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『証明と論駁』から見た数学的探究における過程―証明の評価に着目して―

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『証明と論駁』から見た数学的探究における過程

―証明の評価に着目して―

西 野 裕 亮

群馬大学教育実践研究 別刷

第38号 63~73頁 2021

群馬大学共同教育学部 附属教育実践センター

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『証明と論駁』から見た数学的探究における過程

―証明の評価に着目して―

西 野 裕 亮

群馬大学大学院教育学研究科 『証明と論駁』から見た数学的探究における過程 西野裕亮

The Process of Mathematical Inquiry

from the Perspective of “Proofs and Refutations”

Focusing on the examining of proofs and proving

Yusuke NISHINO

Graduate School of Education, Gunma University キ―ワ―ド:評価,Lakatos,数学的な探究 Keywords : Examining, Lakatos, Mathematical inquiry

(2020年10月30日受理) 要 旨  近年,探究的な学習が求められてきており,数学科では探究的な学習活動の1つとして証明することが位置付 いている。探究的な活動として証明することについての主な研究では,「評価・改善・発展」のサイクルが重要 視されている。評価は証明や推測等を改善/発展していくためには必須となる要件である。しかし多くの研究や 実践では改善や発展について焦点が当てられており評価の観点についての言及は限定的である。そこで本稿で は評価に焦点を当てて,数学的な探究の姿が垣間見えるLakatosの主著『証明と論駁』から探究での具体的な評 価の観点を解釈し見出した。そして得られた具体的な評価の観点に関して,思考過程との位置付けを図示してい く。この関係図を通して評価の観点を意識化することで自律的な学習の実現が期待できる。 1 はじめに 1.1 研究の背景・目的  近年,学校教育では,探究型の学びの充実が求めら れており,探究型の学びの充実は数学科も例外ではな い。その中で学校数学における探究的な活動の1つと して証明活動の実現が模索されている(宮﨑・藤田, 2013)。また探究的な学びの実現には子どもたちの自 律的な学びの実現がなくてはならないが,大規模調査 などから生徒の受動的な学びの姿勢が懸念されてい る。探究的な学びの実現に向けて数学教育における主 な研究の一つである宮﨑らによる「課題探究として証 明すること」の一連の研究(たとえば,宮﨑・永田・ 茅野(2012)など)では課題探究として証明すること を3つの側面,「事柄の生成」「証明の生成(構想/構 成)」「評価・改善・発展」,から捉えている。「評価・ 改善・発展」の側面は他の二つの側面と相補的かつ互 恵的に密接に関わり合いながら位置付いている(宮 﨑・藤田,2014)。関連して宮﨑・藤田(2013)は学 習の高さや深さをカリキュラムに設けるために課題 群馬大学教育実践研究 第38号 63~73頁 2021

