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最近の金融政策運営と銀行貸出-香川大学学術情報リポジトリ

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香 川 大 学 経 済 論 叢 第74巻 第3号 2001年12月 135-167

最近の金融政策運営と銀行貸出

藤 井 宏 史

I

は じ め に

1999年

2

月,日本銀行は,景気悪化を防ぎデフレ懸念を一掃するため,無担 保コールレートを0..15%前後の水準に誘導する,いわゆるゼ、ロ金利政策に踏み 切った。既に公定歩合が歴史上最低水準の0..5%に引き下げられた1995年末の 頃から,日本の金融政策運営は先進国がいまだかつて経験したことのない政策 的実験領域に踏み込んだとして,国内外の経済学者が関心を寄せ,その政策効 果を見守っていたが,期待された金融緩和の効果が発揮されなかったからであ る。 その後,多くの学者はこの間の日本経済がいわゆる「流動性の罵」に陥って いるとみなし,畏から抜け出せない原因と罵から抜ける方法を巡って,活発な 論争を続けてきたが,インフレターゲット論や為替ターゲット論,量的緩和論 に見られるように,議論の焦点、はどちらかといえば脱出策に移っている感が強 しかし,流動性の震に陥っているか否かを含め,民の現状を詳細に検討し, そこから抜け出せない原因について十分な議論がされているとは言えないよう に思われる。というのも,日本経済が陥っている状態は,かつてケインズが十 分に発達した国債市場を前提に発生の可能性を指摘した「流動'性の罵」の状態 (1) r流動性の畏」に陥っている日本経済ではインフレターゲット政策が有効だという P Krugmanの主張が議論の出発点となった。Krugman(1998a)(1998b)(1998c)。その後の政 策論争では多くの論文が発表されているが,代表的な論文は,古川洋・通産研究所編集委 員会編(2000),岩田規久男編(2000),深尾光洋・吉川洋編(2000),日本銀行金融研究所/ 白塚重典・田口博雄編(2001)にまとめられている。

(2)

-136- 香川大学経済論叢 520 とは,かなり異質で新しい側面をもっているからである。最も異なるのは,資 金閉塞の状態、が長期金融市場ではなく,民間銀行の貸出市場で起きていること である。ケインズ的世界では,貨幣は国債の買いオペで,直接,長期金融市場 に資金が投入されるが,日本に限らず現代の先進国の金融政策による貨幣注入 は,日々の金融調節による短期金利の誘導を通じて,民間銀行部門の信用創造 活動を刺激することによって間接的になされる。それゆえ,資金が経済全体に 回らない,金融閉塞の原因を考えるためには,銀行の貸出行動と企業の借入行 動の両面から検討する必要があるが,貸し手と借り手がそれぞれパブノレ時に端 を発した過剰融資と過剰債務というバランスシート問題を抱えているというの が,現代の「流動性の罵」の新しい側面である。 本稿の目的は,この数年間にわたって日本経済で生じた未曾有の金融不安と それを緩和するために実施された金融政策運営の特徴を明らかにするととも に,貸出市場を中心にして現代日本版の「流動性の畏」の特徴を明らかにする ことである。そこで,以下では,はじめに第II節でゼ、ロ金利政策が実施される までの聞の金融調節の変化を整理し,第III節で標準的な短期金利決定モデルで 金融調節の変化が如何に説明できるかを示す。そして,第

I

V

節で,標準的な金 融データを使って金融閉塞の状態にある貸出市場の状態の特徴を調べた上で, 第

V

節では,日本型

IS-LM

モデルを使って貸出市場での資金閉塞状態の説明 を試みる。日本型

IS-LM

モデノレとは,筆者がかつて作成した,日銀の金融調節 行動と民間銀行の貸出行動を陽表化した

IS-LM

モデル(藤井(1

9

9

5

)

)のことで ある。構造の単純さは通常の

IS-LM

モデノレと同じなので分析用途には限界は あるが,銀行部門を中心にした金融政策の波及経路を直接扱える長所を有して いる。 ( 2 ) Hicks (1967)p..194によると,この用語を付けたのはケインズの論争相手のD.Robert -sonである。 (3 ) モデルを使ってぜロ金利政策の有効性を議論する場合,金利が一つしかないIS-LMモ デルでは不可能である。これに対し,金融政策の代表的な波及経路が陽表化された最近の マクロモデノレとしては,小川・北坂(1998),星 (2000),北坂 (2001)などがあるが,単純さ が犠牲になっている。

(3)

521 最近の金融政策運営と銀行貸出 137

I

I

金融政策運営の推移

この間,金融政策の最大の特徴は,ゼロ金利政策という言葉で表されるよう に,景気回復の実現のために限りなく低い水準にまで短期金利を引き下げてき たことである。しかし,それを実現するために,日本銀行は,従来の金融調節 のやり方を大きく変更せざるをえなかった。ゼ、ロ金利政策の有効性のみに目を 奪われがちだが,以下では,ゼロ金利政策実現のため,金融政策運営,中でも 金融調節方式がどのように変わってきたかを整理する。なお,表

1

は,金融調 節を中心に金融政策運営の推移を表した

1

9

9

5

年からの年表である。 はじめに,金融政策における金融調節の位置付けと枠組みについて説明して おこう。日本銀行によれば,金融調節とは,政策手段で短期資金需給に働きか けて,日々,操作変数(短期金利や準備預金等)を目標水準に誘導することで ある。これに対し,この金融調節を利用して,物価の安定や景気の回復といっ た最終目標を実現するのが金融政策である。いわば,金融調節は金融政策を実 行するための手段なのである。 従来,この金融調節は次のようなやり方で行われてきた。 ① 「貸出限度額制度」のもとで,個別銀行が貸出限度額いっぱいまで借り入 れるよう,公定歩合より高めに目標短期金利を設定する。 ② 一ヶ月間の平残で準備預金を積むことが求められる「準備預金制度」下 で,日銀信用(日銀貸出と手形オペ)を使ってベースマネーを調整しなが ら積み最終日に目標短期金利が実現するよう市場参加者にシグナルを送 る。 ③ 積み最終日には指値(目標短期金利)で準備の過不足を吸収する。 このような枠組みのもとで,銀行はそのシグナJレを頼りに積み最終日の目標 金利を予想して効率的に準備預金を積んでゆくことになるが,積み最終日には 日銀が指値(目標短期金利)で取引に応じてくれるので,過剰準備を持つ必要 はない。その結果,従来の金融調節方式のもとでは,積み最終日には準備の過 不足が解消できると同時に,市場短期金利を目標水準に完全に一致させること

(4)

