後頸部の温罨法が呼吸機能と心理面に及ぼす影響
The Effect of a Hot Compress of Posterior Region of Neck on Breathing Function and
Psychological States
阿佐美祐子
1),浅川 和美
2)ASAMI Yuko, ASAKAWA Kazumi
要 旨
本研究は,後頸部温罨法が呼吸機能と心理面に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし,22 ~ 47 歳代の 健康な女性 25 名に対して,安静のみ,後頸部温罨法それぞれの実施前後の変化を比較した。測定項目は,生 理的測定項目(血圧,脈拍,体温,酸素飽和度),呼吸機能(スパイロメトリー),状態不安(State-Trait Anxiety Inventory:STAI),温感覚,快適感を測定した。安静群と比較し,後頸部温罨法群は実施後に拡張 期血圧,脈拍,STAI が有意に低下した。温感覚は「首~肩」で上昇し,快適感では「心地よい」「温かい」「筋 肉がやわらいでいる」が上昇した。呼吸機能に変化はみられなかった。後頸部温罨法は,拡張期血圧,脈拍を 低下させ,首~肩の温感覚,快適感を上昇させ,不安を軽減させることが明らかになった。This study examined the effects of applying a hot compress to the posterior region of the neck (PRN) on a person’s respiratory function and psychological state. Pre- and post-intervention changes were compared in a sample of 25 healthy women in their 20s, 30s and 40s who were divided into non-intervention (bedrest) groups and non-intervention groups. Objective measures consisted of physical indicators (blood pressure, pulse, body temperature, and oxygen level), spirometry (for respiratory function), and the State-Trait Anxiety Inventory (STAI). Subjective assessments were obtained for the sensations of warmth and pleasurable feelings. Compared to the non-intervention group, the intervention group showed significant post-intervention decreases in the diastolic blood pressure, pulse, and STAI scores. Significant increases were found in the sensations of warmth in the neck and shoulder area and the pleasurable feelings of “comfort,” “warmth,” and “muscular relaxation.” No significant difference was found in the respiratory function. These results indicate that applying a hot compress to the PRN may reduce diastolic blood pressure and pulse, increase pleasurable feelings, sensations of warmth in the neck and shoulders, and mitigate anxiety, suggesting that it may alleviate breathing difficulties in chronic obstructive pulmonary disease (COPD) patients when psychological factors are important contributors.
