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公務員倫理問題への新アプローチ

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Academic year: 2021

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Ⅰ.はじめに

国家公務員倫理法(倫理法)が施行されてから 12 年 が経過している。倫理法は、当初は「倫理を法律で縛る ことはできない」、「公務員を委縮させ官民の情報交換を 妨げる」といった批判に晒されたが、現在ではその存在 そのものを否定する意見はほとんどなく、日本の公務員 制度の中にしっかりと根づいているように見える。この 間、日本の公務員倫理の状況を見れば、倫理法施行後も いくつかの深刻な不祥事はあったものの、全体としてみ ればかつてのような官民あるいは官官組織間の度を越 した癒着は姿を消して倫理法は公務員倫理の改善に一 定の役割を果たしてきたといえよう。 一方で、国家公務員に対する国民の信頼感の欠如は深 刻1)であり、各省庁が新たな施策を打ち出すたびにそ の動機は官僚の利益擁護のためではないかとの疑いの 目を向けられる有様である。こうした状況は政府の仕事 を困難にしているだけではなく、必要な行政施策の実現 を妨げることで国民の不利益となるおそれがある。 そこで、本稿の目的は単に不祥事を防止することにと どまらず、国民の信頼感の醸成につながるような公務員 倫理に関する施策について幅広く検討を行うことにあ る。

Ⅱ.公務員倫理の尺度

日本の公務員倫理の現状について国際比較を行うた めに、この分野で定評のあるトランスペアレンシー・イ ンターナショナルの腐敗認識指数(CPI)を見てみよう。 CPIは、世界の国や地域の腐敗度が人々にどのように認 知されているかを示す指数で、0 と 10 の間の数値を取り、 数値が 0 に近いほど腐敗がはびこり 10 に近いほどク リーンな国であることを示している。CPI は、各国の専 門家やビジネスマンに腐敗に関する認識を尋ねたデー タから作成されている。人々の「認識」という意味では 主観的なデータではあるが、腐敗に関する 17 種類の様々 な調査結果を基に作成されたものであり、世界中の多数 の人々の認識から作られているという意味で客観性が 担保されているともいえる。評価対象の国や地域は年々 追加されており、2011 年の CPI では 183 の国や地域が 評価対象とされている。 トランスペアレンシー・インターナショナルは、腐敗 を「信託された権力を私的利益のために乱用すること」 と定義しており、収賄のほか横領なども含まれる。した がって、CPI の数値が高いということは、公権力の行使 にともなう深刻な不祥事が生じにくい国や地域である と人々に認識されていることを示す。なお、腐敗を行う 主体には国家公務員や地方公務員のほか政治家が含ま れていることに留意する必要がある。 表 1 は 2011 年の CPI 上位 30 か国 / 地域を示している。 Ⅰ.はじめに Ⅱ.公務員倫理の尺度 Ⅲ.日本の公務員倫理制度の特徴 Ⅳ.アメリカの公務員倫理制度の特徴 Ⅴ.ニュージーランドの公務員倫理制度の特徴 Ⅵ.OECD における公務員倫理への取り組み Ⅶ.公務員倫理の計量分析 Ⅷ.結びにかえて

公務員倫理問題への新アプローチ

阿久澤  徹

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日本は、世界全体 183 の国や地域の中で 14 位と好位置 を占めている。この結果は、日本の公務員バッシング報 道に慣れている人々には意外な結果であるかもしれな い。もちろん、腐敗と一人当たり GDP の間に逆相関が 認められることは開発経済学の分野で指摘されており2) 先進国はランキングの上位に位置する傾向がある。そう はいっても、日本は、イギリス、アメリカ、フランスな どの先進主要国を抑えての 14 位であり、日本の公務員 倫理は世界標準をクリアしていると評価することもでき る。特に、日本のランキングは現在と同じ調査方法が始 まった 1998 年の 25 位から大きく順位を上げており、 2011 年の上位 30 か国 / 地域のうち 1998 年も評価対象で あった国 / 地域の中では、日本はこの 13 年間でウルグ アイに次いで最も順位を上げた国である。先進国では最 も腐敗撲滅に成功した国ということもできよう。 表 1 2011 年腐敗認識指数(CPI) 順位 国 / 地域 指数 順位 国 / 地域 指数 1 ニュージーランド 9.5 16 オーストリア 7.8 2 デンマーク 9.4 16 バルバドス 7.8 2 フィンランド 9.4 16 イギリス 7.8 4 スウェーデン 9.3 19 ベルギー 7.5 5 シンガポール 9.2 19 アイルランド 7.5 6 ノルウェー 9.0 21 バハマ 7.3 7 オランダ 8.9 22 チリ 7.2 8 オーストラリア 8.8 22 カタール 7.2 8 スイス 8.8 24 アメリカ 7.1 10 カナダ 8.7 25 フランス 7.0 11 ルクセンブルグ 8.5 25 セントルシア 7.0 12 香港 8.4 25 ウルグアイ 7.0 13 アイスランド 8.3 28 アラブ首長国連邦 6.8 14 ドイツ 8.0 29 エストニア 6.4 14 日本 8.0 30 キプロス 6.3

