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H26_大和証券_研究業績_C本文_p indd

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(1)

脂質メディエーターの産生制御による

肥満抑制を目指した新規肥満抑制剤の開発

大阪薬科大学薬学部 生体防御学研究室

准教授 藤森 功

はじめに

欧米の先進国のみならず、日本においても食の欧米化や運動時間の減少により、肥満人口 は増加の一途をたどっている。肥満は様々な代謝異常疾患(生活習慣病)を引き起こし、さ らには高い頻度で循環器系疾患や脳疾患をまねくと考えられている。脂質メディエーターで あるプロスタグランジン(prostaglandin: PG)類やそれらの代謝物は、肥満や肥満に起因 して発症する代謝異常疾患の制御において重要であることが知られている。我々はこれま でに、PGD2 の合成酵素であるリポカリン型 PGD 合成酵素(lipocalin-type PGD synthase: L-PGDS)が肥満進展ともに発現上昇し(Fujimori et al., J.Biol.Chem., 2007, 282,

18458; Fujitani et al., FEBS J., 2010, 277, 1410) 、脂肪細胞特異的に L-PGDS 遺伝

子が欠損したコンディショナルノックアウトマウスでは野生型マウスと比べて体重増加(脂

肪蓄積)が鈍化することから、PGD2は肥満の促進因子であることを明らかにしている。また、

脂肪細胞において、PGD2は PGD2受容体の一つである CRTH2(DP2)受容体に結合し、また PGD2

の代謝物であるΔ12- PGJ

2は核内受容体である PPAR γに結合する。つまり、PGD2 は複数の経

路を介して脂肪細胞の分化を活性化する(Fujimori et al., Gene, 2010, 505, 46)。これ

らの結果は、PGD2の受容体やPPARγだけを標的とした阻害剤では抗肥満効果は不十分であり、 その上流である PGD 合成酵素を阻害することこそが、抗肥満薬の開発のためには必要である ことを示唆している。 本研究では、L-PGDS を標的とした抗肥満薬の開発を目的として、経口投与可能な L-PGDS の阻害剤の抗肥満効果を、マウスを用いて検討した。

結 果

野生型マウス(C57BL/6;6 週齢、雄)を高脂肪食摂餌させるとともに、L-PGDS の阻害剤で ある AT-56(図 1A)を連日経口投与(20mg/kg)した。1 週間ごとに体重測定を行い、2 ヵ月後 に血液を採取し、各種血液生化学値、組織から抽出した RNA を用いて各種遺伝子発現レベル を測定した。また、脂肪量は CT(Computed Tomography)により測定した。 高脂肪食を摂餌し、AT-56 を連日投与することにより、2 ヵ月後には AT-56 非投与群と比 べて約 16% の体重減少が認められた(図 1B-D)。血液生化学データについては、AT-56 投与に

(2)

よりトリグリセリド(中性脂肪)の値が有意に減少していた(図 1E)。一方、血糖値、総コレ ステロール値、LDL および HDL コレステロールの値は、AT-56 投与、非投与群において有意 な差は認められなかった(図 1E)。

図 1. AT-56 による肥満抑制効果の検討

A. AT-56の構造.B. 高脂肪食を摂餌したマウス.C. CTによる腹部断層写真(内臓脂肪はピンク色、 皮下脂肪は黄色に着色している).D. 2 ヵ月間の体重変化(□:AT-56 非投与群、●:AT-56 投与群) E. 各種血液生化学検査. *p<0.01, vs. control 次に、上で述べた方法で飼育したマウスから、2 ヵ月後に内臓脂肪を抽出し、脂肪細胞の 分化に関連する遺伝子の発現を調べた。

脂肪細胞の分化マーカー遺伝子である PPAR γ(peroxisome proliferator-activated receptor γ ) と そ の 標 的 遺 伝 子 で あ る aP2(fatty acid binding protein 4) や LPL (lipoprotein lipase)の発現レベルは、AT-56 投与マウスの内臓脂肪組織で、野生型マ ウスと比べて有意に低下していた。また、脂肪酸合成系の遺伝子である FAS(fatty acid synthase)と SCD(stearoyl-CoA desaturase)の発現も AT-56 投与マウスの内臓脂肪組織に おいて低下していた。しかしながら、血液生化学検査において、肝臓の逸脱酵素である ALT (alanine aminotransferase)の値は AT-56 投与群が上昇しており、肝障害の発生が考えら

れた(図 3A)。そこで、肝臓を取り出し、切片を作製して、肝細胞内の脂肪滴を Oil Red O

により染色したところ、AT-56 投与群では脂肪肝になっていることが分かった(図 3B)。 య㔜ቑຍ (g ) * 15 8 12 9 13 7 10 5 6 11 12 14 4 10 8 6 4 2 HFD + AT-56HFD weeks 0 * * * * * * cont. AT-56 250 200 150 100 0 cont. AT-56 glucose 120 100 80 40 0 TG 50 60 20 Total-Cho 250 200 150 100 50 0 LDL-Cho 15 12 9 6 3 0 HDL-Cho 100 75 50 25 0 AT-56 cont. AT-56

A

B

C

D

E

(m g/ dL ) (m g/ dL ) (m g/ dL ) (m g/ dL ) (m g/ dL )

cont. AT-56 cont. AT-56

cont. AT-56 cont. AT-56

(3)

