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障害者の就労支援政策と中央地方間の関係 / 厚生労働省から滋賀県への出向人事を手掛に

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査読付論文

障害者の就労支援政策と中央地方間の関係

─厚生労働省から滋賀県への出向人事を手掛に─

林   炫 廷

はじめに 1.障害者の就労支援についての中央政府の戦略  1)障害者の雇用の促進等に関する制度  2)法定雇用率の変化  3)障害者就業・生活支援センターの役割強化  4)厚生労働省の出向人事 2.障害者の就労支援についての地方政府の実施構造  1)障害者働き・暮らし応援センター設置の背景  2)滋賀県の福祉行政と労働行政の協働による予算確保  3)中間組織の役割(滋賀県社会就労事業振興センターの機能) 3.障害者の就労支援についての中央地方間関係  1)厚生労働省から滋賀県への出向人事(中央省庁のメリット)  2)障害者の就労支援の政策展開(地方政府のメリット) おわりに

はじめに

本稿では、障害者の就労支援政策を取り上げ、厚生労 働省の政策戦略と官僚制の出向人事の関係について分析 することを目的とする。 2012 年に厚生労働省では、障害者の雇用促進を強化 するために 2013 年度から法定雇用率を 2.0%に引き上げ ると公表した。障害者の雇用促進について大企業、中小 企業などが中心となって責務を果たせるよう、法律で規 制しようとする厚生労働省の意図が読み取れる。同時 に、近年、地方政府では、障害者の雇用促進に寄与でき る中小企業に対して、バックアップするための体系を整 備し、地域固有の課題に則した独自の雇用政策を策定・ 執行するようになった。これは、雇用対策法第 13 条第 2 項の規定に基づき、2012 年度雇用施策実施方針の査定 に関する指針に示されている1)。その意味で、日本の障 害者雇用対策には質的な変化が見られるようになったと いえる。その背景は多様であると考えられるが、大企 業、中小企業の法定雇用率が依然として未達成であるこ とや障害者の就労の問題が深刻化したことも重要な要因 である。特に、障害者の就労問題は、当事者が就職活動 を自ら行うことが困難であるため、関係機関の役割が重 要である。そこで、1999 年に、厚生省と労働省は連携 の下で、障害者の生活支援と就業支援を一体的に行う 「障害者就業・生活支援の拠点づくり(仮)」に向けて、 試行的施策を打ち出した2)。その後、2001 年の中央省 庁の再編によって、厚生省と労働省の統合が行われ、厚 生労働省の下で本格的に制度として実施された。2002 年から始動した「障害者就業・生活支援センター」3)は、 厚生労働省の主導の下で実施され、実質的に地方政府 が、センターの運営・管理・監督を行う4)。これは、中 央政府では、障害者の就労対策のための制度形成が行わ れ、地方政府では、制度の実施における身近な地域で必 要な支援、指導を行うことになったということを意味す る。 本稿では、障害者の就労支援政策の体系に中心にある 中央政府と、中央政府の施策に対応して地域の実情に応 じた雇用に関する必要な支援を執行していく地方政府の 両者を中心アクターとして分析を進めていくことにす る。なぜなら、障害者の就労対策をめぐる 2 つの事情 が、実施過程に大きな影響を与えていると考えられるか らである。それは、第 1 に、障害者の就労支援に関わる

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制度の形成が、主に厚生労働省を中心に主導されてい る。第 2 に、2001 年度に厚生省と労働省の統合により、 組織変遷の中で障害者の就労支援の政策が「福祉雇用か ら一般雇用」として性格を変容させた。その環境の変化 に伴って政策の実施過程において地方政府の行動にもな んらかの変化が起こったのではないかと考えられてい る。そこで、障害者就労問題について、新しく制度化さ れた障害者就業・生活支援センターをめぐって中央政府 の政策戦略が、地方政府においてどのような影響をもた らしたのかを分析する。その分析を行うに当たり政府間 関係の出向人事に注目する。 本稿の構成は以下の通りである。第 1 章では、厚生労 働省における障害者の雇用に関する制度の変化を概観す る。具体的には、制度の変化に伴って、新しく制度化さ れた障害者就業・生活支援センター設置に注目し、厚生 労働省の政策意図を明らかにする。加えて、障害者の就 労支援政策を推進するに当たって出向官僚の役割を指摘 する。第 2 章では、障害者就業・生活支援センター設置 に当たって地方政府では、滋賀県の事例を取り上げ、厚 生労働省の政策を実施する構造を明らかにする。第 3 章 では、中央政府と地方政府の人事面でのつながりが地方 政府において障害者就労支援の政策を生み出された可能 性について示す。それによって中央地方政府間の出向人 事を通じての相互依存の関係が、政策形成や政策実施に おける柔軟な対応を生んでいることが明らかになると思 われる。

1.障害者の就労支援についての中央政府の

戦略

1)障害者の雇用の促進等に関する制度 日本の障害者の雇用対策に関しては、1947 年に制定 された職業安定法に基づいて各種の行政施策が講じられ てきた5)。その施策の対象は、当初、傷痍軍人の職業援 護から進められたが、後に身体障害者まで拡大され た6)。1949 年 12 月に身体障害者福祉法が制定され、職 業安定法に関する業務は身体障害者福祉法に基づく医 療、生活相談、更正訓練などと総合的に実施されるよう になった。当時の職業安定法に基づく、具体的な職業援 護施策は、行政機構(現在の公共安定所)による、職業 指導、職業紹介、職業補助であった。これは一般求職者 を念頭において施行された対策でもあり、その中に障害 容 内 正 改 遷 変 の 度 制 用 雇 度 年 1947 年 「職業安定法」制定 ▶ 職業指導、職業紹介、職業補助 1960 年 「障害者雇用促進法」制定 ▶ 義務雇用制度が導入 ▶ 身体障害者のみ対象 1976 年 「障害者雇用促進法」改正 ▶ 重度身体障害者の実雇用率に対するダ ブルカウント制度の創設 ▶ 身体障害者雇用納付金制度の創設 1987 年 「障害者雇用促進法」改正 ▶ 知的障害者対策の強化 ▶ 職業リハビリテーションの推進 1992 年 「障害者雇用促進法」改正 ▶ 知的・精神障害者の雇用対策の推進 ▶ 障害者雇用対策基本方針の策定 2002 年 「障害雇用促進法」改正 「障害者基本計画」策定 「重点施策実施 5 ヵ年計画」策定 ▶ 精神障害者の定義規定など ▶ 障害種別による制度上の格差、障害者 の就業機会の拡大を図る 2005 年 「障害者雇用促進法」改正 ▶ 精神障害者対策の強化 2008 年 「障害者雇用促進法」改正 ▶ 中小企業における障害者雇用の促進 ▶ 重度以外の障害者も義務雇用制度 出所:厚生労働省「障害者の雇用促進に関する法」、上田「雇用政策と障害者(1)」2010 年を参照して、 筆者が作成 表 1 障害者の雇用促進に関する制度の変遷

