848 人 工 知 能 34 巻 6 号(2019 年 11 月) 「2019 年度人工知能学会全国大会(第 33 回)」 2019年度人工知能学会全国大会のオーガナイズド セッション(以下,OS)は,昨年度の方針を踏襲する 形で実施された.昨年度は二つの大幅な変更を行ってい る.すなわち,同一 OS の実施回数を通算 3 回までに制 限すること,提案内容をプログラム委員長と OS 担当で 精査し不備のある提案を不採択とすることである.以下 に今年度の OS 採択状況・実施状況を報告する. 1.採択状況 今年度は,上記の変更がオーガナイザに浸透したこと もあり,22 件の応募すべてが採択された(昨年度は 41 件の応募に対し,30 件採択).表 1 に採択 OS 一覧と実 施回数を示す.今年度で終了となる OS が 7 件ある一方, 新規 OS が 6 件あり,今後 OS テーマの入替わりが進む と考えられる.なお,過去に通算 3 回以上実施した OS テーマについては,オーガナイザからの提案をもとに一 般セッションテーマへの追加を検討している.今年度 で通算 3 回実施となった OS オーガナイザには一般セッ ションテーマへの追加もご検討いただきたい. 2.実施状況 招待講演などの特別企画がある OS は 2 枠(100 分× 2) を上限として配置される.これを超える発表申込があっ た場合,オーガナイザが採否(一般セッションへ移行) を決定する.一方,発表申込みと特別企画の合計が 1 枠 に満たない場合は OS としての実施は行わず,発表を関 連する一般セッションへと移行することになる. 特別企画がない OS はセッション数に上限を設けない. ただし,セッション中のプログラム編成はプログラム委 員会が行い,申込みがあった発表は,原則的にすべて当 該 OS に配置される.また,特別企画ありと同様に発表 申込みが 1 枠に満たない場合には,OS としての実施は 取り消される. 今年度は,一部の特別企画あり OS で 10 件以上の発 表申込みがあり,残念ながら一般セッションへ移行して いただく発表があったものの,採択された OS 全てを実 施することができた.また,図 1 に示すように,どの OSも多くの参加者が詰めかけ,活発な議論が交わされ ていた. 最後に,さまざまな制約のもと,魅力的なテーマを提 案し,OS 実施に多大なるご協力をいただいたオーガナ イザ各位をはじめ,発表者,聴講者の皆様に感謝を申し 上げ,OS の総括とさせていただく.
オーガナイズドセッション総括
水本 智也(フューチャー株式会社),内田 ゆず(北海学園大学), 辻 順平(東洋大学),梶原 智之(大阪大学) セッション名 実施回数 OS-1 計算社会科学 2 OS-2 データ流通社会における技術基盤と異分野連携 2 OS-3 AI における離散構造処理と制約充足 3 OS-4 自律・創発・汎用 AI アーキテクチャ 2 OS-5 複雑化社会における意思決定・合意形成のための AI 技術 2 OS-6 人工知能と倫理 2 OS-7 AIの法学への応用 1 OS-8 マイニングと知識創発 3 OS-9 顔文字の科学 3 OS-10 不動産と AI 3 OS-11 社会的信号処理と AI 3 OS-12 画像と AI(MIRU 2019 プレビュー) 1 OS-13 “ナッジ”エージェント:人をウェルビーイングへと導くエージェントの構築へ向けて 1 OS-14 人狼知能と不完全情報ゲーム 2 OS-15 人と AI が織りなす新たなエコシステム 2 OS-16 臨床の知 2 OS-17 農業と AI 3 OS-18 感情と AI 1 OS-19 「プロジェクション科学」の発展と応用 2 OS-20 脳波から音声言語情報を抽出・識別する 1 OS-21 プロセス中心のシステムデザインとラーニングアナリティクス 3 OS-22 創作者と人工知能が創る創作の未来 1 表 1 JSAI 2019 における OS 一覧 図 1 OS 会場の様子(農業と AI)インタラクティブセッションは,ポスター形式の発表 スタイルで発表者と聴講者が直接議論できるセッション である.