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主題統覚検査(TAT)による性非行の研究 

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(1)

主題統覚検査(TAT)による性非行の研究 

著者

外川 江美

学位授与機関

Tohoku University

学位授与番号

11301甲第18982号

(2)

博士学位論文

主題統覚検査(TAT)による性非行の研究

東北大学大学院文学研究科

人間科学専攻心理学専攻分野

(3)

i

問題の所在と研究の目的

性 非 行研究の重要性 性非行(未成年の場合は性非行 ,成人の場合は性犯罪というように呼び分け る)については分かっていないことが多い。非行臨床実務では動機が分かり に くい罪種の代表格であり,ある程度経験を積んだ実務家でも性非行というと分 からなさゆえに苦手意識を抱いていることが少なくない。関連の文献を調べて も国内のそれは数が限られ ,海外では はっきりした結論がないという状況 で, 結局のところ理解する手がかり が 少ない というのが現状である。 児童福祉機関において施設収容中の児童の性的問題行動に苦慮する 旨の報 告が増えたり(尾﨑,2012),警察の青少年相談から低年齢の性非行者特有 の 問 題が報告され たり( 須佐・瀬戸口・大西・外川,2013)と,10 代 前半の 低年齢 層の性非行が注目されている。しかし,10 代後半の男子における性非行の理 解が十分でない中,新たな年齢層での 問題発生には 手を拱いているほかない と いうことになっている。言うまでもなく,性的問題行動(性非行)には被害者 がいて,彼女(彼のこともある)らは 被害によって 心身に痛手を被ることにな り,特に心理面への影響は長期に及ぶことも少なくない。加えて,性非行・性 犯罪では従来から暗数が多いとされて お り,性非行者の問題を放置すれば,長 期に渡って被害の拡大が危惧される。 したがって,性非行に関する対 応策を得ることは,市民の安全を確保すると いう刑事政策上の必要性も 高く, 研究成果が待たれるところである。 性非行研究のこれまでの成果 学術誌や関連の書籍をみると,この分野の研究は欧米 が先んじているが,統 一した見解は示されておらず,本邦においては,既述の通り,臨床実務からの 要請に比して性非行研究の蓄積は乏しく,緒に就いたばかり と言える。

(4)

ii

その中で,国内の関連の著作物としては,大阪大学の藤岡によるもの が目立 っている。ほかには,家庭裁判所調査官 によって 思春期性犯罪者アセスメン ト・プロトコル(Juvenile Sex Offender Assessment Protocol -Ⅱ:J-SOAP-Ⅱ)(Prentky, & Righthand, 2003)が翻訳され,調査実務の参考にしようと す るもの(須藤・畔上・坂 井,2008;金子・稲妻・岡・前川・山 口,2011)や,少 年鑑別所の法務技官により 同尺度の日本版の開発が試みられ ている(大江・森 田・中谷,2007)もの など がある。このように,そもそも研究報告の 数が限ら れていることと,それらも 欧米の研究成果を本邦へ導入しようとしている ので あることから,日本における実証的な性非行研究の 立ち遅れは顕著である。し たがって,研究成果と言えば,北米を中心とする海外のものを概観することに なる。 海外の 主要な性非行関連学会での発表区分や学術書の構成 をみると,この分 野の研究はアセスメントとトリートメントに大きく区分され ている。前者は, 性非行の再犯 の危険性を把握する ための アセスメントツールの開発 や,その開 発と関連して,性非行の 再犯を促進する(もしくは抑制する)各種 要因を明ら かにしようと するものであり,後者は,効果的な処遇技法に関 して検討するも のである。 本研究は 性非行の機序を明らかにしようとしているが,このとき,性非行の 再犯の危険性を測定するアセスメント ツールの開発研究から得られた知見 は, 数が多いという点でも有益な情報になると考えられる。意味合いとして,性非 行の再犯の危険性が高い状態とは,すなわち,性非行に及ぶ原因となる要素が より強くより 多く備わっていると 想定される。性非行者の特徴がより濃いと言 えるかもしれない。 性非行者の特徴を探る方法には,性非行と性非行以外の非行に及んだ者を比 較して性非行ならではの発生原因を 見いだそうとするものが ある。 こちらは, 何故,他の非行でなく性非行だったのかという,非行の方向を分けた(ている) 要因に焦点を当てている。 本研究では,性非行の再犯危険性に関わる 要因の研究と,他の非行でなく性 非行に至った 原因を見いだそうとする研究の両方 から の知見を活用 すること としている。まず,双方から提出された 性非行者の特徴 とされる要素 を列挙し, 次には,性非行の初発から重症化の道筋を想定し て 各要素の布置を試み,性 非 行の機序に関する説明モデルを 設 定し て みる。前者は,既述のとおり,反復危 険性が高 く一過性で終わらないも の,すなわち,性非行の重症化要因 と捉えら れ,性非行が始まって少し時間が経過してからその影響が表れる と考えられる。

(5)

iii 後者は,一過性の場合も含めた性非行の発生要因 である。両者に共通するもの と一方に のみ該当するもの,それぞれの意味を考えて要素間のつながりを検討 することは,性非行の機序を解明する一助となると考える。 欧米では成人の性犯罪者 に関する研究が進んでいて ,臨床実践の 蓄積も豊富 にあることから,成 人性犯罪者を対象にした研究の 成果 をそのまま未成年に適 用するということが,比較的最近まで行われていたようである。ただし,その 問題性を指摘する研究者は少なくなく,少年の特殊性 を踏まえた専用のアセス メントツールや処遇技法の開発 の必要性が認められ,徐々に成果が報告される ようになって いる。例えば,少年の性非行用アセスメントツールとしては,思 春期性犯罪者 アセスメント・プロトコル (J-SOAP-Ⅱ) や若年者の性犯罪再犯 リスク予測(Estimate of Risk of Adolescent Sexual Offense Recidivism: ERASOR)(Worling, & Curwen, 2001), 処 遇技法としては,マルチシステミッ クセラピー( Multi systemic therapy:MST)(Henggeler, Schoenwald, Borduin, Rowland, & Cunningham, 1998)というように,調査データに裏付けられた,一 定の信頼を置けるツールや技法が示されている。

さて,少年の特殊性というと,第一に ,成人と違って成長過程にあることか ら,例えば,性的嗜好も成人のそれが固定的であるのに比べて,少年の場合は まだ移ろいやすい。このように少年は発達途上であり,発達の個体差も大きい ことから,彼らを性非行者として一括りに することは適当でないという指摘が されている(International Association for the Treatment of Sexual Offenders,2006)。そこで,まず,性非行者のデータを 様々な変数の相違に注 意して集め ,条件(変数)の 一致するデータから言えることを抽出し,知見と して蓄積していくことが求められている。 条件を統一した研 究成果を積み重ね ることの重要性 は変わらないが,条件の 異なる既存の研究結 果のメタ・アナリシスを行う こと で(例えば, Seto, & Lalumière, 2010),暫定的 なものであっても結論の大まかな方向性が示される ことの意義は大きい。研究者や実務家がそれぞれに主張している 性非行者の特 徴のうち,メタ・アナリシス によって支持されるもの・支持されないもの が整 理されれば,研究でも実務でもある程度の仮説を持って臨むことができ,大き く方向を誤ることはなくなると期待できるからである 。 本研究では,第 1 章において,性非行者の特徴に関する現時点での研究成果 を概観し (メタ・アナリシスの結果も含む),性非行の何が, どこまで分かっ ているのか,性非行についてどういった条件で,何を調 べる必要があるのかな どについて明らかにする。

(6)

iv

投映法心理検査による非行心理の理解について

心理臨床実務において,アセスメントと言えば,心理検査を 用いる ことが一 般的である。その中で特に対象者の内的世界に接近し ようとすれば,投映法心 理検査を用いることになる。代表的なものに,ロールシャッハ・テストと主題 統覚検査 (Thematic Apperception Test:TAT) がある。