考 察

L-PGDS は脂肪細胞において PGD2を合成し、合成された PGD2は、PGD2として PGD2受容体の 一つである CRTH2(DP2)受容体に結合する。また、PGD2は非酵素的にΔ12- PGJ2に代謝され、 核内受容体である PPAR γに結合し、脂肪細胞の分化を促進する。また、Δ12- PGJ 2は PPAR γに結合して機能を発揮するだけではなく、未知の経路を介して脂肪分解を抑制すること

図 2. AT-56 投与したマウスの脂肪組織における脂肪細胞分化マーカー遺伝子の発現

 *p<0.01, vs. control

図 3. AT-56 投与マウスの肝臓への影響

A. 血中 ALT 値 B. 肝臓の切片の Oil Red O 染色

PPARγ aP2 LPL 12 10 8 6 4 0 2 2500 2000 1500 1000 500 0 800 600 400 200 0 * * * ACC FAS SCD 15 12 9 6 3 0 120 90 60 30 0 150 120 90 60 30 0 * * cont. AT-56 R el at iv e m R N A lev el (/ TB P )

cont. AT-56 cont. AT-56

Oil Red OᰁⰍ

cont.

AT-56

800 600 400 200 0 cont. AT-56 ALT

A

B

(IU/L)

*

(4)

が分かっている(Fujimori et al., Gene, 2010, 505, 46)。つまり、脂肪細胞において、 L-PGDS の酵素活性を阻害して PGD2の産生を抑制すると、PPAR γの機能抑制と脂肪分化の抑 制が解除され、脂肪量が減少することが期待できる。 今回、L-PGDS の阻害剤である AT-56 をマウスに投与すると、体内脂肪量が減少し、体重増 加が抑制された。しかしながら、同時に肝臓内の脂肪蓄積量が増加し、脂肪肝になり、肝機 能マーカーである ALT の値が高値となった。今回、用いた高脂肪食は肥満になることを目的 とした餌(含 60% 脂質)であるため、体内摂取された脂質が脂肪細胞に蓄積されずに流出し 脂質が肝臓に蓄積された結果、脂肪肝に至ったと考えられる。AT-56 の投与量、投与スケジ ュールの調節が必要である。また、すでに肥満になった動物に AT-56 を投与し、体重が減少 するかの検討を開始している。さらに、効果は合成化合物ほどではないが、低い副作用が期 待できる天然物由来成分が L-PGDS の遺伝子発現を抑制することを見出している。今後、こ の天然由来成分についても解析を行っていく。

要 約

L-PGDS によって合成される PGD2は脂肪細胞の分化を促進し、動物においては肥満を促進 する。本研究では、経口投与可能な L-PGDS の阻害剤である AT-56 を、高脂肪食摂餌させて いるマウスに投与して体重増加に与える影響を調べたところ、AT-56 投与により、非投与群 と比べて体重増加が鈍化することが分かった。また、AT-56 投与により体内の脂肪量は有意 に減少しており、各種脂肪細胞分化マーカー遺伝子の発現も低下していた。これらのことか ら、L-PGDS の機能調節が肥満制御につながることが示唆された。しかしながら、脂肪細胞 に取り込まれなかった、あるいは脂肪分解の亢進により、血中の遊離脂肪酸レベルが上昇し、 肝臓は脂肪肝を呈していた。一方、AT-56 に代わる天然物成分による L-PGDS の阻害による PGD2産生の低下について検討し、化合物を探索し、候補化合物を得た。今後、L-PGDS の機 能を阻害する天然物の抗肥満効果を検討し、合成化合物ではなく、より緩やかだが、副作用 の少ない抗肥満効果を有する天然物についても検討を行っていく。

謝 辞

本研究の実施にあたり、調査研究助成を頂きました公益財団法人 大和証券ヘルス財団に 心より御礼申し上げます。

文 献

1. Fujimori, K. and Shibano, M. (2013) Avicularin, a plant flavonoid, suppresses lipid accumulation through repression of C/EBPα-activated GLUT4-mediated glucose uptake in 3T3-L1 cells. J. Agric. Food Chem.

(5)

61: 5139-5147.

2. Fujimori, K. (2012) Prostaglandins as PPARγ modulators in adipogenesis (Review). PPAR Res. 527607. 3. Fujimori, K., Maruyama, T., Kamauchi, S., and Urade, Y. (2012) Activation of adipogenesis by lipocalin-type prostaglandin D synthase-generated Δ12-PGJ2 acting through PPARγ-dependent and independent pathways. Gene 505: 46-52.

4. Fukuhara, A., Yamada, M., Fujimori, K., Miyamoto, Y., Kusumoto, T., Nakajima, H., and Inui, T. (2012)

Lipocalin-type prostaglandin D synthase protects against oxidative stress-induced neuronal cell death. Biochem. J. 443: 75-84.

5. Fujimori, K., Fukuhara, A., Inui, T., and Allhorn, M. (2012) Prevention of paraquat-induced apoptosis in human neuronal SH-SY5Y cells by lipocalin-type prostaglandin D synthase. J. Neurochem. 120: 279-291. 6. Fujitani, Y., Aritake, K., Kanaoka, Y., Goto, T., Takahashi, N., *Fujimori, K., and Kawada, T. (2010)

Pronounced adipogenesis and increased insulin sensitivity by overproduction of prostaglandin D2 in vivo. FEBS J. 277: 1410–1419.

7. Fujimori, K., Aritake K, and Urade, Y. (2007) A novel pathway to enhance adipocyte differentiation of 3T3-L1 cells by up-regulation of lipocalin-type prostaglandin D synthase mediated by liver X receptor-activated sterol regulatory element binding protein-1c. J. Biol. Chem. 282: 18458-18466.

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