138 香 川 大 学 経 済 論 叢 522 表1 金 融 政 策 運 営 の 推 移 金融調節 政策手段 最終目標 1995年4月 公定歩合の引下げ(1.75%→1%) 7月 低め誘導実施(公定歩合をやや下回 手形オベの入札方式化 る水準) 9月 公定歩合引下げ(1% ゆ 5%)と低 め誘導(公定歩合をやや下回る水準) 1996年1月 貸出限度額制度の廃止 (オベ中心の金融調節 に移行) 5月 ベ ス マ ネ 統 計 の 公 表 1997年10月 国債の借入オペ導入 11月 公定歩合計算の変更 (両端入れ→片落ち) 12月 FBオペの入札方式化 1998年8月 積み最終日の超過準備保有の黙認 9月 誘導目標引下げ(0.25%前後の水準) 金融市場の安定重視 11月 CPオベの積極活用 臨時貸出制度の創設 干土俵等を担保とするオ ベの導入 1999年2月 ゼロ金利政策実施=誘導目標引下げ 「デフレ懸念の払拭が (0 15%前後の水準) 展 望 で き る よ う な 情 勢」まで継続 10月 出来るだけ低めに金利誘導 短期国債の買切オベの 導入 2000年8月 ゼ口金利政策解除=誘導目標引上げ (0.25%前後の水準) 10月 政策委員の「経済・物 価の将来展望とリスク 評1iffij公表開始 2001年2月 公定歩合引下げ (05%→035%) 短期国債の買切オペの 積極活用 公定歩合引下げ (035%→025%) 補完貸付制度の導入 誘導目標引下げ(0.15%前後の水準) 3月 操作目標を日銀当預に変更 長期国債の買入士曽額 rCPI (全国,除く生 目標日銀当預残高=5兆円前後 =一ヶ月5千億円(但 鮮食品)の前年比上昇 参事実上のゼロ金利政策復l席 し,保有上限=銀行券 率が安定的にゼロ%以 発行残高) 上となるまで」継続 5月 オペ金利の刻み幅変更 (0.01%→0.001%) 8月 目標日銀当預残高=6兆円前後 長期国債の民入増額 金融市場の安定重視 =一ヶ月6千億円 (資料) r日本銀行月報h 日本銀行のHP,r日本経済新聞』より作成。

(5)

523 最近の金融政策運営と銀行貸出 -139 ができる。 図1 公定歩合とコールレートの推移 ー 一 公 定 書 官 ー。一無担保翌日物コールレート(平均) 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 (出所) 日本銀行「金融経済統計月報」 このようなやり方が変わり始めたのは, 1995年 7月からであったと言われて いる。この時期から,戦後一貫して公定歩合より高めに設定してきた目標短期 金利を公定歩合より低めに誘導し始めたのである(図1)。これにより,貸出限 度額制度の存在意義がなくなったので, 1996年1月にそれを廃止するととも に,日銀貸出を緊急融資手段化して,市場オペを中心にした金融調節に移行す ることとなった。ただ,この変更は,金融調節のやり方を本質的に変えたわけ ではなく,金融調節手段の変更であった。金融調節手段を標準的な市場オペに 移行させ,日銀貸出を,その本来の役割である「最後の貸し手」機能を果たす 手段に戻したのである。 (4 ) 中川 (2001)は,金融調節における日銀貸出の役割を重視し.1995年 7月から 1998年末 の間の貸出限度額制度の廃止や公定歩合の計算方式の変更が金融調節方式の変更をもた らしたと考えている。

(6)

140- 香川大学経済論叢 524 実際に,金融調節のやり方が変更され始めたのは,

1

9

9

7

年から

1

9

9

8

年にかけ ての金融不安の時期であった。 図2 日銀当座預金の積み立て状況 9 一一川…目。町一....".".…一一一一~兆円) (出所) (%)

-

"

-

一一一一一… 向一 09 Cニコ非適用先の日銀卦預 際 欄 過 剰 皐 備 C::::J所要準備 四00-,踊担保翌日物コールレート 08 07 06 05 04 03 02 01 図

2

は,積み最終日の日銀当座預金の積み立て状況を示している。これより, それまでほとんどなかった過剰準備が,

1

9

9

8

8

月以後,恒常的に発生してお (5) り,この時期から積み最終日の超過準備保有が容認されはじめたことが分かる。 さらに,同年

9

月には,従来,積み最終日までは推測するしかなかった目標 金利水準が明示化されるようになった。これは,従来の金融調節の方法からす ると,ある意味では大きな変更であった。というのも,従来の金融調節の基本 は,通貨当局が積みの調整で,積み最終日に成立するであろう短期金利に関す るシグナルを市場参加者に送りながら,積み最終日には目標金利水準を達成さ ( 5) 1997年 11月の大型金融機関破綻以降,銀行が準備預金の積み上げ意欲を高めており, 8月以降は,日銀が積み最終日での過剰準備保有を容認しているとの新間報道がされて いる(1998年8月20白と 10月16日付『日本経済新聞,1)

(7)

525 最近の金融政策運営と銀行貸出 141-せることであった。銀行はそのシグナルを頼りに積み最終日の目標金利を予想 して効率的に準備預金を積んでいくが,積み最終日には日銀が指値(目標短期 金利)で取引に応じてくれるので,それまでの予測誤差による準備過不足は積 み最終日には解消する。それゆえ,従来の金融調節のもとでは原理的に,銀行 は過剰準備を持つ必要はなかったのである。 しかし,銀行が現金保有の意思決定を行うにあたり,現行の準備預金制度の 枠内で如何に効率的に現金管理を行うかにのみ関心を寄せることができたの は,信用秩序が維持されていて,たとえ予期し得ない資金不足が生じても資金 が迅速かつ低コストで入手可能であるとの信頼が支配していたからであった。 1997年秋から 1998年末に発生した一連の金融破綻は,こうした市場参加者 の暗黙の信頼を動揺させ,銀行に対して,準備預金制度が求める資金(法定準 備需要)ばかりでなく,不意に必要となる決済資金(資金決済需要)を恒常的 に用意する必要性を生じさせることとなった。これに,金融調節手段の市場化 をめざして1995年から実施されてきたオペの入札方式化があいまって,金融調 節における積み最終日の重要性が低下し,従来公表されていなかった目標短期 金利水準の公表に踏み切ったと推測される。 目標水準の公表により,銀行の資金管理担当者は,市場金利が目標水準を上 回れば(下回れば),日銀からの資金供給が増加する(減少する)という具合に, 目標盟期金利水準を基準に当局の資金供給行動を推測して,資金繰りの予想が 立てやすくなった。 こうして公表されるようになった目標短期金利水準は,その後,不況の深刻 化を受けて, 1999年 2月に 015%に引き下げられ,いわゆるゼロ金利政策が実 ( 6) 2001年以降は,日銀当座預金の決済方式が「時点ネット決済」から「即時グロス決済 (RTGS) Jに変更されたことが,銀行の資金決済需要の恒常的な増加に寄与しているもの と思われる。 (7) r指値方式」から「入札方式」へのオぺの移行は,目標短期金利公表の露払いとなった。 移行の時期については表1参照。 (8 ) 宮野谷(2000)pp.. 12~ 13参照。米国では,連銀がl年前 (1997年10月)から目標FF レートの公表に踏み切っていた(Thornton(1997))。 (9 ) 富野谷(2000)p..8参照。

(8)