出所)Transparency International Corruption Perception Index 2011

図 1 は日本の CPI ランキングの推移である。2000 年 以降順位が上昇傾向にあるのが見てとれる。この間の日 本の公務員倫理に関する出来事との関係を見ると、1998 年に大蔵省金融不祥事が発生し、これを受けて 2000 年 に倫理法が施行されている。これにより接待等は激減し たが、2001 年には 1990 年代の行為ではあるものの外務 省機密費流用事件が発覚している。また、2004 年には 労働局や警察での裏金問題が大きなニュースとなってい る。2000 年代前半に CPI の順位があまり改善しなかっ たのはこうした従来からの悪弊が表面化したためかもし れない。2000 年代後半に入ると、2007 年に防衛省事務 次官の収賄事件が発覚しているものの、全体として見れ ば大きな不祥事は減少している。 この時期に特筆すべきこととして、コンプライアンス・ ブームと呼ばれた民間企業の法令遵守への取り組みが盛 んになったことが挙げられる。コンプライアンス・ブー ム自体は、食品偽装や建築偽装など民間企業の不祥事を 背景に起こったものだが、2000 年前後に官民を通じて 日本社会が組織の清廉さを求めるようになったように見 えるのは興味深い現象である。いずれにせよ、この企業 側のコンプライアンスへの熱心な取り組みが贈収賄など の深刻な腐敗の減少に寄与した可能性がある。 図 2 は 1997 年から 2010 年までの日本の贈収賄の認知 件数の推移を示している。年により大きな変動があるも のの低下傾向がみられる。特に 2007 年以降の低下が顕 著であり、コンプライアンス・ブームが盛り上がった時 期とも一致している。ただし、2000 年代を通じて財政 再建のため国と地方の公共事業費が縮小してきており、 そもそも贈収賄が発生する土壌自体が縮小したことが影 響している可能性も否定できない。さらに、競争入札が 厳格化されたことや情報公開制度など政府の透明性を高 める施策が充実したことも贈収賄の減少に寄与している 可能性もある。2000 年代半ば以降の CPI の改善は、公 務員倫理制度の充実にこういった複合的な要因が重なっ た結果であろう。 いずれにしても、2000 年以降、日本の公務員倫理を 取り巻く状況は改善してきているといってよさそうであ る。もちろん、コンプライアンスにこだわるあまり職員 の委縮を招いて本来の目的である行政サービスの低下を 招いてしまう副作用には注意を払う必要があるが、日本 のこれまでの公務員倫理改善への取り組みは、おおむね 間違っていなかったと評価してもよいのではないか。 0 5 10 15 20 25 30 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 㡰఩ 図 1 日本の CPI ランキングの推移

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しかしながら、公務員倫理が改善してきているにも関 わらず日本では公務員への風当たりが依然として強い。 また公務員倫理が改善してきたといっても、CPI の上位 国であるニュージーランドや北欧諸国、シンガポールと の間には依然有意な差があるようにみえる。そこで、次 に何がそうした差を生んでいるのか、そして日本が CPI の上位に名を連ねるためにはさらにどのような努力が必 要になるのかについて考察を行うために、日本、アメリカ、 ニュージーランドの公務員倫理制度の特徴と OECD にお ける公務員倫理への取り組みを見ていくこととする。