TAT は対象者の価値観や態度の歪みを検出する点に特徴を持つ投映法心理 検査であり,非行者・犯罪者の心理査定において利用価値があると考えられて いる。犯罪・非行臨床領域で TAT を使った研究報告としては,特異な罪種 の心 理理解を試みるものが多く ,特に 殺人と性犯罪が取りあげられる傾向がある。 また,攻撃性をテーマとし て犯行態様に見られる顕著な粗暴性と TAT 反応での 攻撃性の表れ方との対応をみようとするも のも少なくない。いずれにせよ,特 異性のある事案となると数は限られる の で,少ないケースから質的情報を豊富 に引き出せる という点に,調査ツールとしての TAT の有効性があると考えられ る(斉藤, 1995b;石川・斉藤, 1997)。 斉藤(1991,1995a,1995b,2008)は, 罪種として殺人を取り上げ, TAT 反応 の特徴と ,行動上の顕著な攻撃性との対応を捉え る目的で,一連の研究を行っ ている。研究成果として,空想(=TAT 反応)と現実の行動(=犯罪)は直ち に結びつくものではないが,TAT において神や霊といった超越的存在を導入し たり,自然的・物理的な破壊力を空想したりすることは原始的攻撃性の指標で あり,そうした心性は犯罪行動に結び付きやす く,特に親が被害者となる尊属 殺人のケースでは,加害少年の自己像の在り様に特異性が見いだされたと報告 している。 性非行・性犯罪に関 する TAT を使った 研究としては,石川・斉藤(1997)に よって事例検討を通した心理理解 が試 み られている。女児を対象とした強制わ いせつ犯 2 例について,自己像,両親像,防衛機制等に 注目し,事例間の共通 点と併せ,事例の個別性を 捉えている。 また,ある程度まとまった数のデータから特徴を抽出した研究には ,三 橋 ・ 今村・羽間・馬場・菅野・山村(1991),外川・大渕( 2011),外川・井上・坂 井・立川(2014),小磯・木髙(2018)がある。 三橋らは少年刑務所の性犯罪受刑者 15 名を対象とした報告において ,彼ら の TAT 反応には,①記述反応の多さ,②女性像についての蔑視 ,不信感,敵意, ③成熟・安定した異性関係の少なさ,④受動的・依存的・無力な自己像の投影,

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v ⑤一部に英雄的行為による自己主張や激しい攻撃性の表出が見られると指摘 している。外川・大渕(2011)は,少年院(特殊教育課程)に送致された性非 行者 25 名を対象に,攻撃性を打診するとされるカード( #8BM)を実施して 反 応特徴を抽出した。彼らは同年代の男子 に比し,①反応失敗が多 い( 自我機能 の脆弱さ を想定),② 被害側に同一視しやすい(痛みへの過剰な敏感さを有す る),③加害行為への親和性を有するなどの特徴を 指摘した。また,外川ら(2014) は,少年鑑別所に入所した性非行者 20 名を一般非行群と比較 し,男女間の性 関係がテーマになりやすいカード( #13MF)において, 性非行群は, ①女性の 非によって問題が発 生し,ゆえに男性が殺害したとする 展開( 女性に非がある のだから攻撃されても仕方ないとする 考え方),②女性 を無力化(死体,石膏 像,就寝中などと設定 )し,無力な女性に一方的に力を及ばせようとする 展 開 を有意に示し やすい としている。 このように,殺人や性非行・性犯罪 といった罪種で加害心理を探究しようと する場合,罪種の特殊性ゆえにまとまった数 のデータが 集まりにくいという制 約を伴うが,TAT を用いることで小数例でもきめ細かい情報が得られ,有益な 資料となると期待できる。特に,性非行・性犯罪では,殺人 ケースの検討で斉 藤が指摘した攻撃性や自己像の問題のほか,性非行・性犯罪 を支持する歪んだ 態度が存在すると指摘されることが多く,性非行・性犯罪の中核的な心性を明 らかにする上で,TAT の有用性が発揮されると考えられる。 TAT を量的に処理するシステムの発展 最近の TAT 研究で は,TAT に適用可能な スコアリング・システムを開発,発 展させる報告 が相次いでい て(Jenkins, 2008;Stein, Hilsenroth,

Slavin-Mulford, & Pinsker, 2011;Stein, Mulford, Sinclair, Siefert, & Blais, 2012;Stein, Mulford, Siefert, Sinclair, Renna, Malone, Bello, & Blais, 2014;Siefert, Stein, Mulford, Haggerty, Sinclair, Funke, & Blais, 2018),TAT 反応の特徴を質的に捉え ながら,反応を数値化して客観的に特徴 を把握しようとする 試みが北米を中心に なされている。社会的認知と対象関係 尺度(Social Cognition and Object Relations Scale:SCORS) がその中心的 な尺度で あり,1985 年に登場して以来,何度かの改 良を経て現在の版( SCORS-G) に至り,信頼性と妥当性に関する検証もなされている(Stein ら , 2012,2018)。

そこで,本研究では 性非行者を対象に TAT を実施し,第 3 章において 社会的 認知と対象関係尺度 により 反応を 数値化して量的分析による特徴把握を行う。

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vi 本研究の目的 (1) TAT を使って性非行者の心理特徴を明らかに する。 (2) (1)で分かったことに基づいて 性非行者の処 遇の在り方を検討する。 性非行研究における本研究の意義は,立ち遅れている 本邦の性非行者に関す る研究において,成果を一つでも加えるこ とである。海外の性非行研究で課題 とされている種々雑多な性非行者を取り扱うのでなく,なるべく均一な性非行 群を構成し,そこからきめ細かく特徴を抽出することを 目指す 。性非行者の心 理的特徴がより詳細に把握できれば,処遇すべきポイントを特定して 効率的に 処遇を展開できることになる。処遇に資する情報を提供し,性非行の再犯防止 に寄与することが, 本研究の目標である。 こうした作業を通して,本研究 では,アセスメントツールとしての TAT の 有 用性を再確認 できると期待される。TAT によって少年の 性逸脱傾向(性非行リ スク)を明らかにすることがどの程度可能なのか,その測定方法の特徴,独自 性は何かなどについて考察する。 本論文の構成 本論文は全 6 章から構成される。第 1 章では,性非行研究について概観する。 現段階で,性非行についてどれくらい分かって いるのか,何が研究上の課題に なっているのかを明らかにする。第 2 章では,まず,TAT の利用 状況と研究に ついて概観し,非行・犯罪心理理解における有効性を確認するとともに,スコ アリング・システム について紹介する。次に,TAT を含めた主要な投映法心理 検査による性非行・性犯罪に関するこれまでの研究知見をまとめる。 第 3 章は実証研究で,性非行者,粗暴非行者,一般大学生(いずれも男子) の 3 群において,TAT 反応の数量的な比較から性非行 者の特徴を明らかにする。 第 4 章では, 更に, 一般大学生を 「性犯罪行為可能性」(湯川・泊 ,1999)の 高低によって 2 群に分け,性非行 者を加えた 3 群において TAT 反応の 数量的な 比較を行い,性的逸脱行動の実行 へ至 っていく要因について考察する。第 5 章では,性非行者の典型的なケース について TAT 反応を質的に分析する。最終 の第 6 章では,本研究から得た結果をまとめ て,性非行者の心理特徴について

(9)

vii 総合的な考察を行う と共に,非行臨床における TAT のアセスメントツールとし ての有用性について考察する。 本論文の作成に用いられた論文 外川江美 1993 家に閉じこもりがちな少年の強制わいせつ事件 岡堂哲雄 (編) こころの科学増刊 心理テスト入門(pp.130-134) 日本評論社 外川江美 2004 情緒未成熟な非行少年の発達図式と処遇方法に関する分類 表作成の試み 犯罪心理学研究, 42(1),15-30. 外川江美 2007 性犯罪者の処遇プログラム(1)-矯正施設での実践― 生 島浩・村松励(編) 犯罪心理臨床 (pp.148-159) 金剛出版 外川江美・大渕憲一 2011 TATを用いた性加害 少年の心理理解 犯罪心理 学研究, 49(特別号),2-3. 外川江美・井上愛弓・坂井智美・立川絵理 2014 性非行の理解について 犯 罪心理学研究 ,52( 特別号),88-89.

