第13回北関東医学会奨励賞
平成 8年に 設された北関東医学会奨励賞の今年度,第 13回受賞者の募集が本会機関誌「The KITAKANTO Medi-cal Journal」第 59 巻 1号で行なわれた.平成 21年度第 1回理事会の決定により組織された北関東医学会奨励賞選 委 員会 (以下,選 委員会) が 7月 24日に行われ,長嶺竹明選 委員長の議事進行の下,始めに選 方針の確認を行った. その結果, 前年の方針に倣い, 評価基準を 1. 科学, 臨床,保 医学上での重要性,2.将来の発展性,3.独 性,4.北関東 医学会・地域に対する貢献度,5.論文全体にあらわれた業績とした.また,受賞年齢上限を厳格に適用することとした. 続いて, 候補者の選 に移り, 選 委員に予め検討を依頼してあった各候補者の推薦書と代表的な論文 2篇をもとに 厳正なる審査を行った. その結果, 受賞候補者として石川 仁氏 (群馬大学医学部附属病院放射線科), 高安幸弘氏 (群 馬大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科学) を選出した. また, 北関東医学会編集委員会推薦奨励賞候補者 は, 選 委員会に先立ち行なわれた北関東医学会編集委員会において, 平成 20年度発行の本会機関紙第 58巻に掲載 された萩原周一氏 (群馬大学大学院医学系研究科臓器病態救急学)の「Usefulness of Multidetector Computed Tomogra-phy(MDCT) for the Initial Evaluation of Multiple Blunt Trauma of the Trunk」(第 58巻 2号掲載) が選出され,選 委員会に推薦された. 選 委員会はこれを承認し, 石川, 高安, 萩原の 3名を第 13回北関東医学会奨励賞受賞候補者と して選 した旨を奨励賞規定に基づき会長に答申した. 8月 18日の平成 21年度第 2回理事会において, この 3名の候 補者を受賞者として決定し,10月 9 日に開催された平成 21年度評議員会に報告した.また,同日の第 56回北関東医学 会 会会場において執り行われた北関東医学会奨励賞授与式において星野洪郎会長より石川 仁氏, 高安幸弘氏, 萩 原周一氏の 3氏に賞状, 記念楯および副賞が授与された. 北関東医学会奨励賞受賞者 氏 名 石川 仁 所 属 群馬大学医学部附属病院放射線科 最 終 学 歴 群馬大学大学院医学系研究科博士課程修了 (平成 14年 3月) 業 績 ⑴ 業績の課題 放射線治療効果予測に関する基礎的研究 ⑵ 研究実地活動等の概要 腫瘍細胞の放射線感受性を左右するアポトーシスには p53や多くの癌関連遺伝子が関与する. 一方で 腫瘍内の低酸素や炎症は放射線抵抗性を導き, 臨床成績を低下させる一因とされる. 腫瘍細胞を用いた 研究に加え,放射線治療した腫瘍組織の生検材料を用いて,アポトーシス関連蛋白や低酸素・炎症関連蛋 白発現を検討し, 治療効果に影響する因子の検討を行ってきた. 加えて, 放射線による宿主自己免疫応答 が与える治療成績への影響についての研究を行っている. 主たる成果として, 子宮頸癌の局所効果に HPV感染と p53遺伝子変異が関連し, p53機能が抑制され ている場合には p73がアポトーシス誘導を調節することを示した. また, Cox-2過剰発現がアポトーシ ス抑制に働き,p53シグナルとは関係なく局所制御率を低下させることを示した.低酸素については食道 癌および子宮頸癌の HIF-1α過剰発現が治療成績に影響することを示した. これらの因子を網羅的に解 析する手法として, マイクロアレイによる予後予測解析を行うことを模索し, 放射線医学 合研究所 (以 下, 放医研) のゲノム診断研究グループと共同研究を遂行している. この研究は第 8回国際癌増感治療研 究協会奨励賞に採択され, 薬剤併用, 組織型および線質による遺伝子発現変化の相違が解明された. 腫瘍 免疫研究としては放射線照射による INF-γや GM-CSF などの血清サイトカイン誘導が乳癌の治療成 績に影響する可能性を見出し, その成果を 2009 年の米国放射線腫瘍学会で発表し, 現在マウスモデルで の対比実験を計画中である. ⑶ 関連研究・関連活動等の概要 肺癌, 食道癌および脳リンパ腫について, 放射線単独療法の限界と化学療法併用に適した症例選択の 解析を行い, 治療成績向上を目指す治療戦略を明らかにした. 93 Kitakanto Med J 2010;60:93∼95
