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発達遅滞児の言語指導に関する研究 -インリアルによる事例報告-

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発達遅滞児の言語指導に関する研究

-インリアルによる事例報告-内田芳夫・有村多代子* (1985年10月9日 受理)

Research on the Language Teaching of Developmentally Retarded Children -Case Report by the

INREAL-Yoshio UCHIDA and Tayoko ARIMURA

Ⅰ.はじめに 人間はいかにして言語を獲得していくのだろうか。この問題を究明するために,これまで数多く の研究がなされてきている。矢野(1983)(6)は,現在の言語発達研究の動向について, 「構造分析か ら機能分析- morphology, syntaxからSemantics-,そしてPragmatics-,抽象化されたIan-guageから現実のSpeech-,そして Communication-と僚斜してきている」と指摘している。ま た,村田(1981)C2)は,現代の言語発達研究の動向を, ①変形生成的アプローチ, ②認識論的アプ ローチ, ③意味論的アプローチ, ④実用論的アプローチの4つに大別し,それぞれのアプローチに ついて詳述している。この種の研究のなかで,言語獲得の前提条件や必要条件については明らかに されつつあるが, ①言語獲得の十分条件とは何か, ②情動機能はどのような役割を果たしているの か, ③外言から内言-の移行のメカニズムなど解明されねばならない課題も多い。 さて,このような言語発達研究の動向を背景に,言語発達に障害をもつ子どもに対する治療教育 的アプローチも多様な形態で展開されてきている。その主なものとしては, ①発声,発語訓練を主 とする音声言語学的アプローチ, ②オペラント原理に基づく行動療法的アプローチ, ③認知理論に 基づくアプローチ, ④知的行為形成理論に基づく形成論的アプローチ, ⑤言語の伝達機能を重視す る実用論的アプローチなどをあげることができよう。本論文は,実用論的アプローチを理論的背景 とするインリアル(Inter Reactive Learning and Communicationの略INREAL)の観点からのアプ ローチである。そこで,以下,インリアルについて述べておきたい。インリアルは, 1974年,米国 コロラド大学でWeiss, R.を中心に言語障害幼児(3-5歳)の2次障害早期予防プログラムと して開発された方法であるが,今日では,話しことばに限定しないで読みや書きことばの学習援助 法として,さらに,普通教育-の適用なども検討され始めている。日本においては,大阪教育大学 の竹田契一博士を中心とする研究グループが1981年以来,一連の研究論文を発表している.竹田 鹿児島大学教育学部障害児教育学科 *鹿児島県立鹿屋養護学校教諭

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208 鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学術 第37巻 (1983)(3)は,インリアルの基本理念として,次の点を指摘している。 ①どんな子どもでもコミュニ ケーション能力をもっており,話しことばだけでなく,視線,表情,身振り等のノン・バーバル行 動も含めて子どものコミュニケーション行動を捉える。 ②子どもの言語発達の評価は,認知・社会 性の発達段階の評価とともに,言語の実用論的,意味論的,統語論的,音韻論的局面についても水 平・垂直的に行なう。 ③指導は,遊びという子どもにとって楽しく自然な文脈で行ない,子どもの 主体性を尊重しつつ,自発的なコミュニケーション意欲を促進する姿勢をとる。 ④言語獲得は,一 つの社会的行為であり,現実に子どもは周囲の人との相互作用を通じて自らの言語を構築していく ものであるから,指導過程も子どもと指導者の相互作用過程であると捉え,指導者のことばや行動 も指導の方針・目標の検討に含まれる。また,筆者ら(1984)(i)は,障害児のことばの指導方法と して,インリアルを取り入れた理由として,次の3点を指摘している。 ①子どもにとって最も自然 な活動である遊びの形態で行われること。 ②発語のみられない子どもから適用できること。 ③子ど ものコミュニケーション能力を高めるばかりでなく,療育者のレベルアップを促すことができるこ と。このように,インリアルの基本的視点として, ①遊びを通しての言語学習であり, ②子どもの 自発性を尊重し,子どもに主導権を与え, ③子どもの発しているさまざまなサインを読み取りなが ら反応的にアプローチ(Reactive Approach)することと言えよう。インリアルでは,具体的なかか わり方として, Weiss博士は, 「S-OU-L」という大人の基本姿勢を提唱している SOULとは, Silence (沈黙), Observation (観察), Understanding (理解), Listening (聞くこと)の4つの活動