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者に対しての窓口があった。 障害者雇用対策に関しての施策が具体的に動き始めた のは、1952 年に公共職業安定所に登録された身体障害 者を当該の機関に採用したことがきっかけである7)。そ して、障害者雇用対策が具体的に制度化されるのは、表 1 が示すように、1960 年に身体障害者雇用促進法が制定 されたこと、1976 年の改正で身体障害者の雇用が事業 主の法的義務とされ、身体障害者雇用納付金制度が創設 されたことである。1987 年の改正では法律の名が「障 害者の雇用の促進等に関する法律」に改められて、知的 障害者を含むすべての障害者が同法の適用対象とされる ようになった。その後も 1997 年改正では身体障害者に 加えて知的障害者の雇用も事業主に義務付けられ、2005 年の改正によって精神障害者に対する雇用対策の強化や 在宅就業障害者に対する支援、短時間労働者に対する支 援が図られてきた。2008 年の改正では、中小企業にお ける障害者雇用の促進や短時間労働者の雇用率制度の見 直しが行われた。 以上、障害者の雇用に関わる制度の変遷を再度簡単に まとめれば、以下のようになるだろう。1947 年に職業 安定法が制定され、一般の雇用政策の一部として障害者 の雇用が実施されたが、1960 年に障害者雇用促進法が 制定され、本格的かつ具体的に障害者の雇用促進を進め ることになった。1976 年の当該の法制度の改正以降は、 身体障害者、知的障害者、精神障害者などの雇用の義務 化を図り、障害者の対象を拡大しながら雇用対策を強化 したということになる。 2)法定雇用率の変化 障害者の雇用促進法の制定とともに法定雇用率の改正 も行われた。表 2 は、民間企業における障害者の雇用に 関する法定雇用率である。2012 年現在は 1998 年に改正 された法定雇用率、1.8%であり、2013 年 4 月から 2.0% に引き上げられた。 厚生労働省によれば民間企業における障害者雇用の状 況は、2001 年度の障害者雇用率は、1.49%であり、2006 年度は 1.52%、2012 年度は 1.69%であると報告されて いる。図 1 に示しているように、いずれにしても民間企 業における法定雇用率は、未達成であるが、2004 年度 以降は増加傾向である。一方、ハローワークにおける職 業紹介状況は、2010 年度において、職業件数、新規求 職者数ともに前年度から増加していると述べられてい る8) 障害別の職業紹介の状況においては、図 2 が示してい るように身体障害者は減少傾向であり、知的障害者は、 増加している。図 3 は、精神障害者や発達障害者のハ ローワークにおける職業状況である。精神障害者と発達 障害者は、身体障害者と知的障害者に比べて急激に増加 しており、2011 年度は約 4 万 8 千人であると報告され ている9)。障害別の雇用状況とハローワークにおける職 業紹介状況を見ると、身体障害者や知的障害者の雇用は 安定しているのに対して、精神障害者や発達障害者に働 きたいという意欲を示す人が増えていることを示してい る。こうしたデータから、身体障害者と知的障害者に対 する就労支援制度は整備されているものの、精神障害者 や発達障害者に対する就労支援はなお課題になっている ことが分かる。そこで厚生労働省は、新たに精神障害者 の雇用を企業に義務づける方針を打ち出した。新たに民 間企業における法定雇用率を引き上げると企業の負担が 厳しくなることが予測される。そこで、厚生労働省は障 害者や企業をバックアップする支援機関である「障害者 就業・生活支援センター」の役割を強化することで障害 者への一般就労を促進しようとしたのである。 出所:厚生労働省「法定雇用率」各年度により、筆者が作成 表 2 民間企業における法定雇用率の変化 障害者の範囲 年度 民間企業 身体障害者 知的障害者 精神障害者 1977 年 1.5% ○ × × 1988 年 1.6% ○ ○ × 1998 年 1.8% ○ ○ × 2013 年 2.0% ○ ○ ○

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図 1 障害者雇用の状況 出所:厚生労働省 2012 年「障害者雇用状況の集計結果」 図 2 ハローワークにおける障害者別職業紹介状況 出所:厚生労働省「障害者の就労施策の実施状況」2004 年 9 月 10 月により 253 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 246 214 33 247 222 38 258 229 40 269 238 44 284 251 48 303 17 13 10 8 6 2 4 266 54 326 268 57 333 272 61 343 284 69 366 291 75 382 214 32 222 1.49 1.69 1.65 1.68 1.63 1.59 1.55 1.52 1.49 1.46 1.48 1.47 31 〈実雇用率(%)〉 (年) 精神障害者 知的障害者 身体障害者 実雇用率 〈障害者の数(千人)〉 400 350 300 250 200 150 100 50 0 1.80 1.75 1.70 1.65 1.60 1.55 1.50 1.45

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3)障害者就業・生活支援センターの役割強化 厚生労働省は、1992 年障害者雇用促進法一部改正法 を踏まえ、次の制度改正に向けて障害者雇用対策の充実 強化について検討を行うため、1999 年 7 月から 2001 年 10 月まで精神障害者の雇用の促進等に関する研究会、 障害者雇用問題研究会を設置した。これを受けて労働政 策審議会障害者雇用分科会が開かれ、今後の障害者雇用 施策の充実強化についての審議が行われた10)。厚生労 働省は審議の趣旨に沿い、「障害者の雇用の促進等に関 する法律案要綱」を作成して、2002 年 1 月 29 日に労働 政策審議会に諮問し、法律案が閣議決定を経て、国会に 提出されるよう運んだ。当該法律のポイントとなる改正 点は、職業リハビリテーション推進において、具体的な 施策が打ち出されたことである11)。なかでも障害者の 雇用の促進及びその就労の安定を図るため、障害者就 業・生活支援センターが創設されることになった点に本 図 3 ハローワークにおける障害者別職業紹介状況 出所:厚生労働省「障害者の就労施策の実施状況」2004 年 9 月 10 月により 図 4 障害者就業・生活支援センターにおける設置箇所数 出所:『月刊障害者問題情報』各年度から筆者が作成

