半過去 との対 立 が点 的/継 続 的 の 区別 で あ る とい う彼 の主 張 は正 確 で は な い 。点 的 (punc_ tual)と 継 続 的 (durative)の 区別 に つ い て は COmrie(1976)も 述 べ て い る. 箇所 があ る。それ に よる と継続 的 とい うのは ,た だ単 に事態 が継続 して い る こ とを述 べ て い るにす ぎず ,未 完了相 とは区別 され るべ きもので あ る。例 え. ば,ヵ 乃 κs′θ θ グ′ rθ ルrα 刀ん ん θ θ ttr。 とい う文は継続的ではあるが未完了的なも のではない (Comrie 1976:41)。 点的/継 続的 とい う概念 は通常動詞 アスペ ク トに属するものであるのに対 し,半 過去 と完了的過去の区別 は文 アスペ ク トに関す るものなのである。 a″ ι κ′ κJ4ル に よる進行表現 は フラ ンス語 の 時制体系 の 中 で は 随意 的 な もので あ る。 この表現 を用 い ることに よって進行 の意味 を強 く表現す る こと.
(24) 38. 過去を表す時制形式. はで きるが,随 意的なものであ るために,英 語 の進行形 の ような意味 の広が りを獲得す るにはいたつてい ない。例 えば英語 の進行形が しているように. ,. 状態述語 について一時的 な性質 ・習慣 を表す とい うような ことはない。その 点では英語 の進行形 はただの進行形 ではな くステージレベ ル化 のための装置 ″j刀 ル は進行 の意味 を表すための迂言的表現以上 の もの rθ θ η″ であるが,′ ″ ではない とい うことが確認 で きる。. lal a.*Jean fut en tr五 nd'etre l'diOt. b.*Jcan a 6t6 en train d'etre l'idiOt。. 3。 2。. 3.複 合 過 去 と <現 在 との 関連性 >. 複 合 過 去 は 現 在 特 に 国語 で は 単 純 過 去 に代 わ って 完 了 的 な文 ア ス ペ ク トー 般 を表 して い る 。 しか し,一 方 で ,完 了 の 文 ア ス ペ ク トの 意 味 も残 して お り,そ の 点 で 単 純 過 去 と区別 され る部 分 が あ る 。 完 了 の 文 アス ペ ク トを持 つ. とい うことは,<現 在 との関連性 >を 持 った過去 を表現す るとい うことであ り,そ の点 では英語 の現在完了 に対応す る存在 と考 え られる。 しか しなが ら,本 論. (そ. の 3)で も取 り上げたが,フ ラ ンス語 の複合過去 と英語 の現在. 完了 との間にはずれがある。そのずれが一番顕著 に現 われるのは<現 在 まで の継続 >を 表す場合である。 この とき,英 語 で現在完了が用 い られるのに対 して,フ ラ ンス語 では (複 合過去 ではな く)単 純現在が用 い られる。. 0⇒. a.Je suis r6veil16 depuis longtemps. (I've been awake for a long time.) b.IIs travaillent ensemble depuis 20 ans.. (They've been working together for twenty years.). この例 を見 る と,フ ラ ンス語 の複 合過去 は <過 去 か ら現在 へ と伸 びるが現 在 を含 まない過去 >を 表 して い るこ とが わか る。 これは英語 の現在完了 が過.
(25) 梅原 大輔 ・ 甲斐. 基文 ・杉浦 茂夫. 39. 去 を直示的 に指す時の副詞 と共起 しないの とは対照的である。両者 の違 い を 意識 しつつ, しか も単純過去 と複合過去 の意味 の違 い を表現す るためには. ,. SRE理 論 による表示方法 に少 し手 を加 える必要がある と思 われる。英語 の 現在完了 もフランス語 の複合過去 も同 じように E時 が R時 お よび S時 に先 行す るとしてよいの だが,フ ラ ンス語 の複合過去 では時 の副詞句 は R時 で はな く直接 に E時 と結 び付 い てい ると考 えなければな らない だろ う。あ る いは Rが Sに 隣接す るが直前 の過去 の時点 に位 置 してお り,Sと 一致 は じ てい ないのであ る。. 4.最. 後 に. 以上 の ことか ら,英 語 とフラ ンス語 の 時制体系 を比較 した場合 に言 えるの は次 の こ とであ る。 英語 には完了的/未 完了的 とい う文 アス ペ ク トの区別 をす る文法 的 な手段 が ない 。 これ に対 して ,進 行形 /非 進行形 の形態 上の区別 が存在 し,こ れ に よってス テ ー ジ レベ ル/非 ス テ ー ジ レベ ルの対立 をな して い る。進行形 は有 標 の迂言表現 で あ るが ,意 味 の上 で は そ の対 立 は義務 的 であ る。進行形 は未 完 了 的 な文 ア ス ペ ク トの一 部 を表 す が ,全 て を表 す わ け で は な い 。そ の 点 で ,英 語 の進行形 は非常 に特徴 的 な位 置 づ け を持 った言語表現 と して体系 の 中 に位 置 を占めて い る。 θ とい う 習慣 /非 習慣 の 区別 は体系 の 中 で 義務 的 な対 立 で は な い。 ∫ ′ “`ご 迂言表現 が過去 時制 にお い ての み 存在 す るが ,こ れ は義務 的 な もので は な い。習慣 の意味 はほ とん どの 時制 にお い て選 択 的 な可能性 を持 ってい る。例 えば進行形 とも共起可能 であ る。 但 し英語 の 中で は完 了 /非 完了 の 区別 は体系 的 にな されて い る。 一 方 フランス語 の過去 時制 の体系 にお い ては,完 了的/未 完了的 の対 立が 義務 的 で ある。 この 区別 によって ,英 語 には見 られ ない <完 了的 な状態述語 の文 ><完 了的 な習慣 文 >が 可能 になる。未完了的 な文 アス ペ ク トを持 つ 半.
