河原の石から辿る日高山脈の構造と教材開発
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(2) 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第43号(平成23年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.43(2011):69-76. 河原の石から辿る日高山脈の構造と教材開発 櫻 井 春 彦1・池 田 保 夫2 1 2. 湧谷町立湧谷中学校. 北海道教育大学釧路校地学研究室. Geological history of Hidaka mountain range, Hokkaido to trace from riverbed stones as key of teaching materials Haruhiko SAKURAI1 and Yasuo IKEDA2 1 2. Wakuya Junior high school, Miyagi prefecture. Department of Earth Sciences, Hokkaido University of Education, Kushiro Campus. 要 旨 日高山脈は上部地殻から下部地殻、さらには上部マントルまでの地球の内部構造を形成する岩石が地表で見られる世界 的にも貴重なフィールドであり、このような場を教材として活用することは地学分野に関して子供たちに興味や関心を養 うことができると期待される。本研究では、平成20年の新学習指導要領で新たに小学校の5学年で河原の石を扱うことに なった点を踏まえ、日高山脈から流れる豊似川と日高幌別~ニオベツ川に存在する河原の石の大きさ、形(円摩度、球形 度)、岩石の種類、岩石の見かけの密度、岩石の化学組成などから日高山脈の成り立ちを探ることを試みた。また、河原 の石が上流から下流に向かって運搬されるにつれて岩石が円形かつ球形に近づくことから、そのような岩石の変化を示す 教材、また日高山脈の形成を示す教材化についても試みた。. 1.はじめに. ルドであることがわかる。このように、日高山脈は、地球. 平成20年に文部科学省は学校教育法施行規則の一部改正. の様々な深さのとろにある色々な種類の岩石を実際に見る. と学習指導要領の改訂を行った。これにより、学校教育に. ことができるため、子供たちに興味や関心を養うのに適し. おいては新学習指導要領が小学校では平成23年度、中学校. た教育フィールドでもあると考えられる。本研究では、日. では平成24年度から全面実施となる。その新学習指導要領. 高山脈から流れる豊似川と日高幌別~ニオベツ川の河原の. の小学校理科の地学分野では第5学年の「流水の働き」と. 石を調べ、そこから日高山脈の成り立ちと構造を辿ると同. いう単元の中で新たに「川の上流・下流の河原の石」を扱. 時に河原の石に関する教材開発及び日高山脈の形成を視覚. うことになった。すでに、河原の石を使った研究や教育実. 的にとらえるための教材開発にも取り組むことにする。. 践は多数報告されている(例えば、 此松,2004; 新井,2004; 小島・日曜地学の会,2004; 奥山・池田,2005) 。また、河. 2.日高山脈の概説. 原の石の調べ方といった類の本も多く出版されている(例. 日高山脈は北海道の中央南部~北部に延びる山脈であり. えば、荒川の石編集委員会、1999;多摩川の石編集委員会、. 狩勝峠から襟裳岬にいたる南北約150kmの長さを有する山. 2003)。これらの研究・教育実践では、実際に子供たちと. 脈であり雄大な景観をみせる。芽室岳(標高1,754m)や. 河原に行き石の硬さ比べ、変わった石探し、ペンダント作. 神威岳(標高1,600m)などの山々がそびえ、最高峰の幌. り、石の鑑定、石のふるさと調べからその川の流域の大地. 尻岳では標高2,053mの高さを有している。主脈の東側に. の成り立ちを考えることなどが紹介されている。. は100カ所を超えるカール(氷河地形)が発達し、日高山. 日高山脈は、北海道の中央を走る山脈であり、北海道の. 脈の山岳景観を特徴づける。. 成り立ちを考える上で重要な地域である。この日高山脈に. 日高山脈は西帯の海洋地殻と主帯の島弧地殻という全く. ついては、小松ほか(1982)ら多くの研究があり、その形. 異質な2つの地質構造体が接合し、後者の島弧地殻が前者. 成過程や構造などが明らかになっている。これらの研究に. の海洋地殻の上にずり上がって形成されたと考えられてい. よれば、日高山脈は、地殻からマントルに至る様々な岩石. る(小松、1982; Osanai et al., 1986) 。日高山脈の東側. を地表で観察できる世界的にもきわめて貴重な研究フィー. から西側にかけて構成するホルンフェルス・片麻岩・片. - 69 -.