を包含した概念である。したがって, SOULの姿勢をとることによって,大人と子どもとが相互に ラポートをつけることができ,相互のコミュニケーション状況が改善され,相互の関係の発達が促 進されることになるであろう。インリアルの方法は SOULから始まるが,子どもを適切に援助す るために,次の7つの技法を用いる。 ①ミラリング(Mirroring),子どもの動作や行為をそのまま 模倣する。 ②パラレル・トーク(Parallel talk),子どもと並行あそびしながら,子どもの考えや行 動を言語化する。 ③セルフ・トーク(Self talk),大人は,自らの行動や気持ちをことばにする。 ④モニタリング(Monitoring),子どもの言ったことを,そのままくり返す。 ⑤リフレクティソグ (Re鮎cting),子どものまちがったことばを修正して返す。 ⑥エキスパンション(Expansion),千 どもの発声,発語を広げて返す。 ⑦モデリング(Modeling),通常の自然な会話スタイル。これら の7つの技法は, ①から⑦の順に子どもの発達段階に合わせて並べてあるが,実際の指導場面で は,これらの技法を単独で使用することはなく,いくつか組み合わせて使用されるのが一般的であ る。 以上,インリアルの基本的視点について述べてきたが,筆者たちは,ことばの遅れた幼児2名に ついて,インリアルによる言語指導を試みたので事例に即して報告したい。本研究の目的は,とく に, ①子どもと大人の相互交渉過程の量的,質的変化の検討, ②子どもの意図的伝達行動の出現率 およびその有効性の変化の吟味, ③指導者の行動傾向の分析を通し,子どもと大人の相互の関係の 発達について明らかにすることである。

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Ⅱ.事例研究(1)

1.事例S.N. (1981年1月25日生,男児),釆談特, 1984年5月31日(3歳4か月) ①家族歴:本児は父30歳,母29歳の時の第3子として出生。同胞は4歳年上の姉, 2歳年上の兄 の5人家族。 ②生育歴:自然分娩,予定日より2週間早産。出生時体重2850g。発育歴としては,定額(6か 月),這行(9か月),坐位(11か月),つかまり立ち(1歳3か月),始歩(1歳10か月),おもち ゃで遊ぶ(2歳)0 ③既応歴:生後12日目, K病院にて検査を受け, 1か月後にダウン症と診断される。 ④相談,療育歴:生後5か月から2歳まで,国立M病院にて,ポイタ(Vojta)訓練を受ける。こ の間,ダウン症児親の会「こぼと会」に通う。 3歳2か月からK市母子通園施設W園に通園。 ⑤主訴:話しことばがみられないので,発語指導をしてほしい(母親の供述)0 2.方  法 1984年5月31日(3歳4か月)から1984年12月6日(3歳10か月)まで,週1回,本学部のプレ イ・ルームにおいて,インリアルによることばの指導を行った。療育回数は計15回, 1回のかかわ りを60分とし,前半の30分は粗大運動を含めた自由遊び,後半の30分は箱庭療法の素材を使用した 遊びとし,いずれもVTRに記録した。 インリアルによる指導では,発語のないS児に対し S-0-U-Lの基本精神を守りながら, ①大 人が子どもの行動や動作を模倣するミラリングや, ②大人が自分の行動を子どもの言語レベルに合 わせて言語化するセルフ・トークや, ③大人が,子どもの行動や感じていることを言語化するパラ レル・トークの技法を取り入れ,相互交渉が展開できるようにかかわった.ビデオ分析は後半30分 間の指導場面のうち,任意の2分間を抽出し,子どもと大人のすべての言語行動を継時的記述(ト ランスクリプト)し,インリアル技法評価表により,子どもと大人の行動評価を行った(資料1-3参照)0 3.分析の視点 指導過程を4期(第Ⅰ期: 3歳4か月∼5か月,第Ⅰ期:3歳6か月∼7か月,第Ⅲ期:3歳7 か月∼8か月,第Ⅳ期: 3歳9か月∼10か月)に分け,次の2つの視点について,その継時的変化 を分析し考察する。 (1)相互交渉過程の継時的変化: 2分間分析のなかの相互作用ユニットを大人の開始(Adult init-lative, Ainiと略す)と子どもの開始(Child initiative, Ciniと略す)に分け,さらに辰野ら(1979)C5) の相互作用ユニットのパターンに基づき,短パターンと長パターンに分けて, ①Aini短パターン, ②Aini長パターン, ③Cini短パターン, ④Cini長パターンの4つの継時的変化の割合を分析する。

