長野大学紀要 第16巻第3号 77-79貢 (169-171頁)1994
日本 にお け るグ レア ム ・グ リー ン研 究小史
On the Assessment of Graham Greene in Japan
グ レアム ・グ リー ンが1991年4月3日に亡 くな り、 その作品が出揃 ったい ま、 グ リー ン研究は生 涯 の伝記的 な事実を見通 した うえで、全作品を検 討す る時期に入 った といえ る。 これを機に筆者は 「日本におけ るグレアム ・グ リー ン書誌」 を作成 す るため、資料 の調査 ・収集 を始 めた。書誌完成 までのおお まかな手順は次 の とお りであ る。 1.国会図書館 で 『明治大正昭和 翻 訳 日 録』 や 『雑誌記事索
引
』 な どの書誌か らグ リーン文献 の書誌事項 を コピーまたは、手書 きに よ り入手 す る。 2. グ リー ン著作 の翻訳を出版 した新潮社、早川 書房、集英社、 中央公論社や 『英語年鑑』 を出 してい る研究社へ行 き、実物 を調査す る。 3.国会図書館 で入手 した文献 リス トを ワープ ロ に入力す る。 4.入力 した リス トに基づ き、長野大学付属 図書 館 を通 してそれぞれの大学、研究機関、 国会図 書館な どに資料 の複写請求をす る。 5.複写請求に よ り送付 された コピー資料の書誌 事項を 『日本 目録規則 (1987年版)』 (日本図書 館協会)に従い、第二水準 まで記述 し、 ワープ ロに入力す る。 6. 3で入力 した ものを著者別に編集 し、すべて の著者に リス トを送 り、資料 の追加 を 依 頼 す る。 7.新 たに判 明 した資料 を複写請求す る。 8.それを ワープ ロに入力す る。9.
ワ-プ ロで書誌 の原稿 を作 る。 10.出版す る。 以上 の手順 に従 って、1992年 の夏、 国会図書館 で文献 リス トを収集(1)し、1993年春、 リス トを ワ岩
崎
正
也
Masaya lwasaki
-プ ロに入力(3)したあ と、93年度 は長野大学地域 研究調査助成金 を使 って、 出版社へ実物 の調査(2) で上京す るとともに、長野大学 図書館 を通 じて複 写請求(4)を始めた。 これか らは(4)の作業 を継続す る予定 であ る。 日本 で一番 旧い グ リー ン文献は、 い まの ところ 1948年12月に発行 された最所 フ ミ 「グレアム ・グ リー ン著- 『事 の神髄』
」 『書評』 第3巻第12号 (日本出版協会編集室) であ り、最新 の 文 献 は 1994年6月に出版 された宮野祥子 『グ レアム ・グ リー ン作品研究- < イ ノセ ンス> とく ローグ> と- 』 (学書房) であ る。 この間に45年 の歳月 が流れ、筆者 の調査 に よると、 790点 の文献が著 わ され てい る。 この内訳は書誌18、著書9、著書 の一部52、研究論文681、書評12、研究書 の翻訳 6、研究書 の一部の翻訳12であ るO この他に グ リ ー ン著作 の翻訳、 新 聞記事、 お もに 大学 で 使用 され る教科書 テキス トな どを 加 えれば、 数 量 は 1,000を超 え ると予想 され る。 最所 フ ミの 「グレアム ・グ リー ン著- 『事 の 神髄』
」は TheHeartofikeMatter(1948)の 書評 であ り、 「この小説 は、 最近英米の文壇 をこ大 きな刺激 を与 えてい る文字通 り問題 の 作 品 で あ る」 と書 き出 して、 その特徴 を、近代文学 のテー マであ る、個人 の内的な苦悩、 葛藤 を措 き、 また ス トー リーを犠牲 にせずにその苦悩を外的状況 の 巧妙 な叙述に よ り措いてい ると評価す る。 英文学研究者に よる最初 の論文はな に か。『グ レアム ・グ リー ン- 20世英米文学 案内』 (研究 社、1971年)に よると、たぶん福原麟太郎 が1949 年4
月発行 の 『英語青年』 にR.
F.