キーワード 温罨法 , 呼吸機能 , 心理面
Key words Hot Compress, Breathing Function, Psychological States
受理日:2018 年 1 月 19 日
1)山梨大学大学院医学工学総合教育部修士課程看護学専攻: Integrated Graduate School of Medicine and Engineering, University of Yamanashi
2)山梨大学大学院総合研究部医学域看護学系(基礎・臨床看護 学講座):University of Yamanashi,Graduate School of Interdisciplinary Research, Faculty of Medicine, Division of Nursing science (Fundamental and Clinical Nursing)
Ⅰ . はじめに
2004 年の WHO(World Health Organization)の報告1)
によると,慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease, 以下 COPD)は死因の第 4 位(総死 亡の 5.1%)であり,2020 年には第 5 位になると予測され 死亡率は世界的に高いレベルにある。日本では 2000 年 に死因の第 10 位となり,COPD による死亡者は 1 万 6000 人を超えている2) 。福地ら3) の大規模な疫学調査研 究 NICE ス タ デ ィ(Nippon COPD Epidemiology Study)によると,日本人の 40 歳以上の 8.6% にあたる
約 530 万人が COPD に罹患していると推定されている。 在宅呼吸ケア白書 20104)によると,自宅で生活してい る COPD 患者の多くが,日常生活行動において呼吸困 難を感じており,55% の患者が呼吸困難による恐怖感 のため,外出を控えている。また,在宅酸素・人工呼吸 実施群では 70% 以上の患者が息切れを気にしないで生 活することを望んでおり4),松本ら5)は,重症 COPD 患 者の希望を脅かす要素として「七転八倒の息苦しさの持 続」をあげている。このように COPD 患者の呼吸困難は, 日常生活動作や生活の質の低下に深く関連し,療養生活 を送る上で最大の問題となっている。 COPD 患者は,肺の過膨張に伴い横隔膜が平坦化し, 横隔膜呼吸が困難になるため,頸部の補助呼吸筋を動員 する割合が高い。後頸部温罨法は交感神経活動を抑制し, 副交感神経活動が優位になることにより,血管が拡張し, 血流が増加する。皮膚表面温度,深部温においても温度 の上昇がみられ,筋硬度が低下することが報告されてい る6)。また筋紡錘は温熱刺激により筋腱の伸張性が増す と報告されており7) ,筋紡錘が多く含まれる筋肉を温め ることにより,胸郭可動性が増し,肺活量や努力肺活量 が増加することが期待される。また,後頸部温罨法はリ ラクセーション効果があることが報告されており8),呼 吸機能や心理面が大きく影響する呼吸困難の改善が期待 される。 以上のことから,補助呼吸筋への温熱刺激は,呼吸運 動を改善する効果が期待されるが,後頸部温罨法が呼吸 にどのような影響を与えるかについては明らかにされて いない。そこで本研究では,基礎的研究として加齢変化 による呼吸機能低下の少ない健康な人を対象に,呼吸に 関連する胸鎖乳突筋,斜角筋,僧帽筋に近い後頸部への 温罨法が,呼吸機能および心理面に及ぼす影響を明らか にし,COPD 患者の呼吸困難改善の方策への基礎資料 としたいと考えた。
Ⅱ . 研究目的
健常な女性における後頸部温罨法が,呼吸機能および 心理面に及ぼす影響を明らかにする。Ⅲ . 研究方法