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210 鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 第37巻(1985) (2)全指導過程における言語的伝達行動について,とくにG)指さし, ②理解言語, ③発声,発語な どの発達様相を検討する。さらに,全体的な発達状態について, K式発達検査から検討する。 4.結果と考察 (1)相互交渉過程の継時的変化(図1参照) 図1.相互作用ユニット・パターン(長短)とIni (A-C)の割合 第Ⅰ期の第1回の相互作用行動では,大人から開始される相互作用ユニットが総ユニット80% を占めている。また,大人の開始行動のうち 60%が短パターンである。このことは,大人の開始 行動が本児(以下, S児とする)に伝達されず相互交渉が成立しない状態といえよう。第2回は, 子どもの開始する長パターンの相互作用ユニットが増加している(危険率1%水準で有意差が認め られる)。しかし,まだ,意図的伝達行動は見られない。第Ⅰ期(第8回)で,大人の開始行動に よる長パターンの増加がみられる。これは,子ども自身が相互交渉の力を獲得し始めたと推測され る。また,この期に入って,意図的伝達行動も飛躍的に増加している。第Ⅲ期以降,大人,子ども とも,相互作用ユニットの短パターンが出現しなくなる。これは,大人もS児も互いの行動を受け とめ相互に反応しているためであり質の高まりを物語るものである。 (2)言語的伝達行動の発達 S児の指さし,発声,発語の変化については表1に示した(表1参照)。第Ⅰ期の指きしは,辛 きしに近い指きしで,発声もなく,大人を振り返ることもないものである。静観対象としての未分 化な指さLで,対象物に対する一方向的で定位的な指きしと言える。第Ⅰ期で,音声模倣や自発的

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表1. S児の指さし,発声,発語の変化 期I 回 行    動    内    容 おもちゃの汽車をみて,未分化な指さしをする 棚のおもちゃを見つけて,未分化な指きしをする 「ポーン」の音声模倣 「アッタ-」を「タ-」と自発的に発声 「スイッチを入れて」と言うかのように汽車を指さす 「コソニチワ」を「ワ-」と音声模倣 「トン」の自発的発声 9/6 9/20 「ヨイチョ」の自発的発声 「∼シテヨ」と発声しながら,要求の指さしをする 「アイ」と返事 「ポーン」の自発的発声 「オーイ」の音声模倣 「シュシュー」の自発的発声 「バイバイ」の音声模倣 「ユキ」を「キーJ と発声 「コ-」 (コレ)と発声して指さす 「ウゴイタ」の音声模倣 「ポッポー」の自発的発声 「おめめどこ」の質問に「対の指さし」で反応する 「ナイナイ」と発声しながら片づける 串を「ブ-」と言って動かす 「ア-ア」とイントネーションのある発声 「アレ」とイントネーションのある発声 発声がみられるが,その内容は擬態語や擬声語が中心であり,物の名称の発語はみられない。また, この時期,指さしが出現し,第Ⅰ期より著しく発声が増加している。これは,大人に働きかけよう とする意図が芽生えてきたためであろう。第Ⅲ期では,より一層,自発的発声が出現し,かつ発声 しながらの要求の指さしがみられる。これは,発声することにより他者の注意を喚起し, S児が定 位した対象物を他者と共有しようとする意図のあらわれと考えられる。つまり,第Ⅰ期の自己・事 物関係(二項関係)から,第Ⅲ期の自己・事物・他者関係(三項関係)への移行と言える。また, 「なにするの」に対して, 「コエ」と発声し,指さしながら大人を振り返ることがみられ,大人の質 問に対する可逆的な応答反応もみられる。第Ⅳ期では, 「ナイナイ」と発声しながら,おもちゃを 片づけるなど,自己の行動をコントロールする手段としての発語がみられたり, 「対の指さし」が 出現している。この「対の指さし」とは,眼や耳など対(つい)になったものにたいして,対指示 がみられることであり,田中(1982)C4)によれば,可逆の指さしの成立が前提で,可逆の指きしの 深化したもの,発展形態で1歳半から2歳すぎて集中してあらわれやすい指さしであることを指摘 している。また,本児の発達状態については,表2に示した(表2参照)0 インリアル技法は,子どもの発達段階を踏まえて適用することが望ましいという観点から,新版

