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学びが成立する授業の創造―デューイの探究の理論に基づいて探究過程を創造する―

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(1)

学びが成立する授業の創造―デューイの探究の理論

に基づいて探究過程を創造する―

著者

天間 環

雑誌名

教育思想

47

ページ

17-32

発行年

2020-03-31

URL

http://hdl.handle.net/10097/00127904

(2)

学びが成立する授業の創造

―デューイの探究の理論に基づいて探究過程を創造する― 天間 環(東北大学大学院・院生)

はじめに

新学習指導要領では、「主体的学び・対話的で深い学び」が成立する授業の 追究が叫ばれ、これからの新しい時代の教育の大きな柱となっている。しか し、現状は児童・生徒の「学び」が見えてこない授業があまりにも多く存在 している。その例として、学習は、上からの指示に基づいて示されたカリキ ュラムに沿って進められ、そこでの知識が体系的に与えられ、原点に立ち戻 って問いなおすことはめったにされない1。また、「分りましたか」と教師に問 われると、間髪をいれず、オウム返しのように「分りました」と答えさせられ る児童・生徒。児童・生徒には問いなおすことが許されず、分ったことにさ れたことをもとに、次に分ったことにされるべきことへと向かわせられる授 業。さらに、「学び」は、授業での児童・生徒相互の活動から授業の中で為さ れるのであるにもかかわらず、教師からの一方的な注入で進められる授業等 を挙げることができる。 これまで、筆者は、日常の学習場面で、児童・生徒に「学び」が成立する授 業とは、如何なる授業であるかを追究してきた。とりわけ、理論研究では、 デューイの『民主主義と教育』(1916 年)、『思考の方法』(1933 年)、『論理学: 探究の理論』(1938 年)等の著作を手がかりに、「学び」が成立する授業を展 開するために、児童・生徒が主体的で、深い学びが追究できる「学習におけ る探究過程」の創造に向け研究を推進してきた。また、これまでの教育実践、 教育行政の場の教員として、学ぶ喜び、分る喜びを味わわせるための授業づ くりに取り組み、児童・生徒にとって「学び」が成立する授業のあり方とは一 体どういう授業かを明らかにするために具体的に取り組んできた。 そこで、これまでに得られた結論は、次の通りである。すなわち、問題解 決のために注意力の全てを傾け学習活動に没頭し試行錯誤を繰り返しながら 解決方法を自ら発見し、その確かさが適切であるか否かをクラスの仲間とと もに吟味し検証して行く一連の探究過程を通して学習活動が展開されて初め 1 カリキュラムは、教師によって児童学校等の実態に基づいて編成されるべきである。

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て「学び」が成立する授業と言えるということである。2 したがって、本稿は、児童・生徒一人一人にとって真に「学び」のある授業 づくりに向けて、デューイの探究論に着目し教育実践家たちが日々展開する 授業の中で実際に使える「探究過程」を創造しようとしたものである。

1 学びとは

(1)学びとは まず初めに、「学び」が成立する授業とは一体如何なる授業であるかを考察 する。 「学び」が成立する授業では、様々な知識や技能を受動的、機械的に習得 するのではなく、対象である事物や社会に能動的に働きかけて問題を構成し、 思考を展開して対象の意味を構成し世界を構成するという問題解決的思考を 伴うものである。整然と並んだ机と教卓を舞台として黒板と教科書とノート を用具とする受動的学習ではない。そこには、クラスの仲間がおり、仲間と 話し合い、解決すべき問題を理解し解決方法を探り、そして解決のために実 行し、そこから得られた結果をより良いものへとクラス全体で練り上げて行 く学習が前提される。さらに、真に「学び」がある授業は、具体的で経験的・ 実践的な認識と、抽象的で概念的・理論的な認識との二元論に陥ることなく、 まさにデューイが述べる、道具的思考による反省的思考と教室(共同体)にお けるコミュニケーションが一体となって展開して問題解決にあたる学習活動 である。また、「学び」がある授業とは、児童・生徒が、問題解決のため新た な条件や構成要素を取り扱う方法を自ら積極的に調べ、発見し、その新たな 方法の確かさを確認し、それを習得して、これまで自分が使ってきたような 事物・出来事の取り扱い方、自分が既に知っているような事物・出来事を取 り扱う仕方・方法を自ら根本的に再編成・再構成しようとする、積極的学習 の営みである3。すなわち、新たに習得する知識やわざは、自分が既に所持し ている知識やわざに、単に外部からコブや附属物のように付け加わるという ようなものではなく、自分が既に所有している無数の知識やわざの相互の結 びつき方、相互関係、体系を自ら積極的に作り変え、再編成・再構成するこ とによって、自分の知識やわざの体系の生きて働く一部分として編入され、 位置づけられる。まさにこのような、新しい知識やわざを獲得するための一 2 拙稿「学習場面においていかなる条件のもとで学びが成立するか―小学校算数第 4・6学年の事例をもとにして―」『尚絅学院大学紀要』第65 号、2013 年 3 佐伯胖、藤田秀典、佐藤学編『学びへの誘い』東京大学出版会、1995 年、67~71 頁

