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日本人学生の留学志向と動機に関する一考察 -東北大学学部生の留学に関する実態調査結果の報告-

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(1)

日本人学生の留学志向と動機に関する一考察 −東

北大学学部生の留学に関する実態調査結果の報告−

著者

渡部 由紀

雑誌名

東北大学高度教養教育・学生支援機構紀要

6

ページ

127-133

発行年

2020-03

URL

http://hdl.handle.net/10097/00127406

(2)

1  はじめに

東北大学では,2012年の経済社会の発展を牽引する グローバル人材育成支援事業(2012年~2017年)の採 択を機に,本格的な短期海外研修プログラムの提供を 開始して以来,派遣学生数が増加し,大学間協定に基 づく派遣日本人学生数は2012年度には145人であった が,2018年度には776人まで増加した.そのうち学部 生の派遣者数は641人,学部卒業者2,500人に対する留 学者の占有率は26%で,卒業者の4人に1人が留学経験 を有していることになる.また,2018年度の全派遣学 部生641人のうち,長期( 3 ヶ月以上)留学経験者は 16%(103人),短期( 3 ヶ月未満)留学経験者は84% (538人)で,短期留学経験者が大半を占めていた.ま た,短期留学経験者の75%(383人)がグローバルラー ニングセンターで提供する短期海外研修プログラムの Study  Abroad  Program(SAP)と Faculty-led  Program(FL)の参加者であった. 2012年以降,本学学部生の留学経験者の拡大は短期 留学者数の増加によるところが大きく,その増加を主 にSAP・FLが支えてきた.さらに,SAP・FL経験者 が大学間交換留学派遣者(学部生)数に占める割合は SAPの本格的な実施開始前の2012年度は24%であっ たが,その後SAP・FLの派遣定員数の増加に伴って, 大きくなり,65%程度まで拡大しており,SAP・FL が交換留学への動機付け,または交換留学に備えるた めの学習機会となっていることが伺える. 交換留学派遣者(学部生)の過去の海外経験を把握 するため,2018年度大学間交換留学派遣予定者を対象 にアンケート調査を実施した.回答者70人のうち「海 外経験無」と回答した学生は 2 人のみであった(内 1 人は交換留学参加前にSAPに参加した).また,「海外 経験有」と回答した68人のうち,33人(49%)が大学 入学前に海外経験があると回答していた.2018年度夏 春及び2019年度夏SAP参加者を対象に実施した事前ア ンケート調査でも同様の結果が出ており,回答者の 47%が大学入学前に「海外経験有」と回答している. 近年,スーパーグローバルハイスクール(SGH)はじ め高校独自の教育の国際化の取り組み,地方自治体や 企業による奨学金付き海外研修プログラムの増加によ り,大学入学前に海外を経験して入学する学生が増加 していることが伺える.2020年度以降,トビタテ!留 学JAPANが支援対象の比重を大学生から高校生にシ フトすると,この傾向は強まっていくことが予測される. 過去 8 年間で本学における海外派遣者数は大幅に増

【報 告】

日本人学生の留学志向と動機に関する一考察

-東北大学学部生の留学に関する実態調査結果の報告-

渡 部   由 紀

1)* 1 )東北大学高度教養教育・学生支援機構 *)連絡先:〒980-8576 仙台市青葉区川内41 東北大学高度教養教育・学生支援機構 yuki.watabe.c6@tohoku.ac.jp 本稿では,東北大学学部 1 ・ 2 年生の留学に関する実態の把握を目的に,グローバルラーニングセンターが実施 したオンライン・アンケート調査で収集したデータの一部を分析し,日本人学生の留学志向と動機に関する結果を 報告する.回答者全体の留学に対する志向は,積極層(留学が決まっている・留学したいと思う)が36.3%,浮動層(留 学を迷っている・留学したいかわからない)が37.8%,消極層(留学したいと思わない)が25.9%であった.留学志 向は,性別,学年,留学経験の有無で違いが見られ,女子学生, 1 年生,留学経験有の学生に積極層が多かった. 留学動機については,学生は「異文化交流・異文化理解の深化」,「外国語能力の向上」「コミュニケーション力の向上」, 「国際的な視野を持つこと」に最も留学が有用であると認識しており,留学したい理由の上位でも挙げられていた. この結果から,留学動機は,専門分野の学術的な学びよりもグローバル化が進む社会で活躍するために必要なコン ピテンシーの向上及び習得にあることが明らかになった.

(3)

渡部 由紀・日本人学生の留学志向と動機に関する一考察 加し,また今後,海外経験のある新入生の増加が予測 される一方で,卒業までに国際的な学習機会を得るこ となく卒業していく学生がまだ大半を占めている.日 本社会のグローバル化・多様化が加速する中,今後日 本の若者が文化背景の異なる多様な価値観を持つ人々 と協働する機会は増えていくため,大学在学中に国際 的な経験を得ることの重要性は,今後ますます高まっ ていく.また,学生の国際経験の多様化に伴い,異な る学習ニーズに応える留学をはじめとする国際教育プ ログラムの展開の必要性が高まってきており,学部生 の留学に関する実態を把握することが喫緊の課題と言 える.

