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新しい動作原理のグラフェントランジスタを開発

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Academic year: 2021

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新しい動作原理のグラフェントランジスタを開発

- 約 4 桁の電流オン・オフ比を実現 -

平成 24 年 12 月 10 日 独立行政法人 産業技術総合研究所 独立行政法人 物質・材料研究機構 ■ ポイント ■ ・ 2 つのゲートにかける電圧を制御する新しい動作原理のグラフェントランジスタ ・ トランジスタ極性を電気的に反転させることができる超低電圧動作素子として期待 ・ 最先端研究開発支援プログラム(FIRST)のプロジェクト「グリーン・ナノエレクトロニクスの コア技術開発」の助成による成果 ■ 概 要 ■ 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)ナノエレク トロニクス研究部門【研究部門長 金丸 正剛】連携研究体グリーン・ナノエレクトロニクスセン ター(以下「GNC」という)横山 直樹 連携研究体長、中払 周 特定集中研究専門員ら、ナノエレ クトロニクス研究部門 小川 真一 招聘研究員らは、産総研ナノデバイスセンター【センター長 秋 永 広幸】、独立行政法人 物質・材料研究機構【理事長 潮田 資勝】(以下「物材機構」という) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点【拠点長 青野 正和】(以下「WPI-MANA」という)塚越 一 仁 主任研究者らと共同で新しい動作原理のグラフェントランジスタを開発した。 今回開発したトランジスタでは、グラフェン上に 2 つの電極と 2 つのトップゲートを置き、ト ップゲート間のグラフェンにヘリウムイオンを照射して結晶欠陥を導入した。2 つのトップゲー トに独立した電圧をかけて、効率的に電荷の動きを制御できる。200 K(約-73℃)で、約 4 桁の 電流オン・オフ比を示した。さらにトランジスタ極性を電気的に制御して反転させることができ るが、これまで、このような動作が可能なトランジスタはなかった。この技術は、既存のシリコ ン集積回路の製造技術の中で利用でき、将来の動作電圧低減によって超低消費電力化されたエレ クトロニクスの実現に貢献すると期待される。 この技術の詳細は、2012 年 12 月 10~12 日に米国サンフランシスコ市で開催される国際会議 2012 International Electron Devices Meeting(IEDM 2012)で発表される。

は【用語の説明】参照

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■ 開発の社会的背景 ■ 近年、携帯情報端末の普及や、IT 機器の高機能化に伴う消費電力の増大が懸念され、電子情報 機器の消費電力低減への社会的要求が高まっている。このため、大規模集積回路(LSI)の消費電力 低減の試みは急速な進展を見せているが、従来のトランジスタ構造では、本質的な限界があると されている。一方、グラフェンは、電子の動きやすさを表す電子移動度がシリコンの 100 倍以上 もあり、さらに、シリコンなどの本質的な限界の問題も解決できると期待されている。これらの ことから、グラフェンは LSI 低消費電力化への障害を解決する可能性を秘めており、ポストシリ コン世代の新しい機能性原子薄膜を用いた超低消費電力トランジスタの材料としても期待を集め ている。 しかし、グラフェンにはバンドギャップがないため、スイッチングトランジスタとして使用し た場合に電流を十分に遮断できない。また、バンドギャップを形成する技術もあるが、スイッチ ング動作に必要なバンドギャップを形成すると、電子移動度が低くなってしまう。そのため、小 さなバンドギャップで効率的にスイッチング動作ができる、新しい動作原理のグラフェントラン ジスタが求められている。 ■ 研究の経緯 ■ GNC は、内閣府と独立行政法人 日本学術振興会によって運営される最先端研究開発支援プログ ラム(FIRST)に採択されたプロジェクトを実施するために 2010 年 4 月に設立された。企業 5 社(株 式会社 富士通研究所、株式会社 東芝、株式会社 日立製作所、ルネサスエレクトロニクス株式会 社、株式会社 アルバック)からの出向研究者と産総研研究者によって構成されている。GNC では、 2010 年度より、つくばイノベーションアリーナによる研究支援のフレームワークのもとで、産総 研ナノエレクトロニクス研究部門、産総研ナノデバイスセンター、物材機構 WPI-MANA と、グラフ ェンのエレクトロニクス応用に関する共同研究を行ってきた。 なお、この研究は、FIRST のプロジェクト「グリーン・ナノエレクトロニクスのコア技術開発」 (中心研究者 横山 直樹)の助成により行われた。 ■ 研究の内容 ■ 今回開発した新しいグラフェントランジスタの動作原理を図 1(a)~(c)に示す。2 つのトップゲ ートの間のチャネル部分のグラフェンにトランスポートギャップを生じさせるためにヘリウムイ オン顕微鏡を用いてヘリウムイオンを 6.9 x 1015 ions/cm2の密度で照射して結晶欠陥を導入して ある。トップゲートに電圧をかけ静電的な制御によってチャネル両側のグラフェンのエネルギー バンドを変調できるが、トップゲート電圧の極性によってグラフェンの電流を運ぶキャリアの極 性が n 型、p型と変化する。チャネルの両側の極性が異なる場合トランジスタはオフ状態となり (図 1(b))、同じ極性の場合はオン状態となる(図 1(c))。オフ状態のとき、従来型のトランジスタ (図 1(d)~(f))ではトランスポートギャップを持つチャネルのソース側あるいはドレイン側の端 に形成される障壁で電荷の移動を阻止するが、図1(e)に示すように小さい障壁しか得られないた めオフ状態におけるリーク電流が大きい。一方、今回開発したトランジスタでは、図1(b)に示す ようにトランスポートギャップが従来型の場合(図1(e))よりも大きな障壁となって電荷の移動 を阻止する。その結果、従来型と比較してより良好なオフ状態を得ることができる。

