• 検索結果がありません。

地域との連携の深化・多様化とその実践

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "地域との連携の深化・多様化とその実践"

Copied!
10
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

地域との連携の深化・多様化とその実践 八鹿高等学校 澁谷義人 1 地域と学校の新しい関係 明治以降の日本の学校教育は、「富国強兵」の国家主義的な要請にこたえて、全国の学校 で国定教科書に基づき同じ内容を教育することを基本とした。また、学校の運営は教育行 政と教師の手にあり、さらに、教育に関する情報は教師・学校から地域・保護者に一方的 に流れることが多く、地域的共同性は否定されていたといってよいであろう。大正期から 昭和初期や戦後の一時期に、教育内容や指導方法、学校運営において地域の特性を活用す る動きがみられたが、戦時体制や系統性重視とともに収縮した。 しかし、1980 年代の臨時教育審議会では、当時の校内暴力や不登校(当時は登校拒否) などの教育課題解決のために、「ゆとり」とともに「学校・家庭・地域の協力関係の確立」 が求められた。その後、地域との連携は、財界やシンクタンクの要請を受け、文科省以外 の行政機関も含め、多方面で進められ現在に至っている。本稿では、その学校と地域の連 携を、①学校での地域学習と地域系高校、②地方創生・地域づくりと高校、③地域住民の 学校経営への参加、の三つに整理するとともに、私が校長として携わった 4 校(兵庫県立 氷上高校、村岡高校、出石高校、八鹿高校)の実践について報告する。 2 学校での地域学習と地域系高校 (1) 地域学習と地域系高校の経緯 地域を素材とする学習については、戦前は地理や理科で行われてきた。身近なところに 教材を見つけ授業に利用する郷土教育とも言われ郷土科が設置された学校もあった。昭和 初期には、デューイやモンテッソーリらの新教育思想の影響下の民主主義教育とも結びつ いた。 第二次大戦後、米国のコア・カリキュラム理論により地域の諸課題に立脚して社会事情 を総合的に学ぶ社会科が作られたが※1、学力低下が懸念されたため、知識重視の系統的な 学習が求められ、中学校では、地理、歴史、公民の各分野に分割された。一方、60 年代に は公害問題がクローズアップされ、地域に根差した教材として討議学習が進められた。そ して、1996 年の中教審答申「21 世紀を展望したわが国教育の在り方について」で、「生き る力」を育成することを目標とするとともに、地域における様々な生活体験、社会体験、 自然体験をするため地域社会との連携が強調された。2000 年より小学校で実施された「総 合的な学習の時間」で、多くの学校が地域のことを学ぶことで、「開かれた学校」をめざそ うとした。その地域学習をふるさとを愛する子どもを育成することを目標とする「ふるさ と教育」として実施している小中学校や自治体も多い。「ふるさと教育」では、地域の住人 が指導者となることも多く、2008 年には小学校ごとにできた学校支援地域本部(2015 年に は地域学校協働活動に発展)を通じ、指導の支援体制の充実がはかられた。 また、2020 年度より順次実施される学習指導要領では、「社会に開かれた教育課程」で あることが重要とされ、その教育目標を地域と共有し、地域の教育力を活用し、評価・改 善するものとしている。また、経団連の提言に応じて、2018 年に文科省の大臣懇話会のま とめた「Society 5.0 に向けた人材育成」では、来るべき社会においても、地域には、そ れぞれ生きた課題が多く存在し、生徒の地域への興味や関心を深め、地域の課題を探究す

(2)