1.研究対象 現在治療中の循環器・呼吸器疾患のない 22 歳~ 47 歳 の女性 25 名であり,研究協力への同意が得られた者と した。 2.データ収集期間 平成 28 年 9 月 1 日~ 11 月 2 日 3.データ収集方法 研究協力者の募集方法は,ポスターを作成し,大学 1 施設と病院 2 施設の施設内に掲示し,所定の BOX への 同意書の提出をもって,研究に同意が得られたものとし た。 研究対象者は前日に十分な睡眠をとり,当日朝より飲 酒と激しい運動は禁止した。また,実験 2 時間前から禁 食,禁煙とした。自律神経活動の日内変動による影響を 最小限にするため,個々の実験は同一時間帯とした。安 静・後頸部温罨法を,同一の研究対象者に対し,日を変 えて実施した。実験体位は座位とし,安静・後頸部温罨 法共に 15 分間とした。安静・後頸部温罨法の実施順序 は順不同とし,サンプルサイズを統一するため,順次登 録とした。環境による影響を最小限にするため,1 名の 研究対象者の実験期間は 2 週間以内とした。実験時は, 衣服による首周りや上半身の締め付けがないことを確認 した。 4.調査内容・測定項目 1)研究対象者の属性 年齢,身長,体重,喫煙歴について研究対象者自身が 記載した。 2)生理的測定項目 体温,血圧,脈拍,経皮的酸素飽和度(以下 SpO2)を 測定した。体温の測定には耳式体温計(シチズン CT-820)を使用した。耳式体温計での測定は,外耳道の走行 などの個人差が大きく,数値に影響する可能性が示唆さ れているため,計 3 回測定し中間値を採用とした。血圧 測定は水銀血圧計にて研究者が測定した。脈拍,SpO2 測定には(テイジン POLSOX)を使用した。 3)呼吸機能測定 呼吸機能測定は,スパイロメトリー(SP-370 フクダ 社製)を使用した。測定項目は,肺活量,努力肺活量,1 回換気量とした。測定は,日本呼吸器学会呼吸機能検査 ガイドライン9)に則り施行した。 4)心理面の測定(1)STAI: State-Trait Anxiety Inventory(状態不安) C.D スピルバーグらが 1970 年に開発した不安測定の ための基礎的な尺度であり,不安を状態不安と特性不安 に分けて測定する。状態不安は,現在の不安を測定し, 特性不安は,ストレスを受けた際の不安を測定する尺度 であり,各 20 項目を 1 ~ 4 点の 4 段階で回答してもらい, 合計得点を標準得点として算出する。点数が高いほど不 安が強いことを示している。本研究では,日本の文化的 要因を考慮して開発された新版 STAI を使用し,一過 性の状況反応を反映する「状態不安」を実施前後で測定し た。状態不安尺度は,一時的不安の変化に対する敏感な 指標となることが見出だされており,妥当性が確認され
ている10)11)。 (2)身体各部の温感覚と快適感 岩崎ら12)の研究を参考に,それぞれの後頸部温罨法が 身体各部の温感覚,快適感にどのように影響しているか を評価するための尺度として用いた。 身体各部の温感覚について,体幹を中心とした「首~ 肩部」「胸部」「腹部」「背部」「腰部」「腋窩~手掌」の 6 箇所,快適感について,「心地よい」「眠い」「体が温かい」 「筋肉がやわらいでいる」に,呼吸に関連した「息が吸い やすい」「息が吐きやすい」の 2 項目を加えた 6 項目につ いて評価した。
評価には Visual Analogue Scale(以下,VAS)を用い, 実験前後を比較した。100mm の直線に,「全くそうでな い」を 0mm,「とてもそうである」を 100mm として,今 現在の感覚を線上に記入してもらい,その長さを測定し 数値とした。 5.実験手順(図 1) 実験室は室温 20 ~ 25℃,湿度 40 ~ 60% に設定した。 呼吸機能測定時はガイドラインに則り,背もたれから背 中を離した座位で施行した。また,精神面への影響を考 慮し,研究者が研究対象者に声掛けを行うのは説明時の みとし,測定時以外は,研究対象者と研究者の間はパー テーションで区切り,研究対象者から研究者の表情や行 動が見えないようにした。研究対象者に実験参加条件を 確認し,背もたれのある椅子にかけた座位で 10 分間の 安静後,基本属性の記入,生理的測定項目の測定を行っ た。続いて,STAI(状態不安),温感覚・快適感の記入, スパイロメトリー(フクダ社製)にて呼吸機能測定を行っ た。15 分間,安静,後頸部温罨法いずれかを行った後, 生理的測定項目の測定,STAI(状態不安),温感覚,快 適感の記入,呼吸機能測定を行った。 6.後頸部温罨法の方法 胸鎖乳突筋・斜角筋・僧帽筋への温熱効果を想定し実 施した。温罨法には 40℃を 30 分程度保つ 17.3cm×9cm 大の蒸気温熱シート(めぐリズム®,花王社製)を用いた。 