2  調査の概要

2.1 調査の目的と方法 東北大学の学部 1 ・ 2 年生の留学に関する実態の把 握を目的に,グローバルラーニングセンターは留学に 対する志向,留学のメリット,留学したい・ためらう・ したくない理由,希望する留学のタイプなどについて, オンライン・アンケート調査を実施した.本稿では, 収集したデータの一部を分析し,日本人学生の留学志 向と動機に関する結果を報告する. 2.2 調査対象とデータ収集の方法 調査実施期間は2019年10月14日(月)~10月25日(金) で,調査への回答依頼は 1・2 年生の必修英語科目「英 語B2」及び「英語C2」(全学部対象のクラスは除く) の担当教員の協力を得て,当該科目の履修者に周知し た.質問票の有効回答数は2,910人であった.本調査 の対象者である2018年度及び2019年度の入学者の合計 数4,496人1)に対する回答率は64.7%であった.回答者 の男女比は,男性が71.6%,女性が28.0%で,本学の 在籍学生数の男女比とほぼ同等であった.また,全回 答者に占める留学生の割合は0.8%(22人)であった. 表 1 は回答者から留学生と留学生の肯否の質問への 未回答数を除いた部局別・学年別回答者数である.在 籍学生総数に対する各部局学生数の割合と比較する と,薬学部と理学部 2 年生の回答数極端に少なく2) 工学部の回答数の占める割合が多くなっている. 2.3 調査内容と分析方法 本稿では,日本人学生の留学志向と動機について考 察するため,オンライン・アンケート調査の調査項目 のうち,1 )留学に対する志向,2 )留学したい理由, 3 )留学のメリット,の回答データを分析した. 留学に対する志向については,留学経験者には「ま た,留学したいと思うか」,留学未経験者には「留学 したいと思うか」について,「留学が決まっている」「思 う」「迷っている」「わからない」「思わない」から一 つを選択するよう求めた.留学志向の回答結果から回 答者を積極層,浮動層,消極層3)の 3 群に分類し,留 学経験,学年,性別との単純クロス集計により比率集 計を行い,留学志向の相違について分析した. 次に留学したい理由については,留学したい理由15 項目から,最も当てはまる理由を 3 つ選択するよう求 めた.各理由の回答総数を算出し,分析結果から学生 の留学目的について考察した. 最後に留学のメリットについては,留学によって向 上や習得が期待される知識・能力・姿勢・行動等の10 項目に対する留学の有用性について,「役に立つ」( 4 点),「ある程度役に立つ」( 3 点),「あまり役に立た ない」( 2 点),「役に立たない」( 1 点)の4件法で回 答を求めた.10項目に対する留学の有用性の加重平均 及び標準偏差を算出した.また,留学志向 3 層間で相 違があるかを分析した.統計的検定については,留学 志向 3 層間の比較にはKrusukal-Wallis検定を用い, Dann-Bonferroni方法による多重比較を行った.統計 解析はSPSS Ver.24を使用し,有意水準は 5 %とした. 表1.部局別・学年別回答者数 著者名・タイトル 2 加し,また今後,海外経験のある新入生の増加が予測 される一方で,卒業までに国際的な学習機会を得るこ となく卒業していく学生が大半を占めているのが現状 である.日本社会のグローバル化・多様化が加速する 中,今後日本の若者が文化背景の異なる多様な価値観 を持つ人々と協働する機会は増えていくため,大学在 学中に国際的な経験を得ることの重要性は,今後ます ます高まっていく.また,学生の国際経験の多様化に 伴い、異なる学習ニーズに応える留学をはじめとする 国際教育プログラムの展開の必要性が高まってきてお り,学部生の留学に関する実態を把握することが喫緊 の課題となっている. 2 調査の概要 2.1 調査の目的と方法 東北大学の学部 1・2 年生の留学に関する実態の把 握を目的に,グローバルラーニングセンターは留学に 対する志向,留学のメリット,留学したい・ためらう・ したくない理由,希望する留学のタイプなどについて, オンライン・アンケート調査を実施した.本稿では, 収集したデータの一部を分析し,日本人学生の留学志 向と動機に関する結果を報告する. 2.2 調査対象とデータ収集の方法 調査実施期間は2019 年 10 月 14 日(月)~10 月 25 日(金)で,調査への回答依頼は 1・2 年生の必修 英語科目「英語B2」及び「英語C2」(全学部対象のク ラスは除く)の担当教員の協力を得て,当該科目の履 修者に周知した.質問票の有効回答数は2,910 人であ った.本調査の対象者である2018 年度及び 2019 年 度の入学者の合計数 4,496 人 1)に対する回答率は 64.7%であった.回答者の男女比は,男性が 71.6%, 女性が28.0%で,本学の在籍学生数の男女比とほぼ同 等であった.また,全回答者に占める留学生の割合は 0.8%(22 人)であった. 表1 は回答者から留学生と留学生の肯否の質問への 未回答数を除いた部局別・学年別回答者数である.在 籍学生総数に対する各部局学生数の割合と比較すると, 薬学部と理学部2 年生の回答数極端に少なく2),工学 部の回答数の占める割合が多くなっている. 表1.部局別・学年別回答者数 2.3 調査内容と分析方法 本稿では,日本人学生の留学志向と動機について考 察するため,オンライン・アンケート調査の調査項目 のうち,1)留学に対する志向,2)留学したい理由, 3)留学のメリット,の回答データを分析した. 留学に対する志向については,留学経験者には「ま た,留学したいと思うか」,留学未経験者には「留学し たいと思うか」について,「留学が決まっている」「思 う」「迷っている」「わからない」「思わない」から一つ を選択するよう求めた.留学志向の回答結果から回答 者を積極層,浮動層,消極層3)3 群に分類し,留学 経験,学年,性別との単純クロス集計により比率集計 を行い,留学志向の相違について分析した. 次に留学したい理由については,留学したい理由15 項目から,最も当てはまる理由を3 つ選択するよう求 めた.各理由の回答総数を算出し,分析結果から学生 の留学目的について考察した. 最後に留学のメリットについては,留学によって向 上や習得が期待される知識・能力・姿勢・行動等の10 項目に対する留学の有用性について,「役に立つ」(4 点),「ある程度役に立つ」(3 点),「あまり役に立たな い」(2 点),「役に立たない」(1 点)の 4 件法で回答 を求めた.10 項目に対する留学の有用性の加重平均及 び標準偏差を算出した.また,留学志向3 層間で相違 があるかを分析した.統計的検定については,留学志 向 3 層間の比較には Krusukal-Wallis 検定を用い, Dann-Bonferroni 方法による多重比較を行った.統計 解析はSPSS Ver.24を使用し,有意水準は5%とした. 回答数 % 回答数 % 回答数 % ⽂学部 104 6.3% 117 9.4% 221 7.7% 教育学部 54 3.3% 36 2.9% 90 3.1% 法学部 64 3.9% 88 7.1% 152 5.3% 経済学部 215 13.1% 156 12.6% 371 12.9% 理学部 197 12.0% 3 0.2% 200 6.9% 医学部 198 12.0% 213 17.2% 411 14.2% ⻭学部 43 2.6% 46 3.7% 89 3.1% 薬学部 2 0.1% 1 0.1% 3 0.1% ⼯学部 636 38.6% 493 39.7% 1,129 39.1% 農学部 133 8.1% 88 7.1% 221 7.7% 合計 1,646 100.0% 1,241 100.0% 2,887 100.0% 3.0% 3.6% 32.3% 6.0% 100.0% 8.9% 2.8% 6.7% 10.9% 12.7% 13.2% 所属学部 学年 合計 在籍学⽣総数に対する 部局別在籍学⽣数の割合 (令和元年5⽉1⽇現在) 1年⽣ 2年⽣