(3)

くできる。さらに、小さなトランスポートギャップでも有効にオフ状態をとれるため、従来型の 素子よりもトランスポートギャップをより小さくできる。これらの特質により、トランジスタの オン・オフ動作を従来型よりも高速にできるため、回路の動作電圧を低減して低消費電力化した LSI が実現できると考えられる。また、リソグラフィーや蒸着、不純物注入工程など、既存のシ リコン集積回路の製造技術の枠内で作製でき、大面積ウェハでも製造が容易である。 図 1 新しいグラフェントランジスタと従来型トランジスタの動作原理 この新しい動作原理のトランジスタ動作を実証するために、グラファイトから剥離した単層グ ラフェン上にソース・ドレイン電極および 1 対のトップゲートを形成し、トランジスタを形成し た。1 対のトップゲートの間に適量のヘリウムイオンを照射してチャネルとし(図 2 の青点線部)、 その外側の不要な部分のグラフェンはヘリウムイオンを多く照射して絶縁化した(図 2 の赤点線 部)。その結果、トランジスタのチャネル部分は、長さ 20 nm、幅 30 nm のサイズとなった。

(4)

図 2 試作した素子のヘリウムイオン顕微鏡像と模式図 作製したトランジスタを 200 K(約-73℃)の低温でオン・オフ動作させた。ソース・ドレイン 端子にはそれぞれ −100 mV、+100 mV の電圧をかけ、ドレイン側ゲート電圧を−2 V に固定して、 ソース側ゲート電圧を−4 V から+4 V まで変化させて、ソース・ドレイン電極間に流れる電流を測 定したところ、約 4 桁のオン・オフ比を示した(図 3)。 図 3 新しいグラフェントランジスタの電流のオン・オフ比 今回開発したトランジスタは、2 つのトップゲートに与える電圧の極性が同じか異なるかによ ってオン状態かオフ状態かが決まる。そのため、片方のゲート電圧を固定しその極性を変化させ ることで、もう一方のゲート電圧によるトランジスタ動作が n 型か p 型かを制御できる。今回、 ソース・ドレイン端子にそれぞれ −100 mV、+100 mV の電圧をかけ、ドレイン側ゲートの電圧 VtgD を正に固定した場合(図 4(a))の、ソース側ゲート電圧の変化に対するソース・ドレイン間の電流 の変化を図 4(b)に示す。図 4(c)はその対数プロットである。ソース側ゲート電圧が負の場合にオ フ状態、正の場合にオン状態となり、n 型トランジスタとして動作している。一方、ドレイン側 ゲート電圧を負に固定した場合(図 4(d))の、ソース側ゲート電圧の変化に対する電流の変化を図 4(e)、(f)に示す。この場合は、ソース側ゲート電圧が負の場合にオン状態、正の場合にオフ状態 となり、p 型トランジスタとして動作している。すなわち、単一のトランジスタが、電気的な制 20 nm 30 nm グラフェン 100 nm ソース側 ゲート ドレイン 側ゲート 高密度の He+照射で 絶縁化した領域 ソース側ゲート ドレイン側ゲート ドレイン ソース 適量密度の He+照射 したチャネル部分 −4 0 4 10−9 10−10 10−11 10−12 10−13 10−14

