臨床看護師の臨床判断力の特徴
̶外科系看護師と内科系看護師の比較̶
Characteristics of Clinical Judgments in Nurses
—A Comparison of Surgical and Medical Nurses—
浅原 久恵
1),中村美知子
2) ASAHARA Hisae, NAKAMURA Michiko要 旨
臨床看護師の臨床判断力を「倫理的側面」と「診断的・治療的側面」で捉え,外科系ならびに内科系看護師の 臨床判断力の特徴を明らかにし,課題を見出すことを目的として外科群 40 名,内科群 41 名に臨床判断力尺 度を用いた調査を行った。その結果,外科群と内科群に共通して専門職としての認識が高いが一方では医師 に責任を委ねる傾向がみられた。患者の治療や処置よりも療養上の世話に関する判断において高値であるが 与薬の判断では特に低値であり,専門職としての認識の高い方が幅広い臨床場面で判断していた。外科群は 専門職としての認識が高く医師に依存せず主体的に判断している方が治療処置を含む場面でも判断しており, 内科群は専門職としての意識が有意に高値だが食事の判断では低値であることが特徴であった。臨床看護師 は,患者の状態とニーズに合わせて主体的に判断を行い,医療行為の場面でもより積極的に判断していく必 要があると考えられる。The purpose of this study is to determine the unique characteristics of clinical judgments of surgical nurses and medical nurses. We defi ned 2 clinical judgment characteristics of clinical nurses as “ethical judgment” and “diagnostic-therapeutic judgment”. The study used the clinical judgment scale, and was conducted on 40 surgical and 41 medical nurses respectively. The surgical nurses and medical nurses had the same characteristics, and additional characteristics emerged as a result of the study: 1) Employment awareness was high, and they were dependent on doctors, 2) They scored higher in recuperative care than curative treatment, and the score of medication was lowest and 3) Nurses who were more aware of their position as specialists could make judgments independent of doctors in various clinical situations. Employment awareness for the medical nurse was signifi cantly high, but the dietary judgment score was low.
It is necessary for clinical nurses to independently judge the state and needs of the patient, and be more proactive in their clinical behavior.
キーワード 臨床判断力,外科系看護師,内科系看護師 Key Words Clinical Judgment, Surgical Nurses, Medical Nurses
受理日:2009 年 7 月 29 日 1) 国際医療福祉大学病院:
International University of Health and Welfare Hospital 2) 山梨大学大学院医学工学総合研究部:
Interdisciplinary Graduate School of Medicine and Engineering, University of Yamanashi
Ⅰ . 緒言