(4)

東北大学 高度教養教育・学生支援機構 紀要第 6 号 2020

3 .分析結果

3.1 留学に対する志向 留学経験者には「また,留学したいと思うか」,留 学未経験者には「留学したいと思うか」について聞い た.「留学が決まっている」「思う」と回答したグルー プを積極層,「迷っている」「わからない」と回答した グループを浮動層,「思わない」と回答したグループ を消極層と留学志向の3層に分類した.留学経験者は 積極層の割合(67.4%)が多く,消極層の割合(5.8%) は非常に少なかった(表 2 ).一方,留学未経験者は 浮動層の割合(39.1%)が最も多く,残りは積極層(32.4%) と消極層(28.5%)で大体二分していた. 学年別では, 1 年生と 2 年生で浮動層の割合に大き な違いはなかった( 1 年生:38.8%,2 年生:36.3%)が, 1 年生は 2 年生と比較して積極層の割合が多く( 1 年 生:38.0%, 2 年生:34.2%), 2 年生は 1 年生と比較 して消極層の割合が多かった( 1 年生:23.2%,2 年生: 29.5%)(表 3 ). 性別では,女性と男性で消極層の割合に大きな違い はなかった(女性:24.4%,男性:26. 4%)が,女 性は男性と比較して積極層の割合が多く(女性: 43.1%,男性:33.8%),男性は浮動層の割合(39.8%) が多かった(表 3 ). これらの結果から,留学経験者と留学未経験者では, 留学志向に大きな相違があり,留学経験者は留学を肯 定的に捉える傾向が見られ,過去の留学経験が次の留 学への大きな動機付けとなっている可能性が伺える. 学年別では, 2 年生に比較して 1 年生のほうが,留学 に積極的な傾向が見られ, 1 年次が留学に対して最も 積極的な時期であると考えられる.性別では,女子学 生は留学に対して積極的な学生が多く,男子学生は留 学に迷いがある学生が多いことが伺える. 3.2 留学の理由 「留学したいと思う」と回答した1,035人に留学した い理由15項目から,最も当てはまる理由を 3 つ選んで もらった.全回答数3,105の 1 割以上を占めた理由は 4 項目で,上位から 1 )語学力向上のため(27.2%), 2 )コミュニケーション力向上のため(15.0%), 3 ) 異文化交流・異文化理解をしたいから(13.7%), 8 ) 外国生活によって視野を広げたいから(10.3%)であっ た(表 4 ).留学の理由を留学経験者と留学未経験者, 文系と理系で比較したが,その傾向に相違はなかった. これらの結果から,学部 1 ・ 2 年生が留学に期待し ているのは,専門分野での学術的な学び以上に,グロー バル化が進む社会で活躍するために必要なコンピテン シー(外国語運用能力,コミュニケーション力,価値 観の多様化等)の向上及び習得であることが推察され る.特に 1 )語学力の向上は,実に回答者の82%(1,035 人中844人)が選んでいる.本調査において短期留学( 1 カ月程度)で習得したい外国語の種類について聞いて いるが,回答者の89%が英語を選んでおり,本学の多 くの学生が英語の重要性を認識し,留学で英語運用能 力を向上したいと考えていることが推察される. 表 2 .留学に対する志向:留学経験別 東北大学 高度教養教育・学生支援機構 紀要第 6 号 2020 3

2.

