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文学教材と文学研究・実践編(1) : 安房直子「鳥」

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(1)Title. 文学教材と文学研究・実践編(1) : 安房直子「鳥」. Author(s). 西原, 千博; 高橋, 伸; 市川, 恵幸. Citation. 札幌国語研究, 7: 9-19. Issue Date. 2002. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/2657. Rights. 本文ファイルはNIIから提供されたものである。. Hokkaido University of Education.

(2) 安房直子﹃鳥﹄. 文学教材と文学研究・実践編︵1︶ −. 西. 附属札幌中学校 高 市. の授業実践の経過をまとめたものである。. 全体の分担は、一と七を西原が執筆し、二∼六は市川・高橋. 両氏の共同執筆になっている。 このような試みが文学教材の授業にいささかでも貢献でき得. どのように役立つか. 二.文学研究は国語科教材研究に. ﹁教材研究﹂について. せたりするために用いるもの﹂︵国語教育研究所編﹃国語教育. ﹁教材﹂とは﹁学習内容を正しく理解させたり豊かに考えさ. のように異なるのであろうか。. そもそも﹁国語科の教材研究﹂と﹁文学研究﹂とでは何がど. ︵一︶. おける作品分析とは、本来同じものであるはずではないのか。. 一.はじめに. 博. 幸伸 れば幸いである。. 国語科教育における文学教材の教材分析と、近代文学研究に. 千. しかし、実際には、大学の研究と季校の現場とは違うという話 をよく開く。文学研究は教材分析に何らかの貢献をし得ないも のだろうか。そこで、一つの教材分析の例として、以前中学校 の教材に採用されていた、安房直子の﹃鳥﹄を取り上げて、作 I ﹁札幌国語研究﹂六号二〇〇一・五︶その際、附. 品分析を試みてみた。︵﹁文学教材と文学研究︵1︶1安房直子 ﹃鳥﹄IJ. 属札幌中学校国語科教諭、市川恵幸・高橋伸両氏にこの分析に ついて意見を求めた。幸いなことに両氏の協力をいただいて、 中学校の授業に取り上げていただけることとなった。本稿はそ. 9. 川橋.

(3) 研究大辞典﹄明治図書、一九九一︶ である。. ︵二︶教材研究の重要性. っまり、文学的文章や説明的文章などの﹁読むこと﹂に関す 生徒の﹁言葉の力﹂は一つではない。そこにはさまざまな.要 るものから、﹁話すこと・聞ぺこと﹂﹁書くこと﹂に関するもの 素がからんでくる。それにともない生徒はさまざまな﹁読み﹂ まで、﹁言葉﹂の学習にかかわる全ての範囲を含み、生徒の﹁言 をおこなう。生徒の﹁読み﹂に十分な対応をするためには、教. ︵前出︶を指す。. もちろん、教師の教材研究で得た﹁内容﹂をそのまま授業に 持ち込むのには無理がある。そこには、前述したように生徒の. 葉の力﹂を授業を通して身に付けさせるために用いられるもの 師自身が、教材研究の投階において、さまざまな﹁読み﹂の可 を指す。また、﹁教材研究﹂とは、﹁教材のもつ教育的機能の価 能性を理解しておく必要がある。 値を研究すること ﹂. しかし、本稿では﹁文学研究﹂と﹁教材研究﹂との効果的な. 教材研究の第一段階は、生徒が﹁言葉の力﹂を身に付けたり、 高めたりするのに、よりふさわしい教材を選定することにある。. にある。その教材を用いることによって、生徒がどのような﹁言. 教材研究の最大の目的は、教材の特質を教師自身が知ること. 関わりの可能性について論述していくのであるから、ここでの 実態が大きなウエイトを占めるからである。また、授業におい ﹁教材研究﹂は、﹁読むこと﹂、さらには﹁文学的文章﹂に限定 ては、教材の﹁内容﹂を教えることだけが主眼ではない.からで する。 ある。︵もちろん、教材の内容と切り離して指導することは不. 一般的には教科書に掲載されている教材を用いることが多い。. るのである。. 