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稿は注目する。 この制度は、「新障害者基本計画」に基づき、2003 年 度から 2007 年度までの 5 年間において「重点施策実施 5 ヵ年計画」に組み込まれている12)。これは、雇用障害 者数に関わる目標、ハローワークの職業件数に関わる目 標などを具体的な数値で打ち出したものである13)図 4 は、全国の 47 都道府県における障害者就業・生活支援 センターの設置箇所である。厚生労働省は、就職が困難 な障害者の職業生活と障害者を雇用していく企業の双方 を支援することで障害者の一般雇用と自立を推進する戦 略として、障害者就業・生活支援センターの充実強化を 図ろうとしたのである。 4)厚生労働省の出向人事 中央省庁の地方政府に対する統制手段として機関委任 事 務、 補 助 金、 天 下 り が 指 摘 さ れ て き た が、 稲 継 (2000)によると人事の問題は行政の核心であるとし、 これまでの日本の地方自治の問題について人事の観点か ら十分な研究がなされてこなかったと指摘している。こ こでは、厚生労働省の出向人事に注目し、中央省庁の政 策戦略が地方政府においてどのような影響をもたらした のかを分析する。 従来、出向人事についても中央集権のための手段とし て批判されてきた。村松は昭和 20 年代から 30 年代にか けての中央地方関係は官僚的あるいは行政的統合関係の 一部であると考えられてきたと指摘し、日本の中央地方 関係は権限を地方に完全には与えることのない事務の共 有という性格を持つとする。この統合構造の要素とし て、村松は機関委任事務、補助金、人事行政、行政過程 のダイナミズムをあげている(村松、1988)。しかし、 1990 年代から、日本において地方分権化に向けた取り 組みが継続的に行われて、1999 年に地方分権一括法14) が制定公布された。翌 2000 年に施行され、機関委任事 務が廃止され、機関委任事務の廃止に合わせて、地方自 治体の事務を自治事務と法定受託事務の 2 つに整理し直 した。 人事交流の研究においては、広本(1996)は厚生行政 と建設行政を比較して、中央地方関係を事務・財政・人 事面の実態を踏まえて、厚生行政におけるよりも建設行 政において中央政府から地方政府へのつながりが密であ ると指摘している。その他、出向官僚の受け入れ側であ る地方政府が自主的に中央政府から人材を求めるという 側面に着目する研究もある(秋月 2000、稲継 2000)。ま た、都道府県によって状況は異なるが、選挙で選ばれる 知事は別にして、副知事や部長は、その都道府県の生え 抜きの職員ではなく中央省庁から出向してくる官僚に よって占められることが多いという指摘もある(真渕、 2009)。 厚生労働省から地方政府への出向人事と地方政府から 厚生労働省への出向人事をどう見るかに関しては、図 5 が示しているように中央省庁の地方政府に対する統制機 能を重視した従来の見解と地方政府のイニシアティブに 着目した見解の双方を支持するような状況がみられる。 本稿の事例に取り上げる滋賀県においては中央から県 への出向人事が重要であると思われる。表 3 が示してい るように、滋賀県に 1960 年代から継続的に厚生(労 図 5 厚生労働省から地方政府への出向人事 出所:『日経グローカル』各誌の各年度より、筆者が作成 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 厚生労働省から都道府県へ 都道府県から厚生労働省へ 出 向 官 僚 人 数

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出所:滋賀県健康福祉部障害者自立支援課『滋賀県の福祉を考える─歴史と実践のなかから─』2007 年 より筆者が作成 赴任 年度 若手 厚生官僚 滋賀県 赴任後の役職 滋賀県赴任後の役割 1961.1 山崎圭 婦人児童課長、 福祉課長 ▶ 県内知的障害児施設の補助確保 1965.4 藤田怛雄 婦人児童課長、 福祉課長 1967.4 木戸修 婦人児童課長、 福祉課長 1970.4 岸本正裕 福祉課長 1973.4 佐野利昭 婦人児童課長 ▶ 県独自の財政支出の拡大 ▶ 借金返済財源への特別融資 ▶ 施設設備の改善整備への支援 ▶ 職員募集活動への支援 1975.4 佐々木典夫 婦人児童課長 ▶ 障害者の環境づくり、障害者の街づくり 1978.4 伊原正躬 障害福祉担当課長 ▶ 障害者対策と地域福祉の推進 1980.4 辻哲夫 社会福祉課長 1983.4 吉武民樹 福祉高年課長 1985.4 冨澤正夫 社会高年課長 1987.4 薄井康紀 社会高年課長 ▶ 障害福祉を直接担当するのではなく、内部調  整 1990.4 西山裕 障害福祉課長 ▶ 湖北地域に心身障害児者の地域療育の推進 ▶ 民間企業への働きかけの仕組みを取り組む ▶ 共同作業所からの相談、業務能率の向上 1993.4 大澤範恭 障害福祉課長、 社会福祉課長 ▶ 滋賀県障害者対策新長期構想査定 ▶ 「住みよい福祉のまちづくり条例」策定に  向けた実務責任者 1995.5 吉岡てつを 障害福祉課長 ▶ 糸賀一雄記念賞の創設、障害者の芸術文化を  支援 ▶ 障害者共同作業所の推進、事業運営の検討 ▶ 障害者共同作業所および授産施設振興指針が  策定され、「機能強化型共同作業所」の推進 2000.4 長田浩志 児童家庭課長、 健康福祉政策課長 ▶ 少子化対策、児童虐待防止対策、部内調整な  ど 2003.4 川野宇宏 障害者自立支援 課長 ▶ 「選べる福祉サービス滋賀特区」「障害者の  就労支援に関する検討委員会」立ち上げ ▶ 地域における就労支援、新たな雇用の創出、  共同作業所体系の見直しの三本柱を中心とす  る(障害者の就労支援に関する今後の方向性、  共に働き、共に暮らす「滋賀モデル」)の創造 表 3 厚生労働省から滋賀県への出向型官僚

