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医療者が行う重症心身障害児の胃廔増設に関する親の意思決定支援の現状

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Academic year: 2021

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聖路加看護学会誌 Vo1.15 No.1 February 2011 Ⅰ.序論 重症心身障害児(以下,重症児とする)の病態は年 齢に伴い変化するため,その時々の状況をアセスメン トし,変化に対応した介入を行う必要がある。重症児 の摂食・嚥下障害は,原疾患の進行に伴って高頻度に みられる病態である。また,胃食道逆流現象(Gastro-esophageal reflex disease ; GERD)も原疾患の進行と ともに重症化する傾向にあり,とくに緊張性疾患や高度 の側弯症の例の場合には食道裂孔ヘルニアの合併が多 く,逆流性食道炎や嚥下障害,呼吸器合併症の原因とな る(世川,2006)。重症児の上部消化管障害への対策と しては,病状の把握,保存的治療(姿勢,食事内容など), 薬物療法,経管経腸栄養(経鼻胃管・空腸チューブ栄養) のほか,胃瘻・空腸瘻造設,逆流防止術などの手術が挙 げられる(鳥飼ら,2004)。重度障害のある子どもの胃 瘻造設は,発育の促進や誤嚥・呼吸器感染症発生の低下 (Sullivan et al., 2005)など子どもに対してポジティブ な影響を及ぼす一方で,軽度合併症の出現頻度の高さも 報告されている(Thorne et al., 1998)。 研究者は,先行研究(小泉,2010)において重症児の 胃瘻造設に関する母親の意思決定過程を構造化した。そ して,子どもの胃瘻造設に関する意思決定過程におい て,母親は迷いを断ち切っていく過程を経験しているこ と,情報の獲得や解釈に悩みながらも子どもの幸せを第 一に考えた決断をしようとしていることを報告した。 重症児の親にとって子どもの胃瘻造設に関する意思決 定は容易ではない。重症児とその家族に関わる医療者 は,胃瘻造設に関する親の意思決定を支援する立場にあ る。我が国において,医療者が行う重症児の胃瘻造設に 関する親の意思決定支援の現状に焦点を当てた研究は見 当たらない。本研究の目的は,医療者が行う重症児の胃 瘻造設に関する親の意思決定支援の現状を記述すること である。

   原 著   

医療者が行う重症心身障害児の胃瘻造設に関する

親の意思決定支援の現状

小泉 麗

1) 受付日2010年11月11日 受理日2011年1月18日 1)聖路加看護大学大学院博士後期課程 【研究目的】医療者が行う重症心身障害児(以下重症児とする)の胃瘻造設に関する親の意思決定支援の 現状を記述する。 【研究方法】日常的に重症児のケアに関わっており,重症児の胃瘻造設に関する親の意思決定支援を行っ た経験のある小児科医7名,小児外科医5名,看護師7名を対象に,半構成的面接を行った。重症児の胃瘻 造設に関する親の意思決定支援に関する医療者の認識や行動についての語りをコード化し,内容の類似性・ 相違性に基づきカテゴリー化を行った。 【結果】医療者が行う重症児の胃瘻造設に関する親の意思決定支援として,【意思決定支援の基盤となる基 本姿勢】,【子どもの身体状態がこじれる前に余裕をもって選択肢を提示】,【親が偏りのない情報を得られる よう支援】,【子どもにとって胃瘻造設の持つ意味を親が考えられるよう支援】,【家族としてひとつの結論を 出せるよう支援】,【お互いの考えを共有しながら親が納得するまで待つ姿勢】,【話し合っても親の納得が得 られない場合は状況を打開する関わり】,【足並みを揃えて支援するための専門職間の連携】と命名した8つ のカテゴリーを抽出した。

【考察】今回明らかになった結果は,Shared Decision Making との重なりが大きかった。しかし,子ど もの身体の安定のために,時には決断を促す支援を組み合わせる必要性があることも示唆された。また,医 療者と親の意見が異なった場合,子どもの幸せを中心に医療者と親が胃瘻造設について検討することが重要 である。