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連の学習が「学び」である。 以上を踏まえ、「学び」が成立する学習活動の推進のため、これまで個人主 義的に捉えられてきた学びの実践を、教室で仲間たちとのコミュニケーショ ンをもとに協働的に進められるものとしてとらえ直す必要がある。そのため、 「学び」を現実の教室において実現するには、㋐教育内容の思い切った精選 と構造化を実現する。㋑教室環境を知的で協働的な環境として変革し、グル ープ活動の機会と個人活動の機会の両者を積極的に導入する。㋒児童・生徒 一人一人が自らの思考に誇りを持ち、周囲の仲間の思考を尊重し合う雰囲気 を醸成する。そして、なによりもわたしたち教師自身が、「学び」のイメージ を豊かにし、その「学び」を発見し続ける生きた理論を追究する必要がある。 (2)「学び」が成立する授業 ―第3学年・算数単元名「まるい形を調べよう」の学習を事例に― さて、「学び」が成立する授業の創造に向けて取り組んだ具体的事例を紹介 する。 この事例は、児童らが相互の意見のやり取りをもとに、試行錯誤のうえ、 円の概念を自ら習得して行った過程を示したものである。 問題文―3年生でクラスたいこうのふうせんわりゲーム大会をすることになりまし た。ふうせんから5メートルはなれたところにならび、その場所からボールをいっせ いになげてわります。ならぶことができるところをさがしましょう。*5メートルを 5センチメートルとして考えましょう 学年活動で、風船割りゲーム大会をするという、児童にとっては最も関心 の高い、何としても解決しなければならない問題である。工夫された、場の 設定が学習の導入部分では極めて重要である。本時は、「円と球」の学習の導 入部分であり、「円」は、定点から(中心)から、当距離の点が集まってでき た形で、線は点の集合であることをクラスの仲間と協力して演じたりまた操 作活動を通して具体的に考えさせていこうとするものである。 さて、授業がどのように展開され、そして探究過程が一つのまとまりとし て終結し深い「学び」になっていったかを具体的にみて行く。 T(教師):並ぶことができる所を、どのように探したかをC1さんから説明 をしてもらいましょう。 C1(子ども1):私は、はじめに5㎝をはかり直線を引いてその上に点を並 べましたが、はじの方が5㎝にならないので困っていました。それでとな りのC 君と一緒に勉強をして、直線の上でなく風船からいつも5㎝のとこ

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ろに点を置くと、今度は並ぶ所が正しくできそうだということに気がつき ました。 図1-C1の解決 T:C1さんは、なぜ直線ではうまくいかなかったのでしょうか。 C(子どもたち):直線にしてしまうと、風船から並ぶ点までの長さが同じに なりません。 T:今日の問題の約束は、「風船から5メートル離れたところ」ということで した。それでは、次に、C2さんから、調べ方を説明してもらいましょう。 C2:私も、C1さんのように風船から5㎝の点をつけていきました。やりな がら点と点の間にも風船から5㎝の点が打てる事に気がつきました。そし て風船から5センチメートル離れていればいいのだから、並べるところは たくさんあります。 図2-C2の解決 T:C2さんの調べ方で、大事な考え方は、どんなことでしょう。 C:風船から5センチメートル離れた点は、たくさんあるということです。 T:並ぶことができる所はたくさんできそうだけど、これらの点は、どんな並 び方をしているでしょう。 C:まるい形になります。 T:すると、さっきC1さんが直線ではうまくいかないと気づいたことが分り ますね。次のC3さんは、最初から並び方はまるくなると予想して調べま した。聞いてみましょう。 C3:私は、はじめにまるい形になると考えて5㎝の点をいくつかとってから 線で結んでまるい形を作りました。書いた後、5㎝になっているかどうか を、いろいろなところで確かめてみると、線の上では、どこも5㎝になっ ていました。だから、この線の上なら、どこでも並ぶことができるという ことが分りました。