る重要な機会を提供できることから、生徒にとって最も身近である地域と学校とが手を携 えながら、体験と実践を伴った探究的な学びを進めていくこと等が必要であるとされてい る。 ところで、高校では、専門学科(職業学科)の「課題研究」で、地域の素材や産業を生か す取り組みが普通科に先んじて学習された。たとえば、商業科では地域の特産を活用した 商品開発や起業経営で地域経済の活性化を提起し、農業科は日本学校農業クラブ連盟(農 ク)の活動で地域農業の研究がすすめられた。「総合的な学習の時間」で地域学習を実施す る高校も多いが、高校段階では地域を知り地域を愛する「ふるさと教育」の学習の上に、 地域の課題を見つけ解決する方法(PBL Project(Problem) Based Learning)を探 究する高校も増えてきている。そして、それを特色とする高校は「地域系高校」と呼ばれ ることもあり、島根県立隠岐島前高校がその先駆けといえる。また、岐阜県立可児高校の ように、地域産業と連携することで、キャリア教育を実践する高校も増えている。 (2)地域の課題解決的な学習の実践 2013 年に赴任した兵庫県立氷上高校は農業 科と商業科の専門高校で、農業科では丹波の自 然や特産品の研究・栽培を、商業科ではその販 売を実践してきた。近年は、農業科で特産品を 使った加工食品を開発したり、商業科で地域研 究や起業家(アントレプレナー)教育を実践し ている。2016 年度から学校設定教科「丹波学」 を設定し、1 学年で学校設定科目「地域未来」 を履修し、丹波市の農業をはじめとする産業と 地域課題について学び、年度末に丹波市長との タウンミーティングで生徒の意見を提言して いる※2。 2015 年に赴任した兵庫県立村岡高校は、島根県立隠岐島前高校を模範に、いわゆる「地 域系高校」であることを特色としている。村岡高校は地域の課題発見とその課題解決策を 提言する学習(PBL)を通じて、地域づくりに貢献す ることを目指す地域創造系(各学年 10~20 人)を設置し ている。2016 年には、学校設定科目「地域探究」で、3 年生は地元香美町内の小規模集落を調査しその活性化を 提言し、2年生は地元香美町の小中学校の「ふるさと教 育」の体系化を試みている。どの学年にも、鳥取大学地 域学部の専任の先生についていただき、調査段階から見 通しを持った計画的な学習を心がけている。また、2014 年にアウトドアスポーツ系(各学年 20 人前後)を設置し、 地域の自然やスポーツ施設(関西屈指のスキー場、キャ ンプ場、ゴルフ場など)を活用した学びを進めている。 2016 年度は、地元有志に協力するかたちで、生徒たちが 歩いてモデルをつとめ、香美町ウォーキングマップを完 図 1 氷上高校商業科が丹波市⿊井地域の商 店マップを作成する。事業所の特色を顧客に 分かりやすく説明・表示している。 図 2 村岡高校のアウトドアスポ ーツ系のスノーシューを使った 歩くスキー。地域の自然を活用す るとともに、地域の魅力を引き出 している。

(3)

成させた 2017 年に赴任した兵庫県立出石高校は 2011 年入学生より文理探究類型を設置し、地域 の課題解決を探究する学習を進めてきた。その成果は、年度末に市民に発表してきた。 3 地方創生・地域づくりと高校の役割 (1) 高校の地域づくり参加への経緯 高校での地域学習、特に地域の課題解決的な学びは、さらに地域づくり(地域の活性 化、地方創生)に貢献することが、求められるようになってきている。 1980 年代以降には、学校教育と社会教育との融合(学社融合)が求められた。それは 学校や公民館などの施設の開放による地域コミュニティの育成を目的としていた。また、 「総合的な学習の時間」で、地域のことを学習する中で、児童生徒が地域づくりを意識 する指導も進められた。さらに、後述する学校評議員会や学校運営協議会の運営委員は、 次第に学校の在り方を地域づくりの視点で捉えるようになった。 また、2009 年に成立した民主党政権下では、英国のような「新しい公共」の概念が導 入され、翌年より地域と学校の共助による「新しい公共」型学校創造事業が進められた。 具体的には、コミュニティ・スクール、学校支援地域本部事業、放課後子ども教室推進 事業などで、地域が学校を支える他、学校が地域の活力や文化を創造し、また学校の資 源を地域が活用し、地域づくりに生かすことを目指した。東日本震災後の 2011 年の文科 省の学校運営の在り方に関する調査研究協力者会議では、学校が「地域づくりの核」に なり、「地域とともにある学校」になることを求めた。2013 年総務省は「地域活性化拠 点として学校を活用した地域づくりの事例調査」として、高知県立大方高校や島根県立 隠岐島前高校をあげている。 さらに、第二次安倍政権下の 2014 年より地方創生が唱えられ、省庁横断的な政策運営 のため、内閣府にまち・ひと・しごと創生本部が設置され、具体的施策は文科省の他、 経産省、環境省、農水省、国土交通省など多岐にわたる省庁が連携して実施した。その 年閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、地域人材の育成と、中山 間地における「小さな拠点」(多世代交流、多機能型)の形成が唱えられ、その拠点とし て適正規模の小中学校が存在し、高校では地域人材を育成することが求められた。 教育の分野でも地方創生の観点からの教育改革が求められ、教育再生実行会議の提言 を受け、2015 年に中教審答申「新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域 の連携協力の在り方と今後の連携について」で、地域と一体となって子どもを育てる「地 域とともにある学校」を推進し、学校を核とした地域づくりが示された。さらに、翌年 の文科省の「『次世代の学校・地域』創生プラン」(馳プラン)では、次世代の学校創生 と次世代の地域創生を車の両輪として推し進めるとした。まさに、高校の魅力化と地域 の活性化を一体となって推し進めるということとなった。 ところで、教育経営学では、ソーシャル・キャピタルの面から、町づくりと教育が論 じられるようになった。ソーシャル・キャピタルは、人的資本や物的資本に対し社会に おける信頼や規範やネットワークなどの要素を指す。特に、東日本震災の後、「絆」が復 興のキーワードとなり、教育でもその必要性が叫ばれた。2017 年の国の教育振興基本計 画では、「絆づくりと活力あるコミュニティの形成」が盛り込まれている。