葉の力﹂を身に付けることが可能なのかを、判断することにあ. 可能であるが。︶. その際に、選定したその教材の特質を把握しておくのが﹁教材 研 究 ﹂ で ある。. したがって、授業の場に持ち込む場合には、教材研究を通し. て得た教材の特質をもとに、生徒の実態に合わせて、﹁言葉の力﹂. その場合、生徒の実態︵不足している力や発達段階︶をもと. に、どのような﹁言葉の力﹂を生徒が身に付ける、もしくは高. を身に付けさせるための要素を取捨選択することになる。その. 語科教育の﹁ねらい﹂といえるのである。. ら 考 え る 必 要がある。 要素とは、包括的に言えば﹁文学的文章の読み方﹂である。つ なお、ここで言う、﹁言葉の力﹂というのは﹁言語操作能力﹂、まり、正しくそして豊かに文学的文章を読むためには、どのよ およびそれを用いた﹁話す・聞く能力﹂、﹁書く能力﹂、﹁読む能 うな手だてを身に付けておけばよいのかを、生徒自身が身に付 力 ﹂ 、 ﹁ 言 葉に関する知識・理解﹂を 指 す 。 け、それを日常の読書生活に活かしていけるようにするのが国. める必要があるのかを、﹁学習指導要領﹂の内容を踏まえなが. −10−.

(4) ︵三︶共同研究における課題. るのである。作品の中で具体的に示しているのである。読者. それは物語を読むことの基本が作品の中に示されているとも. は彼に習えばよいのである。言葉を信じることが大事なのだ。. れるものである。しかし、文学研究の成果が国語科教材研究の. 文学的文章の教材研究は、極論すれば文学研究の中に包含さ 中にどれほど取り入れられているかは疑わしい。というよりは、. 言えるのである。 ここでいくつかの疑問にウき当たることになる。例えば﹁素. もともとその成果を取り入れようとしていないのである。なぜ. 直に作品を読む﹂とはどういう読み方をすることなのか。﹁イ メージをふくらませればよいのである﹂とあるが、そもそもイ メージをふくらませるには、生徒にどのような言葉の力が身に. なら、目指すべき到達点というのが、文学研究と国語科教材研 には、かなりかみ砕かないと取り扱うことができないと考える. ついていなければならないのかなどである。. 究とではあまりにかけ離れており、そのギャップを埋めるため からである。今回の共同研究の課題もそのギャップをどのよう. に習えばよいのであ. る。言葉を信じることが大事なの﹂であると述べている。もう. さて、西原氏は﹁読者は彼︵耳の医者︶. 学研究︵1︶−安房直子﹃鳥﹄−﹂を踏まえつつ、どのようにし. にして埋めていくかにあった。以下、西原氏の﹁文学教材と文 て西原氏の主張を教材研究に取り入れ.、授業に活かしていった. いているのだとも言えるのである。⋮⋮. て描いているのである。それは言い換えれば、言葉のカを措. はないか。言葉が生み出す豊かなイメージをまさに実態とし. なって行くのである。そこにこそこの作品の魅力があるので. イメージとなり、あたかも実体化するかのごとくカモメに. る。そして﹂その言葉はさらに少女の耳の中で、花のような. 少し詳しく記述されているところを引用する。 ⋮⋮言葉があたかも一個のものとして存在していることであ. のかを記述していくことにする。. の解釈. の読み方についての. 三.﹃鳥﹄の授業実践のために ﹃鳥﹄. の魅力は何か. ︵一︶西原氏 の. ①﹃鳥﹄. 前掲の論文の中に、文学的文章︵物語︶. 西原氏の説明がある。少々長くなるが引用する。. が一番難しいかもしれない。ただ、既に述べてきたように、. ればよいのである。といっ.ても、実際の授業においてはそれ. る必要があると言う。つまり、﹁秘密﹂を﹁秘密﹂としてとら. と読んでしま﹂ぅのではなく、﹁具体的な言葉として受け止め﹂. のように﹁﹃秘密﹄をその内容︵注︰少年が鳥であるということ︶. ここでの﹁言葉﹂とは﹁秘密﹂を指す。西原氏は、従来の論. この作品では耳の医者が実際に言葉からイメージの世界を見. える必要があるというのである。さらに具体的に表現するとす. ⋮ただ、素直に作品を読むtかない。イメージをふくらませ. ることによって、読書の手本、あるいは読者の代理をしてい. −11−.