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図3-C3の解決 T:では、C3さんの図で、もう一度確かめまとめてみましょう。 風船から、同じ距離の点をたくさん打っていくと点がつながった線になり、 きちんとしたまるい形になります。このような丸い形を、円といいます。 そして、風船が置いてあったところ(点)を円の中心とよびます。 T:次の時間は、このような円の書き方を調べてみましょう。 きちんとした円をかくには、どんな工夫をしたらよいか考えておきましょ う。 授業者の反省に、「円を発見した時の児童は、発見の喜びに興奮し顔を上気 させ輝いていた。4」とあるように、探究過程がしっかり組み込まれた授業を 展開することは、「学び」が成立する授業を展開して行く上で必須である。教 科書等で示されているような、教え込み中心の授業ではなく、「学び」が成立 する授業となるような探究過程をしっかり組み込んだ問題解決型の授業を推 進していかなければならない。

2 デューイの探究の理論

(1)探究の意味するもの 児童一人一人に主体的で深い学びが身につく、「学び」が成立する授業は、 授業そのものが探究的過程に基づいて展開されたものでなくてはならないこ とは、先の事例で明らかになった。特に算数科の学習にあっては、その傾向 が一層強いという思いを抱く。この探究過程については、既にJ.デューイが 『論理学:探究の理論5』第2部:第6章「探究のパターン6」等で明らかに しており、研究者、実践家に貴重な示唆を与えている。彼は、その中で時間 とともに推移する探究の過程を、5つの局面に沿って詳細に論じている。彼 のこの探究過程論こそ、探究について考察する場合、基礎となり理論的根拠 となるものであり、最初に考察すべき重要な問題である。 そこで、先ず探究とは何かの問題をデューイの文脈に沿って明らかにする 4 伊藤説朗・埼玉県笠原小学校編著『算数科・新しい問題解決の指導【実践編】下学 年』東洋館出版社、1987 年、88~101 頁

5 J.Dewey, LOGIC :THE THEORY OF INQUIRY, The Later Works, Volume 12, 1925-1953 6 J.Dewey, LOGIC :THE THEORY OF INQUIRY, pp.105-122

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ことから始める。デューイは探究を次のように定義づける。すなわち、 「探究とは、不確定な状況を確定した状況へと、すなわち元の状況の諸要素を 統一された一全体に転換してしまうほど、状況を構成している区別や関係が確 定している状況へと、コントロールされ方向づけられた仕方で転換することで ある。7 結局、探究とは、不明瞭で漠然とした「不確定な状況(The Indeterminate Situation)」を明確で秩序づけられた、「統一された状況(the United Situation)」 へと転換することである。最初、探究が開始される以前の状態は、慣れ親し まれた行動としての習慣がスムーズに展開されている。しかしその習慣的行 動が、何らかの混乱、亀裂、紛糾、激突あるいは、新奇な状況に出くわすこ とにより、極めて不確定な状況となり、以前のようなリズミカルな動きがで きなくなってしまう。したがって、活動主体は、その原因がなんであるかを 究明して、以前のような習慣的な行動のリズムを回復しようと模索し始める。 まさに、「探究とは、習慣の更新的連続性が壊された時のリズムの回復を求め て模索する一連の≪思考と行動の統一的≫サイクル」である8 (2)探究の構造 では、探究が如何なる側面(phases)・局面(aspects)を呈しながら時間的に展 開して行くのか、その構造を明らかにする。まず、デューイは、『民主主義と 教育』第11 章「経験と思考」で、「熟慮的経験の一般的諸特徴(the general features of reflective experience)」として次の5点を指摘する。これは、「いわゆるデュ ーイの<思考の5段階>あるいは<問題解決の5段階>としてよく知られて いるものである9。この第1段階の特徴は、状況の完全な性格がまだ決定さ