本大会では大会 3 日目(6 月 6 日)と 4 日目(6 月 7 日)の午前,それぞれ 100 分ずつ開催された.開催 場所は会場 1 階の展示ホールの中央に位置し,同ホール 手前側のスポンサーブースと併せて見ていく来場者も多 く見られた.会場にはコーヒーや棒アイスなども準備さ れ,和やかな雰囲気の中,議論が交わされていた. 朝早くからのセッションにもかかわらず,両日ともに たくさんの聴講者が来場した.ポスターは大きく分けて 3面に配置され,わかりやすさのため,セッションブー ス手前には,大きなパネルで発表場所が掲示されていた. そのうち,両側にポスターが展示される奥側の通路部で は特に混雑が見られた.ポスター配置については次年度 の課題であろう. 本大会では合計 93 件(1 日目 49 件,2 日目 44 件)の 発表があった.これは昨年度の 108 件,一昨年度の 125 件と比べると減少しており,インタラクティブセッショ ンの今後の課題の一つといえる.しかし,インタラク ティブセッションの特徴である,議論の時間を十分に確 保できるという点や,人工知能分野の抱える多様な領域 を一望のもとに見渡すことができる点など,本セッショ ン独自の魅力は,このような目的をもった発表者およ び聴講者に対し,一定の役割を提供し続けていくだろう. さて,インタラクティブセッションでは,会場での聴 講者による投票をもとに「大会優秀賞(インタラクティ ブ発表部門)」が選出される.聴講者は,プログラム冊 子に付属の投票用紙を用いて,発表のわかりやすさ・イ ンパクトと今後の発展性の観点から受賞にふさわしい発 表を最大 5 件まで投票することができる.本大会では, 昨年に続き,会場内で予備の投票用紙も配布し,会場の 入口に置いたポストの横で投票を呼び掛けた.その結果, 両日とも多数の投票をしていただき,最終的に 4 件の発 表が受賞することとなった.投票にご協力いただいた方 に感謝するとともに,受賞者を祝福したい. ◆大会優秀賞(インタラクティブ発表部門)受賞者一覧 ・運用中の予測器を使って未知のクラスを分類する方 法:坂井智哉(NEC) ・対話システムにおける知識獲得質問のためのラベル 文字列を用いた知識グラフ補完性能の向上:藤岡勇 真(大阪大学) ・強化学習における報酬なしスキル獲得の階層化:皿 海孝典(東京大学) ・経済因果チェーン検索のシステム紹介と応用:和泉 潔(東京大学) 今年のインタラクティブセッションでは,どの発表で も熱心な議論が交わされ,セッションの時間が終わった 後も意見交換が続く様子が見受けられた.次年度も本大 会以上に多彩な発表が集まり,参加者にとって有意義な 議論の場となることを期待したい. 図 1 会場の様子
特別セッション「インタラクティブセッション」
貞光 九月(フューチャー株式会社),佐藤 佳州(パナソニック株式会社), 倉山 めぐみ(函館工業高等専門学校),杉浦 純(ヤフー株式会社)850 人 工 知 能 34 巻 6 号(2019 年 11 月) 「2019 年度人工知能学会全国大会(第 33 回)」 1.企画趣旨 ジョン・マッカーシーが「人工知能(AI:Artificial Intelligence)」という語彙を提唱してからおよそ半世紀 の時間が流れたにもかかわらず,AI というラベルが示 す実体の確固たる定式化は今なお成されていない.この 問題の解決に向けて,「そもそも知能とは何か」という 計算機科学の成立以前から議論が続く未解明な問いに対 し,合意の取れる到達点を見つけることは AI の研究の 大きな目標であろう.このような形而上学的議論に加え, AI研究では,ヒトの心身的負荷を軽減させるために「AI によって何がなされるべきか」を検討し,計算機技術の 社会実装を目指す実用主義的な活動も強く求められる. とりわけ,AI に関する社会制度の新設や本大会への参 加者・協賛企業数の目覚ましい増加は,この社会実装の 気運の高まりにほかならない.