ソース側ゲート電圧(V)

T = 200 K

電流

(A

)

オン・オフ比:4 桁 (25,400 倍) オフ オン グラフェン

(5)

御によって極性が反転したトランジスタとして動作していることが実証できた。 従来のシリコン素子のトランジスタ極性は半導体への不純物ドーピングのイオンの種類で決ま るため、回路を形成後の変更はできなかった。しかし、今回開発したトランジスタではトランジ スタ極性を電気的に制御できるため、回路の構成自体を電気的に変更できる集積回路が実現する 可能性がある。 図 4 トランジスタ極性を電気的に反転させたトランジスタ動作の実証 ここでVtgDはドレイン側ゲート電圧 ■ 今後の予定 ■ トランジスタ極性を電気的制御により変更できる CMOS 動作の実現を目指す。さらに、CVD 法(化 学的気相堆積法)にて合成されたグラフェンを用いた大面積ウェハによる素子試作を目指す。同時 に、室温における電流のオン・オフ比の向上や、電荷の移動度の向上のためのグラフェンの高品 質化を実現していく。

ソース側ゲート電圧(V)

−3 0 3 0.08 0.06 0.04 0.02 0

電流

(nA

)

−3 0 3 0.015 0.025 0.01 0.02 0 0.005

電流

(nA

)

−3 0 3 10−10 10−11 10−12 10−13

電流

(A

)

−3 0 3 10−10 10−11 10−12 10−13

電流

(A

)

ドレイン側 ゲート VtgD > 0 ソース側ゲート ソース ドレイン ソース ドレイン

nFET モード

pFET モード

T = 200 K VtgD = +2 V VtgD = +1 V VtgD = −2 V VtgD = −1 V T = 200 K VtgD = +2 V VtgD = +1 V VtgD = −2 V VtgD = −1 V

(a)

(f)

(e)

(c)

(b)

(d)

ソース側ゲート ドレイン側 ゲート VtgD < 0

ソース側ゲート電圧(V)

ソース側ゲート電圧(V)

ソース側ゲート電圧(V)

(6)

【用語の説明】

◆グラフェン グラファイトを構成する単原子薄膜で、炭素原子が平面上で蜂の巣格子状に並んだ構造をもつ。 2004 年に英国マンチェスター大学のグループにより粘着テープでグラファイトから単離され、そ の特異な物理が明らかにされて以降、世界中で急速に研究が進められた。マンチェスター大学の グループはこの功績で、2010 年ノーベル物理学賞を受賞した。 ◆トップゲート トランジスタのチャネルに対して絶縁膜を介して形成される電極で、基板に対して素子の上部 から覆う形で形成されるものを特にトップゲートという。 ◆オン・オフ比 ゲート制御によってチャネルの電流を増減させる場合の、最大電流値(オン電流)の最小電流値 (オフ電流)に対する比。オン電流が小さいと回路の動作が遅くなり、オフ電流が大きいと電力 消費が大きくなるため、オン・オフ比が大きい方がトランジスタには望ましい。 ◆トランジスタ極性 トランジスタでは、電流を運ぶキャリアが電子か正孔かの違いがあり、それをトランジスタ極 性という。キャリアが電子であるものを n 型トランジスタといい、正孔であるものを p 型トラン ジスタという。通常、n 型トランジスタは正のゲート電圧に対してオン状態となり、p 型トランジ スタでは負のゲート電圧に対してオン状態となる。 ◆大規模集積回路(LSI) 多数のトランジスタなどを、半導体表面に集積して構成される大規模な回路。現在、ほぼすべ てがシリコン結晶の表面に形成されている。現代のエレクトロニクスの基幹を成す。 ◆バンドギャップ 固体内の電子の取り得るエネルギー準位はバンド構造を形成するが、電子が取り得ないエネル ギーの範囲を禁制帯、あるいはバンドギャップという。 ◆トランスポートギャップ 電流を担う電荷が空間的に局在することで電流が流れなくなるエネルギーの範囲のこと。 ◆ヘリウムイオン顕微鏡 イオン顕微鏡の一種で、電界で加速されたヘリウムイオンビームを物質に照射した際に生じる 2 次電子や反射イオンなどを検出して物質の形状を観察する。ヘリウムイオンビームは物質波の 波長が電子線の波長よりも短く電子線よりも強く収束できることから、走査型電子顕微鏡よりも