キーワード:重症心身障害児,意思決定,胃瘻,親,家族

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1.研究デザイン 質的記述的研究デザイン 2.研究協力者 研究協力者は,日常的に重症児のケアに関わってお り,重症児の胃瘻造設に関する親の意思決定支援を行っ た経験のある小児科医,小児外科医,看護師とした。研 究協力に関する説明を行い,文書により面接に承諾を得 られた者とした。 3.データ収集方法 関東地方及び東北地方に立地する大学病院,小児専門 病院,療育施設,訪問看護ステーションを便宜的に抽出 し,研究協力者の紹介を依頼した。2010年4月から7月 に,研究協力者1名につき1時間程度の半構成的面接を 行った。面接内容は,親の意思決定における医療者の関 わりの実際や,意思決定に関わる上で気をつけているこ と,どのようなときに意思決定に関わる必要性を感じる か,などであり,IC レコーダに録音した。 4.分析方法 面接終了後,速やかに面接内容の逐語録を作成した。 逐語録を繰り返し読み,重症児の胃瘻造設に関する親の 意思決定支援に関する医療者の認識や行動についての語 りを抽出した。抽出したデータをコード化し,内容の類 似性・相違性に基づきカテゴリー化を行った。研究過程 においては,小児看護学研究者のスーパーバイズを受け ながら分析内容について再検討や修正を行い,分析の信 頼性を高めた。 5.倫理的配慮 研究協力者に対し,研究の目的,方法,結果の公表に ついて文書および口頭で説明し,文書にて研究協力の同 意を得た。また,研究協力は自由意思によること,断っ ても不利益が生じないこと,プライバシーの保護を保証 した。本研究計画は,聖路加看護大学研究倫理審査委員 会の承認を得た。 Ⅲ.結果 研究協力者は,小児科医7名(小児専門病院2名,療 育施設4名,公立病院1名),小児外科医5名(大学病 院3名,小児専門病院2名),看護師7名(訪問看護ス テーション4名,療育施設3名)であり,計19名であっ た。男性9名,女性10名であり,専門職としての経験年 数は平均20年(8∼27年),障害児の医療に携わった経 験年数は平均14年(6∼27年)であった。面接に要した 結果について,カテゴリーは【 】,サブカテゴリー は〈 〉,研究協力者の語りは「 」,研究協力者の職種 は[ ]で示した。 1.カテゴリー全体の構成(図1) 分析の結果,【意思決定支援の基盤となる基本姿勢】, 【子どもの身体状態がこじれる前に余裕をもって選択肢 を提示】,【親が偏りのない情報を得られるよう支援】,【子 どもにとって胃瘻造設の持つ意味を親が考えられるよう 支援】,【家族としてひとつの結論を出せるよう支援】,【お 互いの考えを共有しながら親が納得するまで待つ姿勢】, 【話し合っても親の納得が得られない場合は状況を打開 する関わり】,【足並みを揃えて支援するための専門職間 の連携】と命名した8つのカテゴリーを抽出した。図1 の横軸は時間経過を示す。 医療者は,意思決定支援を開始する以前より〈日ごろ からの信頼関係の構築〉に励み,〈親が納得して自ら選 択することの重視〉をしていた。このような日ごろから の医療者と親の関係性や,意思決定に関する考え方は, 【意思決定支援の基盤】となっていた。意思決定支援は, 親からの胃瘻造設の希望で始まることもあるが,大抵 は,医療者が【子どもの身体状態がこじれる前に余裕を もって選択肢を提示】することから始まっていた。そし て,医療者は,親が【偏りのない情報を得られるよう】, 【子どもにとって胃瘻造設の持つ意味を考えられるよう】 に支援する。また,母親だけで選択するのではなく【家 族としてひとつの結論を出せるよう支援】していた。医 療者は,上記の支援を継続しつつ,【お互いの考えを共 有しながら親が納得するまで待つ姿勢】を維持してい た。〈親が納得して自ら選択することを重視〉する医療 者にとって,親が納得するまで待つことは当然のことと して語られた。同時に,医療者はただ待つのではなく, 意識的にお互いの考えを共有することを心がけていた。 しかし,親の迷いが長期化し,子どもの身体状態が悪化 すると,医療者として胃瘻造設を強く勧めるべき状況が 生じることもある。医療者は,基本的には親の納得を重 視しつつも,【話し合っても親の納得が得られない場合 は状況を打開する関わり】を行うことで,子どもの身体 状態の安定の確保に努めていた。以上のような親に対す る直接的な支援のほかに,医療者は,【足並みを揃えて 支援するための専門職間の連携】を行い,一貫した支援 を心がけていた。 2.カテゴリーの意味と関連性 1)【意思決定支援の基盤となる基本姿勢】 【意思決定支援の基盤となる基本姿勢】とは,意思決 定支援が始まる前から維持されている医療者の姿勢であ り,意思決定支援の基盤となっていた。 胃瘻造設は緊急手術でなく,時代や文化によって胃瘻

