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香川県公立小中学校の特別支援教育コーディネーターを対象とした属性と業務意識に関する調査Ⅱ-香川大学学術情報リポジトリ

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香川大学教育実践総合研究(Bull. Educ. Res. Teach. Develop. Kagawa Univ.),23:143−152,2011

Ⅰ はじめに

 香川県が,2003(平成15)∼2004(平成16) 年度に,文部科学省の「特別支援教育推進体制 モデル事業」の委嘱を受けてから約8年,2007 (平成19)年度に特別支援教育が本格的に実施 されはじめて4年が経過した。「特別支援教育 推進体制モデル事業」では高松市をモデル地区 として,小中学校の通常の学級に在籍するLD, ADHD,高機能自閉症等のある児童生徒を対 象とした関係機関と連携した総合的な支援体制 の整備を行い,また2005(平成17),2006(平 成18)年度には,県内全域を推進地域として, 文部科学省の「特別支援教育体制推進事業」を 展開した。  香川県における特別支援教育コーディネー ターの設置率は平成19年度に100%となり,特 別支援教育コーディネーターの経験度にあわせ て養成研修や専門研修など,数々の研修会が開 かれている(香川県教育委員会,2007)。  約3年前の2007(平成19)年度の終わりに, 香川県教育委員会の協力を得て,県下の公立小 中学校の特別支援教育コーディネーターにアン ケートをお願いし,その結果を2009(平成21) 年にまとめた(小方・惠羅,2009)。それから 3年が過ぎたが,その後香川県の特別支援教育

香川県公立小中学校の特別支援教育コーディネーター

を対象とした属性と業務意識に関する調査Ⅱ

小方 朋子・惠羅 修吉

(特別支援教育) 760−8522 高松市幸町1−1 香川大学教育学部

The Recognition of Practice in Relation to the Attributes of

Special Needs Education Coordinators of Elementary School

and Junior High School in Kagawa Ⅱ

Tomoko Ogata and Shukichi Era

Faculty of Education, Kagawa University, 1-1 Saiwai-cho, Takamatsu 760-8522

要 旨 3年前と同様のアンケート調査を行い,県下の公立小中学校の特別支援教育コー ディネーターが,小中学校において実際にどのような立場で活動しているのか,どれくらい 活動する時間が確保できているのか,また自己評価並びに日頃の活動で困難を感じる点など を比較した。属性や活動時間などに大きな変化は見られなかった。担任を持ちながらの特別 支援教育コーディネーターがいかに動きやすい体制を作っていくかが今後の課題である。 キーワード 特別支援教育コーディネーター 実態調査 自己評価

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表1 自己評価に関わる質問項目 No   1 校内委員会の計画的な運営,推進ができている 2 児童生徒の指導に悩んでいる教職員がいる場合,その状況(どのような悩みか等)を把握できている 3 保護者の学校への要望やニーズを把握できている 4 校内リソース(資源)を把握している 5 校外リソース(資源)を把握している 6 個別の教育支援計画を策定できる 7 個別の指導計画を作成している,または作成へ参画している 8 ケース会議を企画,実施している 9 校内研修会企画,実施している 10 県教委の巡回相談員との連携・ネットワークができている 11 保健・医療機関との連携・ネットワークができている 12 福祉機関と連携・ネットワークができている 13 特別支援学校と連携・ネットワークができている 14 教育機関と連携・ネットワークができている 15 他校コーディネーターと連携・ネットワークができている 16 発達障害に関する一般的な知識がある 17 障害のある児童生徒の教育に関係する法令の知識がある 18 障害のある児童生徒の教育課程や指導方法の知識がある 19 事例研究の進め方がわかっている 20 学級づくりの理論・技法がわかっている 21 教育相談,カウンセリングの理論・技法がわかっている 22 心理検査の知識・技能がある コーディネーターの状況がどのように変化して いるのか,小中学校において実際にどのような 立場で活動しているのか(学級担任,校務分 掌等),どれくらい特別支援教育コーディネー ターとして活動する時間が確保できているの か,また特別支援教育コーディネーターの業務 に対する自己評価並びに日頃の活動で困難を感 じる点などを明らかにするために今回の調査を 実施した。  これによって現在の香川県における特別支援 教育コーディネーターの属性と業務意識を明ら かにし,3年前の調査と比較することで,どの ような変化があるのか,課題はどこにあるのか など,この調査から得られた知見を元に特別支 援教育コーディネーターのニーズや求められる 能力,並びに小中学校に対する支援のあり方に ついて検討し,本学大学院の教育学研究科特別 支援教育コーディネーター専修における研修内 容を検討する。