れていない、不完全な状況の中に巻き込まれているという事実に基づく、困 惑(perplexity)、混乱(confusion)、疑惑(doubt)である。第2段階の特徴は、推測 的予想(a conjectural anticipation)―すなわち、与えられているいろいろな要素 についての試験的解釈(a tentative interpretation)である。第3段階の特徴は、現 在取り扱っている問題を限定し明確にするために、全ての点についての注意 深い、試験(examination)、点検(inspection)、探索(exploration)、分析である。 第4段階の特徴は、さらに広い範囲の事実と一致させるために試験的な仮説

7 ibid., p.108

8 谷口忠顕『デューイの個性教育論』成文堂、1992 年、60 頁

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をさらに正確で整合性のあるものにする試験的仮説精密化(a consequent elaboration of the tentative hypothesis)である。第5段階の特徴は、予想された 結果をもたらそうと、何かを実際に行い、それによって仮説を試すこと、す なわち仮説の検証(testing the hypothesis)である。以上の5点を指摘して段階ご とに記述している。 さらに、『思考の方法』では、「反省的思惟(Reflective Thought)」の側面とし て、次の5 点を挙げる。第1に、暗示(Suggestion)を上げる。およそ誰もがと る最も自然なことは、思考よりも無意識の行動である。混乱し、錯綜した事 態は時には積極的な行動に結びつく。しかも、その行動を継続しようとする 傾向が強く働く。この傾向が変じて、観念もしくは暗示という形態をとる。 第2は、知的整理(Intellectualization)である。混乱し、錯綜した事態は、間も なく整理され、明確に秩序づけられたものとなる。第3は、指導観念(The Guiding Idea)、すなわち仮説(Hypothesis)である。問題解決に向けて示唆され た観念のうち、適切性と有効性とが高いと判断された観念が指導観念、すな わち仮説として採用される。第4は、推理(Reasoning)である。指導観念すな わち仮説の現実性と確実性を高める側面が推理である。第5は、行動におけ る仮説の検証(Testing the Hypothesis by Action)である。「最終の反省的側面は、 具体的行動によって検証するという種類のものであって、これが推測された 観念に関して<実験的確証(experimental corroboration)>すなわち、<真なる ことの証明(verification)を与える10」。以上5つの側面(phases)・局面(aspects) を論述している。 また、『論理学:探究の理論』では、探究の過程として5つの局面について 述べている。詳細については、以下で具体的に述べる。 (3)探究過程の実際―探究過程の各局面 探究過程について考察をする場合、デューイの『論理学:探究の理論』で 展開する探究論を基礎となし理論的根拠として進めて行く。そこで、『論理 学:探究の理論』で展開する第6 章「探究のパターン」に基づき探究過程を 考察する。

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① 探究の第1局面―「探究の先行的条件:不確定な状況(The Antecedent Condition of Inquiry: The Indeterminate Situation) 」

全ての探究的思考は、問題を内包した不確実の疑問的状況から始まる。し たがって、探究の第1局面は、改めて問われ疑問視され探究されなければな らないものであると感じられる問題場面の局面である。この局面の特徴は、 「不確か(uncertain)で、未決定(unsettled)で混乱している(disturbed)ことであ る。 11」まさに、不確定な状況とは、探究主体と環境との相互作用において バランスが崩れている状況である。したがって、探究主体は、このバランス が崩れた状態を調整して「統合の回復(Restoration of integration)」を図ろうと する機能、すなわち探究をどうしても必要とする機能を働かせるのである。 さて、今ここで問題となっている不確定な状況は、単に漠然とした不確かさ ではない。今まさに、活動主体が入り込んでいるその状況をあるがままの 2 つとない状況たらしめる「独特な疑わしさ(unique doubtfulness)」である。そ れは、特殊な研究に従事することを促すだけでなく、その特別な諸手続きを コントロールする独特な性質である。しかし、ここでこのデューイの独特の 疑わしさが、探究を引き起こしそしてその後の探究の諸手順や具体的あり方 を決めることになるという考え方には若干の疑問が投げかけられる。それは、 探究の中で採られる特殊な諸手続きやコントロールに影響を及ぼすのも、こ の独特な疑わしさであるとするなら、探究者の最も主体的、主観的行動であ る探究活動は極めて客観的なものとなり、独自性がみられないものになって しまうという理由からである。しかし、われわれがここで問題にしているの は、日常普段の学習活動の中で展開する、子どもたちの学習活動であって、 探究者の独自性と創造性を求めて行う創造的研究活動とは、質的に異なる。 デューイは、まさに、この局面を探究が開始されるに際して、不可欠の条 件として位置づける。この第1局面を学習場面の「Stage1:問題意識」に位 置づける。 ② 探究の第2局面―「問題設定(Institution of a Problem)」 探究の第2局面は、漠然とした不確定な状況から一歩進んで、問題的な状 況=事柄が明白になってくる場面である。すなわち、その「状況が問題的状 況として受け取られ決定され12、探究を要求してくることを認知する局面で ある。この局面で、探究主体は、解決しなければならない真の問題がなんで