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について自律的に探究する力の育成の視座から,課題 探求として証明するプロセスに着目して学習レベルを 設定している。その中で「評価・改善・発展」のサイ クルを重要視し評価し改善/発展していくことで探究 が進むとしている。受動的な学び,すなわち教師から 生徒へのトップダウン的な学びを打破し自律的な学 びの実現のために,生徒自ら対象を評価することは探 究における学習で求められている力の1つであると考 えられる。学校数学ではふり返る活動などの「評価・ 改善・発展」の側面が重要視されてきており(宮﨑, 2014),「改善や発展」を活動として取り入れた研究や 実践に重点が置かれている。  しかし,先行研究ではそうした場の設定に留まり, 評価とは何かまで追求して述べられていない点におい て,評価の観点についての言及は限定的である。それ ではふり返る活動の際の評価の具体的な観点が明らか にされているとは言い難い。評価については改善や発 展を引き出すきっかけとなる働きがあるため,評価に 関する研究を進める意義がある。  そこで本稿では,証明に関する学習指導の改善のた めに近年着目されている「評価・改善・発展」のサイ クルにおける評価に焦点を当てて,評価に含めて解釈 できる行為を具体的に明らかにすることを通して,評 価について指導していくための示唆を得ることを目的 とする。  そのために数学の創造過程を記述している『証明と 論駁』(Lakatos,1976)に基づいて考察していく。 1.2 研究方法  前述の目的を達成するために本研究では文献解釈を 中心にした理論的考察によって解決する。  先行研究において「改善や発展」の場の設定に留ま り,評価とは何かまで追求して述べられていない。そ こで評価とは何かを教育評価に関する先行研究から考 察を行い,本稿における評価を示す。  数学的探究における数学的な特性を考慮するために 数学自体を考察の対象としている数理哲学に着目す る。本稿では,Lakatosの「可謬主義」に注目する。 Lakatosの主著『証明と論駁』(Lakatos,1976)は本 稿において焦点を当てている証明を大きく扱ってお り,可謬主義は非形式的で準経験的な数学が成長して いく過程を描写することを目的としているものである から,数学の研究における数学者の取り組みや数学が 作られていく過程の一端を学校における数学的な探究 に反映させることが期待されている(小松,2011)。 教育評価の先行研究から考察した本稿における評価 (以下,本稿における評価)に照らすことで,Lakatos (1976)に記述されている探究的な活動において各個 人が行う評価を見出すことが期待される。本稿におけ る評価の捉えに照らしてLakatos(1976)が描いた数 学者たちによる数学の創造過程に垣間見える評価の側 面を考察し,探究的な活動における評価の具体的な姿 や評価の思考過程における位置づけを考察していく。 2 証明に対する評価 2.1 評価  証明における評価の姿を捉えていくために,そもそ も評価とはどんな性格を持つのか整理していく。  教育の場において,評価という言葉は非常に多岐に 亘る意味合いを持ち,さまざまな場面で用いられてい る。たとえば,評価の意味する具体的操作の観点か ら,梶田(1992)は大きく4つに区別している。  ①実態把握:問題となる領域について多くの情報を 集める。  ②測定:学習者の特性を数値的に表示する。  ③狭義の評価(目標到達性の把握):学習者の達成 度を表示する。  ④査定:ある基準に基づき価値を値踏み,表示する。  たとえば梶田(1992)によれば,知能検査が測定的 な性格を持つだけではなく,教育活動の連携において 査定的な意味合いで利用されることは少なくないと指 摘し,必ずしも個々の具体的評価活動と1対1の対応 があるわけではない。また実態把握は②,③,④の意 味として必ずしもこだわらない。このように評価は実 態把握の側面や価値付ける側面を含むなど評価を指す 意味合いは幅が広い。  さらに「評価」を行う主体(例えば教師,子どもや 研究者等)やその主体が「評価」する対象(例えば学 習状況,成績,カリキュラム,子どもの情緒面等)も 多岐にわたる。特に評価の主体を生徒に限定すれば, 自己評価といわれる。この自己評価に関して,評価の