(3) 櫻 井 春 彦・池 田 保 夫 岩・グラニュライトなどの変成岩や、花崗岩・トーナライ. の枠を用意しその中の岩石100個を対象として調査を行っ. ト・ハンレイ岩などの深成岩は、平行な帯状配列が認めら. た。ただし、出来る限り寄洲で、かつ調査地点ごとに存在. れ、これらは島弧地殻の岩石と考えられている。一方、山. する特徴的な岩石を含むような場所にわくを設定する。ま. 脈の西側にはかつての海洋地殻を構成していた岩石である. た対象とする岩石にはカラーテープを貼り分かるようにし. オフィオライトが確認されている。この日高山脈が形成さ. ておく。. れた場所は北米プレートとユーラシアプレートとの衝突現. (2)測定の方法. 場にほぼ一致しており、この衝突によって形成された日高. (a)長径の長さ. 主衝上断層にそっては、さらに深部のマントルの岩石(カ. 岩石の最も長い一辺の長さをものさしで測り長さを決定. ンラン岩)が見られる。日本ジオパークの認定を受けてい. した。グラフにまとめる際には5㎝ごとに区切って分類を. る山脈南部のアポイ岳は地下数十kmを超えるマントルから. 行った。. もたらされた岩石からなり、世界的に注目されている。. (b)円磨度 円磨度とは岩石の角やでっぱりがすり減り、円形に近づ. 3.調査地点と調査方法. く度合いを表す数値である。円磨度の測定にあたっては. 3-1 調査地点の選び方. Krumbein(1941)のモデル図を参考にした。. 調査地点を決定する際、日高山脈の構造を探るには、日. (c)球形度. 高山脈の上流から流れ出る数多くの川のうち、ダムの影響. 球形度とは流水によって運ばれる岩石の角やでっぱりが. がなく、同時に、日高山脈を東西に横断する形で調べるこ. だんだんとすり減り、球形に近づく度合いを表す数値で、. とが出来るよう川を選択する必要があった。実際に現地の. 測定にあたってはRittenhouse(1943)のモデル図を参考に. 下見を行った上で調査可能な川として日高山脈から広尾町. した。. にかけて流れ、太平洋に注ぐ豊似川と日高山脈から浦河方. (d)岩石の種類. 向にかけて流れ、太平洋に注ぐ日高幌別川~ニオベツ川の. 岩石の種類については、岩石ハンマーで岩石を割り、そ. 2つの川に決定した。また、国土地理院の1/ 5万の地形. のきれいな面をルーペを用い、視察によって判別を行っ. 図を用いて、調査地点になりうる本流と支流との合流点や. た。また硬度については岩石ハンマーで傷をつけて確認. 流速の変化する場所、及び、橋の位置などを調べ、実際に. し、薄い塩酸を用いることで石灰岩とチャートは区別し. 下見をした上で、それらの地点の中から調査可能な地点を. た。また、分類が困難なものは薄片を作り、偏光顕微鏡で. 選択し、各々の川の上流(C, C’ ) ・中流(B, B’)・下. 観察を行い分類した。. 流(A, A’)の3か所を調査地点と決定し、合計6か所. (e)岩石の見かけの密度. で調査を行った(図1) 。. 岩石の重さを電子天秤で測定する。次に、そのかけらを 糸につるし、水が入ったビーカーの中に入れ、石がビーカー に触れないように注意しながら重さを調べる。ここで、あ らかじめ測定していた水の入ったビーカーの重さからその 増加分の重さ計算し、その値を体積とする。これらによっ て得られた質量と体積から密度(質量÷体積)を求めた。 (f)岩石の化学組成 採集した岩石の全岩化学分析は北海道教育大学札幌校の フィリップス社製蛍光X線分析装置を使用した。分析方法 は、宮本・岡村(2003)に従った。 4.結果 4-1 豊似川 (1)長径の長さ(表1) 下流地点では15cm以下の岩石がほとんどである。長径の 長さが1~5cm程度の岩石に焦点を当ててみると、下流地 点から上流地点に向かって徐々に減少している。逆に、長 径の長さ6~10cm程度の岩石は下流地点から上流地点に向 かって増加している。下流地点では比較的大きい岩石が存. 図1 調査地点図. 在しているが、一方で、小さな岩石が上流地点よりも増加 していることが分かる。. 3-2 河原での調査方法 (1)岩石の採集方法 岩石の採集方法としては「わく法」を用いた。1m四方. - 70 -.