11 J.Dewey, LOGIC :THE THEORY OF INQUIRY, pp.108-111 12 ibid., pp.111-112

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あるかを明確に認識するに至る。まさに、不確かで未決定で混乱した事態は、 必然的に積極的に具体的な次の行為へと結びついていくのである。したがっ て、「問題の明確な設定は、半ば解決されたのも同然である(a problem well put is half-solved) 13。探究されるべきものとして示されている問題が、一体どん

なものであるかを明らかにしようとして、解決のための問題の式を組み立て ると探究はうまく進む。これを、学習場面の、「Stage2:問題把握」とする。

③ 探究の第3局面―「問題解決の決定(The Determination of a Problem- Solution)」 問題が明確に設定されると、それに対してある解決方法が自然に自発的に 暗示されてくる。そして、問題解決のための、一定の明確な仮説的観念が想 像上構成されるのである。さて、ここで段階を追って具体的に考察する。デ ューイは、人ごみの会場で火災報知機が鳴った時のことを例に引きながら論 を展開する。すなわち、この局面においてまず、第1 に火災が起こっている のはどこか、あるいは通路や出口はどこかなど「与えられている状況の構成 要素(constituents) 14」を探し出し明らかにする。つまり、適切な解決策を提 出するために計算され考慮されなければならない条件を明確にすることであ る15。そしてそれら諸条件は、観察されることによってそれぞれの構成要素 が持つ意味について考慮され、そしてこれらの観察された諸条件は、まとめ 上げられ、「その場合の事実(the facts of the case) 16」として構成されるのであ

る。第2 に、「可能で妥当な解決は、観察によって確実にされる事実の条件を 決定することによって、暗示される。17」この暗示は、適切な機能を果たす のかどうか、与えられた状況を打開する手段として能力を持つかどうかを検 討して初めて観念として現れる。そしてこの観念を通じて事実を明確化する ことによって観念がより一層明確となり、仮説を構成するに至る。以上のよ うにして、問題解決のための一定の明確な仮説観念が想像上構成されるので ある。 これを、学習場面の、「Stage3:問題解決の計画」とする。 13 ibid., p.112 14 ibid., p.112 15 ibid., p.113 16 ibid., p.113 17 ibid., p.113

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④ 探究の第4局面―「推論(Reasoning)」 推論とは、示唆された観念の現実性と確実性を点検・確認する操作である。 この推論を契機に状況は、行動の検証へと向かって加速を増し、状況の決着 を実現する運動へと転ずる。デューイは、この推論の局面で、直面している 状況に続いて発生すると示唆された事態についての観念、あるいは問題解決 に向けて示唆された行動の方法についての観念の現実性と確実性が検討され、 探究を通じて現実性と確実性の高い観念へと考案されてくと述べる18。すな わち、一連の諸意味を吟味する過程で、最後には、初めに暗示された観念や 意味よりも問題状況の解決に一層適切なものが把握されることになる。 これを、デューイは、科学の推論と結び付けて具体的に考察する。科学に おいては、ひとたび暗示された仮説は他の概念構造と関連付けて展開され、 ついに実験を促し方向づける一つの形式に到達する。そしてこの実験は、そ の仮説を認めるべきか拒否すべきかを決める上に最も有効な条件をはっきり させる。また、さらに実験は、仮説が適用可能であるためには、すなわち仮 説が「その場合の事実」を説明し組み換えるのに適したものであるためには、 その仮説にどのような修正を加えればよいかを指示する19 これを、学習場面の、「Stage4:問題解決の実行」とする。 ⑤ 探 究 の 第 5 局 面 ― 「 事 実 ― 意 味 の 操 作 的 性 格 (The Operational Character of Facts-Meanings)(行動による仮説の検証)」 事実とは、探究の目的の実現という観点から選択され、特定の意味を賦与 された与件である。「事実が操作的であるとは、どういう意味か。消極的には、 事実はそれだけでは自足し完結しない(not self-sufficient and complete)という 意味である。20」「事実」は、帰納的であるゆえに、必然的に操作的になる。 「事実」の機能は、証拠として役立つことである。「事実」が証拠としての性 質を持つかどうかは、「事実」が生み、「事実」が支えとなった観念の命じる 操作に応じて、筋道だった全体を形成することができるかどうかで判断され る21。また、「事実と意味の操作的性格」とは、観察や実験を通じて状況にお ける諸要素が相互に関連付けられ、状況の有する特質が詳細に観念との対応 18 藤井千春『ジョン・デューイの経験主義哲学における思考論』早稲田大学出版部、 2010 年、253 頁