-142ー 香 川 大 学 経 済 論 叢 526 施に移された。日本銀行によるゼロ金利政策は,次の3つの柱から成り立って (]O) いる。 ① より潤沢な資金供給により無担保コーノレレート OjNのゼ、ロ金利化を容 認。 ② 市場の機能に対してゼ、ロ金利化が与える影響を見守りながら政策運営。 ③ デフレ懸念が消えるまで無担保コールレート OjNの実質ゼ、ロ金利を維 持。 ゼロ金利政策の名前の由来は①からきているが,②と③はゼロ金利政策を止 める場合の判断基準を示している。歴史上初めての政策的実験であるから,ゼ ロ金利政策の継続が市場の機能に予想しえない悪影響をもたらすかもしれな い。その場合は停止せざるを得ないが(判断基準②),マイナスの効果が顕在化 しないようであれば,ゼロ金利政策のプラスの効果を生かすために,デフレ懸 念が解消するまでトゼ、ロ金利政策を維持する(判断基準③)ということである。 ゼ、ロ金利政策の効果としては,銀行のコールでの資金調達費用を事実上ゼロ とすることによって,不良債権の処理を容易にして金融不安の根を断ち切り, 銀行のリスク負担能力を改善させて信用創造活動(金融仲介活動)を活発化させ ることが期待されていたが,その効果も現れないままに,翌年の8月には解除 された。 ところが,解除後,皮肉にも海外の景気減速や株価下落で景気減速が明確と なったため,日銀は金融調節方式の大幅な転換に踏み切ることとなった。それ が

2

0

0

1

3

月から実施に移された「量的緩和政策」である。 (]I) この新しい政策の柱は,次の3点、である。 ① 操作目標を,無担保コーノレレート(オーバーナイト物)から,日本銀行 当座預金残高に変更し,目標水準を

5

兆円程度にする。 ② 消費者物価指数(全国,除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ% (10) 1999年2月12日の政策委員会・金融政策決定会合「金融市場調節方針の変更についてJ より。 (11) 2001年3月19日の政策委員会・金融政策決定会合「金融市場調節方式の変更と一段の 金融緩和措置について」より。

(9)

143 最近の金融政策運営と銀行貸出 527 この金融調節方式を継続する。 以上となるまで, (上限は銀行券発行残高)。 必要に応じて長期国債の買い入れを増額する ③ 金融調節の点で最も重要な変更は,①が示すように,金融調節方式が従来の 短期金利(コールレート)ターゲットからのベースマネー(日銀当座預金残高) この変更は,短期金利の引き下げ余地が 一層の金融緩和を進めるための苦肉の策で なくなった最近のデフレ環境下で, ターゲットに変更されたことである。 あり,事実上のゼ、ロ金利政策の復活である。 ただ,事実上のゼロ金利政策と言っても,操作目標を量的指標にすれば,短 そこで,新しい金融調節方式では,操 期金利の乱高下が起きる危険性がある。 それから公衆の現金保有を控除した差額 あわせて,公定歩合で無制限に融資する「ロン ノfート型貸付の制度」が導入されている。 作目標はぺースマネー残高ではなく, である日銀当座預金残高にし, 05 日銀当座預金とコールレートの推移(日次データ) 糊僻日銀当座預金残高 ルー無担保コーんレート{加軍平均) 図3 (兆円) 20 04 15 03 02 01 10 n v 守 ¥ 白 ¥ - 。 。 叫 守 ¥ ∞ ¥ Z O O N 寸¥ h ¥ " 。 。 制 -w ¥ @ ¥ -。 。 叫 日 Y ¥ 回 ¥ 戸 。 。 N マ ¥ 守 ¥ - 。 。 叫 - Y ¥ 円 ¥ 目 。 。 叫 時 Y ¥ 刷 ¥ F h M O N - w ¥ 四 ¥ - 。 。 N - Y ¥ 吋 戸 、 、 。 。 。 同 マ ¥ 四 四 ¥ 。 。 。 叫 一 マ ¥ O F ¥ 。 。 。 N -Y ¥ @ ¥ 。 。 。 刷 自 Y ¥ ω ¥ 。 。 。 N - マ ¥ 匹 ¥ 一 。 。 。 同 時 Y ¥ @ ¥ 。 。 。 N 四 w ¥ 由 ¥ 。 。 。 N マ ¥ a y ¥ 。 。 。 叫

~ ~

国 w ¥ 亡 。 S N n v 日本銀行HP (出所) 2月に導入された。正式名称は「補完貸付制度」。 この制度は, (12)

(10)

-144- 香川大学経済論議ー 528 図3は,量的緩和政策実施前後の期間における日銀当座預金とコーノレレート (無担保翌日物)の推移を日次データで示したものである。このグラフから, 量的緩和政策の実施以後は,日銀当座預金を

8

月半ばまで

5

兆円前後,それ以 後は6兆円前後の水準にコントローノレされていることが分かる。また,量的緩 和政策の実施が事実上のゼロ金利政策であることを裏付けるように,コール レートが急速に低下し,ゼロ金利政策解除前の水準 (002%) より低い水準 (0 01%)に張り付いていることがわかる。この水準は市場オペの刻み幅の単 ( 13) 位に等しいので,いわば誘導できる下限に張り付いているということができる。

皿 金融調節方式の変化と短期金融市場

以上,好余曲折があるものの現在のぜロ金利政策が実現されるまでの過程で, 金融調節の枠組みは概ね次のように変更されてきた。まず,実質的に民間銀行 の行動に働きかける目標短期金利を明示化して公定歩合以下に誘導すること で,従来,公定歩合が果たしていた,市場金利の下限を画し日銀の政策スタン スを示すいわゆる政策金利としての役割を,目標短期金利が果たすようになっ たこと,次に,目標短期金利の引き下げ余地がなくなった状態下でなお一層の 金融緩和をめざして,操作目標を短期金利から日銀当座預金に変更してきたこ とである。 そこで本節では,こうした金融調節方式の枠組みの変化を,標準的な短期金 利決定モデ、/レを使って表してみよう。金融調節は本来動学プロセスなので,需 給均衡分析では,その特徴を正しく表すことはできないが,日銀信用の供給線 の特徴とその調整で市場短期金利が目標短期金利に等しくなる様子を示すだけ なら,需給均衡で十分事足りる。 (4) 準備預金の需給均衡でその様子を示したのが図

4

である。図中

D

は,民間銀 行の準備需要曲線を示し ,D',D"は民間銀行の積み行動によって需要曲線が変 (13) 2001年5月,より一層のゼ、ロ金利誘導をはかるべくオぺ金利の刻み幅を従来の 10分の 1 (0001%) に切り下げた。 (14) 金融調節の動学プロセスについては,翁 (1993),神崎 (1988),藤井 (1995)(1996)参照。

(11)

529 短期金利1 最近の金融政策運営と銀行貸出 図4 D" D D'

"

s S .判断 7 1 =1" d ~-一一一一---一一一一ー 0 1 A !B ¥一一一一一一一、〆ー一一一一一一J九一一一一--..r一一一一ーノ 市場オペ分 日銀貸出限度額分 -145ー s' S 準備預金 動している状態を示している。これに対し,

s

は日銀信用を示しているが,これ は一定の市場オペ額OAと,公定歩合水準dのもとでの貸出限度額ABが日銀 のコントロール可能な日銀信用額になるので,公定歩合dを踊り場とした階段 状の線として描いている。 S,S は,目標短期金利

i

1を実現するのに必要とな る日銀信用を表しており,短期資金の実際の供給曲線は目標短期金利

F

で水平 5 ) となる直線

S

である。 次に,図1で示されるような,日銀信用の供給方法の変更で生じる,公定歩 合と短期金利(コールレート)の推移を短期金融市場の需給均衡線のシフトで 描いたのが次の図