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65 『証明と論駁』から見た数学的探究における過程 対象として「認知面」と「情意面」が対象とされてき た(梶田,1992)。このように主体を限定しても対象 は一つに定まらない。そこで本稿における評価とは何 を指すのか主体,対象や範囲等をより明確化していく 必要がある。  鹿毛(2000)は評価を二種類に大分している。一つ 目は「価値づけのための評価」である。価値づけるた めの評価はその下位側面として,評価対象の実態を捉 えるための「把握」の段階とその把握を基にした当事 者の基準による善し悪しが含まれた「判断」の段階が あるとしている。二つ目に「問題解決としての評価」 を挙げている。この評価について,把握し判断したも のが必ずしも最終的な目的にならないことを指摘し, 価値判断としての評価と区別している。そして「問題 解決としての評価」には,「価値判断としての評価」 を基に次の行動につなげていく「活用」の側面がある こと(鹿毛,2000)を述べている。「問題解決として の評価」のプロセスは「把握(捉える)→判断(意味 づける)→活用(生かす)という三つの心理的作業か らなる思考」(鹿毛,2000)であり,活用した結果を 再び把握,判断をし活用していくサイクルを形成す る。これは当事者が問題を解決するまで循環する(鹿 毛,2000)。このことから「問題解決としての評価」 の目的としては,よりよく問題を解決することである ことがうかがえる。また鹿毛(2004)は「問題解決と しての評価」(鹿毛,2000)の「活用」の側面を自己 調整機能の一部と捉え,精緻化し「目的追及としての 評価」として再構築している。そして評価的思考モデ ルとして図式化を行っている(図1)。  評価的思考モデルは大きく「解釈フェイズ」と「活 用フェイズ」の2つのフェイズに分けられる。「解釈 フェイズ」とは実態の把握や当事者の基準を基に判断 する把握や判断をまとめて指している。また「活用 フェイズ」とは,「解釈フェイズによって生み出され た情報を基準と照合しながら目標追及のための新たな 情報を得て(調整),それに基づいて構想し,行為を 生み出していくような一連の思考プロセス」(鹿毛, 2004)としている。評価を意識的に行っていることも あるが,評価は必ずしも表面化されているとは限ら ず,無意識のうちに行っていることが多く,また各人 により揺らぎがある(鹿毛,2000)。これらのことか ら評価を観察するときの困難性が示唆される。 2.2 数学的探究における評価  数学教育では,新しい指導観・学習観の台頭によ り,目標に準拠した評価や個人内評価,指導と評価の 一体化等,評価の枠組みにも新たな視点が含まれるよ うになった。また評価の主体が生徒であるものについ ては,ふり返ること,自己評価,反省,メタ認知と して問題解決学習で重視されてきた(清水・山田, 1997)と指摘されている。しかし国内論文検索サイト のCiNiiやGoogle scholarにて「自己評価」,「認知」, 「証明」を含む検索ワ―ドを組み合わせて数学教育に 関する情報を抽出した結果(2020/9/13現在)にお いては,子どものメタ認知,証明を書く時の困難性や 子ども情意面(たとえば,おもしろかった・頑張りた い等)の評価方法に関するもの等が挙がった。また証 明について評価する(よむ)対象や目的に関するもの はいくつか見られたが,証明を評価する際の認知的な 視点について明確に記されているものは見られなかっ た。  主な学校数学における探究的な学びについての研究 では,「評価・改善・発展」のサイクルが重要視され (宮﨑ら,2012),評価し改善/発展していくことが求 められている。そこでは評価は改善し発展されるとい う次の行動に移していく働きをもつものとして位置付 いている。すなわち「評価・改善・発展」のサイクル における「評価」は現状を判断するだけではなく, 改善/発展を視野に入れた「活用」の側面が含まれる ことが必要不可欠なものとなっていると考えられ,鹿 毛(2000)による「問題解決としての評価」の捉えに 通ずるところがある。また生徒による自律な探究の実 現が期待されている「課題探究として証明すること」 図1 評価的思考モデル(鹿毛,2004)

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の一連の研究(cf. 宮﨑・藤田(2013),宮﨑(2014)) では,証明に対して行う評価/改善/発展の具体的な 例はいくつか示しているものの,評価/改善/発展と は何たるか明確に示していない。  そこで本稿では鹿毛(2000,2004)を参考にし評価 を以下のように捉える。 『生徒が評価対象を把握し,それを判断したり調整す ること』  鹿毛(2004)は評価的思考モデルとして図1を定め ており,基準を軸として五つの項目(行為,把握,判 断,調整,構想)を位置づけている。これは思考過程 を記述したモデルであって評価のみを取り出してモデ ル化を行っていない。鹿毛(2004)は評価には「価値 づけのための評価」と「目的追及としての評価」があ ると述べていることから,その構成要素である「把 握」や「判断」,「調整」,「構想」が評価の下位側面と して候補に挙げられる。宮﨑らの「課題探究として証 明すること」の三側面に照らすと「構想」や「行為」 は「証明の生成(構想/構成)」に組み込まれている と考えられる。そのため本稿では評価の下位側面とし て「把握」,「判断」,「調整」を位置づけた。  なお本稿での評価は,生徒が行う行為であり,教師 が生徒の学習状況を値踏みするという意味で用いるこ とを意図していない。この評価の内実を詳しくみてみ ると,評価の狭義の意味である「対象について価値が あるか判断する」という営み以外にも,対象の実態を 把握するという捉える観点や次の行為を見据えた調整 の段階の観点が含まれることになる。つまり本稿にお ける評価の下位側面として,対象について「実態を把 握する視点」,「判断し意味づける視点」,「次の行為へ と調整する視点」の三つの側面が位置付く。  この評価の捉えを基にLakatosの主著『証明と論 駁』(Lakatos,1976)に見出すことができる評価の側 面について考察していく。 3 『証明と論駁』における評価の側面  ここでは,まずLakatosの主著『証明と論駁』(Lakatos, 1976)の基本方針について整理し,本稿における評価 の捉えに従って評価の側面を見出し解釈を行っていく ことで探究における評価の観点を顕在化していく。 3.1 『証明と論駁』における基本的方針  まず『証明と論駁』(Lakatos,1976)の内容につい て整理していく。Lakatosは『証明と論駁』の中で可 謬主義の基本的な姿勢について以下のように述べてい る。  「このケース・スタディの核心は数学的形式主義に 挑戦することにあるが,直接数学的独断論の究極的 立場に挑戦しようとするものではない。非形式的・ 準経験的数学が議論の余地なく確立された定理の数 的な単調増加によって成長するのではなく,思索と 批判,証明と論駁による推量の不断の改良を経て成 長する,という点を練り上げるのがささやかな目的 である。」(Lakatos,p.5)  Lakatos(1976)は,今日のような形式的に公理か ら演繹された数学において議論するのではなく,非形 式的・準経験的といった数学が創造してきた過程に当 たる部分に着目して議論している。すなわち完成され た数学においてではなく,完成されゆく過程に着目し ているのである。そのような未熟な過程においては誤 り得ることは少なくはない。そのような場において, 非形式的・準経験的数学が成長していく過程を描写す ることを目的として提唱されたのが可謬主義である (小松,2011)。Lakatosは数学史上の実際の出来事を 合理的に再構成している。『証明と論駁』では,主に 二つのケーススタディが取り上げられている。一つ目 はEulerの多面体定理に関するデカルト・オイラー予 想についてであり,仮想の生徒と教師との会話形式で 展開され,時折,注釈で歴史的事実を補足している。 二つ目はサイデルによる一様収束の証明を題材にした ものであり,その証明や反例,証明分析や修正等が行 われている。『証明と論駁』では,反例や間違いを契 機として,探究的な側面の深まりや証明や推測の発展 性が描かれている。  『証明と論駁』の第1部として描かれているEulerの 多面体定理に関するデカルト・オイラー予想とは以下 のような主張である。「すべての多面体に対してV- E+F=2が成り立つ。ただしV,E,Fはそれぞれ 頂点,辺,面の数である。」この主張に対して,教師 が証明を与えるところから物語が展開されていく。  Lakatosはそうした中でEulerの多面体定理をめぐる