(4) 河原の石から辿る日高山脈の構造と教材開発 表1 豊似川各地点での岩石の長径の割合(%). 表4 豊似川各地点での岩石の種類の割合(%). 長径の長さ 1~5cm 6~10cm 11~15cm 16~20cm 21~25cm 26~30cm 31cm~. ホルンフェルス* 花崗岩 片麻岩・ミグマタイト トーナル岩. 岩石名. 上流地点(C). 15. 65. 15. 1. 2. 1. 1. 上流地点(C). 49. 25. 10. 16. 中流地点(B). 21. 50. 24. 5. 0. 0. 0. 中流地点(B). 60. 10. 17. 13. 下流地点(A). 33. 37. 17. 8. 4. 1. 0. 下流地点(A). 85. 0. 8. 7. *. 原岩を含む(泥岩、砂岩、チャート). (2)円磨度(表2) 最も円形に近い0.8 ~ 0.9の円磨度の岩石が下流地点で. 4-2 日高幌別川~ニオベツ川. は約6割も占めているのに対して下流地点から上流地点に. (1) 長径の長さ(表5). 向かって次第に減少しているのが確認できる。 円磨度が0.6. 下流地点から上流地点に向かって長径の長さが1~5cm. ~ 0.7の岩石は上流地点と中流地点では変化があまりみら. 程度の岩石が少なくなる傾向がみられる。上流地点と中流. れないが下流になると減少している。円磨度が0.4~0.5の. 地点では16cm以上の比較的大きな岩石が存在する。. 岩石については下流地点から上流地点に向かって徐々に増 加しているのが確認できる。このような結果から、下流地 点から上流地点に向かうにつれて、岩石はごつごつしたも のになっていることが理解できる。 表2 豊似川各地点での岩石の円磨度の割合(%) 円磨度. 0.2~0.3. 0.4~0.5. 0.6~0.7. 表5 日高幌別川~ニオベツ川の各地点での岩石の長径の割合(%) 長径の長さ 1~5cm 6~10cm 11~15cm 16~20cm 21~25cm 26~30cm 31cm~ 上流地点(C’). 16. 34. 24. 13. 8. 2. 3. 中流地点(B’). 12. 38. 21. 16. 5. 4. 4. 下流地点(A’). 47. 46. 7. 0. 0. 0. 0. 0.8~0.9. 上流地点(C). 2. 27. 58. 13. 中流地点(B). 0. 14. 69. 17. 下流地点(A). 0. 7. 35. 58. (2) 円磨度(表6) 下流地点から上流地点に向かって0.8~0.9の円磨度の岩 石が次第に減少している。また円磨度が0.6~0.7の岩石は 下流地点から上流地点に行くほど増加しているのがわか. (3)球形度(表3). る。円磨度が0.4~0.5の岩石については下流地点から上流. 下流地点から上流地点に向かって0.51~0.55の岩石と. 地点に向かって徐々に増加しているのが確認できる。以上. 0.61 ~ 0.65の球形度が上流地点に向かって減少している. から上流地点ではごつごつした岩石が多数存在している一. ことが分かる。一方、0.71~0.75の球形度の岩石は上流地. 方で、下流地点では円形の岩石が多数存在していることが. 点に向かって増加している。0.81~0.85の球形度の岩石は. わかる。. 上流地点には見られず、下流地点から中流地点に向かうに つれて増加している。最も球形に近い0.95の球形度の岩石 は中流地点から上流地点に向かうにつれて僅かながら減少 しているがそれほど変化は見られない。 表3 豊似川各地点での岩石の球形度の割合(%) 0.45. 0.51~0.55. 0.61~0.65. 0.71~0.75. 0.81~0.85. 0.95. 上流地点(C). 球形度. 0. 10. 58. 31. 0. 1. 中流地点(B). 0. 11. 58. 19. 10. 2. 下流地点(A). 1. 11. 69. 16. 3. 0. 表6 日高幌別川~ニオベツ川の各地点での岩石の円磨度の割合(%) 円磨度. 0.2~0.3. 0.4~0.5. 0.6~0.7. 0.8~0.9. 上流地点(C’). 0. 18. 75. 7. 中流地点(B’). 