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聖路加看護学会誌 Vo1.15 No.1 February 2011 の捉えられ方は異なる。そのため,医療者は絶対に胃瘻 造設をしたほうがよいとは言い切れないと考えており, 〈親が納得して自ら選択することの重視〉をしていた。 重症児の生命のサポートは親の価値観に基づくべきであ るという医療者の信念や,実際に子どものケアをするの は親であるという現状,医療者の意見を押し付けること で親子が医療の手から離れてしまうことへの恐れは,〈親 が納得して自ら選択することの重視〉を一層強めていた。 また,医療者は,「言いやすい関係を作るのが大事だ と思う。そうしないと,本音が出てこないから」[小児 科医]と述べるように,〈日ごろからの信頼関係の構築〉 の重要性を認識し,その関係性を基盤に支援を行ってい た。 2)【子どもの身体状態がこじれる前に余裕をもって選 択肢を提示】 重症児は筋緊張の悪化や側弯の進行により,GERD や誤嚥性肺炎,経鼻胃管や経鼻十二指腸管の挿入困難が 生じる。【子どもの身体状態がこじれる前に余裕をもっ て選択肢を提示】とは,このような症状が進行する前に, 時間的な余裕を持って医療者が親に胃瘻の選択肢を提示 することである。このカテゴリーは,小児科医と看護師 の語りから抽出した。 多くの医療者は,幼少期は障害の評価が困難であるこ と,胃瘻は障害の進行を意味することへの配慮などを理 由に,経鼻胃管で問題なく栄養摂取できている子どもの 場合,栄養摂取方法の選択肢として胃瘻を提示していな かった。同時に,医療者は術後合併症の予防のために身 体状態が安定している時期に胃瘻を造設する必要性を感 じていた。そこで,親が意思決定に要する時間を加味し て,子どもの体調が不安定になり始めたと気付くと〈子 どもの身体状態がこじれる前に余裕をもって選択肢を提 示〉していた。少数ではあるが,経鼻胃管の留置は子ど もにとって苦痛であり胃瘻のほうがよいと考えている医 療者は,経管栄養が長期に必要と判断した時点で胃瘻の 選択肢を提示していた。 一方,看護師の中には,「自分自身,怖いんだと思い ます。あの,『やったら?』ということは……,言える かもしれないけど,やはり,その後トラブルになったら 『あなたも“やったら?”って言いましたよね』ってい うのは,いろんなところでは聞きますよね」と,選択肢 の提示に伴う責任を負う自信のなさや,医師から選択肢 を提示したほうが説得力があるという思いを抱き,自ら 時間経過 【話し合っても親の納得が得られない場合は状況を打開する関わり】[内・外・看] 〈妥協案の提案〉[内・外] 〈胃瘻が必要と判断したときは造設するよう親を説得〉[内・外] 〈親の決断に伴う精神的負担を軽減する支援〉[外・看] 【親が偏りのない情報を得られるよう支援】[内・外・看] 〈親が胃瘻について理解できるよう偏りなく情報提供〉[内・外・看] 〈親の立場から子どもの胃瘻造設を語れる経験者に相談できるよう支援〉[内・看] 【子どもにとって胃瘻造設の持つ意味を親が考えられるよう支援】[内・外・看] 〈子どもの体の中で起きていることを親が理解できるように支援〉[内・外] 〈子どもの幸せを中心に親が胃瘻造設を検討することを支援〉[内・外・看] 【家族としてひとつの結論を出せるよう支援】[内・外・看] 【意思決定支援の基盤となる基本姿勢】[内・外・看] 〈親が納得して自ら選択することの重視〉[内・外・看] 〈日ごろからの信頼関係の構築〉[内・外・看] 【 】はカテゴリー、〈 〉はサブカテゴリーを示す。 [ ]は該当する職種を示す。(内=小児科医、外=小児外科医、看=看護師) 【お互いの考えを共有しながら親が納得するまで待つ姿勢】[内・外・看] 〈親の希望と医療者の意見が必ずしも一致しない状況〉[内・外・看] 〈医療者としての意見を伝達〉[内・外・看] 〈親の胃瘻に対する理解や思いについての把握〉[内・外・看] 〈親との話し合いを継続しながら親が自ら選択するまで待つ姿勢〉[内・外・看] 【足並みを揃えて支援するための専門職間の連携】[内・外・看] 〈小児外科医の介入の必要性の判断〉[内・外] 〈複数の専門職で親子にとって最善の選択肢を検討〉[内・外・看] 【子どもの 身体状態が こじれる前に 余裕をもって 選択肢を提示】 [内・看] 〈子どもの身体状態が こじれる前に余裕を もって選択肢を提示〉 [内・看] 〈医師が胃瘻を検討 する必要性 に気 づ くための看護師の 働きかけ〉 [看] 図1 医療者が行う重症心身障害児の胃瘻造設に関する親の意思決定支援の構成

