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日本手話学習者における複合語の音韻変化の適切性判断に関する実験的研究

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日本手話学習者における

複合語の音韻変化の適切性判断に関する実験的研究

能美由希子・川 端 伸 哉・中 野 聡 子・甲 斐 更 紗

二 神 麗 子・下 島 恭 子・山 本 綾 乃・金 澤 貴 之

群馬大学教育実践研究 別刷

第38号 277~285頁 2021

群馬大学共同教育学部 附属教育実践センター

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日本手話学習者における

複合語の音韻変化の適切性判断に関する実験的研究

能 美 由希子

1)

・川 端 伸 哉

2)

・中 野 聡 子

1)

・甲 斐 更 紗

1)

二 神 麗 子

1)

・下 島 恭 子

2)

・山 本 綾 乃

3)

・金 澤 貴 之

1) 1)群馬大学共同教育学部特別支援教育講座 2)群馬大学大学教育・学生支援機構学生支援センター 3)群馬大学共同教育学部 日本手話学習者における複合語の音韻変化の適切性判断に関する実験的研究 能美由希子・川端伸哉・中野聡子・甲斐更紗・二神麗子・下島恭子・山本綾乃・金澤貴之

Measuring Japanese Sign Language learners’ phonological accuracy

about compound words using phonological transition decision task.

Yukiko NOMI

1)

, Shinya KAWABATA

2)

, Satoko NAKANO

1)

, Sarasa KAI

1)

Reiko FUTAGAMI

1)

, Kyoko SHIMOJIMA

2)

, Ayano YAMAMOTO

3)

, Takayuki KANAZAWA

1)

1)Department of Special Needs Education, Cooperative Faculty of Education, Gunma University 2)Student Support Center, Organization for Higher Education and Student Services, Gunma University

3)Cooperative Faculty of Education, Gunma University キーワード:日本手話、音韻変化、複合語、第二言語習得

Keywords : Japanese Sign Language, phonological transition, compound words, second-language acquisition (2020年10月30日受理) 1 研究の背景 1.1 第二言語(L2)としての手話習得  日本手話は、音声言語とは異なる言語体系と文法構 造を持つ自然言語である。音声言語は聴覚-音声モダ リティであり、手話言語は視覚-身体動作モダリティ である。手話の音韻パラメータは、手の形、位置、動 き、方向(手のひらの向き)で構成され、話し言葉の 音韻とは異なる(Brentari,1998;Klima & Bellugi, 1979)。また、文法的要素として非手指標識と呼ばれ る手指以外の身体部位(眉・目・口・あご・頭など) が用いられる(松岡,2019)。そして、手話は書きこ とばを持たず、話しことばとして存在しており(岡, 2017)、言語情報処理における全てのプロセスが、強 固な視覚空間処理に依存している(Williams,2017)。  近年、日本手話を言語科目として開講している大学 が増えつつある(松岡,2020)が、手話学習の経験が 無い音声母語話者に対して手話指導をする場合には、 視覚-身体動作モダリティとしての音韻習得が必要で あることに留意しなければならないと指摘されている (Mirus,Rathmann & Maier,2001;Rosen,2004)。

1.2 L2の音声言語における音韻習得  音声言語のL2の音韻習得においては、目標言語の 音韻の特徴を識別することが必要である(Escudero & Boersma,2004)。音韻的な類似性が低い、すなわ ち母語と異なる音韻パラメータを持つ言語をL2とし て習得するには、音韻に対する意識が重要であるとい 群馬大学教育実践研究 第38号 277~285頁 2021