(10)

viii

目 次

第1章 性非行研究について

1

第1節 性非行とは

1

第2節 性非行者の特徴

5

第3節 性非行の再犯に関する要因について

7

第4節 まとめ

18

第2章 TAT による性非行研究

21

第1節 TAT の利用状況

21

第2節 TAT の分析・解釈法

23

第3節 TAT の分析・解釈法の発展

26

第4節 TAT に関する研究動向

34

第5節 まとめ

44

第3章 性非行者の TAT 特徴の数量的分析(研究1)

45

第1節 目的

45

第2節 方法

46

第3節 結果

61

第4節 考察

75

第5節 まとめ

81

(11)

ix

第4章 大学生の性犯罪行為可能性と TAT 反応の分析(研究2) 82

第1節 目的

82

第2節 方法

82

第3節 結果

85

第4節 考察

97

第5節 まとめ

99

第5章 TAT による性非行の質的分析(研究3)

100

第1節 目的

100

第2節 方法

100

第3節 事例

102

第4節 考察

118

第5節 まとめ

122

第6章 総合考察

124

第1節 本邦における性非行者の特徴

124

第2節 性非行防止に資する処遇について

129

第3節 性非行者の理解における TAT の有用性について

132

第4節 まとめ

134

引用文献

136

謝辞

143

(12)

1

第 1 章

性非行研究の概観

本論文は性非行に関する理解を深めていくことを通して,性非行者の処遇に 資する知見を得ることを目指している。本章では,関連文献のレビューによっ て,研究と臨床実践の双方において,現時点で性非行の何がどこまで分かって いるのかを明らかにする。 第 1 節 性非行とは まず初めに,性非行を捉える際の注意点 を押えておきたい。性非行・性犯罪 に関する主要な国際学会の一つである,国際性犯罪者処遇学会(International Association for the Treatment of Sexual Offenders:IATSO)では,2006 年 に「性非行者 に対する標準的介入方策(Standards of Care for Juvenile Sexual Offenders of the IATSO)」を定め,同学会のホームページに公表している 。 その要点を表 1-1 に示す。

ここには,少年が成人と異なる特性を有していること,成人に適用されてい る制度等を少年にそのまま当てはめることは適当でないこと,性非行者を対象 とした調査研究に基づく理解や処遇がなされなければならないことが強調さ れている。IATSO と並ぶ性非行・性犯罪に係る国際学会である 性加害者処遇学 会(The Association for the Treatment of Sexual Abusers :ATSA)におい ても,成人と少年を区別した実務上の標準ガイドラインが示されている (ATSA,2005)。

これを踏まえ,本論文では,性犯罪でなく敢えて性非行と表現して,行為の 主体が成人か少年かによって両者を区別している。

(13)

2 表 1-1「性非行者 に対する標準的介入方策 」(IATSO,2006 から抜粋) ・少年は家族や社会環境の影響を大きく受けており,家族や学校等少年を取巻 く環境の中で理解していく必要がある。 ・少年のアセスメントと処遇は,発達的視点に基づき,少年の成長に応じた継 続的プロセスでなくてはならない。 ・アセスメントと 処遇においては ,少年の長所や強みを重視しなくてはならな い。 ・性的関心と方向性の発達は 動的(可塑的)である。少年の性的関心は 思春期 を通じて変化しやすく,この時期に方向性 が定まっていく。 ・性暴力を行った少年はそれぞれに異なっている。画一的なアプローチで処遇 してはならない。 ・処遇は(狭い見方にとらわれず)広く包括的であるべき である(最近の研究 では,地域に根ざし,支持的な大人が関 与 することが効果的とされている)。 ・性非行を犯したとしてもラベル付けをすべきではない(成人とは異なって処 遇の妨げになる)。性非行者とその家族に対するプライマリーケアでは敬意 を持って接するべきである。 ・少年は成人と異なるため,性犯罪者登録や地域への通告などの効果には疑問 がある。 ・性非行少年に対する効果的な 介入方法 とは,精密な実証的研究に基づくもの であって,メディアに取り上げられたレアケースや,一般的に信じられてい ることに由来するものであってはならない。 性 非 行の定義につ い て 法律上の規定 日本の法律や条例において,性非行・性犯罪に該当する 主な罪名は ,強制性 交等罪(2017 年 7 月の刑法改正により, 刑法第 177 条は強姦 罪から強制性交 等罪と改められた 。ただし,まだ一般には 新しい罪名が 浸透しておらず,読み 手の混乱を防ぐために,これまでの研究で用いられている表記に合わせ,本論 文では旧罪名を用いる),強制わいせつ 罪(刑法第 176 条),公然わいせつ罪( 刑

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3 法第 174 条),青少年保護育成条例違反(児童に対するわいせつ行為など),迷 惑防止条例違反(電車内の痴漢行為など)などである。このほか,のぞきや 盗 撮については軽犯罪法違反,下着などの 衣類を盗む行為は窃盗罪(刑法第 235 条)にそれぞれ該当する。 犯行態様 性非行・性犯罪を理解しようとする とき,学術調査などでは,強姦 罪や強制 わいせつ 罪といった罪名に よって区分することに 加え,それぞれの 犯行態様に 注目することが多い。被害者の身体に直接触れたか否かで接触型と非接触型 (盗撮や 公然わいせつなどは後者である)に分ける こと が一般的である。こ の ほか,犯罪(非 行)臨床実務 では,性非行・性犯罪 が単独でなされたものか否 かという点を 特に重視する 傾向がある 。筆者の経験でも,集団によって為され た強姦では,加害者に動機を聞くと,往々にして集団力動が作用していること が多い。例えば,仲間内で馬鹿にされまいとして同調行動を取っていく場合な どである。しかし,こういうときは,その場の状況次第で様々な犯罪 の形を取 り得ることから(性加害である必然性はなく,むしろ,暴力行為や危険運転な どに及ぶパターンが多い。),性非行・性犯罪の特徴を抽出しようとする際の分 析対象にはなじまないと考えられる。 精神医学上の分類 精神医学で捉える性的嗜好・性的行動の異常さは,性的な逸脱・偏りを捉え る際の指標になる。性的な 好みに 逸脱や偏りがあるからといってそれが犯罪に なるわけでな いことは言うまでもないが,内容によっては ,性非行・性犯罪に つながる危険性を持つことになる 。表 1-2 はアメリカ精神医学会が定める性的 嗜好の異常である。 例えば,フェティシズム障害では,衣類(下着,制服,靴など)を窃取する ケースが生じやすく,小児性愛障害では ,児童ポルノの作成・頒布や児童買春 に至りやすい。実務で性犯罪者に犯行動機を聞くと,より強く直接的な刺激を 求めて個人の趣味のレベルから違法行為へと 一線を越えるようである。少年の 場合,心身共に発達途上であって 性的嗜好 も移ろいやす いが,偏った嗜好が 固 定してくれば ,性非 行を反復する危険性が高まる。

(15)