分析結果 2.1 留学に対する志向 留学経験者には「また,留学したいと思うか」,留学 未経験者には「留学したいと思うか」について聞いた. 「留学が決まっている」「思う」と回答したグループを 積極層,「迷っている」「わからない」と回答したグル ープを浮動層,「思わない」と回答したグループを消極 層と留学志向の3 層に分類した.留学経験者は積極層 の割合(67.4%)が多く,消極層の割合(5.8%)は非 常に少なかった(表2).一方,留学未経験者は浮動層 の割合(39.1%)が最も多く,残りは積極層(32.4%) と消極層(28.5%)で大体二分していた. 表2.留学に対する志向:留学経験別 学年別では,1年生と2 年生で,浮動層の割合に大 きな違いはなかった(1 年生:38.8%,2 年生:36.3%) が,1 年生は 2 年生と比較して積極層の割合が多く(1 年生:38.0 %,2 年生:34.2%),2 年生は 1 年生と比 較して消極層の割合が多かった(1 年生:23.2%,2 年 生:29.5%)(表 3). 性別では,女性と男性で,消極層の割合に大きな違 いはなかった(女性:24.4%,男性:26.4%)が、女 性は男性と比較して積極層の割合が多く(女性:43.1%, 男性:33.8%),男性は浮動層の割合(39.8%)が多か った. これらの結果から,留学経験者と留学未経験者では 留学志向に大きな相違があり,留学経験者は,留学を 肯定的に捉える傾向が見られ,過去の留学経験が次の 留学への大きな動機付けとなっている可能性が伺える. 学年別では,2 年生に比較して 1 年生のほうが,留学 に積極的な傾向が見られ,1 年次が留学に対して最も 積極的な時期であると考えられる.性別では,女子学 生は留学に対して積極的な学生が多く,男子学生は留 学に迷いがある学生が多いことが伺える. 表3.留学に対する志向:学年別・性別

2.2

留学の理由 「留学したいと思う」と回答した1,035 人に留学し たい理由15 項目から,最も当てはまる理由を 3 つ選 んでもらった.全回答数3,105 の 1 割以上を占めた理 由は4 項目で,上位から 1)語学力向上のため(27.2%), 2)コミュニケーション力向上のため(15.0%),3)異 文化交流・異文化理解をしたいから(13.7%),8)外国 生活によって視野を広げたいから(10.3%)であった (表4).留学の理由を留学経験者と留学未経験者,文 系と理系で比較したが,その傾向に相違はなかった. これらの結果から,学部 1・2 年生が留学に期待し ているのは,専門分野での学術的な学び以上に,グロ ーバル化が進む社会で活躍するために必要なコンピテ ンシー(外国語運用能力,コミュニケーション力,価 値観の多様化等)の向上及び習得であることが推察さ れる.特に 1)語学力の向上は,実に回答者の 82% (1,035 人中 844 人)が選んでいる.本調査において 短期留学(1 カ月程度)で習得したい外国語の種類に ついて聞いているが,回答者の89%が英語を選んでお り,本学の多くの学生が英語の重要性を認識し,留学 で英語運用能力を向上したいと考えていることが推測 できる. 経験者 未経験者 度数 2 12 14 留学経験の % 0.6% 0.5% 0.5% 度数 219 816 1,035 留学経験 の % 66.8% 31.9% 35.9% 度数 58 604 662 留学経験 の % 17.7% 23.6% 22.9% 度数 30 398 428 留学経験の % 9.1% 15.6% 14.8% 度数 19 729 748 留学経験 の % 5.8% 28.5% 25.9% 度数 328 2,559 2,887 留学経験 の % 100.0% 100.0% 100.0% わからない 思わない 留学が決まっている 思う 留学経験 合計 浮 動 層 消 極 層 合計 留学希望の選択肢 分 類 迷っている 積 極 層 合計 1年⽣ 2年⽣ 合計 ⼥性 男性 その他 未回答 度数 1,049 625 424 1,049 349 698 0 2 学年/性別の % 36.3% 38.0% 34.2% 36.3% 43.1% 33.8% 0.0% 20.0% 度数 1,090 639 451 1,090 263 822 1 4 学年/性別の % 37.8% 38.8% 36.3% 37.8% 32.5% 39.8% 50.0% 40.0% 度数 748 382 366 748 197 546 1 4 学年/性別の % 25.9% 23.2% 29.5% 25.9% 24.4% 26.4% 50.0% 40.0% 度数 2,887 1,646 1,241 2,887 809 2,066 2 10 学年/性別の % 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 留学意識グループ 学年 性別 積極層 浮動層 消極層 合計 表 3 .留学に対する志向:学年別・性別 3

2.

分析結果 2.1 留学に対する志向 留学経験者には「また,留学したいと思うか」,留学 未経験者には「留学したいと思うか」について聞いた. 「留学が決まっている」「思う」と回答したグループを 積極層,「迷っている」「わからない」と回答したグル ープを浮動層,「思わない」と回答したグループを消極 層と留学志向の3 層に分類した.留学経験者は積極層 の割合(67.4%)が多く,消極層の割合(5.8%)は非 常に少なかった(表2).一方,留学未経験者は浮動層 の割合(39.1%)が最も多く,残りは積極層(32.4%) と消極層(28.5%)で大体二分していた. 表2.留学に対する志向:留学経験別 学年別では,1年生と2 年生で,浮動層の割合に大 きな違いはなかった(1 年生:38.8%,2 年生:36.3%) が,1 年生は 2 年生と比較して積極層の割合が多く(1 年生:38.0 %,2 年生:34.2%),2 年生は 1 年生と比 較して消極層の割合が多かった(1 年生:23.2%,2 年 生:29.5%)(表 3). 性別では,女性と男性で,消極層の割合に大きな違 いはなかった(女性:24.4%,男性:26.4%)が、女 性は男性と比較して積極層の割合が多く(女性:43.1%, 男性:33.8%),男性は浮動層の割合(39.8%)が多か った. これらの結果から,留学経験者と留学未経験者では 留学志向に大きな相違があり,留学経験者は,留学を 肯定的に捉える傾向が見られ,過去の留学経験が次の 留学への大きな動機付けとなっている可能性が伺える. 学年別では,2 年生に比較して 1 年生のほうが,留学 に積極的な傾向が見られ,1 年次が留学に対して最も 積極的な時期であると考えられる.性別では,女子学 生は留学に対して積極的な学生が多く,男子学生は留 学に迷いがある学生が多いことが伺える. 表3.留学に対する志向:学年別・性別