Ⅱ 方法

1.調査対象者 香川県下の公立小中学校にお ける特別支援教育コーディネーター全員を対象 とした。調査用紙は,香川県教育委員会を介し て,小学校181校および中学校71校に配布した。 2.調査時期 2010年10月に実施した。 3.質問紙の構成 質問項目対象者の属性に関 する項目としては,勤務校の校種,性別,教職 経験年数,特別支援教育コーディネーターの経 験年数,職名,校務分掌における兼務の有無と その内容,学級担任の兼務状況(通常学級か特 別支援学級か通級指導教室),障害児教育等の 経験の有無,週あたりの授業担当時間,特別支 援教育コーディネーターとして仕事をした週あ たりの業務時間について質問した。

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 また各学校の特別支援教育コーディネーター が自らの業務状況や専門性についてどのように 自己評価しているか,22項目の質問を設定し (表1),5段階評価による回答を求めた(「まっ たくそうでない」の1点から「とてもそうであ る」の5点までとした)。質問項目の内容につ いては,曽山・武田(2006)を参考にした。  さらに,特別支援教育コーディネーターとし ての仕事の困難な点,2010(平成22)年度に特 に力を入れた点について自由記述による回答を 求めた。最後に,関連する学会への参加の有 無,自主的に研修会等に参加したかどうかにつ いて質問した。属性や自己評価に係る質問項目 は前回と同じであるが,自由記述については項 目を減らしている。

Ⅲ 結果と考察

 回収数は小学校が193名,中学校が74名であ る。これは特別支援教育コーディネーター2名 制の小学校が12校,中学校が2校,3名制の小 学校が1校あったためである。回答率はほぼ 100%となった。  小学校と中学校それぞれで集計した結果を前 回の調査と比較した。 教職経験年数  教職経験年数別の人数を図1に示した。小中 学校ともに,教職経験年数が20年以上の教員が 大多数を占めており,これは前回の調査と同じ 傾向を示している。 特別支援教育コーディネーターの経験年数  特別支援教育コーディネーターの経験年数別 による人数を図2に示した。今回の調査結果で は,小学校は1年目が一番多く,2年3年がそ の半数程度となっており,7年目8年目が登場 した。5年6年が増加した分2年3年が減少し た形となっている。  中学校は1年目と2年目がほぼ同じくらいに 多く,次いで4年6年となっているが,7年8 年の人はいなかった。3年がかなり減り,その 分4年5年6年が増加したような形になってい る。  前回の調査時に,経験年数が短い人が多い理 由は,特別支援教育が発足してまだ年数がたっ ていないからではないかと思われたが,3年後 の今回の調査においてもやはり1,2年が多い という結果になった。つまり多くの特別支援教 育コーディネーターが短い年数で交代している ということである。 職名  職名別に分類した人数を図3に示した。小中 学校とも教諭が一番多くなっている。前回の調 査では教頭が小学校で20%,中学校で11%程度 兼務している学校があったが,今回は教頭兼務 の学校がかなり少なくなった。おそらくこれは 「新しくできた校務分掌はまず教頭」という担 当の仕方ではなくなってきたということではな いかと思われる。 兼務している校務分掌  兼務していると答えた人数は,小学校が178 名,中学校50名。兼務していないと答えた人数 は小学校13名,中学校24名であった。兼務して いる業務は,小学校では「教育相談」「特別支 援学級主任」「給食」「教科書」などが多く,中 学校では「教育相談」「特別支援学級主任」「生 徒指導」などであった。 学級担任の兼務  学級担任を兼務している 172名 (そのうち 通常の学級17名,特別支援学級119名,通級指 導3名)であった。兼務なしと回答したのは20 名であった。担任を兼務していると答えなが ら,通常の学級なのか特別支援学級なのか通級 担当なのかを答えていないものがかなりあった のでこのような数字になっている。  中学校は学級担任を兼務しているのは63名 (そのうち通常の学級3名,特別支援学級40名) であった。兼務なしは12名であり,この割合は 前回の調査時とあまり変わっていなかった。前 回と同様に,特別支援学級の担任として自分の