Ⅲ.日本の公務員倫理制度の特徴

倫理法は、1990 年代後半に続発した幹部公務員の不 祥事を受けて制定された。しかしながら、倫理法で禁止 されている利害関係者からの接待や贈答品の受領は、そ もそも倫理法制定以前から国家公務員法第 99 条の信用 失墜行為の禁止規定によって罰せられるべきものであっ た。ところが、第 99 条は、「職員は、その官職の信用を 傷つけ、又は官職全体の不名誉となるような行為をして はならない」とだけ書かれた極めて簡略な規定で、具体 的に禁止される行為の範囲があいまいである。さらに、 日本の贈答文化と相まって、倫理法制定以前は接待の受 領は広範に黙認されていたのが実態であった。また、 1990 年代前半までは日本社会全体が接待について比較 的寛容であり、特にバブル期には民間企業で贅を尽くし た接待が広まった。バブル経済の崩壊により民間企業の 接待が急激に縮小し接待文化も大きな変容を迫られる が、官界はこの急激な変化について行けなかった。そう した状況の中で官僚の過剰接待の実態が明らかになり、 世間の指弾を浴びるようになった。そこで、霞が関の常 識を世間の常識に合わせるために倫理法が必要になった のである。 過剰接待に加えて問題となったのは、不祥事が発覚し ても幹部職員に対する処分が甘い傾向が見られたという ことである。懲戒処分は任命権者すなわち各省の大臣が 行うことになっているが、処分内容を決めるのは実質的 には官房人事系統の幹部職員である。したがって、被処 分者が幹部職員の場合は、処分者と被処分者が近しい関 係にある場合が多く思い切った処分ができなかった。そ こで、厳正な処分を可能にする仕組みが求められたので ある。 倫理法の制定に当たっては、アメリカの政府倫理法が 参考とされている。実際、利害関係者からの接待や贈答 品の受領禁止など共通点が多い。ただし、いくつかの相 違点もあり、例えば、資産・所得公開(報告)制度は、 アメリカの方がはるかに詳細かつ厳格である。その背景 には、アメリカの大規模な政治任命制度があるものと考 えられる。外部任命に当たっては、利益相反の有無が厳 格にチェックされる必要があるからである。一方、日本 の方が優れている点としては、行政外部の有識者からな る倫理審査会が倫理法違反の調査から処分の決定まで深 く関与する仕組みとなっていることが挙げられる。この 仕組みにより調査や処分の公正性を厳格に担保すること が可能となり、国民の信頼を高めることができたのであ る。 倫理法以前の公務員の行動基準は、国家公務員法の服 務規定に定められていた。実は、倫理法制定の際にこの 服務規定もそのまま存置されたことから、行動基準が倫 理法と国家公務員法の服務規定に併存する形が続いてい る(表 2 参照)。倫理法は職務に関連した接待や贈答品 の受領などの非違行為を対象としており、他の重大な非 違行為(例えば横領など)は対象としていない。したがっ て、これらの非違行為については、いかに重大なもので あっても国家公務員法の服務規定に従って各省庁の内部 で処理される。一方、倫理法違反については、いかに軽 微なもの(例えば利害関係者の庭でとれた柿をもらった というようなケース)であっても、倫理審査会で厳格な 審査が行われているのである。将来的には、職務に関連 した重大な非違行為については倫理法の対象とする、そ して、軽微な非違行為については倫理法違反であっても 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 ௳ᩘ 図 2 日本の贈収賄認知件数の推移 出所)犯罪白書より作成

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各省庁に処分を任せるといった方向での改革が望ましい ものと考えられる。 表 2 日本の公務員の行動基準 国家公務員法 国家公務員倫理法 服務の宣誓 法令・職務命令に従う義務 争議行為の禁止 信用失墜行為の禁止 守秘義務 職務専念義務 政治的行為の禁止 私企業からの隔離 ・ 利害関係者からの受領規制(贈与、 供応接待、金銭の貸付け、無償の 役務、未公開株式、監修・編纂料) ・ 利害関係者との接触規制(遊技・ ゴルフ、旅行) ・ 透明性の確保(贈与、飲食、報酬、 株取引、所得の報告、1 万円を超 える利害関係者との割り勘飲食の 事前届出)

Ⅳ.アメリカの公務員倫理制度の特徴

アメリカでは、1978 年にウォーターゲート事件を契 機に政府倫理法が導入されている。大きなスキャンダル を契機として導入された点では日本の倫理法と同様であ り、そのため厳しい内容となっている。大統領を含む幹 部公務員に対する資産・所得公開(報告)制度の導入を 柱としているが、家族までをも対象とする詳細で厳格な 公開制度には、行き過ぎた制度が優秀な人材を政府から 遠ざけているのではないかといった批判がつきまとって いる。 政府倫理法によって政府倫理庁が設置されており、そ の任務は資産・所得公開(報告)制度を運用することの ほか、行政府の職員の行動基準を制定すること、公務員 の倫理研修を実施することなどとなっている。政府倫理 庁の職員や各省で倫理法の解釈や相談に携わる倫理官 (Ethics Officials)は、個々の倫理法違反事件には関わら ない。倫理法違反事件の捜査を行うのは各省庁の監察官 (Inspector General)の仕事である。連邦政府で倫理プ ログラムに関わる職員は 6000 人を超え、彼らは倫理コ ミュニティと呼ばれるグループを形成して緊密な協力関 係にある。 資産・所得公開(報告)制度は、その虚偽記載が刑事 又は民事罰の対象になるが、腐敗を発見するためよりも 利益相反防止のカウンセリング・ツールとして活用され ているという。大統領候補者、大統領による任命者、そ の他の幹部職員など約 24,000 人が毎年、資産・所得公 開を行っている。そのほか、調達や契約、許認可などに 携わる汚職のリスクが高い職員約 26 万人が非公開資産・ 所得報告を行っている。報告書では、資産や所得、受領 した贈答品、負債などについて相手方の名前も含む詳細 な記録が求められる。報告書の審査の過程で利益相反が 認められた場合には、職務からの離脱のほか、資産の売 却、ブラインド・トラストへの信託などの手段で利益相 反の解消が図られる。 表 3 は、資産・所得公開フォームである。資産の種類 ごとに資産額とその資産から生じる所得額を記入する様 式になっている。プライバシーに配慮して、実際の金額 ではなく一定の金額幅の中から該当するものを選ぶ方式 となっている。これ以外に資産取引、報酬、贈答品、旅 費、負債、政府外の役職などについてのフォームも用意 されている。 アメリカの公務員の行動基準は、贈答品、経済的な利 益相反、公平性原理、連邦政府外の求職活動、地位の濫 用、連邦政府外のポストなどに関する詳細な規定である。 アメリカの倫理法令について興味深いのは、利益相反を 未然に防止するため利益相反が認められた場合に職務か ら離脱することなどによって公共の利益と私的利益の調 和を図る手段が公式に用意されていることである。日本 も各省庁単位で同様の措置が採られる場合はあるが、利 益相反の解決は主として職員個人の責任に委ねられる傾 向が強い。 アメリカでは、すべての連邦公務員は採用の際に倫理 研修の受講が義務づけられている。また、資産・所得公 開(報告)を行っている者にも毎年倫理研修を受講する 義務がある。倫理問題についてのカウンセリングが盛ん なこともアメリカの倫理制度の特徴である。カウンセリ ングを行うのは専門職員であり、人事担当者や監察官と の分離が図られていることがカウンセリングを受けやす くしている。また、政府倫理庁は 4、5 年ごとに各省の 倫理プログラムの審査を行っており、欠陥が発見された 場合には改善のための勧告を行っている。 アメリカの公務員倫理制度は、制度としてはおそらく 世界で最も充実したものである。にもかかわらず、アメ リカの CPI が世界で第 24 位にとどまっているのはなぜ であろうか。その原因は、倫理制度ではなく、国のガバ ナンスのあり方に関わっていると考えられる。すなわち、 政党よりも個々の政治家の力が強く利益誘導が盛んなア メリカの政治文化と先進国に類を見ない大規模な政治任 命の存在が腐敗を助長していると考えられるのである。 Cohen and Williams(1998)によれば、「1980 年代から