(26) 40. 過去を表す時制形式. 過去 は状態 ,習 慣 ,進 行 の 意味 を全 て領域 に含 んで い る。 しか しそれ故 に. ,. 状態 と進行 の組 み 合 わせ ,習 慣 と進行 の組 み 合 わせの ような ものは表現 され ない 。 更 にフラ ンス語 の 中 では完了 /非 完了 の 区別 も文法 的 で あ る。典型 的 な完 了時制 で あ る複合過去 と,非 完 了時制 であ る単純過去 の 区別 は現在 の フラ ン ス語 で は失 われつつ あ るが ,何 らか の意味 で発話 の 時点 と関係 を持 ってい る 時制 と して の複合過去 の性 質 は ,単 純過去 と区別 で きる もので ある。 しか し なが ら,英 語 の現在完了 とは違 い ,フ ラ ンス語 の複合過去 は文法 上 は現在 の 時点 を含 まな い過去時制 の一 種 であ る。 この よ うな こ とを考 えるな ら,複 合 過去 と単純過去 を区別 す るため には先 に述 べ た よ う に SRE表 示 の 方法 も修 正す る必要があ る と思 われ る。 以上 ,英 語 とフラ ンス語 の過去時制 の体系 をま とめてみ たが ,時 制体系 の 中に は そ の体系 を形作 る さまざまな要素が入 り込 んでお り,そ れ らが全 体 と して複 雑 な体系 を形作 ってい る ことがわか る。時制体系 を構成す る要素 を以 下 に まとめてみた い。 まず最 も大 きな要素 は,時 制体系 の 中 で対立的 に使 われ る軸 であ る。 フラ ンス語 の完了的/未 完 了的 の対 立が これ に当 たる。 この 区別 は互 い に排他 的 であ り,フ ラ ンス語 で 過去 時制 を用 い よ う と思 うな ら,常 にこの どち らか を 選択 しなければな らな い。 どち らを選択 す るに して も,一 方 で もう一 方 の意 味 を代用 的 に表す こ とはで きな い。 またあ らゆる動詞 に対 して両方 の 時制 を 与 える こ とがで きる。 そ うい う意味 で この両者 は 同 じレベ ル にお い て対 立 し てお り,ど ち らが 有標 で どち らが無標 か を決 め ることはで きない。英語 の過 去時制 には この よ うに強 力 な対立軸 は存在 して い ない 。英語 の過去時制 の あ る文 につ い て完 了的/未 完 了 的 の 区別 を指摘 す る こ とは もちろん可 能 で あ る。 しか し,そ の ことと,完 了的/未 完 了的 の 区別が英語 の 中 で対立軸 を持 った概念 であ る とす る こととは全 く別 で あ る。先 に も述 べ た よ うに この よ う な文 アスペ ク トは英語 の単純 時制 で は無指定 なので あ る。 時制体系 を形作 る第 二の 要素 と して,英 語 の進行形 の よ うな もの を挙 げた.