高度化や専門分化が進む医療現場において能力の開発 や評価が重要とされるようになり,看護師には高い臨床 判断力が求められている。臨床看護師には『専門的認識』, 『医療的認識』,『管理的認識』という 3 つの認識傾向があ り,看護師の臨床場面での意思決定はこれら 3 つの認識の影響を非常に受けやすい1)。臨床判断力はすべての医 療専門職にとって必要不可欠であり2),看護における臨 床判断は倫理的判断と診断的・治療的判断の 2 つの領域 にまとめられ,あらゆる診断的・治療的判断には倫理的 判断が影響するといわれている3)。しかしながら,看護 師の臨床判断について看護実践を知識・技術の側面から 捉えられることが多く4),看護倫理と看護実践の両側面 に焦点をあてたものはみられない。看護師の道徳的な感 性は所属病棟により相違があり5)診療科による業務内容 の特殊性が看護師の臨床判断力に影響していると考えら れるため,外科系看護師と内科系看護師とでは相違があ ると推測される。臨床看護師の臨床判断力を倫理的判断 と臨床看護実践場面における診断的・治療的判断の両側 面より包括的に捉えて,外科系看護師と内科系看護師と に大別して調査し,臨床判断力の今後の課題を見出すこ とは看護専門職としての能力の向上に貢献し,看護教育 の基礎資料となり意義は大きいと思われる。
Ⅱ . 目的
臨床看護師の臨床判断力を「倫理的側面」と「診断的・ 治療的側面」で捉え,外科系看護師と内科系看護師の臨 床判断における認識の特徴を明らかにし,外科系ならび に内科系看護師の臨床判断力の課題を見出す。Ⅲ . 研究方法
1. 調査対象 Y 大学医学部附属病院において外科・内科の成人病棟 に勤務している常勤看護師で,それぞれの領域での経験 年数が勤続 3 年以上の者,外科系看護師 55 名,内科系 看護師 52 名を対象とした。 2. 調査期間 調査期間は,2006 年 7 月から 8 月であった。 3. 調査方法 施設の看護部長に本研究の主旨を伝え同意を得た。看 護部長に病棟選定を依頼し,外科病棟,内科病棟の師長 の承諾が得られた病棟に調査者が調査用紙を持参し師長 を介して対象看護師に配布した。調査用紙の回収は 2 週 間の留め置き法とした。 4. 用語の操作的定義 1) 臨床判断力:「倫理的側面」26 項目と「診断的・治療 的側面」41 項目から構成され,臨床看護師として必 要な専門的判断をさす。 2) 倫理的側面:臨床判断力の構成要素であり,『専門 的認識』,『医療的認識』,『管理的認識』の 3 つの下 位尺度,26 項目から構成される。 3) 診断的・治療的側面:臨床判断力の構成要素であり, 『治療・処置』,『日常生活援助』,『管理業務』,『保 健指導』の 4 つの下位尺度,41 項目から構成される。 4) 外科系看護師:外科病棟(消化器外科,内分泌外科, 心臓血管外科,胸部外科,呼吸器外科,皮膚科,整 形外科)で 3 年以上勤続している常勤看護師。 5) 内科系看護師:内科病棟(消化器内科,循環器内科, 呼吸器内科,内分泌内科,神経内科)に 3 年以上勤 続している常勤看護師。 5. 調査内容 1) 対象者の属性 年齢,性別,勤務している病棟(診療科),通算臨床経 験年数,臨床経験年数の内訳,職位,看護教育課程 2) 臨床判断力の測定用具Rhodes B の‘Confi dence in decision-making scale’1) を一部改変した臨床判断力尺度を使用した。これは,「倫 理的側面」と「診断的・治療的側面」から構成されている。 「倫理的側面」は『専門的認識』9 項目,『医療的認識』8 項 目,『管理的認識』9 項目の 3 つの下位尺度 26 項目から 構成され,「非常にそう思う」5 点から「全くそう思わな い」1 点までの 5 段階リッカートスケールで評価する。 得点は同意の程度を表しており,得点が高いほどそう思 うことを示す。「診断的・治療的側面」は『治療・処置』16 項目,『日常生活援助』12 項目,『管理業務』6 項目,『保 健指導』7 項目の 4 つの下位尺度 41 項目から構成され, 「常にしている」5 点から「全くしていない」1 点の 5 段階 リッカートスケールで評価する。得点は判断の頻度を表 しており,得点が高いほど頻繁に判断していることを示 す。‘Confi dence in decision-making scale’の信頼性と 妥 当 性 に つ い て は 検 証 さ れ て お り1), 本 調 査 で の Cronbach α係数は尺度全体で 0.92,倫理的側面 0.81, 診断的・治療的側面 0.94 であった。この尺度は Rhodes B に書面にて使用と翻訳の許可を得ており,調査者が翻訳 した後専門の翻訳家に依頼した。その後,プレテストに て理解困難な点がないか確認した後,翻訳家によって バックトランスレーションを行い,再度日本語の表現を 再検討した。 3) 看護独自の臨床判断を必要と感じる場面について 自由記述で回答を得た。 6. データの分析方法 「倫理的側面」と「診断的・治療的側面」の下位尺度およ び項目ごとの平均値と標準偏差と項目ごとの中央値を算 出し,2 群の比較には Mann-Whitney U 検定を用いた。 また,両群の下位尺度および項目ごとの関係については