19 J.Dewey, LOGIC :THE THEORY OF INQUIRY, pp.115-116 20 ibid., pp.116-117

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において明確化されていく過程である22

さて、以上を踏まえて、より具体的に考察する。すなわち、この局面は、 「行動による仮説の検証(Testing the Hypothesis by Action)」の段階である。最 終的な探究過程の局面では、具体的な行為によって、解決方法として選ばれ た仮説、観念が検証されることになる。推論によって導かれた最終的解決の 観念も、未だ仮説的条件的である。したがって、仮説は実験され検証されな ければならない。推論された最終的観念ないし仮説の妥当性は、実験されな ければ分らない。実験的行為が予想した通り成功すれば「実験的確証 (experimental corroboration)」、また「真なることの証明(verification)」が得られ ることになる23。しかし、失敗すれば、仮説の修正が必要になる。 これを、学習場面の、「Stage5:解決の検討・練り上げ」とする。

4.探究過程の創造―具体的場面に即して

―小学校算数・第2学年 単元名―かけざん―を例にして

児童にとって、「学び」が成立する授業の追究は、一人一人の児童が自分の 力で学習問題に取り組み、全力で解決しようとする学習の過程で問題解決能 力を身に付けて行くことにある。そのためには、学習そのものが、一連の問 題解決のまとまりとして、探究的構造を持ったものでなくてはならない。そ うすることにより、探究活動が、スパイラル状の円環運動(図5)として繰 り返され、その結果児童一人一人に深い学びが身に付く。そこで、次に、前 述の『論理学:探究の理論』で展開した第6 章「探究のパターン」に基づき、 算数科指導場面―小学校算数・第2学年単元名かけざん」―を例に実際に使 える探究過程を創造する。この事例は、筆者がかつて、在職し共同研究に携 わった笠原小学校での実践を基にした実践研究である24 22 藤井千春、前掲『ジョン・デューイの経験主義哲学における思考論』、255 頁 23 J.Dewey, HOW WE THINK, p.205

24 伊藤説朗・埼玉県笠原小学校編著『算数科・新しい問題解決の指導【実践編】下学

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(1)探究過程の第1局面=Stage1:問題意識―デューイの「探究の先 行的条件:不確定な状況」から もんだい文― ■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■ つくえは ぜんぶで いくつあるでしょう。 ■■■■■■■■■ いろいろ くふうして 計算して ■■■■■ みましょう ■■■■■ ■■■■■ ■■■■■ 図4-問題文 保護者会で、大勢のお客さん(お父さん、お母さん方)が来ているという、 児童にとってはかなり身近で、また自分の親に格好良いところを見せたい問 題場面である。なんとかして、すばやく数えたい。自分の親を喜ばせたい。 しかし、児童はかけざん九九を勉強したばかりで、せいぜいのところ、多く の児童にとっては九九を唱えるのがやっとの状態である。それでも、工夫し て求めなければならない。一個一個数えたら工夫したことにならない。この ような場面は、児童にとって日常生活の中で経験している場合が多い。さて、 どうしたらよいであろうか。一時落ち着かない、そして混乱した状況が児童 の意識に生じる。このような混沌とした状況が提示されて初めて、連続的に 探究活動へと繋がって行く。それゆえ探究活動の第1局面に、探究の先行的 条件として不確定な状況が位置づけられる。 (2)探究過程の第2局面=Stage2:問題把握―デューイの「問題設定」 から この局面では、まず、机の塊をいくつかに分割し、かけ算をしてさらにた し算をすれば、簡単にしかも工夫して求めたことになる。まさにこれが本時 の解決すべき真の問題であると児童が問題場面を読み取り、解決すべき中心 となる事項を捉えて行く場面である。そこで間もなく、児童は、解決しなけ ればならない真の問題がなんであるかを明確に認識するに至る。したがって、 「問題の明確な設定は、半ば解決されたも同然である(a problem well put is half-solved)」