蒸気温熱シートを外装から取り出し,表面温度が 40℃ になったことを表面温度計(オプテックス社製)で確認 し,15 分間貼付した。肩にかからないように頸部後方 から頸部側方を包み込むように貼付した。 7.分析方法 基本統計量を算出し,正規性の検定後,生理的測定項 目(収縮期血圧・拡張期血圧・脈拍・体温・SpO2),呼 吸機能(1 回換気量・肺活量・努力肺活量 1 秒量・1 秒率), 心理面(STAI〔状態不安〕・温感覚・快適感)それぞれの 項目について実施前後の比較を行った。実施前の測定値 を基準とし,実施後の測定値との差を変化量として算出 し,安静群と後頸部温罨法群の変化量を比較した。検定 には Wilcoxon の符号付順位検定を用いた。p 値は 0.05 未満を統計学的に有意とした。 統計解析ソフト SPSS23.0 J for Windows を使用した。 8.倫理的配慮 山梨大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した(承 認番号 1505)。 研究対象者に研究参加は自由意志であり,不参加の場 合でも不利益は生じないこと,実験途中であっても中止 することは可能であること,温罨法による皮膚障害や苦 痛に対し,細心の注意を払い危険を回避すること,プラ イバシーの保護や研究結果の公表などについて文書と口 頭で説明し,署名をもって同意を得た。調査内容,結果 は個人が特定できないよう番号で管理し,資料は施錠で きる所定の保管場所で管理した。研究結果を論文やその 他の方法で公表する際は,匿名性を守ることとし,研究 等の実施に係わるデータ及び文書は,研究終了後少なく とも 5 年間,あるいは研究結果発表後 3 年が経過した日 のどちらか遅い期日まで保存することとし,その後,個 人を特定されないよう処理したうえで廃棄することとし た。
Ⅳ . 結果
研究は平成 28 年 9 月~ 11 月に同意の得られた循環器・ 呼吸器疾患のない健康な女性 25 名を研究対象者として 実施した。基本属性について表 1 に示す。 1. 実施前後の項目別比較 1)安静前後の比較(表 2-1) 安静後に有意に低下した項目は,収縮期血圧(p=.000), 脈拍(p=.049)であった。呼吸機能に有意差はみられな かった。STAI(状態不安)は安静後,有意に低下した (p=.025)。快適感では「心地よい」が安静後,有意に増加 安 静 10分 被 験 者 属 性 調 査・ 生 理 的 測 定 項 目 測 定 STAI ・温感覚・快適感 記入 呼吸機能測定 呼吸機能測定 安静 または 後頸部温罨法 STAI ・温感覚・快適感 記入 生理的測定項目測定 ※15分 図 1 実験手順表1 基本属性 n=25 項目 n (%) 性別 女性 25 (100) 年齢(歳) Mean±SD 33.12±9.92 中央値 30 身長(cm) Mean±SD 157.02±6.29 中央値 157 体重(kg) Mean±SD 52.54±7.71 中央値 52 喫煙歴 なし 20 (80.0) あり 2 (8.0) 過去あり 3 (12.0) 表 2-1 安静前後の測定値の比較 n=25 測定項目 前 後 p値 Me Mean SD Me Mean SD 生理的測定項目 収縮期血圧(mmHg) 108.0 108.96 9.04 106.0 104.88 9.66 0.000 拡張期血圧(mmHg) 60.0 61.52 7.77 60.0 62.24 8.13 0.551 脈拍(回 / 分) 68.0 69.68 10.01 68.0 67.56 8.78 0.049 体温(℃) 36.3 36.23 0.49 36.3 36.14 0.47 0.135 SpO(%)2 97.0 97.00 1.04 97.0 97.32 1.11 0.224 呼吸機能 VC(L) 3.12 3.14 0.34 3.14 3.14 0.34 0.770 TV(L) 1.86 0.73 0.38 1.85 0.70 0.36 0.451 FVC(L) 3.11 3.16 0.39 3.08 3.15 0.42 0.379 FEV1(L) 2.77 2.75 0.38 2.79 2.75 0.39 0.852 FEV1(%) 86.58 87.00 5.30 86.22 87.25 5.23 0.339 STAI 36.0 36.64 6.29 36.0 35.24 