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ZBBの予算機能とその特質について-香川大学学術情報リポジトリ

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(1)

件 II[λf 粁抗日~iì ;& 治 則 径 約4',;1992 {I 2 11JliJj

ZBB

の予算機能とその特質について

堀 井 慣 暢

I はじめに 周知のように,

ZBB

は一般産業部門および公共部門双方において発展してき たものであって,いわゆる間接費あるいは経費,特に自由裁量原価の管理のた めの予算編成方式あるいは予算管理方式として,創意工夫されたものである。 このような間接費あるいは経費の管理には,その性質上多くの困難な問題が存 在している。 一般産業部門においては,間接費ないし経費の管理は,従来,管理会計の 「予算統制」の領域の問題として取り扱われている。管理会計においては,こ の困難性に対応するために,変動予算やキャパシティ・コスト概念の導入等, 多くの努力が払われてきた。

ZBB

が,特に一般産業部門における経営管理手法として発展してゆくために は,どのような点が重要視されなければならないかを明らかにしなければなら ない。特に,

ZBB

が予算管理手法として発展してゆくためには,どのようなこ とが問題になるかを検討する必要がある。 管理会計においては,伝統的に,予算は「計画」の問題としてよりも,むし ろ「統制」の問題として取り扱われてきた。すなわち,予算は「利益管理」の 一環として,予算統制の問題として発展してきている。したがって,少なくと も,一般産業部門における

ZBB

は,

r

利益管理」との関連性が重要視されなけれ ばならない。したがって,

ZBB

と短期利益計画との関係および業績評価ないし は責任会計との関連が重要視されることになる。 また,

ZBB

と他の予算管理手法との関連が問題になる。経営管理手法は,一 般産業部門と公共部門において,長年にわたって培われてきたものである。経

(2)

-118ー 香川大学経済論叢 810 営管理手法の一つの予算管理手法も同様である。予算管理手法としての

ZBB

は 新しく誕生してきたものであり,これが以前の予算管理システムとどのように 係わっているかが問題になるであろう。この係わり方が,

ZBB

が組織の中で存 在してゆくための重要な鍵になる。

I

I

ZBB

の意義

ZBB

Z

e

r

o

-

B

a

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eB

u

d

g

e

t

i

n

g

の略である。

ZBB

は,直接的にはピア

(

P

y

h

r

r

PA)

によって開発された概念ならびに手法であると考えること宅アきる。も ちろん,歴史的に更に厳密にさかのぼろうと思えば,可能である。しかし,

ZBB

が予算編成方式として,一般産業部門および公共部門に普及したのは,テ キサス・インスツルメンツ社のピアーが,

1

9

6

9

年の同社におけるスタップ・研 究部門での経験をもとに, w ハーパード・ビジネス・レビュー~ (Harvard Business Review HBR)誌の

1

9

7

0

1

1'

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1

2

月号に「ゼロベース予算

J

(“

Z

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r

o

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a

s

e

B

u

d

g

e

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i

n

g

"

)と題する論文を発表してから注目されたことによる。さら に,これをジョージア州知事に新任したジミー・カータが,

ZBB

1

9

7

3

年度予 算に導入したこと,また,彼が合衆国大統領となり,間年の連邦予等ジこれ を全面的に採用したことにより,

ZBB

は一層の脚光を浴びたことになる。その 後,ピアによって開発された

ZBB

による予算編成方式は,その後ストニヒ

(

S

t

o

n

i

c

h

PJ)

やチーク

(

C

h

e

e

k

LM)

等によって発展させられた。 ところで,

ZBB

が一般産業部門および公共部門でこのように発展させられた 理由は何であろうか。

ZBB

の費用の管理対象は主として,研究開発:::r..ンジニ アリング,品質管理,保全,生産計画,マーケティング,さらに,会計,人 (I) 拙稿 f予算統制の新たな展開のために-zero-basebudgetingを中心にしてJ~企業会計』 第 28巻第11号 1976年10月 74, 79ベージ。 (2) ZBBは華々しく登場し、実業界および学会に異常とも思えるブームを巻き起こした。本来、会 計的手法であるZBBが、魔法の経営管理手法のごとく取り扱われたからである。これに対して は、拙稿 rZBB と計画策定について」香川大学会計学研究室編『現代会計の展開~ 1983年 264 -276ベージ。

(3)

811 ZBBの予算機能とその特質について -119-事,保険,法律,データ処理のような一般管理活動である。このようなサービ ス・支援活動に関する費用は,一般的に,間接費であって,その発生が原則と して経営管理者の自由裁量に委ねられているものである。したがって,

ZBB

の 管理対象は,会計学的でいうところの,自由裁量原価あるいはマネジメント・ コストということになる。このような費用の特徴は,一つには,収益との関連 が一義的ではないこと,二つには,収益との関連が一義的でないがゆえに,その 発生が長期的視点のないままに繰り延べられたり,発生され続ける可能性があ ること,三つには,標準原価システムの適用外であること,さらに,その費用 の発生の適否は,費用便益分析によらざるをえないこと等である。したがっ て,この領域の費用の管理は,会計学においても,従来より管理の困難なもの とされてきており,

ZBB

が支持された理由の一つがここにあると考えられる。 しかも,このような自由裁量原価を発生させる経営活動の重要性が,今後ます ます増大してくるととは想像に難くない。

ZBB

の予算編成の最大の特徴は,ゼロすなわち,原点から開始することにあ る。

ZBB

では,予算の計上にあたっては,その予算が何の検討もされずに,ま た予算計上の正当性に対する挙証責任を明かにせずに支出されることはない。 したがって,総ての予算がスタート・ラインに同時に立つことになる。このよ うに,

ZBB

は,従来の伝統的な予算編成の方式と際だって異なることになる。 つまり,この領域での従来の伝統的な予算編成方式の主だったものは,いわゆ るゼロから始めるのではなく,前年度の実績に既得権を認め,それを出発点と してその延長線上でこれに賃金水準や物価水準の変動を考慮したうえで,新規 プログラムを加えてゆく方法によっている。この方式は,いわゆる増分予算方 式ないし積み上げ予算方式と呼ばれるものであって,当然のこととして前年度 の実績に既得権を認めるという前提に立っている。 このような,増分主義による予算編成方式では,この分野における予算は, 毎年々々際限なく上昇することになる。企業をとりまく経済環境が,このよう な安易な積み上げ予算方式をそのままの形で認めない状況になってきている ことも事実である。前年度の予算プログラムも新規の予算プログラムも同じよ