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働)省から官僚が出向しており、県の福祉政策に関わっ てきた。特に、注目すべきは、中央省庁の再編成によっ て厚生省と労働省が統合され、新しく制度化した障害者 就業・生活支援センターを滋賀県に浸透させるために若 手のキャリア官僚が政策化に関わっていたことであ る15)。彼らの主な活動は、障害者の就労支援ネットワー クづくりである。 障害者の就労支援のネットワークづくりは、表 4 が示 し て い る よ う に、 当 時 の 國 松 知 事 を は じ め 出 向 官 僚16)、福祉関係 6 団体、県中小企業家同友会の代表の 協働で組織化しようとする動きであった。これをどう見 るかであるが、地方政府が政策内容の変動に対応して、 人材の獲得先の 1 つとして厚生労働省から県への出向人 事を活用したと見ることができると思われる。地方政府 における出向官僚の役割についての議論は、さまざまで あるが、滋賀県の事例においては政策環境の変動に応じ て、新たな政策課題に直面していた県が、それに適切な 組織戦略の一環として厚生労働省の出向人事を活用し、 政策推進を図ったと見ることができる。

2.障害者の就労支援についての地方政府の

実施構造

1)障害者働き・暮らし応援センター設置の背景 2002 年、障害者の雇用促進等に関する法律の改正に より、障害者就業・生活支援センターが創設された。そ の前身の「斡旋型障害者雇用支援センター」は、当時全 国で 21 カ所しかなく、滋賀県においても 1 圏域17)にあ るのみであった。滋賀県に 2 つ目の就業・生活支援セン ターが誕生した地域は、2004 年に設置された湖東圏域 である。これらは、国が障害者就労問題の対策として指 定したセンターである。一方、滋賀県は 2002 年 10 月よ り、滋賀県労政能力開発課が、県内 7 圏域18)すべてに 「障害者雇用推進員」を設置し、5 人以上の従業員がい る企業をハローワークの関係機関と連携して訪問し、障 害のある人の雇用の啓発や作業所等の販路・受注の拡大 を目的とした「障害者雇用推進員設置事業」を実施した (城、2009)。この事業を通じて、企業や作業所側おいて は、障害者の雇用に関わる情報などを受け渡すことの重 要性を認識した。その一方で、障害者の当事者側におい ては、就労の機会を提供する側面と生活や就労定着のた めの役割を担うことができるような障害者就業・生活支 援センターの必要性が認識されたという19)。このよう に障害者就労問題についての共通の認識の下で、障害者 就業・生活支援センターの指定を国より受けるまでの期 間、県独自の施策として、各圏域に県オリジナルの就 業・生活支援センター「働き・暮らし応援センター」20) を設置し、実績を積んでいく計画が出された21)。この 計画の策定、実施に実現のために関わった担当の課は、 労政能力開発課並びに障害者自立支援課である。さら に、厚生労働省から出向した官僚も障害者就労支援の計 画に関わっていた22)。両方の課が協力しながら、各圏 域の市町に財政的に一定の予算を出してもらう仕組みを 作り、圏域市町への説明や協力依頼を行った23) 日程 ネットワークづくりに関わった団体 2005 年 2 月 ・國松知事による「障害者の働きたいを応援する滋賀共同宣言」 ・社会法人滋賀県手をつなぐ育成会 ・財団法人滋賀県身体障害者福祉協会 ・共に生き・働くネットワーク ・滋賀県精神障害者を守る会連合会 ・滋賀県社会就労センター協議会 ・きょうされん滋賀支部 ・滋賀県中小企業家同友会 2005 年 9 月 ・県、労働部局、経済産業協会、連合の 4 者 ・「雇用数新のための行労使会議」の開催 2006 年 3 月 ・「滋賀県障害者就労支援ネットワーク懇話会」開催 ・企業、労働、教育、福祉の関係者 表 4 障害者の「働きたい」を応援する滋賀共同宣言

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表 5 は、滋賀県内に国の指定を受け 2 か所あった障害 者就業・生活支援センターが、2005 年度から開始した 「働き・暮らし応援センター(滋賀県の独自の施策)」に より、7 か所まで拡大されたことを示している。つま り、滋賀県の独自の施策である働き・暮らし応援セン ターは、厚生労働省が形成した就業・生活支援センター 設置促進のために制度化されたセンターであったといえ る24)。さらに、働き・暮らし応援センターには、就業・ 生活支援センターに配置される雇用支援ワーカー・生活 支援ワーカーに加えて、職業開拓員、就労サポータの 2 名が県独自で配置され、障害者の就労の側面と生活の側 面の支援を行っている。 2)滋賀県の福祉行政と労働行政の協働による予算確保 滋賀県では、7 カ所の圏域すべてに、厚生労働省の指 定を受けた障害者就業・生活支援センターが設置されて いる。現在、県独自の政策である働き・暮らし応援セン ターも上乗せ施策として機能している。滋賀県では、両 方のセンターによって障害者の一般就労を目指して支援 が行われている。すべての圏域にこのようなセンターが 設置されるまでの過程においては、県独自の働き・暮ら し応援センターを先行に設置していくという戦略があっ たからである。障害者就労支援に重要な役割を果たして いるスタッフを独自に配置することで、障害者の就労実 績を上げることができた。その実績を上げることで、厚 生労働省に就業・生活支援センターの指定を認めさせ た。そこで、ここでは滋賀県において、県の独自の政策 を国の事業に切り替えるために、どのような戦略があっ たのか、予算確保について検討する。 厚生労働省は、2002 年、2004 年の段階で滋賀県内の 圏域に 2 カ所の就業・生活支援センターを指定した。し かし、滋賀県では、各圏域すべての 7 カ所に就業・生活 支援センターを設置することを目指し、県の福祉行政と 労働行政、そして市町が共同して予算を確保していくこ とを考えた25)。滋賀県において、福祉部局と労働部局 が予算を出し合い、この部局の連合により、予算を打ち 出した。さらに、滋賀県では県独自に働き・暮らし応援 センターを設置するに当たって、市町と一緒に取り組み を行うことが必要であると考え、市町にも予算を打ち出 してもらうことにした26)。県と市町が一緒に予算を出 し合うことによって、滋賀県全体として障害者就労支援 を実施することになった。県が市町を説得し、共同で事 業を推進できた一つの説明要因として、障害者自立支援 法の第 2 条 2 項に示されている市町村の役割がある。そ の規定は「市町村の責務として、公共職業安定所その他 のリハビリテーションの措置を実施する機関、教育機関 その他の関係機関との緊密な連携を図る」と示されてい る。また、働き・暮らし応援センター設置に当たって、 厚生労働省の認可 滋賀県の施策 障害者就業・生活支援センター 働き・暮らし応援センター 福祉圏域 事業開始年度 事業開始年度 甲賀 2002 年 4 月 1 日 2005 年 4 月 1 日 湖東 2004 年 7 月 1 日 2005 年 4 月 1 日 大津 2006 年 4 月 1 日 2005 年 4 月 1 日 湖西 2007 年 4 月 1 日 2005 年 4 月 1 日 東近江 2008 年 4 月 1 日 2006 年 4 月 1 日 湖北 2009 年 4 月 1 日 2007 年 10 月 1 日 湖南 2008 年 4 月 1 日 2008 年 6 月 1 日 雇用支援ワーカー(1 名) 職場開拓員 生活支援ワーカー(1 名) 就労サポータ センターの配置員 ジョブコーチなど 表 5 障害者就業・生活支援センターの概要 出所:厚生労働白書「地域によってさまざまな国民生活の姿と地域の取り組み」2005 年と滋賀 県社会就労事業振興センターの担当者とのヒアリング調査により、資料に基づいて筆者 が作成