0. 9. 66. 25. 下流地点(A’). 0. 5. 51. 44. (3) 球形度(表7) 球形度が大きい0.81~0.85にあたる岩石が各地点に見ら れるが、下流地点ではその割合が大きくなっている。球形 度0.71~0.75の岩石は下流地点から上流地点に向かって減. (4)岩石の種類(表4). 少傾向にある。円磨度0.61~0.65の岩石はどの地点でも割. 3地点共通してホルンフェルスの占める割合が高いが、. 合が高く、下流地点から上流地点に行くにつれて増加して. 下流地点から上流地点に行くにつれて、その割合は減少し. いる。球形度0.51~0.55の岩石は下流地点から上流地点に. ている。トーナライトの割合は、下流地点から上流地点に. 行くにつれ徐々に増加していることが見てとれる。以上か. 向かって増加している。また、花崗岩は、上流地点と中流. ら上流地点と比べ下流地点に行くにつれて岩石が球形に変. 地点にのみが確認でき、中流地点に行くにつれて減少して. 化していることがわかる。. いる。片麻岩・ミグマタイトは下流地点から上流地点に向 かって増加している。. 表7 日高幌別川~ニオベツ川の各地点での岩石の球形度の割合(%) 0.45. 0.51~0.55. 0.61~0.65. 0.71~0.75. 0.81~0.85. 0.95. 上流地点(C’). 球形度. 0. 13. 60. 26. 1. 0. 中流地点(B’). 0. 8. 53. 38. 1. 0. 下流地点(A’). 0. 5. 48. 36. 9. 2. - 71 -.
(5) 櫻 井 春 彦・池 田 保 夫 表8 日高幌別川~ニオベツ川の各地点での岩石の種類の割合(%) 岩 石 名. ホルンフェルス* 花崗岩 片麻岩・ミグマタイト トーナル岩. 角閃岩 片岩 グラニュライト カンラン岩. 上流地点(C’ ). 0. 0. 40. 29. 5. 中流地点(B’ ). 0. 0. 34. 30. 下流地点(A’ ). 0. 0. 27. 24. 閃緑岩. ハンレイ岩 堆積岩類**. 9. 11. 5. 0. 0. 1. 0. 2. 0. 0. 12. 4. 18. 0. 18. 0. 0. 0. 0. 31. *. 原岩(泥岩、砂岩、チャートなど)を含む . **. 泥岩、砂岩、チャート、石灰岩. (4)岩石の種類(表8). ト、ハンレイ岩ではあまり目立った変化は見られないが、. 中流地点では下流地点には見られなかった閃緑岩やハン. カンラン岩できわめて少ない。Fe2O3とCaOの含有量は花. レイ岩が含まれているのが分かる。また、上流地点では下. 崗岩、トーナライト、ハンレイ岩の順に増加し、カンラン. 流地点と中流地点には見られなかったカンラン岩、グラ. 岩でCaOがきわめて少ない。MgOの含有量はカンラン岩. ニュライト、角閃岩がみられる。日高山脈の西側では、東. できわめて大きくSiO2の量とほぼ同じ程度含まれる。カン. 側に広く存在していたホルンフェルスが一つも存在してい. ラン岩の化学組成は、密度変化と同様に他の岩石との組成. ない。全体的に見てみると下流地点から上流地点に行くに. 変化に連続性がみられない。変成岩類の角閃岩とグラニュ. つれて、トーナライトはあまり変化が見られないが、ミグ. ライトは比較的よく似た化学組成を示している。火成岩と. マタイトは上流地点に行くにつれて増加している。泥岩や. 比較するとトーナライトの組成と類似している。. 砂岩などの堆積岩類は、下流地点に多数存在している。こ れはエゾ層群由来の砂岩、 泥岩であり、 白亜紀初期に古ユー ラシア大陸の東側の前弧海盆に島弧から供給された砕屑物 が堆積してできた地層のものである。 4-3 岩石の見かけの密度 主な岩石について見かけの密度は以下のような測定値が 得られた。カンラン岩(3.27~3.42g/cm3)、グラニュライ ト(2.81g/cm3)、角閃岩(2.79g/cm3)、片麻岩(2.68~2.71g/ cm3)、 片 岩(2.69~2.74g/cm3)、 ホ ル ン フ ェ ル ス(2.67~ 2.72g/cm3)、 非 変 成泥岩・砂岩(2.43~2.63g/cm3)、ハン レイ岩(2.96~3.01g/cm3)、閃緑岩(2.51~2.66g/cm3)、花 崗岩(2.60~2.68g/cm3)、トーナライト・ミグマタイト(2.64 ~2.68g/cm3)。