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巻頭言

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Academic year: 2021

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〈巻頭言〉

自分自身の quality

中河原 俊治

(藤女子大学 QOL 研究所所長) 卒業論文、修士論文の提出も終わり、一息ついた学生たちは次のステップに向けてあるものは研究の後片付けに 忙しく、あるものはあちこち旅行に出かけている。教員は新年度の準備や論文執筆に勤しんでいることだろう。私 自身、これまで学生たちと一緒に行った研究を少しずつ論文にすべく、あらためて過去の卒業論文、修士論文をひ もといているうちにそれらの添削指導が結構たいへんだったことを思い出している。 学生の論文原稿を手に取っていつもまず驚かされたのはとにかく一文が短いのである。卒業論文だけでなく、レ ポート用紙数枚の課題レポートもほぼ同様である。ちょっと極端だが⽛○○には△△がある。□□は、※※と考え られた⽜といったふうに一文が短く、それに読点がやたら多く、そして文と文との間に断絶があるように感じるの である。その短文が連続して一章が終わってしまうこともあり、その上、段落がほとんどないものもみられる。実 のところこういったことは私が非常勤講師を引き受けている他大学の学生も同様の傾向が見られ、本学学生の特徴 というわけでもないのである。学生に、文と文との意味がつながってないのではといったことを一度聞いてみたこ とがあるが、どうやら文のまとまりという概念が乏しいようであった。もとより私は論文の書き方を専門としてい るわけではないので、それがどうしてだめなのか、書き直さなければいけないのかを学生に説明することはたいそ う気骨の折れることである。 今の大学生は文章が書けないといった類いの議論は今に始まったことではなくあちこちで見かけるが、そもそも 高校までに文の書き方をまともに習っていない、改行の入れ方も習っていないということらしい。本当だろうか。 でも学生が普段日常的に文章を書くといえば、今や必須のコミュニケーションツールとなっているチャットくらい かもしれない。確かに⽛ライン⽜や⽛メッセージ⽜の文の構造はどれも極めて単純だし、句読点もろくにない。そ れでも日常のコミュニケーションであればあまり問題ではないかもしれないが、社会に出て仕事となるとそれでは 済まないことは明白である。このことには、これも以前からいわれていることだが学生が本を読まないということ も関わっているだろう。たしかに本は読まないという学生は存在していて、私の授業で、授業内容に関連した科学 読み物(新書判 250 ページ程度)を材料として小論文を課すのであるが、例年⽛こんな厚い本を読んだのは初めて⽜、 あるいは⽛難しそうで読み通せるか不安だった⽜といった感想を聞くことが少なくない。これはたまたまそんな学 生がいたということに過ぎないのだろうか。 QOL は生活の質であるから、生活のあらゆる場面について深く考えるのが QOL 研究所の役割のひとつである が、こういった事態に遭遇すると他者の QOL どころかそもそも私たちが生活者自身として quality を高めることを 怠っていないかと自戒せざるを得ない。知的活動に関する態度が劣化してきているのは学生だけと言い切れるだろ うか。昔の先生はすごかったというのも月並みであるが、私自身の恩師は農学者であったが少なくとも英独仏の三 カ国語を読み書き話すことに堪能であった。酒の席がお好きで、私たち学生に学問以外にも古今東西の話をたくさ んしてくださったがどれも含蓄のある言葉でそれがとても心地よかった。翻って私はと考えるとただ恥じ入るしか ない。 さまざまな資格取得を教育のひとつの Merkmal としている本学部において、ともすれば資格に必要な知識、技 能を身につけさせるのが精一杯、といったこともありがちであるが、やはりそれでは高等教育の放棄と同義だろう。 学生も教員も追われるように忙しく、深い思索どころか読書もままならず、私に至っては新聞すら溜まる一方となっ ているのである。本学においても教育改善の一環として教養教育の再構築を進めているが、どれだけ学生の知的好 奇心を産み出せたか、伝統ある高等教育機関として十分なトレーニングを行えたかについて検証が必要であろう。 こういった基盤となる個人の quality を高めるといったテーマも QOL 研究所の基礎的な研究課題になりうるので はないだろうか。 3

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これまで QOL 研究所紀要のみならず QOL 研究所そのものを事実上お一人で切り盛りされてきた橋本伸也先生 が本年度をもって本学を退職される。先日、業務引継があったが、あらためて先生にいかにおんぶに抱っこ状態で あったことかを知ることとなり先生には感謝の言葉しかない。これからは QOL 研究所運営委員会として集団指導 体制で進めていくしかなく甚だ心許ないのであるが、本学教員のみならず関係者のご協力により研究を益々進展さ せていくことが橋本先生を引き継ぐものの責務だと思っている。橋本伸也先生ありがとうございました。 4

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