* 連絡先著者(Corresponding author): E-mail:[email protected]
〒606-8522 京都市左京区下鴨半木町 1-5 1-5 Shimogamohangi-cho, Sakyo-ku, Kyoto 606-8522, Japan
論文
ORIGINAL ARTICLE
RAPD 法によるテイカカズラ属(
Trachelospermum
Lem.)種苗の分類と交雑個体の検出
上町あずさ
1)・福井 亘
*1)・下村 孝
1)1)京都府立大学大学院生命環境科学研究科 Graduate School of Life and
Environmental Sciences, Kyoto Prefectural University
摘要:国内には日本に自生するテイカカズラ,ケテイカカズラおよび中国などを原産地とするトウキョウチクトウの 3 系統が流通して いる。RAPD 法によりこれら 3 系統間の系統特異的なマーカーを検出し,系統識別の指標を得た。得られた RAPD マーカーを利用し て,国内に流通している緑化用種苗や園芸品種の識別を試みた。その結果,これまで形態からは明らかに出来ていなかった個体を含め, これらの系統を明らかにすることができた。また,外国産のケテイカカズラが緑化用種苗として国内で流通していることが明らかとな った。さらに,テイカカズラ類を混植している圃場で得られた種子由来の後代をRAPD 法により雑種検定したところ,テイカカズラ とケテイカカズラとの交雑個体や,外国産のケテイカカズラ由来の園芸品種と国内産のケテイカカズラとの交雑個体が検出され,緑化 の現場で植栽されたテイカカズラ類が自生種と交雑する可能性が示唆された。 キーワード:RAPD,テイカカズラ,トウキョウチクトウ,分類,交雑
UEMACHI, Azusa, FUKUI, Wataru and SHIMOMURA, Takashi: Identification of Trachelospermum plants and detection of hybrids using RAPD analysis
Abstract: Trachelospermum asiaticum, T. jasminoides var. pubescens andT. jasminoides var. jasminoides are commercially distributed in Japan. In this study, we analyzed these three lineages by RAPD in order to acquire taxon-specific RAPD markers. We found RAPD markers which could be used for identification of three lineages. Using these markers, Trachelospermum plants for landscape collected from nurseries were analyzed and identified. Variegated cultivars were also analyzed and the results suggested their origins. RAPD analysis indicated that non-native T. jasminoides var. pubescens is also commercially distributed in Japan. Furthermore, progenies of cultivated Trachelospermum plants were analyzed by RAPD. The taxon-specific markers indicated the possibility that natural hybridization between T. asiaticum and T. jasminoides var. pubescens, and between native and non-native T. jasminoides var. pubescens occurred.
Key words: RAPD, Trachelospermum, identification, hybridization
1.はじめに 常緑のつる性木本であるキョウチクトウ科のテイカカズラ 類(Trachelospermum spp.)は,匍匐,登攀,下垂のいず れの様式でも被覆できるため,グラウンドカバーとしても, 立面緑化材料としても利用可能で,道路の分離帯,河川の擁 壁,屋上など多様な緑化現場で利用されている9)。また,テ イカカズラ類には ハツユキカズラ や ニシキテイカ な どの斑入りの品種があり,これらも緑化材料として利用され ている9)。 日本国内にはテイカカズラ(Trachelospermum asiaticum (Siebold et Zucc.) Nakai)が岩手県以西に,ケテイカカズラ (T.jasminoides (Lindl.) Lem. var. pubescens Makino)が 近畿以西に自生する 16)。ケテイカカズラ(T.jasminoides
var. pubescens)はT.jasminoides の毛じの多い変種であ
り,日本の他,朝鮮半島や中国にも自生している4, 7)。一方,
毛じが少ない基本種はトウキョウチクトウ(T.jasminoides (Lindl.) Lem. var. jasminoides)4, 7)として識別され,韓国,
台湾,中国中・南部およびベトナムに自生しているが,日本 国内に自生は見られない。しかし,ケテイカカズラの分類学 的 扱 い に は 見 解 の 不 一 致 が あ り ,Yamazaki16 )は var. pubescensを採用せず,var. jasminoidesと区別していない。 また,中国や台湾の植物誌においても,T.jasminoides var. pubescensはT.jasminoides のシノニムとされ,区別され ていない 3,5)。本研究では外来のトウキョウチクトウを自生 のケテイカカズラと識別して扱うことが望ましいと判断し, 米倉ら 17)に従い,トウキョウチクトウを基本種,ケテイカ カズラを変種として扱うこととする。 国内における緑化および園芸的利用の現状をみると,自生 種であるテイカカズラおよびケテイカカズラの他,外来種で
論 文
表-1 テイカカズラ類系統特異的マーカーの探索に用いた 供試個体
Table 1 List of Trachelospermum samples used for search of taxon-specific RAPD markers.