5

である。 まず, 1995年7月から始まった公定歩合を下回るような短期金利水準の誘導 (15) 図の市場オペ分は,公衆の現金需要を差し号│いた差額で示されている。また日銀信用の 変化は,見易さのため,日銀貸出の調整の場合を指いている。

(12)

146 短期金利i ホ 7 1, ]

=

- 1';] d] .ホ 7 1, 2 - '= 1~ 2 d3 " I 3 O D] S] 香川大学経済論議 図5 S 2 A B 530

S

3

準備預金 は,公定歩合を 05%に維持した状態で,銀行の短期資金需要が冷え込む中で

(

D

l

D2

)

, 日銀信用(ベースマネー)を増加させることで(51→52)実現した(泣 =

i

l

<

d

=

05%)ものと考えられる(1995年 7月"-'2001年 2月)。なお,この 時期の短期資金需要は, 1995年以前の短期資金需要よれ金利反応度が上昇し ていることに注意されたい(

I

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2

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I

)。これは,この時期に発生し た金融不安が原因で,従来の準備預金の積み需要に加え,資金決済需要が増加 ( 16) したためである。 この状態で,目標短期金利がゼロとなるようなゼ、ロ金利政策に移行し,公定 歩合を引き下げ

(

d

l

→ぬ),操作目標を日銀当座預金残高にして,ゼロ金利政策 の持続を図っている状態の需給線が

D

3

5

3

である (2001年 3月以降)。銀行の (16) 林 (2000) と細野・杉原・三平 (2000)は,準備預金保有による流動性コスト節約の便益 と機会費用としてのコールレートとの比較で導出した最適な準備需要関数を使った実証 分析で,金融危機からゼロ金利政策実施までの期間,流動性コスト効果が上昇して金利弾 力性が低下していることを検証している。

(13)

531 最近の金融政策運営と銀行貸出 -147-短期資金需要がさらに冷え込み(D2→D3)に対し,一層の量的緩和政策を実施し た(52→53)結果,コー/レ市場の金利刻み幅(001%)まで低下して過剰準備が

AB

だけ発生した状態で,事実上のゼロ金利が実現している様子を示している。 ロンパート型貸出の導入で,日銀信用線が公定歩合ぬで無限弾力的になってい ることに注意されたい。

I

V

銀行貸出と「流動性の罵」

最近の日本経済は,標準的な経済学の教科書の世界でしかお目にかかれない と思われていた「流動性の畏」の状態に陥っていると言われている。ケインズ によれば,流動性の罵とは,これ以上下げることができないほど低い利子率水 準のもとで,ほとんどの人々が将来利子率の上昇を予想してあらゆる資産を貨 幣で保有しようとする状態のことで,経済がこうした強い流動性選好の状態に あると,通貨当局がいくら金融緩和で利子率を低下させ貨幣から他の資産への 代替を促そうとしても不可能となる。 周知のように,日本銀行は, 1995年 9月から公定歩合を歴史上最低水準でトあ る0..5%に引き下げた後, 1997年夏から 1998年末にかけての一連の金融破綻で 信用不安が発生し,それに対処すべく短期金利の誘導水準をゼ、ロに向けて断続 的に引き下げ,ゼ、ロ金利政策に踏み出した。にもかかわらず,マクロ経済指標 が悪化してきたため,この期間,日本経済が流動性の罵に陥っていると言われ (l7) ているのである。 以下では,ゼ、ロ金利政策のマネーサプライと銀行貸出への浸透具合の特徴を 標準的な金融データで調べる。はじめに貨幣集計量の側面からゼ、ロ金利政策の 特徴を見ておこう。次の図

6

は,貨幣集計量(ベースマネーと

M2+CD)

と銀行 貸出の伸び率を示している。 貨幣乗数論によれば,ゼ、ロ金利政策の実現によって生じるベースマネーの増 加は銀行の信用創造を通じてマネーサプライの増加をもたらすはずである。と (17) P Krugman (1998)参照。

(14)

-148ー 0.25 02 015 封 01 町 E 与す 10; 11<005 o ld85 1986 1987 1988 1989 -005 ー01 香川大学経済論議. 図E 貨幣集計量と銀行貸出 一 一 回 腸 money(平残} 由 伊M2+CD(平残) ーー貰出金(末残) (出所) 日本銀行の HP,,金融経済統計月報」 532 ころが,図より, 1995年以降で見ると,ベースマネーは年平均7%強で推移し ているのに対し,マネーサプライはその半分以下の伸びしかなく,ゼ、ロ金利政

8 ) 策の実施後はさらにその伸びが低下しているのが分かる。 このような事が起きた原因は,銀行部門へのベースマネーの滞留である。準 備預金の積み最終日における日銀当座預金の積立状況の推移を示した先の図

2

が示すように,短期金利水準をゼロにするほど潤沢に供給されたベースマネー は , 信 用 創 造 資 金 と し て 有 効 に 使 わ れ る の で は な し 銀 行 部 門 内 部 で 過 剰 準 備 として滞留したり,短資会社・証券会社など準備預金対象外金融機関の当座預 金として積み上げられたままの状態が続いている。 (18) 2000年前後のベースマネーの大幅な変動は '2000年問題」対策によるものである。 (19) この状態を受けて, 2000年5月から準備預金制度非適用先の当座預金がベースマネー にカウントされることになったが,公衆の現金保有としてマネーサプライ統計にカウン トされていない問題がある。この点については,補論を参照のこと。なお,小論で使用し たマネーサプライのデータでは,この点を修正して利用している。

(15)

533 最近の金融政策運営と銀行貸出 149ー この時期,銀行部門の現金選好が高まった原因は,何であろうか?まず,

1

9

9

7

年夏から

1

9

9

8

年末にかけて生じた有力金融機関の破綻であることに疑う余地 がない。戦後の護送船団型の金融行政で庇護されてきた金融機関の断続的な破 綻とその後の金融行政の混迷は,国民の金融機関への信用を大きく損ない,国 民の現金選好を高めるばかりか,予期しない多額の預金解約や引出しに備える ための準備預金の積み増しという形で,銀行側の現金選好の増大を誘発するこ ととなった。 貨幣乗数の公式によれば,こうした公衆と銀行部門の現金選好の高まりは, 貨幣乗数の値を低下させる。次の図7は,銀行保有現金の対預金比率をん公衆 の保有現金の対通貨比率を

α,貨幣乗数を m とおき,貨幣乗数の変化を要因分 解して描いたグラフである。 図7 貨幣乗数の変化の寄与度(年度平均) 012 i

-

-

. 01 . 0• .08 .0..06 .0.04 .0..02 -.0.02 -.0.04 -.0...06 = 交 艶 項 臨詰詔k 密密盟α 司0・sm/m -008