(4)

こうした中で、近年の高校の地域の課題解決学習は、地域人材の育成や、地域のビジ ネスに結びつくことが求められるようになった。2018 年閣議決定「経済財政運営改革の 基本方針」では、地域振興の核としての高校の機能強化が求められた。同じく 2018 年閣 議決定の「まち・ひと・しごと創生基本方針 2018」では、高校を活用した地域の基盤構 築と、人材育成のための地域課題解決の探究的な学びが求められた。「町づくり」や「地 方創生に資する」ことが、高校教育改革で求められるようになったわけである。こうし て 学校教 育は 地域づ くり と一体 とし てとら えら れるよ うに なった 。ま た、上 述の 「SOCIETY5.0 に向けた人材育成」でも、将来のわが国や地域のために、高校でも地域課 題解決等の探究的な学びで地域人材育成を目指すことが示された※3。 さらに この 地域課 題を ビジネ スの 手法を 用い て解決 する 取り組 みで あるS BP (Social Business Project)など、地域ビジネスの発展に結びつくことは、「高校生 レストラン」として有名になった三重県立相可高校の実践などで知られることとなり、 2017 年の「一億総活躍社会の構築に向けた提言」などでも示された。高校でのSBPに ついては、文科省が全国高校生SBP交流フェアーを、㈱日本政策金融公庫が高校生ビ ジネスグランプリを実施している。 (2) 学校の地域づくりの実践 氷上高校では、2学年全員が学校設定科目「起業経営」を学び、1学年の「地域未来」 で学んだことを基本に、地域づくりに発展させている。地元起業家から6次産業化につい て具体的事例に学び、生徒がグループで起業のアイデアを出し合った。また、地元丹波市 の数年先を想定して未来の丹波市にとって今できることを、大学教授や大学院生、地元住 民などで話し合うイベント「イマジン丹波」を開催している。 村岡高校の地域創造系やアウトドアスポーツ系の学びはす でに地域への提言をめざし地域づくりの要素を含んでいる が、さらに「総合的な学習の時間」では、全校生が地域の一員 として地域づくりを実践しようとしている。この取組みは「村 高発地域元気化プロジェクト」と名付け、全校約 180 人を学年 縦割りに全校を 5 つのグループ(班)に分け、それぞれのグル ープで地域の活性化のために活動している。たとえば、環境班 では日本の棚田百選に選ばれた「うへ山棚田」の田植えや稲刈 りを通じて農業と集落維持と環 境保全について地域の活動に参 加している。また「森の健康診 断」と称して森林密度の調査、間伐材など森林の有効活用な どを学習している。さらに、冬には都市部の高校生と「村高 除雪隊」を結成し、高齢者所帯の除雪などで地域に貢献して いる。食物班では、地域(兵庫県美方郡)の特産品である美 方大納言小豆を使ったスイーツを考案し、地元和菓子業者の 協力を得て豊岡市で開催される菓子祭で販売した※4。 また、村岡高校は他校の生徒とも地域づくりについて学 習・提言する機会を持ってきた。たとえば、2015 年には島根 図 4 村岡高校は、隠岐島 前高校主催の「まちづくり 甲子園」に参加し、地域調査 の後、県外の他校⽣と古⺠ 家で話し合った。 図 3 2016 年 2 月村岡高校 ⽣が神⼾の高校⽣と一緒 に、小学⽣の通学路の確保 に貢献した。