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1990 年代初めにかけてのアメリカのほとんどの腐敗や 倫理問題は、職業公務員ではなく政治家や政治任命者に よるものであった」という。日本では政治主導のため政 治任命を拡大すべきあるという議論があるが、仮に政治 任命を拡大する場合には政治任命者の公務員倫理をどの ように確保するかについて留意が必要であろう。 政治や公務員制度の問題に加えて倫理文化に問題があ る可能性もある。Ethics Resource Center(2009)によ れば、高い倫理文化はしばしば倫理制度より不祥事の防 止に効果的であるという。その倫理文化の中で特に効果 が大きかったのは「模範を示すこと」、「約束を守り、責 任を果たすこと」、「他者が倫理基準を守るようサポート すること」の 3 項目で、リーダーの役割が大きいことが 示されている。幹部職員が政治任命で頻繁に交代するア メリカでは、こうした倫理文化の構築は困難であろう。 日本の国家公務員倫理審査会が「次の 10 年に向けて、「職 員の倫理意識の涵養」、「倫理的な組織風土の構築」、「不 祥事への厳正な対応」の三つの倫理保持施策の課題を掲 げ」ている(平成 23 年度人事院年次報告)のも倫理文 化の重要性に着目した結果であると考えられるのであ る。

Ⅴ.ニュージーランドの公務員倫理制度の特徴

ニュージーランドの公務員倫理制度は極めて簡素なも のである。にもかかわらず、ニュージーランドの公務員 倫理の水準が高いのは、「97 年間プロフェッショナルで ノンポリティカルな公務員集団がおり、それ以前の 60 年間もイギリス政府から派遣されたモチベーションの高 い役人に支えられていた」からであるという(Beith Atkinson(2009))。 ニュージーランドは、ドラスティックな政府機関の民 営化など先進的な行政改革を行っている国として良く知 られているが、CPI のランキングも 1995 年の第 1 回調 査で世界第 1 位となって以降常に上位を占めている。最 近では、2006 年以降 6 年間に渡って世界第 1 位を続け ており、世界で最も腐敗の少ない国といっても過言では ない。ただし、細かく見てみると、1995 年の初回調査 以降 2 年連続して世界第 1 位となった後、1997 年から 2005 年にかけての 9 年間は、第 2 位から第 4 位の間に とどまっている。 この間のニュージーランドの行政改革の動向を見る と、それまでの分権的でアウトプットを重視した改革か ら総合的でアウトカムを重視した取り組みに転換が図ら れてきたという(小池治(2008))。すなわち、1980 年 代から 1990 年代にかけて各省庁別のアウトプットを重 資料出所)Office of Government Ethics ホームページ