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212 鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 第37巻(1985) 表2.新版K式発達検査の結果 姿勢・運動 操作特性 l   下 位 項 目 '84. 7 '84. 12 平均発達年齢 1次元形成 1次元可逆 // 2次元形成 // 2次元可逆 片手支持降りる 手すりで登降 両足跳び 飛び降り 交互に足を出す ケン′ケン + + + + + 1:3 - 1:6 1:6 - 1:9 1:9 - 2:0 2:0 - 2:3 2: 6- 3:0 3:0 - 3:6 認知・適応 操作特性 下 位 項 目 平均発達年齢 横木の塔6 角板の例前 形の弁別I 1/5 横木の塔8 形の弁別f 3/5 横線模倣1/3 縦線模倣1/3 トラックの模倣 形の弁別Ⅰ 8/10 折り紙Ⅰ 入れ子5個 記憶板2/3 家の模倣 四角構成例後2/2 折り紙甘 円模写 十字模写例後1/3 言語・社会 塗) + 施行により通過 一 不通過

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K式発達検査を7月に実施し,発達的変化を吟味するために再度, 12月に同一検査を行った。その S児の発達様相の特徴について, 3領域から述べておきたい。 (1)言語・社会レベル: 7月において, 「チョウダイ」に対して第三者に物を渡しきることができ た定位的な活動がみられる。示性数3可逆操作期の段階である。 12月では,可逆の指きしによる絵 指示や実物指示がみられ,語桑も10語程度ある。 1次元可逆操作の段階である。 (2)姿勢・運動レベル: 7月において,階段を手すりで登降することは可能であるが,まだ両足と びは獲得されていない。この期の姿勢・運動レベルは, 「行きもどり」の可逆性のみられる1次元 可逆操作期といえる。 12月では,高さ50cmぐらいの所から飛び降りることができる。また,三輪 車をこぐことも鉄棒に数秒間ぶらさがることも可能である。交互に足を出して,階段を登ることも できるようになっており, 2次元形成期の段階といえる。 (3)認知・適応レベル:はめ板課題は回転まで可能である。また,横木は8個積むことができ,ス プーンやフォークを目的的に使用することができ,全体として1次元可逆操作期といえよう. 12月 では,円模写や縦線模倣,形の弁別課題などが達成でき, 2次元形成期-の移行の段階といえよう。

Ⅱ.事例研究(2)