(5)

県立隠岐島前高校で行われた「まちづくり甲子園」と鳥取県立中央育英高校で行われた「地 方創生ハイスクールサミット」に参加した。また、村岡高校は毎年「村高サミット」を開 き、兵庫県北部地域の高校と地域づくりや高校生の役割について話し合っている。 一方、村岡高校の立地する自治体である香美町としても、高校を地方創生の核にしよう としている。2015 年の「香美町総合戦略」には、村岡高校の存続と入学者増加、高校にお ける人材育成、高校とタイアップした事業の推進などを町の施策としてあげている※5。 出石高校は、上述の地域学習に加え、地域のまちづくり活動に学校をあげて参加してい る。地域の環境改善活動などでは学校をあげて参加するとともに、私が教諭時代の 2002 年 設置の芸術に関する類型(現文化創造類型)や美術部・書道部・陶芸部を中心に各種イベ ントへの参加依頼が多く、生徒も地域に必要とされる存在であることを実感している。 2019 年に赴任した兵庫県立八鹿高等学校は、そのほとんどが大学進学を希望しており、 学習で連携している。たとえば、英語学習や夏休みの補習などで、地域の小中学生の学習 を手助けする活動を、市教委や地域自治会と協力し市内各地で実施している。 (3) 学校の地域創生への貢献度 上述のように、高校改革は「町づくり」や「地方創生に資する」ことが求められている が、それはどの程度達成できているのか。 まず、高校が地域に存続し続けるということが、地域の機能維持の最低の目標である。 隠岐島前高校も村岡高校も廃校の危機から地域が立ち上がり改革を始めた。隠岐島前高校 は 2008 年の入学者が 28 名まで減ったが、地域の課題解決的な学習と全国募集により 2014 年には 59 人に倍増し、多少の増減を経て 2020 年度も 59 人を確保している。2クラスを 維持したため、教員も 30 名おり専門科目の担当者を確保している。村岡高校も 2013 年度 入学生が1クラス 33 人まで減ったが、地域の課題解決的な学習と全国募集により学年2 クラスに戻り、毎年度 60 名前後の新入生を確保している。 次に若者の流入による人口の維持増加である。隠岐島前高校のある海士町は、隠岐島前 高校への支援とともに、移入者(I ターン)への職業斡旋などの産業振興や福祉の整備など を続けており、その結果、2007 年以来人口は基本的に社会増を続けている。2020 年度に隠 岐地区以外から入学者は過半数の 38 人である。村岡高校の下宿生は 2020 年現在 22 人で、 生徒数 169 名の 13%を占めている。全員香美町村岡地区に住民登録している。 図 6 出石高校は但馬国出石 藩き もの 祭 など のイ ベ ント で、書道パフォーマンスで地 域を盛り上げている。 図 7 八鹿高校は儒学者池田草 庵の名からとった「そうあん塾」 で小学⽣の勉強を手伝ってい る。 図 5 出石高校は豊岡自動車 教習所の壁面55㍍に地域に まつわる絵を描いている。

(6)