1-一一一一一--一一一-一一…一一一一-一山一一一一一ゅ

一一一一一一山一一一一一一山---(出所) 日本銀行のマネタリー・サーベイより作成。 (20) m = 1/(α +k(l一α))。月次データによる対前年同期比で求めた貨幣乗数mの変化率を 以下の式で寄与度を計算し,年度平均を求めた。詳しくは,堀内・高橋(1981)を参照。 働=-(l-komo)a-(1一 偽mo)五+交差項

(16)

-150 香川大学経済論議会 534 貨幣乗数が銀行部門の信用創造能力を表していることを念頭において,この 図を見ると, 1990年代の後半に銀行部門の信用創造能力の低下 (m↓)が発生 し,それが公衆と銀行の現金選好の高まり

(

α

↑,k↑)によるものであることが 分かる。とりわけ近年の貨幣乗数の低下において,銀行の現金選好

h

の寄与度 が高くなっているのが日を号│く。 もちろん,大幅な金融緩和が実施されたにも関わらず銀行貸出が伸び悩んだ のは,現金選好の高まりだけが原因ではない。周知のように, 1998年4月,大 量の不良債権を抱え込んだ銀行部門に対して,不良債権の処理を促進して国際 競争力を回復させるために早期是正措置が実施されたが,これが個々の銀行に 自己資本比率を高めるために貸出の圧縮と効率化を促すこととなった。多くの 場合,これが貸出債権圧縮の直接的な原因であると考えられる。 こうして 1997年夏以降の一連の金融破綻は,銀行部門が提供する支払決済 サービスの機能を弱めた結果,個々の銀行は今まで以上に準備預金を保有しよ うとする。一方,ほぽ同時期に実施に移された早期是正措置は,個々の銀行に 貸出審査の強化と貸出の圧縮を促すので,結果的に銀行部門は金融仲介機関と してのリスク負担能力(あるいは資金仲介力)を低下させることとなった。 次に,この超金融緩和政策が,果たしてマクロ経済に十分な資金を提供でき ているか否かを確かめるために,はじめにマクロ経済の資金余剰度を示す代表 的指標の「マーシヤ/レのkJの推移を調べたのが図8である。図より,ゼロ金 利政策が実行に移される 1998年頃から,マクロ経済的には資金余剰度が急速に 高まってきている様子が分かる。これより,景気回復には結びついていないが, マクロ的には資金が充足してきていると推測される。 次に,このような資金がどのような要因で供給されているかを調べるために, マネーサプライ

(

M

2

t

C

D

)

の主要な供給要因について寄与度の推移を調べたの (詑) が図

9

である。 図より,まず分かることは,1998年から資金余剰度が高まっているとはいえ, (21) 1999・2000年度以降のM2+CDデータは外国銀行在日支庖等保有分を含りのでそれ以 前のデータと連続していない。

(17)

535 最近の金融政策運営と銀行貸出 -151ー 14 12 08 06 0.4 1970 (M2+CDJ/GDP 1975 図 B マーシャルの kの推移 1980 1985 1990 ~-o-~' トレンド線 :y=0,.0183x+0658 R'= 09491 1995 (出所) 日本銀行「金融経済統計月報J.経済社会総合研究所「国民経済計算年報」 2000 銀行貸出の増加が直接的な原因ではないことである。マネーサプライの伸び率 は1995年噴から最近まで多少変動はあるものの 3 %前後で推移しているが,そ の伸びの制約要因になっているのが,銀行貸出である。銀行貸出は,ゼ、ロ金利 政策が実施されているにもかかわらず,急速に減少してきている。この銀行貸 出の信用収縮圧力を相殺して,マネーサプライの伸びを支えているのは,日銀 を含む銀行部門全体による国債購入(財政要因)である。 マネーサプライの最大の供給パイプである銀行貸出が減る中で,顧客である 企業の資金繰りや銀行借入の難易度がどのような状態になっているかを,日銀 の「短観」の指標で見たのが次の図 10-Aと図10-Bである。 図より,まず, 1997年から 1998年の金融危機の時期には,企業規模にかかわ (22) 図中の各要因は,マネタリ}サーベイの「総括表」の以下の項目に該当する。 貸出金=民間向け信用の貸出 国債=政府向け信用(純)の国債 民間証券=民間向け信用の事業債・株式

(18)

152 香川大学経済論叢 図9 通貨の主要供給要因別寄与度 (%) 20 r一 一M …山一一一-""…一一尚一一…胸嶋一… 15 10 自51....……町一一一ω凹 川 一一一四一甲山一一剛一一拘叩_.._...… (出所) 日本銀行のマネタリーサーベイより作成。 む=コ国債 館 総 民 間 駆 # 怒盟理貸出金 ー〈同M2+CD 536 らず全体として,銀行の融資態度が厳しくなり,資金繰りが困難になっている。 それゆえ,この時期,銀行側の「貸し渋り

C

r

e

d

i

tCrunch

Jで資金の逼迫が起き ていることが分かる。 ω)

1

9

9

9

年から最近までのゼロ金利政策の時期,この状態は大きく変わった。図 より確認できるのは,企業規模にかかわらず銀行の融資態度が緩み,資金繰り が楽になってきているが,楽になる程度は企業規模に比例している。以前より 楽になっているとはいえ,中小企業への融資態度は厳しし資金繰りも相対的 に厳しい。 この時期,大幅な貸出の減少傾向が続いている中で,規模の大きい企業ほど, 資金繰りや銀行の融資態度が相対的に緩やかになっているということは,銀行 が,融資先の選別を強めていることを示唆している。 (23) ゼロ金利政策は, 2000年 8月に一時的に解除されたが,その後一連の金融緩和措置が取 られ,解除の景気へのマイナス効果が畷昧なため,ゼロ金利政策の時期に含めている。

(19)

537 最近の金融政策運営と銀行貸出 153 40 30 20 10 o -10 -20 -30 60 40 20 o -20 図10-A 資金繰り D"L ( 全 国 短 観 緩 」 ー 「 厳J.全産業の場合) 一←大企業 一←中堅企業 一一-中小企業 図10-8 融資態度 D"L ( 全 国 短 観 緩 」 ー 「 厳J.全産業の場合) 1995 (出所) 図lO-A. lO-Bともに日本銀行「短観」。 一 ← 大 企 業 一。ー中堅企業 目白・中小企業

(20)

-154 香川大学経済論叢 538 次の図

1

1

は,最近の新規貸出金利とコールレートの推移である。これより, 貸出金利は,コールレートより粘着的で,ゼロ金利にむけコールレートが引き 下げられたのを追って,徐々に低下していることが分かる。このことは,金融 不安の時期には全企業,ゼロ金利政策の時期には中小企業を対象に「貸し渋り」 (貸出資金の供給曲線の左シフト)が生じてはいるが,全体的には顧客の借入 意欲がそれ以上に減退している(貸出資金の需要曲線の左シフト)可能性を示 している。 また,貸出マージンの推移を新規貸出金利とコーノレレートの差で見てみると, 貸出金利の粘着性により金融緩和時 (1995 年 ~1996 年, 1998 年 ~1999 年)に マージンが増えるという周知の傾向が確認できることに加え,