しかしながら,技術発展 の高速化は,哲学的問いへの意識を疎かにさせ,「何を 明らかにしているのか」を暗黙的にしまい,知見の積上 げとしての在り方とのずれの温床となる恐れがあると考 えた. こういった社会的潮流を受けて,本年度の学生企画で は,将来 AI 研究をリードすべき学生が,目前の研究対 象だけでなく,未来の AI 像のあるべき姿こそを議論し, 学問と実践の両側面から自身の研究観を洗練していく必 要があると考えた.そこで本企画では,参加者とともに 研究哲学の洗練指針を共有することをねらいとして,人 工知能と哲学に造詣の深い堀 浩一先生(東京大学)と三 宅陽一郎先生(株式会社スクウェア・エニックス)をお 迎えし,それぞれのお立場から AI と哲学についてのご 意見をいただいた. 2.セッションのデザイン 本企画では,参加者の哲学洗練に有益な情報を会場全 体で共有するため,講演者の議論に対する会場からの質 問およびコメントを Web 上で公開した独自のアンケー トサイトにより収集し,その中から企画趣旨に沿うもの を取り出し,そのコメントを中心に講演者のお二人に議 論をお願いした.このアンケートサイトでは,入力され たコメントに対して「いいね」された数が多い,すなわ ち参加者から支持の得られたコメントがページ上位に表 示される仕組みの導入により,講演形式でありながらも, 会場のニーズを捉えた双方向的な進行の実現を目指し た. 以下に,本方式に基づいて展開された議論(図 1 にそ の様子を示す)の概要を述べる. 3.ご講演と人工知能研究における哲学の観点 堀先生ご講演:AI と哲学? AI の哲学? 哲学の AI? 堀先生は,いくつかの自作のツールを用いて,AI に 対する記述・コメントから特徴を可視化しつつ,AI 研 究における「抽象化と具体化」,「観測可能な外的要素と 不可能な内的要因」,「ヒトと計算機間での責任の所在や 境界の曖昧化」,「哲学者と AI 研究者それぞれの哲学」 といった対立を想定しながら,それらの折合い付けの難 しさや,さまざまな専門性を交えて未来の AI 研究の在 り方を考える重要性をご指摘された. 三宅先生ご講演:産業における人工知能の実用的発展 と,人工知能を用いた商品価値生成 三宅先生は,ご自身の専門であるゲーム AI の観点か ら,ディジタルゲームを自然科学の再集結点と位置付け られた.ゲームという閉じられた世界と我々が存在する 現実世界との接合の検討には,ヒトの在り方の主観・客 観的あるいは,身体・精神的な側面からの捉え直しが欠 かせないことを,メタゲーム AI などの事例を交えつつ, AIの学問的視座としてご指摘された. セッションの最後に,講演者のお二人から参加者に向 けて,「考えてほしいこと」についてのご提言をいただ いた.堀先生からは,「何を考えないといけないかを若 手研究者自身で考えてほしい」というコメントを,三宅 先生からは,「哲学は AI の足場であるため,哲学によっ て研究が制約されるのではなく,新たな哲学領域を開拓 し,実装していくその往還こそが重要ではないか」との コメントをいただいた.お二人の発表やご提言には,「こ れからの AI 研究として,必ずしも従来の価値観,評価 基準,哲学の枠組みにとらわれない,ヒトと計算機の新 たな在り方や視座を涵養することの重要性が示唆されて いた. 図 1 当日の様子
学生企画「AI 研究者は今,哲学者たり得ているか?」
油谷 知岐(大阪府立大学),吉添 衛(立命館大学)についての記述として,「素朴だが重要なテーマを扱っ ており,勉強になった」といった肯定的な意見が多く寄 せられた.これらのことから,本企画で扱った AI の研 究ドメインを俯瞰したテーマについて,若手を中心に議 論することの価値,および継続的な思索と議論の必要性 が垣間見える機会となった. ご講演いただきました堀先生と三宅先生,本企画の運 営にご尽力いただいた古崎晃司先生と小山 聡先生,そし て本企画にご参画いただいた皆様に,多大なる感謝を申 し上げます. *1 本企画のアンケート結果ならびに講演者のお二人のご講演ス ライドを「人工知能学会全国大会 2019 学生企画ページ」で公 開しているので参照されたい(https://www.ai-gakkai. or.jp/jsai2019/student).