(5) れば、﹁秘密﹂を一つの﹁物体﹂としてとらえることとなるだ. 大の難関であり、課題である。. るのか。これが明確にならないと授業にはならない。これが最. 西原氏は﹁授業のための教材という材料の下掃えをしたに過. ろ、つ。 ②授業への示唆. になんと言ったと思うか訊ねてみたいと思う。あるいは、ど. ⋮⋮個人的には、ただ生徒たちに、作品の最後で医者は少女. と﹂そして、﹁言語事項﹂. 学習指導要領では﹁話すこと・聞ぺこと﹂﹁書くこと﹂﹁読むこ. なったことは、﹁中学校学習指導要領国語﹂との照合であった。. ぎないと考えている﹂ということなので、私たちが最初におこ. んな﹁秘密﹂が生徒たちの耳にあるのかと。また、魔法は本. いる。今回の実践に当たっては、それは﹁読むこと﹂に該当す. 西原氏は、その論文の終わりに次のように述べている。. 当に解けた方がよかったのかどうか、意見を聞いてみたいと. る。また、学年によって指導内容が異なるのでそれを確認する. 国語﹂は. 文章の中における語句の意味を正確にとらえ、理解す. 読むこと ア. 文章に表れているものの見方や考え方を理解し、自分. ること。 オ. のものの見方や考え方を広くすること。. 書き手の論理の展開の仕方を的確にとらえ、内容の理. し、自分の言葉の使い方に役立てること。. 文脈の中における語句の効果的な使い方について理解. 読むこと ア. り. 表現の仕方や文章の特徴に注意して読むこと。. 解や自分の表現に役立てることっ. イ. の三領域一事項という内容になって. 思うのである。. 意味もあった。平成十年版の﹁中学校学習指導要領. C. ︻二二二年生︼. C. ︻一年生︼. 以下のようになっている。. これらの記述が西原論文を国語科授業に活かすためへのヒン トになるとおさえた。特に、﹁作品の最後で医者は少女になん と言ったと思うか﹂については、そのまま生徒に提示すること のできるものである。 ﹁あるいは﹂以降の、二つ目の﹁どんな云秘密﹄が生徒たち の内容を聞き出すものではなく、まさしく、西原氏の言う. の耳にあるのか﹂という疑問に対しては、これは、生徒の﹁秘 密﹂. 主張を生徒に意識化させるためのものとなるととらえた。これ については、授業の中においては﹁﹃秘密﹄とは何か﹂という 形で、文章に即して考えさせることにしたい。. ︵二︶教材化 の た め に. 西原氏のいう﹁﹃秘密﹄を一つの﹃物体﹄としてとらえる﹂ ことを、生徒に理解させるにはどうすべきか。また、この理解 が、生徒にどのような﹁言葉の力﹂を身に付けさせることにな. ー12−.