1

9

9

5

年以降, (2~ マージンがほぼ

2%

弱の水準で安定的に維持されていることが興味深い。 図11 新規貸出金利とコールレートの推移 (単位・年車軸) 4.5 40 35

/

3.0 25 2.0 15 1.0

ι

05 00 1994 1995 1996 1997 1998 1999 αzlO 2001年 (出所) 日本銀行

HP

の「時系列データ」 (24) 1995 年 1 月 ~2001 年 7 月の期間でマージンの平均を計算すると 187% (標準偏差。 16)。園内銀行の定期預金の平均金利(新規受入ベース)で同じ期間のマージンの平均を 計算すると181% (標準偏差

o

15)。

(21)

539 最近の金融政策運営と銀行貸出 155

V

日本型

IS-LM

モデルと「流動性の畏」

最後に,ゼロ金利政策の実施で象徴されるような,歴史上類例を見ない金融 緩和が実施されているにも関わらず,貸出は減少し,最近まで景気回復傾向が 現れなかった状況を,拙稿 (1995)で示した日本型の短期金利誘導モデノレで説明 してみることにしよう。 このモデルの特徴は,積み期間を単位期間としてみなすことによって,民間 銀行は目標短期金利を平均的な資金調達金利とみなして最適な貸出量を決める こと,通貨当局はこの民間銀行の行動原理を前提にして,目標短期金利を操作 して銀行信用ひいてはマネーサプライをコントロールするというところにあ る。このモデlレは,かつて小宮 (1988)が日銀の二階建てモデルと呼んだものの 定式化である。 このモデルの性質を決定するのは,以下に示すような民間銀行の標準的な限 界貸出の決定式である。 r =

i

T

+

(L,e)ミ ZT (1) (記号 )γ:貸出金利

i

T 目標短期金利,ん(・ )"貸出の限界費用, L"貸出量 e"リスク負担係数。 この式は,民間銀行が採算に合わない限界貸出をしない限り,貸出金利は目 標短期金利より低下しないため,目標短期金利が貸出金利の下限

a

n

c

h

o

r

にな ることを示しており,通常,リスク負担係数

e

が高まれば貸出の限界費用が低 下するので fL.(・)

<

0

と仮定する。そのためこの式から,金利の下限を持つ次式 ω) のような

LM

関数が導出されるが,その下限は目標短期金利

i

Tとなる。

L

(

r

i

T,

e

)

=

M(Y

r

g

)

(

2

)

但し,係数の符号は,

L

r

>

0

L

i

>

0

Le

>

0

My

>

0

Mr

<

0

M

g

<

0

で,左辺が貨幣供給関数(銀行貸出),右辺が公衆の貨幣需要関数を示している。 なお ,gは,公衆の長期期待を表し,長期期待gが高まれば借入や預金の取り (25) 以下,このモデノレの導出方法や式の意味についての詳細は,拙稿(1995)を参照。

(22)

-156ー 香川大学経済論叢 540 崩しで

(M

g

<

0

)

,支出を増やすと仮定している。 そして,

I

S

関数は,次式で示される標準的な関数を想定する。

Y

=

E(Y

r

g

)

(

3

)

但し,係数の符号は,

0

<

Ey

<

1

Er

<

0

Eg

>

0

である。

(

2

)

(

3

)

式で示される

LM

関数と

I

S

関数を組み合わせて,日本銀行の金融緩和 政策の効果を示せば図12のように描ける。

LM

関数の形状からすれば,流動性の畏が生じて政策効果がないように見え るが,目標短期金利の引下げによる金融緩和政策は

LM

曲線の下限を引き下げ て,図で示されるように必ず、貸出金利の低下と所得の増加がもたらされる。 しかしながら,前節で確認したように,この数年間の金融政策の効果は,こ のモデルからもたらされる結巣とはかけ離れたものである。先の図11で確認し たような貸出金利の粘着性が生じるためには,金融緩和政策による

LM

曲線の シフトが図12のような平行シフトではなく,ねじれたシフトでなければならな い。図13は,そのようなケースを描いたものである。 図12 IS r r'

l

'

Y

(23)

541 最近の金融政策運営と銀行貸出 157ー 図 13 IS r

r

'

F

/

y'

y

また,目標短期金利を実質ゼロ金利にした,いわゆるゼロ金利政策がすぐ政 策効果を持ち得なかったとすれば,図13のようなLM関数のねじれたシフト が生じていると考えざるを得ない。 このようなねじれたシフトが起きるには,目標短期金利

i

Tの低下と同時に, 銀行のリスク負担係数

e

や公衆の長期期待 gの低下が生じている必要がある。 そこで,まず銀行のリスク負担係数

e

を低下させた要因を考えてみよう。 第一に挙げる必要があるのは,不良債権処理の促進をめざして実施されてき (甜) た「早期是正措置」に代表される一連の政策である。これにより,貸出審査が 厳しくなり,貸出案件の選別と貸出圧縮が進んでいる。言い換えれば銀行側が (26) 1998年4月から始まった「早期是正措置」は,自己資本比率の充実を目標に貸出資産の 健全化が求められたが, 2001年 4月の「緊急経済対策」では, 2~3 年以内に不良債権処 理を完了させるという,より強い処理が掲げられている。

(24)

-158← 香川大学経済論叢 542 要求する貸出に対するリスクプレミアムが上昇したと言うこともできるが,い (訂) ずれにせよリスク負担係数Gの低下を生じさせた有力な要因である。 二つ目の要因は,短期金利の将来予想である。ゼロ金利政策の実施は,それ 自体が史上最低の金利水準であることから,その持続性に関する不確実性から (扮 将来短期金利の引き上げを予想させる可能性が大きい。長短金利の予想、仮説が 教えるところから,その場合には,金利リスクを補償するために長期運用には 高いプレミアムが要求されることとなり,リスク負担係数Gの低下が生じる。 三つ目が土地や株式といった資産価格の下落予想である。これらは,いずれ もバブル期に借り手の担保価値の上昇や銀行側に評価益をもたらして貸し進み を生じさせた要因であり,予想が下落に転じれば,諸刃の刃でリスク負担係数 ω)

e

f

民下をもたらすことになる。 次に,公衆の長期期待gを低下させている要因であるが,最初に挙げる必要 があるのは企業部門の抱えている過剰債務の影響であろう。銀行による不良債 権問題の引き伸ばしによる過剰債務の塩漬け状態は,企業の自由度を奪って長

期期待にマイナスの影響をもたらしている可能性が高い。そして現実の景気低 迷が長期期待に引き下げ圧力がかかる中で,潜在成長率の引上げを通じて公衆 の長期期待を高めることを目指して構造改革が始まっている。しかし,現在ま でのところ,医療や年金の分野で家計部門の将来負担増が避けられないとの見 方が支配的になりつつあるため,家計の長期期待にはマイナスの効果が働いて いる。 (27) 北坂(2001)では, 93年以降に実施された自己資本比率規制が大手銀行の貸し渋りを起 こした可能性が高いという実証結果を得ている。 (28) ゼロ金利政策の一時的な解除 (2000 年 8 月 ~2001 年 2 月)は,市場の予想にかく乱を与 え,現在のゼロ金利政策の持続性に対する不確実性を高めてしまったので,結果的にはマ イナスであった。 (29) 山崎・竹田(1997)では,担保価値の上昇がagencycostをヲ│き下げる役割に注目した単 純な銀行行動モデルを使って,担保価値が銀行貸出に優位な影響を与えていることを実 証している。北坂(2001)p.243では,地価の効果は大手銀行で顕著であるという実証結果 を得ている。 (30) 星(2000b)は,不良債権処理の先伸ばしが投資機会の少ない産業に「追い貸し」されて いることを検証し,それが原因で投資機会のある産業に資金が回らなかったと主張して いる。