また、氷上高校は卒業後すぐに地元企業に就職する生徒が過半数で、まさに地域を支え ている高校である。村岡高校は、卒業後Uターンする生徒が増えつつあり、なかでも地域 学習を進めた後、県・町職員 11 名、教員 2 名など、地域系高校の学習の趣旨にかなった進 路が増えている。 さらに、地域の活動には高校生の協力に依存しているものもある。たとえば、村岡高校 は6月のみかた残酷マラソンと9月の村岡ダブルフルウルトラランニングのサポートを全 校生で行っているが、両イベントとも村岡高校生なくでは存続できないものとなっている。 参加者の感想も、大会そのものより村岡高校の献身ぶりをたたえる者が多い。 最後に、地域の課題発見とその解決を考える学習は、地域の住民や商工会青年部、町役 場職員、中学生などと行うことが多い。氷上高校の「丹波学」は、地域の住民 40 名がリー ダーとして参加した。かかわることで、課題意識や解決に向かう姿勢を地域全体にもたら していることが期待できる。2016 年、村岡高校は香美町新任職員研修とともに地域の課題 解決的な学習を進め、最後は町長以下町幹部に改善策を発表した。 地域への貢献度は数値化しづらいことも多いが、高校の地域連携の成果の検証を進める 必要がある。 4 地域住民の学校経営への参加 (1)経営参加の経緯 20世紀末、企業では外部取締約などを取り入れてガバナンス(企業統治)のシステ ムを作っていたが、学校経営においても、地方を含めた政府(ガバメント)の統治に対し、 保護者や地域住民がガバナンスの一端を担うことが求められるようになった※6。 そもそも、戦後の教育委員会法では市町村や都道府県の教育委員は住民から公選されて おり、教育行政の根本のところで民意が働いていた。しかし、1956 年の地方教育行政法に より、教育委員は都道府県知事や市町村長が議会の同意を得て任命するようになり、民意 は直接反映されなくなった。 しかし、先にみたように 80 年代の困難な教育課題に対し、学校だけでは問題を解決でき なくなった。臨教審第四次答申では、「開かれた学校」により学校・家庭・地域の協力関係 の確立を求め、その後以下のような学校経営への参加が具現化した。 ① 学校評議員と学校評価 1996 年の中教審答申「21 世紀を展望したわが国教育の在り方について」や 1998 年 の「今後の地方教育行政の在り方について」で、地方分権と規制緩和の中、学校の自 律性や地域住民の学校経営や教育行政への参加をもとめ、2000 年に学校教育法施行規 則が改正され、学校評議員制度となって具現化した。 学校の評価については、2000 年末の教育改革国民会議報告の「教育を変える 17 の 提案」で、地域に応える学校づくりのための学校評価制度を求め、2002 年の学校設置 基準に学校評価制度が規定され、2007 年学校教育法施行規則改正で外部評価制度が努 力義務とされた。それまで教員による自己評価を基本としていたが、保護者や地域住 民が評価に参加するようになったのである。 ② コミュニティ・スクール 地域の学校経営、特に意思形成への参加の典型的な制度は、コミュニティ・スクール

(7)

である。わが国のこの制度の契機となったのは、上述の「教育を変える 17 の提案」で示 された「新しいタイプの学校」である。そこでは、アメリカのチャータースクールのよ うな学校を想定し、校長も公募を念頭においていた。中央のコントロールを弱め、各学 校に基盤をおいた学校経営(SBМ School Based Management)を目指したといえる ※7。現実には、2004 年の地方教育行政法改正で、わが国では合議体である学校運営協 議会を設置した「指定学校」をコミュニティ・スクールと考えるようになった。 学校運営協議会の構成員は、地域代表、保護者、学校関係者、学識経験者、行政委員 など、人数も構成も多様で、その権限は ア 校長が作成する学校運営の基本方針の承認をすること イ 学校運営について、教育委員会又は校長に意見を述べること ウ 教職員の任用に関して、教育委員会に意見を述べること である。当初、ウの人事権がクローズアップされたが、現実の協議会では、学習内容や 指導方法、それに学校行事や地域との連携が中心議題となっている。アの基本方針は、 学校経営の根幹だが、議論されることは少ない。なお、2017 年の地方教育行政法の改正 により、学校運営協議会は学校設置者である教育委員会の努力義務とされ、2018 年には 全国の公立学校(小中高特)の約 15%に設置されている。 ③ 「地域とともにある学校」 小中学校での学校支援地域本部事業は、地域や保護者が学校の教育活動を支援するも ので、郷土学習、登下校見守り、放課後教室などの「お手伝い」の色が濃かった。しか し、「地域に開かれた学校」から「地域とともにある学校」という言葉が使われるように なり、地域の学校経営への参加をより強めることを求めた。2016 年の「『次世代の学校・ 地域』創生プラン」では、地域がコミュニティ・スクールの学校経営に参加し、学校が 地域創生に協力する姿を求めた。そして、学校支援地域本部事業は、2017 年の社会教育 法改正で、地域学校協働本部事業となり、民間企業やNPOなども含め、より専門的知 識を要する学習支援や地域人材の育成など、地域と学校 との対等なパートナーシップに基づく双方向の連携協働 へと発展させることを目指すことになった (2) 経営参加の実践 小中学校に比べ高校ではコミュニティ・スクール化し ている比率が低い。そんな中、学校運営協議会のように人 事について発言することはできないが、学校の課題につ いて多方面の方に意見をうかがうために、いわば学校評 議員会を拡大させた組織を作っている高校が多い。 2015 年に赴任した村岡高校は、すでに」「学校運営連携 協議会」が設置されており、地域代表や小中学校代表校長、 町役場など 26 名で村岡高校の課題や将来について話し合 った。これは、2000 年代に、生徒数減少や英語コースの 募集停止に廃校の危機感を感じた住民が立ち上がり、学 校存続の署名活動や特色化の検討をする中で、2010 年に 地域活性化協議会を設置したのを始まりとしている。県 図 8 2018 年 9 月、「出石高校食 堂復活計画」をPTAと⽣徒会 で宣言。その後地域の支援も受 け、PTAと地域住⺠、⽣徒会が 協力して食堂を整備し、半年後 に食堂が復活した。学校と地域 とPTAの新しい協働活動(学 校づくり)と言える。