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67 『証明と論駁』から見た数学的探究における過程 デカルト・オイラー予想の証明を題材にして発見的規 則を提唱している。  規則1.推測を得たら,それの証明に着手し論駁せ よ。あたりまえではない補題のリストを準備するた め証明を深く点検せよ(証明分析);推測に対する 反例(大局的反例)と疑わしい補題に対する反例 (局所的反例)を見出せ。  規則2.大局的な反例が推測を放棄させてしまうよ うなら,証明分析に反例で論駁されてしまう適当な 補題を加え,放棄された推測をその補題を条件とし て組み込んでいる改良された推測で置き換えよ。論 駁をモンスターとして片付けるな。すべての「隠れ た補題」を明らかにせよ。  規則3.局所的反例を得たなら,それがまた大局的 反例でないかどうか点検せよ。もしそうなら,容易 に規則2が適用できる。(Lakatos,1976,p.50)  規則4.局所的であるが大局的ではない反例を得た 時には,反証されない補題で論駁された補題を置き 換え,証明分析を改良せよ。(前掲書,p.58)  この「証明分析」(補題のリストのことを指す)は, 証明部分におけるあたりまえではない補題をリスト アップするために証明を注意深く点検すること必要と しており,この証明分析によって,証明がいくつかの 補題に分かれることになる。このように1つの証明が 複数の部分へと分解されることによって,反例を見出 す機会(対象)を増やすことができると推察される。 証明分析を行うことによって,反例や「隠れた補題」 が顕在化されて,事柄(推測)や証明の不確かさを明 確にできる。この発見的規則に現れる証明分析の作成 過程では,証明に対して現状を注意深く捉え,判断し 改善や発展につなげていくことが意図されている。 Lakatos(1976)において「証明分析は非形式的数学 において,「証明分析」は重要な位置を占める(編集 者註;Lakatos,1976,p.126)」と述べられているこ とからも,証明分析が欠かせないことは見て取れる。  この証明分析の過程は,本稿における評価の捉え 「生徒が評価対象を把握し,それを判断したり調整す ること」に合致するものである。このことから評価は 探究的な活動において重要視されていることが推察で きる。それゆえLakatos(1976)における証明分析の 過程を探ることで証明の評価の側面の顕在化が期待さ れる。 3.2 『証明と論駁』において得られる評価の側面  まず事例を本稿における評価の捉え「生徒が評価 対象を把握し,それを判断したり調整すること」を 基に,「実態を把握する視点」,「判断し意味づける視 点」,「次の行為へと調整する視点」の3側面に分類 する。次にLakatosの主著『証明と論駁』(Lakatos, 1976)における評価を行っていると考察される事例を 解釈し具体的な評価の観点を見出だしていく。  Lakatos(1976)において,改善や発展の起源と なっている反例に関して,反例であるかの判断を行っ ている以下のような場面がある。  (多面体についての定義についての議論が繰り返さ れた後)  「生徒Α 1つあります。このような額縁(図9)を 考えて下さい。これはこれまでに提起されたどの定 義によっても多面体ですが,頂点,辺,面を数えれ ばV-E+F=0であることがわかります。」(p.19)  (引用部における図9[Fig. 9]は原文のまま)  上記の「額縁」という例について,生徒Αは先に提 起された各定義に従って反例になるかを判断してい る。この一連の思考を本稿における評価の捉えに照ら して考察していく。まず提示された「額縁」という例 に対して,生徒Αが反例の要件を満たすかどうかを (先に提示された)多面体の各定義に沿って参照し, 例について捉えていることが伺われる。このことから 生徒Αが対象についての状況を把握しようとしてお り,評価の3側面のうちの「実態把握する視点」に該 図2 額縁(Lakatos,1976,p.19)