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看護師は,子どもの身体状態悪化にいち早く気づき受診 につなげる,親子に関する情報を医師に伝達するなど, 〈医師が胃瘻を検討する必要性に気づくための看護師の 働きかけ〉をしていた。 3)【親が偏りのない情報を得られるよう支援】 【親が偏りのない情報を得られるよう支援】とは,親 が胃瘻造設に伴うメリットとデメリット,造設後の子ど もと家族の生活などを理解できるよう,医療者が偏りな く情報提供することや,胃瘻造設をした子どもの親に相 談できるよう支援をすることである。 医療者は,胃瘻造設により期待されるメリット・起り うるデメリット,胃瘻を造設しなかった場合に予測され る問題,胃瘻造設後のケアや日常生活,検査や手術の内 容など,〈親が胃瘻について理解できるよう偏りなく情 報提供〉を行っていた。その過程において,単に情報を 羅列するのではなく,その病院における合併症の出現頻 度や合併症がおこったときの対処など,情報を解釈しや すいように説明をしていた。医療者は図や写真,胃瘻ボ タンの実物を用いてイメージしやすい説明を心がけ,既 存の冊子の貸出や信頼できるホームページの紹介など親 の自己学習を支援していた。 また,医療者は,「おうちで実際お風呂に入れたり, お風呂出た後とか,実際に日常生活の中でトラブルが起 きたこととか,大変なこととか,実際やっている人じゃ ないとわからないかなって」[看護師]と,経験者でな ければ語れない内容があることを認識しており,胃瘻を 造設した子どもの親の紹介など,〈親の立場から子ども の胃瘻造設を語れる経験者に相談できるよう支援〉をし ていた。 4)【子どもにとって胃瘻造設の持つ意味を親が考えら れるよう支援】 【子どもにとって胃瘻造設の持つ意味を親が考えられ るよう支援】とは,親が子どもの置かれている状況を理 解し,子どもの立場から胃瘻造設の持つ意味を考えられ るよう支援することである。 医療者は,親に対し,子どもの GERD と呼吸器症状 の関係や,その原因となる筋緊張など,複雑に絡み合っ た病態を理解できるよう説明していた。また,検査結果 を踏まえ,〈子どもの体の中で起きていることを親が理 解できるように支援〉していた。 そして,医療者は〈子どもの幸せを中心に親が胃瘻造 設を検討することを支援〉していた。特に子どもが乳児 や施設入所児の場合,親子で共に過ごした時間が短い ために,親がその子どもなりの幸せに気づけていない こともある。医療者は,「彼女のいいところっていうか ね,すごく上手に笑顔が作れるんです。で,すごく,も う,大きなお口を開けて笑えるんですよね。その姿を, やっぱり,とっておきたいっていうか,『すごくいいで しょ』って,『こういうふうにして生活してもらいたい 親が,子どもにとっての幸せとは何か,そして,胃瘻造 設は子どもの幸せにつながるのか考えられるよう支援し ていた。また,重症児は自分の苦しみを言葉で訴えるこ とができない。医療者は,「(親に対して)『あなたが, 例えば,10年20年,チューブをずっと入れられたらどう いう思いをしますか』ってことも言うわけですよね。そ うすると,少し考えるようになりますよね」[小児外科 医]と,経鼻胃管挿入や留置に伴う子どもの苦しみを親 が理解できるよう努めていた。さらに,「(親が)迷って いる場合には,『今の迷いはお母さんの迷いなの?お父 さんの迷いなの?この子の迷いなの?』って聞くように しているんですね。すごく迷っているときにはね」[小 児科医]と,親が自分の思いと子どもが望んでいること を分けて考えられるように関わっていた。これらの関わ りは,親が子どもの声にならない声に耳を傾け,子ども の幸せを中心として親が胃瘻を検討できるよう意図した 支援だった。 5)【家族としてひとつの結論を出せるよう支援】 【家族としてひとつの結論を出せるよう支援】とは, 母親だけで選択するのではなく,父親,母親,祖父母な どが話し合いひとつの結論を出せるよう支援することで ある。 医療者は,情報を共有できるよう夫婦で受診すること を勧めていた。そして,母親が他の家族の意見に目を向 けられるように,母親に対して「お父さんは大丈夫な の?」[看護師]などの声かけを行っていた。 また,家族におけるキーパーソンや,家族の問題解決 方法の特徴を把握し,家族として結論を出すための支援 に活かしていた。 6)【お互いの考えを共有しながら親が納得するまで待 つ姿勢】 【お互いの考えを共有しながら親が納得するまで待つ 姿勢】とは,医療者と親が胃瘻に対する意見や感情を共 有しつつ,親が納得して選択するまで医療者が待つこと である。 選択肢を提示した時点で,医療者は近い将来に胃瘻を 造設してもよいと考えている。しかし,親が胃瘻造設に 対して抱く感情は様々であり,〈親の希望と医療者の意 見が必ずしも一致しない状況〉が生じていた。医療者は, 「自分はこう思っていると,信じていることに関してお 話をする。自分の立ち位置を決めるってことは,多分大 事」[小児科医],「(親から意見を求められたとき)やっ ぱり,あいまいに『わからない』って言葉は,絶対に投 げかけちゃいけないと思っていますし。自分の,『私は ね』みたいなかたちで,『一般はね,一般的にはね』っ ていうのは,それはみんな聞いていると思うので,やっ ぱり,『私の意見としては』ってところで,お話はさせ てもらっています」[看護師]と,自分の経験や知識から, 親に対して〈医療者としての意見の伝達〉をしていた。