(4)

-120ー 香川大学経済論叢 812 うに厳しい査定を受けなければならない。

ZBB

が革新的予算編成方式として支 持されたいま一つの理由がここにある。

m

ZBB

PPBS

ところで,公共部門での予算編成方式としては,

ZBB

以前には

PPBS

がある。

ZBB

PPBS

を継承したものとして考えられ,また両者は補完しあえる関係に あるということが多くの論者によっていわれている。このことの意味を両者を 検討することによって明らかにすることが,より一層

ZBB

の性格を明らかにす ることになるであろう。

PPBS

とは

P

l

a

n

n

i

n

g

-P

r

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-B

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g

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n

g

S

y

s

t

e

m

の略であり,

I

計 画 策定・プログラム作成・予算編成、ンステム」と訳出しうるものである。しか し,

1

9

6

0

年代に米国国防省を中心として開発された経営管理手法ということか ら,一般的には,1)基本計画の策定

C

P

l

a

n

n

i

n

g

)

2

)

任 務 別 計 画 の 策 定

C

P

r

o

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r

a

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)

,および

3

)

予 算 編 成

C

B

u

d

g

e

t

i

n

g

)

と訳出されている。

PPBS

は,この三つのプロセスを一つのトータル・システムとして機能させよ うと意図している。 すなわち,従来からの主要な予算が,目的とは切り離されて編成される,支 出項目別のしかも短期思考型予算であったのに対して,

PPBS

は長期的な基本 計画を前提とし,これに基づいた,目的別・任務別計画を中継ぎとして,これ を年度予算に結びつけようとする一体的なシステムである。したがって,

PPBS

の特徴は,1)その予算が基本計画を前提としているため,それまでの公 共部門予算の単年度主義という枠を破って,長期的視点を持ち込んだこと, 2) 企業目的と直接関連させることができない支出項目別の予算に先だって,目的 別・任務別計画を策定したこと, 3)従来のように費用の発生を単に規制ないし (3) Pyhrr, P A, Zero-Base Budgeting-A Practical Management Tool for Evaluating

Expe削es,.lohn Wiley & Sons, Inc, 1973, pp.140ー158中村芳夫 iゼロベース・マネジメント

(5)

813 ZBBの予算機能とその特質について a a , , 。 L , , a 統制するのではなく,費用便益(有効度〉分析とし、う厳密な定量経済分析を行 い,もって費用の効率的運用を計ろうとしたととである。要するに, PPBSは 年度予算と長期計画との一体化にその意図があったわけである。米国連邦政府 の場合には,全体的長期計画として「プログラムおよび財務計画CProgramand Financial Plan)

J

が作成され,多年度 C5年間〕にわたってのアウトプットおよ び費用(所要資金〕を要約し,全体的長期計画として表示しようとした。 ところで, PPBSが国防省に導入される以前においては,各箪が国防という 共通の目的のもとに互いに調整することなく,独自に予算が設定され,した がって調整不足からくる無駄な支出が行われていた経緯があるといわれている。 PPBSでは,当初からこの経緯を踏まえて,基本計画のもとに全体的な目的を 設定し,これを達成してゆくための戦略を選択設定し,さらにこれを具体的に 実現させてゆくために年度予算が編成された。戦略の選択設定に際しては費用 便益分析を行うことにより,その代替案としての戦略の経済性あるいは合理性 を証明しようとした。 ZBBとPPBSとは,費用の管理対象を同じくしており,プログ!ラムの選択な いしは評価にあたっては,費用便益分析を主要な分析手法としている点でも, 類似の管理手法として考えられている。 両者が決定的に相異するのは, PPBSがそのシステムに長期計画を持込み, それを起点としてシステマティックにいわばトップ・ダlウンに予算を編成しよ うとするのに対し, ZBBは,フ。ログラムを現実に実施するために,いわばボト ム・アップに予算実施責任者から予算を積み上げようとする特徴からくると考 えられる。予算が十分機能を発揮するためには,一方のみからの情報の流れで は不完全である。したがって,両者が補完しうる可能d性があるわけであ£

N

ZBBの基本的構造 ZBBの特質をさらに明らかにするために, ZBBそれ自体のプロセスを検討し (4) 前掲番 221ー228ベ ー ジ Ibid.pp.152-157

(6)

-122- 香川大学経済論議 814 なければならない。 ZBBのプロセスは,前述のような間接費の発生する活動機 能に対して DP(ディシジョン・パッケージ〕を準備・作成し,ついで作成され た多数のDPを組織の重要度に従ってランクづけ,もって資源(人的資源をも含 む)を有効に配分し,これにより組織目標を実現する一連のプロセスよりなるc DPは, ZBBに固有の概念である。それは,分離可能な独立した業務活動(アク ティピティ〕あるいは機能についての,費用便益分析を中心とした意思決定に ついての情報の集まりである。 ZBBでは,業務活動あるいは機能を全体として とらえるのではなく,できる限り分割しようとするところに特徴がある。 ZBBの特徴として,このことを強調しすぎることはない。 いま, ZBBのこの一連のプロセスを五つのステップに分けると次のようになる。 (1)

DU

(ディシジョン・ユニット)を決定する

(

2

)

DU

の目的を設定する (3)DPを作成する (4)DPをランクづける (5)業績監査を行う それぞれのプロセスにおいて, ZBBの特徴を知るうえで重要な点は次のとお りである。

DU

とし、う概念は,意思決定の会計実体あるいは責任実体という意 味で,業績評価との関連で会計上重要である。その設定は,業務活動あるいは 機能の分割可能性に負うところが大きい。したがって,組織上の業績評価単位 と業務活動あるいは機能の分割可能性との関連でDUの設定が決定される。 DU としては,コスト・センター,職能部門,プロジェクト,プログラムあるいは 製品等が考えられるであろう。 DUが設定されたならば,これをもとにDPが作成される。組織目標を具体的 な戦術に変え,それを実現するのはDPの作成を通じて行われる。 DPの作成上 問題となる中心的な要素はつぎのようなものが考えられる。