の 署 名 で 書 いた 「現代 の英国小説」 で あ るとい う。 こ れ は HenryReedの TheNovelSince1939(1947)-170 長野大学紀要 第16巻第3号 1994 の紹介で あ り、 The Power and ike Glory
(1940)を最高の傑作 としてい る。 しか し1947年 4 月発行の 『英語青年』 には富原芳彰がF.H.R.の 署名で書いた 「英米消息」の中で ダ リ- ソについ て触れている。「英国文壇の現況」 とい う見 出 し の記事はNew Republic(Dec・2,1946)に掲載 された PhilipToynbee の `The English Lit・ erary Scene'の紹介であ るが、 現在 活 躍 中 の Forster,T.S.Eliotに続 く作家群 として Auden
,
Isherwood,Graham Greene,Evelyne W augh な どを挙げ、Greeneの悲観的, 人道主義的な と ころと、W augh の humoristicな ところが面 白 い対照を見せてい ると記す。その後、1949年 の福 原の記事を経て、1950年に同誌上に 3回紹介 され る0 8月号では成 田成票が TheSpeciatorの春 季特別号 と前年の ChristmasNumberの記事を 引用、 紹介 して、 ア メ リカ で は Greeneは た んな る暇つぶ し以上の作家 として 見 ら れ、 The Heartof iheMatierが 重視 されて い る と い う。 また フランスではMauriacとの関連 で 7伽 Powerand ikeGlory が全員に読 まれ た と い
うO また同 じ8月号にはK.T.が 「戦時中のイギ リス小説」の中でHenryReed の TheNovel Since1939の紹介 として Greene を 8行にわた って取 り上げ、「ス リラーの骨髄に、人生 と 性 格 の衣裳をつけ、それを象徴的な高さにまで引上げ てい る」 と述べ る。 2回 目は 9月号で富原芳彰が F.H.R.の署名で Transiiionの編 集 者 Georges Duthuitを引用 して、 フランスでは Mauriacの 後継者 と して Greeneが 受け入れ られて い るこ とをまとめた。 3回 目は11月号で、成 田 成 毒 が N.R.T.の署名で GilbertPhelpsの `TheTeapot a
n dtheSamovar'(BritainTo-day,June)& 紹介 して、Greeneには ロシア文学 の 影 響 が あ り、Greene と ElizabethBowen を戦後 のイギ I)ス文学を代表す る作家 と書 くO次に同誌1951年 3月号で初めて英文学関係者に よる論文が登場す る。上 田勤は 「Graham Greene- 政治 と文学 - 」 とい う3頁にわた る論文 の中で TheMan Withinについて精赦な心理描写、 巧妙な話術な どを示すだけでな く、若 々しい浪漫的な趣 きもあ り、勧めたい傑作であると長文の論評 を し た あ と、TheHeartof theMatter と ThePower
and ikeGlory について 詳 しく述べ、 前者に現 われ るアフ リカの風景が象徴的に用い られてい る ことを指摘す る。続いて1951年7月号で成 田成寿 が N.R.T.の署名で WorldReview 2月号の紹 介 として、 流行 してい る作家の 中 に Greeneを 入れてい る。 1952年 9月号では グ リーン 特 集 が 行われ、 5人が論文 を寄せてい る。成 田 成 幕 は Greeneの作品が どれ もみな異常な 性 格 や、 類 廃、殺人を扱 うのは、人間の罪に対す る 彼 の 意 識 の激 しさに よると推定 したが、 The End of ikeAffairの一人称に よる語 りの技法の指摘は 重要 である。吉 田健一は Greeneが人間 に 対 し 切実な関心を寄せてい る点で、 カ 日)ック作家で あ ることは二 の次であるとい う。中橋一夫は詳細 な伝記を試み、 Greeneの生い立ちは 作 品 の 世 界へ と発展す る要素を含む と記す。本 多 顕 彰 は ThePowerand theGlory の訳者 として、 ホ ワンの殉教には違和感を もつが、 ウィスキー司祭 の殉教には人間的な説得力があると書 く。加納秀 夫は R.Ⅴ.W .の署名で、 不安の時代を Age of Frustration と言い換えて、 The End of ike Affairの核心を分析す るO この頃か らグ1)-ソ 論文 の数は増 えて くるのだが、 日本の英文学関係 者たちが注 目す る以前に、映画評論家や作家たち が作品を読み、論評 してい るとい う点に グ リーン の人気の特徴 があ り、 日本での グ リーンの評価の 特異性があると私は思 う。 戦前には グ リーンに関す る記事はないのだろ う か。い まの ところ、筆者の調査 では書かれた もの は見当 らない。 しか し日本の映画批評家たちがす でに戦前か らその作品を読 んでいた とい う。飯 島 正『自伝的エ ッセー- ぱ くの明治 ・大正 ・昭和』 (1991年)に よると飯 島は1930年代に植草甚-や双 葉十三郎 とともに G.G.クラブを結成 して グ リー ンを読み出 したOそ してAGunforSale(1936) の細沢を始めた ものの、途中で止め、戦後の1953 年、舟 田敬一 と共訳で 『拳銃売 ります』 を早川書 房か ら出版す る。 また江戸川乱歩は 『雄鶏通信』 の1947年11月号で グ リーンの TheConfidential Agentの読後感 として、 『内部の人』 と同 じよう に親 々とした ファンタジーを感 じた と記 し、12月 号 では BrightonRockを心理的 ス 1)ラーの分額 に入れ、 ピンキーの心理的恐怖感に比べればその - 78
-岩崎正也 日本におけるグレアム・グリーン研究小史 残虐 さは物の数ではない とい う。 グ1)-ソの翻訳の出版はいつ始 まったか。最 も 早いのは