4 表 1-2 DSM-5 におけるパラフィリア(性嗜好異常)障害群( APA,2014) 障害分類 窃視障害,露出障害,窃触障害,性的マゾヒズム障害,性的サディズム障害, 小児性愛障害,フェティシズム障害,異性装障害,他の特定されるパラフィ リア障害,特定不能のパラフィリア障害 性 暴 力の本質について 性非行者・性犯罪者に接していると,冤罪を主張することが他の罪種に比し て多いように感じられる。相手が 同意していたから 強引 な行為 などではなか っ たといった主張がほとんど であり,二者間 の同意を巡る曖昧さがこの背景にあ る。 欧米では,性暴力の存否を認定する際の基準として,①当事者間の合意があ ったか否か,②当事者間の立場や能力が対等か否か,③強要がなされたか否か の 3 点に注目し,①と③について争う場合,②が重要な意味を持つ とされる( 藤 岡,2006)。要するに,二者間で立場や能力の不均衡があれば,弱者が強者の 行為を拒否できなかったと 理解すべきであり,拒めなかったことを 合意してい たなどとは捉えられないと して,合意・同意にまつわる曖昧さ の問題を解決し ている。性非行者・性犯罪者がこのことを知らずに ,被害者は行為を受け入れ ていたと本気で思い込んで冤罪を主張して いることもあれば,むしろ,力関係 が不均衡なところに 乗じ,被害者 に拒む力がないことを 分かっ た上で行為に及 び,拒まなかったのだから合意していたのだと主張して いることもあり,処遇 においてはそのいずれに該当するのか見極め ることが必要になる。 以上,性非行・性犯罪を捉える際の,様々な視点,分類カテゴリー,基準に ついて記述した。本論文では,性非行研究上の意義として,条件を統制した均 一な群を構成したいと考えているため ,まず,性的問題行動の中で,裁判所に よって当該行為の違 法性が明確に 認定されたケースを 対象とする。さらに,性 非行の典型的な態様として 接触型を取り上げる(罪 名では ,強 姦罪,強制わい せつ罪,青少年保護育成条例違反,迷惑防止条例違反 となる)。集団型の もの は既述の理由(性的動機が必ずしも強くない)から 除外し,単独犯行 を取り上 げる。

(16)

5 第 2 節 性非行者の特徴 性非行者の特徴については,主に,この分野の研究が活発な北米において, 性非行関連の先行研究をまとめた メタ・アナリシス ,もしくは,性非行の再犯 に関する リスク・アセスメント・ツールの開発を目指した調査研究から導かれ, 議論されている。 前者は一般非行などと比較して性非行者の特殊性を抽出しようとするも の であり,後者は性非行の再犯要因を特定しようとする ものであるが,第 2 節 と 第 3 節で順に取り上げ,現時点で分かっていることをまとめる。 性 非 行関連研究の メタ・アナリシス 性非行研究は,サンプル・サイズの小ささや条件のばらつきなど手続き面の 問題があって個々の研究成果を総括しにくく,性非行者の 多様性の問題と合わ せて,説明モデルの構築が難しい理由になっている。メタ・アナリシスの手法 が利用され始めたことで,こうした研究手続き上の制約が解消され研究成果の まとめが可能になり,少なくとも作業仮説を立てる際の方向性を大きく誤らず に済むようになったことの意義は大きい。性非行の説明モデルの構築を目指す 研究においては,一般非行の延長に,もしくは,一般非行の一部として性非行 は生起するのであり,一般非行のリスク(危険性の意 味で用いる。以下同様) が高まれば性非行のリスクも高まるとする見解と,性非行者には一般非行者と 異なる特殊性があるという二通りの見解が示されている(Righthands, Baird, Way, & Seto, 2014)。

Seto & Lalumière(2010)による メタ・アナリシス の結果は,性非行者が一 般非行者と同じなのか同じではないのか,議論の道筋を付けるものとして注目 される。 彼らは,成人性犯罪の研究報告を交えることなく,性非行少年( 12 ~18 歳)を対象とする 59 の 研究(1975 年から 2008 年の間に英語で書かれた 論文等をデータベースで検索)をまとめて,性非行者 (n=3,855)と一般非行 者(n=13,393)を比較し,効果量とともに,性非行者特有の変数(リスク要因 でもある としている )を抽出している。表 1-3 は,彼らが見出した性非行者と 一般非行者の違いを示したものである。 これをみると,性非行者と一般非行者 との間に共通点は多いが,一般非行者 と比べて 性非行者の 反社会的傾向は低く,性非行者は一般非行のリスク要因だ

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6 けでは説明できないこと,性非行者 特有の 変数として ,虐待被害歴があること, 性的刺激へ早期に接 触していること,非定型的性的関心(一般的な在り様から 逸脱した性的関心を指す )があること ,不安が強いこと ,自己評価 が低いこと, 社会的孤立状態にあること が挙げられ,これらについて は実証的には 支持され るという。この一方で,女性や性非行に対する態度・信念の歪みがあること, 家庭内にコミュニケーションの問題があること,子供の頃に 愛着体験の不足が あること ,身体的暴力を目の当たりにしていること,ソーシャルスキルが不足 していること,性的経験(経験の早さ,経験の過激さ等),知的能力の低さに ついては支持されなかった 。

表 1-3 Seto & Lalumière(2010)による メタ・アナリシスの結果 性非行 者(n=3855)と一般非行 者(n=13393)の違い • 性非行者と一般非行者の共通点は多いが,性非行者は一般非行のリスク要因 だけでは説明できない • 性非行者は一般非行者と比べ,犯罪歴,不良交友,薬物乱用歴といった反社 会的傾向は低い • 性非行者特有の変数として支持されたもの:各種の虐待被害歴(特に性的な もの),家庭内で性的暴力を目の当たりにしていること,セックスやポルノへ の早期接触,非定型的性的関心,不安,低い自己評価,社会的孤立など • 性非行者特有の変数として支持されなかったもの:女性や性非行に対する態 度・信念,家庭内の コミュニケーション の問題, 子供の頃の 愛着不足,身 体 的暴力を目の当たりにしていること,ソーシャルスキルの不足,性的経験,低 い知的能力 この中で,女性や性非行に対する態度・信念の問題(いわゆる認知の歪みと されるもの)が性非行者特 有のものでないとされた ことは,一方でそれらが 性 非行者特有であるとする研究も少なくないことから,注目される結果である。 また,親子間の問題(コミュニケーション,子供の頃の愛着不足)も一般非行 者と比較して差がなかったということであ るが,愛着を取り扱った研究自体が 少なかったため,将来的に再検討する余地もあるとしている。 彼らは,このメタ・アナリシスの結果について,手続き面での限界はある も のの,性非行に関する包括的な理論構築を進めることに寄与する と意義付け, そこでは,非定型的な性的関心に関する研究の立ち遅れを解消する必要がある

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だろうと示唆している。また,性非行群と性非行以外の非行群に 留まらず,非 行のない一般の少年を加えた 3 群比較ができれば,理論構築に最も有益 であろ うと指摘している。

以上のとおり,性非行関連の研究報告の蓄積が乏しい 中,Seto & Lalumière (2010)は,性非行者のみ をサンプル(成人の性犯罪者を含めていない)とし た研究を集めてメタ・アナリシス を行っており,結果は 今後の性非行研究の方 向性を示唆するものとして 注目される 。本研究では,日本人を対象に,性非行 群,性非行以外の非行群,非行のない一般の少年群の 3 群比較を行い,Seto らによる性非行者特有の心理的要素( 不安 の強さ ,低い自己評価,社会的孤立 ) を軸に検討を行う。 第 3 節 性非行の再犯に関わる要因について 北米を中心にした性非行研究において,性非行の 再犯の危険性 に関するアセ スメント・ツールの開発と 検証作業が活発になされている。各ツールの開発過 程はツールごとに様々であり,それぞれに信頼性・妥当性が検証されてきてい る。ツール間で共通 する項目に注目することにより 性非行の再犯要因が絞り込 まれ,その情報は性非行の発生から深刻化に至る過程の中に布置され,性非行 の機序解明に役立つと期待される。 性 非 行用 リスク・アセスメント・ツール の研究から RNR原則 リスク・アセスメント・ツールについて言及する前に,まず,非行者のアセ スメントから処遇選択,効果検証へとつながる一連の流れの基礎にある RNR 原則(リスク原則のR,ニード原則のN,反応性原則のRを並べて,RNR と称 される) について確認しておきたい(Andrews & Bonta, 2010)。本邦でも,刑 事施設における特別改善指導の一つとして「 矯正局性犯罪者処遇プログラム」 (法務省,2006)が開発された際に導入されたのを始めとし て,RNR原則は 矯正実務ではおなじみのものとな っている。

