Ⅰ.はじめに 近年の高齢者保健対策は,介護を要する高齢者の増 加に対応するため,平成12年度に「介護保険法」が施 行された。さらに,「今後5か年間の高齢者保健福祉 施策の方向(ゴールドプラン21)」が示され,介護予 防と自立生活支援が求められている1)。平成18年度か らは介護保険制度の見直しに伴い,市町村で介護予防 事業(65歳以上の高齢者を対象にした健康診査,運動 機能の向上,栄養改善等),包括的支援事業(介護予 防事業のマネジメント,総合相談・支援事業),その 他の支援事業(介護給付費適正化事業,家族介護支援 事業等)といった様々なサービスを実施することが求 められている2)。しかし,山間過疎地域では,医療施 設や社会資源等の不足から,地域の特性に応じたきめ 細かなサービスを実施するのは難しい現状にある。 群馬県にあるN村は,起伏の多い山間過疎地帯で, 老年人口割合52.2%(平成17年10月現在)と,高齢化 率が県内で1番高い村である。また,村内にスーパー マーケットや医療施設はなく,買い物や通院をするた めには近隣の市町村まで行かなければならない。特に 高齢者は心身機能の低下により,日常生活や通院の困 難が生じやすく,閉じこもり,生活困難感,社会不参 加が生じやすい。そういった問題に対処するために, N村,N村を管轄するT保健福祉事務所,G大学との 連携により,平成15年度には「65歳以上の高齢者の生 活実態調査」を実施している。また,平成16年度には, 健康増進計画策定を行った。さらに,平成16年度から は,これまでの経緯をふまえて「過疎地域における高 齢者地域交流ネットワーク事業」を立ち上げ,高齢者 の閉じこもりの防止,生活困難感の解消,社会参加の
山間過疎地域における高齢者の転倒予防・閉じこもり
予防教室実施前後の転倒関連要因の変化
中 山 かおり
1)臼 田 滋
1)佐 藤 由 美
1)山 田 淳 子
1)沼 田 加 代
2)根 岸 恵 子
3)佐 藤 和 子
4)白 井 久美子
5)齋 藤 泰 子
6) (2006年9月30日受付,2006年12月11日受理) 要旨:本研究の目的は,「第1回高齢者パワーアップ教室」と「第3回高齢者パワーアップ教 室」における「転倒予防自己効力感尺度」「身体機能測定値」「転倒リスクアセスメント」「日 頃の仕事や家事」「運動習慣」「転倒経験」の変化を明らかにし,山間過疎地域で生活する高齢 者の転倒予防について,支援の方向性を検討することである。研究対象は,第1回と第3回の 両方の「高齢者パワーアップ教室」に参加した14名である。調査内容は,身体機能4項目,骨 密度測定,転倒リスクアセスメント14項目,転倒予防自己効力感尺度10項目,仕事や家事によ る身体活動,運動習慣,転倒経験である。 その結果,日頃からよく身体を動かしており,移動能力の向上が認められたが,その一方で, 転倒予防に欠かせない調整力が低下していることが明らかとなった。また,服薬や日頃からの サンダルやスリッパの使用で「転倒リスクあり」の割合が高いことが明らかとなった。このこ とから「調整力の維持・向上につながる運動プログラムの提供」「履物や服薬等による転倒予 防の危険性についての情報提供」を盛り込んだプログラム実施の必要性が示唆された。 キーワード:山間過疎,高齢者,運動機能,転倒 1)群馬大学医学部保健学科 2)群馬大学大学院医学系研究科 3)南牧村役場 4)高崎保健福祉事務所 5)富岡保健福祉事務所 6)武蔵野大学看護学部促進に取り組んでいる。「高齢者パワーアップ教室」 は,この事業の一環として「高齢者が集まる機会づく り」と「転倒予防」を目的として実施された。 本研究では,「高齢者パワーアップ教室」に参加し た「第1回」と「第3回」の参加者の「転倒予防自己 効力感尺度」「身体機能測定値」「転倒リスクアセスメ ント」「日頃の仕事や家事」「運動習慣」「転倒経験」 の変化を明らかにし,山間過疎地域で生活する高齢者 の転倒予防について,支援の方向性を検討した。 