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高い解像度で観察できる。またヘリウムイオンビームの照射量を制御して試料のエッチングや物 性制御が可能である。 ◆n 型、p 型 電流を運ぶキャリアが電子であるものを n 型といい、キャリアが正孔であるものを p 型という。 ◆リソグラフィー 基板上に素子や回路の構造を転写するための技術で、基板上に塗布されたレジスト(感光剤) を、光や電子線などを照射して状態を変化させ、その部分のみ(またはそれ以外の部分だけ)の レジストを除去する。レジストが除去されて、露出した基板の部分のみに対してエッチングやイ オン注入などの処理が可能となる。 ◆フェルミ準位 導体内の電子系においては、絶対零度の電子のもつエネルギーのうち最も高いエネルギーに相 当するが、半導体や絶縁体では、このフェルミ準位はもともとバンドギャップ内にあるため、温 度や不純物ドーピングなどの状況によって変化する。フェルミ準位付近のエネルギーをもつ電子 が電気伝導に寄与できるが、フェルミ準位がバンドギャップ内にあったり、フェルミ準位付近の 電子が局在していれば、電流は流れにくい。 ◆ソース・ドレイン 電界効果型トランジスタの電流が注入される部分をソース、電流が収集される部分をドレイン と呼ぶ。 ◆不純物ドーピング 純粋な半導体は、本質的には絶縁体と同様極めて電気抵抗が高い。電流を流しやすくするため には少量の不純物原子を意図的に混ぜる必要がある。これを不純物ドーピングという。不純物ド ーピングによって、電子により電流が流れやすくなったものをn型、正孔により電流が流れやす くなったものをp型半導体と呼ぶ。従来のトランジスタは、これらn型、p型領域を作り分ける ことで形成されている。 ◆CMOS p 型と n 型の金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOS 型トランジスタ)を相補型に配置し たゲート構造を持つ半導体素子。消費電力が少なく、論理回路などさまざまな電子部品を構成す るのに用いられている。 ◆CVD 法(化学的気相堆積法) 反応容器内で原料ガスを熱などにより分解して基板上に薄膜や構造体を合成する方法。グラフェンの場合 は、一般的にメタン(CH4)やアセチレン(C2H2)などの炭化水素系ガスを原料とし、遷移金属の触媒膜 上に合成する。CVD 法によれば、500~1,100 ℃程度の比較的低温でグラフェンを合成できる。

図 2 試作した素子のヘリウムイオン顕微鏡像と模式図  作製したトランジスタを 200 K(約-73℃)の低温でオン・オフ動作させた。ソース・ドレイン 端子にはそれぞれ  − 100 mV、+100 mV の電圧をかけ、ドレイン側ゲート電圧を−2 V に固定して、 ソース側ゲート電圧を−4 V から+4 V まで変化させて、ソース・ドレイン電極間に流れる電流を測 定したところ、約 4 桁のオン・オフ比を示した(図 3)。  図 3 新しいグラフェントランジスタの電流のオン・オフ比  今回開発したトランジスタ

参照

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