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視したマネジメント改革が行われた結果、省庁間の連携 や長期的視野に立った組織管理が疎かになったため政府 の総合性が求められるようになったのである。 公務員倫理の分野でも分権改革の中で各省庁バラバラ の取り組みが行われていたが、2004 年の国家部門法改 正により国家公務委員長に各政府機関に共通の行動基準 を適用する権限が付与され、新しい行動基準が策定され ることになった。策定に当たっては、「ルール(アウトプッ ト)ではなく、職員の行動(アウトカム)を重視するこ と」、「よい政府の実現を強く求める気持ちを公務員の職 業意識の中心に据えること」、「命令調の二人称(you must)ではなく、職員を主体とする一人称(we must) を使うこと」、「何かを禁止するような表現(you must not do)ではなく、ポジティブで職員が誇りを持ってコ ミットできるような内容とすること」、「簡潔であること」 が重視されたという(Beith Atkinson (2009))。2007 年 には、こうした基本方針に従って次の 18 項目からなる 「ニュージーランド国家公務員の品位・行動基準」が発 出されている。 ・ 我々は、すべての人に公正かつ敬意を持って接しな ければならない。 ・ 我々は、プロフェッショナルかつ迅速に応答しなけ ればならない。 ・ 我々は、利用しやすく効率的なサービスを提供しな ければならない。 ・ 我々は、ニュージーランドとそのすべての国民の福 祉を向上させるよう努力しなければならない。 ・ 我々は、現在及び将来の与党と円滑に働けるよう政 治的中立性を保たなければならない。 ・ 我々は、職務の遂行に当たっては個人的信条に左右 されてはならない。 ・ 我々は、大臣等に堅実で偏見のない助言を行わなけ ればならない。 ・我々は、与党の権威を尊重しなければならない。 ・ 我々は、法律を遵守し客観的に行動しなければなら ない。 ・ 我々は、政府の財産は注意深く本来の目的にのみ用 いなければならない。 ・ 我々は、情報は注意深く適切な目的にのみ用いなけ ればならない。 ・ 我々は、政府の効率性を改善するよう努力しなけれ ばならない。 ・我々は、正直であらねばならない。 ・ 我々は、最善を尽くして職務の遂行に当たらなけれ ばならない。 ・ 我々は、職務の遂行に当たっては個人的利益や個人 的関係に影響を受けてはならない。 ・ 我々は、公務員としての立場を決して個人的利益の ために用いてはならない。 ・ 我々は、政府に何らかの義務を生じさせたり、影響 を与えたりすると見られるような贈答品やサービス を受け取ってはならない。 ・ 我々は、政府の信頼を損ねるような活動を行っては ならない。 ニュージーランドの公務員の行動基準は、何かを禁止 しようとするのではなく、公務員のあるべき姿を描こう としているように見える。そして、一人称を使うことで、 行動基準を外部からの命令から職員個々人の内心の要請 に昇華しようとしている(ニュージーランドの公務員倫 理担当者は、職員の aspiration という単語を好んで用い る)。また、政治的中立性や利益相反に関するものなど 各国共通の規定に加えて、迅速な応答性や効率性など近 年の行政改革の動向を反映した内容を含んでいる点も特 徴的である。 ニュージーランドの行動基準は、おそらく世界で最も 短い規定のひとつである。策定に当たっては、2006 年 にイギリスの行動基準が 2 枚紙にまとめられたのを意識 して、さらに短くして 1 枚紙に収まるようにしたのだと いう。精緻な公務員行動基準が必ずしも良いとは限らな いということであろう。 公務員倫理にとって真に重要なのは、行動基準の中味 (アウトプット)よりもそのエートスを本当に公務員一 人ひとりが身に付けているかどうか(アウトカム)であ る。ニュージーランドが CPI 世界第 1 位に返り咲いた ことがそうした努力の結果であるかどうか確たることは いえないが、少なくとも、ニュージーランドの公務員倫 理担当者はその重要性をよく認識していたようである。