(6) ﹁﹃秘密﹄を﹃秘密﹄としてとらえさせる﹂ことは、﹁語句の 一方、二年生では、生徒自身に﹁﹃秘密﹄とはゼのようなものか﹂ について記述させることにより、その概念化に迫ることを試み. 意味を正確にとらえ、理解すること﹂︵一年生︶、﹁文脈の中に い方に役立てること﹂︵二二二年生︶につながる。つまり、辞. 三時間扱いで計画した。. ︵一︶一年生を対象にし美授業. ることにした。以下、それぞれの授業計画を示すことにする。. 書的な意味と文脈上の意味の違いをおさえるということであ. おける語句の効果的な使い方について理解し、自分の言葉の使. る。. ︵二︶. 二年生を対象にした授業. とを含めて、物語の続きを書く。. ︻第三時︼ ①最終場面﹁医者は少女に何と言ったか﹂について考えるこ. の耳の中の様子をイラストで表現する。. ︻第二時︼ ①﹁﹃秘密﹄とはどのようなものか﹂を考えるために、少女. する。. ②物語の展開にしたがって、内容︵尋件の因果関係︶を理解. ︻第一時︼ ①作品の内容を知り、感想を持つこと。. ファンタジー作品の内容世界を理解することによって、﹁文 章に表れているものの見方や考え方を理解し、自分のものの見 方や考え方を広くすること。﹂︵一年生︶や﹁書き手の論理の展. 開の仕方を的確にとらえ、内容の理解や自分の表現に役立てる こと。﹂︵二・ 三 年 生 ︶ に な る 。. もちろん、授業中に実施する︵続編創作︶にあたっては、﹁表 現の仕方や文章の特徴に注意して読むこと﹂︵二二二年生︶が 必要になる。もちろん、その前提として内容︵因果関係など︶. を 的 確 に と らえている必要がある。. 四.生徒の実態と授業計画案. ︻第一時︼. 四時間扱いで計画した。. けている﹁言葉の力﹂︶を無視することはできない。今回の実. ①作品の内容を知り、作品に対する疑問点を書く。. 実践に当たっては、生徒の実態︵発達段階やそれまで身に付. 践においても、一年生と二年生の授業では、授業内容が大きく. ②﹁﹃秘密﹄とは何か﹂を記述する。. の疑問の答えを文章をもとに考える。. ①プリント︵疑問点を列挙したものの一覧︶を配布し、他者. ︻第二時︼. 異なっている。それ.は、特に﹁﹃秘密﹄とはどのようなものか﹂. を生徒に考えさせる過程における違いに表れている。一年生で は、少女の耳の中の様子をイラストで表現することにより、﹁秘 密﹂が﹁物体﹂である、という概念をとらえさせようと試みた。. −13一.

(7) ︻第三時︼. のかを考えさせるに当たって、イラストで表現させることにし. た。︵もちろん、イラストそのもⅥの上手下手は一切問わない。︶. イラスト化させるのであるから、﹁秘密﹂そのものが一つの﹁物. ①プリント︵﹁﹃秘密﹄とは何か﹂を記述したものの一覧︶を 配布し、本文から﹁秘密﹂をどうとらえることができるか. 体﹂として表現されることが十分予想でき、またその通りのイ. 生徒の聞から﹁そもそもお医者さんは少女に追いつけたのだろ. 課題であった、﹁医者は少女になんと言ったか﹂という点では、. 場面設定を工夫しているものも少なからず見られた。. ていた。また、それだけでなく、作品に統一感を与えるために、. ︵続編創作︶では、その多くが作者の文体を意識たものになっ. ③第三時. 余地がある。. までは至らなくてむ、それで良しとしてしまった点は、改善の. ルにあるのではなく、﹁言葉そのもの﹂が物体化したレベルに. ただし、西原氏の主張、つまり﹁秘密﹂が﹁﹁玉手箱﹂のレベ. ラストが多く見られた。. を 交 流 する。 ︻第四時︼ ①最終場面﹁医者は少女に何と言ったか﹂について考えるこ. 男女各二十一名計四十二名︶. とを含めて、物語の続きを書く。. 五 .授業の実際 ︵一︶一年生の授業︵一年A組. ①第一時 ¶鳥﹄七いう作品は、授業で扱うには、少々長編であるため、. まずはこの作品の大筋が文章の展開に沿って理解しているかど うかを確認することから始めた。 の朗読CDを用いて、作品全体を通読した. うか?﹂という疑問が起こり、その点について論議することに. そのために﹃鳥﹄. のち、登場人物ならびにその関係、場面設定、事件の流れ︵物. なった。. であるが、そのことを表現できずに﹁追いつくことができない﹂. かに﹁秘密﹂を﹁玉手箱﹂のような物体としてとらえているの. 一方、、﹁追いついくことができる﹂という生徒の根拠は、確. 原氏の主張とは異なるものである。. ﹁秘密﹂を﹁内容﹂とし. を医者に漏らしてしまったからだということになる。つまり、. ﹁追いつくことができない﹂という生徒の根拠は、﹁秘密﹂. 語の展開︶を確認した。特に、物語の展開が理解されているか、. っまりは事件の因果関係ををちんと把握しているかどうか確認 していった。この時、生徒には、教師の質問に答えるために、 作品に善かれている言葉を丹念に読み進める姿が見られた。因 果関係が分かるように、蛍光ペン等で教材文にマークする中で、 作品の展開が理解できたようである。. ②第二時 この作品における﹁秘密﹂という言葉は、どのようなものな. −14−.