(25)

543 最近の金融政策運営と銀行貸出 159 こうして銀行のリスク負担係数

e

の低下がLM関数の左シフトをもたらす のに対して,公衆の長期期待gの低下は,支出を控えて預金の積み増しをもた らすため, IS関数と LM関数の両方を同時に左にシフトさせる効果を持つ。そ の結果,金融緩和をして貸出金利は低下しているのにもかかわらず,所得が減 少するという最近の日本経済の状態が表れることとなる。 先の図11で示された貸出金利の粘着性をもたらしている原因として注目す べきは,銀行のリスク負担係数eの低下である。ケインズの「、流動性の畏」で は,国債市場を前提にした投資家の金利予想、が強調されているが,実は,彼の 『一般理論』では低金利下での金利の下方硬直性が起きるもう一つの原因を挙 げている。それによると,実際の市場金利は,金融政策で容易にコントロール できる純粋利子率に,貸し手と借り手を結びつける仲介費用と貸し手が要求す るリスクプレミアムを加えたものから構成されているので,それ以下に引き下 げることはできないこと,中でも貸し手が借り手の返済可能性に疑問をもって (3D いる場合にはリスクプレミアムの要因が重要となると述べている。 それゆえ,銀行の貸出態度を示す(1)式をケインズ的に読み直せば,右辺二項 目のん(・)が仲介費用とリスクプレミアムを表し,銀行のリスク負担係数

e

の 低下がリスクプレミアムの上昇となって貸出金利の粘着性をもたらしているこ とになる。 こうした貸出金利の粘着性に対して銀行のリスク負担係数eの引上げを図 るべく,日本銀行は,ゼ、ロ金利政策を解除する条件を公表することで,ゼロ金 (担) 利政策の継続を約束し,政策の有効性が高まる「時間軸効果」を期待している。 既述のように,ゼ、ロ金利政策の継続は,不良債権処理の支援を継続するととも に,短期金利の上昇予想の沈静化で金利リスクを引き下げて長期金利(貸出金 利)の低下をもたらし,銀行のリスク負担能力を回復(e↑)させるというわけで ある。 (31) K巴ynes(1936) p 208 (邦訳p205)。彼は,リスクプレミアムを道徳的危険に対する引 当金と呼んでいる。 (32) 2001年3月に導入された新しい金融調節方式の解除条件は,rCPIの前年比上昇率が安 定的にゼロ%以上となるまで」である。時間輸効果に関する解説は,例えば翁(2000)参照。

(26)

-160- 香川大学経済論叢 544 しかしながら,こうした日本銀行の努力にも限界があることは明らかである。 ゼロ金利政策を続けてもケインズの主張からも分かるように貸出金利には下限 が存在する。「純粋利子率がゼロであっても,顧客には

L5%

から

2%

の利子を (33) 課さなければならないだろう」とのケインズの言葉が正しければ,最近の日本 の貸出金利は既に下限に近いことになる。また,短期金利の引き下げ余地がな い現在の状態のもとで,時間軸効果以外の手段で,日本銀行が公衆の長期期待 gに直接働きかけることはかなり難しいと思われる。

V

I

お わ り に

日本銀行は,

1

9

7

3

年の第一次石油ショック時前後とバブル崩壊前後の二度に わたって金融政策運営に失敗したと言われてきたが,最近も,歴史上初めて実 施されたゼロ金利政策をめぐって厳しい政策論争の矢面に立たされている。 小論では,まず,現行の究極のゼロ金利政策が実施されるまでの過程で金融 調節の枠組みの変遷を跡付けて,標準的な短期金利決定モデルでその過程を説 明することが可能なことを示した。そして,貸出市場を中心に最近の金融閉塞 状態の特徴を整理した後 r流動'性の畏」に陥った日本経済を短期金利誘導型の

IS-LM

モデノレでどのように説明できるかを示した。その結果,ゼロ金利政策の 有効性は,政策が知何にして市場のリスクプレミアムを低下させ,銀行部門の リスク負担能力を高められるかということと,如何にして公衆の長期期待の悪 化を食い止められるかに掛かっていることを示した。 ただ,小論では,銀行貸出市場を中心に現状の金融閉塞の特徴を明らかにし ようとしたため,分析結果は限定的である。資産市場や外為市場などを含んだ より包括的な分析は今後の課題としたい。また,分析に使ったモデルは,単純 化の代償として,金融政策の波及経路として銀行貸出を重視しているにもかか わらず,最近の銀行行動を大きく左右している不良債権や自己資本比率や資産 価格といった諸要因を

adhoc

な形でしか考慮していなし=。単純化を損なわずに (33) Keynes (邦訳p.205,原典p.208)。

(27)

545 最近の金融政策運営と銀行貸出 161 こうした要因を内生化し,より現実に近い日本型

IS-LM

モデルを構築すること は今後の課題としたい。 (補論)ベースマネー統計の見直しの問題点 日本銀行は,従来,短期金利操作型の金融政策運営を取っていたこともあっ て,ペースマネー量の変化をあまり重視してこなかったが,研究者からの要請 もあって,

1

9

9

6

5

月からベースマネー統計を公表してきた。その後,ゼロ金 利政策の定着で短期金利が金融緩和の指標として役立たなくなって,市場の関 心が金利指標のコールレートから量的指標であるベースマネーに移ってきたこ (3~ とを受けて,日本銀行はベースマネー統計の見直しを行った。 従来,ベースマネーは, ベースマネーニ日本銀行券発行高+貨幣流通高+準備預金額 と定義され,日銀当座預金のうち,預金取扱機関が準備預金として保有する分 はカウントされていたが,短資会社・証券会担といった準備預金非適用先の機 関が保有する分については無視しうる金額であったのでカウン卜されていな かった。 ところが,ゼロ金利政策の実施で運用先を見失った短期資金が短資会社・証 券会社保有分の日銀当座預金に滞留し,無視しえない金額になってきた(図

2

参照)。そこで,日本銀行は,

2

0

0

0

5

月から,ベースマネーに短資会社・証券 会社等保有分をカウントするため,ベースマネーを次のように定義しなおすこ

ω

とにしたのである。 ベースマネー=日本銀行券発行高+貨幣流通高+日銀当座預金 一方,マネーサプライ統計の方では,短資会社・証券会社等は通貨保有主体 として「一般法人」に含まれ,保有する現金(日本銀行券と貨幣)や預金通貨, 準通貨,