Spearman の順位相関係数を用い,下位尺度および項目 ごとに 2 群の比較を行った。臨床判断を必要と感じる場 面については,内容を分析し,コーディングしながら類 似した要素ごとにまとめた。なお,統計処理には統計解 析ソフト SPSS ver.11.0J を使用した。 7. 倫理的配慮 対象者には,研究の目的,調査内容と方法,自由参加 であること,拒否・中断は可能であること,データは研 究以外の目的では使用せず個人が特定できないよう匿名 で扱うことについて口頭および文書にて説明を行い,同 意書とアンケートの回収をもって同意とした。
Ⅳ . 結果
1. 対象者の属性 協力の得られた対象者は,外科系看護師(以下,外科群) 40 名(回収率:72.7%),内科系看護師(以下,内科群)41 名(回収率:78.8%)であり,女性は外科群 39 名(97.5%), 内科群 40 名(97.6%),年齢構成は 30 歳以下が外科群 29 名(72.5%),内科群 28 名(68.3%)であった。外科群の臨 床 経 験 年 数 総 和 に 対 す る 外 科 系 経 験 年 数 の 割 合 は 81.8%,内科群の臨床経験年数総和に対する内科系経験 年数の割合は 57.1%であった。(表 1) 2. 臨床判断力「倫理的側面」の外科群と内科群の比較 「倫理的側面」において,外科群・内科群ともに『専門 的認識』が最も高く,次いで『管理的認識』,『医療的認識』 の順であった。『専門的認識』においては,外科群の方が 有意に低値を示していた。 『専門的認識』では,「看護師は行動について説明責任 がある」が両群ともに高値(Me ≧ 4.0)であったが,外科 群の方が有意に低値を示していた。また,「看護師が専 門職団体に所属するのは重要である」,「看護師は研究に 積極的に従事するべきだ」においても外科群は内科群よ り有意に低値を示していた。『管理的認識』では,「看護 表 1 対象者の属性 外科群 (n = 40) 内科群 (n = 41) 性別 男性 人 (%) 1 ( 2.5 ) 1 ( 2.4 ) 女性 人 (%) 39 ( 97.5 ) 40 ( 97.6 ) 年齢 25 歳以下 人 (%) 13 ( 32.5 ) 10 ( 24.4 ) 26 ∼ 30 歳 人 (%) 16 ( 40.0 ) 18 ( 43.9 ) 31 ∼ 35 歳 人 (%) 3 ( 7.5 ) 7 ( 17.1 ) 36 ∼ 40 歳 人 (%) 5 ( 12.5 ) 1 ( 2.4 ) 41 ∼ 45 歳 人 (%) 1 ( 2.5 ) 2 ( 4.9 ) 46 ∼ 50 歳 人 (%) 2 ( 5.0 ) 2 ( 4.9 ) 51 歳以上 人 (%) 0 ( 0.0 ) 1 ( 2.4 ) 経験年数 5 年以下 人 (%) 17 ( 42.5 ) 18 ( 43.9 ) 6 ∼ 10 年 人 (%) 13 ( 32.5 ) 12 ( 29.3 ) 11 ∼ 15 年 人 (%) 2 ( 5.0 ) 5 ( 12.2 ) 16 ∼ 20 年 人 (%) 6 ( 15.0 ) 1 ( 2.4 ) 21 ∼ 25 年 人 (%) 1 ( 2.5 ) 3 ( 7.3 ) 26 ∼ 30 年 人 (%) 1 ( 2.5 ) 1 ( 2.4 ) 31 年以上 人 (%) 0 ( 0.0 ) 1 ( 2.4 ) 臨床経験年数の内訳 通算経験年数 年 362 359 (総和) 外科系経験年数 年 296 110 内科系経験年数 年 51 205 その他経験年数 年 15 44 職位 師長 人 (%) 3 ( 7.5 ) 2 ( 4.9 ) 副師長 人 (%) 7 ( 17.5 ) 7 ( 17.1 ) スタッフナース 人 (%) 30 ( 75.0 ) 32 ( 78.0 ) その他 人 (%) 0 ( 0.0 ) 0 ( 0.0 ) リーダー業務 あり 人 (%) 33 ( 82.5 ) 36 ( 87.8 ) なし 人 (%) 7 ( 17.5 ) 5 ( 12.2 ) 最終教育歴 2 年制専門学校 人 (%) 1 ( 2.5 ) 1 ( 2.4 ) 3 年制専門学校 人 (%) 25 ( 62.5 ) 28 ( 68.3 ) 2 年制短期大学 人 (%) 1 ( 2.5 ) 0 ( 0.0 ) 3 年制短期大学 人 (%) 4 ( 10.0 ) 3 ( 7.3 ) 4 年制大学 人 (%) 8 ( 20.0 ) 9 ( 22.0 ) その他 人 (%) 1 ( 2.5 ) 0 ( 0.0 )師は臨床で必要な職務を遂行することに関わるべきだ」, 「看護行為の決定に管理者から同意を得るべきだ」で外科 群は有意に低値を示していた。