2.2

留学の理由 「留学したいと思う」と回答した1,035 人に留学し たい理由15 項目から,最も当てはまる理由を 3 つ選 んでもらった.全回答数3,105 の 1 割以上を占めた理 由は4 項目で,上位から 1)語学力向上のため(27.2%), 2)コミュニケーション力向上のため(15.0%),3)異 文化交流・異文化理解をしたいから(13.7%),8)外国 生活によって視野を広げたいから(10.3%)であった (表4).留学の理由を留学経験者と留学未経験者,文 系と理系で比較したが,その傾向に相違はなかった. これらの結果から,学部 1・2 年生が留学に期待し ているのは,専門分野での学術的な学び以上に,グロ ーバル化が進む社会で活躍するために必要なコンピテ ンシー(外国語運用能力,コミュニケーション力,価 値観の多様化等)の向上及び習得であることが推察さ れる.特に 1)語学力の向上は,実に回答者の 82% (1,035 人中 844 人)が選んでいる.本調査において 短期留学(1 カ月程度)で習得したい外国語の種類に ついて聞いているが,回答者の89%が英語を選んでお り,本学の多くの学生が英語の重要性を認識し,留学 で英語運用能力を向上したいと考えていることが推測 できる. 経験者 未経験者 度数 2 12 14 留学経験の % 0.6% 0.5% 0.5% 度数 219 816 1,035 留学経験 の % 66.8% 31.9% 35.9% 度数 58 604 662 留学経験 の % 17.7% 23.6% 22.9% 度数 30 398 428 留学経験の % 9.1% 15.6% 14.8% 度数 19 729 748 留学経験 の % 5.8% 28.5% 25.9% 度数 328 2,559 2,887 留学経験 の % 100.0% 100.0% 100.0% わからない 思わない 留学が決まっている 思う 留学経験 合計 浮 動 層 消 極 層 合計 留学希望の選択肢 分 類 迷っている 積 極 層 合計 1年⽣ 2年⽣ 合計 ⼥性 男性 その他 未回答 度数 1,049 625 424 1,049 349 698 0 2 学年/性別の % 36.3% 38.0% 34.2% 36.3% 43.1% 33.8% 0.0% 20.0% 度数 1,090 639 451 1,090 263 822 1 4 学年/性別の % 37.8% 38.8% 36.3% 37.8% 32.5% 39.8% 50.0% 40.0% 度数 748 382 366 748 197 546 1 4 学年/性別の % 25.9% 23.2% 29.5% 25.9% 24.4% 26.4% 50.0% 40.0% 度数 2,887 1,646 1,241 2,887 809 2,066 2 10 学年/性別の % 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 留学意識グループ 学年 性別 積極層 浮動層 消極層 合計