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圏域に就労支援を行うスタッフを配置することによっ て、それにより授産施設などの福祉的就労から一般就労 への移行が進めば、それだけ施設設備も含めた福祉の費 用が掛からないというメリットがあったから県と市町が 共同で予算を打ち出すことができたと言われている27) 3)中間組織の役割(滋賀県社会就労事業振興センター の機能) 行政機関と市民の間には様々な組織が存在する。滋賀 県では、県内に設置された障害者就業・生活支援セン ターを、県全体の情報共有を図るために、滋賀県社会就 労事業振興センター(以下振興センター)が、センター を束ねてバックアップの役割を果たしている。振興セン ターは、社会福祉法人として、県からの補助、委託費、 障害者就労支援事業所の年間費などで運営されており、 滋賀県の多くの事業所や企業が会員である28)。そこで、 振興センターにおいて、各圏域の就業・生活支援セン ター(働き・暮らし応援センター)から関係者を集めて 定期的に会議を開き、情報交換を行っている。また、振 興センターが各圏域のセンターの間に入り、意見調整や 情報提供を行っている。さらに、各圏域のスタッフの研 修や圏域での企業とのネットワーク構築に向けた支援な どの役割を担っている。振興センターが持っている豊か な企業との人脈を、圏域で活動する就業・生活支援セン ター(働き・暮らし応援センター)につなぐこともあ り、障害者就労に結びつくこともある29) 振興センターは県との連携により、障害者就労関係情 報の提供や県に代わって活動している場合もある。例え ば、就業・生活支援センター(働き・暮らし応援セン ター)のスタッフをはじめ、県内の就労支援関係者、そ の他ハローワークなど労働関係機関などを対象に研修を 実施している。振興センターのように中間的な組織が、 企業を巻き込み、さらには各圏域のセンターの間に入っ て、情報や連絡調整などを行うことによって、都道府県 レベルの障害者就労に関わる取り組みが有効に発揮でき たと思われる。

3.障害者の就労支援についての中央地方間

関係

障害者の就労支援政策をめぐる中央地方関係を考察す る際に、厚生労働省と滋賀県がどのようなつながりを持 ち、そのつながりがどのような影響力を持つのかという ことを検討していく。 1)厚生労働省から滋賀県への出向人事(中央省庁のメ リット) 国・府県間人事交流の制度形成過程の研究は稲垣 (2004)によれば、戦後の地方制度が形成された時期に おいては、内務省や地方自治庁をはじめとした地方自治 官庁と府県の連合体である全国知事会との間で、人事交 流の具体的な法制度について様々な提案が行われてきた が、その提案は実現することなく、人事交流は具体的な 実施や運用についての法制度上の規定を持たない「制度 化された慣行」として現在も続いていると述べられてい る。出向人事について、受け入れ人数には府県ごとにか なりのばらつきがあり、派遣元省庁は多様化している (秋月、2000)。 中央政府と地方政府の関係における具体的な出向人事 において、表 6 が示しているように、厚生労働省につい ては 1960 年度から 2012 年にかけて継続的に滋賀県への 出向が行われている。特に、障害者福祉に関わるポスト で厚生労働省から滋賀県への出向人事の流れが密である ように見える。他方、図 6 は、滋賀県から厚生労働省へ と出向した人事である。厚生労働省と滋賀県において出 向人事が活発であるように読み取れる。厚生労働省の官 僚の派遣先のポストを地方政府で確保することは、各省 庁の組織(政策)戦略上重要な意義を持っている可能性 がある。例えば、秋月(2000)によれば、国の省庁の部 局拡大が行政改革によって厳しく制限されることになっ てからは特に、それぞれの省庁が人材に見合うポストを 自前で自由に供給できなくなる可能性が強まっており、 そうした環境の中では地方政府は新しいプロンティアと 見なされるとしている。とりわけ滋賀県で厚生労働省の 出向官僚の指定席として固定化していれば、その効果は 大きいものとなる。 中央省庁にとっての出向人事におけるメリットとして は、地方政府への給与支払いの移転というメリットのほ か、地方からの要請に応える地方自治体現場での経験を 積むことで政策立案にとっても必要であり、中央と地方 との意思疎通といった点が挙げられる(稲継、1998)。 国から地方への出向人事は特殊法人や民間企業への天下 りと違って、原則的に期限付きであり、国から地方に出 向きその地域で仕事をして後には国に戻るという形を