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8 介入の強度をマッチングさせることが最大の効果に結び付くという考え方 で ある。リスクには,指導によって変化し え ない静的(固定的)リスクと指導に よって変化可能な動的(可変的)リスク(急性リスク含む)がある。 ニーズ原則とは,多岐にわたる処遇ニーズ(処遇の必要性)の中で,非行犯 罪の誘発に強く関連するリスク要 因に優先的に介入を実施することで,具体的 にリスク低減を目指すことが再犯防止につながるという 考え方である。 反応性原則とは,非行者・犯罪者に対する 処遇は,対象者の意欲,能力,学 習スタイル等に合致した方法で行われたときに最大限の効果を生じるという 考え方である。 アセスメント においては,まず,対象者の リスクとニーズを定 め,それぞれ の水準の組み合わせ によって,高・中・低 などにレベル 評定され,レベルごと に密度の 異なる処遇が実施されることになる。密度 が異なる処遇とは,処遇プ ログラムの内容の違い,実施頻度,期間の長短などの差を指している。リスク とニーズ の水準の組み合わせによる評 定 と処遇密度が不一致である場合,有害 な結果を生じるという知見もあ る (Andrews & Bonta, 2010)。

非行・犯罪研究の分野では,近年,再犯予測において重要な要因の実証的検 証が重ねられている。どの項目が再犯予測に重要なのか,どのアセスメントツ ールが予測力の点で秀でているかを明らかにしようと する研究を通して再犯 要因が特定されてい くなら ,例えば,性非行の発生や重症化に関わる要因など が明らかになると期待される。 思春期性犯罪者アセスメント ・プロトコル( J-SOAP-Ⅱ) 性非行用アセスメントツールとは,性非行の再犯に関連するリスク を評定す る目的で開発されたものである。その中の,思春期性犯罪者アセスメント・プ ロトコル (J-SOAP-Ⅱ ;Prentky & Righthand, 2003)を参照する。米国で開発 され,これまでのところ,北米を中心に最も使用されている 性非行用 リスク ・ アセスメント・ツール の一つである。表 1-4 は,藤岡(2006)と須藤ら(2008) を参考に,不明な点は Righthand に確認を取って筆者が 翻訳した同ツールの全 容である。 思春期性犯罪者アセスメント・プロトコルの原版は 1994 年に米国フィラデ ルフィア で誕生した が,2003 年に改良された第二版(Ⅱ)が広く使われるよ うになっている。12 歳から 18 歳までの男子性非行者を対象に,彼らの 再犯防

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9 止に取り組む 専門家が評定するものであり,リスク評価だけでなく,処遇指針 の策定や,処遇後の変化測定にも使用できるとされている。 内容をみると,静的リスクと動的リスクの二つのセクションに分かれ ていて, 静的リスク ,動的リスク とも 2 つの下位尺度(合計 16 項目と 12 項目)からそ れぞれ評定する。他の性非行用 リスク・アセスメント・ツール(ERASOR など) に比べると ,思春期性犯罪者アセスメント・プロトコルは静的・動的リスクの 双方にバランス良く項目が配置されていて,対象者の特徴を網羅しやすいと言 える。 セクション 1 では静的リスクの評定を行う。静的リスクは,性的欲動・性 的 執着について評定する尺度と,衝動性と反社会的行動について評定する尺度 か ら捉えられる。性的欲動・性 的執 着の強度 は,性非行の公的な係属 歴が多いこ と,性非行による被害者数が多いこと,男子児童の被害者数が多いこと,性非 行の期間(初発非行から本件まで)が長いこと,性非行の計画性(周到さ)の 程度が大きいこと,性的な攻撃性の程度が大きいこと,性的欲動と 性的執着( 性 的な固執性の程度)が強いこと ,性的被害体験が多いこと・被害の程度がひど いことの計 8 項目から評定する。 一方, 衝動性と反社会的行動の強さは, 10 歳以前の 時期の監護者が一 貫していない・安定していないこと ,怒り が発現す る程度・範囲が大きいこと ,学校での問題行動が多いこと,10 歳以前の行為 障害歴の程度・範囲が大きいこと ,少年期の反社会的行動の程度が大きいこと, 16 歳になる前の補導・逮捕歴 が多いこと ,非行の種類が多い こと,家庭内暴 力の被害ないし家庭内暴力 を目の当たりにした経 験が多いこと・被害の程度が ひどいことの 8 項目から評定する。 セクション 2 では動的リスクを評定する。動的リスクは,治療的介入の尺度 と,地域社会内での安定性と適応の尺度から評定される。治療的介入の尺度は, 非行の責任を受け入れる程度が小さい こと,再発防止のために自分を変化 させ ることへの内的動機付けが 低いこと,自身の再非行 リスクについて理 解が適切 でないこと,被害者に限らず他者一般への 共感性が 乏しいこと,非行に関する 自責の念・罪悪感 が乏しいこと,性非行を正当化する認知の歪みが大きいこと, 仲間関係 が健全でないことといった 7 項目から評定する。地域社会内での安定 性と適応の良さは,性的衝動と欲求が適切に管理されていること,怒りの表 出 が適応的になされていること,現在の生活状況が安定していること,学校に お ける行動が安定していること,地域に 有効なサポート体制が存在しているこ と といった 5 項目から評定する。 思春期性犯罪者アセスメント・プロトコルは本邦でも利用が広まっていて

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10 (藤岡, 2006;須藤ら,2008),日本の性非行者への適用性も確認されている (大江ら,2007)。利用される場所としては,未成年者の性的問題行動に関わ る専門機関が主で,心理担当者が対象者から面接で聞き取りをして評定する場 合が多い。性的問題行動の低年齢化に伴い,児童福祉機関(児童相談所,児童 自立支援施設等)にも利用領域が拡大している 状況にある。 表 1-4 思春期性犯罪者 アセスメント・プロトコル (J-SOAP-Ⅱ) Section.1 静的 リスクアセ スメント 尺度 項目 Ⅰ 性 的 欲 動 / 性 的 執 着 1 公 的 な 性 非 行 の 係属歴 身体 的 な接 触 を 伴う 性 非行 に よる 公 的係 属 歴 の総 数 (本件非行を除 く) 2 性 非 行 に よ る 被 害者数 少年 が 行っ た 身 体接 触 を伴 う 性的 暴 力行 為 の 被害 者 数(公的な認知 件数である 必要はない ) 3 男 子 児 童 の 被 害 者 男児への性加害 数(被害児童は 10 歳以下 で加 害少年 との年齢差が 4 歳 以上離れて いる場合に 限る 。被害 児童が 10 歳以上では身体的 暴力を加え てい る場合) 4 性非行の期間 性的な接触を伴 う非行(検挙 されたもの に限 らない) を犯した期間( いわゆる初 発から本件 まで) 5 性 非 行 の 計 画 性 の程度 性非 行 に先 立 っ ての 事 前準 備 や計 画 性, 周 到 さの 程 度を 査 定す る 。 一般 に 手口 が 複雑 な 場合 の 計 画は 周 到で あ る。 性 非 行が 複 数あ れ ば計 画 性の 程 度 はよ り 大きい。 6 性的な攻撃性 性非 行 に必 要 な 範囲 を 超え た 攻撃 行 動の 表 出 の程 度 を査定する。 7 性的欲動と執着 強い性的な固執 性(性嗜好異 常,強迫的 な自 慰行為, 過度 で 強迫 的 な ポル ノ の使 用 ,わ い せつ な 言 葉や ジ ェス チ ャー の 多 用, 不 特定 多 数の 相 手と の 無 差別 な 性行為など)の 査定 8 過 去 の 性 的 被 害 体験 少年自身の過去 の性的被害 体験の回数 ,被害 の程度