(8) とする立場の生徒に反論を受けていた。. カ. カモメとこぶしの花。羽と花びら。その対比はどういう. ことだろうか。 結局﹁医者は少女になんと言ったか﹂という点においては、﹁あ キ 白い花びらはどうして羽にかわったのか。. なたも鳥︵カモメ︶だったんだよ。﹂というものが多かったの. 男女各二十一名計四十二名︶. ′﹁秘密﹂七いうのは固形物だったのか。. た二つ日の大きな﹁秘密﹂は﹁少女もカモメである﹂こと. は﹁少年がカモメである﹂ことであり、医者だけが気づい. る﹁秘密﹂のうちで一番大きいものだ。少女や海女、二つ 目の大きな﹁秘密﹂に気づく前の医者にとっての﹁秘密﹂. も﹁秘密﹂である。しかし、﹁秘密﹂という言葉に直接か けられているのは﹁カモメ﹂だろう。この物語の中の数あ. 少年が二人で進んでいたり、海へ逃げようとしていたこと. ところどころに﹁秘密﹂がちりばめられているのだ。例え ば、海女が魔法使いであることも﹁秘密﹂ならば、少女と. こととした。 ア まず、この物語全体が﹁秘密﹂によってつくられている。. ては、本文根拠をふまえて、さまざまな読みの可能性を考える. 交流七あうというものであった。 ここでは、生徒の記述を紹介することにするが、記述に当たっ. の一覧︶を配布し、本文から﹁秘密﹂をどうとらえているかを. この時間は、プリント︵﹁﹃秘密﹄とは何か﹂を記述したもの. ③第三時. ち得ていることが推測できる。. ではなく、﹁物体﹂としてとらえることのできるきっかけを持. アとイについては、﹁秘密﹂をその﹁内容﹂ととらえている だが、一方で、﹁すでにカモメになっていたので何も言わなかっ ことが分かる。ウ∼キについては、﹁秘密﹂を﹁内容﹂として た﹂﹁仲良く暮らせよ﹂などといった記述もみられた。 ︵二︶二年生の授業﹂二年C組. ①第一時 二年生の授業では、朗読CDを聞いた後、作品に村する﹁疑. 問﹂と﹁﹃秘密﹄とは何か﹂についての記述をおこなった。記 述したものは一覧表にして生徒に配布され、授業で活用される ことになる。 ②第二時 プリント︵疑問点を列挙したものの一覧︶を配布し、他の生. 徒の疑問の答えを、文章をもとに考えていった。以下に、生徒. 二羽の鳥はそろったというのに医者は何を教えるという. の 疑 問 の 一 部を記述する。 ア ﹁秘密﹂を﹂人でも知ってしまったら魔法が解けてしま うのに、なぜこの少女は医者に秘密を打ち明けたのか。 イ. エ. 普通﹁秘密﹂は見えないものなのに、r耳の奥で光ってい. のか。 ウ ・ な ぜ ﹁秘密﹂は少女の耳に入 っ た の か 。 オ. る の は なぜ。. −15−.