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渡部 由紀・日本人学生の留学志向と動機に関する一考察 3.3  留学のメリット 留学のメリットに関する10項目について,その有用 性について,「役に立つ」( 4 点),「ある程度役に立つ」 ( 3 点),「あまり役に立たない」( 2 点),「役に立たな い」( 1 点)の 4 件法で回答を求めた.留学志向 3 層(積 極層・浮動層・消極層)ごとに,10項目の有用性の平 均値と標準偏差を算出し,学生が留学が役に立つと認 識している知識・能力・姿勢・行動等について分析し た(表 5 ). 留学のメリットに関する10項目のうち, 8 項目 1 ) 外国語能力の向上, 2 )異文化交流・異文化理解の深 化, 3 )コミュニケーション力の向上, 4 )国際的な 視野を持つこと, 6 )自発的な行動力の向上, 8 )進 学も含めた将来の人生設計, 9 )就職,10)友人・知 人関係などの人的ネットワークの形成の平均値が,留 学志向 3 層全てにおいて3.0以上であり,これらの知 識・能力・姿勢・行動等の向上や習得に留学が有用だ と認識されていた(表 5 ). これら 8 項目のうち,上位 4 項目は留学志向の 3 層 間で共通しており, 3 )異文化交流・異文化理解の深 化, 1 )外国語能力の向上, 2 )コミュニケーション 力の向上, 4 )国際的な視野を持つことで(表 5 ), いずれも文化背景の異なる人とのコミュニケーション に必要なコンピテンシーであった.平均値は積極層と 浮動層ではこの順番で高く,消極層において 1 位と 2 位の順位が入れ替わった(表 5 ). 次に平均値が高かったのは,10)友人・知人関係な どの人的ネットワークの形成, 6 )自発的な行動力の 向上で(表 5 ),いずれの項目も「主体性」「働きかけ 力」といった人生100年時代の社会人基礎力の前に踏 み出す力(アクション)に言及している(経済産業省 産業人材政策室,2008). 次に平均値が高かったのは, 8 )進学も含めた将来 の人生設計, 9 )就職で,留学志向 3 層によって,順 位が入れ替わる(表 5 ).積極層と浮動層では, 8 ) 進学も含めた将来の人生設計の平均値の方が高く,消 極層では, 9 )就職の平均値の方が高かった.これら の項目は,いずれも留学とキャリア形成の関連性に言 及した指標と言える. 残った 2 項目のうち, 7 )専門の知識・技術の習得 や今後の研究活動は,浮動層及び消極層では平均値が 3.0以下であったが,積極層においては3.0以上であっ 表 4 .留学したい理由:学年別・性別 著者名・タイトル 4 表4.留学したい理由:学年別・性別 2.3 留学のメリット 留学のメリットに関する10 項目について,その有 用性について,「役に立つ」(4 点),「ある程度役に立 つ」(3 点),「あまり役に立たない」(2 点),「役に立た ない」(1 点)の 4 件法で回答を求めた.留学志向 3 層 (積極層・浮動層・消極層)ごとに,10 項目の有用性 の平均値と標準偏差を算出し,学生が留学が役に立つ と認識している知識・能力・姿勢・行動等について分 析した(表5). 留学のメリットに関する10 項目のうち,8 項目 1) 外国語能力の向上,2)異文化交流・異文化理解の深化, 3)コミュニケーション力の向上,4)国際的な視野を 持つこと,6)自発的な行動力の向上,8)進学も含め た将来の人生設計,9)就職,10)友人・知人関係など の人的ネットワークの形成の平均値は,留学志向3 層 全てにおいて3.0 以上であり,これらの知識・能力・ 姿勢・行動等の向上や習得に留学が有用だと認識され ていた(表5). これら8 項目のうち,上位 4 項目は留学志向の 3 層 間で共通しており,1)外国語能力の向上,2)異文化 交流・異文化理解の深化,3)コミュニケーション力の 向上,4)国際的な視野を持つことで(表 5),いずれ も文化背景の異なる人とのコミュニケーションに必要 なコンピテンシーであった.平均値は積極層と消極層 ではこの順番で高く,浮動層において1 位と 2 位の順 位が入れ替わった(表5). 次に平均値が高かったのは,10)友人・知人関係な どの人的ネットワークの形成,6)自発的な行動力の向 上で,留学志向3 層によって順位は入れ替わるが(表 5),いずれの項目も「主体性」「働きかけ力」といった 人生100 年時代の社会人基礎力の前に踏み出す力(ア クション)に言及している(経済産業省産業人材政策 室,2008). 次に平均値が高かったのは,8)進学も含めた将来の 人生設計,9)就職で,留学志向 3 層によって,順位が 入れ替わる(表5).積極層と浮動層では,8)進学も 含めた将来の人生設計の平均値の方が高く,消極層で は,9)就職の平均値の方が高かった.これらの項目は, いずれも留学とキャリア形成の関連性に言及した指標 と言える. 回答数 % 回答数 % 回答数 % 回答数 % 回答数 % 1) 語学⼒向上のため 844 27.2% 176 26.8% 668 27.3% 262 28.2% 582 26.8% 2) コミュニケーション⼒向上のため 465 15.0% 88 13.4% 377 15.4% 130 14.0% 335 15.4% 3) 異⽂化交流・異⽂化理解をしたいから 425 13.7% 84 12.8% 341 13.9% 139 14.9% 286 13.1% 4) 専⾨分野の知識・技術の習得や研究のため 177 5.7% 53 8.1% 124 5.1% 37 4.0% 140 6.4% 5) 進学も含めた将来のキャリアのため 243 7.8% 53 8.1% 190 7.8% 81 8.7% 162 7.4% 6) 就職に有利だから 83 2.7% 8 1.2% 75 3.1% 37 4.0% 46 2.1% 7) 海外での⼈脈を作りたいから 94 3.0% 26 4.0% 68 2.8% 22 2.4% 72 3.3% 8) 外国⽣活によって視野を広げたいから 321 10.3% 67 10.2% 254 10.4% 88 9.5% 233 10.7% 9) ⽇本での⽣活に満⾜していないから 45 1.4% 11 1.7% 34 1.4% 16 1.7% 29 1.3% 10) ⾃分を鍛えたいから 203 6.5% 43 6.5% 160 6.5% 57 6.1% 146 6.7% 11) ⾃発的な⾏動⼒を⾝に着けたいから 120 3.9% 25 3.8% 95 3.9% 35 3.8% 85 3.9% 12) ⼤学の教育課程に留学が組み込まれているから 7 0.2% 1 0.2% 6 0.2% 1 0.1% 6 0.3% 13) とにかく留学したいから 60 1.9% 17 2.6% 43 1.8% 22 2.4% 38 1.7% 14) 特になし 14 0.5% 4 0.6% 10 0.4% 1 0.1% 13 0.6% 15) その他 4 0.1% 1 0.2% 3 0.1% 2 0.2% 2 0.1% 合計 3,105 100.0% 657 100.0% 2,448 100.0% 930 100.0% 2,175 100.0% ⽂系 理系 合計 留学したい理由 留学経験者 留学未経験者