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ればならないという状況であった。 担当する児童・生徒だけでなく,校内の特別支 援教育の対象となる児童・生徒にも対応しなけ 図1 教職経験年数別の人数 2 6 16 103 63 6 4 19 108 56 0 20 40 60 80 100 120 1-5年 6-10年 11-20年 21-30年 31年- 人数 教 職 経 験 年 数 A.小学校 前回 今回 1 1 11 45 16 1 2 9 46 14 0 10 20 30 40 50 1-5年 6-10年 11-20年 21-30年 31年- 人数 B.中学校 前回 今回 教 職 経 験 年 数 図2 特別支援教育コーディネーター経験年数 71 38 37 15 13 10 2 3 73 49 50 16 4 1 0 0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 1年 2年 3年 4年 5年 6年 7年 8年 人数 経 験 年 数 A.小学校 前回 今回 27 25 2 9 4 7 24 24 20 2 1 0 0 5 10 15 20 25 30 1年 2年 3年 4年 5年 6年 人数 B.中学校 前回 今回 経 験 年 数 図3 職名別人数 1 1 1 167 22 1 2 5 147 38 0 50 100 150 200 その他 講師 養護教諭 教諭 教頭 人数 職 名 A.小学校 前回 今回 0 0 1 70 3 0 1 1 61 8 0 10 20 30 40 50 60 70 80 その他 講師 養護教諭 教諭 教頭 人数 B.中学校 前回 今回 職 名

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障害児教育等の経験  盲・聾・養護学校勤務,特別支援学級の担任, 通級指導の担当,特別支援学級の授業担当経験 の有無をきいた(複数回答可)。種類別人数を 図4に示す。小学校でも中学校でも「経験なし」 の回答が減っており,特別支援学級の担任,通 級指導の担当,特別支援学級の授業を担当は増 加している。 週あたりの担当授業時間  週あたりの担当授業時間を図5に示した。小 学校では前回も「26時間以上」が一番多かった ものの,「21時間−25時間」と「26時間以上」 の差があまりなかったのに対し,今回はかなり 「26時間以上」が多くなっている。中学校にお いては「21時間−25時間」と「16時間−20時間」 が逆転し,「21時間25時間」が一番多くなった。 つまり前回の調査時より,香川県の特別支援教 育コーディネーターは忙しくなっているといえ る。 週あたりの特別支援教育コーディネーターとし ての業務時間  図6は週あたりどのくらい特別支援教育コー ディネーターとしての業務を行っているかを示 したグラフである。週あたりの特別支援教育 コーディネーターとしての業務時間は前回の調 査時と比べてあまり変わっていない。特別支援 教育コーディネーターとして週あたり1時間か ら5時間程度しか動けない,という回答であ る。前回は,どのような仕事があるのか,どう 動いたら特別支援教育コーディネーターとして の仕事か分からないといこともあって,1時間 から5時間という回答が多いと理解していた が,今回においてもあまり変化がないという結 果になった。 特別支援教育コーディネーターの職務に関する 自己評価  自己評価については,小学校より中学校の方 が全体的に低めになっている。自己評価が高い のは,小学校では「発達障害に関する一般的な 知識がある」「個別の指導計画を作成している, または作成へ参画している」「校内リソースを 把握できている」「児童生徒の指導に悩んでい る教職員がいる場合,その状況を把握できてい る」であり,中学校では「発達障害に関する一 般的な知識がある」「個別の指導計画を作成し ている,または作成へ参画している」「校内リ ソースを把握できている」「保護者の学校への 要望やニーズを把握できている」である。逆に 低いのは双方とも「福祉機関との連携」「障害 のある児童生徒の教育に関係する法令」「心理 検査の知識・技能」などであり,これら小中学 校共通のこの傾向は前回とあまり変わっていな い。 日頃困難を感じる点  自由記述形式で,特別支援教育コーディネー ターの仕事の中で日頃どんなところに困難を感 じるかを質問した。選択肢をもうけず自由記述 としたため,書き方は様々であるが,小学校で も中学校でもやはり予想通り一番多い回答は 「時間がない,余裕がない」というものであっ た。小学校では,「担当授業時数」と「特別支 援教育コーディネーターとして週に何時間時間 を使っているか」という問に対する回答の多く が週26時間以上の授業担当,特別支援教育コー ディネーターとしての活動時間は週1∼5時間 であるという組み合わせであるから,当然と言 えば当然であろうか。「授業時数が多く子ども の状態を見に行くことができない」「実体把握 が十分にできず具体策を提案できない」「自分 も担任しているので,他の学級を見る暇がな い」「ケース会議をする時間がない」「臨時校内 委員会がしたくてもなかなかできない」「多忙 である」「相談を受ける時間がない」というこ とばが並ぶ。やりたくてもできない,やらなけ ればならないのに時間的に無理,時間さえあれ ばやれることはあるのにという思いがみえる回 答が多数あった。またなんとか休み時間をつ かって二言三言担任に声をかけたり,子どもの 様子を観察したりしているというものもあっ た。