『医療的認識』では,2 群 ともに「看護の職務は医師によって規定されるべきだ」, 「看護師は医療について疑問を投げかけるべきではない」 において低値(Me = 2.0)であった。(表 2) 3. 臨床判断力「診断的・治療的側面」の外科群と内科 群の比較 「診断的・治療的側面」において,外科群は『日常生活 援助』が最も高く次いで『保健指導』,『治療・処置』,『管 理業務』の順であった。『日常生活援助』では 12 項目すべ てにおいて高値(Me ≧ 4.0)を示しており,「衣服の交換 時期を決める」,「入浴方法を判断する」,「衣服やリネン を清潔にする方法を決める」においては,両群ともに高 値(Me = 5.0)を示していた。『保健指導』においてもほ とんどの項目において高値(Me ≧ 4.0)であった。『治療・ 処置』では,両群ともに「安静度を判断する」,「経管栄養 摂取が可能か判断する」が低く,「簡単な薬物を投与する」 においては特に低値(Me = 1.0)であった。有意差がみ られたのは 4 項目のみであり,『日常生活援助』の「衣服 の交換時期を決める」,「食事について看護師が判断する」 では,外科群の方が有意に高値であった。『治療・処置』 の「呼吸困難を訴える患者の体位を判断する」,『管理業 務』の「患者を社会福祉士や保健師に紹介する」において 外科群は有意に低値であった。(表 3) 4. 臨床判断力「倫理的側面」と「診断的・治療的側面」 の関係 ̶外科群と内科群の比較̶ 「倫理的側面」と「診断的・治療的側面」において下位尺 度の関係をみると,外科群では「倫理的側面」の下位尺度 『医療的認識』と「診断的・治療的側面」の下位尺度『治療・ 処置』においてのみ負の相関がみられ(r = -0.349,p < 0.05),内科群では相関はみられなかった。 『専門的認識』では,外科群は,「看護の責任は専門職 として規定されるべき」と『保健指導』の「特定の活動を勧 める」(r = 0.511,p < 0.01),「生活スタイルの変更が 必要か判断する」(r = 0.486,p < 0.01)で正の相関がみ られた。また,「看護師の責任は独自の知識に基づくべき」 と『治療・処置』の「浣腸の判断」(r = 0.456,p < 0.01), 「酸素吸入の判断」(r = 0.477,p < 0.01)で正の相関が みられた。内科群では,「看護師の責任は独自の知識に 基づくべき」と『日常生活援助』の「眠れるような方法の判 断」(r = 0.503,p < 0.01),「ナースコールを押すこと のできない患者の合図」(r = 0.468,p < 0.01)で正の相 関がみられた。『管理的認識』では,外科群には負の相関 がみられたが,内科群では相関がみられなかった。「管 理上の規則はいつも厳密に適用されるべき」と『治療・処 置』の「消毒薬を決める」(r =−0.469,p < 0.05),「体 位変換の必要な時間の判断」(r =−0.451,p < 0.01),「看 護部はすべき仕事を決めるべき」と『治療・処置』の「経管 栄養摂取が可能かの判断」(r =−0.570,p < 0.01)で負 表 2 臨床場面における臨床看護師の倫理的側面 ̶外科群と内科群の比較̶ (一部抜粋) 構 成 要 素 外科群(n=40) 内科群(n=41) 有意差 Me Mean ± SD Me Mean ± SD 専 門 的 認 識 平均 3.5 ± 0.8 3.8 ± 0.9 * 看護師は行動について説明責任がある 4.0 4.1 ± 0.6 5.0 4.6 ± 0.6 * 看護の責任は専門職として規定されるべきだ 4.0 3.8 ± 0.7 4.0 4.0 ± 1.1 看護師が専門職団体に所属するのは重要である 3.5 3.4 ± 0.9 4.0 4.0 ± 1.0 * 看護師は研究に積極的に従事するべきだ 3.0 3.0 ± 0.8 3.0 3.4 ± 0.9 * 看護師の責任(職責)は,独自の知識に基づくべきだ 3.0 2.9 ± 0.9 3.0 3.0 ± 1.0 管 理 的 認 識 平均 3.3 ± 0.7 3.5 ± 0.8 