5.74 0.025* VAS(mm) 首~肩 46.0 43.72 19.73 43.0 47.08 20.77 0.297 腋~手 51.0 48.68 19.92 49.0 51.20 18.40 0.607 胸部 49.0 43.84 19.12 49.0 47.64 20.19 0.138 腹部 51.0 48.12 19.93 47.0 50.84 18.53 0.590 背中 45.0 45.20 20.10 47.0 47.56 19.02 0.667 腰部 44.0 45.36 19.49 44.0 47.16 17.69 0.627 心地よい 51.0 56.08 17.24 58.0 63.56 17.54 0.026 眠い 68.0 58.88 25.79 69.0 61.68 27.27 0.237 体が温かい 50.0 48.36 21.34 51.0 53.12 15.50 0.300 筋肉がやわらいでいる 43.0 44.84 21.13 48.0 50.24 17.13 0.055 息が吸いやすい 53.0 58.96 19.11 54.0 60.44 16.54 0.379 息が吐きやすい 51.0 60.40 18.33 55.0 61.56 16.13 0.375 ・Wilcoxon 符号付き順位検定 ・VC(肺活量),TV(1 回換気量),FVC(努力肺活量),FEV1(1 秒量),FEV1%(1 秒率)
表 2-2 後頸部温罨法前後の測定値の比較 n=25 測定項目 前 後 p値 Me Mean SD Me Mean SD 生理的 測定項目 収縮期血圧(mmHg) 106.0 107.12 10.63 98.0 99.76 9.06 0.000 拡張期血圧(mmHg) 60.0 60.40 8.58 58.0 57.12 6.08 0.014 脈拍(回 / 分) 68.0 68.44 9.76 62.0 62.80 7.68 0.000 体温(℃) 36.1 36.20 0.41 36.3 36.32 0.33 0.033 SpO(%)2 97.0 97.56 1.12 98.0 97.88 1.05 0.143 呼吸機能 VC(L) 3.10 3.13 0.33 3.15 3.15 0.35 0.059 TV(L) 0.59 0.64 0.30 0.60 0.69 0.33 0.174 FVC(L) 3.18 3.14 0.41 3.14 3.13 0.41 0.415 FEV1(L) 2.80 2.70 0.39 2.80 2.70 0.39 0.830 FEV1(%) 85.07 86.00 5.46 86.53 86.24 6.33 0.288 STAI(状態不安) 37.0 36.52 6.18 32.0 32.44 6.19 0.000 温感覚 首~肩 47.0 45.28 20.08 84.0 85.52 10.64 0.000 腋~手 49.0 50.68 20.71 68.0 64.08 19.17 0.003 胸部 48.0 48.12 23.22 62.0 58.16 18.53 0.013 腹部 50.0 49.12 22.15 56.0 54.12 21.64 0.259 背中 49.0 46.72 20.83 67.0 63.24 19.54 0.002 腰部 50.0 45.36 21.13 53.0 51.28 19.87 0.174 快適感 心地よい 55.0 60.72 18.50 79.0 78.56 17.84 0.000 眠い 64.0 60.20 25.83 85.0 75.20 26.31 0.001 体が温かい 51.0 52.56 21.58 77.0 75.12 17.11 0.000 筋肉がやわらいでいる 46.0 47.52 22.16 71.0 69.92 20.80 0.000 息のし やすさ 息が吸いやすい 62.0 64.68 17.60 64.0 69.44 17.00 0.033 息が吐きやすい 65.0 65.00 17.37 62.0 68.28 16.85 0.139 ・Wilcoxon 符号付き順位検定 ・温感覚,快適感,息のしやすさは,VAS(mm)の値 ・VC(肺活量),TV(1 回換気量),FVC(努力肺活量),FEV1(1 秒量),FEV1%(1 秒率) 表 3 安静群と後頸部温罨法群の変化量の比較 n=25 測定項目 