852 人 工 知 能 34 巻 6 号(2019 年 11 月) 「2019 年度人工知能学会全国大会(第 33 回)」 昨今の人工知能ブームによって年次大会参加者数も右 肩上がりで増え,人工知能学会はかつてないほどに盛り 上がっている.同時に,学会への期待もますます高まっ ている.企業参加推進担当委員である我々はこうした背 景による大きなプレッシャーを背負いながらも,年次大 会の準備に入った. 人工知能については特に産業界からの関心が強いこ ともあり,昨年度に引き続き本年度も,産業界からの参 加を促進する施策の一環として,当大会を支援いただく 企業スポンサーを募集した.前回大会同様,本年度のス ポンサーも,プラチナ,ゴールド,シルバー,およびメ ディア協賛を設け,また例年どおり,プラチナ,ゴール ド,シルバーのスポンサーの中から冠スポンサーを募集 した.冠スポンサーの種類には,昨年度と同様の,茶 菓,受付コーナー,無線 LAN,参加者交流会屋台,ラ ンチョンセミナー,ナイトセミナーに加え,お弁当の無 料配布支援(2 ~ 4 日目)を新設した.スポンサー募集 は 2019 年 1 月初旬から同年 3 月上旬まで行い,お申込 みいただいた企業数は過去最多の合計 90 社にのぼった. 企業展示数,インダストリアルセッション発表数,ラン チョン・ナイトセミナー数も昨年を上回る勢いで増加し た.これらの各件数を図 1 に示す.ご協力をいただいた スポンサー企業にこの場を借りて改めて感謝申し上げる. 企業参加推進担当委員は,本年度も,主担当 2 名,副 担当 2 名の 4 名体制で,増加するスポンサー企業への対 応にあたった.スポンサー企業には,区分に応じて,大 会会場での企業展示,大会プログラムへの広告掲載(最 大 2 ページ),大会プログラムおよびホームページへの ロゴ掲載,常設コーナへの配布物設置,大会セッション 聴講特典を提供し,各企業のアピールの機会としてご活 用いただいた.また,本年度もランチョン・ナイトセミ ナー,および,賛助会員スポンサー向けのインダストリ アルセッションを設け,産業界における人工知能への取 組みを積極的に共有する場として,多数のスポンサー企 業にご活用いただいた. 本年度の企業展示は,大会会場である朱鷺メッセ内の 1F展示ホール B,2F J ~ K 会場前,および 3F G ~ F 会場前に展示場を設け,75 の企業より,人工知能技術 に関わる多彩な展示をしていただいた.各ブースでは, 展示各社と参加者との間で活発多彩な交流が行われた. 展示の様子を図 2 に示す. インダストリアルセッションは,応募多数でセッショ ンを増やした前回大会から,20 社以上増加したため,1 セッション追加し,5 セッション開催した.連日数多く の参加者に聴講いただき,立ち見が出るほどの予想を超 える盛況ぶりであった.本年度のインダストリアルセッ ションは,特に実務者の参加が多く,人工知能技術を用 いた取組みに対し,どの企業も貪欲に模索している様子 が垣間見えた. ランチョン・ナイトセミナーについても大変好評につ き,前回大会から 1 件増え,八つのセミナーを開催した. ランチョンセミナーは大会 2,3 日目の昼 50 分の枠で行 い,ナイトセミナーは大会初日の夜 110 分の枠で行った. 今大会もあらゆる予想を上回る盛況であった.この大 きな流れの渦中にある人工知能学会に大会委員として関 われたことを大変光栄に思う.また,さまざまお世話に なった事務局および大会委員の皆様に,心から感謝申し 上げる. 図 1 スポンサー数および各種件数 図 2 企業展示の様子
企業参加推進担当活動報告
大谷 雅之(近畿大学),東山 翔平(NICT),伊藤 雅弘(株式会社東芝),米納 弘渡(名古屋大学)1.はじめに 近未来チャレンジは,5 年以内で社会貢献できる現実 路線の人工知能技術テーマを募集し,優れたものを学会 としてサポートすることにより,強力な AI 技術を世の 中に送り出すことを目的とした人工知能学会の特別企画 である.AI が一つのブームとしても認識される昨今だ が,本企画は 1999 年の全国大会から始まり今年で 21 回目の開催を迎えた. テーマの提案者はオーガナイザとして当該テーマでの 「サバイバルセッション」を最長 4 年運営できる.翌年 のセッションを継続運営できるかは,聴講者のアンケー ト結果と選考委員による評価をもとに,プログラム委員 会で審査を行い決定する.なお,2017 年度から,新た なテーマの募集を停止し,継続中のセッションを開催し ている.2019 年の全国大会では,最後のサバイバルセッ ション 1 件が行われた.