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当する評価の側面であると考えられる。さらにこの実 態把握で得られた情報に従って,その例が反例である という判断を加えている。この事例を鹿毛(2004)の 「評価的思考モデル」に照らせば判断の段階に位置付 く。つまり本稿における評価の三側面のうち「判断し 意味づける視点」に該当する。  さらに別の事例について考察してみる。以下の事例 はEulerの多面体定理に関するデカルト・オイラー予 想に対して教師が証明を与え,生徒たちにより論駁が 行われている途中の場面である。  「生徒Γ 私は先生の観察がそんなに取るに足らな いものであったとは思いません。実際,手が込んで ました。このことを明らかにするためにそれが誤り であると示します。立方体の平らな網状組織を再び 考え,10の三角形のうち8つを図4(引用者注;図 4[Fig.4]は本文のまま)の手順で除きます。そ の時境界三角形の8番目を取り除く際に,私たちは 確かに2つの辺を除きましたが,頂点は1つも取り 除いていません。そこで2つの非連結三角形9,10 が残されることになりました。  教師 えーと,境界三角形ということでその三角形 を取り除く際に,網状組織を非連結にしないことを 含意したつもりであったといって面目を立てたいと ころですが,知的誠実性によって,「つもりだった ……」という文からはじめることで立場を内密に変 更することをやめます。そこで今度は三角形を取 り除く操作に関する第2の文を第3の文:三角形 をV-E+Fが変わらないように1つ1つ取り除 く,で置き換えなくてはならないことを認めます。」 (Lakatos,1976,pp.11-12)  この一連のやり取りに対して,本稿における評価を 照らし合わせてみると,生徒Γによる「私は先生の観 察がそんなに取るに足らないものであったとは思いま せん。実際,手が込んでました。」から取るに足らな いものではないという,教師が行った解決策に対して 価値をある程度認めていることがうかがえる。これは 証明のアイデアに対して価値判断を行っており,本稿 における評価の「判断し意味づける視点」に該当す る。  また教師の発言に着目すると「(前略)境界三角形 ということでその三角形を取り除く際に,網状組織を 非連結にしないことを含意したつもりであった」と論 駁された箇所を正確に捉え,考えの非を認めている。 さらにこの実態把握し判断する段階を踏まえ,「三角 形を取り除く操作に関する第2の文を第3の文:三角 形をV-E+Fが変わらないように1つ1つ取り除 く,で置き換え」ようと改善策を提示している。すな わち鹿毛(2004)による「活用フェイズ」の段階に位 置付き,「構想」の段階であると考えられ,この一連 の思考過程には「調整」の段階が内在されている。こ れは評価の下位側面である「次の行為へと調整する視 点」として捉えることができよう。 3.3 評価の観点の導出  次にLakatosの主著『証明と論駁』(Lakatos,1976) から具体的な評価の観点を見出だしていく。詳しく述 べれば,生徒が自律的に探究を進めていくときには, 思考を回していくための視点が必要になるだろう。そ のために何を問いとして考え,行った評価であるのか を見出していく。  まず一つの事例として上述で挙げた「額縁」(図2) の例を再考してみる。この事例からは「実態把握の視 点」と「判断し意味づける視点」にそれぞれに分類さ れる二つの評価を見出すことができた。まず,「実態 把握の視点」として,反例の要件を満たすかどうかを (先に提示された)多面体の各定義に沿って参照し, 例について捉えることを挙げた。この場面では,提示 された例が定義に合致しているか否かを見ている。そ こで評価の観点として,「定義に合致しているか?」 を見出すことができる。また「判断し意味づける視 点」については,実態把握で得られた情報に従って, その例が反例であるという判断を加えていることを挙 げた。『証明と論駁』では上記で記した「額縁」以外 にも反例について言及している箇所が見られる。たと えば,架空の教室の中でのやり取りの中で生まれた多 図3 Lakatos(1976)における図4[Fig. 4](同書,p.11)