主任看護師あるいは病棟看護師は,看護師長に仕事全般について報 告する責任がある 4.0 3.9 ± 0.7 4.0 3.9 ± 0.9 看護師は臨床で必要な職務を遂行することに関わるべきだ 4.0 3.6 ± 0.5 4.0 4.0 ± 0.6 * 管理上の規則はいつも厳密に適用されるべきだ 4.0 3.6 ± 0.6 4.0 3.8 ± 0.8 看護部(各施設)は看護師のすべき仕事を決めるべきだ 3.0 3.4 ± 0.8 4.0 3.5 ± 0.9 看護師は,看護行為の決定に管理者から同意を得るべきだ 3.0 3.0 ± 0.6 3.0 3.3 ± 0.8 * 看護の仕事は雇用組織の規則によって規制されるべきだ 3.0 3.0 ± 0.8 3.0 3.2 ± 0.9 医 療 的 認 識 平均 2.9 ± 0.7 2.9 ± 0.9 医師は,どの仕事を看護師に委ねるか決めるべきである 3.0 3.3 ± 0.8 3.0 3.2 ± 1.0 医師は,患者に影響を与える臨床看護活動に法的に責任を負うべきだ 3.0 3.2 ± 0.7 4.0 3.5 ± 0.8 看護の職務は医師によって規定されるべきだ 2.0 2.3 ± 0.7 2.0 2.0 ± 0.8 看護師は医療について疑問を投げかけるべきではない 2.0 2.0 ± 0.8 2.0 1.7 ± 0.7 全項目平均 3.2 ± 0.7 3.4 ± 0.9 注)Mann-WhitneyU 検定 *p < 0.05
の相関がみられた。『医療的認識』において,外科群では 「看護の職務は医師によって規定されるべき」と『保健指 導』の「健康的なライフスタイルについて助言する」(r =−0.513,p < 0.01),『管理業務』の「病床配置を決める」 (r =−0.521,p < 0.01)において負の相関がみられた。 内 科 群 で は『 日 常 生 活 援 助 』の「 活 動 量 の 判 断 」(r = −0.606,p < 0.001)との間で負の相関がみられた。(表 4) 5. 臨床看護師の臨床判断を必要と感じる場面 ̶外 科群と内科群の比較̶ 療養上の世話の場面において,外科群では環境調整, 食事援助,排泄援助,清潔・衣生活援助,苦痛の緩和・ 安楽確保,精神的援助,安全確保,患者指導,家族との 関係で臨床判断を必要としていた。環境調整は内科群に はみられず,それ以外では 2 群ともに類似していた。診 療の補助の場面では,外科群は処置,与薬,夜間・緊急 時の対応,病状説明,他職種との連携の場面で臨床判断 を必要と感じていた。病状説明では,時期や必要性,病 状説明後の精神的ケアがあり,内科群ではみられなかっ た。(表 5)
Ⅴ . 考察
1. 臨床看護師の臨床判断力の特徴 1) 「倫理的側面」について 本調査において,外科群は内科群と同様に専門職とし ての認識が高い反面,自己の行動に対する説明責任の認 識や専門職団体に所属すること,研究に従事することで 内科群よりも低値であった。外科群は組織における役割 を担い,組織の一員としての責任を持ち合わせているが, 内科群より低い傾向がみられた。また,外科群と内科群 に共通した特徴として,看護の職務は医師によって規定 されるものではないことや医療について疑問を持つこと に賛同しているが,一方では医師が看護師に委ねる仕事 を決め,臨床看護活動に責任を負うべきという認識が明 らかになった。このように内科群の方が主体的であるの 表 3 臨床場面における臨床看護師の診断的・治療的側面 ̶外科群と内科群の比較̶ (一部抜粋) 構 成 要 素 外科群(n=40) 内科群(n=41) 有意差 Me Mean ± SD Me Mean ± SD 日 常 生 活 援 助 平均 4.2 ± 0.8 4.1 ± 0.9 患者の衣服の交換の時期を決める 5.0 4.8 ± 0.4 5.0 4.5 ± 0.7 * 患者の衣服やリネンを清潔にする方法を決める(例:洗濯など) 5.0 4.5 ± 0.8 5.0 4.4 ± 0.9 患者の入浴方法を判断する 5.0 4.2 ± 0.8 5.0 4.3 ± 1.0 患者が眠れるような方法を判断する 4.0 4.3 ± 0.6 4.0 4.3 ± 0.7 患者が必要な 1 日の活動量を判断する 4.0 4.0 ± 1.0 4.0 3.6 ± 1.0 ナースコールを押すことのできない患者の合図を決める 4.0 4.0 ± 0.9 4.0 4.3 ± 0.7 患者の食事について看護師が判断する 4.0 3.4 ± 1.2 3.0 2.8 ± 1.3 * 保 健 指 導 平均 4.0 ± 0.9 4.2 ± 0.7 患者に健康的なライフスタイルについて助言する 4.0 4.4 ± 0.6 5.0 4.5 ± 0.6 患者に特定の活動(運動)を勧める 4.0 4.3 ± 0.7 4.0 4.3 ± 0.5 疾病や治療によって生活スタイルの変更が必要かどうか判断する 4.0 4.0 ± 0.9 4.0 4.2 ± 0.7 治療について患者に説明する 4.0 4.0 ± 1.1 4.0 4.2 ± 0.8 治 療・ 処 置 平均 3.7 ± 1.0 3.5 ± 1.0 患者の発熱時に冷罨法を行うか判断する 5.0 4.8 ± 0.6 5.0 4.8 ± 0.6 患者の体位変換の必要な時間を判断する 5.0 4.7 ± 0.5 5.0 4.6 ± 0.7 呼吸困難を訴える患者の体位を判断する 4.0 4.2 ± 0.7 5.0 4.5 ± 0.7 * 患者の浣腸を判断する 4.0 3.9 ± 1.0 4.0 3.8 ± 1.1 特定の患者に使用する消毒薬を決める 4.0 3.8 ± 1.2 4.0 3.4 ± 1.2 患者に酸素吸入をしても良いか判断する 4.0 3.4 ± 1.2 3.0 3.0 ± 1.2 患者の(現在の)安静度を判断する 3.0 3.2 ± 1.2 4.0 3.5 ± 1.1 経管栄養摂取が可能か判断する 3.0 2.8 ± 1.3 3.0 2.8 ± 1.2 患者に簡単な薬物を投与する(例:緩下剤,制酸剤) 1.0 1.5 ± 0.8 1.0 1.4 ± 0.9 管 理 業 務 平均 3.3 ± 1.2 3.1 ± 1.1 患者を他の社会福祉士や保健師に紹介する 4.0 3.6 ± 1.0 4.0 4.1 ± 0.5 * 病床の配置について決める 4.0 3.5 ± 1.2 4.0 3.6 ± 1.3 患者が退院できる時期を判断する 4.0 3.5 ± 1.0 3.0 3.1 ± 1.1 患者が転科あるいは転院して良いか判断する 2.5 2.8 ± 1.4 3.0 2.5 ± 1.2 全項目平均 3.8 ± 1.0 3.7 ± 0.9 注)Mann-WhitneyU 検定 *p < 0.05表 4 臨床判断力「倫理的側面」と「診断的・治療的側面」の関係 ̶外科群と内科群の比較̶ (一部抜粋) 外科群(n = 40) 「 倫理的側面」 『専門的認識』 『管理的認識』 『医療的認識』 看護の責任は専 門職として規定 されるべきだ 看 護 の 責 任( 職 責)は独自の知識 に基づくべきだ 管理上の規則は いつも厳密に適 用されるべきだ 看護部は看護師 のすべき仕事を 決めるべきだ 看護の職務は医 師によって規定 されるべきだ ﹁ 診 断 的 ・ 治 療 的 側 面 ﹂ 『保健指導』 患者に特定の活動(運動)を勧める 0.511 ** 疾病や治療によって生活スタイルの変 更が必要かどうか判断する 0.486 ** 患者に健康的なライフスタイルについ て助言する −0.513 ** 『管理業務』 病床の配置について決める −0.521 ** 『治療・処置』 患者の浣腸を判断する 0.456 ** 患者に酸素吸入をしても良いか判断する 0.477 ** 特定の患者に使用する消毒薬を決める −0.469 * 経管栄養摂取が可能か判断する −0.570 ** 患者の体位変換の必要な時間を判断する −0.451 ** 内科群(n = 41) 「 倫理的側面」 『専門的認識』 『管理的認識』 『医療的認識』 看護の責任は専 門職として規定 されるべきだ 看 護 の 責 任( 職 責)は独自の知識 に基づくべきだ 管理上の規則は いつも厳密に適 用されるべきだ 看護部は看護師 のすべき仕事を 決めるべきだ 看護の職務は医 師によって規定 されるべきだ ﹁ 診 断 的 ・ 治 療 的 側 面 ﹂ 『日常生活援助』 患者が眠れるような方法を判断する 0.503 ** ナースコールを押すことのできない患 者の合図を決める 0.468 ** 患者が必要な 1 日の活動量を判断する −0.606 *** 注)Spearman 順位相関係数 *p<0.05,**p<0.01,***p<0.001 は,外科的治療の臨床場面において状態の変化しやすい 患者のケアを実施するにあたり医師の指示を聞くことが 多いため,外科群の方が医師に依存的な傾向があること と関連していると考えられる。看護師の業務における「療 養上の世話」は看護職独自の判断で行うことができると されているが,現実ではこのような場面においても医師 の判断に委ねているという報告がなされており6)7)同様 の結果が得られている。これは,医師̶看護師関係を「同 僚関係」というよりも「医師に従属」と認識されているこ とを示しており8),医師との従属関係やその意識は,看 護師の判断を低下させ,主体性のある行動を阻害する要 因になると考えられる。