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本時のこの問題は、4年生になって学習する、正方形、長方形の求積学習 の伏線を成すものであり、是非とも意識の中にしっかり留めておいてもらい たい問題である。 この局面での本時の展開は次の通りである。 T:今日は、たくさんのお客様が来ていますね。そこで、集会室で話し合いを するために机をこのように並べました。(問題の図を提示) 机は、ぜんぶでいくつあるでしょうか。 T:今日の勉強で大切なことはなんですか。 C:工夫して計算することです。 C:計算の仕方をいろいろと考えてみることだと思います。 T:そうです。机の数を求めるのに、どのように考えたらよいかです。できる だけ、手際よく計算できるような工夫を考えて行きましょう。 (3)探究過程の第3局面=Stage3:問題解決の計画―デューイの「問 題解決の決定」から さて、問題が明確に設定されると、それに対してある解決方法が自然に自 発的に暗示されてくる。そして、問題解決のための、一定の明確な仮説的観 念が想像上構成される。すなわちこの局面は、どのように工夫して問題を解 けばよいのか、問題解決のための計画を立てる場面である。 計画例として、①九九の構成で用いたアレイ図を手がかりに求めようとす る。②机の並び方を分けて、単位量に着目してかけ算とたし算の式で求めよ うとする。その中でも、㋐左右に分けて計算する、㋑上下に分けて計算する、 の二つの考え方で求めようと計画を立てる。さらに、③机を移動して並び方 を変えて求めようとする。これには、㋐8の段のかけ算で表わす方法と、㋑ 4の段のかけ算で表わす方法がある。さらに、④机が無い部分に着目して求 めようとする(量の保存性)児童もいる。これは、物の形を変形したり、ま た分割して位置を動かしてもその物の量の大きさは変わらないという、量の 保存性に着目した解決のアイデアである。 (4)探究過程の第4局面=Stage4:問題解決の実行―デューイの「推 論」から 推論とは、示唆された観念の現実性と確実性を点検・確認する操作である。 この推論を契機に状況は、行動の検証へと向かって加速を増し、状況の決着 を実現する運動へと転ずる。この推論の局面で、直面している状況に続いて 発生すると示唆された行動の方法についての観念の現実性と確実性が検討さ れ、探究を通じて現実性と確実性の高い観念へと考案されて行く。そして、

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最終的に選ばれた観念ないし仮説は、実行に移されなければならない。 さて、実践場面に転ずる。この局面では、自分の立てた計画に基づいて、 前述の①から④のアイデアに基づき数学的に処理して行く。

(5)探究活動の第5局面=Stage5:解決の検討・練り上げーデューイ

の「事実―意味の操作的性格(行動による仮説の検証)」から

この局面は、「行動による仮説の検証(Testing the Hypothesis by Action)」の段 階である。最終的な探究過程の局面では、具体的な行動によって、解決方法 として選ばれた仮説、観念が検証されることになる。推論によって導かれた 最終的解決の観念も、未だ仮説的条件である。 実践場面では、児童一人一人が問題解決のために自ら立てた計画に基づき、 解決してきたことを学級集団でお互いの解決の仕方を検討し合いよりよいも のへと練り上げて行くなかで、自分の解決の仕方を振り返る場面である。独 りよがりの考えに陥ることなく、友達の考えの良さを認め、筋道立てて、共 により善い解決の過程を作りあげて行くいわば集団解決の場である。 この局面での展開は次の通りである。代表例、3例を取り上げ授業を進め た。 T:いろいろなやり方で計算できたようですね。これから3人の友達に説明し てもらうので、どんな工夫をしているか、自分の考えと比べながら聞きま しょう。 C1:机の並び方を左と右に分けて考えると、8の段と4の段のかけ算の計算 でできます。 C:C1さんと同じように分けて考えましたが、もとにする大きさを横に見る と、5の段と4の段でもできます。 C:C1さんと同じように分ける考えで、上と下に区切っても計算できます。 A:分ける他の考えも聞いてみましょう。 C2:僕は右上の8つの机を下に移すと、きちんと並んだ形になることに気が つきました。だから机は、縦8列、横7列に並んでいるので「8×7=5 6」と8の段の九九を1回使うだけで計算できます。 C3:私は「もしも机があったら」と考えて、机の無いところもあるとみて、 C1さんやC2さんと同じように8の段で計算します。①もしも、机が全 部きちんとした形に並んでいると8×9=72、②机がないところを引く と72―16=56になります。 T:3人のやり方で同じ考えはどんなところですか。」 C:分けたり移したりして、かけ算の式で表わせるようにしてあるところです。 C:机がないところもあると考えるとおはじき表(アレイ図)のようにきちん とした形になり、かけ算で計算できます。