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ある。「人間関係の十分でない児童や保護者と 関係を作るのが難しい」「なかなかわかっても らえない」などがあがった。専門機関とつなぐ 時間がない,専門機関との連携も忙しい合間を 縫って何とかしている状態であるし,なかなか 難しいという回答も多かった。  また子どもの実態把握まではしているのだ が,実際に次の手が打てないという「通常の学 級の発達障害を持った児童について,担任から の相談は受け把握できているが,なかなか動く 時間がない」など,次の段階になかなか進めな いというものがあった。  やはり多かったのが保護者との連携の問題で 図4 障害児教育等の経験 26 45 27 155 16 42 23 19 140 15 0 50 100 150 200 経験なし 支援学級授業(障害児学級授業) 通級指導担当 特別支援学級担任(障害児学級) 盲・聾・養護学校 人数 経 験 A.小学校 前回 今回 5 53 21 60 2 13 33 5 49 3 0 10 20 30 40 50 60 70 経験なし 支援学級授業(障害児学級授業) 通級指導担当 特別支援学級担任(障害児学級) 盲・聾・養護学校 人数 B.中学校 前回 今回 経 験 図5 週あたりの担当授業数別の人数 2 1 12 4 4 56 112 5 1 26 8 9 64 80 0 20 40 60 80 100 120 0時間 1-5時間 6-10時間 11-15時間 16-20時間 21-25時間 26時間以上 人数 時 間 数 A.小学校 前回 今回 0 0 7 6 28 29 4 1 1 4 11 27 23 4 0 5 10 15 20 25 30 35 0時間 1-5時間 6-10時間 11-15時間 16-20時間 21-25時間 26時間以上 人数 B.中学校 前回 今回 時 間 数 4 151 11 0 3 1 0 21 14 140 20 3 0 1 0 0 20 40 60 80 100 120 140 16 0時間 1-5時間 6-10時間 11-15時間 16-20時間 21-25時間 26時間以上 不明 人数 時 間 数 A.小学校 前回 今回 図6 週あたりの特別支援教育コーディネーター業務時間別の人数 4 54 9 1 0 0 0 6 6 54 4 0 0 0 0 0 10 20 30 40 50 60 0時間 1-5時間 6-10時間 11-15時間 16-20時間 21-25時間 26時間以上 不明 人数 B.中学校 前回 今回 時 間 数