(27) 梅原. 大輔 ・ 甲斐. 基文 。杉 浦. 茂夫. い 。進行形 は有標 の文法形式 で あ る。 ス テ ー ジ化 とい う文 アス ペ ク トを変更 す る働 きを持 つ装置 であ る。進行形 の意味 を他 の無標 の言語形式 で表現 で き るわけで はな く,そ の 点 では義務 的 な形態 なので あ るが ,は じめか らステー ジ レベ ルで あ る文 につ い ては,そ れ に また進行形 を加 える ことは な く,単 純 過去 で表 せ ば よい 。 つ ま り,ス テ ー ジ レベ ルの文 は常 に進 行形 で なければ表 せ ないの で はな く,ス テ ー ジ レベ ルで ない もの をス テ ー ジ レベ ルにす る とき に進 行形 の 力 を借 りるのであ る。進行形 はほぼ どんな述 語 につ くこと もで き る。 そ してそれぞれの場合 に最適 な意味 をそ こで作 り出す ので あ る。 三 つ 目の 要素 と して ,随 意的 に用 い られてあ る意味 を表現す る表現形式 が ιttinfの よ うな もの θや フラ ンス語 の ご 4′ ″Jれ グ sι グ′ 能 ι “ であ る。 これ らの形式 は明 らか に有標 の もので あ り,こ れ らの形 を用 い な く. 存在 す る。英語 の. て も,無 標 の形式 に よって 同 じ意味 を表す こ ともで きる。 しか し,こ れ らの 形式 を用 い る こ とに よって ,(し ば しば曖昧 な無標 の 表現 の 場 合 よ りも)明 確 な意味 を示す こ とがで きるので あ る。. 英語 とフラ ンス語 の 時制体系 は,こ の よ うに体系 の構成要素 の性 質 か ら し て 明 らか な違 い が あ る。 あ る言語 の持 つ 時制表現 の意味 は,そ の 時制体系 の 構成要素 と,そ の 中 での 各構成要素 の位置 づ けにお い ては じめて決 定 で きる もの なので あ る。 この よ うな こ とを踏 まえるな ら,外 国語教育 の場 にお い て も,そ れぞれの文法 の 中に存在 す る用語 の意味 を十分 に注意 して用 い なけれ ばな らない ことが わか る。例 えば フラ ンス語 の半過去 は「過去 の状態 ・習慣 ・進行 中 の動作 な どを示す」 と説 明 され るこ とが 多 い。 しか し半過去 の持 つ 本 質的 な意味 であ る未完了的 で あ る こ とと,状 態や習慣 とい う概念 は違 った レベ ルの もので あ る。完了的 な状態 や習慣 が半過去 ではな く完 了的過去 で表 され る こ とを考 えるな ら,半 過去 の 意味 を上 の よ うに列挙す る ことは誤解 を 招 くことに もなる と思 われ る。 また逆 に,英 語 の進行形 は ,時 制や相 の体系 の 中 で はやや異 質 な位 置 づ け を持 った もので あ る と言 える。英語 の進行形 を 踏 まえて フラ ンス語 の半過去 を教 える よ うな ことは,半 過去 の持 つ 未完 了的.
(28) 過去 を表す時制形式. 42. 相 と して の 一 般 的 性 質 を見 逃 す こ と に な る の で は な い だ ろ う か 。. 付. 記 本 研 究 は,平 成 7年 度 よ り文 部 省 の 科 学 研 究 費 交 付 の 対 象 研 究 (一 般 研 究(C). 07610519)に 採択 された。. 注. 1)本 書 では `events,processes,states'と. い う表現 を繰 り返す の を避 けるため `shu―. alon'と い う用語 で包括 して い る。本稿 で は「事態」 と訳 した い。. 2)こ の 区別 は ,本 書 の 各所 で論 じられ て い るが ,最. も簡 潔 な定 義 は pp.64f.. にあ る次 の もので あろ う。 絶対 時制 で は 「事態 が 現在 の 瞬 間 に/の 前 に/の 後 に位 置 づ け られ る」。相 対時制 で は 「事態 が 文脈 に よつて与 え られ る基 準 点 (reference pdnt)に. /の. 前 に/の 後 に位 置 づ け られ る」. 3)複 合過去 と単純過去 を包括 す る名称 と して用 い る。 4)出 来事 (event)と い う言 葉 は 逆 に ac● onを 排 除 した動 作 主 を持 た な い 動 作 の 意味 で用 い られ る こ と もあ る。 ここで は Davidsonの 考 え に習 い ,よ り広 い意味 で この語 を用 い る こ とにす る。. 5)石 坂. (1959),p.134. 参考文献. Comrie,B.(1976)。. 。Cambridge University Press. A平 ,`ε ′. Comne,B。. ιo Cambridge University Press. ■7κ ∫. (1985)。. Declerck,R.(1991)。. ■74s`j″ Eκ g′ j∫ た. rrs srr“ ε ′″. ακグ. sι j“. “. “. Gardes― Tamine,J。 (1987).“ Modes,tempts et aspects,"/4ル. ごjscθ パ Routledge。 “ `。. jθ 用電 α′. 37-40。. g“. “. jε α′ αJ`33: ““. 石坂忠之。(1959)。 『英語活用 フランス語入門』 。白水社。 Lyons,J。. jε jθ れ′ θttι θ″′ αJ ιj″ g“ js′ so CambHdge UniverJty Press。 ″あ ε′ (1968).ル ′. Parsons,T。 (1990)。. jε. Eν ι ″sj“. Vendler,Z。 (1969).LJκ. 力. `S`“. g“ jSrjε s jれ. α″jcsげ Eη gJJs力 。MIT Press.. Pttj′. θs9ρ ttyo Cornell Univcrsity Press.. 横井雅明.(1987).「 現代仏語の動詞 アスペ ク トーー アスペ ク トの階層―一 『名古屋大学言語学論集』3:55-86.. [I]」.
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