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とっている。例えば、表 5 が示している 2003 年の若手 厚生官僚は出向後は、滋賀県で障害者の就労支援ネット ワークづくりなどの仕事をした後、厚生労働省に戻り、 厚生労働省雇用均衡・児童家庭局総務課課長補佐を経 て、2012 年の現在は大臣官房企画官として仕事をして いる。厚生労働省の出向官僚は地方で行われる行政の執 行を直接経験することにより、省庁へ戻ってからより現 実に適合した政策を企画・立案できるようになるし、ま た地方政府の側においても国から出向している官僚を通 じて厚生労働省の政策にある意図などをよりよく理解し て、政策を十分に実施できるようになると考えられる。 また、表 5 が示している厚生労働省の出向官僚の出向赴 出所: 滋賀県健康福祉部障害者自立支援課『滋賀県の福祉を考える─歴史と実践のなかから─』2007 年、2012 年 11 月 19 日に行った滋賀県人事課へのインタビューにより筆者が作成 赴任年度 若手厚生官僚 滋賀県赴任後の役職 出向後の役職 1961 山崎圭 婦人児童課長、福祉課長 厚生省大臣官房総務課 1965 藤田怛雄 婦人児童課長、福祉課長 社会保障制度審議会事務局長 1967 木戸修 婦人児童課長、福祉課長 援護局長 1970 岸本正裕 福祉課長 援護局長 1973 佐野利昭 婦人児童課長 1975 佐々木典夫 婦人児童課長 社会保険庁長官 1978 伊原正躬 障害福祉担当課長 宮内庁審議官 1980 辻哲夫 社会福祉課長 厚生労働事務次官 1983 吉武民樹 福祉高年課長 財団法人児童育成会理事長 1985 冨澤正夫 社会高年課長 財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止 センター専務理事 1987 薄井康紀 社会高年課長 厚生労働省政策統括官 1990 西山裕 障害福祉課長 企業年金連合会企画振興部長 1993 大澤範恭 障害福祉課長、社会福祉 課長 老健局介護保険課長 1995 吉岡てつを 障害福祉課長 社会保険庁運営部管理官 2000 長田浩志 児童家庭課長、健康福祉 政策課長 内閣官房行政改革推進室企画官 2003 川野宇宏 障害者自立支援課長 厚生労働省雇用均等・児童家庭局 総務課課長補佐 勝又浜子 健康福祉政策課長 社会・援護局障害保健福祉部特例 民法法人 2005 川野宇宏 障害者自立支援課長 厚生労働省雇用均等・児童家庭局 総務課課長補佐 竹内義和 健康福祉政策課長 2006 藤田一郎 元気長寿福祉課長 2008 原田真紀子 子ども少年局副局長 厚生労働省均等・児童家庭局保育 課課長補佐 2010 田中義高 子ども少年局副局長 2011 障害者自立支援課長 2012 田中義高 健康福祉政策課長 表 6 厚生労働省から滋賀県における出向人事

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任の役職から出向後の役職を見てみると、ほぼ 2、3 年 ごとの地方政府の現場での経験を積んで厚生労働省へ 戻った後は、部長や局長の幹部に昇進・昇格している。 出向官僚においての将来の昇進可能性は、個々の官僚の 行動に大きな影響を与えているとして、昇進・昇格の機 能について、稲継(2002)は次のように整理している。 誘因(インセンティブ)を与える仕組みとしての機能、 組織が求める資質・行動のシグナリングとしての機能、 OJT(On the Job Training)、ラーニング(組織成員の 潜在的能力を学習する)と適材適所としての機能を指摘 している。厚生労働省から滋賀県への出向人事を見てみ ると、人事異動などを通じてのジェネラリスト志向を植 えつけられるような OJT、ラーニングの機能や昇進・ 昇格を与えるインセンティブの仕組みとして理解するこ とが可能である。このように厚生労労働省の出向官僚の 昇進管理を含めた人事システムと現実に適切な政策立案 ができるようなインフラ整備の側面として、中央政府と 地方政府は極めて重要なつながりを持っている可能性が あると指摘できる。 2)障害者の就労支援の政策展開(地方政府のメリット) 厚生労働省の出向官僚を受け入れる地方政府にとって のメリットとして、不足している人材を補充するための 手段や外部から違った経験や感覚をもった人材が入って くることによる組織の活性化などが挙げられる。また、 国が法令などの政策を企画し、事業を計画し、地方がそ の実施に当たるような場合、国の人材を受け入れること によって、政策の背景にある考え方をよりよく理解する ことができることにつながり、円滑に実施を進めること ができる側面がある(秋月、2000)。1 章で述べたよう に地方政府において障害者就労問題に関する政策実施に 当たって、厚生労働省の出向官僚が関わり、中央の人材 が地方化30)する可能性を指摘した。特に、厚生労働省 の下で新しく制度化された障害者就労支援政策31)にお いて、滋賀県ではその制度を理解して障害者就労支援政 策としての必要性の認識から地方政府の独自施策として 各福祉圏域に障害者働き・暮らし応援センターの設置を 円滑に実施していた。さらに、滋賀県では地方政府の独 自の政策である障害者の働き・暮らし応援センターを実 施して、障害者の就労へとつながった実績を上げ、順 次、センターを国の政策として切り替えていく戦略を とった。これは、国に補助金を申請する際に、国の所管 官庁の審査方針を理解している人間を地方政府に受け入 れることにより、申請を円滑かつ効率的に進めることが できる新規事業や補助金などの獲得における口利き役 32)の意味として捉えることができ、厚生労働省の官僚 を受け入れている地方政府のメリットとして解釈するこ とができる。

おわりに

本稿の主眼は、障害者の就労支援政策について厚生労 働省の政策戦略と官僚制の出向人事の関係を実証的に分 析することであった。そのために、厚生労働省の政策戦 略では、障害者の雇用の促進等に関する制度の変化に注 目し、障害者就業・生活支援センター設置を取り上げ、 一般雇用に重点を置く厚生労働省の政策意図が明らかに なった。そして、厚生労働省の政策を地方政府でうまく 推進するためには、出向官僚の役割の重要性が指摘でき た。地方政府では滋賀県の障害者働き・暮らし応援セン 2 2 2 3 4 4 4 3 3 3 2001年 2002年 2003年 2005年 2006年 2007年 2009年 2010年 2011年 2012年 図 6 滋賀県から厚生労働省へと出向した人事