(9) なのだ。この二つに共通しているものは﹁カモメ﹂。普通 ならば、少年、少女が﹁カモメ﹂であることを﹁秘寧に. 秘密とは、少年が鳥だという事実で、それは少女が知っ. するだろうが、あえて私はこの物語が秘密で作られている こ と を 秘密にしたい。 イ ていること。また、少女も鳥だということも医者が知って いる秘密であり、その秘密を少女に伝えることによつて少 女の耳を治す、つまり、少女の持っている秘密を秘密でな い も の にしようとしている。. ぅちの納得できるものの一つという域であり、賛同も得られる であろうが、従来の解釈から言うと、全体で取り扱われること のなかった読みである。 ④第四時. 最終場面において﹁医者は少女になんといったか﹂について 考えることを含めて、続編創作をおこなった。一年生同様、文 体を似せたり、文章構成に続一感を持たせるなどの工夫が見ら れた。. しかし、﹁秘密﹂イコール﹁物質﹂という読みが、︵凝縮創. てじっくり考えることは、整合性のない続編の数を少なくし ているように思われる。以下、先ほどのエの生徒の作品を紹 介する。. り 知ることによって、﹁何﹂の秘密の﹁何﹂の部分がなくなっ 作︶の中には反映されていかない。ただし、﹁秘密﹂につい てしまい、記憶だけに残るもの。ただ、秘密というものは 旨が沈む前に取ってしまえば忘れることができるように なっている。まるで﹁秘密﹂という物質があるように書い てある。 エ普通、秘密というものは、﹁物﹂という形ではなく、﹁事 柄﹂として存在する。だが、この物語では物理的にも存在 している。では、この物語での物理的な秘密とそうでない 二つの秘密とは何なのか?そうでない秘密とは、少年が実. は鳥であること、そして少女も鳥であることだ。これは簡 単だが、物理的な物は非常に難しい。僕は二つのことが言 えると考える。一つは、少女自身が作り出した耳の中に広 がる世界だ。二つ目は医者が作り出した世界だ。 りやエは、かなり西原氏の主張に迫っているものと思われる。 これらについては、確かに本文根拠もあり、いくつかの考えの. は、もう一つの秘密を知らねばならない。こつちへおいで。 話してあげるから。﹂その話し方は海女のものに似ていまし. 寄りました。﹁どうしたんですか?﹂少女は言いました。﹁君. んは∵心にさがしました。けれども少女はどこにもいません。 その時、﹁もしや⋮﹂お医者さんはつぶやきました。そして、 また走りだしました。 一面青い海原。長い長い海岸線。そして、少女が一人、海 を眺めていました。どこかで見たような光景です。﹁おおい﹂ お医者さんは走り出しました。そして少女のところまで駆け. たのでしょうか。﹁どこへ行ったのだろう⋮⋮?﹂お医者さ. しかし、少女はもういませんでした。どこへ消えてしまっ. −16−.