カンラン岩の密度と他の岩石の密度変化 との間に連続性がみられない。 4-4 全岩化学組成. 図2 岩石の主成分化学組成. 採集した岩石のうち花崗岩、 トーナライト、 ハンレイ岩、 カンラン岩、グラニュライトおよび角閃岩について主成分. 5.考察. 化学分析を行った。その結果を図2に示す。. 5-1 河原の石から辿る日高山脈の構造. 火成岩類の花崗岩、トーナライトおよびハンレイ岩の. 今回調査した河川に沿って河床断面図を作成し、各地点. SiO2の占める割合が45%以上を占め、その割合は花崗岩、. で露出している岩石と河原の岩石種の変化を考慮しながら. トーナライト、ハンレイ岩の順に減少し、さらにカンラン. 日高山脈の内部構造を割り出すことを試みた。その結果を. 岩で減少している。Al2O3の割合は、花崗岩、トーナライ. 図3に示す。以下にその根拠を示す。. 図3 河原の石から考えられる日高山脈の構造. - 72 -.
(6) 河原の石から辿る日高山脈の構造と教材開発 まず日高山脈の広尾側(東側)の豊似川についてである. れた岩石から構成され、さらに深部のマントルを構成する. が、トーナライトとミグマタイト・片麻岩はどの地点にも. カンラン岩までみられる。山脈の西側にあるカンラン岩. 存在しているために、上流地点(C)からさらに上流域に存. は、その下盤に閃緑岩やハンレイ岩のように、より浅部に. 在していると推定した。ただし、トーナライトとミグマタ. 存在する岩石と接触していることが推定されるため、両側. イト・片麻岩の位置する順番をどちらにすればいいのか. の岩石(グラニュライトと閃緑岩)とは断層関係にあると. ということは河原の石からではわからないので、小松ほか. 推定される。また、同じく西側にあるハンレイ岩と堆積岩. (1982)やOsanai et al.(1986)などの研究を参考にした。ま. 類との関係も、両者が形成された造構場が異なることから. た東側には下流地点(A)から上流地点(C)まですべての地. 断層関係にあると推定される。このように、日高山脈は、. 点でホルンフェルス(泥岩等原岩を含む)が多量に存在し. 小松ほか(1982)やOsanai et al.(1986)などの研究にあるよ. ているので、上流地点よりさらに上流側にもホルンフェル. うに、東側から西側に向かって大陸・島弧を構成する上部. スから構成されていると考えた。また、花崗岩は、中流地. 地殻から下部地殻、さらにはマントルにいたる岩石の積み. 点(B)と上流地点(C)に含まれているが、下流地点(A)に. 重なりをみていることになる。図4は、そうした地球の地. はほとんどみられないことから、その露出面積は非常に小. 下構造断面を実際の岩石のチップを使ってそれぞれマント. さいと推定した。そのため、花崗岩は、枝状に貫入してい. ル、下部地殻、上部地殻相当相のところに貼り付け、岩石. るように表現した。. 名とともに測定された岩石のみかけの密度の値を記入した. 次に浦河側(西側)の日高幌別川~ニオベツ川について. ものである。この図からわかるように、より深部に密度の. であるが、どの地点にもトーナライトとミグマタイト・片. 大きい岩石が、より浅部に密度の小さい岩石が存在してい. 麻岩が存在していることが確認できることから、これらの. ることがわかる。また、図2の岩石の化学組成と合わせて. 岩石は、東側と同様に、調査した上流地点よりもさらに上. みると、モホ面のところで、岩石の物理的性質(密度)や. 流域に存在していると推定した。ただ、トーナライトは、. 化学的性質(化学組成)が不連続に変化していることがわ. 野塚岳直下で岩盤として露出していること、ミグマタイト. かる。. や片麻岩よりも多くみられることから山脈山頂部付近を含 めた比較的広く分布しているように表現した。上流地点 (C’)では唯一、角閃岩、グラニュライト、カンラン岩の 3種類の岩石がみられることから、これら岩石は、本地 点とミグマタイト・片麻岩との間に分布していると推定し た。