(

a

)

D

U

の目的,

(

b

)

その目的達成のために提案される方法, (c)考慮されたけれども却下された代替 (5) 拙稿「ゼロベース・パジェティン夕、 (ZBB)の会計的意義」神戸大学会計学研究室編『現代管 理会計論』中央経済社 1981年 307ベージ。

(7)

815 ZBBの予算機能とその特質について -123ー 的方法, (d)提案された方法に関連する費用と便益,および適切な数量的業績測 定尺度, (e)ある

DP

が承認されずに資金が割り当てられない場合に起こる結果 についての影響およびその評価等がある。

DP

が意思決定のための情報の集ま りであるから, ~I壱υ官、決定に必要な情報ならば上述のものに限る必要はないこと はいうまでもない。 考慮される一つの方法だけに関連しても,サービスの給付水準に応じてそれ ぞれ複数の

DP

の存在を考えることが,

ZBB

の予算編成上重要である。

ZBB

では それぞれを独立の

DP

として取り扱う。この場合,サービス給付水準が低く,し たがってこれがなければその機能を果たせないほど重要度の高いものから順 に,

DP

にmの1,mの2 ドというようにランクをつける。とのようなある一 つの方法についての

DP

の他に,代替的方法についての

DP

を含めると,多数の

DP

が存在する。

ZBB

では,総ての意思決定および予算の執行が

DP

を媒体とし て行われる。また,業績評価も

DP

(あるいは

D

U

)

を中心に行われるという意 味で,

DP

ZBB

において中心的概念である。ただ,サービスの給付水準に応じ た

DP

が,その

DU

として責任実体となりうるかどうかについては問題となるで あろう。 このような

DP

の総てに対して,人的資源を含む予算が配分されるわけでは ない。資源には制約があるから,どの DP に配分し,どの DP~こ配分しないかを 決定しなければならない。しかも,配分するとしてもどの順序で配分するの か,配分しないとしてもどの順序で配分しないのかの資源の配分順位を決定す ることが必要となる。このような決定は,予算編成時あるいは予算執行時にお ける状況の変化に対応し,予算の運用の弾力化を可能にする。 この配分順位の決定が

DP

のランクづけプロセスである。このランクづけプ ロセスに関しては,多くのプラクティカノレな方法が考えられている。このラン (6) 予 算 運 用 の 弾 力 化 に つ い て は 、 拙 稿 「 予 算 に お け る 評 価 プ ロ セ ス と 弾 力 性 に つ い て ー zero-base budgetingを中心にしてJ~香川大学経済論議』 第49巻第3・4号 1976年10月 147 -162ページ。 (7) 拙稿「ゼロベース・バジェティング (ZBB)の会計的意義 315ベージ。

(8)

816 クづけプロセスにおいては,業績測定尺度あるいはベネフィットの性質が全く 異なるため,

DP

相 互 間 の 重 要 度 に よ る ラ ン ク づ け に は , 多 く の 困 難 が 存 在 す る。間接費あるいは経費の管理の閤難性の原因の一つは,ここにあった。 がって,

ZBB

を導入し運用するうえで,たとえば投票制や組織階層別・限界支 出水準設定制等のような実際的な工夫が行われた。従来は,困難性の名のもと に間接費あるいは経費の管理は放置されていた一面があったが,

ZBB

では,こ れに対して一歩踏み込んだわけである。

ZBB

がすぐれて有用であるのは,実に した 香川大学経済論議 -124-ランクづけプロセスにおけるこのような実際的手法に依存するところが大きい。

ZBB

も他のシステムと同様,統制が行われないと意味がない。

DP

が実行に移 されると,他の予算の執行と同様に適宜にモニターされる必要がある。重要性 を考慮にいれて,

DP

の目的達成のために,トップマネジメント,内部監査ス タップあるいは取締役会さえも業績監査に加わることが考えられる。業績評価 や業績監査は

DP

の予算承認前と予算承認後の両方で行われる。管理会計でい う,事前コントロール,事後コントロールに対応する。

ZBB

では,

DP

の範囲の すべての

D

P

をランクづける 【第 1図】 各業務活動を実行する異なった方 法と努力水準を確認し、評価する る努 あと 動法 活方 務 の 業行 い 現 なるる のすす 案関択 替に選 代務を 的業準 理は水 A 口 い ム 刀 新規の業務活動とプログラムに関 する

DP

を作成する 一 定 一 一 仮 一 一 定 一 一 策 一 一 画 一 一 計 一 次つを 年い確 度て認 の通す 各常る 業の 務努 活力 動水 に準 ーーー一一今 業務活動に分割する 現行の業務を独立した ーーーーーーーーー一一歩 Pyhrr, P A, Zero-Bas.e Budgeting-A Practical Tool for EvaluatingE.xpenses, P13 中村芳夫訳『ゼロベース。マネジメント』ダイヤモンド社、 1977年、 21ページ。

DP

の作成

(9)

817 ZBBの予算機能とその特質について -125-確定あるいは

DU

設定の適否それ自体に対しでも,検討が行われる必要がある であろう。 以上のように,

ZBB

で重要なことの一つは,

DP

作成上問題になる代替案には 二種類あることである。すなわち, 付)同一機能(職能〉をはたす異なった方法に関するものと, (ロ)その機能を実行する場合の異なった努力水準に関するものである。

ZBB

における特徴は, (吋の異なった努力水準に関する代替案を確認し評価 することにある。これは,まず,最初に「最低限度の努力水準」を確立し,つ いで追加的な努力水準を検討し,それぞれ一個の

DP

として作成する。最低水準 とはその機能の目的を完全には達成しえないかもしれない水準であって,通 常,現行の業務の

5

0

"

"

-

'

7

0

%

程度と考えられている。

ZBB

においては,ある一つ の機能に関して予算上実施できないかも知れない給付水準の高い最高次までの 複数の努力水準を考える必要がある。 ところで,

DP

を準備・作成したその業務活動に責任をもっ管理者自らは,自 分が最適と考える努力水準を決定・採用できず¥当該機能以外の機能にも責任 をもつより高次の管理者に努力水準決定についての判断を委ねることになる。 したがって,諸機能間および各機能内における努力水準間での