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 相談されてもアドバイスがなかなかうまくで きないというような自分の力量不足を,日頃困 難を感じる点としてあげる人もあった。「クラ スの中で困っている児童に対してWISCを実施 したがそれに対しての考察が十分にできず,保 護者に対して的確な報告ができるかが難しい」 初めて特別支援教育コーディネーターになった 人は,「特別支援学級担任,特別支援コーディ ネーターともに初めての経験で,何をするのも 説明を聞いたり教えてもらわないと分からな い」という状況もあった。  職員の意識改革がまだまだであるという回答 も見られた。「実践してほしいことが徹底しな い」という厳しい指摘や「教育支援計画の必要 性が浸透しにくく,目標,手立て,評価の記入 が十分でない」なかなか発達障害のある子ども のことを理解してくれない,共通理解が進まな いといった悩みもみられた。  対象児への指導についても,発達障害児へ対 応すること,個別の指導計画の作成,個別の教 育支援計画の作成,適切な指導方法のアドバイ スが難しい,アドバイスはしても,なかなか40 名の児童を毎日指導する担任としては難しいの ではないか,などという記述があった。  またコーディネートするという仕事,保護者 担任児童関係機関の4者の連絡調整が難しい, 支援員と担任とのコミュニケーションの仲介を しにくい,担任にどの程度関わっていけばよい のか分からない,同僚には言いにくいこともあ るという悩みも見られた。まさに特別支援教育 コーディネーターにもとめられている高度なコ ミュニケーション力が試されているところであ る。  前回の調査時よりかなり増えた特別支援教育 コーディネーター二名体制であるが,2名コー ディネーターがいる場合の仕事の分担が難しい という回答も見られた。  小規模校からは「極小規模校のために,日常 的に全職員と話ができるという良さがあるた め,ついそれに偏りがちで,きちんとした校内 委員会が開けていない」という悩みがあった。  中学校では時間がないという理由に,学級担 任,授業時数と並んで,部活や生徒指導で放課 後も忙しいために時間がないという回答が多 かった。前述のように中学校も同じように担任 と特別支援教育コーディネーターの兼務が多 い。  時間の問題もあるのだろうが,なかなか学級 担任の悩みが共有できない,担任支援は難し い,学校全体の把握が十分にできてない,「学 年団が違うと話しにくい場合があるのではない でしょうか」など,規模が大きくなれば職員間 同士の連携もまた難しいという中学校の課題が ある。また教科担任制であるがゆえに,生徒に 関わる教員数がどうしても多くなることから, 共通理解,情報交換が難しいという悩みがあ り,大規模校になれば所属学年,授業学年以外 の情報を入手することが困難であるという回答 が多数見られた。  また小学校と同じように保護者との連携の困 難さも多くあげられていた。「保護者の特別支 援教育への理解が不足しているときにいろいろ な誤解を生む」「保護者の要望と現実の生徒の 実態の間に大きな開きがあるとき」に困難を感 じるなどである。  特に中学校に特有の困難さだと思われる, 「生徒指導や教育相談などいろいろな課題を抱 えている中学校ではどうしても特別支援教育の 優先順位があとになる」という悩み,また「卒 業後の進路」という回答が見られた。 今年度特に力を入れたところ  今年度力を入れたところはどこですか,とい う質問に対して,たくさんの項目が挙げられ た。今回もっとも小学校で多かった回答は専門 機関との連携に関することであった。「発達障 害者支援センター『アルプスかがわ』や特別支 援教室『すばる』より講師を招き発達障害や学 習障害のある個々の児童に応じた指導について の研修を5回する」「構内に配置されたソーシャ ルワーカーと連携し,支援の必要な児童につい て情報交換をし,校内でできる支援を工夫する とともに,担任や保護者に働きかけること」な ど,巡回相談の有効利用や医療機関の受診を勧

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図7 自己評価(小学校) 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 校内委員会の計画的な運営、推進ができている 児童生徒の指導に悩んでいる教職員がいる場合、その状況を把握できている 保護者の学校への要望やニーズ を把握できている 校内リソース(資源)を把握している 校外リソース(資源)を把握している 個別の教育支援計画を策定できる 個別の指導計画を作成している、または作成へ参画している ケース会議を企画、実施している 校内研修会企画、実施している 県教委の巡回相談員との連携・ネットワークができている 保健・医療機関との連携・ネットワークができている 福祉機関と連携・ネットワークができている 特別支援学校と連携・ネットワークができている 教育機関と連携・ネットワークができている 他校コーディネーターと連携・ネットワークができている 発達障害に関する一般的な知識がある 障害のある児童生徒の教育に関係する法令の知識がある 障害のある児童生徒の教育課程や指導方法の知識がある 事例研究の進め方がわかっている 学級づくりの理論・技法がわかっている 教育相談、カウンセリングの理論・技法がわかっている 心理検査の知識・技能がある 1+2 3 4+5 図8 自己評価(中学校) 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 校内委員会の計画的な運営、推進ができている 児童生徒の指導に悩んでいる教職員がいる場合、その状況を把握できている 保護者の学校への要望やニーズ を把握できている 校内リソース(資源)を把握している 校外リソース(資源)を把握している 個別の教育支援計画を策定できる 個別の指導計画を作成している、または作成へ参画している ケース会議を企画、実施している 校内研修会企画、実施している 県教委の巡回相談員との連携・ネットワークができている 保健・医療機関との連携・ネットワークができている 福祉機関と連携・ネットワークができている 特別支援学校と連携・ネットワークができている 教育機関と連携・ネットワークができている 他校コーディネーターと連携・ネットワークができている 発達障害に関する一般的な知識がある 障害のある児童生徒の教育に関係する法令の知識がある 障害のある児童生徒の教育課程や指導方法の知識がある 事例研究の進め方がわかっている 学級づくりの理論・技法がわかっている 教育相談、カウンセリングの理論・技法がわかっている 心理検査の知識・技能がある 1+2 3 4+5