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う指摘がある(de Jung,Seveke & Veen,2000など)。  聴覚(音声)または視覚(文字)から入ってきた言 語情報は、脳内での言語処理を可能にするコードに変 換する必要がある(符号化)。音声情報は、心的レベ ルの知識構造である音韻の表象として符号化される。 文字情報も、いったん音韻表象に変換するプロセスを たどることが多い(門田,1998)。  Skehan(1998)は、L2習得過程において重要な役割 を演じる認知能力は、その発達段階に応じて変化する とみている。習得初期には「音韻符号化能力(phonetic coding ability)」が重要で、習得が進むほど「記憶」の 重要性の比重が増し、また「言語分析能力(language analytic ability)」はどの段階でも一貫して重要だが、 習得が進めば進むほどより重要になるとしている。 1.3 音声母語話者(M1L1)にとっての手話の音 韻習得  成人がL2を学習する場合には、母語もしくは第一 言語(L1)との言語学的あるいは文化的な類似性が 高いほど習得が容易であり、その差異が大きいほど習 得が困難とされている(U. S. Department of State, 2020)。聴覚-音声モダリティの音声言語を母語とす る(M1L1)人々にとって、視覚-身体動作モダリ ティである手話言語は、バイモーダルなM2L2であ り、言語学的にも文化的にもその差は大きく、習得は 容易ではない。Gomez et al.(2007)は、M2L2の手 話学習者において、初期の学習段階で、知覚運動協 応、「調音」スピード、手話の視覚空間的・心的回転 の困難がよく見られると述べている。  手話の音韻パラメータにおいては、「動き」のパラ メータの習得が最も難しいとされている。例えば、 M2L2の手話学習者は、動きのミニマル・ペアの識別 が最も難しく、手の形と向きのミニマル・ペアは比較 的容易であり、場所のミニマル・ペアが最も簡単であ る(Bocher,Christie,Hauser & Searls,2011)。  このように、M2L2として手話を学習する場合には、 モダリティの違いが音韻習得に影響しており、特に動 きの音韻パラメータはM2L2の手話学習者にとって難 しいと言える。 1.4 日本手話の音韻変化と複合語  一般的に、言語において複数の要素が結合して語を 形成するときには、一般的に語音変化や弱化・消失な どを伴う。手話の場合には、音韻パラメータである手 型・位置・動き・手のひらの向きに同様の現象が見ら れることが分かっている(松岡,2015)。日本手話に おけるこれらの音韻パラメータの変化は、手・指・腕 などの調音器官に負担がかからないよう、前後の要素 との組み合わせからどのような表現がなされるかが決 定されている(福島ら,1998)。  しかし、日本手話の学習者は、このような手話の音 韻変化をうまく表せないことがよくあり、ネイティ ブには通じにくい表現となってしまう(岡・赤堀, 2011)。手話の複合語における音韻変化の規則につい ては、手話言語学的な研究が進められているところで はあるが(例えば乗松ら,1998;松岡,2015など)、 教室におけるL2としての手話学習においては、教師 の手話を見て表現するという練習の中で、手話学習者 が暗示的に学習し身につけているのが現状である。 2 目的  本研究では、M2L2の手話学習者にとって最も難し いとされる音韻パラメータである「動き」に着目し、 手話学習者の音韻に対する意識がどのようになってい るかを実験的に明らかにすることを目的とする。  なお、本研究で扱う日本手話の複合語は、それ自体 が意味を持つ二つの手話の要素が組み合わさって一つ 語としてのまとまりを持った語とする。 3 方法 3.1 対象者  A大学で日本手話習得・通訳養成プログラムを受講し ている学生29名のうち、本研究への協力に同意した10名。 A大学では、厚生労働省の手話奉仕員・手話通訳者養成 カリキュラムに準じたプログラムを提供している。「手 話奉仕員養成カリキュラム」は、実質的には、日常会話 レベルの日本手話を身につけるための習得プログラムと なっている。本研究の対象者らは、「手話奉仕員養成カリ キュラム」相当の授業を単位取得し、実験実施時点で、 「手話通訳者養成カリキュラム基本課程」相当の授業を履 修中の学生が13名(累計学習時間:115時間)、「実践課程」 相当の授業を履修中の学生が16名(170時間)であった。

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279 日本手話学習者における複合語の音韻変化の適切性判断に関する実験的研究  対象者には、年齢、手話学習歴、得意科目、につい て事前にアンケートを行ない、M2L2の手話学習に影 響する要素についての情報を得た。その結果を表1に 示す。対象者の平均年齢は20.3才(SD=0.63)、手話 学習歴は平均で1.8年(SD=0.48)であった。 3.2 刺激の作成 (1)刺激語の抽出  乗松ら(1998)は、日本手話の複合語について、第 一要素と第二要素の音節構造(表2)の組み合わせに より、9つの複合タイプがあるとしている。この分類 に従って、『すぐに使える手話パーフェクト辞典』か ら、各タイプについて6語ずつ抽出し、計54語を実験 刺激とした(表3)。 (2)正刺激とエラー刺激の作成  それぞれの複合語について、適切な音韻変化とそう でないものを組み合わせた2つの刺激を提示し、対象 者にどちらがより適切であるかを判断してもらうため の刺激を作成した。  複合語の要素の組み合わせによる音韻変化のパター ンは、乗松ら(1998)に準ずることとした(表4)。 大文字は弱化が生じていないこと、小文字は弱化が生 じていること、「-」は動きが消失することを示す。  適切でない音韻変化を伴う刺激(以下、エラー刺激) を作成するにあたっては、第一要素・第二要素それぞ れに対して、エラーとなる組み合わせ(表5)をラン ダム化し、エラー刺激が特定のパターンに偏らないよ うに調整した。さらにネイティブによるチェックを行 表3 実験刺激で使用した複合語と組み合わせタイプ 表4 組み合わせタイプ別の音韻変化のパターン 表1 対象者の情報 表2 日本手話の語の音節構造