よって,外科系看護師がより専 門性を発揮するためには,医師から自立し,積極的に研 究に従事し専門的知識を備え,より自己に対する責任を 持つことが必要であると考える。 2) 「診断的・治療的側面」について 看護師の業務として「診療の補助」と「療養上の世話」が あり,療養上の世話だけではなく診療の補助での治療・ 処置場面においても医師の指示に基づいた医療行為を行 いその反応を観察するなどの看護師独自の判断は必要で ある。本調査においても,外科群は患者の日常生活の援 助や保健指導について判断しており,中でも衣服の交換 時期や入浴方法,リネンを清潔にする方法などの清潔保 持や,生活指導の方法を判断していた。一方で,安静度 や経管栄養摂取,食事についての判断はやや低値であっ たが与薬については特に低値であった。内科群もほぼ同 様であったが,食事についての判断は外科群より有意に 低値であった。急性期にある患者や慢性疾患患者は,安 静と食事制限という制約が治療の基本となり,療養上の 世話における医師の指示を必要とする医行為としての認 識が強く9)与薬についても同様であることから判断が低 値であったと考えられる。看護師は医師の指示や判断に 依存するのではなく,患者の状態を的確に捉えて状況に あった食事や安静度,一般的な薬物やその科で頻繁に使 用される薬物についての判断力を備えていくことが必要 である。 3) 臨床判断を必要とする場面について 療養上の世話,診療の補助のそれぞれの場面において 外科群・内科群ともに幅広い場面において臨床判断を必 要としており,その内容は類似していた。診療の補助の 場面での病状説明の記述は外科群のみでみられたが,外 科的治療を行う患者は日々状況が変化しており,本人や
表 5 臨床判断を必要と感じる場面 ̶外科群と内科群の比較̶ 外科群(n=24,記述件数 63) 内科群(n=21, 記述件数 49) 記述内容 記述件数 記述内容 記述件数 療 養 上 の 世 話 環境調整 ベッドコントロール 1 ターミナル期の個室への移動 1 食事援助 食事形態の判断 1 食事形態の判断 3 食事摂取方法の判断 1 食事摂取方法の判断 2 食事介助の方法の判断 1 食事の開始時期の判断 1 食事内容の判断 2 食事摂取量の判断 1 排泄援助 排泄方法の判断 1 排泄方法の判断 1 排泄コントロールの方法の判断 1 清潔・衣生活援助 清潔保持の方法の判断 1 清潔保持の方法の判断 2 更衣の方法の判断 1 入浴方法の判断 1 清潔ケアの時期の判断 2 入浴を促す方法の判断 1 衣服の種類や使用方法の判断 1 苦痛の緩和・安楽確保 エアマットの使用・必要性の判断 2 安楽な体位の判断 1 薬剤使用以外の苦痛の緩和方法の判断 1 リネンやマット使用の判断 1 安静や生活の変化による苦痛の軽減方法の判断 1 精神的援助 患者の気持ちに沿った看護方法の判断 1 患者への精神的援助 4 医師の方針と患者のニーズが合わない時 1 家族への精神的援助 2 精神的ケアの方法の判断 1 精神的援助の方法の判断 1 言葉による訴えに対しての受け止めや促しの 判断 1 安全確保 抑制の必要性の判断 1 危険防止の方法の判断 3 モニタリングの必要性の判断 1 不穏時の危険防止方法の判断 1 不穏時の危険防止方法の判断 2 点滴ルートを抜去する患者の抜去防止方法の 判断 2 転倒リスクの高い患者の転倒防止方法の判断 1 患者指導 退院指導の方法の判断 3 退院後の ADL の判断 3 ライフスタイルを維持する方法の判断 2 在宅か転院かの判断 1 自己管理できる方法の判断 1 患者指導の方法の判断 1 家族との関係 家族の付き添いの必要性 2 家族の付き添いの判断 1 診 療 の 補 助 処置 褥瘡の処置 2 褥瘡予防の方法の判断 1 ストーマケア 3 安静度の判断 1 床上リハビリ 1 指示のある処置を施行するかの判断 1 肺理学療法 1 肺理学療法の方法の判断 1 点滴ルート固定 1 与薬 内服管理の方法の判断 3 内服管理の判断 1 薬効が得られない時 2 薬効が得られない時 1 薬剤使用時 3 薬剤使用の判断 2 酸素投与の判断 1 夜間・緊急時の対応 緊急時や急変時 , 医師がいないが処置を要す る時 5 緊急時や急変時,医師がいないが処置を要す る時 1 症状出現時に待って良いか判断する時 2 医師への報告の必要性の判断 3 病状説明(ムンテラ) ムンテラの時期 1 ムンテラの必要性 1 医師のムンテラ後の精神的ケア 1 他職種との連携 社会資源の活用方法の判断 3 地域への連携の必要性の判断 1 地域への継続看護の必要性の判断 1