これら岩石の配列順番は、小松ほか(1982)やOsanai et al.(1986)などの研究を参考にした。中流地点(B’)で は、ハンレイ岩と閃緑岩が唯一存在しており、上流地点 (C’)では見られなかったことから、これら岩石は、中流 地点(B’ )から上流地点(C’ )の間に分布すると推定した。 しかし、ハンレイ岩と閃緑岩の並び順まではわからないの で小松ほか(1982)やOsanai et al.(1986)などの研究を参考 にした。また、閃緑岩はハンレイ岩よりも含まれている割 合が多いので、 閃緑岩の露出部を大きく表現した。 さらに、 堆積岩類が約20%見られることから, 中流地点(B’ )の下 の岩盤は、堆積岩類で構成されていると判定した。この堆 積岩類は、日高山脈を構成するものではなく、エゾ層群に 由来するものである(松井ほか、1984) 。下流地点(A’)で はさらに堆積岩類の割合が多くなるので、中流地点(B’ ) のエゾ層群の岩盤が続いていると推定した。 次に、以上のように配置された岩石類がどのように傾い て積み重なっているのかは、河原の石からは導けないので. 図4 日高山脈の垂直方向のモデル断面図(括弧内の数字は、密度=g/cm3). 小松ほか(1982)やOsanai et al.(1986)などの研究を参考に 決めた。河原の石から推定された岩石の積み重なりは、山. 5-2 川の水の働きによって岩石の円磨度が変化するこ. 脈の東側では、ホルンフェルスや花崗岩など、上部地殻を. とを示す教材. 構成する岩石からなり、山脈山頂部付近は、トーナライト. 以上のように、これまでの学術研究の資料を参考にしな. のように中部地殻を構成する岩石からなり、山脈の西側で. がら河原の石を調べることで、その地域の大地の構造・歴. は、ハンレイ岩のような玄武岩質の組成の岩石や角閃岩・. 史のかなりの部分が推定できることが明らかになった。一. グラニュライトのように下部地殻での温度・圧力で変成さ. 方、河原の石は川の上流から下流に向かって川の水の働き. - 73 -.
(7) 櫻 井 春 彦・池 田 保 夫 によって運搬されるが、その過程において川底や他の岩石. 容器を振る動作を流れる川の水にたとえ、振った回数を. と何度も衝突し角やでっぱりが削れ、一般的には距離に比. 石が運搬される距離にたとえるものである。そ結果、ペッ. 例して一つ一つの岩石は円形かつ球形に近づいていく。今. トボトルの振る回数が50回から100回で試料の円磨度が0.6. 回調査した河原の石でもこのような現象が観察された(表. (図6B,C) 、150回でほぼ球形(図6D) 、200回で球形. 1-3、表5-7、図5) 。. (図6E)になり円磨度は、0.8 ~ 0.9相当になる。さら に、スポンジ試料を5個程度容器に入れて同様な実験をす ると、試料と試料が衝突する要素が加わるため、100回振っ ただけで球形になる(図7)。以上のことより、この実験は、 川の水の働きによって岩石の円磨度が変化していることを 理解する教材となりえることを示している。. 図5 円磨度を表す実際のサンプル写真 図7 5個のフラワースポンジ試料をペットボトルに入れて100回振った時の様子. (円磨度0.2と0.3は日高幌別川~ニオベツ川の上流地点C’での岩石、 円磨度0.4と0.5は日高幌別川~ニオベツ川の中流地点B’での岩石、 円磨度0.6と0.7は日高幌別川~ニオベツ川の中流地点B’での岩石、. 5-3 日高山脈の形成を示す簡易教材. 円磨度0.8と0.9は日高幌別川~ニオベツ川の下流地点A’での岩石). 小松ほか(1982)をはじめとする研究によると、日高変 成帯は性格の異なる二つの地殻、すなわち海洋地殻と大陸. こうした川の水の働きを身近にあるものを利用して再現. 地殻の接合衝上体と考えられている。日高変成帯は変成し. するための教材実験を、500mlほどのペットボトルとフラ. たオフィオライトである西帯と大陸性地殻と考えられてい. ワースポンジを使って試みることにした(図6A) 。実験. る主帯に分けられ、後者が日高主衝上断層によって前者に. は、ペットボトルに水を半分程度いれ、ここにフラワース. 