Ⅱ.研究方法 1.対象地域の概要 N村は,群馬県の南西部に位置し,総面積は119h で,相対的に起伏の多い山間地帯である。人口は, 3,044人(平成18年4月現在),老年人口割合52.2% (平成17年10月現在)と,高齢化率が県下第1位であ る。高齢化および過疎化がすすんでおり,今後も福祉 サービスの充実が望まれている村である。 2.「高齢者パワーアップ教室」の概要 「高齢者パワーアップ教室」は,第1回を平成17年 3月11日,第2回を平成17年11月10日,第3回を平成 18年3月8日に実施した。会場は,参加者が徒歩でも 集まりやすい地域の公民館とした。教室の概要を表1 に示す。第1回では,高齢者の運動機能の実態把握を 行った後に,健康教育として,健康増進計画の周知, 健康の秘訣についての話し合い,万歩計の配布を行っ た。第2回では,運動についての講話,健康増進計画 の周知,健康体操を実施した。第3回では1年を経過 した高齢者の運動機能の実態把握を行った後に,健康 体操を実施した。 この教室に関わったスタッフは,N村保健師,N村 を管轄する保健福祉事務所保健師,G大学看護学専攻 と理学療法学専攻の教員と学生・大学院生が行った。 また,第1回ではN村のマイクロバスで送迎を行った が,第2回からは,地域の推進員がボランティアで参 加者の送迎を行った。 3.研究対象 N村に居住する60歳以上の高齢者で第1回と第3回 の両方に参加した14名を対象とした。 4.データ収集方法 1)調査方法 「高齢者パワーアップ教室」において,高齢者の運 動機能の実態把握を行った。簡便で高齢者にも理解し やすく,安全な方法を選択し,実施した。 2)調査内容 (1)対象者の概要 ①基本属性,②現疾患の有無とその内容,③身体 症状の有無とその内容 (2)運動および転倒に関する状況 ①仕事や家事による身体活動の内容,②運動の頻 度とその内容,③1年間の転倒経験とその内容,④ 転倒リスク14項目(厚生科学研究所,転倒リスクア セスメント)3),⑤転倒予防自己効力感尺度10項目 (征矢野,2002)4) (3)身体機能検査 ①片足立位保持時間テスト5) 両手を腰において床上に直立した姿勢をとり, 片足をあげた時点から非軸足が床に着いた時点ま での時間を,市販のストップウォッチで計測した。 手が腰から放れた場合,軸足が動いた場合も,バ ランスが崩れたとしてそこで測定を終了する。 ②FRT(Functional Reach Test)6)
両足を肩幅程度に開いて立位をとり,一側上肢 を90度挙上した状態から,踵を上げずにできるだ け遠くに手を伸ばした時の距離を計測した。 ③TUG(Timed Up and Go Test)7)8)
椅子に腰掛けた姿勢から,合図とともに立ち上 がって3m歩行して180度方向転換し,再度3m 歩行して椅子に腰掛けるまでの所要時間を,市販 のストップウォッチで計測した。 ④膝伸展筋力テスト 等尺性筋力測定装置μTasMF-01(アニマ社製) を用いて,椅座位(膝関節90)で膝伸展筋力を測 定し,この値を体重で除して,体重比を算出し た。 ⑤骨密度測定 超音波骨密度測定装置CM-100(ヤガミ社製) を用いて,踵骨Stiffness値を測定した。 5.分析方法 1回目と3回目の「高齢者パワーアップ教室」にお ける「日頃の仕事や家事」「運動習慣」「転倒経験」 「転倒リスクアセスメント」の変化について,順序尺 度にはWilcoxonの符号付順位検定を,名義尺度には McNemar検定を行った。また,1回目と3回目の 「高齢者パワーアップ教室」における「転倒予防自己 効力感尺度」の変化について,Wilcoxonの符号付順 位検定を行った。