安静群 後頸部温罨法群 変化量の差の検定 p 値 Me Mean SD Me Mean SD 生理的 測定項目 収縮期血圧(mmHg) -4.00 -4.08 4.64 -6.00 -7.36 4.82 0.069 拡張期血圧(mmHg) 0.00 0.72 5.83 -4.00 -3.28 5.53 0.015 脈拍(回 / 分) -2.00 -2.12 4.81 -4.00 -5.64 4.71 0.005 体温(℃) 0.00 -0.09 0.27 0.10 0.12 0.25 0.018 SpO(%)2 0.00 0.32 1.18 0.00 0.32 1.03 0.818 呼吸機能 VC(L) 0.01 0.00 0.07 0.02 0.02 0.06 0.465 TV(L) -0.02 -0.03 0.18 0.07 0.05 0.19 0.115 FVC(L) -0.02 -0.01 0.09 -0.01 -0.02 0.09 0.914 FEV1(L) -0.01 0.00 0.05 0.01 -0.01 0.11 0.882 FEV1(%) 0.21 0.25 1.73 0.24 0.23 2.08 0.788 STAI(状態不安) -1.00 -1.40 2.68 -3.00 -4.08 4.11 0.011 温感覚 首~肩 3.00 3.36 13.86 34.00 40.24 18.97 0.000 腋~手 2.00 2.52 20.99 14.00 13.40 19.52 0.042 胸部 2.00 3.80 12.33 6.00 10.04 18.01 0.119 腹部 -2.00 2.72 14.50 0.00 5.00 13.77 0.599 背中 2.00 2.36 18.63 14.00 16.52 26.56 0.021 腰部 1.00 1.80 15.04 2.00 5.92 21.75 0.284 快適感 心地よい 5.00 7.48 15.52 18.00 17.84 13.67 0.007 眠い 0.00 2.80 10.21 14.00 15.00 25.64 0.019 体が温かい 1.00 4.76 15.95 23.00 22.56 19.41 0.002 筋肉がやわらいでいる 4.00 5.40 12.96 18.00 22.40 18.43 0.002 息のし やすさ 息が吸いやすい 0.00 1.48 8.17 4.00 4.76 11.96 0.258 息が吐きやすい 1.00 1.16 6.99 3.00 3.28 12.86 0.449 ・Wilcoxon 符号付き順位検定 ・変化量:介入後の測定値から介入前の測定値を引いた値 ・VC(肺活量),TV(1 回換気量),FVC(努力肺活量),FEV1(1 秒量),FEV1%(1 秒率)
かったことから,後頸部温罨法による体温変化は微小で あったと考えられる。各部位の温感覚への影響を見ると, 後頸部温罨法群は,「首~肩」「腋~手」「胸部」「背中」 の温感覚が,安静群と比較して温罨法実施後に有意に上 昇していた。江上13)の温罨法の文献レビューにおいて, 温罨法は加温した局所だけではなく末梢の皮膚温や皮膚 血流量を上昇すると述べており,後頸部への温罨法によ り,周辺の皮膚血流量が増加し,頸部から上肢,胸部, 背部まで温かさを感じたと推測される。快適感への影響 を見ると,「心地よい」は安静群,後頸部温罨法群ともに 実施後,有意に上昇していた。実施前後の変化量の比較 では,安静群に比べて後頸部温罨法群の変化量が有意に 大きいことから,後頸部温罨法により「心地よさ」が増し たことが認められた。「眠い」「体が温かい」「筋肉がや わらいでいる」についても,後頸部温罨法実施後の変化 量は有意に大きく,温罨法による効果が認められた。 STAI(状態不安)では,安静群,後頸部温罨法群ともに, 実施後の得点が低下しており,不安の軽減がみられた。 実施前後の変化量を比較したところ,安静に比べて,後 頸部温罨法よる不安の軽減が大きかった。加藤14)は, 後頸部温罨法は温熱刺激により副交感神経が優位となり リラックス状態になることを報告しており,この結果は それを反映したものと考えられる。呼吸機能検査では, 安静,後頸部温罨法による実施前後で有意な違いは認め られなかった。また,実施前後の変化量を安静,後頸部 温罨法で比較しても,有意な差は認められなかったこと から,後頸部温罨法よる呼吸機能への影響は認められな かった。