衝上している形となっている。今回、河原の石で復元され. ポンジ1個をペットボトルの飲み口にはいる1.5cm角に切. た日高山脈の内部構造は、主帯部分にあたる。これらの構. り分けペットボトルに入れ容器を振るというものである。. 造は、西方にあったユーラシアプレートと東方にあった古. これは、フラワースポンジを石にみたて、川岸・川底をペッ. 太平洋プレート(イザナギプレート)の衝突によって形成. トボトル容器にたとえ、容器に入れる水を川の水、そして. されたと考えられている(例えば松井ほか、1984)。日高. 図6 岩石の円磨度変化をみる教材実験 (A:使用するペットボトルとフラワースポンジ、B:50回振った時の様子、 C:100回振った時の様子、D:150回振った時の様子、E:200回振った時の様子). - 74 -.
(8) 河原の石から辿る日高山脈の構造と教材開発 山脈のもとになった泥岩などの堆積岩類(日高層群)は、. た。. 白亜紀初期(1億2000万年前)に、 イザナギプレートがユー ラシアプレートの下に沈み込むところで海洋堆積物が付加 体として形成されたものである(松井ほか、 1984) 。また、 山脈の西側にみられた堆積岩類(エゾ層群)は、 この時期、 海溝と大陸の間に存在した前弧海盆で堆積し形成されたも のである(松井ほか、1984) 。 これらのことを踏まえ、日高山脈の形成に関して、付加 体の形成を示す教材と大陸地殻と海洋地殻の衝突・衝上に よって日高山脈が形成されたことを示す教材を提示する。 (1)付加体の形成を示す教材 図8Aのように透明な容器を用意し、そこに分かりやす. 図9 大陸地殻と海洋地殻が衝突して日高山脈の構造が形成される様子を. いように二色のこんにゃくを入れ、海洋プレート(右側). 示す教材実験. が大陸プレート(左側)の下に沈み込んでいる様子を作 る。この時、図にあるように色つきの発砲スチロールの板. 6.まとめと今後の課題. などを容器の側面に設置すると教科書に載っているように. 河原の石から日高山脈の構造をある程度探ることがで. プレートの沈み込みをうまく示すことができる。次に海洋. き、また上部地殻から下部地殻、さらには上部マントルま. プレートの上に海洋底堆積物に見立てたマヨネーズを乗せ. での地球内部の垂直方向の構造が理解できた。しかし、そ. る。このようにセットしたら、後は大陸プレートを手で固. の全容を知るためには、西帯を含めた調査及び上流から下. 定し、 海洋プレートを手で左側に押していくと、 大陸プレー. 流に向かっての岩石種ごとの円磨度や球形度の測定も必要. ト側にマヨネーズが付加する様子が確認できる (図8B)。. である。 「川の水の働きによって岩石の円磨度が変化することを 示す教材」と「日高山脈の形成を示す簡易教材」の二つの 教材を考案した。前者については身近にある材料を用い、 実験自体も試料をペットボトルに入れて振るだけなので、 小学校の低~中学年の子供たちから行うことができると考 える。ただ、振る回数が同じでも振り方によって試料の減 り具合が変わってくるのでその点は留意しなければならな い。また、フラワースポンジを同じ大きさにカットするの が困難であり、その点は課題であり工夫する必要がある。 また、後者については日高山脈の形成を視覚的にとらえる ためのものだが、この教材は主帯の大陸地殻と西帯の海洋 地殻が衝突し、後者の上に前者が衝上することのみを部分 的に示すものである。それでも、小松(1982)やOsanai et al.(1986)らによって示されているような日高山脈の断面 が形成されるためのプロセスは示すことができた。この教. 図8 付加体形成の教材実験. 材は地殻やプレートという概念が入ってくるものであり、. (A:海洋堆積物をのせた海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む様. 中学校理科や高等学校地学で用いることが適当であると考. 子、B:付加体が形成された状態). える。