Ⅵ.OECD における公務員倫理への取り組み

OECDにおける公務員倫理への取り組みは、国境を越

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えた贈収賄対策を契機としていた。公務員への賄賂はど の国でも違法とされているが、外国公務員への賄賂が禁 止されるようになったのは実はそれほど昔のことではな い。米国ではロッキード事件を契機に 1977 年に海外腐 敗行為防止法が制定され、外国公務員への贈賄を初めて 禁止している。その後、米国は、公正な競争確保の観点 から各国にも同様の取り組みを求め、1997 年に「OECD 外国公務員贈賄防止条約」という形で結実した。日本は、 不正競争防止法の改正により 1998 年に同条約を批准し ている。 また、OECD では 1990 年代後半から公務員倫理制度 についての体系的な研究を進め、「公務員倫理を管理す るための 12 原則」を開発している(OECD(1998))。 2000 年代に入ると、途上国の公務員倫理制度整備に関 する支援のほか、各国の倫理制度が適切かどうかについ ての審査も積極的に行うようになっている。こうした公 務員倫理制度についての支援や審査に当たっては、次の ような点に留意が払われている3) 「組織の公正性は職員の倫理を説明する決定的な要因 であるということが理解されるようになってきており、 例えば、報酬が自分の仕事の価値よりも遙かに少ない と感じている職員は、その不公正を倫理違反を含む何 らかの方法で正そうとする」(OECD(2009))。途上国 において公務員不祥事が多いのは、十分な報酬が支払 われていないためである場合が多い。逆に、十分な報 酬が支払われていれば、不祥事によってその仕事を失 うことを恐れるため服務規律を守るインセンティブが 働くのである。 「倫理管理は制度を重視するルール指向アプローチと 個人の意識や組織文化を重視するバリュー指向アプロー チに分類できるが、各国の実状に即した両者の適切な組 み合わせが重要である。ほとんどの政府は伝統的にルー ル指向アプローチを重視してきたため、現在はバリュー 指向アプローチへ向かう傾向にある」(OECD(2009))。 日本の現状もこうした段階にあると考えられ、倫理制度 の普及よりもそのエートスの実現を目指した施策への転 換が求められているのである。 「ささやかな贈答品を禁止することは、倫理管理を矮 小化し、ばかげたものにする危険がある。また、ゼロ・ ギフト・ポリシーは、偽善の危険を増大し倫理問題につ いてオープンな議論ができる文化を作ろうとする努力を 損なうおそれがあるため、すべてのタイプの贈答品を禁 止 す る こ と は 現 実 的 で も 望 ま し く も な い 」(OECD (2009))。日本の公務員倫理制度においても、(必ずしも そういったルールがあったということではないが、)施 行当初は訪問先でコーヒー一杯飲めないというような運 用が行われていた。国民と公務員の双方から信頼される 倫理制度であるためには、一般社会の常識に合致した ルールとする必要がある。 「倫理を人事評価や昇進の基準にすることは、組織が 倫理を重要と考えているというシグナルを送ることにな る」(OECD(2009))。日本の公務員制度においても、 平成 21 年から施行されている新たな人事評価の評価項 目に「倫理」が取り入れられている。職員の倫理の評価 はまだ試行錯誤が始まったばかりであるが、この評価項 目を意味あるものにしていくためには、規律を守ってい るかどうかだけに基づいてマイナス評価を行うのではな く、「国民全体の奉仕者」にふさわしい態度で仕事に臨 んでいるかどうかに基づいてプラス評価を積極的に行 なっていくべきであろう。 「倫理研修はフォローアップを行うことによりその効 果が大きく増大するため、例えば、職場で研修員に倫理 問題に関して提案させたり、学んだテクニックを日常の ミーティングで活用して倫理的ジレンマについて議論を 行わせたりすることなどが有効である」(OECD(2009))。 研修におけるフォローアップの重要性は倫理問題に限定 されるものではないが、倫理はすべての職場で共通の問 題であり、ワークプレイス・ラーニングと呼ばれる職場 における学習手法が取り入れやすいテーマである。倫理 週間などで、倫理問題についての職場単位のディスカッ ションが既にいくつかの機関で取り入れられているが、 バリュー志向アプローチの施策として積極的に普及させ ていくべきであろう。 「懲罰は、違反の程度及び同様の違反を犯した他の職 員への懲罰とバランスのとれたものでなければならな い。特に、幹部職員が一般の職員に比べて処分が軽いと 見られることは、懲罰制度の効果と正当性を損なうこと になる」(OECD(2009))。前述のように、1990 年代後

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半の日本の公務員不祥事に対する批判には、幹部職員の 処分が不当に甘いというものがあった。職責を考慮すれ ば、同じ違反でも幹部職員には一段高い処分が必要であ る。 OECDにおけるこれらの知見は、文化や制度の違いを 超えて各国に共通なものとして得られた結論であり、日 本の公務員倫理問題の検討に当たっても参考になる点が 多い。