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69 『証明と論駁』から見た数学的探究における過程 面体の定義を満たすものとして「円柱」を反例として 紹介する場面がある(Lakatos,p.22)。この「円柱」 という例は,生徒⊿によって多面体ではないと否定を されている(前掲書,p.22)。これらのやり取りに見 出されるように反例であるか否かを問いとして評価を 行っていると解釈できる。そこで評価の観点として 「反例であるか?」を位置付ける。  教師が提示した証明について生徒が論駁を行ってい る事例(前掲書,pp.11-12)では,二つの評価の姿が 見出すことができた。一つ目は生徒Γによる教師が 行った解決策に対する価値判断である。この評価の観 点を「価値のあることは何か?」として位置付ける。 二つ目に,生徒Γによる指摘を踏まえ,教師が改善策 を提示するという「調整」の段階が内在した「次の行 為へと調整する視点」の評価である。教師は「三角形 を取り除く操作に関する第2の文を第3の文:三角形 をV-E+Fが変わらないように1つ1つ取り除く, で置き換え」ようと改善策を提示している。ここでは 生徒Γによる指摘を踏まえて判断し,どの箇所を改善 していけばよいか「調整」を図り,具体的に三角形を V-E+Fが変わらないように1つ1つ取り除くとい う改善を行っている。つまり「調整」の段階として 「どこを改善していけばよいか?」ということが観点 として考察される。  上記のように評価の捉えに照らして解釈していくと 上述で示した評価の観点の他にも,以下に記すような 評価の観点が得られる。括弧内はその評価の観点にお ける対象となるものを表している。上述のもの以外の 観点の導出過程は別項にて資料として付した。 #1 特徴を明確にしているか?(証明のアイデア, 考察対象) #2 一般に成り立つか?(推測,証明) #3 価値のあることは何か?(証明のアイデア,反 例) #4 どこを改善していけばよいか?(推測,証明 [一部/全体]) #5 疑わしい箇所はどこか?(証明) #6 どこに対する反例か?(推測,証明) #7 諦めるべきか?(証明の方針,表現) #8 真偽はどうか?(証明,推測) #9 用語が表していることは何か?(知識) #10 定義に合致しているか?(例,反例) #11 反例であるのか?(反例) #12 妥当であるのか?(改善/発展の方法,言語表 現) #13 思考と表現は整合性が取れているか?(知識, 証明部の表現) #14 反例はあるか?(推測,証明) #15 推測を満たす要素は何か?(推測を満たす要素)  上述のこれらは,いずれもLakatos(1976)のEuler の多面体定理に関するデカルト・オイラ―予想を題材 としたケ―ススタディから得たものである。このこと から評価の多様な姿が推察できる。次章でこの多様な 評価を類別し整理していく。 4 評価の思考過程による位置付け  子ども自身が行う評価を自己評価と呼ぶが,この 自己評価に関して,規準となる目標基準を設けるこ とや,他者の存在の必要性が各所で述べられている (たとえば梶田(1992),田中(2008),矢部(1998) 等)。評価は必ずしも表面化されているとは限らず, 無意識のうちに行っていることが多い(鹿毛,2000) ことから,評価を見出し,図式化することによって評 価に関して無意識的に行われていた可能性のある部分 に光を当てて指導にいかすことが期待できる。 4.1 評価の類別  上述のLakatos(1976)から得られた評価の観点を 評価の際に使われる動詞で振り分ける。動詞で分ける ことにより,評価に際して具体的に何をすることが評 価にあたるのか明確化されることが期待できる。この 観点により上述の観点#1から#15を類別していく。  #9は用語(言葉)の解釈を行っている場面から得 られたものである。#5「疑わしい箇所はどこか?」 や#14「反例はあるか?」,#6「どこに対する反例 か?」では問題を焦点化し問題の核心を明らかにしよ うとしていることが読み取れる。Lakatos(1976)に おいては反例は改良のきっかけになることを指摘し (p.37),論駁することを推奨している。#5について は,例えば打ち立てた推測が論駁されたことをきっか けに推測を打ち立てるときに考慮に入れた図形につい