「息が吸いやすい」については,後頸部温罨法の 実施後,有意に上昇していた。中納ら6) は後頸部温罨法 の効果に関する研究において,頸部から肩にかけての温 度の上昇による血管拡張や血流促進により,肩部の筋硬 度が低下したと述べており,本研究においても,温罨法 により筋硬度が低下し,頸部周辺にある胸鎖乳突筋や斜 角筋などの動きに影響した可能性が考えられる。 呼吸困難には抑うつ,不安などの心理的な因子が強く 関与すること15) が従来から知られており,COPD に罹患 していると,罹患していない場合と比較して 2.2 倍抑う つ傾向になりやすいと報告されている16)。遠藤ら7),宮 前ら18) は,COPD 患者の呼吸困難と心理的問題に焦点を 当てた研究において,不安の強さと呼吸困難は関連して おり,不安が強くなると呼吸困難も強くなることを報告 している。一方,COPD 患者の不安軽減にリラクセーショ ン法が有効であるとの報告18)もあり,後頸部温罨法によ り,状態不安が有意に低下したことは,抑うつや不安に 起因した呼吸困難のある COPD 患者の症状緩和につな がる可能性が示唆された。 本研究は,基礎的研究として循環器・呼吸器疾患のな い女性を対象とした。今後は COPD 患者を対象に後頸 した(p=.026)。温感覚に有意差はみられなかった。 2)後頸部温罨法前後の比較(表 2-2) 温罨法の実施後有意に低下した項目は,収縮期血圧 (p=.000),拡張期血圧(p=.0014),脈拍(p=.000)であった。 体温は実施後,有意に上昇した(p=.033)。呼吸機能に有 意差はみられなかった。STAI(状態不安)は実施後,有 意に低下した(p=.000)。温感覚に関して実施後に有意に 上昇したのは,「首~肩」(p=.000),「腋~手」(p=.003), 「胸部」(p=.0013),「背中」(p=.002)であった。快適感 に関して,実施後有意に上昇したのは,「心地よい」 (p=.000),「眠い」(p=.001),「体が温かい」(p=.000),「筋 肉がやわらいでいる」(p=.000),「息が吸いやすい」 (p=.0033)であった。 2.安静群と後頸部温罨法群の変化量の比較(表 3) 1)生理的測定項目 拡張期血圧において変化量は,安静群 0.0mmHg(中央 値 以下同様),後頸部温罨法群 -4.0mmHg であり,変 化量は後頸部温罨法群で大きかった(p=.015)。脈拍は安 静群 -2.0 回 / 分,後頸部温罨法群で -4.0 回 / 分であり, 後頸部温罨法群の方が大きかった(p=.005)。収縮期血圧, 体温,SpO2における変化量に差はみられなかった。 2)呼吸機能 群間での差はみられなかった。(p>.05) 3)STAI(状態不安) 変化量は,安静群は -1.0,後頸部温罨法群は -3.0 であり, 安静群と比較して,後頸部温罨法群の変化量の差は大き かった(p=.011)。 4)温感覚 安静群 3.0,後頸部温罨法群 34.0 と「首~肩部」の温感 覚の変化量の差は大きかった(p=.000)。 5)快適感 「心地よい」では,安静群 5.0,後頸部温罨法群 18.0 と 後頸部温罨法群での変化量の差が大きかった(p=.007)。 「体が温かい」では安静群 1.0,後頸部温罨法群 23.0 と後 頸部温罨法群での変化量の差が大きかった(p=.002)。「筋 肉がやわらいでいる」では安静群 4.0,後頸部温罨法群 18.0 と後頸部温罨法群の変化量が大きかった(p=.002)。
Ⅴ . 考察
安静と後頸部温罨法の変化量比較において,後頸部温 罨法で,拡張期血圧,脈拍は有意に低下した。中納ら8)は, 後頸部温罨法による生体反応の基礎的研究において収縮 期血圧,脈拍の低下は後頸部温罨法によるリラックス効 果によって副交感神経が優位になったことを報告してい る。体温は,後頸部温罨法後に有意に高くなっていたが, 安静群と後頸部温罨法群の変化量に有意差はみられな8) 中納美智保,水田真由美,他(2009)後頸部温罨法による生体反 応についての基礎研究 脳血流,血圧,体温の変化 . 和歌山県 立医科大学保健看護学部紀要,5:9-15. 9) 日本呼吸器学会肺生理専門委員会(2004)呼吸機能検査ガイドラ イン―スパイロメトリー,フローボリューム曲線,肺拡散能力―. メディカルレビュー社,東京,12-19. 