CD

はマネーサプライにカウントされていたが,日銀当座預金はカウン (.34) 日本銀行は,マネタリーベースと呼んでいる。 (35) カウントしなければ,日銀の金融緩和努力の過小評価が懸念されるようになったこと が直接的な理由と推測される。

(28)

162- 香川大学経済論叢 546 トされていない。したがって,この見直しは,ベースマネーを増やして一層の 金融緩和をめざしても,金融機関内部(短資会社・証券会社を含む)に滞留し てマネーサプライが増えないという,最近の金融閉塞状態を数字でより明瞭に (36) 示す効果をもった。 しかし,日銀のこうした見直しに,問題はないのであろうか?それを考える 前に,ベースマネー統計の見直しをベースマネーの定義に立ち返って見てみる ことにしよう。ベースマネーは,その名が示すようにマネーサプライを増加さ せる基礎となる通貨指標で,通貨当局が発行する現金及び当座預金のうち,公 衆ならびに預金取扱銀行が保有する額のことである。通貨当局の提供する当鹿 預金は現金に匹敵するから,ベースマネーは,結局のところ「民間部門が保有 する現金」と言い換えることができる。そうすると,短資会社・証券会社等を 「公衆」に含めて考えれば,今回の見直しはベースマネーの定義となんら矛盾 するところはない。 問題は,マネーサプライ統計での取扱である。日本銀行調査統計局が作成し ている『マネーサプライ統計の解説~ (2000年 6月)によれば,短資会社・証券 会社等は一般法人として通貨保有主体に位置付けられているので,保有する現 金通貨や銀行預金についてはマネーサプライにカウントされている。しかし, 現金通貨は「通貨保有主体が保有する「銀行券および、貨幣JJと定義されている ので,短資会社・証券会社等が保有している日銀当座預金はカウン卜されてい ないのは明らかである。このように,短資会社・証券会社等を通貨保有主体に 含めながら,ほぽ現金に匹敵する日銀当座預金をカウントしないのは,取扱に 一貫性が欠けている。 では,今回のベースマネー統計の見直しにあわせて,マネーサプライ統計で も短資会社・証券会社等の日銀当座預金を含めるような見直しがされなかった のはなぜだろう。一つは,金額の大きさであろう。従来より金額が増えたといっ ても,多い月で1"-' 2兆円程度なので,マネーサプライ指標の金額 (2001年 8 (36) 日本銀行調査統計局「マネーサプライ統計の解説J2000年6月のp1 -3

(29)

163 最近の金融政策運営と銀行貸出 547 月の平均M

2

+

CD残高は約652兆円)からすると,あえて変更するほどの金額で はないとの判断は成り立ちうる。二つ目は,短資会社・証券会社等の実体経済 への直接的な影響力である。マネーサプライ統計で通貨保有主体を定義するに あたっては,直接実体経済に影響を与える観点が重視されるが,短資会社・証 券会社等は通貨保有主体の中ではその点の評価が低くなっている可能性があ る。それゆえあえてカウントするほどの意義はないと判断がされたのかもしれ ない。 このような理由があるとしても,短資会社・証券会社等をベースマ しかし, ネー統計とマネーサプライ統計の通貨保有主体として位置付けるのであれば, 日銀当座預金をマネーサプライ統計にカウントしないのはやはり無理がある。 こうした不統一な取扱をすることで,教科書的な貨幣乗数 その最たる点が, の公式が適用できなくなることである。実際のマネーサプライが, この公式の 示すように決定されるか否かは別にしても,直接この公式でド説明できないのは せっかく公表し始めたベースマネー指標自 教育的見地からみて問題があるし, 体の意義を低めてしまう。 今回のベースマネーの見直しで,貨幣乗数の公式がどのように修正 そこ、で, ベースマネーとマネーサプライの範囲(削) 通貨発行主体 表2 預金通貨銀行 通 貨 当 局 政府預金 預金通貨銀行 短資・証券会社等 中央政府 貨 有 体 的 通 保 主 帥 (注1)太枠の範囲がベースマネーの対象。灰色の範闘がマネーサプライの対象。 (注2)一般法人・個人・地方公共団体・地方公営企業・公団。ただし,一般法人に, 短資会社・証券会社・証券金融会社・証券投資信託委託会社を含む。 (注3)通常は,通貨発行主体,中央政府を除く,すべての主体を通貨保有主体とす べきだが(米国とユーロエリア),日本の場合には,これからさらに保険会社・ 投資信託・政府系金融機関等が除かれている。 公衆(叫)

(30)

-164ー 香川大学経済論叢 548 されるのか(歪められるのか)を見ておこう。新旧のベースマネーをそれぞれ HとH',マネーサプライをM とおくと,現行の定義にしたがえば,次のよう に表せる。

H== C+R

H'

=

=

C+R+N

=

H+N

M 三

C+D

(1)

(

2

)

(3) ただし,

C

::短資会社・証券会社等保有分を除く公衆の保有現金,

R

:

:

準備預金, N"短資会社・証券会社等保有の日銀当座預金,D:公衆保有の預金である。 しかし,ベースマネーとマネーサプライの現行の定義では,通常の手続きで 貨幣乗数の公式を導出するのは難しい。というのも,定式化のポイントは,乗 数の決定因を公衆と民間銀行の現金選好を示す係数で単純に表せることだが, マネーサプライ指標の通貨保有主体である公衆の内部で現金と預金のカウント の仕方が不統ーなため,乗数を,現金・預金比率とか現金保有比率といった単 純な現金選好の係数で表せないからである。 そこで,短資会社・証券会社等の日銀当座預金をマネーサプライ指標にカウ ン卜した整合的な新しいマネーサプライ指標M'を定義する。

M'

=

=

C+D+N

=

M + N

(3') これを使うと,新しいマネーサプライ指標 M'と現在のマネーサプライ指標M を基にした貨幣乗数の公式は,それぞれ以下のように表せる。

M

一 (

C+N)+

r

:

.

H

'

=

ζ土旦

H'= ,

.

t

¥

H' =

m

H' 一

fC+N)+R

1 1 -

C

R "

α

+k(l

一α)

M'-N

TT'

(M' N ¥

M =

ーマ干「

n ¥

H'=(-T

:

-

;

)H' =

(m-n

)

H' H H J (4) (5) ただし,

α

k

は,それぞれ現金保有比率

C

,/M', 支払準備率

R/D

であり, ηは 短資会社・証券会社等のベースマネー保有シェア

N

/

.

圧を示している。 これらの定式化で,短資会社・証券会社等の日銀当座預金残高Nを公衆の現 金とみなすのは,これがカウントされているベースマネー自体,民間部門が保 (訂) 有する現金として定義されるからである。

(31)

549 最近の金融政策運営と銀行貸出 165 この公式を前提にして,短資会社・証券会社等をマネーサプライの保有主体 である公衆とみなした場合,買いオべによって短期資金が短資会社・証券会社 等の日銀当座預金の口座に滞留している状態は,公衆が買いオペで得た資金を 現金で保有したままの状態とみなせるから,ベースマネーとマネーサプライが 同額増加して終わるように,公衆の現金保有比率が上昇すると理解することが ( 測 できる。 参 考 文 献

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(32)

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