分野を超えたものづくりと教育 -組込みシステム開発教育のためのロボットチャレンジ-:0.編集にあたって
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(2) められ,そのことにはしばらく気付かず,容易に直進で. るコミュニティを形成する力が低い学生について,本チ. きないのはセンサやモータの性能が悪いためだと主張す. ャレンジのような PBL 型授業が効果的であることは既. る.直進にも理論があることには気付きにくい.自動的. 知であり,その成果に実感を得ている.一方,こうした. に掃除するためには,知能が必要であるし,位置や障. 能力の高い活発な学生からも, 「システム開発特有のコ. 害物をカメラで検知するならば画像処理が必要となる.. ミュニケーションを学ぶことができた」という意見を得て. こうした関連した分野のすべてを学ぶことは難しいこと. いる.本チャレンジは,学生にとって,開発の難度も高. から,他分野の境界を見極め,協力して開発していく力. く期間も短くない.2 週間以内の短期的な PBLでは得. を養うことは重要である.. られない,人間関係の問題にも向き合うことになる.嗜. 本チャレンジでは,キックオフの際に,こうしたさまざ. 好や能力,参加目的や意欲の違いを踏まえ,人間関係. まな分野について基礎力を養う講演を実施している.さ. を円滑にしつつ,適切なタイミングで,プロダクトの共有,. らに,コンテスト後に行われる学生間の交流において,. 声がけ,レビューなどを経験する.多くの学生たちは想. 分野を超えた討論が大いに盛り上がる.参加チームの. 像以上に短い期間で「ほうれんそう」が求められること. 専門は,機械制御や信号処理,ハードウェアアーキテク. に驚く.さらに,本チャレンジでは昨年度(2013 年度). チャ,ソフトウェア工学等,さまざまであり,同じ課題を. より,大学・分野を超えた自発的なコミュニティ形成を. 別の視点・知識で取り組んでいることに強く興味を持つ.. 育成するために,学生企画を開催している.本企画では, 学生が大学間を越えて,独自に自由に企画を立案し運. 実践的開発経験 . 営する.同じ課題で苦労していたためか,大学混合に もかかわらず,最も盛り上がる企画である.. 本チャレンジはコンテストであることから,競技日とい うデッドライン,勝つための高い品質を意識することにな. 2教育的な競技. る.今年度(2014 年度)の平均的な開発期間は 1 学期. 2004 年当時,授業で扱えるシステム規模と複雑さは,. 間,実質 3 カ月程度である.飛行船の平均的開発期間. 企業の開発対象と比べると非常に小さく,その差を埋め. は半年である.以上から,授業で実施する実験や PBL. る題材が求められていた.当時もさまざまな教材が存在. と比較すると,実践的な開発に近い題材と言える.した. したが,専門分野に特化しており,分野横断的な総合. がって,プロジェクトマネジメントの手法やその支援ツー. 力を必要とする課題はなかった.. ルの使い方についても注力しており,企業の開発エッセ. 本チャレンジは,チュートリアルによる基礎教育,ワ. ンスや新しい技術を学べる場の提供を心がけている.さ. ークショップによるフォローアップ,提出物のスケジュー. らに,我々は工学の基礎的なプロセスを重視している.. ルコントロールに加えて,競技自体が教育的であること. すなわち,仮説・実験・評価・考察の繰り返し,実験,. を目指している.たとえば,先に述べた直進や回転の. 評価における計測とモデリングの実施を推奨している.. 問題であるが,競技にコンパルソリ競技として取り入れ,. 工学の基礎的なプロセスを実施することで,工学的な気. その問題の重要さを気付かせ,そこから取り組むように,. 付き,問題発見へとつながることが期待できる.. 課題を作成している.さらに,主要な飛行船競技,掃 除機のスマートロボット競技においても,正確な飛行・. コミュニティの形成 . 走行,計測を競技中に盛り込み採点することで,工学 の基礎的なプロセスを踏めるようにしている.. 難しく大きな問題の多くは,1 人よりもグループで対 応する方が容易に克服できるということは述べるまでも. 2総合的な教育を目指して. ない.したがって,問題解決のためにコミュニティを形. 第 1 回のチャレンジでは,ほとんどのチームが飛行船. 成について学ぶことは重要である.近年問題となってい. を浮かすことさえ難しい状況であった.開発に必要な基. 情報処理 Vol.56 No.1 Jan. 2015. 51.