1.事例A.T (1980年7月31日生,女児),来談時1984年5月17日(3歳10か月) ①家族歴:本児は,父29歳,母28歳の時の第1子として出生,他に同胞はいない。 ②生育歴: 10か月満期出産,出生時体重2900g,微弱陣痛のため吸引分娩,重症黄症,生後すぐ 斜預になり,マッサージ治療を受け, 2か月頃治る.定額(3か月),這行(1歳6か月),歩行お よび発語がみられたのは3歳頃である。 ③保育歴: 3歳より4歳4か月までK市母子通園施設W園に通園, 4歳5か月からN保育園に通 園。 ④主訴:話しことばがわずかしかなく,全体的にことばが遅れているので,ことばの指導をして ほしい(母親供述)0 2.方  法 1984年5月17日(3歳10か月)から1984年12月13日(4歳4か月)まで,週1回,本学部のプ レイ・ルームにおいて,インリアルによることばの指導を行った.療育回数は,計12回である.指 導場面をVTRに記録し分析した。 インリアルによる指導では,本児(以下, A児とする)の言語発達の状態から, ①身振り言語や, ②ミラリング, ③セルフ・トークの技法を中心にかかわった。また, 「-イ」とか「アッタ」など の発語がみられることから, ④バーバル・モニタリングやエキスパンショ、ンなども取り入れたo VTR分析については,事例Ⅰと同じ方法を採用した。分析については, ①子どもと指導者の開

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214 鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 第37巻 袷,反応状況, ②子どもの意志的伝達行動の出現率およびその有効性の変化, ③指導者の行動債向 の分析, ④相互交渉過程の継時的変化の4つの観点から整理し考察を加える。 3.結果と考察 指導過程を, Ⅰ期(5月から6月), Ⅰ期(7月から9月), Ⅲ期(11月から12月)と, 3つの期 に分け,毎回ごとの分析結果をもとに, A児,指導者,両者間の相互作用の変化を追いながら考察 する。 (1)子どもと指導者の開始,反応状況(図2,図3参照)0 開 始       反 応 7 4 2 6 、、 、、 8 2 1 8 、 8 5 1 5 20   40   60   80  100 (%) 生 起 頻 度 図2. A児における開始・反応の割合 開 始       反 応 3 1 6 9 ′ ′ ′ ′ ′ ′ 2 1 7 9 ′■ ′ ′ ′ ′ ∫ 1 4 8 6 20   40   60 生 起 頻 度 80 100 (%) 図3.指導者における開始・反応の割合 A児および指導者,それぞれにおける開始,反応の割合をみると,どの期においてもA児は開始 の割合が多く,指導者は反応の割合が多い。また, Ⅰ期からⅠ期, Ⅲ期と縦断的にみると著しい変 化は認められないものの, A児の主導権と指導者の反応的態度がより強くなる傾向がみられ,大人 と子どもの相互作用が望ましい,姿で展開されていると言えよう。 (2)子どもの意図的伝達行動の出現率およびその有効性(図4,図5参照)0 20  40  60  80 100 (%) 図4. A児の意図的伝達行動の出現率 20   40   60   80  100 (%) 図5. A児の意図的伝達行動の有効性 意図的伝達行動の出現率は,場面内の全行動数のなかの意図的伝達行動の比率を算出したもので あり,その有効性とは,実際に指導者に了解された行動数の割合である。当初,指導者がA児をリ ードしようとする債向が大きかったためか, A児が指導者に働きかけようとする場面はあまりみら れなかった。しかし,図4に示されるように, A児の意図的伝達行動は, Ⅰ期からⅠ期ではわずか であるが, Ⅲ期では有意に増加してきている。 Ⅰ期とⅡ期の出現率の比率検定をした結果,危険率 1 %水準で有意差が認められた。また, A児には,発語が増えるなどの大きな発達的変化はみられ