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ター設置の事例を取り上げ、厚生労働省の主導で形成さ れた障害者就業・生活支援センターの設置をめぐって、 県が独自に政策を推進し、順次国策に切り替えたことに ついて明らかにした。そこには厚生労働省の出向官僚の 役割が示された。加えて、厚生労働省と滋賀県での出向 官僚の人事面のつながりのあり方が、地方政府において 障害者の就労支援政策展開の可能性にしたことを明らか にした。 具体的な検討の結果は、以下の通りである。厚生労働 省の障害者の就労支援政策戦略は、2002 年度に「障害 者の雇用の促進等に関する法律」の一部が改正されるこ とによって、障害者の雇用施策と保健福祉施策の連携が 強化され、就業面と生活面の両面からの支援強化や福祉 的就労から一般雇用への移行を促進する施策の展開へと 進んだ。当該法律により、身体障害者、知的障害者、精 神障害者の雇用義務化が行われてきたこと、就業面と生 活面での就労相談や就労後の定着支援に対する障害者就 業・生活支援センター設置の拡充などから障害者の就労 支援への取り組みが前進している。同時に地方政府で は、障害者の就労支援政策は地域生活と密接に関連して いるゆえに、地域生活の維持に向けた支援と一体的かつ 継続に行うことが不可欠と考えて、滋賀県では障害者の 生活圏を踏まえた地域内での支援体制を充実するために 地方の独自の就労支援体制を構築した。滋賀県では、障 害者の就労支援をめぐって積極的に政策を実施すること ができたのは、厚生労働省との人事面でのパイプライン を継続的に形成してきたことであろう。中央と地方とい う二つの行政システムの人事面での相互依存性に関して 村松(1988)は、国から地方への影響力だけではなく、 地方から国への影響力として捕らえることが重要である と指摘している。すなわち、出向してきた官僚たちは地 方官僚として行動し、そのコネクションは地方の側のリ ソースとなるものとして捉えることができるとしてい る33)。滋賀県の事例から得られた知見のように、中央 政府の主導で実施される障害者の就労支援政策のような 国の政策を執行していく地方政府においては、中央と地 方との人事交流に対して積極的な位置づけを与えること によって、円滑に政策を推進することが期待できると考 えられる。 1 )2012 年度の主な雇用施策として障害者の就労促進では、 ①法定雇用率の達成指導の強化及び地域の就労支援力の更な る強化、②障害特性及び就労形態に応じたきめ細かな支援策 の充実・強化、③障害者の職業能力開発支援の推進などの各 項目において、地方政府は、国の施策と相まって当該地域の 実情に応じ、雇用に関する必要な施策を講じるようにと明示 している。 2 )全国 10 カ所において、1999 年、2000 年の 2 年間で試行的 施策が行われた。その地域は、岩手県水沢市、山形県東置賜 郡、群馬県群馬部、愛知県豊橋、滋賀県甲賀郡、大阪府大阪 市、和歌山県田辺市、徳島県板野郡、福岡県北九州市、長崎 県諫早市である(障害者就業総合センター、2002)。 3 )具体的には、都道府県知事が社会福祉法人、特定非営利活 動法人等を「障害者就業・生活支援センター」として指定 し、同センターが雇用、福祉、教育等の関係機関と連携しな がら、障害者の就業及びそれに伴う生活に関する指導、助 言、職業準備訓練の斡旋など、障害者の就業生活における自 立を図るために必要な支援を行うものである(小林、2002)。 4 )障害者の雇用の促進等に関する法律第 2 章第 4 節に、障害 者就業・生活支援センター制度の概要と指定、運営について 詳しく明記されている。 5 )1947 年職業安定法が制定され、職業指導、職業紹介、職 業補助などが一般の雇用施策の一部として実施された。 6 )1952 年労働省は身体障害者職業更生援護対策要綱を策定 し、身体障害者の雇用は進展した。 7 )公共職業安定所は、職員定員の 3%を目標に身体障害者の 採用を決めた。これは、日本における割当雇用の最初の具体 化された数字である(杉原、2008) 8 )厚生労働省の 2011 年度のハローワークを通じた障害者の 就職件数、職業紹介状況を参照した。詳細のことについては 「厚生労働省平成 23 年度障害者の職業紹介状況等」を参照。 9 )注 8 に前掲載 10)2002 年 1 月 9 日、厚生労働大臣あてに「今後の障害者雇 用施策の充実強化について(意見書)が提出された。 11)2002 年に障害者の雇用の促進等に関する法律の一部改正 点は、障害者雇用率算定方式の見直しに伴う特例子会社制度 の活用、障害者就業・生活支援センターの創設、職場適応援 助者(ジョブコーチ)事業の実施、精神障害者の雇用の促進 (精神障害者の定義規定)である(中島、2002)。 12)2002 年 12 月 24 日に「障害者施策推進本部」決定により、 障害者施策の一層の充実を図るため、政府の重点施策に関 し、新たなプランを策定した。 13)重点施策実施 5 ヵ年計画における厚生労働省関係部分の 5 つのポイントは、①地域生活を支援するための在宅サービス を充実、②住まいや活動の場を確保(グループホーム、授産 施設等を整備)、③精神障害者の保健医療福祉施策を総合的 に実施、④障害者の雇用・就業の確保に向けた取り組み、⑤ 施設は、在宅生活を支える地域の資源として活用とされてい る。