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ない、手の動きとして無理が生じないものを選択した。 (3)刺激動画の作成  刺激動画の作成にあたり、日本手話ネイティブによ る複合語表出を撮影した。54語の複合語に対して、音 韻変化が適切であるもの、適切でないものの2パター ンを撮影した。  刺激動画の構成は、問題番号と複合語の日本語の意 味の文字提示2秒、選択肢Aの複合語表出、インター バル2秒、選択肢Bの複合語表出、解答記入時間11秒 (残り3秒前からカウントダウンの文字提示と音声) とした。各問題において、選択肢AとBの正答・誤答 の順序はランダム化した。  作成した刺激動画は、10問ずつに分け、webブラ ウザに埋め込み(画素数1120×630)、動画提示用の URLを作成した。サイトを開いたら動画が自動再生 されるよう設定し、対象者自身が早送り、巻き戻し等 の操作および繰り返し視聴ができないよう設定を行 なった。刺激動画は、例題、本題(第1~10問、11~ 20問、21~30問、31~40問、41~50問、51~54問)と 7つのパートに分割した。 3.3 手続き  実験の実施は、オンラインのzoomミーティング ルームを利用して集団にて行なった。指定した時刻 に対象者に自宅からzoomにログインしてもらい、教 示や動画提示サイトのURLの連絡をした。手話映像 の見やすさには3インチ以上の画面で必要である(塩 野目・鎌田・山本,2004)ため、モバイル端末ではな く、対象者自身のパソコンで受けるよう指示した。デ バイス設定では、対象者のパソコンについて、スピー カーのボリューム設定、webブラウザのウインドウ最 大化設定、zoomとwebブラウザを起動したままウイ ンドウを切り替えるよう指示した。  対象者全員についてこれらの確認を行なった後、例 題および本題セッションについての説明を行なった。  問題の構成について説明した後、解答にあたって は、①選択肢AとBを比べて、手指の動きがより自然 なリズムだと感じられる方を直感で選び、解答用紙に 記入すること、②マウジングの有無、表情、空間の大 小は考慮しないこと、③解答は必ずどちらかの選択肢 を選び、無記入は不可であること、④サイトで動画再 生が始まったら、最後まで停止せず課題に取り組むこ と、が実験者から対象者に教示された。解答用紙の提 出は、実験者の指示に合わせて写真を撮影し送信する ように指示され、すべての対象者の解答が提出された あと、次のパートの問題に入ることとした。  この説明の後、例題セッションを行なった。例題 セッション終了後の本題セッションでは、10問ごとの パートに区切られた動画提示サイトのURLを、zoom のチャットで送信し、それをクリックして問題に取り 組むように求めた。各パート終了後2分の休憩を入 れ、次のパートに移った。20問目、40問目、54問目の 終了時に、解答用紙をモバイル端末で撮影のうえ指定 アドレスに送信してもらった。  上記全てを、zoomを接続したまま行ない、対象者 が課題に取り組む様子を監督し、また対象者からの質 問等に答えるようにした。 3.4 分析  結果を統計的に処理するため、統計解析ソフトの IBM SPSS Statisticsを用いた。実験結果を、複合語の 要素の組み合わせ別、エラー刺激のタイプ別、対象者 の成績群別に比較し、どのような特徴が見られるのか 分析を行なった。エラー刺激のタイプの分類にあたっ ては、弱化が含まれるものを弱化エラー、弱化が含ま れないものを強化エラーとし、分析を行なった。 3.5 倫理的配慮  本研究の実施にあたり、研究の目的と内容、授業の 表5 組み合わせタイプ別のエラー刺激の例