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なかったが,動作,発声,発語と, A児が持っているコミュニケーション手段を積極的に用いて指 導者に伝えようとする場面が多くみられるようになったO また, A児の意図的伝達行動の有効性に ついてみると,図5から, Ⅰ期からⅠ期-の移行では,わずかな増加率であるのに対し, Ⅲ期では かなりの比率を占めるようになっている。 Ⅰ期とⅢ期の有効性の比率検定をした結果,危険率1% 水準で有意差が認められた。このように, A児の意図的伝達行動の有効性が有意に高まってきた事 実は,かかわりを重ねるごとに指導者がA児の意図を捉え,反応的にかかわることができるように なったことを物語るものである。 (3)指導者の行動債向の分析 場面内の指導者の行動内容を竹田(1983)(3)の5つの観点(①無視,無反応, ②指示的, ③受動的 受容, ④能動的受容, ⑤展開,解釈鎗)から整理し検討する(図6参照)。 全期を通して,指導者の行動内容に大きな変化は認められないが,指示的行動が減少し,能動的 受容行動(子どもの行動意図を受容しつつ,積 極的に働きかけるもの)が増加しているようす がみられる。しかし,展開・解釈的行動(子ど Ⅰ期 もの行動意図を解釈し,展開させるもの)が全 Ⅰ期 期にわたって,ほとんど出現していないことか ら,言語心理学的技法を指導者がどのように用  Ⅲ期 いていたかについて検討してみたい。指導場面 全体を通して言えることは,セルフ・トークや パラレル・トークがやや多いことである。セル 20   40   60   80  100 (%) 生 起 頻 度 図6.指導者の行動内容 フ・トークの内容に関しては,比較的A児の発達レベルに応じたわかりやすいことばで表現してい る。また,そのタイミングも当初, A児の意図を了解しないままに対応していたが,次第に本児の 意図を読み取りながらかかわることができるようになっている.パラレル・トークについても,ほ ぼ同様の債向が認められる。 A児には,発声,発語がみられ, Ⅰ期, Ⅲ期においては,その出現頻 度も高くなっているにもかかわらず,展開・解釈的行動がほとんど出現していないのである。この 点は,例えばA児がしばしば発声する「アック」の発語にさいしては,指導者が, 「ボールがあっ たね」などと展開・解釈的に応じることが必要であったように思われる。 (4)相互交渉過程の継時的変化 A児と指導者の相互交渉過程を図7に示した(図7参照)0 A児と指導者の相互作用状況を各期ごとに検討してみたい。まず,第Ⅰ期では,指導者から開始 された長パターンのユニットが低く,短パターンのユニットが相対的に高い割合を示している。こ れは,指導者からの開始行動がA児に無視されたり,反応が得られなかったり,たとえ反応がかえ ってきても指導者が,子どものサインを無視したり,理解できなかったりなどの結果であり, A児

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216 鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 第37巻(1985) Ⅰ期      Ⅰ期      Ⅲ期 図7.相互作用ユニットのパターン(長短)とIni (A-C)の割合 と指導者の相互作用が成立しにくい状態を物語るものである。 Ⅰ期での特徴は,指導者から開始さ れた短パターンが減少し,長パターンが増加していること,さらに, A児から開始された長パタン が増加していることである.これは,指導者がA児をリードしようとする姿勢が弱まり,子どもの 意図をとらえて反応的にかかわろうとする態度が形成されたものと考えられる。 Ⅲ期においてはA 児から開始された長パターンがⅠ期よりさらに増加し,指導者から開始された短パターンも減少し ていることが認められる。 Ⅰ期からⅢ期までの全体的債向をみるならば, Ⅰ期に比べⅢ期では,長パターンの増加と,短パ ターンの減少と言えようo Ⅰ期とⅢ期における長パターン,および短パターンの比率検定をした結 果,いずれも危険率5 %水準で有意差が認められており, A児と指導者との間に相互作用的な関係 が成立してきたことを示していると考えられる。これは,指導者がA児の伝達意図を捉え反応的に かかわろうとしてきたことにより, A児も指導者に積極的に働きかけるようになり,このような関 係の改善がもたらされたものであると言えよう。 Ⅳ.ま と め ことばの遅れた発達障害幼児2名について,インリアルによる言語指導を試みた結果,若干の知 見が得られたので,以下にまとめて記しておきたい。 (1)子どもと大人の相互交渉過程の分析の結果,回を重ねるごとに,長パターンの増加と短パター ンの減少傾向が認められた。この事実は,大人が子どもの伝達意図を正確に捉え,反応的にかかわ り,かつ子どもも大人に積極的に働きかけるようになった結果であり,相互の関係の改善,発達が