図-1 系統特異的マーカーの探索に用いた供試個体の 採取地;試料番号は表-1 に対応
Fig. 1 Map showing the origin of the wild
Trachelospermum plants examined. Sample numbers correspond to those in Table 1.
あるトウキョウチクトウも広く利用されている。生物多様性 保全の観点から,これら自生種と外来種を識別して利用する ことが望まれるが,緑化の現場においてこれら3 系統が正し く識別されているとは言えず,外来のトウキョウチクトウが 「テイカカズラ」という名で緑化用種苗として流通している 実態が報告されている8, 12)。テイカカズラ類は成熟相と幼若 相で形態が大きく異なる4, 7, 9)ことや,付着,巻き付き,下 垂などの生育様式や生育環境によって葉の形態が異なること 9)が同定や分類を困難にしていると考えられる。 成熟相のテイカカズラ,ケテイカカズラおよびトウキョウ チクトウは花器の形態や葉裏面の毛じ量で識別できる12, 13)。 テイカカズラは成熟相,幼若相ともに葉裏面に毛じが無く, 容易に識別できるが,幼若相のケテイカカズラとトウキョウ チクトウは形態による識別が困難であり13),他の手法で識別 する必要がある。ゲノム情報は形態と異なり,個体の生育相 にかかわらず普遍であるため,確実な識別基準となりうる。 DNA 分析には様々な方法が開発されているが,その中でも RAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)法15)は方 法が簡易であり,安価で解析が可能である6)。また,近縁種 間の識別や品種識別に有効な手法とされている。そこで本研 究では,RAPD 法により,テイカカズラ,ケテイカカズラお よびトウキョウチクトウの3 系統間の系統特異的なマーカー を検出し,系統識別の指標とすることを目的とした。 先に述べたように,外来種トウキョウチクトウが国内で緑 化材料として流通していることから,これらが自生種と交雑 し遺伝的撹乱を起こす可能性が懸念される。そこで,テイカ カズラ類を混植している圃場で種子を採取し,育成した後代の 雑種検定をRAPD 法により行い,テイカカズラ類の交雑の可 能性についても検討した。 2.材料ならびに方法 2.1 テイカカズラ属種苗の同定 2.1.1 RAPD 法による系統特異的マーカーの探索 テイカカズラ自生株11 種類,ケテイカカズラ自生株 7 種 類および業者から購入し京都府立大学附属下鴨農場跡地で栽 培していたトウキョウチクトウ3 種類を 1 個体ずつ,計 21 個体供試した(表-1,図-1)。これら供試個体については, 花器の形態や葉裏面の毛じ量など,3 系統を識別できる形態 12, 13)を調査し,明らかに識別できた個体を用いた。 2009 年 3 月にテイカカズラ類の葉身 200mg を採取し, CTAB(the cetyltrimethylammonium bromide)法1)を若
干改変した方法により全 DNA の抽出を行った。得られた DNA を精製樹脂(Wizard Minipreps DNA Purification Resin,Promega)を用いて精製後,TE バッファー(10mM Tris-HCl, 1mM EDTA, pH8.0)で 5ng/µl に調整した。
精製した全DNA をテンプレートとし,10 塩基のランダム プライマー48 種類(OPA-1~20,OPB-1~20,OPC-13~20, Operon Biotechnologies)を用いて RAPD 解析を行った。