(10) た。そしてお医者さんは少女の耳にぴったりと口をつけて言. 求められるということが言えるのである。. ある。つまり、実践側のニーズに合わせた教材研究も一方では. 次回の共同研究で虻、これらを取り除くべく双方がより綿密. いました。﹁君も鳥なんだよ。君は海女の落とした赤い海草 の実を食べた雌のカモメなんだよ。﹂ぉ医者さんの言葉は﹁コ. な計画を立てていくことが課題として挙げられるだろう。. 従来ならば取り上げられなかったであろう生徒の﹁読み﹂を、. ただ、はっきり言えることがある。それは、前述したように、. 医者さんは、﹁行っておいで﹂と一言言いました。一羽の雌. 教師の側で自信を持って受け止めることができたということで. トン﹂という音を立てて少女の耳に落ちました。 気がつくと、そこには一羽のカモメがいました。そしてお カモメは、水平線.の彼方へ飛んで行きました。その表情は笑. ある。それは、文学研究が国語科教育における教材研究におい. ヽ■. O. LV. を中心に、実践を踏まえて今後の検討課題などについて述べた. ここでは参観した授業︵二年生の第三時・授業者は高橋伸氏︶. 七.おわりに. ものである。. て重要な役割を果たすことが改めて確認できたことを意味する. 顔 で い っ ぱいだったそうです。 六 ∵成果と課題 本稿では、西原氏の論文をもとに、私たちが授業実践するま での流れを記述してきた。それは、文学研究の視点から国語科 教育における教材研究の可能性を探ってみることであった。 したがって、生徒の﹁言葉の力﹂を身につけ、または高める ために、文学研究で提供された話題を、どのように取捨選択し. この安房直子の﹃鳥﹄という作品の魅力は何だろうか。それ て、もしくはかみ砕いて生徒に提供していくかが、今回の共同 は本文中︵二∼六︶にも触れられているように、イメージの豊か 研 究 に お け る最大の課題であった。 結論として、それらの課題が十分に解決できたとはいい難い。 さと、﹁秘密﹂=﹁あいつは、鳥なんだよ。﹂ということを一個. ことである。もう一つは、本来であれば生徒の実態に合わせて. そ の 原 因 と して二点挙げられる。 一つは、論文自体の内容を私たちが十分に生徒に理解させら れなかったために、期待すべき十分なデータが得られなかった. ものかどうかを確認するという側面もあったのである。ただ、. 回の実践の目的の一つは、このような魅力を生徒が理解できる. れは伝わるものなのか、という問いもあるだろう。むしろ、今. のもの︵物体︶のように扱うユニークな捉え方にあると思う。こ. 教材を選定していくのであるが、このような研究の場合は﹁教. 前者については、作品中に﹁耳の医者﹂が登場し、彼がいろい. の二つのことを生徒たちに伝えたいと思うのである。いや、そ. 材﹂先にありきであり、そのことが実践を難しくしている点で. ー17−−.

(11) ろなイメージの広がりを語ってくれている。いわば、読者の代 持ち出すことに注目したり、物として捉えることに通じる小さ 理であり、読書の見本・手本を示しているとも考えられるので な点についてもきちんと読んでいることがよく解った。特にピ ある。その点でこの医者の行為をたどることでイメージの広が ンセットをめぐつては大変興味深い意見が出ていた。一人の生 りは理解しやすいのではないかと考えた。そこで生徒たちに具 徒が、ピンセットでつかもうというのだから物であると、意見 体的に絵を描かせることでそのイメージを確認することにな を述べると、それに対して別の生徒が、﹁どんなに長いピンセッ る。将来的には、コンピューターを用いた映像化、アニメーシ トョ を使っても、届きそうにもありません。﹂とあって、ピンセッ ン化などがより有効な方法になってくるだろう。ともあれ、イ トはつかむことのできないこと示すための物であり、物として メージの広がりは具体的映像を示すことでかなりクリアーでき 捉えているわけではない、という趣旨の反対意見を述べた。ピ るのではないかと考える。 ンセットでつかもうとしてつかめないのは、つかむことのでき むしろ問題は、﹁秘密﹂を、言葉を、物として捉えるという ないもの、ということを象徴的に書いたという意見はかなり深 ことが可能かどうかである。この作品中の﹁秘密﹂とは﹁鳥だ いっ 読みではないか。