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みられたと言える。 (2)子どもの意図的伝達行動の出現率およびその有効性の比率検定をした結果,危険率1 %水準で 有意差が認められた。これは,上記(1)とも深い関連があり,相互作用の質的変化を物語るものであ る。 (3)大人の行動内容の分析の結果,指示的行動が減少し,能動的受容行動が増加した。これは,当 初の大人側の意図で子どもを動かそうとした姿勢が次第に減り,大人が子どもの出しているさまざ まなサインを読み取る力が形成されたと言える。 (4)以上の事実から,筆者らがインリアルを導入した根拠のうちとりわけ, 「子どものコミュニ ケーション能力を高めるばかりでなく,療育者のレベルアップを促すことができる」という指摘は, 発達障害幼児2名の事例を通して実証されたと言えよう。 (付記)本稿をまとめるにあたり,山口 浩明君(鹿児島大学教育学部障害児教育学科4年)の多大なる援 助をいただいた。記して感謝の意を表したい。 引 用 文 献 1清原 浩,内田 芳夫・他(1984),障害乳幼児療育における方法論的検討,鹿児島大学教育学部研究紀 要,第35巻 2 村田 孝次(1981),言語発達研究-その歴史と現代の動向-,培風館 3 竹田 契- (1983),言語発達遅滞児指導の最近の動向,インリアル・セラピーについて,特殊教育学研 究,第21巻(3) 4 田中 昌人,田中 杉恵(1982),子どもの発達と診断(2),大月書店 5 辰野 俊子・他(1979),言語行動の発達(I),東京大学教育学部紀要,第19巻 6 矢野 善夫(1983),言語機能(児童心理学の進歩,第3章),金子書房

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鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 第37巻(1985) ( 駆 婁 鮮 昏 睡 覇 a 肺 盤 恥 常 世 轟 溢 水 ' 2 8 6 1 )   相 場 ㌣ Q ぜ 吏 J 頓 と Q q l 献 正 史 悪 嘱 摩 耗 Q ・ 1 桝 の ∼ l 在 断   ※ s 琶 ◆■`= <v ≡ A) bb Iq3 一つ 日 一つ f t 璽 h ■一一■ ■・.■ ド ll ド ′、 iJ ぐ り′ 一穴 ∩ -亡 V 吉 … め ai^ Ll ○ A 亡 ■一 一 in

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(13)

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(14)

鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 第37巻(1985) 一′■、> > ■■ M .Ill ■●■■■ 3 0 ■ k C q V-H ( I I 、 - ′ 令 禦 ′-、 一 十 十 、■一′ 帆 雫 ′、■J V hb 亡 ∼ ド 、 -/ 那 蝣 ( P I H O s s u r e j g j o p j i i j o s a ^ i │ s i a )   < k ケ 6 吏 ] 範 競 . 6 吏 ぐ 態 趣 塞 i = ( s j u a i m u o Q S u i u b 8 u i 8 q )   小 佃 趣 碑 題 蟹 g 告 ぐ 唾 東 進 巾 ( s J 9 M S U y S u O J ^ D U B l 鳥 ! 出   s j a q B q )   」 告 ぐ 分 れ 量 ?   「 軸 足 ぐ 職 匪 」 量 ? 「 紬 ′ ノ ] j I 」 趣 戒 紳 Q ) 塞 車 hO ut ( s j l t e U I U I O Q 9 A p i S O d I 昌 o i j e u i i o j i n -u o ^ )   爪 匝 り ふ 1 % 富 砧 7 紳 「 ′ ノ 哩 」 ( P u H O m O J i } u o p B D 唱 H ォ I O u O I S I A 遥 S 9 } m n u i p s )   9 : 恵 鼻 ] り ふ 爪 r 小 匝 ) 小 ォ * ( < < ? < * S 吏 J 趣 ′ J 佃 策 塞 i = ( j x a j u o Q u i s p j o ^ i A 9 ^ s z s [ ¥ )   や ノ 野 趣 聖 7 り ′ ノ ] 拡 ㌣ 各 Q 蛋 回 ( ; U 8 U i q S l │ d t u O o D y S 9 q i I D S 9 Q )   % て 増 ㌣ 琳 佃 趣 碑 更 生 ? 4 4 r 策 塞 車 ( a u r e ^ s . p u h o s a s n )   や 」 野 趣 梅 坪 Q 塞 i : ( p u h o s ^ -f u a ) . J ] 難 策 碑 や ノ 定 盤 1 7 塞 軒 (増n?^d) * り\L-y ( ; U 8 U I 9 A │ O A U I S ' D T I U D 1 0 9 ; i d s a j n p a u o s e o j s a i a q p y ) ケ C f せ り ふ 掴 ア 0 > Y 米 . 牛 心 蜜 q U ふ や J P Y 牌 策 塞 i = ( S { B U 9 } B U I I ^ I M ; U 8 U i a A │ O A U I O ^ [ ) . ノ 題 的 情 趣 悲 観 り ふ 叫 野 9 M i ぐ 壁 Q 塞 i = ( u r a j q o i d s ' p j l t p S 8 A T O S )   小 判 7 1 7 基 盤 策 Y 米 趣 墜 臣 C b 塞 i = ( a s n s T B i i a j B i u 1 0 u o p d u o s a p p q i a ^ )   % て 増 打 製 ? り 趣 斡 ′ 」 壁 c b 輔 壁 ( s T B u a j e u i s a j B i i s u o m a r r )   % 卑 掻 1 ぐ 壁 趣 叫 壁 .Ⅰ .H .9 .h ト エ-ー出)-)   <pQ O⊂〕叫 声 ( X b -a a . p a q u o a i d u i A j u o p a s n a q o ; s p u a ^ B i u A v . o j j y ) ュ 題 車 的 二 時 量 ] 早 世 ′ J 壁 Q 噸 軸 趣 唖 野 Q 中 . D ( 9 a t o s u i a T q o j d o j P T i y o s M o n y )   % 車 的 戒 酔 趣 嘉 騒 嘩 臣 り ふ 塞 車 . h ( s T e u a ) B n i m i i A ; u a u i U 8 d x 9 p u B   9 o u a u 8 d x a o ; p j t x p S i & o j j y )   5 車 的 6 吏 ] 罷 6 吏 ぐ 堅 趣 叫 B ( り 這 。 7 車 . 凹 ( s t b u 8 ; b u i a s o o u o o ; P T W s M o n y )   < % 卑 聖 興 趣 唖 壁 り 這 。 ? 軒 . a ( A B T d 9 A l } 1 2 I 8 d O O f ) ) n Q 捜 直 垂 . U ( A v i d 9 A I J B I D O S S V )   9 : て 鱒 定 盤 -曇 ] 6 / 策 塞 i ? Y 米 . 田 ( A m d T 3 T T B J B J ) j Q 稗 史 増 . V ( a S n s n s T B u a ^ B W d u b s a i j i A i p y )   C f _ 二 世 Q 輔 E F ? 轟 度 . A ( 」 > i s u 8 ; u i )   的 髄 . H O l * N )   的 無 . a ( s D J O M 9 } B U d O i d c f e u T )   聖 ? り 粛 軍 増 に . S ( s a T Q B T T X s p u a u S u 9 q ) 騒 糎 吏 ] 聖 Q > " Z ( u o p m n o p i B p a ^ B j a S S u x g ) 糎 釈 題 的 生 来 . I ( S S 9 J ; C ) 蘇 覇 . U ( s u o i p a u u j ) 査 定 . N ( t l 号 u j S u o s -S u t s )   v x ( [ 題 小 崇 轟 ・ t ( X p o s o a d )   ( a y 査 定 * y x ( ¥ . 噸 瑠 相 沢 ) I y 恥 A * / :   * e ( i m x d )   的 腫 Q 糎 . V ( p ; u 9 i n S a s B j d n c ) 宜 産 金 嘩   R ( S u i u i b j x ) O N I X V 出 出 o u v 出 出 O I A V H H 的 x i n a v ) ( 楽 I N 9 " ) 皐 鈷 南 ア * 0 サ Y ・ " 8 定 断

参照

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2021年5月31日