DP

選択におけ るトレード・オフは,高次の管理者の責任に委ねることになる。そのために,

DP

作成者は,自分が勧告しない

DP

をも記載しておくことが必要である。具体 的な

DP

の作成およびランクづけプロセスまでは第

1

図のようになる。 V 予算編成と短期利益計画

ZBB

と短期利益計画との関連を明らかにする前に,予算あるいは予算編成の 機能,特に計画策定を検討し,もって予算と短期利益計画との関連を明らかに しなければならない。それは,一つには,

ZBB

も一つの予算編成手法であるか らであり,二つには,

ZBB

(あるいは

P

P

B

S

)

の長所として計画策定機能と予算 編成機能との合体があげられているからである。

ZBB

を発展させた一人である

(10)

-126- 香川大学経済論議 818 チークも,

I

ゼ、ロベース予算編成法を適用して効果をあげるためには,計画作 成と予算編成の聞にあるジzリコの障壁を取り除き,この両者を結びつけなく てはならない。」としている。過去においては,計画策定と予算編成との聞の関 連性はなく,それぞれ別々のスタッフが独立的にそれらの仕事を行ってきた反 省に基づいて,

ZBB

では,このような計画策定と予算編成の合体が主張されて いるわけである。このような主張の正当性を検討する意味においても,計画策 定とりわけ短期利益計画と予算編成との関係を明らかにしなければならない。 ところで,従来より,予算の機能については,計画策定 (planning)機能,調 整 (co-ordination)機能および統制 (control)機能があるとされている。 いま,計画策定機能との関連を検討する前に,問題の少ない調整機能および 統制機能との関連について,簡単に述べると次のようになる。 予算あるいは予算編成の調整機能とは,予算編成方針に基づいて,下位部門 予算案を作成し,それをより上位の統合予算へと編成してゆく場合,各下位部 門予算はその部門の利害に基づいているため,部門聞にコンフリクトが発生す るから,各部門予算の達成意欲を失わせることなく,これを整合的に統合化す ることをしの。また,実施時における部門聞の調整をし、う。また,予算の統制 機能とは,予算統制という言葉どおり,予算による経営管理活動に対する統制 をいう。この統制機能には,実績を予算と比較し,その差異を分析して,その 予算責任単位の業績評価を行うとともに,発見された問題に対して適切な是正 措置をとり,これを次期の予算編成へフィードバックさせる一連のプロセスが 入ることには,疑問の余地はない。 次に,問題となる予算あるいは予算編成と計画策定機能との関連を検討する。 この場合,計画策定とは,一義的には短期利益計画をさす。 予算編成と短期利益計画とは,密接な関係にあることが知られている。この 関連については,大別して,二つの見解が従来より主張されている。この予算 編成と短期利益計画についてのこつの見解は,特に

ZBB

の予算編成プロセスさ (8) L Mチーク著 中神芳夫監訳『ゼロベース計画と予算編成』産業能率短期大学出版部 1978 年 21ベージ。

(11)

819 ZBBの予算機能とその特質について -127-らには

ZBB

それ自体を理解する上で重要である。ここで,二つの見解とは,次 のこつである。 (1) 短期利益計画は,予算編成に先だって行われ,この短期利益計画を予算 編成方針として予算編成が行われる。この場合には,予算編成以後のプロ セスは,もはや統制プロセスである。 (2) 短期利益計画と予算編成とを同ーのものあるいは一体のものとして考 え,計画策定としての短期利益計画は,予算編成のフ。ロセスを通じて実現 されてL、く。 二つの見解を換言すれば,前者は短期利益計画と予算編成を別物と考える説 であり,後者は向ーと考える説である。二つのうち,どちらが正当であるかの 判断は,二つの観点から評価されるべきであろう。一つには,実際の企業の組 織環境において,どちらの説によって予算編成が無理なく合理的に行われるか ということであり,二つには,短期利益計画と作成される予算にそれぞれ何を 期待するかによるかである。 第一の観点に関していうならば,組織環境が複雑かつ不確実でしかも動態的 であることが一般的になりつつある現在,このような組織環境にも適用可能な 見解でなければならないであろう。複雑かつ不確実でしかも動態的な組織環境 に適用可能な短期利益計画と予算編成との関係が,そうでない組織環境におい ても適用可能であるとすれば,このような関係がより一般的であり普遍的であ るといし、うるのである。短期利益計画なしに実現するための予算を合理的に編 成することは,複雑かつ不確実でしかも動態的組織環境では不可能に近い。 また,第二の観点に関していうならば,短期利益計画および予算編成のそれ ぞれで行われる経済性計算の本質をみなければならない。すなわち,短期利益 計画は戦略的個別計画ないしは長期利益計画ほどには純粋な経済性計算ではな いとしても,予算編成における経済性計算とは性質が異なる。特に,企業にお ける予算編成は,予算統制ないしは業績評価に直接的に結びつく重要な機能を (9) 拙稿「ゼロベ}ス・パジェティングの最近の展開についてJW香川大学経済論叢』 第60巻第 3号 1987年12月 79-80ベージ。

(12)

-128- 香川大学経済論叢 820 もつものであり,実施上の具体的配慮も可能であり,予算編成における経済性 計算は短期利益計画におけるそれとは異なる計算値になる可能性は十分ある。 また,実施上の具体的配慮の必要性も主張されてきている。 以上の二つの観点からみる限り,予算編成に先だって短期利益計画を設定す ること,換言すれば,短期利益計画からの予算編成方針に基づいて,予算編成 を行うことの方が,より合理的であると考えられることになる。したがって,

ZBB

においても,予算編成が行われる前に,短期利益計画が設定されていなけ ればならないという結論に至る。このように,両者を別個のものと考えると, 予算統制は短期利益計画を予算編成方針として,予算編成からはじまるプロセ スとするのが合理的である。上述のように,予算編成は業績評価に直接的に結 びつき,統制プロセスにあると考えなければならない。したがって,予算には 計画機能は原則的にはないということになる。 ただ,短期利益計画と予算編成を別個のものとして考えたうえで,両者をど のように有機的に結びつけるかが問題になる。すなわち,両者を同ーのものと して考えるのではなく,別個のものとしたうえで,その緊密化を図ることが重 要である。