本稿では,概要を述べるが,詳 細については,Web サイト [近未来チャレンジ Web] を 参照されたい. 2.チャレンジの評価方法 サバイバル成功か否かの選考判断は,セッション会場 において聴講者に配布したアンケートの集計結果に基づ いて行う.サバイバル3回目,4回目の選考基準は,1回目, 2回目よりも厳しく設定されている.以下に,今年の 1 件が該当する 4 回目の選考基準について記載する.聴講 者アンケートでは,学術的観点,社会貢献の観点,およ び総合評価に関して,表 1 に示す 5 項目を,5 段階で評 価する.評価基準は,総合評価が優れている(4.0 以上) ことを目安に,社会貢献の観点の評価項目のいずれか一 つに,優れた点(3.5 以上)があればサバイバルとする. ただし,上記の条件を満たす場合であっても,社会貢献 の観点からの三つの評価項目に,サバイバルとするのに 問題となる点(3.0 未満)があれば,別途,アンケート のコメントの中身,選考員の意見を検証して決める. 3.今年度の活動模様 「世界価値観と国際マーケティング」のテーマ 1 件に 関する,4 回目のサバイバルセッションが開催され,サ バイバル成功・卒業となった. 本テーマでは,人の属性だけでは容易に表せない「価 値観」に着目し,チャレンジしている.“世界価値観” という取り扱いにくい対象ではあるものの,歴史的背景 を含めた文献調査に基づく報告がなされていた.会場の 来場者数も多く(図 1),本テーマに対する来場者の興味 が大きいことが見受けられた.会場での質疑や議論では, テーマを遂行するうえで重要な「課題設定」にも言及さ れており,多くの検討がなされたうえでのテーマ設定で あったことがうかがえた.聴衆のアンケート結果からは, 最終目的達成時の社会へのインパクト・貢献見込みに対 して高い評価があり,テーマに対する聴衆の期待が表れ ていた.また,前年度のチャレンジにおいて期待されて いた学術的観点の強化についても,着実に調査を重ねて いることが見受けられた.チャレンジの選考基準につい ては,いずれの条件も満たし,問題なくサバイバル成功 となった.難しいテーマである一方で,実用化に対する 期待も大きい.今後も実用化に向けてコミュニティの強 化と着実な課題遂行を期待したい. 本テーマは,次年度卒業セッションを開催する. 4.おわりに 来年度は,近未来チャレンジの最後の卒業セッション 1件が開催される.4 年間の取組みの集大成として盛り 上がるよう,積極的な投稿を期待している. ◇ 参 考 文 献 ◇ [近未来チャレンジ Web] 人工知能学会特別企画 近未来チャレン ジ:http://ultimavi.arc.net.my/ave/CREP
近未来チャレンジ総括
成松 宏美(NTT コミュニケーション科学基礎研究所),林田 尚子(株式会社富士通研究所) 観 点 評価項目 学術的観点 学術的な信憑性・妥当性 社会貢献の観点 現時点での社会へのインパクト・貢献 最終目的達成時の社会へのインパクト・ 貢献の見込み チャレンジ実用化に向けた取組み 総合評価 近未来チャレンジのテーマとして サバイバルすべきか 表 1 聴講者アンケートの評価項目(5 段階評価) 図 1 会場の様子854 人 工 知 能 34 巻 6 号(2019 年 11 月) チャレンジャー: 谷田 泰郎(シナジーマーケティン グ株式会社 R&D) 加納 史子(コペンハーゲンビジネ ススクール) NFC-1「世界価値観と国際マーケティング」は,今 年度で 4 回目のチャレンジとなり,来年度には,卒業 を予定している.本セッションでは,過去にさまざま な提案がなされてきたが,提案者でもある加納史子氏の 「UMAMI: Understanding Mindsets Across Markets,
Internationally」(UMAMI は,コペンハーゲンビジネ ススクール,デンマーク工科大学,デンマークの観光関 連行政組織,Carlsberg 社の観光施設が参加する 2017 年開始のプロジェクト(4 年間)で,世界価値観データベー スをマーケティングやツーリズムの学際的研究で活用さ れている尺度と組み合わせて機械学習によるツーリスト のセグメント化,セグメント別行動予測などを目指すも の)は,本セッションを立ち上げたことによる大きな成 果の一つであり,今年度は発表できなかったが,卒業と なる来年度はその活動報告を発表していただけると期待 している.そして,「societas」という独自の価値観枠 組みを使ったマーケティング AI への取組み,その枠組 みと佐々木淳氏の「Creative Genome」との融合を目指 す価値観 HI コンソーシアムの中での活動報告も本セッ ションが社会的にインパクトのある事業開発に貢献した ということの大きな成果の一つとして報告させていただ く予定である.