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281 日本手話学習者における複合語の音韻変化の適切性判断に関する実験的研究 成績評価には一切関係が無いこと、結果の公表は個人 を特定しない形で行なうこと、得られたデータは本研 究のみに使用すること、参加は本人の自由意志である ことなどを、Googleオンラインアンケートフォーム にて提示した。研究協力の意思表明の回答を以て、本 研究への参加の同意を得られたこととした。 4 結果 4.1 対象者の正答率における全体的分析  正答を1点とし、各対象者の正答数および正答率を 計算した。全体の平均正答数は49.0(SD=3.1)、正答率 は90.7%(SD=13.6)であった。平均正答数の49.0を基 準として、成績の上位群と下位群に分けたところ、上 位群6名、下位群4名であった。上位群の正答率の平 均は95.1%(SD=0.02,中央値94.5%)、下位群の正解率 は84.3%(SD=0.03,中央値85.2%)であった(図1)。  解答全体における上位群と下位群の正答率の差を みるため、ノンパラメトリック検定を行なった。そ の結果、下位群よりも上位群のほうが高かった(U =.000,p<.01)。  次に、事前アンケートで回答を得た手話学習歴・課 外学習の経験の有無・得意科目(語学系・文系・理数 系・体育系・芸術系)と、成績との関連をみるため に、ピアソンの積率相関係数を求めた。その結果、語 学系と成績群の2変数間で有意な正の相関が認められ た(r=.667,p<.05)。その他、手話学習歴や語学・ 文系・体育・芸術系の得意科目と成績には相関がみら れなかった。 4.2 複合タイプ別にみた正答率  複合タイプの違いによって正答率に差があるかどう かを検証するため、独立変数を複合タイプ、従属変数 を正答率とする対応のある1要因の分散分析を行なっ たところ、有意差は認められなかった(F(5.5,6.1) =3.460,p>.05)(図2)。  また、タイプ8のAB+AAについては、1名の対象 者を除いて全員が正答率100%、タイプ6のAA+AB、 タイプ9のAB+ABについては、2名の対象者を除い て全員が正答率100%となっていた。第一要素と第二要 素ともに動きが繰り返される要素からなる複合語、も しくは複数の動きが組み合わされる要素からなる複合 語の場合には、適切性の判断がしやすいと思われる。  次に、複合タイプの違いによって上位群と下位群で 正答率に差があるかどうかをみるために、ノンパラメ トリック検定を行なった。その結果を図3に示す。  タイプ1のA+A(U=3.00,p<.05)、およびタイ プ7のAB+A(U=2.50,p<.05)では、上位群が下 位群よりも成績が高かった。これらは第一要素、第二 要素ともに動きの繰り返しがない複合語であった。下 位群の対象者にとって、動きの繰り返しがないタイプ の語は、音韻変化の適切性の判断がしにくいと考えら 図2 複合タイプ別の正答率 図1 各群の正答率

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れる。  タイプ3のA+AB(U=4.50,p<.10)、およびタ イプ5のAA+AA(U=4.50,p<.10)では、有意傾 向が認められた。動きの繰り返しがあるものでも、上 位群に比べると、下位群の対象者は音韻変化の適切性 がやや見分けにくいと考えられる。  また、上位群では、タイプ1のA+Aとタイプ8の AB+AAについては、全員が正答率100%、タイプ3の A+ABとタイプ5のAA+AAとタイプ6のAA+ABと タイプ9のAB+ABについては、1名の対象者を除い て全員が正答率100%であった。上位群においては、複 合語の音韻変化の適切性を判断する力が特に高いが、 第一要素と第二要素の組み合わせがAとAAの場合に は、適切性の判断がやや難しくなると考えられる。 4.3 エラー刺激のタイプ別にみた正答率  エラー刺激のタイプによって正答率に差があるかど うかを検証するために、ノンパラメトリック検定を行 なった。その結果を図4に示す。  強化エラーが含まれる場合とそうでない場合におい て、有意差が認められた(Z=-2.805,p<.01)。強 化エラーが含まれる場合には、弱化エラーのみの場合 と比較して、正答率が高かった。  次に、上位群と下位群に分けて、エラー刺激タイプ による正答率をみるために、ノンパラメトリック検定 を行なった。結果を図5に示す。  上位群では、強化エラーが含まれる場合と、弱化エ ラーのみの場合で有意差が認められた(U=2.50,p <.05)。下位群では、強化エラーが含まれる場合と、 弱化エラーのみの場合で有意傾向が認められた(Z= -1.826,p<.10)。つまり、上位群は下位群と比較し て、弱化エラーについての適切性判断がより正確で あった。 5 考察 5.1 手話習得の段階と音韻に対する意識  本研究の対象者は、全体正答率が90.7%というかな 図3 上位群・下位群の複合タイプ別の正答率 図5 上位群・下位群のエラータイプ別の正答率 図4 エラータイプ別正答率

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283 日本手話学習者における複合語の音韻変化の適切性判断に関する実験的研究 り高い正答率であった。日本手話の複合語における音 韻変化の適切性について、かなり高い判断力を身につ けていると言えるだろう。  M2L2としての手話の語彙習得では、学習の初期に おいて①感覚運動領域が活性化し非言語的に処理され るが、学習が進むにつれて②言語処理領域の活性化 が増加し、音韻処理、そして③語彙-意味処理へと 移行していく(William,Darcy & Newman,2016; Newman-Norlund,Frey,Petitto & Grafton, 2006)。