身体機能測定値については,性別に より差の有無をみるために,「第1回高齢者パワーア ッ プ 教 室 」 の 身 体 機 能 測 定 値 と 性 別 と で M a n n -Whitney検定を実施した。また,対象者の身体機能測 定値の年齢による差の有無をみるために,年齢を「前 期高齢者」と「後期高齢者」の2群にわけ,「第1回 高齢者パワーアップ教室」の身体機能測定値でMann-Whitney検定を実施した。1回目と3回目の「高齢者 パワーアップ教室」における「身体機能測定値」の変 化については,Wilcoxonの符号付順位検定を行った。 統計的分析には,SPSS11.0J for Windowsを使用し, 有意水準は5%とした。 Ⅲ.結果 1.対象者の背景 対象者の背景を表2に示す。対象者は14名で,女性 11名(78.6%),男性3名(21.4%),年齢は平均74.2± 4.8で,前期高齢者8名(57.1%),後期高齢者6名 (42.9%)であった。職業は自営業0名,農業4名 (28.6%),主婦5名(35.7%),無職5名(35.7%)で あった。また,病院を受診している者は11名(78.6%), 自覚症状がある者は9名(64.3%)であった。 「第1回高齢者パワーアップ教室」での身体機能測 定値について性別による差を検討した結果,有意な差 はなかったので,分析する際に男女統合のデータを用 いた。年齢では,「片足立位保持時間テスト」に「前 期高齢者」「後期高齢者」で差がみられたため,この 項目は「前期高齢者」「後期高齢者」の2群に分けて 分析を実施した。 2.日頃の仕事や家事,運動習慣,転倒経験の変化 日頃の仕事や家事,運動習慣,転倒経験の変化を表 3に示す。日頃の仕事や家事では,1回目と3回目で 有意な差は認められなかった。仕事以外の運動頻度で も,1回目と3回目で有意な差は認められなかったが, ほとんど毎日運動をする者の割合が1回目,3回目と もに8名(57.1%)と60%近く,さらに,時々(1週 間に1−4回程度)する者も合わせると1回目11名 (78.5%),3回目12名(85.7%)であった。よくする 運動でも,1回目と3回目で有意な差は認められなか った。歩く習慣がある者の割合が1回目と3回目とも に10名(71.4%)と70%を超えていた。転倒経験でも, 1回目と3回目で有意な差は認められなかった。転倒 経験については,パワーアップ教室開始前の1年間と, 開始後の1年間で転倒を経験した者がそれぞれ2名 (14.3%)であった。転倒場所は,パワーアップ教室 開始前が「雪で覆われた庭」「お墓」,パワーアップ教 室開始後の1年では「凍結した道路」「用水路に足を 挟めた」と,いずれも屋外での転倒であった。 3.転倒リスクアセスメントの変化 転倒リスクアセスメントの変化を表4に示す。転倒 リスクアセスメントでは,1回目と3回目で有意な差 は認められなかったが,「日常,サンダルやスリッパ を よ く 使 う 」 者 の 割 合 が 1 回 目 5 7 . 1 % か ら 3 回 目 78.6%に,「睡眠薬・降圧剤・精神安定剤を服用して いる」割合が1回目28.6%から3回目50.0%に増加し ていた。また,「転ぶことへの不安は大きい」割合が, 1回目28.6%から3回目14.3%に減少していた。 表2 対象者の背景
表3 日頃の仕事や家事,運動習慣,転倒経験の変化 人数(%)