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聖路加看護学会誌 Vo1.15 No.1 February 2011 また,医療者は,親の子育てに対する思いを理解した上 で,「何が不安かを伝えてもらう。こちらが一方的にお 勧めして『これがいいんだよ』って言うことだけではな くて」[小児科医]と,〈親の胃瘻に対する理解や思いに ついての把握〉に努めていた。このような関わりを継続 しながら,医療者は,「お子さんの状況がもっと悪化し てしまうだとか,緊迫している状況でなければ,まぁ, お母さんたちがじっくりよく考える時間というのは, 持ってかまわないんじゃないかなぁと。急いで結論出し て,『あのときもうちょっと考えればよかった』という よりも……」[看護師],「(胃瘻造設について)親が悩む でしょ。悩んだ末に,自分でどうするかっていう,そこ の悩んでるところを見守っているっていうか。だから, そこを変なふうに誘導しないように,こちらが。で,見 守ったところで,『どうする?』って」[小児科医]と,〈親 との話し合いと子どもの生命維持を継続しながら親が自 ら選択するまで待つ姿勢〉を心がけていた。 7)【話し合っても親の納得が得られない場合は状況を 打開する関わり】 【話し合っても親の納得が得られない場合は状況を打 開する関わり】とは,子どもにとって胃瘻を造設したほ うがよいと医療者が判断する状況で,話し合いを重ねて も親が胃瘻造設に納得しない場合に,医療者が膠着状態 を打開するために行う関わりである。 医療者は,子どもの身体状態を安定させるために,〈妥 協案の提案〉をしていた。具体的には,薬物治療を試し ても効果がなかったら真剣に胃瘻を考えてほしいと親に 伝えたり,GERD を軽減するために胃瘻造設ではなく 胃噴門形成術のみ行う治療法を提案していた。また,「制 酸剤を投与したり,いろんなことで限界がきて,何回も 吐血したりするようなお子さんに関しては,あの,ある 程度,親はね,説得するというのは必要だと思います」 [小児外科医]と,子どもの身体状態が深刻な状況で〈胃 瘻が必要と判断したときは造設するよう親を説得〉して いた。 しかし,子どもの代わりに胃瘻造設の意思決定をする ことは,親にとって精神的負担が大きく説得しても効果 がない場合もある。胃瘻を造設することが子どもにとっ て本当によいことか親の迷いが深まっている場合,医療 者は,親が胃瘻に向けて一歩踏み出せるよう,〈親の決 断に伴う精神的負担を軽減する支援〉をしていた。例え ば,医療者は,「100%いわゆる納得のいくような,いわ ゆる生活のレベルというのは,絶対に無理だと。だから, お母さんには,『60点を目指してください』と(伝える)」 [小児外科医]という関わりや,親の積極的な希望によ り子どもの胃瘻を造設した事例の紹介をすることで,親 の重荷を少しでも取り除けるよう心がけていた。 