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11 Ⅱ 衝 動 性 / 反 社 的 行 動 9 監護者の一貫性 10 歳になる以前の 時期の監護 者の一貫性 と安 定性を 査定 10 怒りの広がり 怒り の 対象 , 程 度, 頻 度を 査 定す る 。① 繰 り 返さ れ る言 語 的攻 撃 や 怒り の 爆発 , ②脅 し や威 嚇 的 行動 , ③多 様 な対 象 ( 親, 友 達, 警 察官 , 教師 , 動 物等 ) への 非 性的 身 体 的暴 行 など が 含ま れ る。 器 物 損壊 行 為は 明 らか に 他 者に 対 する 怒 りの 表 現で あ れ ばカ ウ ントする。 11 学 校 で の 問 題 行 動 幼稚園から中学 3 年生までに 限定した学 校で の問題 行動 ( 無断 欠 席 の常 習 ,友 人 や教 師 との 身 体 的暴 力 を伴うけんか等 ) 12 10 歳以前の行為 障害歴 10 歳以前に妨害行為(①規則破 りを繰り返 す ,②他 者の基本的権利 を暴力的に 侵害する,③ 学校 ,家庭, 地域社会におけ る破壊的で 攻撃的な行 為) 13 少 年 期 の 反 社 会 的行動 10 歳から 17 歳ま での性的問 題を含まな い非 行(① 暴力 行 為や 器 物 の破 壊 行為 , ②悪 質 ない た ず ら, 指 導や 管 理へ の 反 抗, 浮 浪, 無 断欠 席 の常 習 化 ,③ け んか や 身体 的 暴 力, ④ 危険 物 の所 持 又は 持 ち 歩き , ⑤窃盗,強盗, 侵入盗,⑥ 交通非行) 14 16 歳になる前の 補導,逮捕歴 16 歳以前に起こした 補導/逮捕 歴(性的・非 性的い ずれも) 15 非行の多様性 補導 ・ 逮捕 な ど 公的 機 関に 係 属し た 非行 の カ テゴ リ ー数 ( 性非 行 , 非性 的 対人 暴 力, 財 産犯 , 詐 欺, 薬 物非 行 ,重 大 な 交通 非 行, 反 体制 的 行為 , そ の他 の 違法行為) 16 家 庭 内 暴 力 の 被 害 な い し 家 庭 内 暴 力 に さ ら さ れ た経験 家庭 に おい て 監 護者 か ら自 身 が暴 力 を受 け た ,あ る いは , 家族 が 暴 力を 振 るわ れ ると こ ろを 見 た り聞 い たりした経験に おける,暴 力の程度 の 査定

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12 Section.2 動的 リスクアセ スメント Ⅲ 治 療 的 介 入 17 非 行 の 責 任 を 感 じているか 非行 の 責任 を 他 者に 転 嫁せ ず ,自 身 で感 じ て いる か 査定 18 変 化 へ の 内 的 動 機付け 非行 を 自分 の 問 題と し て受 け 止め , 自分 を 変 えて , 再犯を防ぎたい と望んでい るか査定 19 リ ス ク 因 子 に 関 する理解 自分 の 非行 に 関 連す る リス ク と状 況 につ い て 知識 を 持ち , 理解 し て いる か ,リ ス クに 対 処す る 方 略に 気 付いて活用して いるか査定 20 共感性 多様 な 場面 に お ける 共 感性 の 能力 の 査定 ( 純 粋な 感 情を 表 して い る 言動 と ,社 会 的望 ま しさ を 意 識し た り知的に考えた りしたよう な発言を区 別する ) 21 自 責 の 念 と 罪 悪 感 非行 や 非行 に 関 連す る 行動 に 関し て 自責 の 念 を持 っ ていることを示 す考えや感 情,情緒の 程度の 査定 22 認知の歪み 性非 行 や非 行 行 動一 般 を正 当 化し よ うと す る 歪ん だ 考え,信念,態 度の査定( 発言中の出 現頻度 から) 23 仲 間 と の 関 係 の 質 仲間 と の関 係 の 特徴 や 質, ど の程 度 の時 間 を 非行 と 関係 の ない 社 会 活動 に 充て て いる か や, 年 齢 から し て適 切 で非 行 と 関係 の ない 交 友関 係 を持 て て いる か の程度を査定

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13 Ⅳ 地 域 社 会 内 で の 安 定 性 と 適 応 24 性 的 衝 動 と 欲 求 の マ ネ ー ジ メ ン ト 社会 的 に見 て 適 切か つ 健康 的 手段 で ,性 的 衝 動と 欲 動を 制 御し て い るか の 程度 を 査定 ( 性的 欲 動 の強 さ は項目 7 で査定する) 25 怒りの統制 怒り を 感じ た 時 の表 現 の適 切 さ( 言 葉を 用 い ,攻 撃 的・暴力的でない )の査定(怒りの 広がりは 項目 10 で査定する) 26 現 在 の 生 活 状 況 の安定性 査定 時 の少 年 の 生活 状 況の 安 定性 ( 養育 者 の 別居 , 離婚 , 死亡 , 頻 繁な 別 居, 家 族の 薬 物乱 用 , ポル ノ の使 用 ,児 童 虐 待, 性 交相 手 の頻 繁 な交 代 , 性的 な 境界 の 脆さ 又 は 欠如 , 重篤 な 病気 , 精神 障 害 ,常 習 的な け んか や 怒 りの 爆 発, 家 庭内 暴 力, 犯 罪 など ) の査定 27 学 校 生 活 の 安 定 性 学校 生 活( も し くは 就 業) の 安定 性 (無 断 欠 席, 遅 刻を 繰 り返 す , 停学 又 は処 分 とし て の退 学 , 学校 で の飲酒や喫煙, 薬物の使用 )の査定 28 有 効 な サ ポ ー ト 体制の存在 地域 社 会に お い て援 助 を受 け るこ と がで き る 有効 な 体制 ( ①援 助 を して く れる 家 族, ② 友人 , ③ セラ ピ スト , 保護 司 , 社会 福 祉士 等 ,④ 放 課後 の ス ポー ツ や課外活動,⑤組 織だった宗 教活動への 参加 ,など) が存 在 して い る か, ま た, そ の援 助 を活 用 し てい る か査定 性 非 行の再犯に関するリスク・アセスメント・ツール の比較研究 Rich( 2009)は,性非行者に関する包括的なアセスメント について検討する 中で ,主要な性非行用 リスク・アセスメント・ツール(思春期性犯罪者アセス メント・プロトコル J-SOAP-Ⅱ,若年者の性犯罪再犯リスク予測 ERASOR を含 む)を比較 検討した。その結果は,表 1-5 に示す通り,ツール間の差異よりも

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14 共通する内容が多く見いだされ るというものであ った 。 カテゴリー別に追っていくと,まず,性的信念・態度・欲動の カテゴリーで は,偏った性的興味があること,性的固執 があること,性非行を支持する態度 や信念があること,性非行を続けたい欲求 があることが,主要 尺度に共通し た 項目として挙げられている。 性非行の履歴 のカテゴリーでは,多数の被害者がいること,性非行に 暴力や 脅しが伴うこと,性非行時の強制のレベル が著しいこと,被害者との年齢差 が 大きいこと,被害者は異性だけでなく同性を含む こと,被害者は見知らぬ他人 であること, 複数タイプの性非行がある (非行態様パターンが複数以上ある) こと, 性非行の前歴があること,最初の逮捕後 にも性非行を続け ていたこと, 性非行の持続期間(初発非行からの)が短くないこと,性非行が進化した( エ スカレートした)経過があるこ と,性非行に計画性 があること,性非行に激し さ・ひどさがあることが挙げられている。 被害歴のカテゴリーでは,本人に 性的または身体的虐待 の被害歴(性非行の 前に)があることと,虐待被害の影響が現時点でも認められることが挙げられ ている。 一般的な問題行動歴のカテゴリーでは,攻撃的行動歴 があること,地域や学 校での問題行動歴があること,性 非行以外での逮捕歴があること,問題行動の 始まりが早いこと, 反社会的行為の範囲 が広いこと(問題行動タイプ多数), 物質乱用 歴があること,不良交友 があることが挙げられている。 社会的関係性・交流のカテゴリーでは,親しい人間関係が欠如していること と社会的関係性が不 足していることが挙げられている。 個人的特性 のカテゴリーでは,自分自 身が変わる(変化・成長する)ことへ の意欲が乏しいこと,共感性が不 足していること,自責の念が 不足しているこ と,事件を 否認していること ,責任感が 欠 如していること,知的能力や洞察力 の不足が挙げられている。 一般的な心理社会的機能のカテゴリーでは,自己調整力が乏しいこと,衝 動 性が高いこと ,アンガーマネージメント が不足していること ,社会的ス キル ・ 資質が不足していること,社会的機能全般の困難性 があることが挙げられてい る。 家族関係,家族機能のカテゴリーでは,ストレスの多い家庭環境・家族機能 であること(例:転居を繰り返す,家族成員に障害・問題行動がある,家庭内 で頻繁に感情の爆発があるなど),親の安定性と一貫性 に問題があること( 別