  ま た、Stone(2017) は、 イ ギ リ ス 手 話(British Sign Language:BSL)の手話通訳養成プログラム受 講生とプロの手話通訳者を対象に、M2L2としての手 話習得や手話通訳としての適性要素を検討する研究 において、パターン認識(Salthouse & Babcock, 1991)の成績は、プログラム修了間近の受講生とプロ の手話通訳者で有意差がなかったとしている。手話習 得が進むと、感覚運動領域での処理の段階を脱するた め、パターン認識のような知覚処理に手話経験が影響 しなかったと考えられる。  本研究の対象者は、すでに平均1.8年の手話学習歴 を有しており、手話の語彙に対して、日本手話の音韻 構造に基づいた処理や語彙-意味の処理を行なう段階 に達していることで、本実験での成績が高かったので はないかと考えられる。  また、本研究の対象者は、A大学の手話教育プログ ラムを受講する学生の中でも、比較的手話スキルの高 い学生であったことも、正答率の高さに影響を及ぼし ていると考えられる。 5.2 M2L2としての手話の音韻習得の限界  本研究の対象者が、日本手話の複合語における音韻 変化の適切性を判断する課題において、非常に高い正 答率を示した一方で、上位群であっても、弱化エラー が強化エラーに比して見分けにくかったことは注目に 値する。

 Abrahamsson & Hyltenstam(2008,2009)は、ス トックホルム在住の自称nativelikeというスウェーデ ン語のL2話者(L1はスペイン語)195名の発話の音声 データについて、音響的に言語的特徴の分析を行なっ たところ、その発音はnativelikeとは言えず、L2の熟 達度のゴールとしてnear-nativeは可能であっても、 nativelikeはほとんど不可能だとしている。  このことは手話においても同様であると考えられ る。不適格性の高い音節607個について、日本手話ネ イティブ8名と手話通訳者13名が適格性の判断を行 なった実験で、手話通訳者は、日本手話ネイティブが 不適格だと判断した音節409個のうち118音節に対して のみ不適格だとしていた。つまり、通訳者であって も、日本手話の不適格な音節を手話ネイティブと同じ レベルで判断することは難しいことが明らかとなっ ている(原・中野・米田,2018;原・米田・中野, 2018)。  また、Bochnerら(2011)は、M2L2のアメリカ手 話(American Sign Language:ASL)学習者とASL ネイティブの聴覚障害者を対象として、ミニマル・ペ アを用いて音韻識別能力課題を行なった結果、中級の 学習者であっても、ASLネイティブよりも識別能力が 低かったとしている。  このように、M2L2としての手話学習において、学 習者が手話ネイティブと同等レベルの音韻習得をする には限界があることがわかる。本研究の対象者にお いて、95.1%という高い正答率であった上位群でさえ も、弱化エラーに気づきにくいというのは、L2にお ける音韻習得の限界と言えるのかもしれない。 6 まとめと今後の課題  本研究では、M2L2の手話学習者を対象として日本 手話の複合語における音韻変化の適切性を判断する実 験を行ない、音韻変化に対する意識について分析を行 なった。本研究の結果からは、①平均1.8年の手話学 習歴を持つ場合、音韻変化の適切性をかなり正確に判 断する力が身についていること、②音韻変化のパター ンは、弱化エラーより強化エラーのほうが適切性を判 断しやすいこと、③弱化エラーの適切性の判断は、 M2L2の学習者が手話ネイティブと同等レベルに至る のは難しい可能性があること、が明らかになった。  ただし本研究は、①対象者が少ないこと、②手話学 習がある程度進んだ段階の対象者で実験をしているこ と、③対象者の自由意志によって実験に参加している ため、比較的日本手話スキルの高い学習者が対象者と なっていること、④手話表出についての実験を行なっ ていないことから、この結果は限定的なものである。

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今後、対象者を増やす、手話学習初期の対象者を対 象とする、日本手話のスキルが低い学習者を対象とす る、音韻適切性の判断力と手話表出の関係を調べる、 等のさらなる研究が望まれる。 謝辞  本研究は、日本財団「学術手話通訳に対応した専門支援者 の養成」助成、日本学術振興会科学研究費補助金(若手研究 20K14047)(挑戦的研究(萌芽)19K21764)(基盤研究(B) (一般)19H01702)、令和2年度厚生労働科学研究費補助金(障 害者政策総合研究事業)(20GC1014)の助成を受けて行ないま した。ここに記して感謝申し上げます。 引用文献

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