4.身体機能測定値の変化 身体機能測定値の変化を表5に示す。前期高齢者の 片足立位保持時間テスト(p<0.05),FRT(p<0.05) の2項目で1回目から3回目に有意な低下が認められ た。また,TUG(p<0.01)で有意な向上が認められ た。1回目から3回目の変化では,TUGと膝伸展筋 体重比の2項目で向上した者の割合が60%を超えてい た。また,前期高齢者の片足保持時間テスト,後期高 齢者の片足保持時間テスト,FRTの3項目で低下した 者の割合が80%を超えていた。 5.転倒予防自己効力感尺度の変化 転倒予防自己効力感尺度の変化を表6に示す。転倒 予防自己効力感尺度の「座る,立つ」(p<0.05), 「簡単な掃除」(p<0.05),「簡単な買い物」(p<0.05) の3項目で「大変自信がある」者が増え,有意な差が 認められた。その他の項目でも,有意な差は認められ なかったが,1回目から3回目の変化では,自己効力 感が低下している者の割合は0∼20%にとどまってい る。 Ⅳ.考察 1.「第1回高齢者パワーアップ教室」と「第3回高 齢者パワーアップ教室」における変化 1)日頃の仕事や家事,運動習慣,転倒経験 日頃の仕事や家事と運動習慣の変化では,1回目と 3回目で有意な差は認められなかったが,掃除や畑仕 事といった仕事や家事を行っている者の割合は,70% を超えていた。また,仕事や家事以外でも,1週間に 1回以上の運動をしている者の割合が1回目と3回目 ともに70%を超えており,日頃からよく身体を動かす 習慣は維持されている事が明らかとなった。石原9)ら の調査によると,若いときから田畑や山仕事をしてき た山間地域の高齢者のうち,外出群の外出先で最も多 かったのが田畑であった。山間過疎地域の高齢者にと って,掃除や畑仕事が日課であり,それが生きがいに もなっていて,日々の活動意欲につながっていると考 える。また,これまで3回実施した「パワーアップ教 室」の中で,健康増進計画の周知,健康の秘訣につい ての話し合い,万歩計の配布,健康体操の実施等を行 ってきたことが,日頃からよく身体を動かす習慣の維 持や日々の活動意欲の維持に効果を及ぼしていること も考えられる。これらの,日頃からよく身体を動かす 習慣や日々の活動意欲が維持されることによって,身 体機能の維持・向上がはかられ,転倒予防につながる と考える。転倒経験では,パワーアップ教室開始前の 1年間と,開始後の1年間で転倒を経験した者がそれ 表5 身体機能測定値の変化 表6 転倒予防自己効力感尺度の変化
ぞれ2名で,転倒場所は庭,お墓,用水路,道路と, いずれも屋外での転倒であった。また,「雪で覆われ た庭」「凍結した道路」と,雪や凍結のために足を滑 らせて転倒していることが明らかとなった。このこと から,雪が降ったり,道路が凍結している時には,足 元に気をつけて歩行することや,滑り止めがついた靴 の使用を促すことも必要であると考える。 2)身体機能測定値 身体機能測定値の変化では,TUGで有意な向上が 認められている。TUGは椅子から立ち上がり,3m歩 行して180度方向転換し,元の場所に戻って椅子に腰 掛けるものである。対象群を設定していないため推測 に留まるが,この移動能力が向上したのは ,1度 TUGを経験しているといった,測定方法に関しての 慣れと了解が影響を及ぼしている可能性も考えられ る。前期高齢者の片足立位保持時間テストとFRTの2 項目では有意な低下が認められた。さらに,片足立位 保持時間テストでは,2∼3秒程しか片足で立ってい ることができない者もいた。清水ら10)は,調整力(開 眼片足立ち)は,身体のバランスや歩行の調整に関わ る力で身体の安全に関わる11)。調整力は脚の瞬発力と 有意な関係が認められている12)ことから,転びそうに なった時に体幹を維持するほか,歩行中の障害物をよ けるために必要な能力であると述べている。FRTは, 一側上肢を90度挙上した状態から,踵を上げずにでき るだけ遠くに手を伸ばした時の距離を測定したもので あり,身体の柔軟性を評価する指標となる。対照群を 設定していないため推測に留まるが,これらの片足立 位保持時間・柔軟性・調整力に関連する能力が低下し ているのは,1年間の加齢の影響が考えられる。鈴木 13) は「転倒とは“直立歩行からバランスを崩して転ん でしまい,足底以外の体の一部が地面(床面)につい た状況”14)と定義されていることから,転倒は,完全 にバランスを失って体の一部が床面に着いた状態であ り,滑ったり,つまずいたりしてバランスを一時的に 崩しても,元の姿勢に立て直すことができた場合は, 転倒に該当しない」と述べている。