Ⅶ.公務員倫理の計量分析

本章では、公務員倫理の決定要因について考察するた め CPI 指数を独立変数とする回帰分析を行っている。 データの対象は、CPI 上位国間の公務員倫理の決定要因 を考察するという目的から 2011 年の CPI ランキングが 30 位以内の国 / 地域に限定している。なお、このうち説 明変数の入手が不可能なバハマとセントルシアは除外し ている。 説明変数には、まず、開発経済学で相関が指摘されて いる「国民一人当たり GDP」を採用した。「国民一人当 たり GDP」が公務員倫理の水準に影響を与えるメカニ ズムとしては、所得が上がることで公務員給与も上がり 汚職へのインセンティブが低下することや経済発展とと もに汚職防止の仕組みが充実することなどが考えられ る。ただし、今回の分析は対象がほぼ先進国に限られ、 上述のメカニズムは先進国ではほぼ満たされていると考 えられることから、その説明力はそれほど高くないこと が予想される4) 第 2 の説明変数には、社会やマスコミによる監視が強 いほど汚職を抑制できる効果が期待されることから、世 界銀行が公表している『世界ガバナンス指標』の「発言 権と説明責任(VA)」(その国の国民が政府の選択にど の程度参加できるか、表現・結社・報道の自由の度合い) を採用した。『世界ガバナンス指標』は、世界の数万人 の人々と数千人の専門家の見解をまとめることで作成さ れている。CPI と同様主観的な見解に関する調査ではあ るが、調査対象を大きくすることで客観性の確保が図ら れている。 産業社会学では、職場における非行と仕事の満足度の 間で強い負の相関関係が存在することが報告されている (Huiras et al.(2000))。また、日経リサーチの調査モニ ターによれば、自社で働くことに誇りを感じている従業 員の多い企業では不祥事は少ないという(桑原(2007))。 自分の仕事に誇りを感じていれば、不祥事を起こして誇 りを失うことを望まないからである。 こうしたメカニズムは公務員にも同様に働くことが期 待できる。しかしながら、公務員の仕事の満足度につい て国際比較が可能なデータは存在しないため、代わりに 第 3 の説明変数として『世界ガバナンス指標』の「政府 の有効性(GE)」(公共サービスの質、公務員の能力と 政治的圧力からの中立、政策策定の質)を採用した。経 営学では、従業員の満足度(ES)、顧客の満足度(CS)、 企業業績の間に正の相関が見られることが多くの研究で 報告されており5)、公務員の仕事の満足度(ES)が高 い国では、顧客(国民)の満足度(CS)や業績(政府 の有効性)が高くなると考えられるからである。 このほか、公務員倫理を高めるのに効果的と考えられ るものに政府の公開性・透明性が挙げられる。例えば、 スウェーデンでは公開性が民主主義と汚職防止の手段と み な さ れ て い る と い う(Ministry of the Interior and Kingdom Relations of the Netherland(2008))。スウェー デンでは、公務員は秘密に属するものでない限りはマス メディアに対して職務に関するどのような意見でも自由 に表明することができる。この公務員の表現の自由の保 障が内部告発制度(whistleblowing)を支える基礎となっ ているのである。この公開性・透明性を計る第 4 の説明 変数として、世界経済フォーラムが公表している『国際 競争力レポート』の「政府の政策形成における透明性 (TR)」(企業活動に影響を与える政策や規制の変化に関 する情報の入手しやすさ)を採用した。『国際競争力レ ポート』では 110 の指標が公開されているが、それらは 各国の企業の重役に対するオピニオン調査などから作成 されている。 表 4 は、以上の説明変数による CPI の決定要因につ いての重回帰分析結果を示している。モデルの決定係数 (R2)は 0.734 とかなり高く、モデルは全体として CPI 上位国の指数の変動をよく説明している。個々の説明変 数については、「国民一人当たり GDP」は 10%水準で有 意であるが、5%水準で帰無仮説が棄却できなくなる。 やはりサンプルがほとんど先進国に限られていることが 影響しているものと考えられる。次に「発言権と説明変 数(VA)」は、ほとんど CPI の動きを説明していない。 これはやや意外な結果であるが、サンプルが先進国であ

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るため表現の自由がある程度均質化してしまっている可 能性がある。 これに対して、有意性が高かったのが「政府の有効性 (GE)」と「政府の政策形成における透明性(TR)」で ある。以上の分析結果は、先進国では、さらなる経済発 展を求めるよりも政府の有効性や透明性を高めることの 方が汚職防止に有効となる可能性が高いことを示唆して いる。政府の有効性を高めることは容易なことではない が、上述のように公務員の仕事の満足度(ES)が顧客(国 民)の満足度(CS)や業績(政府の有効性)の向上に 結びつくとすれば、公務員の仕事の満足度(ES)を高 めるような施策について検討する意味は十分あると考え られるのである。 表 4 CPI の決定要因に関する重回帰分析 説明変数 係数 (t 値) 国民一人当たり GDP 0.015+ (単位:千ドル) (1.921) 発言権と説明責任(VA) 0.004 (0.670) 政府の有効性(GE) 0.056* (2.737) 政府の政策形成における透明性(TR) 0.094** (3.645) 定数 −3.105 (−2.164) N 28 決定係数(R2) 0.734 自由度修正済み決定係数(Adj. R2) 0.687 注 1)データは、いずれも 2010 年のもの   2) 政府の政策における透明性は、各説明変数の大きさを標 準化するためオリジナル・データを 10 倍している。   3) ** は 1%、* は 5%、+は 10%の水準で統計的に有意で あることを示している。 多重共線性が生じるため回帰分析には含めていない が、『世界ガバナンス指標』では上記の指標のほか 、「政 治的安定と暴力やテロのない社会(PV)」(テロリズム などの暴力行為や基本的な法制度に違反した行為によっ て、政府が不安定になる可能性)、「規制の質(RQ)」(政 府が民間セクターの発展を可能にし、促進する健全な政 策や規制を実施する能力)、「法の支配(RL)」(当局に よる法制度の遵守保障状況、財産権の保障の程度、警察、 裁判所などの質、犯罪リスクを含む)などの指標がある 6)。表 5 は各指標の相関行列であるが、多くの指標間で 高い相関が観測されている。特に「政治的安定と暴力や テロのない社会(PV)」と「法の支配(RL)」は CPI と 高い相関がある。「法の支配(RL)」が貫徹している社 会では汚職も抑制される可能性が高く、「政治的安定と 暴力やテロのない社会(PV)」とは全般的に治安の良い 社会で汚職もよく取り締まられていると考えられるから である。ただし、これらの項目は、汚職防止の手段とい うよりそれ自体がより大きな政策目標であり、その目標 を達成する結果として CPI の副次的な改善も期待でき るといった性質のものであろう。 指標の多くが相互に高い相関を示しているため、どの 変数が実際に CPI の改善に結びつくのか特定すること は困難である。さらにいえば、実は他の変数と CPI の 間には因果関係はなく、ハロー効果7)や各指標を同時 的に改善する隠れたファクター8)が存在している可能 性すらある。実際のところは、多くの指標が相互に関係 しあっており、影響を与え合いながら同時に改善してい くというのが現実の姿に近いのではないだろうか。逆に いえば、公務員倫理の改善だけにターゲットを絞った政 策はあまり効果的ではない可能性がある。すなわち、公 務員倫理の改善を目標とするとしても、公務員倫理制度 の中だけで考えるのではなく、政府のガバナンス全般の 改善と結びつけて施策を展開する方が効果的であると考 えられるのである。そして、政府のガバナンスを高める ことは、国民の信頼感の醸成につながるような公務員倫 理の改善という本稿の目的にもかなうものである。 表 5 各指標の相関行列 CPI GDP VA PV GE RQ RL TR CPI 1 GDP 0.25 1 VA 0.27 -0.44 1 PV 0.70 0.36 0.04 1 GE 0.74 0.10 0.49 0.35 1 RQ 0.56 0.93 0.47 0.06 0.80 1 RL 0.72 0.06 0.67 0.30 0.90 0.87 1 TR 0.69 -0.00 0.17 0.59 0.50 0.36 0.46 1