V

I

"

ZBB

と短期利益計画 前述までの議論をふまえて,

ZBB

と計画策定,特に短期利益計画との関連に ついて明かにしたい。 いうまでもなく,

ZBB

という経営管理手法はピアーによって開発され,その 後ストニヒあるいはチーク等によって改善,普及されてきたものである。した がって,彼らの

ZBB

モデ、ノレ計画策定に関連を明らかにすることが重要である。 第

2

図はストニヒがヒューセイの‘モデ、ルを利用して

ZBB

を説明しようとした ものである。この図から推察できることは,われわれが問題にしている短期総 (10)予算管理の名のもとに、従来より行動科学的研究が行われている。しかし、 ZBBの議論に結び つけて考えようとする動きはない。

(13)

821 ZBBの予算機能とその特質について 【第2図】 予算編成のための 前提条件と計画

>~雪」

-129-:

}

i

予 算

PJ

ストニヒ著 日本能率協会コンサノレティング事業本部訳『ゼロベース計画の実際』 日本 能率協会、 1978年、 26ページ。 合利益計画という概念がはっきりとは意識されていないということである。し かしながら,もちろん短期計画が全く考えられていないというわけではない。 それは,ストニヒが,ヒューセイを引用した次のような表現のうちに読みとれ る。「年間計画は長期計画と緊密にリンクするものであるから,予算もまた長 期計画と密接にリンクする。」と。しかし,この図における長期計画とは主とし て,職能別に策定されているのである。したがって,ストニヒの場合予算編成 に先立つ短期総合利益計画という概念が希薄である。 このことは,ピアーの場合にもいえるであろう。ピアーは,計画策定と予算 編成との関係について次のように述べている。「計画策定は予算編成に比べて 抽象的である。計画策定においては,プログラムを決定し目標および目的を設 定し,組織全体としての基本的な政策決定を行う。予算編成においては,その (11)

P

J

ストニヒ箸 日本能率協会コンサノレティング事業本部訳『ゼロベース計画の実際

B

日本能 率協会 1978年 26ベージ。

(14)

-130- 香川大学経済論議 822

【第3図】

│ 長 期 計 画 策 定 ト

ZBB

I

I

~

f

I

f

f

i

I

ー │ 議 諸 お よ び

Cheek, L M, Zero-Base Budgetzng Comes 01 Age, AMACOM, 1977, p 15

中神芳夫『ゼロベース計画と予算編成』産業能率短期大学出版部、 1978年、 21ベージ。 組織が各プログラムを実施するため行わなければならない多くの機能や業務活 動を詳細に分析し,期待されている目標成果を実施するために各業務活動にお ける代替案を分析し,設定された目標の部分的ないし完全な達成とそれに関連 したコストとの間のトレード・オフを確認する。

j

と。この叙述によって,

ZBB

に先だって計画策定プロセスがあることを知りうる。しかし,計画策定が 具体的にどのようなものであるかは窺い知ることができない。

ZBB

のより具体 的なプロセスと計画策定との関連を述べたものとして,先出の第

1

図がある。 この図にあるように,

ZBB

と計画策定との関連性は,

ZBB

のプロセスが始まる にあたって問題となる「計画策定仮定 (planningassumptions)

J

にみることが できる。この「計画策定仮定」として,ピアーが考えているのは,製造加工単 位数,サービス水準や次年度の現実的な支出水準に関する一般的ガイドライン 等である。とれは,予算によって実現される具体的な指標であって,短期利益 計画で問題となるような目標ではない。このように,ピアーには短期総合利益 計画という発想はないと考えざるをえない。 さらに,チークは,ピアーの考えを採用して,

ZBB

と計画策定との関係をよ り明示的に示している。第

3

図によれば,

ZBB

は長期計画に基づいて直接予算 編成が行われるのである。したがって,この場合には,予算編成に先立つ短期 総合計画という概念はない。 (12) Pyhrr, op cit, p..2 (13)前掲拙稿 91-94ベージに、特殊なケースとして、中期の予算をZBBで直接たてようとする 試みを紹介してあるので参照されたい。

(15)

823 ZBBの予算機能とその特質について -131-以上のことから導かれることは,

ZBB

を創案し,発展させた三者にあって は,年度の計画策定は予算編成のプロセスを通じて実現されるという前述の見 解,ないしは明示的な形での短期総合計画がないままに予算編成を行うという 立場で,

ZBB

を考えているということになるであろう。

ZBB

に対するこのよう な認識は,たとえば,

ZBB

をボトム・アップ型の予算編成方式として特徴づけ るところにあらわれている。これは,おそらく,

ZBB

の参加型予算であること を強調することの結果であろう。もちろん,

ZBB

の参加型予算としての特徴を 強調しすぎることはない。しかし,

ZBB

のこの面だけをとらえて,ボトム・ アップ型の予算編成方式とするところにこそ,

ZBm

こ対する認識における問題 点がある。 すなわち,

ZBB

のプロセスが始まる前の計画策定が,重みをもって認識され ていないのである。このことは,ストニヒ,ピアーおよびチークの

ZBB

に関す るモデルを考えると理解できるであろう。そこでは,

ZBB

のプロセスが始まる にあたっての指針としては,長期計画であったり,市場予測であったり,ある いはより具体的な特定の指標であった。彼らには,

ZBB

の予算編成方針。の前提 としての期間総合利益計画としの概念が希薄である。たとえ,

ZBB

が特定の経 営管理領域を対象とした部門予算であるとしても,組織全体にわたる全体計画 との関連で予算編成が行われるのでなければ,その予算は全体とのつながりが 不完全なものになり,予算の機能を十分には果たさないであろう。 VIl

ZBB

と他の予算システム ところで,既に述べたようなプロセスあるいは構造を持ち,マネジメント機 能との関連で把握された

ZBB

は,従来からの予算管理システムあるいは情報シ ステムとの関連でどのように考えることがよいのであろうか。 この点に関していえば,

ZBB

の新奇さに目を奪われて,これを過大に評価 し,

ZBB

の手法によって,予算による経営管理がすべて行えるような論調も見 受けられた。先にも述べたように,

ZBB

は間接費ないしは経費,特に自由裁量

(16)