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て再考する場面があり,図形の特徴を捉えなおす姿が 描かれている。これらの観点は考察対象を見直し,そ の性質や特徴を捉え焦点を当てている。  このことから,#9は他の「実態を把握する視点」 に振り分けられる評価の観点とは異なった性質を有 していることが読み取れる。そこで「解釈フェイズ」 (鹿毛,2004)の「解釈」と区別するために,この項 目を「言葉の解釈」と定める。  #1,#5,#6,#14のいずれも改善や発展を行 うきっかけとなる箇所を特定もしくはある部分に焦点 化している場面である。これを「特定」として項目を 設定する。  #2,#8,#10,#11,#12,#13,#15に関し て,これらの観点が見出された場面では,証明や推 測,反例等の妥当性を吟味を行っている。そもそも吟 味という言葉は「物事を念入りに調べること。また念 入りに調べて選ぶこと。」を意味する。この吟味の意 味に即して考察すると,吟味という言葉は判断のため の必要な情報を収集するという意味と解釈できる。こ のことから本稿における評価の「実態を把握する視 点」に位置づくことが推察される。これらを「吟味」 という項目として位置付ける。先ほど確認したように 吟味という言葉は判断のための必要な情報を収集する という意味と解釈されるため,判断と非常に近い関係 にあることがうかがわれる。そのため,判断との明確 な線引きは非常に困難である。実際この線引きによる 分類のうち「判断し意味づける視点」に振り分けられ た観点は,#2,#8,#11,#12である。そこで項 目「吟味」は実態把握の側面と判断の側面の両面持つ ものとして本稿では扱い分類していくことにする。  また#3に関して,例えば証明のアイデアの巧みさ や提示された反例に対して決して破壊的ではなく改良 のために価値のあるものであるとそのものについて価 値付けを行っている。これを「価値付け」の項目とし て位置付ける。何を価値付けるのかということは評価 を行う行為者の基準によるところが大きい。通常,反 例は破壊的な側面をもつ恐ろしいものであるが,反例 が改良のきっかけとなるということを見出し,改良の きっかけを作ることが反例の価値の1つとして見なす 者もいる(Lakatos,1976,p.22)。  最後に「次の行為へと調整する視点」に振り分けら れた#4,#7については,証明や推測について論駁 し,その状況の捉えや判断を基に次の行動に向けて自 らの行為の構想をし方向付けるために調整するものと しての性格を有する。これを「方向付け」という項目 に位置づける。以上より評価の具体的な観点は五つ の項目「言葉の解釈」,「特定」,「吟味」,「価値付け」 「方向付け」への分類ができる。 4.2 評価の項目の位置付け  以上の議論を踏まえて,評価の項目を思考過程に位 置付けて整理していく。鹿毛(2004)による評価的思 考モデルを参考に評価を整理すると,評価の思考過程 における位置付け(図4)が見出せる。  鹿毛(2000)は「把握(捉える)→判断(意味づけ る)→活用(生かす)という三つの心理的作業からな る思考」と問題解決としての評価を捉えており,この 心理的作業の順序性が認められる。これに対して評価 の項目のうち「言葉の解釈」,「特定」,「吟味」には順 序性は定まっていない。例えば,図4では項目「特 定」が項目「吟味」よりも左に位置づいているが,実 際,吟味を行ったことで疑わしい箇所を特定すること が十分に考えられるためである。  図4に示した構成要素について,注意を挙げてい く。図4における「調整する視点」とは,評価の捉え の下位側面「次の行為へと調整する視点」のことを指 す。  この枠組みは鹿毛(2004)による図1から一部の要 素を抜き出し,『証明と論駁』(Lakatos,1976)から 考察された評価の項目を対応付け構成したものであ る。また実際の思考過程はより複雑に各要素が作用し あうことに留意されたい。なお評価的思考モデル(鹿 毛,2004)の一部について着目し示しているが,事象 本来は循環し形成される一連の思考過程である。  評価の類別や評価の思考過程における位置付けを整 理したことで,数学的な探究的な活動における評価を 行うというときに期待される認知的行為が一部である 図4 評価の思考過程における位置づけ