Ⅷ . 結びにかえて

公務員倫理の決定要因は、公務内で形成・伝承される 倫理文化、民間企業のコンプライアンスの状況、政府の ガバナンスなど公務員倫理制度以外にも多数存在するこ とが明らかになった。これらの決定要因の状況は国に

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よって異なるため、どのような施策が公務員倫理の改善 に最も有効であるかは国の状況によって異なってくると 考えられるが、一般的には当該国で弱い決定要因に集中 して政策資源を投入することが効率的な公務員倫理改善 策となる可能性が高い。 先進国では公務員倫理制度はほぼ整備されている。本 研究は、そのような国々でさらに公務員倫理を高めるた めには、倫理制度の改正よりも倫理文化や政府のガバナ ンス全般を高めるような施策が効果的であることを示唆 している。倫理における幹部公務員のリーダーシップや 公務員の仕事の満足度(ES)、政府の透明性を高める政 策は実行可能性という点からも有望である。 特に、公務員の仕事の満足度(ES)を高める施策は、 不祥事を減らすとともに、行政サービスの向上を通じて 国民の満足度(CS)や政府の有効性を高める効果も期 待できることから、公務員への国民の信頼感の醸成につ ながるものである。これまで、行政サービス向上のため に公務員は我慢すべきであると主張されることが多かっ たが、そうしたアプローチは公務員の士気をくじくこと で逆に行政サービスの低下を招く可能性がある。公務員 倫理の改善と行政サービス向上のため、政府は公務員の 仕事の満足度(ES)を高めていくことについて真剣に 取り組む必要があるのではないだろうか。 1)2005 年の世界価値観調査によれば、公務員への信頼を尋 ねる問に対して、日本では「大いに信頼している」が 1.4%、「か なり信頼している」が 31.4%、「あまり信頼していない」が 51.4%、「全く信頼していない」が 15.8% となっており、国 際的に見て信頼の程度が低い。 2)先行研究の整理については、鈴木・岩崎(2008)が詳しい。 3)OECD は、 近 年、 公 務 員 倫 理 問 題 に 関 し て ethics よ り integrityという言葉を好んで用いるが、日本語ではどちらも 「倫理」という言葉のニュアンスに近い。 4)鈴木・岩崎(2008)によれば、経済発展が汚職活動を抑制 する限界効果は発展につれて逓減するという。 5)先行研究の整理については、Ram et al.(2012)が詳しい。 6)このほか「腐敗の抑制」という指標があるが、この指標は CPIを作成するのに使用されているため説明変数としては適 当ではない。 7)評判の良い政府について、ガバナンスに関するすべての指 標について高く評価する傾向が生じるようなケース 8)例えば、優れた政治リーダーの存在がすべての指標の同時 的な改善をもたらすようなケース 参考文献

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図 1 は日本の CPI ランキングの推移である。2000 年 以降順位が上昇傾向にあるのが見てとれる。この間の日 本の公務員倫理に関する出来事との関係を見ると、1998 年に大蔵省金融不祥事が発生し、これを受けて 2000 年 に倫理法が施行されている。これにより接待等は激減し たが、2001 年には 1990 年代の行為ではあるものの外務 省機密費流用事件が発覚している。また、2004 年には 労働局や警察での裏金問題が大きなニュースとなってい る。2000 年代前半に CPI の順位があまり改善しなか
表 3 アメリカの資産・所得公開フォーム

参照

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