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15 居,離婚 ・再婚,死別等),治療に無関心な親であるこ と,家族間暴力にさら された歴史があるこ と,親の心理社会的機能の程度 に問題があること ,家族の 身体的・性的な 境界が守られていないこと(身体的・性的に,侵入する・され る,暴露する・されるといった状態にある ),親子関係の脆弱さが挙げられて いる。 一般的な環境状況のカテゴリーでは,生活状況 や学校生活の安定性を欠くこ と,サポート体制の質に問題があること,一般的な環境条件が整っていないこ と(養育者不在,経済的困窮等),再非行の機会があることが挙げられている。 処遇への反応性のカテゴリーでは,治療が 未完了であること,治療に対する 理解や反応に問題があることが挙げられている。 表 1-5 性非行リスク・アセスメント・ツールに共通して含まれるリスク要因 (Rich, 2009 から引用) カテゴリー 共通して含まれ るリスク要 因 1. 性的信念,態 度,欲動 ・ 偏った性的興 味 ・ 性的固執 ・ 性非行を支持す る態度や信 念 ・ 性非行を続けた い欲求 2.性非行の履歴 ・ 多数の被害者 ・ 暴力や脅しが伴 う ・ 強制のレベル ・ 被害者との年齢 差 ・ 被害者は異性だ けでなく同 性を含む ・ 被害者は見知ら ぬ他人 ・ 複数タイプの性 非行 ・ 性非行の前歴 ・ 最初の逮捕の後 ,性非行を 続けた ・ 性非行の持続期 間 ・ 性非行が進化し た経過があ る ・ 計画性 ・ 性非行の激しさ ,ひどさ 3. 被害歴 ・ 性的または身 体的虐待被 害歴(性非 行の 前に) ・ 虐待被害の現時 点での影響

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16 4. 一般的な問題 行動歴 ・ 攻撃 ・ 地域や学校での 問題行動 ・ 性非行以外での 逮捕歴 ・ 問題行動の始ま りの早さ ・ 反社会的行為の 範囲(問題 行動タイプ 多数) ・ 物質乱用 ・ 不良交友 5. 社会的関係性 ,交流 ・ 親しい人間関係 の欠如 ・ 社会的関係性の 不足 6. 個人的特性 ・ 変化への意欲 ・ 共感性の不足 ・ 自責の念の不足 ・ 否認,責任感の 欠如 ・ 知的能力,洞察 力の不足 7. 一般的な心理 社会的機能 ・ 自己調整力の 乏しさ ・ 衝動性 ・ アンガーマネー ジメントの 不足 ・ 社会的スキル・ 資質の不足 ・ 社会的機能全般 の困難性 8. 家族関係, 家族機能 ・ ストレスの多 い家庭環境 ,家族機能 ・ 親(関係)の安 定性と一貫 性 ・ 治療に無関心な 親 ・ 家族間暴力に さらされた 歴史 ・ 親の心理社会 的機能 ・ 家族の身体的 境界,性的 境界 ・ 親子関係の弱 さ 9. 一般的な環境 状況 ・ 生活状況の安 定性 ・ 学校生活の安定 性 ・ サポート体制の 質 ・ 一般的な環境条 件 ・ 再非行の機会 10. 処遇への反 応性 ・ 治療の未完了 ・ 治療に対する理 解や反応

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17 性非行の再犯リスクに関する 実証的裏付けについて 性非行の再犯リスクに係る学術文献上の研究を概観し,Worling & Långström (2006)は, 再犯リスクを実証的裏付けの程度に より ,4 つに分 類し ている 。 まず,実証的に支持された項目として,性的興味が歪んでいる こと,性非行 の処分歴があること,被害者のタイプが様々である(被害者は一人以上,被害 者と面識がない)こと,社会的に孤立していること,性問題治療が 未完了 であ ることが挙げられている。 次に,実証的に支持される 見込み が強 い項目として,親子関係 に問題がある こと(例えば,ネグレクトなど親から拒否されること),性非行を肯定する態 度があることが挙げられている。 続いて,実証的に支持される可能性がある項目として,家庭環境が高ストレ スであること,強迫性があること,反社会的志向があること,攻撃性が認めら れること,不良仲間が存在すること,性的固執があること,被害者が同性 を含 むこと,被害者が児童 であること,性非行時に,脅し,暴力,武器の使用 があ ること, 再非行を助長する環境にあることが挙げられている。 最後に,実証性が ありそうもない項目として,本人に 性的被害歴があること, 一般非行歴があること,強姦歴 があること,性非行を否認 していること,被害 者に対する共感性の低さが認められることが挙げられている。 表 1-5 に示した代表的なリスク・アセスメント・ツール に共通して含まれる 項目でも,再非行との関連が見いだせない(「ありそうもない」)に分類されて いるものがあり,再非行要因を特 定することの難しさを 示している。しかし こ の一方で,少なくとも実証 性の程度が高いとされる項目については,性非行が 一過性のもの に終わらない要因に関係していると考えられる。 我が国の性非行者の再犯 リスクについて 我が国の非行臨床実務から見ると,表 1-5 の項目のうち,性的興味の 歪みや 性的固執 があること ,被害者 のタイプが様々である( タイプが一定していない) こと,あるいは ,被害者が同 性もしくは 児 童であること,社会的に 孤立してい ること( 人間 関係が破綻していなくとも 心理的に孤立している状態 を含む), 親子関係に何らかの 問題がありストレス の高い家庭環境であること ,性非行を

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18 肯定する態度 があることな どについては,日本の性非行者にも当てはまる再 犯 要因になると思われる(徳重,1991;針間,2001;藤岡,2006)。筆者の 非行 臨床実務の印象では,性非行者の 親子関係の問題と性非行との間に密接な関係 があると感じるケースが多く,性非行者の抱える親子関係の問題の質 がどうい ったもので,それが非行に及ぼす影響の如 何について,我が国独自の傾向が 見 出せる可能性がある。 この一方,攻撃性が強く,性非行時に 脅し,暴力,武器 を使用 していること については,我が国の性非行者において 見掛けることは少ない 。反社会的志向, 不良仲間の存在,一般非行歴について も ほとんど 該当しない。藤岡(2006)も 指摘するように,我が国の 性非行者は家庭や学校から逸脱しておらず,外見上 はいい子であ るものの内面の未熟さが特徴である。 第 4 節 まとめ 第 2 節では一般非行者との比較(メタ・アナリシス )から見いだされた性非 行者の特徴(Seto & Lalumière, 2010)を ,第 3 節では 性非行の再犯リスクと して実証的に支持されるもの(Worling & Långström,2006) をそれぞれ挙げ た。前者は,一般非行でなく性非行に至った背景にあるもの,すなわち,性 非 行の生起 に関わる要因を特 に示していると考えられる。後者は,性非行が一過 性でなく反復するケースの特性,すなわち性非行の重症化に関わる要因 を強 く 示していると 考えられる。これら のうち,性非行の予防や治療につながる手が かりを得るために,可変的な要 素に注目して各項目を検討していく。研究(者) によって静的リスク(固定的要因)に分類されているものについても検討の対 象に含める。 まず,一般非行者との比較で見いだされた性非行者の特徴から ,今後の治療 によって変えられる 可変的 要素のある も のを挙げると ,非定型的性的関心,不 安,低い自己評価,社会的孤立となる。 次に,性非行の再犯リスクであるが,可 変 的要素のあるものというと,性 的 興味の歪み,社会的孤立,問題のある親子関係,性非行を肯定する態度,強 迫 性,性的固執,反社会的志向,攻撃性 となる。性非行 を否認 していること や, 被害者への共感性が 低いことについて は ,実証的根拠が乏しいとされている。 既述のとおり,前者は一般非行でなく性非行に向かった要因を示 し,後者は 一過性でなく 性非行を繰り返す要 因に関わり,両者に共通するものは,性非行