試料 番号 系統 採取地または 導入元の所在地 自生・ 購入の別 W1 テイカカズラ 山形県飽海郡遊佐町 丸池神社 自生 W2 テイカカズラ 千葉県富津市湊 自生 W3 テイカカズラ 神奈川県鎌倉市 鎌倉宮 自生 W4 テイカカズラ 静岡県熱海市 来の宮神社 自生 W5 テイカカズラ 滋賀県彦根市 雨壷山 自生 W6 テイカカズラ 兵庫県川西市 岩根山 自生 W7 テイカカズラ 鳥取県西伯郡南部町鶴田 自生 W8 テイカカズラ 島根県安来市広瀬町 比田神社 自生 W9 テイカカズラ 徳島県徳島市眉山 自生 W10 テイカカズラ 香川県高松市塩江町上西甲 自生 W11 テイカカズラ 愛媛県宇和島市 自生 W12 ケテイカカズラ 京都市上京区梶井町 自生 W13 ケテイカカズラ 京都市北区上賀茂御薗口町 自生 W14 ケテイカカズラ 京都府城陽市中芦原 自生 W15 ケテイカカズラ 大阪府高槻市郡家本町 自生 W16 ケテイカカズラ 和歌山県紀の川市北志野 自生 W17 ケテイカカズラ 岡山県総社市総社 自生 W18 ケテイカカズラ 福岡県筑紫野市大字吉木 自生 T1 トウキョウチクトウ 岐阜県中津川市 購入 T2 トウキョウチクトウ 千葉県富里市 購入 T3 トウキョウチクトウ 兵庫県宝塚市 購入
表-3 系統特異的RAPD マーカーにより識別されたテイカカズラ類園芸品種
Table 3 List of the variegated cultivars of Trachelospermum identified by the taxon-specific RAPD markers.
PCR 反応液は,0.4 unit Hotstar Taq DNA ポリメラーゼ (Qiagen),10×Hotstar taq PCR buffer(Qiagen),0.2 mM dNTP mix,1.5 mM MgCl2,1µM プライマーおよび 5ng DNA を含む 20µl とした。PCR 反応にはサーマルサイクラー (PC-320 ,ASTEC)を用いた。95℃で 15 分間加熱しポリ メラーゼを活性化させたのち,94℃で 20 秒間の変性,37℃ で1 分間のアニーリングおよび 72℃で 2 分間の伸長を 6 サ イクル行った後,94℃で 20 秒間の変性,37℃で 20 秒間のア ニーリングおよび72℃で 2 分間の伸長を 39 サイクル行った。 最後に72℃で 2 分間の伸長反応を行った。 得られたPCR 産物は 0.4µg/ml のエチジウムブロマイドを 添加した1%アガロースゲル(Agarose LO3,TAKARA)を 用いて,TAE 緩衝液中で 100V,1 時間の電気泳動を行った。 泳動開始時に緩衝液中に 50µg のエチジウムブロマイドを加 え,泳動終了後,UV トランスイルミネーター上で,電気泳 動パターンを観察した。 2.1.2 系統特異的マーカーを利用した種苗の同定 テイカカズラ類緑化用種苗の同定には,14 個体を供試した (表-2)。また,園芸品種の同定には 15 品種 15 個体を供試 した(表-3)。いずれも各地の種苗商,グランドカバー生産 組合などから購入し,京都府立大学附属下鴨農場跡地で栽培 していた個体である。2009 年 10 月にこれらの生葉から 2.1.1 と同様の方法で全 DNA の抽出を行った。得られた全 DNA をテンプレートとし,2.1.1 で系統特異的マーカーの得られた プライマーを用いてPCR 反応を行った。反応条件は,2.1.1 と同様とした。得られた PCR 産物を電気泳動し,系統特異 的マーカーの有無を確認した。 2.2 RAPD 法による雑種検定 2008 年 11 月から 2009 年 2 月にかけて,上述の京都府立 大学下鴨農場跡地に植栽されていたテイカカズラ類の種子を 採取した。