(3) 集 特. 分野を超えたものづくりと教育 ─組込みシステム開発教育のためのロボットチャレンジ─. 礎的な知識は大学の授業で学んでいるはずであり,手. 2010 年度までを MDD ロボットチャレンジと称し,. 厚い事前教育も実施していた.. 2011 年度から ESS ロボットチャレンジと名称を変更し. この経験をもとに,1 つのものづくりを可能にするた. た.MDD はモデル駆動開発技術(Model Driven De. めには何をすれば良いのかということに主眼が置かれ,. velopment)の略称であり,本チャレンジは名称のとおり,. 議論を重ね,さまざまな活動を個々に実施してきた.学. MDD を重視していた. 「4. 組込みシステムのためのモデ. 部 4 年生になってから開始する数カ月で再教育できる課. ル駆動開発技術─共通問題から新しい技術へのチャ. 題ではなく,大学初年次以前より実践的な工学教育の. レンジ─」では MDD とは何か,社会的状況,本チャレ. 必要性を実感した.. ンジの貢献,今後の展望について述べる.. 本特集では,以上を踏まえ,具体的な 1 つの目標を. 「5. 組込みシステムの共通問題:飛行船システム競. 持った,実践的なものづくりを可能にする総合的な教育. 技─工学教育の基礎である計測から考察する─」では,. とは何か,実践的教育への取り組み,ロボット開発に. 本チャレンジの課題である飛行船システムについて,我々. 必要な技術,大学初年次の導入教育,中高校生教育に. が工学的問題発見力と思考力を養うために重視してい. ついて紹介する.. る工学の基礎的なプロセスに重要な計測の視点から説. 「1.MDD/ESS ロボットチャレンジの原点─コンテスト. 明する.. 継続の原動力─」は,学会におけるコンテストも PBL. 「6. 制御工学から見たソフトウェア─ロボット製作に. も普及していない 2004 年当時,企業の献身的な支援. おける制御とソフトウェア─」では,情報系出身者が気. のもと本チャレンジを開催・継続してきた原点を振り返. づきにくい,ロボットを制御するのに必要な制御工学の. る.バブル崩壊の経済立て直しとして,家電,情報機器,. 基礎について解説する.ロボットの自律制御に知能が必. 輸送機器等の組込みシステムに期待が集まり,それら. 要であることは述べるまでもない. 「7. ロボットチャレンジ. に搭載されている組込みソフトウェアに注目が集まった.. 課題を用いた機械学習応用教育」では,知能化と機械. 時を同じくして,組込みシステムの急速な大規模化に伴. 学習について述べる.以上の専門教育を学ぶ前に,実. う開発のパラダイムシフト,理系離れ・学力低下による. 践的なものづくりを可能にするためには初年時の導入教. 技術者不足の問題を抱え,このような危機的な問題を. 育は重要である. 「8. ロボット PBL を学部導入教材として. 解決すべく本チャレンジが立ち上がった.. 活用する─授業における実践報告─」では,学部 1 ∼. 2013 年度から「実践的情報教育協働ネットワーク組. 2 年生向けの教育に,掃除機ロボットを取り入れた事例,. 込みシステム分野連合型 PBL(enPiT-EMB/ PEA. 「9. 小型飛行船を使った初等中等教育向け情報教育─. RL) 」との協力関係が開始され,大学院で実施するの. 情報の符号化を体験的に学習する教材:Let’s Go Go!. に相応しいイノベーションを期待できる課題へと進化し. Magical Spoons ─」では,大学入学前の小学生∼高校. つつある.これまでも,実践的教育のための国家プロ. 生を対象とした飛行船を利用した教育について紹介する.. ジェクトが実施されてきたが,教育対象者は限定的で. 最後に, 「10.ESS ロボットチャレンジ 10 周年座談会. あった.PEARL は誰もが参加できる開かれた教育の. ─参加者 OB と 10 年を振り返る─」では,卒業生を交. 場となった.. えた座談会を紹介する.座談会には 11 人の飛行船開. これまでの国家プロジェクトを踏まえ,今後の教育に. 発経験者が参加した.その中で,開発全体を体験でき. ついて「2. 大学における実践的教育へのチャレンジ─. る貴重な経験だったという意見が印象的だった.また,. 開かれた教育への挑戦─」で展望し, 「3. ロボットチャレ. すべての卒業生が, 「苦しかったが,楽しかった」と話し,. ンジを用いた分野・地域を超えた Project-Based Lear. 後輩たちへのメッセージは「開発を楽しむ」ということだ. ning」では具体的な PBL の内容について,学生への教. った.. 育効果,指導する教員,運営の立場の各々について紹 介する.. 52. 情報処理 Vol.56 No.1 Jan. 2015. (2014 年 10 月 3 日).
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