-132- 香川大学経済論叢 824 原価を管理対象とした予算による経営管理手法であり,いうまでもなく,従来 から,不十分ながらもこの原価に対する管理は従来の予算管理システムにおい ても行われてきたものである。 換言すれば,ここでの問題は,

ZBB

が従来の予算管理、ンステムに全くとって 替わるのか,あるいはまた共存しうるのか,共存するとしたらどのような形で 共存するのかということである。この問題に関して,ブラニング (Blanning, RW)とウィリアムズ (Willams,

J

J

)

が手がかりを与えてくれる。 まず,ブラニングであるが,彼はゼロベース予算の難点として,五つをあげ ている。第一の問題点は,

ZBB

に限ったことではないが,統制可能性に関する ことである。理論的にはどのような予算も誰かによって統制可能であるが,実 際には,不可能と見なされるほどありそうもない。したがって,大部分統制不 能な予算を持った組織において,ゼロベースから予算編成を試みることは,困 難な問題を伴うということは,容易に想像がつく。 第二の問題点は,組織目的の不明瞭性である。特に,これは公共部門におい て強調されるが,予算目的をオペレーショナルに述べることが困難であること カミらくるものである。 第三の問題点は,管理者とスタッフの限界である。

ZBB

では,すべてのプロ グラムの全般的な評価を必要とするから,管理者とスタッフがもっとも生産的 である領域に努力の焦点をあてるのが困難とされる。 第四の問題点は,履行および統制に関連している。特に公共部門において は,一度設定された予算がプログラムし直されたり,勘定間で資金を振り替え たりすることによってしばしば修正される。 第五の問題点は,コンフリクトする目的に関連している。予算は通常いつも ではないにしても政治的文書であって,異なる目的を持った人々と組織との問 (14) Blanning, R W , Zero-Base Budgeting, ELECTOROー77 Proceeding, April 1977, pp.14/ 3ー1-14/307 (15) Williams, J J, Zero-Base Budgeting: Prospects for Developing A Semi-confusing Budgeting Information System, Accounting, Organizations and Society, Vol.6, No,2..ppJ53-164, 1981

(17)

825

ZBB

の予算機能とその特質について A u d のコンフリクトを引き起こし,また予算はコンフリクトの結果である。 ブラニンクによれば, ZBBは,上位管理の手により多くの権限を置き,下位 管理の権限を減少させる。しかも,ほとんど確実に下位管理者による意志とし てなされるため,この結果は,彼等によって克服が困難な抵抗を引き起こさ れ,下位管理者および分析者は疑わしいデータを与えることによって,あるい は評価することが困難であるか不可能であるような莫大な量の報告書を与える ことによって,そのプロセスをだめにするように試みるということが考えられ るとしている。 ところで,ブラニングは, ZBB予算の他に予算に対する五つのアプローチが あると考えている。すなわち,彼の言葉を借りれば, (1)増分予算, (2)プログ ラム予算, (3)目標管理, (4)責任中心点管理あるいは利益中心点管理および (5)過激増分主義である。 増分予算では,予算を準備するのに必要とされる努力を減少させ,他方,疑 問をはさむ余地のあるプログラムには,より包括的な技法によってよりよく評 価されると考えている。 プログラム予算は前述したPPBSのことで叫あって,ブラニンクやはこれをZBB と全く同じものと考えている。プログラム・エレメント内における多くの活動 や業務のそれぞれにおける方針と代替案の詳細な評価であるという点でJプロ グラム予算と異なっているとだけだとしている。したがって,このことによ り, ZBBがプログラム予算に比較してより詳細な正当化を必要とするわけであ る。 目標管理は,結果による管理とも呼ばれている。目標管理は,中間管理者が 上位管理者の集約された目的と下位管理者が評価される通常それほど厳格でな い業績基準との聞のコンフリクトを解決しようと試みる公式的な交渉過程に よって行われるものである。中間管理者は,との交渉過程によってよ位管理者 によって設定された全社的目的と下位部門のコンフリクトする目的との聞のコ ンフリクトを解決しようとする。 責任中心点管理あるいは利益中心点管理では,予算は,プログラム・ライン

(18)

134ー 香川大学経済論議 826 ではなく組織ラインに従って準備され,正当化され,統制される。ここでは, プログラムを部門に割り付け,割り当てられた目的に合致するように資源を配 分するために,実質的権限を下位管理者に与えている。 過激増分主義は,増分主義に起きる問題点を克服する試みとしてアーロン・ ウィノレダフスキーによって,提案された。ここでは,予算プロセスを放棄し, 現存の基準に対する増分的変化のみを考察の対象とし,あるプログラムに対す る資金が自動的に継続されると仮定する。あるプログラムに対する資金を増加 あるいは,減少させようとする時か,あるいは古いプログラムを排除するかあ るいは新しいプログラムを始めようとするときのみが考察の対象となる。した がって,過激増分主義は「多」が潜在的に無限を意味する多年度予算の変形で あると考えられるとしている。 ところで,プラニングによれば,五つの予算システムの主要な違いは,予算 の計算が行われる方法ではなく,そのシステムが現実的な予算を準備し,それ を承諾するための公式なインセンティブを持っているかどうかである。 プログラム予算および過激増分主義は,下位管理者と予算分析者による参加 が,上位管理者に資源配分の手助けをする情報を提供するための集権的システ ムであり,他方,目標管理と責任中心点管理はインセンティプの創出と管理を 強調するとしている。目標管理においては,これが公式の交渉過程によって達 成され,責任中心点管理においては, 下位管理者の目標の達成方法を決定する 場合に,彼らにかなりの弾力性を与えることによって達成されることになる。 ブラニングは,また, ZBBは一義的には配分システムであって,インセンティ ブシステムではないとする。 ブラニングは,ゼロベース戦略の修正として,変動基準予算 CVariable回Base Budgeting)を提唱している。変動基準予算で必要とされる水準として四つを 考える。変動基準予算に必要とされる正当化の諸水準として,以下のようなも のが掲げられている。 (1)増分的正当化, (2)弾力的正当化, (3)選択的正当化, (4)ゼロベース正当化。 最初と四番目のシステムは,既に詳細に議論されている。弾力的正当化(通