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C:どれも、もとにする大きさを「8」にして8の段の九九を使っています。 C:3人が説明した図で気が付いたことがあります。C1さんが分けた右側の 部分は、「4×4=16」、C2さんが移した部分を見ると「8×2=16」 で、どちらも同じ大きさになる。だから、分けても移しても「8×7」の 式がもとになっていると思う。 C:C2さんのやり方も、やはり「8×7」の式になります。 さて、以上のように探究過程に基いた授業展開の締めくくりとして、授業 は、①かけ算は、どんな場合でも「もとにする大きさのいくつ分」を考える とよい、という基本的な数学的な考え方で終結している。さらに、②「わけ る」「移す」「もしも~と考えてみる」等のような場面を変えると手際のよい 計算ができる、という量の保存性と加法性のアイデアに着目しながら発展的 に学習が展開されている。

おわりに

これまで、「学び」が成立する授業の前提となる、探究過程の創造のため、 デューイの思考の諸側面をいわゆる問題解決の5 段階としてとらえ、学習場 面に積極的に取り入れようとして考察してきた。しかし、これについては十 分考慮がなされなければならない。なぜなら、「デューイが解決されるべきで あると考えるのは不確定な状況であり、単なる問題ではないからである。問 題は解決されれば消滅してしまうが、探究の過程ではそれによって確定され た状況が再度出現するのである。25」したがって、このデューイの探究の理 論の学習活動への導入は、児童・生徒の学習が探究的なものになり、学びが 成立する授業となるようにするために、『論理学:探究の理論』で展開される 探究論からのみでなく他の著作に参照しつつこれを補いながら探究過程を創 造していかなくてはならない。特に、『論理学:探究の理論』では、各過程で 展開される具体的中身が十分説明されているとは言い難く、この傾向は第 2 「問題設定の局面」で著しい。また、第 5「事実―意味の操作的性格」の局 面は、藤井千春も指摘するように、探究過程における「段階」と看做すこと に異論もある26。文中の論述は、『思考の方法』に参照してこれを補い、筆者 25 早川操『デューイの探究教育哲学』名古屋大学出版会、1994 年、104 頁 26 藤井千春、前掲『ジョン・デューイの経験主義哲学における思考論』253 頁 藤井は、探究の第4局面「推論」は、示唆された観念を現実的で確実性の高いも のに考案する側からの、そして第5局面「事実―意味の操作的性格」は状況の有す る特質を明確化する側からの、説明であるとする。そして、これらは交互的に相関 しつつ、同時進行的に、表裏一体となって、いわば一元的、連続的に進められる。

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が構成したものである。いずれにしても、新しい教育、すなわち主体的・対 話的で深い「学び」を目指した質の高い授業を創り出すためには、探究過程 を学習活動の中心に据えた学習活動の展開が必須であり、このために理論的 支えが必要であるので、今後デューイの理論に依拠した研究を一層推進して いきたい。 また、この学習過程を5 段階とし、教師による指導のあり方として各段階 を固定し、段階を踏むという形式に重点を置いた学習指導に陥ってはならな い。あくまでも、児童・生徒の自主的、主体的活動によって探究活動がスパ イラル状の円環運動(図5)として繰り返され、学びが成立する授業の創造に 向けた探究的学習にしなければならない。 図5―探究過程のメカニズム したがって、探究の第4局面「推論」と第5局面「事実―意味の操作的性格」は、 探究の過程における「段階」とは言えないと結論付ける。

参照

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