2009 年 5 月 2 日に播種し,7 月 17 日に 9cm ポリ 試料番号 流通名 導入元の 所在地 導入時の 生育相 調査時の 開花の有無 形態により識別した系統 RAPDにより 識別した系統z V1 伸びにくいハツユキカズラ 岐阜 成熟相 ― テイカカズラ テイカカズラ V2 黄金テイカカズラ 愛媛 成熟相 ○ テイカカズラ テイカカズラ V3 白散チョウセンテイカ 愛媛 成熟相 ○ テイカカズラ テイカカズラ V4 ピンク花テイカカズラ 愛媛 成熟相 ○ テイカカズラ テイカカズラ V5 黄覆輪チリメンテイカカズラ 愛媛 幼若相 ― テイカカズラ テイカカズラ V6 黄覆輪中葉テイカカズラ 愛媛 成熟相 ○ テイカカズラ テイカカズラ V7 五色チリメンカズラ 静岡 幼若相 ― テイカカズラ テイカカズラ V8 Trachelospermum tricolor 兵庫 成熟相 ― テイカカズラ テイカカズラ V9 ニシキテイカ 千葉 幼若相 ― トウキョウチクトウまたはケテイカカズラ ケテイカカズラ V10 ハツユキカズラ 岐阜 幼若相 ― トウキョウチクトウまたはケテイカカズラ ケテイカカズラ V11 白覆輪細葉テイカカズラ 愛媛 幼若相 ○ ケテイカカズラ ケテイカカズラ V12 ゴシキカズラ 岐阜 幼若相 ○ ケテイカカズラ ケテイカカズラ V13 (品種名不明) 兵庫 成熟相 ○ ケテイカカズラ ケテイカカズラ V14 テイカカズラ 黄金錦 愛媛 幼若相 ○ ケテイカカズラ トウキョウチクトウ V15 覆輪大葉テイカカズラ 愛媛 成熟相 ○ ケテイカカズラ トウキョウチクトウ z: RAPDによる識別結果が形態による識別と異なる場合は斜字で示した。 試料番号 流通名 導入元の 所在地 導入時の 生育相 調査時の 開花の有無 形態により識別した系統 RAPDにより 識別した系統z C1 テイカカズラ 千葉 成熟相 ○ テイカカズラ テイカカズラ C2 テイカカズラ 鳥取 幼若相 ○ テイカカズラ テイカカズラ C3 テイカカズラ 愛知 成熟相 ○ テイカカズラ テイカカズラ C4 テイカカズラ 静岡 成熟相 ○ テイカカズラ テイカカズラ C5 テイカカズラ 岐阜 成熟相 ○ テイカカズラ テイカカズラ C6 テイカカズラ 埼玉 成熟相 ○ テイカカズラ テイカカズラ C7 テイカカズラ 岐阜 成熟相 ○ トウキョウチクトウ トウキョウチクトウ C8 トウテイカカズラ 千葉 幼若相 ○ ケテイカカズラ トウキョウチクトウ C9 テイカカズラ 宮崎 成熟相 ○ テイカカズラ テイカカズラ C10 テイカカズラ(山採り・小葉) 宮崎 幼若相 ― トウキョウチクトウまたはケテイカカズラ トウキョウチクトウ C11 テイカカズラ(山採り・小葉) 宮崎 幼若相 ○ ケテイカカズラ ケテイカカズラ C12 テイカカズラ(山採り・丸葉) 宮崎 成熟相 ○ ケテイカカズラ ケテイカカズラ C13 テイカカズラ(山採り・丸葉) 宮崎 成熟相 ○ ケテイカカズラ ケテイカカズラ C14 トウテイカカズラ 兵庫 成熟相 ○ トウキョウチクトウ トウキョウチクトウ z: RAPDによる識別結果が形態による識別と異なる場合は斜字で示した。 表-2 系統特異的RAPD マーカーにより識別されたテイカカズラ類緑化用種苗
図-2 OPB-17 による RAPD の電気泳動像; 矢印 A および B は系統特異的なマーカーを示す。レーン上部の試料 番号は表-1 に対応。M: 100bp ラダーDNA マーカ
ー
Fig. 2 RAPD amplification pattern generated by primer OPB-17; Arrow A and B indicate taxon-specific bands. Numbers above the lanes correspond to those in Table 1. M: 100bpDNA ladder marker.