しかし、プレートの動きや、衝突・衝上するまでの 詳細なプロセスについては表現できてなく、その点は今後. (2)大陸地殻と海洋地殻の衝突・衝上によって日高山脈が. の課題として残った。 その後、著者の1人、櫻井は、釧路近郊の阿歴内小中. 形成される教材 図9はプレート表面を構成する大陸地殻(右側の白いこ. 学校でのサイエンスフェアに参加し、子供やその父兄、教. んにゃく)と海洋地殻(左側の黒っぽいこんにゃく)を表. 師に対して本研究成果を説明・展示したところ大きな関心. し、こんやくの厚さが違うのは(右側が1センチ、 左側が、. を示してくれた(図10)。従って、著者らは、今後は、こ. 0.4センチ) 、実際と同じように海洋地殻に比べ大陸地殻の. うした教材研究を手がかりに地学のアウトリーチ活動や教. 方が厚いからである。プレートが衝突することで、大陸地. 育実践活動を行なっていきたいと考える。. 殻が海洋地殻の上に衝上させ、海洋地殻の方のこんにゃく が反り返り、小松(1982)やOsanai et al.(1986)などによっ て示された日高山脈の断面図に類似した形状が表現でき. - 75 -.
(9) 櫻 井 春 彦・池 田 保 夫 地史-地域を生かした教材研究.環境教育研究 第8 巻、第1号,北海道教育大学環境教育情報センター , 1-8. Osanai, Y.・Arita, K.・Bamba, M. (1986) P-T conditions of granulite-facies rocks from the Hidaka metamorphic belt, Hokkaido, Japan. Jour. Geol. Soc. Japan, 92, 793-808. Rittenhouse, G. (1943) A visual method of estimating two dimentional sphericity, Jour. Sed. Petrl., 13, 79-81. 多摩川の石編集委員会 (2003)河原の石のしらべ方 多 摩川の石. 地学団体研究会, pp80. 図10 阿歴内小中学校でのサイエンスフェアでの展示風景. 謝辞 本論文を作成するにあたり、北海道教育大学札幌校の岡 村聡教授をはじめ、札幌校の地学研究室の学生の方々には 蛍光X線分析の際に大変お世話になりました。また、岩石 薄片作り等で協力してくれた釧路校の地学研究室の学生に も深く感謝申し上げます。なお、本研究の一部は、北海道 教育大学平成22年度学術研究推進経費の一部を使用させて いただいた。 参考文献 新井雅之 (2004) 川原の石のしらべ「鏑川の石図鑑」を めざして. 地学団体研究会第58回川越総会、講演要 旨, 88-89. 荒川の石編集委員会 (1999)川原の石のしらべ方 荒川 の石. 地学団体研究会, pp66. 小島正順・日曜地学の会 (2004) 地学ハンドブック“荒 川の石”ができるまで. 地学団体研究会第58回川越総 会、講演要旨, 91. 小松正幸・宮下純夫・前田仁一郎・小山内康人・豊島剛志・ 本吉洋一・在田一則(1982)日高変成帯における大陸 性地殻―上部マントル衝上体の岩石学的構成. 岩鉱 特別号3, 229-238 此松昌彦 地域の教材化を図るための「地域」素材の検討 第2部 川の石を教材に感動と驚きを伝える―川原 の石と地形図を読んで―. 地学団体研究会第58回川越 総会、講演要旨, 74-78. Krumbein,W.C. (1941) Measurement and geological significance of shape and roundness of sedimentary particles. Jour. Sed. Petrl., vol.11, 94-97. 松井 . ・吉崎昌一・埴原和朗(1984)北海道創世記.. 北海道新聞社, pp197. 宮元佳彦・岡村聡(2003)蛍光X線分析法による地質資料 の主成分及び微量成分元素の高精度分析. 北海道教育 大学紀要(自然科学編)第54巻 第1号, 49-59. 奥山紗依・池田保夫(2005) 常呂川の石から探る道東の. - 76 -.
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