(8)

立学校ではあるが、地元香美町の村岡高校への支援や兵庫県教育委員会への要望が議論さ れることもあった。 2017 年に校長として赴任した出石高校は、2004 年度入学生までは 5 クラス(定員 200 名)であったが、中学生の減少と学区拡大による他校への流失により、2017 年度入学生は 2クラス(定員 80 名)に急激に規模が縮小した。一方、地域住民や地元中学校は出石高校 の現状と将来に関心は低く、地域住民の中には高校の廃校もやむなしという空気もあった。 そこで、まず、地元の目を出石高校に向けさせ、卒業生が過半数を占める近隣の住民が真 剣に出石高校の将来を考えるための委員会を組織することとした。同窓会長を会長に、PTA 会長を議長にし、兵庫教育大学の先生(2017 年度は安藤准教授 1 名、2018 年度は安藤准教 授と小倉准教授の 2 名)を助言者に、委員には地元県会議員 1 名、市会議員 5 名、連携中 学校長 6 名、その他地域の有力者など計 32 名で、「出石高校の発展を願う会」を組織し、 年2回実施した。しかし、当初議論は中学校がどうして出石高校に生徒を入学させないの かということに執着しがちになり、建設的でなかった。そこで、2018 年度は、地域の有力 者や中学校長の数を減らし、出石高校や近隣中学校の PTA の数を増やし、保護者の目線で 出石高校はどうあるべきかについてワークショップ形式で意見を交換した。この会の具体 的な成果を数値化することはできないが、少なくとも卒業生をはじめ地域住民と中学校の 先生が危機感を共有し、出石高校に目を向けるきっかけになったと考える。 5 これからの地域との連携 地域学習、地域づくり、学校経営への参加の 3 つの視点 から学校(主に高校)とのかかわりについてみた。ともす れば、何であれ学校が地域と共に活動すればそれでよいよ うな風潮がないわけでない。そこは冷静に、地域学習とそ れを発展させた地域づくり、学校への経営参加の観点か ら、教育目標に照らしてそれぞれの学校としてのかかわり かたを模索しなければならないと考える。 校長としてタイプの異なる4高校で地域との連携を実 践してきた中で、次の2つについて今後の在り方を検討す る必要があると考えている。 (1) 学校選択や学区拡大の中での「地域」の意味 20 世紀末からの社会全体の規制緩和(市場化)の動きの中で、学校をめぐる規制緩和 も進んだ。小中学校の学校選択が浸透し、高校では大規模な学区拡大(もしくは撤廃) が全国の公立高校で進んだ。このことは、児童生徒にとって「地域」との関係性や地元 意識が薄れることに他ならない。特に、高校の通学範囲は広範となり、なじみのない都 市の高校に通う生徒も多い。そんな中で実施する地域の課題解決や地域づくりを目指す 学習や活動について、その意義を教師と生徒が共通理解する必要がある。そうでないと、 互いにモチベーションの低い活動となってしまう。たとえ生まれ育った都市でなくても、 一つの地域の特性や課題を学ぶことで、学び方を学ぶことができ、さらに既成の学問と 現実社会との関係性を改めて認識することになると私は考える。 (2) 系統的な学習との連関 図 9 「出石高校の発展を願う 会」で市会議員や中学校PTA などのグループワークで出石高 校に足りないものを意見交換す る。

(9)