放射線治療の高度化に関する研究については肺癌や脳転移の定位照射の治療成績を国内外の学会で報 告し, さらに 1999 年には強度変調放射線治療 (IMRT) の臨床応用に関する研究成果を日本放射線腫瘍 学会で初めて報告し,国際誌にも掲載した.また,本学で予定されている重粒子線治療を放医研で研鑽し, 主に前立腺癌および眼球悪性黒色腫に対する有効性や有害事象リスク因子解析についてそれぞれ国際誌 に報告し, 2009 年日本放射線腫瘍学会梅垣賞を受賞するに至った. 国際協力事業として 2001年から本学および放医研で開催された国際原子力機関 (IAEA)/RCA ト レーニングに参加・運営・講義を行ってきた.また,2007年から日本特定非営利活動法人・日本放射線腫 瘍学研究機構の運営委員として臨床試験プロトコールの管理・運営に携わり,前立腺がん I-125密封小線 源治療の全国臨床試験 (SHIP) ではプロトコール委員・中央線量評価委員として参画している. さらに, 前橋市, 広島市, 横浜市などで開催された, 一般市民や医療従事者を対象としたワークショップで基調講 演を行い, 放射線治療の啓蒙活動も行っている. 氏 名 高安 幸弘 所 属 群馬大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 最 終 学 歴 群馬大学大学院医学系研究科博士課程修了 (平成 16年 3月) 業 績 ⑴ 業績の課題 小脳プルキンエ細胞興奮性シナプス伝達におけるグルタミン酸トランスポーターに関す る研究 ⑵ 研究実地活動等の概要 グルタミン酸性興奮性シナプス伝達に関する研究を大学院時代の神経生理学教室ではじめ, 特に小脳 プルキンエ細胞における AMPA 型受容体を介する興奮性シナプス後電流に関する数編の論文を報告し た. 中でも, グルタミン酸トランスポーターの機能とシナプス電流との関係に関する研究は, グルタミン 酸トランスポーターのトランスジェニックマウスの提供を受けたこと, および選択制の高いグルタミン 酸トランスポーター拮抗剤を入手できたことで, 詳細な研究に発展した. 大学院卒業後も研究は継続さ れ, 最終的にグルタミン酸トランスポーターの機能とシナプス電流との関係に関するこれまでの研究を まとめ, 説として国際誌に掲載された. これに関連した研究として, 平成 17年には科学研究費若手研 究 (B) に採択されている. ⑶ 関連研究・関連活動等の概要 グルタミン酸トランスポーターの研究では, グルタミン酸による持続的な興奮毒性がしばしば観察さ れていた. グルタミン酸性興奮毒性は興奮性神経細胞死のメカニズムとして中心的な役割を担うとされ, 外傷や変性疾患など, 中枢神経系のさまざまな疾患の病態生理として えられている. 実際に虚血性神 経細胞死におけるグルタミン酸トランスポーターの機能不全に関する報告は多い. 現在所属する耳鼻咽 喉科領域において, めまい疾患の約 3割は中枢性平衡障害と えられ, 特に一過性の循環不全, すなわち 脳虚血状態に起因するとされている. 一方で, その細胞レベルでのメカニズムはほとんど解明されてい ない. これに関連し, 現在, 脳幹の前 神経核において, 脳虚血に関連した興奮毒性のメカニズムについ て研究を開始している. これに関しては, 平成 21年に科学研究費若手研究 (B) に採択されている. 氏 名 萩原周一 所 属 群馬大学大学院医学系研究科臓器病態救急学 最 終 学 歴 群馬大学医学部医学科卒業 (平成 16年 3月)
受賞論文名 Usefulness of multidetector computed tomography (MDCT) for the initial evaluation of multiple blunt trauma of the trunk.
業 績 ⑴ 業績の課題 体幹部鈍的多発外傷の初期診療における MDCT の有効性の検証 ⑵ 研究実地活動などの概要 本邦では, 救急搬送される外傷の最も多い原因は鈍的外傷である. 鈍的外傷による多発外傷を救命す 第 13回北関東医学会奨励賞 94
るにあたり, 最も重要な事は短時間に全身の解剖学的評価をおこない, 根本治療の要否を判断し, 治療を 行うという病院の 合力である. CT が臨床応用されるようになってから外傷患者にも「まず CT」とい う えが生まれた.結果,CT 中に容態の悪化が遅れ,「CT は死のトンネル」と呼ばれる時代が続き,防ぎ えた外傷死 (preventable trauma death: PTD) が大量発生した. 平成 13年度厚生科学特別研究「救命救 急センターにおける重症外傷患者への対応の充実に向けた研究」によると,当時の我が国の PTD 発生は 40%近くであり, 1970年代前半の米国の水準に近い. これに対し日本外傷学会や日本救急医学会らは外 傷初期診療ガイドライン (JATEC) を広め, 本邦の外傷診療は飛躍的に向上している. JATEC は pri-mary survey(以下 PS) で患者を生理学的に評価しつつ治療を行い, secondary survey(SS) において解剖 学的に評価するという点において画期的であった. PSと SSを同時に検討する事ができれば なる時間 短縮,救命率向上につながると え,multiditector CT (MDCT)を用いる事によってさらに外傷診療の効 率的な診療体系を構築できると報告した. ⑶ 関連研究・関連活動等の概要 臨床面では主に救急医学を中心に活動しており, 社会に向けての活動としては NPO法人群馬救急医 療推進協会の会員として救急医療の啓蒙を行っている. これらで得た経験や研究成果を内外の学会, 雑 誌を通じて報告している. 95