(19)

827 ZBBの予算機能とその特質について -135-常弾力的予算と呼ばれる〉においては,一群の指標が(資源に対する価格水準 や活動水準のようなもの〉設定され,標準原価が計算される。換言すると,固 定的部分と価格や活動水準に依存する変動的部分からなる許容あるいは標準予 算を与える公式が設定される。正当化は,標準からのま信離に限定される。 選択的正当化においては,下位管理者は,ある目的や制約条件を所与として 受け入れることを許され,派生した目的およびこれに伴う意志決定やその必要 資源を正当化することのみが要求される。 ブラニングによれば,ほとんどがすべての組織において上述の四つの手続き が行われており,もちろん,ほとんどすべての組織が,上で概括されたものと 類似の手続きに従う。どのような組織においても増分したものに正当化を限定 することはまれであり,またある組織が完全にすべての予算仮定および目的を 正当化することもまれであるとしている。とすると,ある組織が正当化の程度 を確定するプロセスを公式化すること,したがって,正当化のための基準を確 定することが必要となる。 ブラニングは,それを,(1)その組織の上位管理者に対して正当化される活動 の重要性, (2)その活動に伴う疑わしい問題点あるいは仮定の有効性についての 不確実さ, (3)正当化の費用および予算分析を実行するために利用可能な資源, (4)業績がモニターされる下位管理者を確信させるためのすべての活動について の周期的評価の必要性の四つであるとしている。 プラニングは,変動基準予算の長所として,増分システムあるいはゼロベー スシステムより管理者およびスタップ資源の効率的な配分に導く可能性を示唆 している。また,短所として,小さな組織および容易に論証しうる目的および 制約条件をもっている組織においては,それは面倒に値しないかもしれないと いう。また,賢明な部門あるいは機関の長は,正当化の水準を確定する責任を もっている人たちに影響を与えることによって厳密な調査を避けることが可能 であること,および下位管理者は,すべての管理者が予算の準備に同じ水準の 責任や負担をおうべきであると感じて,予算の正当化のための異なった標準に ついての公式的な設定に抵抗する可能性のあることをあげている。

(20)

-136- 香川大学経済論議 828 ところで,ブラニングによれば, ZBBは一義的には資源配分システムであっ て,インセンティブシステムではない。変動基準予算においては,下位水準の インセンティブが上位水準の目標と一致するように確保するため,管理者およ びスタッフ分析者が効率的なインセンティブシステムを維持することに役立つ かもしれないとしている。 いずれにしても,ブラニングは,変動基準予算は万能薬ではなく,避けられ ないものとしての増分主義の受容と効率的な資源配分にとって基本的なゼロ ベースの正当化の受容の妥協であると考えているのである。 次に,ウィリアムズであるが,彼はヘドパーグ=ジョンソン CHedburg,R & Jonsson, S..)が提案した半混乱情報システムの概念をもとに伝統的予算シス テム CTBS) とZBBの共存を主張している。半混乱システムは,その中に安定 化プロセスと非安定化プロセスを同時に持ったものである。 TBSを安定化プロ セスとして,またZBBを非安定化プロセスと考えている。 安定化プロセスでは,予め決められた期待された厳格性や非弾力性の性行を 持ち,役割や手続きも明らかであり,目的の暖昧さ合駆逐し,非首尾一貫性お よび重複を鴻過し,冗長性や重複がないように努める。また,このプロセスで は変化のシグナノレに対して無感応であり,環境変化に対しても感応できないと される。 企業においては,環境変化に応じた意志決定プロセスとこれに対応した情報 システムが必要である。この環境変化に感応するものとして非安定化要因ある いはプロセスが必要lであり,これにより変化のシグナノレに対する早期警報装置 を置いて,問題を発見し,古くからの標準としてのノレーティンを改めることが できるとされる。この非安定化プロセスをとり組んだ半混乱情報システムは, 組織一環境インターフェイスの状態に関する緊急自体に対応できるメカニズム を持たなければならない。 ところで,ウィリアムズにあっては,予算編成プロセスを含む現行の会計シ ステムを安定化プロセスであると考え, ZBBが情報システムの観点から非安定 化の特徴を持っているのかを検討する。彼の前提には,非安定化のプロセス

(21)

829 ZBBの予算機能とその特質について -137-は,均衡に求めている場合には安定化の要素として認められることがある。し たがって,単一の半混乱予算システムとして,伝統的予算システムと同時に共 存しうる非安定化予算プロセスとしての

ZBB

を検討することが必要になる。 ところで,

ZBB

では自由裁量原価を取り扱い,またいうまでもなく,伝統的 予算システムでも取り扱っている。ウィリアムズによれば,伝統的予算システ ムにおいては全社的予算と一致した勘定分類に従って予算が設定されてから, この意味で'ZBBはその範囲において伝統的予算システムと重複しており,半混 乱システムの非安定化プロセスの特長を有しているとする。したがって,

ZBB

は組織的にも管理対象原価の面でも伝統的予算フ。ロセスとパラレルである《 ウィリアムズの場合においても予算編成は計画策定と考えられているが,

ZBB

は目的と計画策定に関して伝統的予算システムと重複しており,この重複 が半混乱システムの基本的な特徴である冗長性を示すことになる。また,自由 裁量原価は多様であって,

ZBB

は多くの部門に統一的に適用できない。この費 用の水準の決定は,組織的に下位に移行され,最終的に主観的判断が必要とさ れ,費用配分に関して能率性を確信する方法はない。

ZBB

における計算には,暖昧性を伴いまた評価プロセスでは極端な偏向が入 る余地があり,自由裁量原価がゼロから評価されるので毎年毎年

DP

の一貫性 や継続性がないけれども,前述の重複性や冗長性が情報システムの信頼性を高 めている。さらに,伝統的な予算システムでは組織全体に連続的にリンクした 支出項目別に予算編成されるが,