8)【足並みを揃えて支援するための専門職間の連携】 【足並みを揃えて支援するための専門職間の連携】と は,小児科医,小児外科医,看護師,介護職など親子に 関わる専門職が親に対し一貫した関わりをするために, 専門職間で情報共有や意見交換をすることや,専門的支 援を他者に依頼することである。 小児科医は,親に胃瘻の選択肢を提示した後,親の反 応を見て〈小児外科医の介入の必要性の判断〉をして親 子を小児外科医へ紹介していた。また,多職種による ケースカンファレンスの実施や,小児科医と小児外科医 の治療方針に相違が生じた場合の相互の意見の調整な ど,〈複数の専門職で親子にとって最善の選択肢を検討〉 していた。ただし,看護師からは,主治医と看護師が話 し合う機会のなさや,看護師から意見されることを嫌う 医師の存在など,医師と看護師の情報共有・意見交換が 難しい現状も語られた。 Ⅳ.考察 近年,従来のパターナリズムではなく医療者と患者 のパートナーシップに基づく医療が重視されており, 治療の意思決定においては,意思決定プロセスの共有 (Shared Decision Making,以下 SDM とする)の概念 が注目されている。SDM の概念分析をした辻(2007) は,SDM を「当事者を巻き込みながら当事者を含む関 係者が相互に影響しあう動的な決定プロセス(p.19)」 と定義している。本研究によって明らかになった意思決 定支援のうち,【親が偏りのない情報を得られるよう支 援】,【お互いの考えを共有しながら親が納得するまで待 つ姿勢】は,親が胃瘻について理解した上でお互いの考 えを共有し,親と医療者の合意のもとで子どもの治療を 選択することを目指した関わりであり,SDM と共通し ていた。Charles et al.(1997)は,SDM について「患 者と医師は情報と価値観を持ち込む。単に医師が知識を 持ち込み患者が価値観を持ち込むという問題ではない (p.687)」と述べている。本研究において,医療者は専 門的知識を提供するだけではなく,〈子どもの幸せを中 心に親が胃瘻造設を検討することを支援〉することで, 親が言語的表現のできない子どもの意見を反映した選択 を行えるよう働きかけていたことは注目に値する。小児 医療において,選択の結果を最も被るのは子どもであ り,親と医療者は子どもに関する知識を共有し,互いの 価値観から子どもの幸せについて徹底的に話し合うこと の必要性が示唆された。 一方で,〈胃瘻が必要と判断したときは造設するよう 親を説得〉する関わりは,従来述べられてきた SDM の 視点からは説明できない。Elwyn et al.(2000)は,一 定の臨床状況において,医師が治療の選択について明確 な嗜好を有していないときに,SDM が最も実現可能で あることを指摘している。つまり,子どもの身体状態の 悪化が深刻で,それを改善するための治療に親が反対し ている場合,SDM の成立は難しい状況であるといえよ う。ただし,医療者は説得的な態度だけではなく,〈親