また,過去には,ほかにも実現していけ ば社会的にインパクトがあると思われる猪澤也寸志氏の 「グリーン AI」,研究としての価値が高いと思われる鈴 木雅実氏の「食文化に関する異言語間情報共有」,小方 孝氏の「物語生成」など今後の期待値の高い多くの研究 発表がなされている.最後の年となる来年度に向けて未 来につながる多くの報告を期待して,谷田の研究報告の 中で最初に簡単な振返りを行った. 今年度は合計五つの研究報告がなされた.大きく分け て二つの軸があり,最初の 2 件は AOI TYO Holdings 株 式会社の佐々木淳氏と谷田の共同研究取組みでもある 「価値観・HI コンソーシアム」に関する活動報告であり, 後の 3 件は岩手県立大学の小方 孝氏らによる「物語生成」 の研究報告である.佐々木淳氏の研究報告である“─価 値観データとクリエイティブデータの定義融合による感 性タグの創出─価値観 HI コンソーシアム制作コンテン ツ妄想ミシュランの紹介”は,簡単にいうと価値観タグ の「societas」とクリエイティブ HI(ヒューマンインテ リジェンス)タグの「Creative Genome」を融合するた めの価値観 HI コンソーシアムでの取組みの紹介である. そこに価値観の元素的な定義として,連想構造を仮定し, その連想方向性を BWNA(ブラック,ホワイト,ノー マル,アブノーマルの頭文字)という範囲で区切る空間 を想定し,そこに価値観タグとクリエイティブタグの二 つのヒューマンインテリジェンスが溶け込むという想定 で,その想定の説明とデータ収集のためのアプリケー ションとして用意した「妄想ミシュラン」というコンテ ンツを紹介する報告であった.これを受け,谷田は簡単 にその中での「societas」に関する感性タグ拡張の取組 みと今後の方向性などについて触れた.
岩手県立大学の小方 孝氏の“Two Elements and Two Techniques for the Narrative Generation of Kabuki─ Survey, Analysis, and Synthesis for Geino Information System─”では,身体的な型や演技を含めて,物語の 技法の大きな集成体として歌舞伎を捉え,物語を文学・ 芸術であるとともに芸能として捉えて,従来の物語観と は異なる新しい観点の物語論のための素材として歌舞伎 を捉えるという考えの軸を中心にして報告をされた.ま た,日本語での物語生成だけではなく,生成された物語 を自動翻訳にかけて海外の評価を得るという発表後半の システム紹介が興味深かった.小野淳平氏の“統合物語 生成システムと「Creative Genome」を利用した広告プ ロット生成手法の一案─ A Method of Advertising Plot Generation Using an Integrated Narrative Generation System and “Creative Genome ─”では,物語生成に 佐々木氏の「Creative Genome」を活用した共同研究の 取組みについての報告,小野氏の論文を伊藤拓哉が発表 された.昔話のモチーフを物語生成に利用するための基 礎研究─ A Basic Study for Using Folk Tale’s Motifs to Narrative Generation─”では,物語に対して物語モチー フのプログラム化についての報告がなされた. 今年度も数は少ないが,期待値の高い研究報告に恵ま れた.この取組みの中から,次々に共同研究プロジェク トや共同事業が立ち上がることが大きな成果でもあり, 社会に対して良効果を与えることにつながると信じてい る.本報告執筆時点で,4 回目のチャレンジに対して合 格の評点をいただき卒業させていただくことが確定し た.多くの評価者の方々,現在まで近未来チャレンジを お世話してくださった運営委員の方々,その他本チャレ ンジを温かく見守ってくださった方々,すべての方々に 感謝したい.最終年度となる来年度は卒業セッションと なるが,チャレンジャーである加納氏の UMAMI プロ ジェクトはまだ先に続き,谷田の「societas」枠組みを使っ た「マーケティング AI」,佐々木氏との「価値観 HI コ ンソーシアム」におけるクリエイティブゲノムと価値観 の融合のプロジェクトもまだこれからである.我々は卒 業後もチャレンジャーである. 〔谷田 泰郎(シナジーマーケティング株式会社)〕