このことから転倒 予防には,バランスを一時的に崩した時に,元の姿勢 に立て直す調整力や柔軟性が必要であることがわか る。今回の結果で,日頃からよく身体を動かしている にも関わらず,調整力や柔軟性が低下していることか ら,転倒予防のためには,調整力や柔軟性の維持・向 上につながる運動プログラムの提供と運動継続への支 援が必要であると考える。 3)転倒リスクアセスメント 転倒リスクアセスメントの結果では,1回目と3回 目で有意な差は認められなかったが,睡眠剤・降圧剤 といった薬の服薬と,日頃からのサンダルやスリッパ の使用で「転倒リスクあり」の割合が高いことが明ら かとなった。高齢者は身体的・精神的に老化が進み, 疾病,障害など健康問題を複数抱える場合もある15)。 前回の調査でも,病院に受診している者が多い事が明 らかになっている16)。高齢者が,どのような疾患でど のような種類の薬を服用しているのかを把握し,服薬 による転倒予防の危険性について情報提供をしていく 必要があると考える。また,サンダルやスリッパは靴 やスニーカーよりも,履いたり脱いだりすることが容 易である。しかし,つまずきやすい,脱げやすいとい った特徴がある。しかも,日頃からのサンダルやスリ ッパを使用している者は,1回目では8人(57.1%) であったが,3回目では11人(78.6%)とわずかに増 えている。転倒予防を未然に防ぐために,履きなれた スリッパやサンダルの使用は転倒のリスクが高いこと を高齢者に意識づけ,運動靴等の転倒のリスクが少な い履物の使用を促していく必要性が考えられた。 4)転倒予防自己効力感 転倒予防自己効力感では,「座る,立つ」「簡単な掃 除」「簡単な買い物」の3項目で有意な向上が認めら れた。この3項目以外の項目でも,有意な差は認めら れなかったが,1回目から3回目の変化では,自己効 力感が低下している者の割合は0∼20%にとどまり, 自己効力感を維持・向上をしていることが明らかとな った。河本17)は,「転倒は,身体能力の衰えのみでな く,転倒しやすい生活環境,個々の生活活動度や心理 的な側面などにも影響される多因子による現象であ る」と述べている。転倒予防自己効力感の向上を,心 理的な側面に影響を与えるプラスの面で評価すると, 日頃からよく身体を動かしていることの維持に貢献し ていると考える。また,この「パワーアップ教室」の ような,定期的に仲間と集まり,身体機能の評価を行 うことは,高齢者にとって自信につながり,生活の区 切りや目標になるのではないかと考える。 2.山間過疎地域で生活する高齢者支援の方向性 田原18)らは,高齢者が過疎地域に住み続けることの 意味を検討し,身体的内側性(ある場所の物理的環境 を熟知し,ボディアウェアネスを獲得している状態), 社会的内側性(地域社会の一員であるという認識がア イデンティティと深く関わっているような状況),自 伝的内側性(人生そのものと場所が分かち難く結びつ いている状況)の3側面から考察し,身体的内側性と 社会的内側性との相乗効果が高齢者の社会参加と自立 した生活につながると述べている。また,石原19)らは,