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重荷を少なくすることで胃瘻造設に向けて親が踏み出せ るよう関わっていた。研究者は先行研究(小泉,2010) において,重症児の母親は,子どもの胃瘻造設について 医療者から決断の後押しを得ることで,子どもの幸せを 第一に考えた決断へと向かうことを報告した。これらよ り,悩みが深まっている親に対し,親の納得を重視する とともに,時に決断を促す支援を組み合わせることが必 要であるといえる。 医療者は【子どもの身体状態がこじれる前に余裕を もって選択肢を提示】している点では一致していたが, 提示時期に関しては,経管栄養が長期に必要と判断した 時点とする医療者がいる一方で,なんらかの身体症状が 出現するまでは提示しない医療者もおり,幅があった。 胃瘻は,栄養摂取経路の確保だけではなく,経鼻胃管の 留置に伴う違和感を解消するという利点があり,嚥下リ ハビリの促進を期待して胃瘻造設をするケースもある。 先行研究(小泉,2010)では,重症児の母親は,子ども の経口摂取が困難な状況において,経口摂取へのステッ プとしての胃瘻造設を受け入れることを報告した。ま た,胃瘻にすると半固形化栄養剤の注入が可能になるな ど,子どもにとってポジティブな側面がある。子どもが 障害を負って間もない時期は親の精神状態も安定しない ため,早期の胃瘻造設の選択肢の提示が一概によいとは 言えないが,個々のケースに応じて,症状が生じる前に 胃瘻造設の選択肢について医療者から説明することを検 討する必要があると考えた。 Radford et al.(1998)は,カナダと米国の熟練看護 師を対象に,小児の長期間の胃瘻に関する家族の意思決 定支援を含めたケアの支援方略を探索し,親の学習の支 援,積極的なチームワーク,多様性の尊重という3つの カテゴリーを抽出した。本研究においても,これらの要 素は共通しており,国や医師・看護師の別を問わず実践 されていることが確認できた。ただし,本研究におい て,看護師は,胃瘻造設の選択肢の提示に関して消極的 である場合や,医師との情報共有・意見交換に困難感を 抱いている場合があることも明らかになった。このこと より,親子に関わる医療者が日ごろから【足並みを揃え て支援するための専門職間の連携】を行うことの重要性 が示唆された。多職種がそれぞれの専門性から子どもの 人生を見据えて医療的ケアに関する意見交換をすること は,親子への一貫したケアの実現はもとより,チーム医 療において自らの役割を認識することで,それぞれの専 門性を活かした積極的な意思決定支援に結びつくと考え た。 Ⅴ.研究の限界と今後の課題 本研究は,全職種の語りの内容を統合して分析してい る。その結果,サブカテゴリーのレベルでは単一職種か ベルでは全職種の語りから構成されるものが大半を占め た。今後の課題は,職種による支援の特徴に注目した分 析を行い,意思決定支援に関するそれぞれの職種の専門 性を明らかにすることである。 Ⅵ.結論 医療者は,【意思決定支援の基盤となる基本姿勢】を 維持しながら,【子どもの身体状態がこじれる前に余裕 をもって選択肢を提示】し,【親が偏りのない情報を得 られるよう支援】,【子どもにとって胃瘻造設の持つ意味 を親が考えられるよう支援】,【家族としてひとつの結論 を出せるよう支援】をしていた。そして,【お互いの考 えを共有しながら親が納得するまで待つ姿勢】を維持し つつも,子どもの身体状態が深刻な状況において【話し 合っても親の納得が得られない場合は状況を打開する関 わり】を行っていた。また,【足並みを揃えて支援する ための専門職間の連携】をしていた。 本研究に快くご協力をいただきました医療者の皆様, また,ご指導をいただきました及川郁子教授に深く感謝 いたします。なお,本研究は2010年度聖路加看護学会看 護実践科学助成基金を受けて行った。 引用文献

