博士論文審査結果の要旨
学位申請者
椿 本 裕 子
主論文 1編Serglycin is a novel adipocytokine highly expressed in epicardial adipose tissue. Biochemical and Biophysical Research Communications 432;105-110, 2013
審 査 結 果 の 要 旨
脂肪組織は単なるエネルギー源貯蔵のための組織ではなく, 最近では,多くの生理活性物質を放 出する内分泌器官としての役割が認識されてきている.特に, この臓器から分泌されるアディポサ イトカインはメタボリックシンドロームや心血管病の進展に関与するものとして注目されている. また, 脂肪組織の中でも,心外膜脂肪(EAT)はケモカインと炎症性サイトカインを分泌することによ って冠動脈疾患(CAD)などの心血管病の進展に重要な役割を果たしていることが示唆されている ものの, その詳細は明らかにされていない.こうした背景のもと申請者らは, EAT, 腹腔内脂肪 (OAT),そして皮下脂肪(SCAT)の三者における遺伝子発現プロファイルを検討し, EAT 特異的に高 発現する分子の特定を試みた.申請者は,まず, CAD 患者のサンプルを用いて EAT における DNA マイクロアレイ解析を行い, その結果をOAT や SCAT での解析結果と比較した. その結果 15304 個のプローブがこの三者の脂 肪組織に共通して上昇していることを見出した. 一方, EAT のみで選択的に上昇するものとして 321 個のプローブを特定し, そのなかから申請者らは炎症と免疫応答に関連するものとして 55 個の 遺伝子に絞って検討を加えた.この中にはIL1β, IL6, IL8, そしてケモカインレセプター2 など 35 のものが OAT に比較して EAT において 2 倍以上に上昇していることを見出した. このなかでも, 造血細胞において高度に発現することが知られるプロテオグリカンであるserglycin が EAT 特異的 にきわめて高く発現していることを特定した.
定量的リアルタイムPCR では,CAD 患者における serglycin の mRNA 発現は SCAT に比べて 約13 倍高いものであった. また, 免疫染色によって serglycin 分子が EAT の脂肪細胞膜に存在する ことを確認した.次に申請者は,3T3L1 細胞を用いて試験管内での脂肪分化においてその発現がど のようになるか検討し,脂肪分化とともに serglycin の mRNA と蛋白の発現が上昇し,分化した 3T3L1 細胞から serglycin が分泌されることを見出した.さらに, 炎症性サイトカインによって serglycin が誘導されるかどうかを,やはり 3T3L1 細胞の試験管内分化系を用いて検討したところ, TNFα刺激によって serglycin の mRNA 発現が誘導されることを見出した.重要なことに, serglycin の蛋白発現は細胞ライセート中では変化はみられず, 他方,TNFα刺激によって培養液 中の serglycin 量が増加することを確認した. こうした結果から,TNFαは脂肪細胞からの serglycin の分泌を刺激しているものと, 申請者らは解釈している.くわえて申請者らはウエスタン ブロット解析を行なって,実際に, serglycin がヒト血清中で検出されることを確認している.こう した結果から, CAD において EAT 由来の serglycin と TNFαが互いのクロストークを介して,CAD の進展と進行に寄与している可能性が示唆された. 以上が本論文の要旨であるが,CAD における EAT 由来の生理活性物質の役割についての理解を 深めるとともに, CAD 治療における新たな分子標的を特定してゆく上で有用な知見がもたらされた 点で,医学上価値ある研究と認める. 平成 26 年 12 月 18 日 審査委員 教授