そこに長年暮らしている人にとっては,交通量や坂, 段差が多いことは日常的なことで,研究者らが考える ほど自覚してはいないと述べている。これらのことか ら,一見すると,生活するには不便そうに見える坂や 段差のある地域であっても,そこで長年生活している 高齢者にとっては,住み慣れた居心地がいい場所であ るといえる。今回の調査では,前期高齢者の片足立位 保持時間テストとFRTの2項目で身体機能の有意な低 下があることが明らかとなった。住み慣れた環境とは いえ,加齢による身体機能の変化に適応し,いつまで も自立した生活が送れるようにするためには支援が必 要となる。宮原20)らは,高齢者の運動能力は個人の運 動習慣などの影響が大きく,実年齢よりも若い高齢者 が存在することが考えられると述べている。このこと から,高齢者の身体能力は個人差が大きいということ がいえる。N村は山間過疎地域なため,医療施設や社 会資源等の充足は十分とはとはいえない。しかし,過 疎地域だからこそ,今回の調査で必要性が示唆された 「調整力の維持・向上につながる運動プログラムの提 供」「服薬による転倒予防の危険性についての情報提 供」「運動靴等の転倒のリスクが少ない履物の使用の 促進」について,個別性の高いアプローチが必要であ ると考える。今後は,「調整力の維持・向上につなが る運動プログラムの提供」「服薬による転倒予防の危 険性についての情報提供」「運動靴等の転倒のリスク が少ない履物の使用の促進」を取り入れた高齢者を対 象とした健康教育の場の提供の充実が期待される。 Ⅴ.まとめ N村の高齢者14名を対象に,「第1回高齢者パワー アップ教室」と「第3回高齢者パワーアップ教室」に おける「転倒予防自己効力感尺度」「身体機能測定値」 「転倒リスクアセスメント」「日頃の仕事や家事」「運 動習慣」の変化を明らかにし,山間過疎地域で生活す る高齢者の転倒予防について,支援の方向性を検討し た。 その結果,「調整力の維持・向上につながる運動プ ログラムの提供」「履物や服薬等による転倒予防の危 険性についての情報提供」を盛り込んだプログラム実 施の必要性が示唆された。 本研究の限界と今後の課題 本研究は,調査対象者が積極的な教室への参加希望 者だったため,活動意欲が高い対象者に偏りが生じた 可能性がある。また,1年という短期間である点,公 平なサービスを住民に提供することが前提となる村の 事業の一環として教室を開催したため対照群の設定が 難しく対照群との比較ができない点,3回の教室の開 催がどのような影響を及ぼしたのか明確ではない点で 限界がある。今後は継続的な支援を行うとともに,対 照群の設定を工夫して行い,比較検討を行うことも必 要であると考える。 謝 辞 本研究を行うにあたり,「高齢者パワーアップ教室」 に参加していただいたN村の住民の方々に深く感謝申 し上げます。また,ご協力をいただきましたN村役場 の職員の皆様,N村を管轄するT保健福祉事務所の職 員の皆様に感謝いたします。 本研究は,平成16年群馬大学地域貢献事業(社会貢 献重点経費)「地域における高齢者・在宅療養支援シ ステム開発事業」の一環として実施した。その成果の 一部を第65回日本公衆衛生学会総会にて発表した。 文 献 1)荒賀直子,後閑容子,編.地域看護学.東京:インタ ーメディカル,2004:261-262. 2)月刊介護保険編集部編集.介護保険ハンドブック.法 研.東京.2006.施行後5年を経過した制度見直し. 46-55. 3)ヘルスアセスメント検討委員会,編.ヘルスアセスメ ントマニュアル─生活習慣病・要介護状態予防のため に─.東京:厚生科学研究所,2002:142-152. 4)武藤芳照,黒柳律雄,上野勝則,太田美穂,編.転倒 予防教室−転倒予防への医学的対応−.東京:日本医 事新報社,2002:114-118. 5)木村みさか,徳広正俊,岡山寧子,他.閉眼片足立ち と開眼片足立ちからみた高齢者の平行機能.体育科学, 1996;24:118-129.
6)Pamela W.Duncan, Debra K.Weiner, Julie Chadler, and Stephanie Studenski. Functional Reach: A New Clinical Measure of Balance. Journal of Gerontology: MEDICAL SCIENCES 1990;45(6):192-197.