10) 肥田野直,福原眞知子,他(2015)新版 STAI マニュアル . 実務 教育出版,東京,4-16. 11) 武市昌士(2008)不安と心身機能の計量診断(Part1,2).医学書 院,東京,5-16. 12) 岩﨑眞弓,野村志保子(2005)局所後頸部温罨法によるリラク ゼーション効果の検討―後頸部温罨法と足浴が身体に及ぼす影 響の比較検討より―. 日本看護研究学会雑誌,28(1):33-43. 13) 江上京里(2008)「後頸部温罨法」の統合的文献レビュー . 日本 看護技術学会,7(2):4-11. 14) 加藤京里(2011)後頸部温罨法による自律神経活動と快-不快の変 化―40℃と 60℃の比較―. 日本看護研究学会雑誌,34(2):39-48. 15) 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会呼吸リハビリテーショ ン委員会ワーキンググループ(2012)呼吸リハビリテーションマ ニュアル―運動療法―第 2 版 . 照林社,東京,10-16. 16) 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会呼吸リハビリテーショ ン委員会(2007)呼吸リハビリテーションマニュアル―患者教育 の考え方と実践―. 照林社,東京,149-152. 17) 遠藤晶子,石井智香子,他(2015)慢性閉塞性肺疾患患者の呼吸困 難の実態と心理的問題に関する研究 . 医療の広場,55(7):30-33. 18) 宮前ちひろ,仙谷泰仁,他(2007)慢性肺気腫患者の呼吸困難と 心因的問題 . 作業療法,26(4):357-363. 部温罨法の呼吸機能と心理面に及ぼす影響を明らかにし ていく必要がある。
Ⅵ.結論
22 ~ 47 歳の健常女性 25 名に,安静 15 分間,40℃ 15 分間の後頸部温罨法を実施し,実施前後の生理的測定項 目,呼吸機能,心理面の変化を比較した。その結果,以 下のことが明らかになった。 1. 後頸部温罨法により,血圧,脈拍が低下し,温感覚, 快適感は上昇したことから,リラクセーション効果 が認められた。 2. 後頸部温罨法は,不安を軽減させることが明らかに なった。この結果から,抑うつや不安に起因した呼 吸困難のある COPD 患者において,症状を緩和させ る可能性が示唆された。 3. 健常女性に対する後頸部温罨法は,呼吸機能に影響 しなかった。 謝辞 本研究にあたり実験にご協力いただきました対象者の 皆様に心より感謝申し上げます。実験方法,結果の分析 等への多大なご助言をいただきました,山梨大学医学総 合教育センター中本和典教授に心より感謝致します。 本研究は 2016 年度山梨大学大学院医学工学総合教育 部修士課程看護学専攻修士論文の一部を加筆・修正した ものである。なお,本研究は平成 28 年度山梨大学看護 学会研究助成金の助成を受けて行った。 文献1) World Health Organization (2008) The global burden of disease.2004 update.Geneva, WHO Press.
2) 財団法人厚生統計協会(2016)厚生の指標 増刊 国民衛生の動 向 2016/2017. 財団法人厚生統計協会,東京,85-86.
3) Fukuchi Y, Nishimura M, et al. (2004) COPD in Japan :the Nippon COPD Epidemiology study. Respirology, 9:458-465. 4) 日本呼吸器学会肺生理専門委員会在宅呼吸ケア白書ワーキング グループ(2010)在宅呼吸ケア白書 2010. メディカルレビュー社, 東京,53-61. 5) 松本麻里,土居洋子(2006)重症慢性閉塞性肺疾患患者の希望を 脅かす要素 . 日本看護科学会誌,26(2):58-66. 6) 中納美智保,辻幸代,他(2010)末梢の冷えを自覚している成人 女性への後頸部の湿性後頸部温罨法の効果 . 関西医療大学紀要, 4:47-53.
7) Lehmann JF, Masock AJ, et al. (1970) Effect of therapeutic temperatures on tendon extensibility. Arch Phys Med Rehabil, 51:481-487.