ポットに鉢上げした。2010 年 9 月にテイカカズラ(C1)の 後代7 個体,トウキョウチクトウ(C7)の後代 2 個体,覆輪 大葉テイカカズラ(V15)の後代 7 個体およびこれらの親株 から生葉を採取した。採取した生葉から2.1.1 と同様の方法 で全DNA の抽出を行った。得られた全 DNA をテンプレー トとし,2.1.1 で系統特異的マーカーの得られたプライマーを 用いてPCR 反応を行った。反応条件は 2.1.1 と同様とした。 得られたPCR 産物を電気泳動し,バンドを観察した。 3.結果および考察 3.1 テイカカズラ属種苗の同定 3.1.1 系統特異的マーカーの決定 使用したランダムプライマー48 種類のうち,明瞭な増幅バ ンドが確認され,かつ多型を示すバンドが得られたプライマ ーは 17 種類であった。識別に用いるマーカーは,明瞭なバ ンドとして検出され,しかも読み間違いの原因となりうる増 幅物がないという条件を満たす必要がある6)。バンドの出現 パターンを比較した結果,前述の条件を満たす系統特異的な バンドが得られたプライマーはOPB-17 のみであった。プラ イマーOPB-17 を用いた場合,ケテイカカズラ自生種(W12 ~W18)には 1300bp(base pair)および 1857bp の両方の バンドが認められ,トウキョウチクトウ緑化種苗(T1~T3) には1300bp のバンドのみが認められた(図-2)。また,テイ カカズラ自生種(W1~W11)には 1300bp と 1857bp のいず れのバンドも認められなかった。以上より,OPB-17 による 系統特異的なバンドの有無をマーカーとすることにより,テ イカカズラ自生種,ケテイカカズラ自生種およびトウキョウ チクトウの3 系統の識別が可能であることが示唆された。
これまでに核DNA の ITS 領域および葉緑体 DNA の 3 か 所の領域の塩基配列によるテイカカズラ類の系統解析が報告 14)されている。ITS 領域ではケテイカカズラ自生種とトウキ ョウチクトウが一致し,これらとテイカカズラ自生種の配列 は異なる。また,葉緑体DNA ではケテイカカズラ自生種と テイカカズラ自生種が一致し,これらとトウキョウチクトウ は異なる。従って,核DNA と葉緑体 DNA の両方の塩基配 列を解析すれば3 系統の識別が可能である。一方,本研究で 行ったRAPD 法では,プライマーOPB-17 による解析のみで 3 系統の識別ができた。RAPD 法はダイレクトシーケンス法 に比べ,簡便かつ安価に行える分子解析手法であるため,例 えば,大量の緑化種苗個体について短時間で系統を識別しな ければならない時や,塩基配列の比較による識別が予算や設 備の都合上難しい場合などに有効な技術であると考えられる。 RAPD マーカーは再現性を問題にされることもあるが,繰 り返し実験によって再現性が確認されたマーカーを用いれば, この問題を回避できる2)。本研究においても計3 回の PCR 反応を行い,系統特異的マーカーの有効性を確認した。 3.1.2 緑化用種苗の同定 3.1.1 で系統特異的マーカーの得られたプライマーOPB-17 を用いたRAPD 解析により,緑化用種苗の系統を識別したと ころ,試料番号C1~6 および 9 では 1300bp と 1857bp のい ずれのマーカーも無く,テイカカズラと判断できた(表-2)。 また,C7, 8, 10 および 14 には 1300bp のマーカーが認めら れたが1857bp のマーカーは無く,トウキョウチクトウであ ると判断された。C11, 12 および 13 には,1300bp と 1857bp の両方が検出され,ケテイカカズラと判断された。 これまでに行った形態調査による識別 13)と比較したとこ ろ(表-2),14 個体のうち,C8 と C10 を除く 12 個体で形態 による識別とRAPD による識別が一致した。C8 は花や葉の 毛じが多く,ケテイカカズラの形態を有していたが,RAPD 解析ではトウキョウチクトウと識別された。