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めたことなど,学校外の機関と連携を図ったこ とが一番多くあげられていた。  個別の支援が必要な児童の把握,情報収集や 情報交換,校内研修,共通理解などの情報を共 有すること,たとえば「各通常学級にいる特別 重点支援児について,全職員が関わっていくと いう体制で定期的に全職員に支援シートの記入 を促し実践したこと」また情報交換にとどまら ず「障害のある児童のとらえ方指導方法につい て研修した」ことや,保護者との相談機会を持 つことや啓発活動など,保護者との連携も多く あげられた。「保護者啓発で特別支援教育だよ りを発行した。それを読まれて,相談される方 が増えたことが良かった」などがあった。  そのほか,担任の相談にのる時間を確保する こと,心理検査等アセスメント,個別指導計画 の作成や個に対する指導の充実,校内委員会の 充実などの支援体制づくり,特別支援教育コー ディネーターの自己研修,幼中との連携,「児 童,教職員,保護者間の調整や,専門機関も交 えて4者間の相互連携の調整に力を入れた」な どである。  中学校において,今年がんばったこととして 一番多かったのは,生徒理解や共通理解,状況 把握であった。次いで多かったのは,校内体制 の充実として校内委員会を職員会議の中に位置 づけるという体制づくり,特別支援学級担任と の連携「気がついた点をいつでも気軽に情報交 換して常に共有でき全職員が協働できるシステ ム作り」「特別支援教育に関する研修会に積極 的に参加し,研修で得られた知識や情報を職員 会等で還元した」という校内研修などがあがっ た。保護者との連携や関係機関との連携も多く あがっていた。  個別の指導計画ももちろんであるが,望まし い就学方法や進路相談,周囲の生徒との関係づ くりなどもあった。  実際の指導として,通常の学級の授業をわか りやすくするための啓発および具体的な手立て の提案やユニバーサルデザインの授業研究とい う回答もあった。

まとめ

 特別支援教育コーディネーターの属性(教職 経験年数,校務分掌,担任兼務状況,活動時間 数,授業担当時数)などについては,3年前の 調査時とあまり変わらない。担当授業数や兼務 の状況を見ると,ますます忙しくなっている状 況にあるといえる。  自己評価については,小学校より中学校の方 が低く出ている。低いものは「福祉機関との連 携」や「心理検査の知識・技能」に関すること である。これらの傾向も前回と大きくは変わら なかった。  自由記述から見えてきた香川の特別支援教育 コーディネーターの悩みは,時間がない,時間 がほしいというものであった。小学校において は児童の実態把握は当然必要なこととして認識 され,かなり蓄積ができてきて,工夫もされて いるところだが,中学校の場合は,教科担任制 であり,つねに複数の教員が生徒に関わるとい うことから,生徒の実態把握が課題として上 がってきている。  ただ,今年度力を入れた点として多く上がっ てきたものには,計画に基づいた具体的な活動 が多くなってきている。前回の調査時より,小 中学校それぞれの学校において,特別支援教育 体制を確実なものとしていくために何が必要と されているかが明確になってきているのではな いだろうか。  また今回の調査で特別支援教育コーディネー ターを複数配置している学校が小学校に13校, 中学校2校あることがわかった。前回はそれに 関する問をもうけていなかったが,回答から分 かったのは4校だけであった。学級担任をし, 授業を週26時間以上することは避けられないな がらも,複数指名し,役割分担しながら特別支 援教育の体制をとる学校は今後も増えていくの ではないだろうか。今後は特別支援学級担任が 特別支援教育コーディネーターとしていかに動 ける校内体制をつくるかが課題であろう。  大学における特別支援教育コーディネーター 養成カリキュラムとしては,引き続き今後も 「外部との連携・ネットワーク」「心理検査の知

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識・技能」を中心とした専門機関の実習を取り 入れた現職研修プログラムをさらに充実させる ことが重要だと考えられる。 (参考文献) 曽山和彦・武田篤(2006)特別支援教育コーディネー ターの指名と養成研修の在り方に関する検討,特 殊教育学研究45(3),355−361 香川県教育委員会(2007)かがわ特別支援教育推進 プラン 小方朋子・惠羅修吉(2009)香川県公立小中学校の 特別支援教育コーディネーターを対象とした属性 と業務意識に関する調査 田嶋香子・尾崎啓子(2008)埼玉県における特別支 援教育コーディネーターのニーズに関する調査, 埼玉大学教育学部附属教育実践総合センター紀要, No7,75−86 田嶋香子・尾崎啓子(2009)さいたま市における特 別支援教育コーディネーターのニーズに関する調 査,埼玉大学教育学部附属教育実践総合センター 紀要,No8,43−52 武藏博文・惠羅修吉(2011)エッセンシャル特別支 援教育コーディネーター,大学教育出版

参照

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