家族に対する病状説明の時期や必要性について考えてケ アを実施する必要があるためこのような結果が得られた と考えられる。臨床看護師は急性期の場合に限らず患者 の状態やニーズに合わせて患者や家族に病状説明できる よう調整していく必要がある。 2. 臨床看護師の「倫理的側面」と「診断的・治療的側面」 との関係について 本調査において,専門職としての認識が高い方が,外 科群では浣腸や酸素吸入などの医療行為の絡む治療や処 置に関する判断についても行っており,内科群では日常 生活援助場面で幅広く判断していた。また,外科群は厳 密な規則の中で組織や医師の規定した事柄に従順でなく 主体性のある方が,患者の療養上の世話である日常生活 援助の場面で判断していた。外科群は内科群よりも専門 職としての認識が低く,また組織や医師に依存的である ため外科群では『管理的認識』と『医療的認識』において負 の相関がみられたと考えられるが,専門職としての認識 が高く主体性のある方が広い場面で判断していることが 明らかになったため,看護専門職として知識や技術を身 につけ臨床場面において主体的に判断していく必要があ ると考えられる。 3. 臨床看護師の臨床判断力を向上させるための今後 の課題 わが国では,歴史的に看護師が医師の指示による診療 補助の役割を遂行していた時代が長く,医師に従属した 関係であるとの認識がみられている8)。組織や医師に依 存的な傾向のあった外科系看護師は,看護師がより専門 性を発揮するためにも看護師独自の判断ができる患者の 日常生活援助の場面において,患者のニーズに合わせて 主体的に判断することが重要であり,より強化していく 必要がある。しかし,医師に依存せず主体的に判断して いる外科系看護師の方が,高値であった日常生活援助場 面でも判断していたことが明らかになった。医師との従 属関係やその意識は看護師の判断を低下させ,主体性の ある行動を阻害する要因となると考えられるため,看護 師個人が自由に能力を発揮する場を設け主体性を育成す ることが求められる。看護師がより専門性を発揮するた めにも,まずは看護師独自の判断ができる患者の日常生 活援助の場面において,患者のニーズに合わせて主体性 を持った判断を積極的にしていく必要がある。 また,与薬や安静度,食事など患者の身体に影響を与 え医療行為の絡む場面においてもその診療科で頻繁に施 行される治療や処置,薬剤についての基本的な知識や技 術を持ち,看護師としての判断力と責任を備えていく必 要があり,特に内科系看護師は,食事における知識をよ り獲得し判断していく必要がある。外科系看護師は専門 職としての認識が高い方が,低値であった治療処置場面 においても判断していることが明らかになったことか ら,専門職として最新の知見を得る努力を怠らず,看護 専門職能団体などの組織を通じて行動し,資質の向上に 努めることは重要であると考える。
謝辞
本研究の調査にご協力いただきました看護師の皆様, ならびにデータ収集に際して多大なご配慮をいただきま した病院関係者の皆様に心より感謝いたします。なお, 本研究は,平成 18 年度山梨大学大学院修士学位論文の 一部を抜粋したものである。 文献1) Rhodes B(1985)Occupational ideology and clinical decision-making in British nursing. International Journal of Nursing Studies, 22(3): 241-257.
2) Tanner CA(2000)看護実践における Clinical Judgment.イン ターナショナルナーシングレビュー,23(4):66-77. 3) Gordon M,輪湖史子訳(1995)ゴードン博士の看護診断.照林社, 東京,69-77. 4) 吉田沢子,久世恵美子,他(2002)看護師の臨床判断力の実態. 日本看護学教育学会誌,12(1):27-35. 5) 窪田真理,中村美知子,他(1999)臨床看護師の葛藤場面に対 する認識の特徴.山梨医科大学紀要,16:65-70. 6) 志自岐康子(1995)看護職の専門職的自律性̶その意義と研究. インターナショナルナーシングレビュー,18(1):23-28. 7) 中村めぐみ(1999)チーム医療に求められる看護婦の意識改革. インターナショナルナーシングレビュー,22(5):26-28. 8) 小林美亜(2000)今回の「看護婦̶医師関係」のアンケートから何 が言える.Expert Nurse,16(1):38-53. 9) 若杉長英(1989)医療行為及び医療関係職種に関する法医学的 研究,厚生科学研究報告.