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小泉麗(2010).重症心身障害児の胃瘻造設に関する母 親の意思決定過程の構造化.日本小児看護学会誌.19 (3).1-8.

Radford, M. J., Thorne, S. & Bassingthwaighte, C.(1997). Long-term in Children : Insights from Expert Nurses. Issues in Comprehensive Pediatric Nursing. 20(1). 35-50.

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聖路加看護学会誌 Vo1.15 No.1 February 2011

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Ways health-care providers support parents

decision-making about gastrostomy surgery for their child with

severe motor and intellectual disabilities.

Rei Koizumi

1) 1)St. Luke s College of Nursing, Doctoral Course

【Purpose】 To identify the supports by health care provider for parents' decision-making about gastrostomy surgery for their child with severe motor and intellectual disabilities.

【Methods】 The data were obtained from 19 semi-structured interviews : seven pediatricians, five pediatric surgeons and seven nurses all of whom provided support for children with severe motor and intellectual disabilities on a daily basis including experiences of decision-making support with parents. The data were coded and categorized based on similarities and differences.

【Results】 Results yielded eight categories regarding decision-making support : 1)basic attitude underlying decision-making support ; 2)presenting an option well before child's physical condition worsened ; 3)assist parents in obtaining unbiased information ; 4)support parents to consider the meanings of gastrostomy for their child ; 5) support parents to make a decision as a family ; 6)waiting until parents accept gastrostomy surgery in parallel with sharing each other's opinion ; 7)breaking a stalemate when parents refuse gastrostomy despite the discussions and 8)promoting cooperation among professionals for teamwork.

【Discussion】 The themes identified indicate that there are many overlapping characteristic of shared decision-making. However, the results also suggest that in some case it is necessary to urge a decision to improve child's physical condition. When health care provider and parents have different opinions, it is important to discuss the gastrostomy surgery focusing on the child's happiness.

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