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た(表 5 ).しかし,積極層の標準偏差値が大きいため, この項目に対する留学の有用性について回答者間でバ ラツキがあることがわかる.最後に 5 )リーダーシッ プの向上」は,留学志向 3 層すべてにおいて,その平 均値が3.0未満であった(表 5 ). 次に留学志向 3 層間において,留学のメリットに関 する10項目の有用性の認識に相違があるかを検証した (表 5 ).Krusukal-Wallis検定の結果,10項目すべて において統計的に有意差が認められた(外国語運用能 力の向上 p < 0.001,コミュニケーション力の向上 p  < 0.001,異文化交流・異文化理解の深化 p < 0.001, 国際的な視野を持つこと p < 0.001,リーダーシップ の向上 p < 0.001,自発的な行動力の向上 p < 0.001, 専門分野の知識・技術の習得や今後の研究活動 p <  0.001,進学も含めた将来の人生設計 p < 0.001,就職  p < 0.001,友人・知人関係の人的ネットワークの形 成 p < 0.001).次にDann-Bonferroni法による多重比 較を行った結果, 1 )外国語能力の向上と 9 )就職の 2 項目を除く 8 項目で,留学志向 3 層間とも有意差が 認められ,積極層は浮動層及び消極層より,浮動層は 消極層より,留学が役に立つと認識していた. 1 )外 国語能力の向上と 9 )就職については,積極層と浮動 層及び消極層の間で有意差が認められ,積極層は浮動 層及び消極層より,留学が役に立つと認識していた. この結果から,留学志向がより強いグループのほう が,留学のメリットに関する10項目に関して,留学の 有用性を高く認識する傾向が明らかになった. 表 5 .留学志向群における留学のメリットの平均値とその比較 東北大学 高度教養教育・学生支援機構 紀要第 6 号 2020 残った2 項目のうち,7)専門の知識・技術の習得や 今後の研究活動は,浮動層及び消極層では平均値が 3.0 以下であったが,積極層においては 3.0 以上であ った(表5).しかし,積極層の標準偏差値が大きいた め,この項目に対する留学の有用性について回答者間 でバラツキがあることがわかる.最後に 5)リーダー シップの向上」は,留学志向3 層すべてにおいて,そ の平均値が3.0 未満であった(表 5). 次に留学志向3 層間において,留学のメリットに関 する 10 項目の有用性の認識に相違があるかを検証し た(表5).Krusukal-Wallis 検定の結果,10 項目すべ てにおいて統計的に有意差が認められた(外国語運用 能力の向上 p < 0.001,コミュニケーション力の向上 p < 0.001,異文化交流・異文化理解の深化 p < 0.001, 国際的な視野を持つこと p < 0.001,リーダーシップ の向上 p < 0.001,自発的な行動力の向上 p < 0.001, 専門分野の知識・技術の習得や今後の研究活動 p < 0.001,進学も含めた将来の人生設計 p < 0.001,就職 p < 0.001,友人・知人関係の人的ネットワークの形成 p < 0.001).次に Dann-Bonferroni 法による多重比較 を行った結果,1)外国語能力の向上と 9)就職の 2 項 目を除く8 項目で,留学志向 3 層間とも有意差が認め られ,積極層は浮動層及び消極層より,浮動層は消極 層より,留学が役に立つと認識していた.1)外国語能 力の向上と9)就職については,積極層と浮動層及び 消極層の間で有意差が認められ,積極層は浮動層及び 消極層より,留学が役に立つと認識していた. この結果から,留学志向がより強いグループのほう が,留学のメリットに関する 10 項目に関して,留学 の有用性を高く認識する傾向が明らかになった. 表4.留学志向群における留学のメリットの平均値とその比較 P < 0.001*** 度数 (標準偏差)平均値 度数 (標準偏差)平均値 度数 (標準偏差)平均値 3.80 3.69 3.65 (0.452) (0.522) (0.605) 3.74 3.64 3.50 (0.500) (0.569) (0.693) 3.82 3.72 3.62 (0.422) (0.487) (0.600) 3.69 3.55 3.42 (0.551) (0.615) (0.718) 2.99 2.82 2.61 (0.793) (0.742) (0.845) 3.58 3.41 3.24 (0.615) (0.669) (0.799) 3.01 2.86 2.67 (0.801) (0.756) (0.830) 3.47 3.24 3.06 (0.679) (0.685) (0.809) 3.29 3.17 3.13 (0.747) (0.722) (0.801) 3.64 3.42 3.25 (0.561) (0.642) (0.795) p Kruskal-Wallis検定後の 多重⽐較(Dann-Bonferroni法) 設問 積極層 浮動層 消極層 1) 外国語能⼒の向上 1,042 1,086 745 浮動層 < 積極層***消極層 < 積極層*** 2) コミュニケーション⼒の向上 1,033 1,087 741 浮動層 < 積極層***消極層 < 積極層*** 消極層 < 浮動層*** 4) 国際的な視野を持つこと 1,038 1,085 745 浮動層 < 積極層***消極層 < 積極層*** 消極層 < 浮動層*** 3) 異⽂化交流・異⽂化理解の深化 1,036 1,085 740 浮動層 < 積極層***消極層 < 積極層*** 消極層 < 浮動層*** 6) ⾃発的な⾏動⼒の向上 1,035 1,085 743 浮動層 < 積極層***消極層 < 積極層*** 消極層 < 浮動層*** 5) リーダーシップの向上 1,035 1,086 744 浮動層 < 積極層***消極層 < 積極層*** 消極層 < 浮動層*** 8) 進学も含めた将来の⼈⽣設計 1,039 1,087 745 浮動層 < 積極層***消極層 < 積極層*** 消極層 < 浮動層*** 7) 専⾨分野の知識・技術の習得や今 後の研究活動 1,041 1,086 744 浮動層 < 積極層*** 消極層 < 積極層*** 消極層 < 浮動層*** 10) 友⼈・知⼈関係などの⼈的ネット ワークの形成 1,033 1,082 740 浮動層 < 積極層*** 消極層 < 積極層*** 消極層 < 浮動層*** 9) 就職 1,039 1,084 743 浮動層 < 積極層***消極層 < 積極層***