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14)同法の正式の名称は「地方分権の推進を図るための関係法 律の整備等に関する法律」である。 15)2012 年 6 月 19 日に行った滋賀県社会就労事業振興セン ターの担当者へのヒアリング調査による。 16)滋賀県に出向赴任した障害者自立支援課長である川野宇宏 氏である。 17)1999 年度に設立された「甲賀郡障害者雇用支援センター (斡旋型)」が、2002 年 4 月 1 日に、厚生労働省の認可の下 で「障害者就業・生活支援センター」としてスタートした。 18)滋賀県では 1981 年 1 月に策定した「滋賀県社会福祉計画」 において、社会福祉施策を地域に根ざして推進していくため の方策として「福祉圏構想」を掲げて、県域に 7 つの福祉圏 を設定し、単独の市町村では対応が困難な課題の取り組むた め、障害児の通園事業や生活支援センターの整備などを進め てきた。 19)障害者雇用推進員設置事業は、労政能力開発課が滋賀県社 会就労事業振興センターに委託をした。その調査によると 2002 年 10 月より 2005 年 3 月まで、3,806 事業所を訪問し、 53 件の求職情報が得られたことになった。また雇用には至 らないものの作業所への受発注の増加、企業情報の集約がで きたことも大きな成果であると述べている(城、2009)。 20)2005 年度から滋賀県で「働き・暮らし応援センター」が 設置されることになった。 21)2005 年 2 月 12 日 に 滋 賀 県 で 開 催 さ れ た ア メ ニ テ ィ ー フォーラムの知事セッションの場において、全国から集まっ た約 1500 人の聴衆の前で、当時の國松知事が「障害者の『働 きたい』を応援する滋賀共同宣言」を発表した。これは障害 のある人もない人も共に同じ職場で普通に働いている社会こ そあるべき姿との認識のもと、働きたい・働いている障害者 を積極的に応援しようと、障害者福祉関係 6 団体、中小企業 団体、県が共同で宣言したものである。 22)滋賀県社会就労事業振興センターと甲賀地域の働き暮らし 応援センターにおいての担当者へのヒアリング調査による。 23)2012 年 6 月 19 日に行った滋賀県社会就労事業振興セン ターの担当者へのヒアリング調査による。 24)現在は、就業・生活支援センターの上乗せ施策として機能 している。 25)滋賀県の独自の政策として最初に働き・暮らし応援セン ターが設置されたのは、大津圏域である。 26)2012 年 6 月 17 日に行った滋賀県社会就労事業振興セン ターと 2012 年 10 月 31 日に行った甲賀就業・生活支援セン ターの担当者へのヒアリングの調査によると、市町を説得し た県の部局は、主に福祉部局である。労働部局は、他の市町 と財政的に負担し合いながら実施する事業がなかったため に、福祉部局の主導で財政上のメリットを説明し、説得した という。 27)世田谷区の事例で、授産施設などから一般就労への移行が 毎年 6~7%(全国平均 1%)であれば、新規利用者との均衡 が図られ、新しく施設を作る必要がないと述べられている (川野、2007)。 28)滋賀県内の事業所の会員数は、102 カ所であり、滋賀県中 小企業家同友会の 680 人の経営者との人脈を構築している。 29)振興センターの事業として、日本中央競馬会関連企業など への販路と受注の拡大、知的障害者介護技能習得事業などを 開拓した実績がある。詳細な事業については、振興センター のホームページを参照。(http://selp-shiga.net/2013/2/17) 30)雲尾(1995)による教育委員会への出向人事を分析した研 究において、総務部長や副知事等に栄転するか、もしくは、 名誉職を得てその地方に残るという側面から、中央の人材が 地方化する傾向が強いと説明されている。 31)2002 年度に制度化した障害者就業・生活支援センターの ことを指す。 32)中央の出向人事における地方のメリットとして中央省庁と のパイプ役は、補助金の獲得合戦やプロジェクトの計画など の行政面と政治的な側面として説明されている。詳しくは秋 月謙吾「人事交流と地方政府(1)」、2000 年を参照のこと。 33)村松岐夫『地方自治』東京大学出版会、1988 年、76 頁。 参考文献 ・青木栄一「文部省から地方政府への出向人事─ 1977 年から 2000 年まで全 825 事例分析─」『東京大学大学院教育学研究 科教育行政学研究紀要』第 22 号、19-36 頁、2003 年 ・秋月謙吾「人事交流と地方政府(一):公共部門における人 材戦略」『法學論叢』147 巻 5 号、1-26 頁、2000 年 ・秋月謙吾「人事交流と地方政府(二):公共部門における人 材戦略」『法學論叢』147 巻 6 号、1-20 頁、2000 年 ・稲継裕昭『人事・給与と地方自治』東洋経済新報社、2000 年 ・稲継裕昭「『出向官僚』再考─中央政府から都道府県への人 材供給の変容─」『姫路法学』23 巻、177-255 頁、1998 年 ・稲垣浩「国・府県間人事交流の制度形成」『東京都立大学法 学会』44 巻(2)、543-585 頁、2004 年 ・広本正幸「厚生行政と建設行政の中央地方関係」『大阪市立 大學法學雑誌』43 巻 1 号、99-127 頁、1996 年 ・広本正幸「厚生行政と建設行政の中央地方関係(二)」『大阪 市立大學法學雑誌』43 巻②号、239-267 頁、1996 年 ・広本正幸「厚生行政と建設行政の中央地方関係(三):性質 とその要因」『大阪市立大學法學雑誌』43 巻 3 号、494-526 頁、1997 年 ・小林茂夫「障害者就業・生活支援センターでの取組(特集障 害者雇用施策)─新たな障害者支援の取組─法改正を踏まえ て─」『労働時報』55 巻 9 号、4-28 頁、2002 年 ・川野宇宏「就労支援のネットワークづくり(1)」障害保健福 祉ニュース 8 号、障害保健福祉情報 No.6、2007 年 ・川野宇宏「就労支援のネットワークづくり(2)」障害保健福 祉ニュース 9 号、障害保健福祉情報 No.8、2007 年 ・厚生労働省職業安定局障害者雇用対策課「最近の障害者雇用

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の現状と課題(参考 3)」2011 年 ・真渕勝『行政学』有斐閣、2009 年 ・真渕勝『行政学案内』慈学社、2009 年 ・村松岐夫『地方自治』東京大学出版、1988 年 ・村松岐夫『行政学教科書─現代行政の政治分析─「第 2 版」』 有斐閣、2001 年 ・村松岐夫『戦後日本の官僚制(オンデマンド版)』東洋経済 新報社、2010 年 ・中島富三『一目でわかる障害者雇用促進法改正』国政情報セ ンター出版局、2002 年 ・城貴志「滋賀県における働き・暮らし応援センターの取り組 み」─滋賀発、雇用と福祉の統合を目指して─『ノーマライ ゼーション』6 月号、2009 年 ・滋賀県健康福祉部障害者自立支援課『滋賀の福祉を考える─ 歴史と実践のなかから─』サンライズ出版、2007 年 ・杉原努「戦後我が国における障害者雇用対策の変遷と特徴そ の 1:障害者雇用施策の内容と雇用理念の考察」『社会福祉 学部論集』4 号、91-108 頁、2008 年 ・独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総 合センター「知的障害者の就業と生活を支える地域支援ネッ トワークの構築に向けて」調査研究報告書 53 号、2002 年 ・上田早記子「雇用政策と障害者(1)─障害者雇用状況報告 の変遷─」『四天王寺大学大学院研究論集』5 号、61-79 頁、 2010 年 ・上田早記子「雇用政策と障害者(2)─政府統計資料から見 る雇用者と雇用障害者数の変動─」『四天王寺大学大学院研 究論集』6 号、37-49 頁、2011 年 ・雲尾周「都道府県・政令指定都市教育長の属性にみる中央─ 地方関係」白石裕編著『地方政府における教育政策形成・実 施過程の総合的研究』多賀出版、1995 年

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図 1 障害者雇用の状況 出所:厚生労働省 2012 年「障害者雇用状況の集計結果」 図 2 ハローワークにおける障害者別職業紹介状況 出所:厚生労働省「障害者の就労施策の実施状況」2004 年 9 月 10 月により25313141516171819202122 23 242462143324722238258229402692384428425148303171381062426654326268573332726134328469366 29175382214322221.49 1.691.651.6
表 5 は、滋賀県内に国の指定を受け 2 か所あった障害 者就業・生活支援センターが、2005 年度から開始した 「働き・暮らし応援センター(滋賀県の独自の施策)」に より、7 か所まで拡大されたことを示している。つま り、滋賀県の独自の施策である働き・暮らし応援セン ターは、厚生労働省が形成した就業・生活支援センター 設置促進のために制度化されたセンターであったといえ る 24) 。さらに、働き・暮らし応援センターには、就業・ 生活支援センターに配置される雇用支援ワーカー・生活 支援ワーカーに加えて、職業

参照

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