これに対してさらに別の生徒は、しかし、 た﹂という内容ではなく、﹁あいつは、鳥なんだよ﹂という言 ピンセットを使おうとした段階で物として捉えていたというこ 葉そのものであり、まず、﹁秘密﹂を言葉そのものとして捉え とではないかと、最初の生徒の意見に賛成する意見を述べた。 ること、次にその言葉をあたかも一個の物と七て捉えること、 このやりとりこそヾ筆者の考える﹁秘密﹂につながるものであっ 結果として、﹁秘密﹂を物として捉えること、そのようなこと た。ただ、残念ながらこの後この事と直接関わらない意見が出 を生徒が理解するのは、かなり困難ではないか、その点が一番 たり、時間がなくなったりで、このような論争は途中で終わっ 問題となったのである。そのために二年生の授業の﹁第三時﹂ てしまった。もう少しこの点で徹底した話し合いができればか では﹁﹃秘密﹄とは何か﹂という設問に村して、生徒に記述し なり有意義な読みができたのではないかと思う。ただ、このこ てもらった。本文中にもあるように、二人の生徒が物体として とは逆にこのような物として読むということが、やはりクラス 捉えふような意見を書いてくれた。さらにこのあと、生徒たち 全体の捉え方としてなじんでい 同士で、﹁秘密﹂をめぐつて議論したが、高橋氏がこの二つの である。読みのレベルとしてはかなり難しいということになる 読みに生徒が注目するように巧みにリードしたことにより、こ かもしれない。 の物として捉える答えについて意見が出された。生徒たちは﹁コ ただ、この意見のやりとりによって、﹁秘密﹂を、言葉を、 トン﹂と落ちたという言葉に注目したり、医者がピンセットを 物として捉えるという見方は、突飛すぎて生徒に理解されない. 一18−.

(12) の点に注意しなければならない。ただし、言語自体は社会的な. ものではなく、充分生徒の読みの範囲に入るものであることが識や考え︵コード︶を作品に中に持ち込まないかが問題となるだ ろう。この点で教師は生徒よりも既成概念に縛られやすいので 確認された。逆にこの作品分析がなければ、このような物とし あり、ともすると、硬直した読みに陥りやすい。教師は常にこ て捉えるという読みは、間違いとして授業中に切り捨てられる 可能性が高いことも確認されたので烏る。実はこのことI﹂そ、. う∴−. 存在で、作品の外と繋がっている。簡単に外と内を分けるのは 今回の実践の最大の成果でもある。というのは、筆者の論文は 実は非常に困難である。結局はそれぞれの作品に即して検討し 生徒のためというよりも教師のために善かれたという側面が強 なければ、具体的な指摘とはならないだろう。今後、読みの可 く、教師の読みの可能性を広げることを目的としていた。そし 能性を追求していきながら、それぞれの教材に対して、教材分 て、それは、ひとえに生徒の読みはともすると教師以上である 析・作品分析のデーターベース的なものを作る必要もあるだろ 可能性があるからで、そのために教師は常に読みの可能性を追 求しておかなくてはならないと考えるからである。そうしない と、せっかくの生徒の素直な読みを間違いとして切り捨て七し 今回の安房直子の﹃鳥﹄の分析は、当初一方的な分析であっ たものが、幸い実践的な検討がなされた。ただ、当初から共同 まケからである。これによって生徒の読みがスポイルされるの 研究を予定していなかったため、まだまだ、作品分析としても、 である。教師のため七いうことはそのまま生徒のためというこ 授業実践としても不充分な点が残っていると考えられる。今後 とにもなると考えるのである。 最初から共同で研究を行い、文学教材について、具体的な教 とはいえ、本文中にもあるように、作品を素直に読めばよいは、 材分析・作品分析、及びその授業実践を行いたい七考えている。 というのは易しそうで難しい。この﹁秘密﹂をめぐるやりとり さッ らに文学研究と国語科教育との有効な結びつきについて検討 でも分かるように、本文には﹁コトンと﹂落ちたとか、ピンセ を、 続けていきたい。 トとか、そして何よりも耳の医者が取り出せるという発想など ﹁秘密﹂を物として捉えていると考えられる点がいくつかあっ た。けれども、読む側に﹁秘密﹂は内容を示すものだという思 いこみがあって素直な読みを阻害する。言葉を物として捉える ことに無意識の抵抗がある。読者個々の先入観が作品をそのま ま読むことを妨げているのである。素直に読むということは、 単純に作品に則せば良いだけで、むしろ、いかに作品の外の知. −19−.

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