7)S.Mathias, U.S.L.Nayak,PhD,B.Isaacs, MD.Balance in Elderly Patients:The “Get-up and Go” Test. Arch Phys Med Rehabil 1986;67(1):387-389.
8)Podsiadlo D, Richardson S. The timed “Up&Go” : a Test of basic functional mobility for frail elderly persons. JAGS 1991;39(2):142-148. 9)石原多佳子,水野かがみ,吉澤洋子,後閑容子.外出 頻度の少ない山間地域在宅高齢者支援の検討.日本地 域看護学会誌2004;7(1):62-67. 10)清水暢子,細谷たき子,別所遊子,長谷川美香.地域 における高齢者の転倒予防を目指した音楽運動プログ ラム実施後の変化.日本地域看護学会誌2005;8(1):65-72. 11)新井忠.高齢者の体力テスト(文部省).臨床スポーツ
科学1998;15(8):849-857. 12)南雅樹,出村慎一,長澤吉則,多田信彦,松澤甚三郎. 健常高齢者における体力要素間の関連性 性差及び年 代差.体力科学2001;50(5):571-582. 13)鈴木みずえ.転倒ケアとは.鈴木みずえ.転倒予防リ ス ク ア セ ス メ ン ト と ケ ア プ ラ ン . 東 京 : 医 学 書 院 , 2003:1-8.
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15)斉藤恵美子.成人・高齢者保健活動.木下由美子,麻原 き よ み , 荒 木 田 美 香 子 , 佐 伯 和 子 , 原 礼 子 , 編 . Essentials地域看護学.東京:医歯薬出版株式会社, 2004:163-174. 16)沼田加代,根岸恵子,平良あゆみ,佐藤和子,臼田滋, 佐藤由美,中山かおり,齋藤泰子.山間過疎地域にお ける高齢者の転倒と関連する運動実態.群馬保健紀要 2005;26:27-34. 17)河本耕一.転倒予防について.リハビリテーションス ポーツ2005;24(2):54-59. 18)田原裕子,神谷浩夫.高齢者の場所への愛着と内側性-岐阜県神岡町の事例−.人文地理2002;54(3):1-22. 19)前掲9) 20)宮原洋八,竹下寿郎,西三津代.地域住民(17歳∼92 歳 ) を 対 象 と し た 運 動 能 力 . 理 学 療 法 科 学 2004;19(4):285-290.
Change in Fall-Related Factors after the Program to Prevent
Falls and Withdrawal among Elderly
Citizens in a Remote Mountainous Area
Kaori NAKAYAMA
1), Shigeru USUDA
1), Yumi SATO
1)Junko YAMADA
1), Kayo NUMATA
2), Keiko NEGISHI
3)Kazuko SATO
4), Kumiko SHIRAI
5), Yasuko SAITO
6)Abstract:The study objectives are to identify changes in “self efficacy scale in fall prevention”, “physical function values”, “risk assessment for falls”, “life style”, “experience of falls” and “levels of exercise” between the first and the third programs for the elderly and to propose how the elderly citizens living in the mountainous area should be supported.
The subjects are 14 elderly citizens participating in both programs. The contents of the survey are four physical function items, bone density measurement, 14 items of fall risk assessment, 10 items of fall prevention self-efficacy scale (FPSE), daily physical activities at home, experience of falls and at work and physical exercise habit.
The survey revealed that many people are engaged in regular physical activities with improvement in their mobility. It is, however, also found that the coordination capacity critical to prevent falls is deteriorating. Some of the fall risk factors are elevated including medication and use of slippers and sandals.
There is a need to design programs with exercise to maintain and improve coordination capacity and provision of information concerning fall risk of certain footgear and medication.
Key words:remote mountainous villages , the elderly , physical functions , falls
1)School of Health Sciences, Faculty of Medicine, Gunma University
2)Graduate School of Medicine , Gunma University 3)Nanmoku Village Office
4)Takasaki Health and Welfare Office 5)Tomioka Health and Welfare Office