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渡部 由紀・日本人学生の留学志向と動機に関する一考察

4 .考察

本調査の結果から,本学学部 1 ・ 2 年生の留学に対 する志向と動機について,考察する.まず,留学に対 する志向については,積極層(留学が決まっている・ 留学したいと思う)が36.3%,浮動層(留学を迷って いる・留学したいかわからない)が37.3%,消極層(留 学したいと思わない)が25.9%と,消極層が最も少な く,積極層と浮動層はほぼ 2 分していることがわかっ た(表 2 ). しかし,留学志向は,性別,学年,留学経験の有無 で相違があり,女子学生(43.1%), 1 年生(38.0%), 留学経験有の学生(67.4%)に積極層が多いという傾 向が明らかになった(表 2 ・ 3 ).学年においては, 積極層の割合は 1 年生が 2 年生よりも3.8%多いに過 ぎないが,消極層の割合が 1 年生(23.2%)は 2 年生 (29.5%)よりも6.8%少なかった( 1 年生:23.2%, 2 年生:29.5%)(表 3 ). 2 年生の方が消極層の割合が 多く,積極層の割合が少ないという結果から,大学の 在籍期間が長くなり,所属意識が高まり,生活が安定 すると,留学への意欲が減少する可能性が考えられる. また,留学経験の有無においては,留学経験有の学生 (67.4%)は留学経験無の学生(32.4%)と比較して, 積極層の割合が 2 倍以上であり(表 2 ),過去の留学 経験は次の留学の大きな動機付けとなる可能性が伺え る. これらの結果から,大学生活において留学に対して 最も積極的な時期だと考えられる 1 年次に,積極層及 び浮動層の学生が必要とする留学情報を提供し,短期 留学の実現を支援することで,学部在籍中に複数の短 期留学または長期留学へとつながっていく可能性が期 待できる.これまでにも,グローバルラーニングセン ターでは,様々な留学に関するイベントを開催してき ているが,特に浮動層の学生がこうしたイベントに足 を運んでくれているかは不明である.今後は,留学を 迷っていたり,留学したいかがわからなかったりする 学生向けの留学イベントを検討していく必要がある. 次に留学の動機について,留学のメリットおよび留 学したい理由に関する分析結果から考察する.まず留 学のメリットについては,本学の学部 1 ・ 2 年生は留 学によって習得や向上が期待される知識・能力・姿勢・ 行動等の10項目において,「異文化交流・異文化理解 の深化」,「外国語能力の向上」,「コミュニケーション 力の向上」,「国際的な視野を持つこと」という 4 つの コンピテンシーの向上に関して,留学の有用性を最も 評価していた.そして,留学したい理由の上位もまた, 「語学力向上のため」,「コミュニケーション力向上の ため」「異文化交流・異文化理解をしたいから」,「外 国生活によって視野を広げたいから」であった.留学 したい理由の傾向は,留学経験者・留学未経験者,文 系・理系で共通していた. この結果から,本学学部 1・2 年生の留学の動機は, これまでの留学経験や学問分野に関係なく,グローバ ル化が進む社会で活躍するために必要なコンピテン シー(外国語運用能力,コミュニケーション力,価値 観の多様化等)の向上であることが明らかになった. さらに,留学によって習得や向上が期待される知識・ 能力・姿勢・行動等の10項目に対する留学のメリット は,留学志向 3 層(積極層・浮動層・消極層)間で統 計的な有意差が認められ,留学に積極的な層ほど留学 のメリットを高く認識していたが,留学志向の 3 層全 てで,これらのコンピテンシー10項目のうち 8 項目で その向上に留学が役に立つと認識していた. この結果から,留学に消極的な層の学生も文化背景 の異なる人とのコミュニケーションに必要なコンピテ ンシー,「主体性」「働きかけ力」といった社会人基礎 力の前に踏み出す力,また将来のキャリア形成におい て,留学の有用性を認識していることが明らかになっ た.今後の課題は,留学の有用性を認識しながらも, 留学に踏み出さない理由について明らかにすることで あり,更なる調査を進めていきたい. 謝辞 グローバルラーニングセンターにおける留学に関す る実態調査の実施にあたり,東北大学英語教科部会  令和元年度部会長 北原良夫先生(高度教養教育・学 生支援機構)をはじめ,全学教育で後期に「英語B2」 「英語C2」をご担当の先生方から多大なるご協力を頂 きましたことに,心より感謝申し上げます.

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注 1)  2018年度の入学者数は2,446人,2019年度の入学者数 は2,461人であった.薬学部及び理学部においては, 英語必修科目が 2 年次 1 学期で終了するため, 2018年 度の理学部入学者数325人及び薬学部入学者数86人を 引いた4,496人を調査対象者の合計数とした. 2)  本調査の実施が10月であったため,英語必修科目が 2 年次 1 学期で終了する理学部及び薬学部の 2 年生 には本調査を実施することができなかった. 3)  留学志向の三層分類:積極層・浮動層・消極層を提 案した近森(2006)は,留学に対する「意識」と「行 動」の回答結果を基に三層を定義しているが,本調 査においては「意識」に対する回答のみに基づいて, 三層を定義し,分類した. 参考文献 経済産業省産業人材政策室(2018)「人生100年時代の社 会 人 基 礎 力 に つ い て 」, https://www.meti.go.jp/ committee/kenkyukai/sansei/jinzairyoku/jinzaizou_ wg/pdf/007_06_00.pdf(閲覧2020/01/01). 近森高明(2006)「留学志向の三層と留学支援のありかた ―積極派・消極派・浮動層のプロフィールを手がか りに」『京都大学における国際交流の現状と可能性― 第2回アンケート調査報告書』京都大学国際交流セン ター,pp.43-56.

参照

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