地域学習や地域づくりへの参加は、教科の枠を超えた学 習や活動となることが多いが、指導者の我流にならないこ とが肝要であると考える。課題設定、調査・研究・発表な どについて、村岡高校は各学年にひとりずつ鳥取大学の先 生に担当していただき指導を仰いだ。氷上高校は複数の大 学をはじめ地元有識者、商工会の指導を受けた。一方、出 石高校は類型を立ち上げた当時の学習を毎年度繰り返す ことが慣例になってしまっていたが、2017 年度より公立 福知山大学の先生の指導を仰ぐようにして、我流からの脱 却を図っている。 また、地域に関する学習では、そのベースとなる教科学 習の内容との関係性を確認し ながら進めておくことで、系統的な学びにもプラスになると考える※8。たとえば、地域 史なら日本史、地域の自然なら理科の教科学習と関連付けて進めなければならない。投 げ込み教材や一過性のイベントにならないよう注意を持ち続けることが肝要であろう。 ※1 小原友行は初期社会科の取り組みを①コア・カリキュラム型、②合科カリキュラム型、 ③地域教育計画型、④民教・民教協型に分けている。 ※2 2019 年度入学制より農業と商業の融合した3学科に再編した。 ※3 このことを踏まえ、2019 年度には、地域との協働による教育改革推進事業として、 全国 50 高校を研究指定し、地域振興の核としての高校の機能強化をはかっている。 ※4 豊岡市にある中島神社は菓子の神(菓祖)といわれる田道間守を祀っており、全国の 菓子業者の信仰を受けている。4月の菓子祭には全国の業者が参加し、村岡高校以外に も数校が菓子の提案、製造、販売などにかかわっている。 ※5 地域との連携、特にまちづくりに高校が参加するためには、教師だけでは人手不足に なる。また、既成にとらわれない新しい視点で学校と地域の関係を模索するために、外 部人材の手を借りたい。村岡高校では 2014 年から、出石高校では 2019 年から総務省の 地域おこし協力隊を派遣してもらい、地域との連絡調整役となってもらっている。 ※6 欧米の学校はもともと日本より保護者がその経営に発言することが多かったが、20 世紀末には学校運営に地域や保護者がより参加するようになった。イギリスの学校理事 会やアメリカのチャータースクールがその典型である。 ※ 7 自 律 的 に 学 校 運 営 を 実 施 す る S B М で は 、 学 校 に 権 限 ( Authority ) と 責 任 (Accountability)を付与する一方で、高い学力(Achievement)などの成果(Performance) を求める。 ※8 全国の大学で、地域学を取り入れた学部学科が増えている。地域学は学際的な学問で、 農学、地理学、歴史学、教育学、芸術学など様々な学問をベースとする学者が研究を進 めており、大学により地域へのアプローチの方法が異なる。高校が大学の成果を取り入 れる場合、そうしたことを理解したうえで連携を図る必要がある。 ・・・参考文献・・・ 図 10 展示物と学習指導 要領との関連の説明があ り、教師にとって系統的な 指導と関連付けやすい。(宮 崎天ケ城歴史⺠俗資料館)

(10)

① 『講座 現代の教育経営 1〜5 巻』日本教育経営学会 2018 ② 『日本教育経営学会紀要第 44〜60 号』第一法規 2002〜2018 ③ 『諸外国の教育改革』文科省 ぎょうせい 2010 ④ 澁谷義人「社会科の地域学習と地域系高校」『研究紀要 13 号』兵庫県高等学校教育 研究会社会部会 2016 ⑤ 澁谷義人「経営参加と地域づくり」『研究紀要 16 号』兵庫県高等学校教育研究会 社会部会 2019 ⑥ 澁谷義人「より深く地域と連携した高校教育の実践」『教職の先達 第 4 号』兵庫教育 大学大学院同窓会 2018 ⑦ 澁谷義人「強みを活かした高校の魅力化」『平成 30 年度・第 7 回教育実践活動コンテ スト 入賞者の教育実践活動』国立大学法人鳴門教育大学・鳴門教育大学同窓会 2018 ⑧ 柳原邦光他 『地域学入門』ミネルヴァ書房 2011 ⑨ 山内・岩本・田中著『未来を変えた島の学校』 岩波書店 2015 ⑩ 家中・藤井・小野編『新版地域政策入門』 ミネルヴァ書房 2019

参照

関連したドキュメント

最愛の隣人・中国と、相互理解を深める友愛のこころ

Q7 

北区では、地域振興室管内のさまざまな団体がさらなる連携を深め、地域のき

 今日のセミナーは、人生の最終ステージまで芸術の力 でイキイキと生き抜くことができる社会をどのようにつ

自然言語というのは、生得 な文法 があるということです。 生まれつき に、人 に わっている 力を って乳幼児が獲得できる言語だという え です。 語の それ自 も、 から

定を締結することが必要である。 3