これはC8 がケ テイカカズラの形態を持つが,遺伝的には国内産のケテイカ カズラよりも外来のトウキョウチクトウに近いことを示して いる。C8 の流通名である「トウテイカカズラ」は中国など を原産地とする「トウキョウチクトウ」の別名である10, 11) ことからも,C8 は自生種由来ではなく,中国などから導入 された種苗であると考えられる。ケテイカカズラは日本の他, 朝鮮半島や中国にも自生している4, 7)ため,C8 は外国産のケ テイカカズラであると判断するのが妥当であろう。これまで に外国産のケテイカカズラが国内で流通しているという報告 は無いが,本研究により,外国産のケテイカカズラが緑化用 種苗として流通している可能性が示された。 C10 は葉裏面に毛じがあり,テイカカズラでないことは明 らかであったが,幼若相であったため,ケテイカカズラかト ウキョウチクトウかの識別ができていなかった。しかし,今 回のRAPD 解析でトウキョウチクトウであると判断できた (表-2)。C10 および 11 はいずれも「テイカカズラ(山採り ・小葉)」として同じ種苗業者から購入したものであるが, RAPD 解析により C10 はトウキョウチクトウ,C11 はケテ イカカズラであることが判明した。購入時はいずれも幼若相 であり,幼若相のケテイカカズラやトウキョウチクトウが「テ
表-4 テイカカズラ類の自然交雑後代における系統特異的 RAPD マーカーの出現パターン
Table 4 Taxon-specific RAPD markers in open-pollinated progeny of the cultivated Trachelospermum.
OPB-17 1300 OPB-17 1857 C1 テイカカズラ親株 0 0 0 C1-P1 テイカカズラ後代1 1 1 1 C1-P2 テイカカズラ後代2 1 0 1 C1-P3 テイカカズラ後代3 0 0 0 C1-P4 テイカカズラ後代4 1 1 1 C1-P5 テイカカズラ後代5 1 1 1 C1-P6 テイカカズラ後代6 1 1 1 C1-P7 テイカカズラ後代7 1 0 1 C7 トウキョウチクトウ親株 1 1 0 C7-P1 トウキョウチクトウ後代1 1 1 0 C7-P2 トウキョウチクトウ後代2 1 1 0 V15 覆輪大葉テイカカズラ親株 1 1 0 V15-P1 覆輪大葉テイカカズラ後代1 1 1 1 V15-P2 覆輪大葉テイカカズラ後代2 1 1 1 V15-P3 覆輪大葉テイカカズラ後代3 1 1 1 V15-P4 覆輪大葉テイカカズラ後代4 1 1 1 V15-P5 覆輪大葉テイカカズラ後代5 1 1 1 V15-P6 覆輪大葉テイカカズラ後代6 1 1 1 V15-P7 覆輪大葉テイカカズラ後代7 1 1 1 C12 ケテイカカズラ 1 1 1 y: 0が毛じ無し,1が毛じ有りを示す。 試料番号 試料名 葉裏面 の毛じy バンドパターンz z: 0がバンド無し,1がバンド有りを示す。 イカカズラ」として流通していたことが明らかとなった。 「テイカカズラ」の名で流通していた C7 は形態および RAPD 解析からトウキョウチクトウと判断された。これまで にもトウキョウチクトウが「テイカカズラ」として流通して いるとの報告12)があり,両種の混同の実態が再確認された。 3.1.3 園芸品種の同定 プライマーOPB-17 を用いた RAPD により,V1~8 はテイ カカズラであると判断され,形態による識別と一致した(表 -3)。V9~13 は国内産ケテイカカズラであると判断された。 このうち,V9 および V10 は幼若相であったため,形態から はケテイカカズラかトウキョウチクトウかの識別ができなか ったが,RAPD 解析により識別が可能となった。また,V14 およびV15 は 3.1.2 の C8 と同様,形態からはケテイカカズ ラと判断されたものの,トウキョウチクトウのバンドパター ンを示した。