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71 『証明と論駁』から見た数学的探究における過程 かもしれないが明確になった。今まで一部無意識下に あった評価に光を当てた意識的な指導が可能になるこ とや教師が生徒の状況を見取ることの支援に寄与する 部分があると想定され,生徒の自律的な学習の一助と なることが期待される。  証明や推測(事柄)に対する改善や発展を図ってい く中においては,評価における実態把握や判断の側面 が不可欠であるが,意識的に行われていることは多く ない。これらの観点が意識的になされることで自律的 な学びの実現が期待できる。実際の教育現場において 生徒が自律的に自己や証明を評価することの実現は理 想とされるところであるが,多くの場合では当初から はうまく成立しないことが予想される。そのため生徒 の自律的な姿勢の育成のためには,教師による生徒の 見取りや「状況を捉える」という意味を含んだ広い意 味での評価に関する意図的な指導,そして生徒同士で 評価できるような基準の設定が必要不可欠であること が想定される。 5 まとめと今後の課題  本稿では,数学的な探究の姿が描写されている Lakatosの主著『証明と論駁』に表れる評価の側面に ついて考察した。  本稿における知見は次の三つである。一つ目に先 行研究における評価を捉えなおすことを通して, Lakatosの『証明と論駁』から見出される数学的探究 において必要な評価の五つの項目を文献解釈により明 らかにしたことである。二つ目に「評価」に対して価 値判断としての評価という側面以外に「把握」という 評価の側面を位置付け,その具体的な姿を例示を行っ たことである。三つ目に思考における五つの項目の位 置づけも示すことが可能になり指導への示唆が得られ たことである。  Lakatos(1976)における評価の側面は証明分析の 作成過程に特に表れており,評価についてLakatosが 重要視していたことがうかがえる。本稿ではLakatos の主著『証明と論駁』に表れる評価の観点を顕在化し たが,リストに挙がった評価の観点は,評価と見なす べきすべての評価を包括的に捉えているわけではな い。また本稿において顕在化した評価の五つの項目に ついては,各項目のラベリングの妥当性や吟味の項目 に代表されるように把握の側面と判断の側面が非常に 近く,境界線によって明確にその二つを線引きするこ とが難しいものがあり,明確にすることが課題であ る。  意図的な指導や生徒同士による評価の基準の作成等 に関する授業の充実化に向けた具体的な授業化を図っ ていくことは,評価の項目の分類についての考察と同 様に今後の課題である。 参考文献 ・鹿毛雅治(2000)『教育評価を考える―抜本的改革への提 言』,長尾彰夫・浜田寿美男(編),ミネルヴァ書房 ・鹿毛雅治(2004)「教育評価再考―実践的視座からの展望―」, 心理学評論Vol.47 No.3,pp.300-317 ・梶田叡一(1992)教育評価〔第2版補訂2版〕,有斐閣双書 ・小松孝太郎(2011)「ラカトシュの可謬主義から見た数学的 探究とその教育的意義」,科学教育研究35,3,pp.272-286 ・Lakatos, I. (1976). Proofs and refutations : The logic of

mathematical discovery. Cambridge, UK: Cambridge University Press. ・宮﨑樹夫,永田潤一郎,茅野公穂(2012)「中学校数学にお ける課題探究として証明学習カリキュラムに関する研究―カ リキュラム開発のための枠組みの構築―」,日本数学教育学 会 第45回数学教育論文発表会論文集,pp.887-892 ・宮﨑樹夫,藤田太郎(2013)「課題探究として証明すること のカリキュラム開発―我が国の中学校数学科における必要性 と,これまでの成果―」第1回春期研究大会論文集,日本数 学教育学会,pp.2-9 ・宮﨑樹夫(2014)「数学的事象に関する課題探究を実現する 学力とその可能性―「活用する力」βへの提言―」第3回春 期研究大会論文集,日本数学教育学会,pp.27-34 ・田中耕治(2008)『教育評価』,岩波書店 ・清水紀宏・山田篤史(1997)「数学的問題解決における自己 参照活動に関する研究(Ⅰ)―自己参照活動の捉え方につ いて―」,全国数学教育学会誌 数学教育学研究 第3巻, pp.47-58 (にしの ゆうすけ)

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参照

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