ZBB

では

DP

が特定の領域にのみ関連してい るので,特定の刺激に対しては厳密に対ム応できる。 ランクづけプロセスではこれを有効に働かせるために前述の実用的な多くの 工夫が行なわれているが,そこでは状況の変化に対応する弾力性や主観的判断 を生起させる暖昧性が存在した。ウェイトづけによる投票性や価値マトリック ス等がこれである。 要するに,このようなランクづけプロセスにおける特徴はTBSの増分的アプ ローチとは基本的に異なっており,このことは半混乱システムの全般的な特徴 を示しているとウィリアムズは言う。

(22)

-138- 香川大学経済論議 830 ZBBについては伝統的予算システムとの関連で良いとか悪いとか言われてい るが,そのような二者択一的な問題ではなくて,ウィリアムスは安定化プロセ スとしてのTBSと非安定的フ。ロセスとしてのZBBをともなった共存的な予算 システムがよいとしている。伝統的予算システムは,深く浸透した予算システ ムである。管理者の多くが革新よりも先例,弾力性よりも厳密性,非首尾一貫 性及び唆昧さよりも首尾一貫性および合理性,複雑で包括的な計算よりも簡単 で増分的な計算を選択するのは非合理的なことではないが,現在の複雑で動態 的で危機的な環境にあってはこれだけでは不十分であるとして,このような危 機的情況を避けるためには, TBSとZBBとが継続的に同時に採用されるべきで あるとウィリアムズは結論づけている。 要するに,ウィリアムズの主張は, ZBBの 理 論 的 枠 組 み は , へ ド バ ー グ = ジョンソンによって提案された非安定的半混乱情報システムの特徴である暖味 さ,不一致,冗長性,多元的発想,弾力性,および非恒久性を有しており,自 由裁量原価を発生させる活動における変更シグナルを見つけ,古いルーティン を止めさせる能力を持っているということである。さらに, ZBBは革新的,実 験的行動を促し,戦略的,管理的,およびオベレーショアルな意志決定を促進 し,変動する環境での事前行動を強調するとする。要するに,現代の経営管理 情報システムに最,も必要とされる非安定的予算編成過程の理想的な例であると 主張するのである。 以上,ブラニングとウィリアムスの所説で見たように, ZBBと他の予算シス テムとの関係は流動的なものである。いずれの場合にあっても,自由裁量原価 の管理に限定したとしても, ZBBのみでは不十分であると主張されている。 ところで,一般産業部門にあっては,利益計画は,たとえば製品系列別等に 従って行われるから,その目的が相対的に明確である。したがって予算につい ても編成することは比較的容易であり,自由裁量原価についても,それが属す る会計実体あるいは責任実体を決定することは,それ程困難なことではない。 一方,公共部門においては,会計実体と責任実体とが一致していない場合が多 いであろう。つまり,支出項目別の勘定体系と組織全体に及んでいる機能ある

(23)

831 ZBBの予算機能とその特質について -139 いはその業務に基づく

DU

または

DP

とは一致しないことが多いであろう。会,jf 実体と責任実体とはできるかぎり一致するように,

ZBB

においては

DU

DP

を 考える必要がある。しかし,自由裁量原価あるいはそれを発生させる業務活動 の性質は,組織全体あるいは複数の部門に及ぶところに特徴があると考えられ るから,会計実体と責任実体とを完全に一致させることは困難であろう。むし ろ,両者が一致しないところに,

ZBB

の存在理由があると考えられる。 予算管理手法は,古くからの経営士壌から生まれてきたものであり,複数の システムが現在までに考えられてきた。ブラニングがし、うように,それぞれの 組織にあるように,独自の予算管理方式を考えることも重要である。また, ウィリアムズのいうように,

TBS

ZBB

との共存システムを考えることも重要 である。それならば,このような組織独自の予算管理方式や共存システムを考 えるとき,どのように

ZBB

システムを設計するかが問題となるであろう。いず れの場合にあっても,

ZBB

システム設計の会計的留意点は,会計実体と責任実 体とを可能なかぎり一致させ,一致しないところの

DU

DP

に管理の関心を払 うことであろう。このような形で,独自予算管理方式や共存システムを考える ことが,

ZBB

の概念を組織に存続させていく上での鍵となるであろう。 明 むすびにかえて

ZBB

は有用な経営管理手法であり,予算管理手法である。しかし,従来,と もすれば,

DP

の作成プロセスやランクづけプロセス等今までにないその特異 な予算手続のみが強調されすぎて,予算の持つ意味,特にその会計的意味を忘 れられがちである。

ZBB

PPBS

と同様に公共部門で採用されていたという理 由でよく比較される。その場合,

PPBS

はトップ・ダウン予算編成方式,

ZBB

はボトム・アップの予算編成方式という捉え方をしている。しかし,組織の下 方からの積み上げによって,組織目標を体現した整合的な予算は編成されない。 しかも,

ZBB

PPBS

とは補完しうる可能性があるといっても,

PPBS

という予 算編成方式は,もはや明示的な形で企業組織で行われているわけではない。こ

(24)

-140ー 香川大学経済論叢 832 のような状況では,特に,

ZBB

は組織目標を整合的に体現した予算編成方針が 不可欠になる。この組織目標を整合的に体現した予算編成方針が,短期総合利 益計画にほかならない。

ZBB

は,特異な予算編成方式であるがゆえに,予算が 本来持つべき特質を軽視することになる。予算は,組織目標を整合的に体現し たものでなくてはならない。このためには,予算は短期総合利益計画を体現し たものでなくてはならない。いうまでもなく,短期総合利益計画は,少なくと も,ある程度組織のポリシーともいうべき長期計画を体現したものである。 したがって,このような予算を巡る関係を理解するならば,

ZBB

は「計画」 の側面よりも「統制」の側面にもっと力点をおくべきである。

ZBB

は,他の経 営管理手法との関連を明確に、することによって,より精轍な発展を遂げるであ ろう。 さらに,

ZBB

の特質を考え,他の予算管理システムとの関係を明らかにする ことが重要である。多くの予算管理システムが経営土壌の中で誕生している。

ZBB

が今後とも,組織の中で存続するためには,

ZBB

の特質を生かしながら他 のシステムとの関係を考えていくことが肝要である。

参照

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