従ってこれらは外国原産のケテイカカズラが斑 入り化してできた品種であると考えるのが妥当であろう。 3.2 交雑可能性の検討 テイカカズラC1 から得られた後代の RAPD マーカーの出 現パターンを調査したところ,7 個体の後代のうち,1300bp と1857bp のいずれのバンドも持たない,テイカカズラのパ ターンを示したものはC1-P3 の 1 個体のみであった(表-4)。 また,C1-P2 と C1-P7 の 2 個体は 1857bp のバンドのみが出 現し,残りの4 個体は 1300bp と 1857bp の両方を持つケテ イカカズラのパターンを示した。C1-P3 以外の 6 個体にはケ テイカカズラに特有の1857bp のバンドが認められたことか ら,これらはケテイカカズラとの交雑個体であると判断でき る。これらの葉裏面に毛じが認められたことも,ケテイカカ ズラとの交雑の事実を裏付けるものである。交雑個体のうち, 2 個体で 1300bp のバンドが出現しなかったのは,花粉親と なったケテイカカズラの1300bp のバンドがヘテロであった ためと考えられる。これら後代は自然交雑個体であり,花粉 親の特定は困難であるが,植栽されたケテイカカズラの中に テイカカズラとケテイカカズラとの雑種が含まれていたもの と推察される。形態からはケテイカカズラと区別できない, テイカカズラとケテイカカズラとの交雑個体が緑化用テイカ カズラ類種苗として流通しているものと考えられる。なお, テイカカズラのパターンを示した C1-P3 は葉色が黄色であ ったため,葉に黄色の覆輪を持つ黄覆輪中葉テイカカズラ (V6)との交雑個体である可能性が高い。 トウキョウチクトウの後代 2 個体は親株と同様,1300bp のバンドのみが認められた。ケテイカカズラと交雑した場合 には1857bp のバンドが出現するはずであり,ケテイカカズ ラとは交雑していないと判断できる。しかし,テイカカズラ にはOPB-17 による系統特異的なバンドがないため,テイカ カズラとの交雑の有無は不明である。今後,さらに多くのプ ライマーを探索し,テイカカズラに特異的なRAPD マーカー が特定できれば,テイカカズラとの雑種かどうかの判定が可 能になると考えられる。 3.1.4 で外国産のケテイカカズラ由来であると推察された 覆輪大葉テイカカズラ(V15)は葉に白の覆輪が入る品種で あるが,この後代では斑が消失した。後代のRAPD 解析の結 果,7 個体すべてに国内のケテイカカズラのパターンである 1300bp と 1857bp の両方のバンドが認められ,すべてが国内 産ケテイカカズラとの交雑個体であると判断できた。 以上より,テイカカズラとケテイカカズラの自然交雑およ び外国産ケテイカカズラの園芸品種と考えられる覆輪大葉テ イカカズラと国内産ケテイカカズラの交雑が確認され,緑化 植物として植栽されたテイカカズラ類と周辺に自生するテイ カカズラ類が異なる系統間で交雑する可能性が示唆された。 これまでに国内に自生するテイカカズラ類の核DNA および 葉緑体DNA の塩基配列の解析が行われており,テイカカズ ラとケテイカカズラの双方が自生する地域における自然交雑 が指摘されている14)。本研究ではテイカカズラ類を混植した, 栽培環境下における自然交雑が新たに確認された。 4.まとめ RAPD 法により,テイカカズラ自生種,ケテイカカズラ自 生種およびトウキョウチクトウの3 系統間の系統特異的なマ ーカーを検出し,系統識別の指標とすることが可能となった。 国内に流通している緑化用種苗や園芸品種に対し,RAPD マ ーカーを実際に利用して系統の識別を試みたところ,これま で形態からは明らかに出来ていなかった個体を含め,これら の系統を明らかにすることができた。また,本研究により,