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19 者の特徴であ り,かつ,性非行が 深刻化していく要因 ということになる。 両者に共通するもの というと,性的興味の偏り(非定型的性的関心)と社会 的孤立である。一般非行者になく性非行者にしか見られない特徴であり,再犯 との関連性も支持されていて,性非行の生起や再発を防止するときの重要なポ イントになると考えられる。 一方,反社会的傾向については,一般非行者に比して性非行者にはその傾向 が低く,性非行再犯との関連性も支持されず,非行文化の取り入れが性非行の 生起・再犯の前提になっているとは言えない。反社会的志向があったり不良仲 間が存在したりする場合に ,再犯リスクが高まる可能性も示唆されているが, 初めから一般非行傾向を併せ持つ性非行者においては,他の犯罪リスクが高け れば性非行のリスクも高くなると捉えられる。日本の性非行者に反社会的傾向 がほとんど見られないことは既述の通りである。 性非行の予防や再発防止のためには適切な処遇方法の選択が 欠かせない。そ の前提として,性非行の発生と再発に関するモデルの構築を進展させることが 求められる。そこで,これまで見てきた研究 からリストアップされた 可変的 要 素のある項目 を中心に,性非行の発生と重症化要因とプロセスを概念化して, 図 1 に示すような図式を仮定した 。 発 生 重 症 化 図 1 性非行の説明モデル( 可変的な要素のある項目を中心に ) 親子関係に問題 強迫性,攻撃性など 性非行を肯定する態度 社会的孤立 非定型的性的関心 性的固執 反社会的志向 不 安 低い自己評価

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20 本章では,現時点で性非行研究がどこまで進んでいて性非行について何が分 かっているのかを整理し,性非行の発生と重症化に関するプロセスを図示して みた。しかし,これらの各要素がどのように作用し影響を及ぼすのか,要素間 の因果関係がどのようになっているのか,確かめられていない。海外の研究成 果では,既述の通り,性非行者自身の特徴として,反社会的志向がある,非行 時に激しい暴力が伴うといった報告がされているが,我が国の性非行者に関す る実務上の印象とは相違している。性非行の本質に関する理解を深める過程で は,こうした国ごとの臨床像の差異にも留意する必要があるだろう。

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第 2 章

TAT による性非行研究

第 1 節 TAT の利用状況 TAT と は TAT は 1935 年に 米国,ハーバード ・サイコロジカル ・クリニックの Murray らによって人格研究のツールとして発表され, 1945 年に現在の形に定まって 以来,ロールシャッハ・テストと並ぶ ,代表的な投映法 心理検査として世界各 国で利用され ている。

主題統覚検査(Thematic Apperception Test)の主題(theme)とは,Murray によれば,個人(欲求)と環境(圧力)の相互作用,力動的関係である。統覚 (apperception)とは ,知覚した対象・出来事をどう意味付けるか,解釈の仕 方を指している。つまり,描かれた人物・状況に意味を付与し物語を構成させ ると,そこに 被検者の主題が投映され浮かび上がり,それによって被検者の 人 格特徴が捉えられるということになる。 ロールシャッハ・テスト との違い Murray は全 31 枚 のカードを作成し,第 1 系列と第 2 系列の 2 部構成として いた。第 1 系列(#1~#10)には対 人場面の具体的な 描写 が多く ,第 2 系列( #11 ~#20)で はより非現実的,抽象的な描写が多くなっている。ロールシャッハ・ テストが偶然にできたインクのしみを刺激としているのに比し,TAT は具体的 にせよ抽象的にせよ,ほとんどの図版に人物が描 かれていて,人物や人間関係 への被検者の 反応を捉える点に特徴がある。

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22 このような刺激特性の違いがあるゆえに,ロールシャッハ・テストでは 被検 者の自己防衛機能などを含む自我機能 全 般が試され,この検査は精神病理の検 出を得意として精神科領域で多く使用される。一方,TAT ではそうした要素は 少なく,診断用途になじまず( Weiner,2008), 日常生活をある程度維持でき る人を対象に,内的な葛藤 や,何らかの不適応性について査定することに向 い ているとされている。対象としては,悩み のレベルから,人格的な歪みを背景 にした不適応まで, 幅広く取り扱うことが可能である。 TAT の実施法 ① 教示 Murray 自身の教示には,「知能の一つの形である想像力のテスト 」,「 ドラマ チックな物語を作る」,「 過去-現在-未来」,「一つの物語は 5 分くらい 」とい った指示的な内容が含まれていて,被検者のありのままを映しだそうとする目 的にそぐわないとして,その後の研究者・臨床家には余り取り入れられていな い。文献中に見られる各研究者 ・臨床家 の教示に共通している内容は,「この 絵の中の人は,今,何を感じ,どうしているのか,この絵の前にはど のような ことがあって,この絵の後にはどうなって いくのか ,想像して話してください。」 というものである。 ② 使用カード ロールシャッハ・テストは 10 枚 の図版に固定されているが,TAT では使用 枚数の定めはなく,カード選択も実施者に任されている。海外の報告によると, 審判前の非行少年を対象とした 研究・臨床報告において,平均実施数は 10.25 枚 で あ り,選 択されるカ ードは前 半カー ド ( 第 1 系 列)に偏りや すいとい う (Haynes & Peltier,1985)。Murray は被検者の性別や年齢によって使用する カードを 分け ていたが,後に,分けることの効果はさほどないという研究結果 が示されたこともあり(Kats, Russ, & Overholser, 1993),Murray の分類を 参考にしつつ,被検者の抱える問題の特質に対応したカードを 選択することが 主流になっている。

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③ 分析・解釈法

TAT 研究の初期の頃,Shnaidman(1951) は John Doe(何某の意味)という 架空のケース(フェースシートと TAT 反応)を設定し,各研究者に分析を依頼 してその結果を分類 したところ,次のようになった。 ア 標準化法 (標準化された資料と比較して数量化する) イ 主人公中心法(欲求-圧力分析など) ウ 直観的方法(当時は精神分析的連想) エ 対人関係法(人物間の相互関係に注目する) オ 知覚法( 形式分析) これらを 大別すれば,内容分析( ア~ エ )と形式分析 (オ)となる。 TAT では,実施手続きが統一されていないことと同様 ,Murstein(1963)が 言うように分析・解釈法も臨床家(あるいは研究者 )の数だけあって,現在で もその頃と状況が大きく変わったとは言えない 。投映法心理検査に関する国際 学会の動向をみると,ロールシャッハ・テストでは ,実施法 や分析・解釈法 に ついて世界標準となるものがひとまず 整備されていて ,その上で,心理検査と し て の 信 頼 性 ・ 妥 当 性 を 確 保 す る た め に そ れ ら の 見 直 し が 続 け ら れ て い る (Mihura, Meyer, & Dumitrascu, 2013)。 一方,TAT では,各国の TAT 研究者 が集まって標準的な 分析・解釈手続きを設けようと し始めているところである ( Jenkins, Coulacoglou, Azoulay, Emmanuelli, Chabert, Verdon, Neau, Louët, Vibert, Lelê, & Mendoza, 2014)。

第 2 節 TAT の分析・解釈法 内容分析 (標準化法 ) 標準化法とは,誰もが語る標準的 な反応からの逸脱の度合いに注目するアプ ローチである。TAT 研究の初期には,一定の基準を置いてそこ からの隔たり の 程度によって反応特徴を数値化することが試みられていた 。例えば,Weisskopf (1950)は被検者に図版の客観的な説明をするよう求め,客観的な説明以上の 言及がなされた場合にそのコメントに注目し,コメントの数を 逸脱 の指標とし

参照

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