国内産ケテイカカズラと同様の形態を持つが遺伝的にはトウ キョウチクトウに近い個体が確認され,中国などの外国産の ケテイカカズラやその園芸品種が国内で流通していることが 示唆された。さらに幼若相のトウキョウチクトウがテイカカ ズラと誤認されて流通している実態も確認された。 これら外国産のケテイカカズラや幼若相のトウキョウチク トウは,形態による識別が困難であるため,本実験で行った ようなゲノム情報による識別が必要であると考えられる。し かし,RAPD 法はその再現性に問題があり,PCR 条件のわず かな違いによって結果が異なる場合がある6)。今回の実験で は,3 回以上の反復を行い,本実験の範囲内では再現性に問 題は無いことを確認した。しかし,今後このマーカーをテイ カカズラ類の識別に広く利用するためには,この問題を回避 する為にマーカーのSTS(sequence tagged sites)化が望ま れる。また,RAPD マーカーは優性マーカーであるため,ヘ テロ接合体の検出はできない。従って,系統特異的RAPD マ ーカーの探索に用いたケテイカカズラ自生株や,今回RAPD によりケテイカカズラと同定した緑化種苗にも雑種が含まれ る可能性がある。今後,さらに多くのプライマーを探索し, テイカカズラやトウキョウチクトウのみに出現する RAPD マーカーを特定すれば,雑種の判定が可能になると考えられ る。また,SSR などの共優性マーカーの開発も視野に入れる べきであろう。なお,今回,系統識別マーカーの探索に用い たトウキョウチクトウは国内で流通している種苗であり,原 産地が不明である。従って,中国などの自生分布域から広く 収集されたサンプルを用い,今回得られたマーカーがトウキ ョウチクトウおよび外国産ケテイカカズラ全般に有効なマー カーであることを確認することも今後の課題である。 本研究におけるRAPD による後代検定により,テイカカズ ラとケテイカカズラの自然交雑が確認された。また,流通し ている緑化種苗の中にもテイカカカズラとケテイカカズラと の雑種が含まれている可能性が示唆された。これまでにもテ イカカズラとケテイカカズラの両方が自生する地域における 自然交雑が報告 14)されており,両種は比較的容易に交雑す ると考えられる。国内ではテイカカズラとケテイカカズラの 分布域が重なる所もあるが,テイカカズラのみ自生する地域 もあり,緑化植物として地域外から導入されたケテイカカズ ラが地域のテイカカズラの遺伝子撹乱を引き起こす危険があ る。従って,周辺にテイカカズラ類が自生しているような植 栽現場では,地域性種苗を用いることが望ましいと考えられ る。また,外国産ケテイカカズラの園芸品種と国内産のケテ イカカズラとの交雑も認められ,外国産のテイカカズラ類が 在来種の遺伝子撹乱を招く可能性が示唆された。テイカカズ ラ類を緑化に利用する際には,同定を確実に行い,テイカカ ズラ類の自生地周辺での外国産種苗の植栽は避けるべきであ ると考えられる。 引用文献
1)Doyle, J. J. and J. L. Doyle(1987)A rapid DNA isolation procedure for small quantities of fresh leaf tissue.
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2)平岡裕一郎・倉本哲嗣・岡村政則・大平峰子・谷口亨・藤澤 義武(2009)ISSR,AFLP および RAPD 分析におけるハゼ ノキ優良候補個体のクローン識別と遺伝的類縁関係の推定, 日林誌,91:246-252.
3)Jussieu, A. L.(1995)Trachelospermum.In: Flora of China Editorial Committee, Flora of China 16, Missouri Botanical Garden Press, pp.166-168.
4)北村四郎・村田源(1971)原色日本植物図鑑,木本編Ⅰ,保 育社,pp.71-72.
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